山形県の松枯れ(松くい虫被害)は、林野庁の集計で令和7年度に323.8千m3となり、令和4年度の約13倍に増えました。その大半は庄内海岸林で起きています。県の公表値で見る被害の推移と地域、庄内海岸林の成り立ちと役割、県と市町の対策、2026年度の動きを樹木医が整理します。
連載の第1回では、全国の被害量の半分を山形県が占めたことと、県の「庄内海岸林再生プロジェクト会議」を短く紹介しました。この記事では、山形県の被害がいつから、どこで増えたのかを県と国の公表値でたどり、北の山形で広がる理由と、県と市町の対策を掘り下げます。数字は2026年10月16日に確かめたものです。
先に答え──山形県の松枯れの今
- 山形県の被害量(枯れた松の幹の体積)は、令和4年度まで年20〜25千m3台でした。令和5年度に59.0千m3、令和6年度に108.8千m3、令和7年度に323.8千m3と、3年続けて大きく増えています。
- 被害の大半は日本海沿いの庄内海岸林(遊佐町・酒田市・鶴岡市)です。県の資料の値では、令和7年度は県全体323.8千m3のうち約320千m3が庄内海岸林でした。
- 庄内海岸林は、江戸時代から約300年かけて砂丘に植え育てられたクロマツの林で、飛砂や冬の季節風から田畑と暮らしを守っています。
- 県は、被害木を全部駆除する方針を見直し、守る松林と広葉樹へ移す林を分ける「選択と集中」を検討しています。2026年度は「庄内海岸林再生事業」に11億2,100万円(前年度の補正予算分を含む)を充てています。
- 北の地域で広がる理由について、森林総合研究所は、被害の北限は広がろうとする病気と防除の努力の「せめぎ合い」で決まり、夏の気温が高いほど病気の側に有利になると説明しています。
山形県の被害の推移──令和4年度から3年で約13倍
山形県で松くい虫の被害が初めて確認されたのは、昭和53年の山形市です。県の「山形県松くい虫被害対策推進計画」(令和4〜8年度)によると、民有林の被害量は夏の高温少雨などで平成12年度ごろから大きくなり、平成15年度に34,861m3のピークを記録しました。いったん減ったあと、庄内地域を中心に再び増え、平成28年度に2度目のピーク(約26,500m3)を迎えています。その後は減る傾向にありましたが、なお10,000m3を超える被害が続いていました。
ここ数年の動きは、それまでとは桁が違います。林野庁と e-Stat(政府統計の総合窓口)の都道府県別の表で、民有林と国有林を合わせた山形県の被害量を並べると、令和4年度の25.0千m3から、令和5年度は59.0千m3、令和6年度は108.8千m3、令和7年度は323.8千m3になりました。令和7年度の民有林の被害量239.0千m3は、平成15年度のピークの約7倍にあたります。

山形県の松くい虫被害量の推移(平成30〜令和7年度、当社作成)
林野庁の統計は、被害を「被害材積」、つまり枯れた木の幹の体積(m3)で数えます。報道で伝えられる「〇万本」とは単位が違います。
被害はどこで起きているか──大半が庄内海岸林、内陸でも
県の計画によると、山形県の松林は約16,700haで、置賜地域が8,287ha(50%)、村山地域が4,800ha(29%)、庄内地域が3,546ha(21%)、最上地域が68haです。面積では内陸のほうが広いのですが、被害はそこに比例していません。
県の計画の図を見ると、平成15年度前後の1度目のピークでは、村山・置賜など内陸の被害が大きな部分を占めていました。それが平成25年度以降は庄内の被害が中心になり、計画は「庄内地方での被害量は県全体の約9割」と書いています。今回の急増は、その庄内のなかでも海岸林に集中しています。県の「庄内海岸林再生プロジェクト通信」第1号(2026年5月18日発行)に載った庄内海岸林の被害量を、県全体の値と並べると次のとおりです。

山形県全体と庄内海岸林の被害量(令和元〜7年度、当社作成。2つは別の資料の値)
2つは別の資料の値で、庄内海岸林の値は整数に丸められています。それを承知で差を見ると、内陸などほかの地域の被害は令和7年度で数千m3ほどです。ただ、内陸の被害が無くなったわけではありません。山形市は2024年10月更新のページで、昭和60年ごろのピークの後は減っていたものの、令和6年は市全域で被害の拡大が見られると伝えています。県の森林研究研修センターの調査では、令和5年度の村山地方の被害はほぼ横ばい、置賜地方は減少でした(どちらも12月末時点の暫定値)。山寺(山形市)や舞鶴山(天童市)など内陸の松林も、県や市の守るべき松林に指定されています。
庄内海岸林の成り立ちと役割──砂丘に300年かけて植えた松

海から内陸へ、砂草地・低い木の林帯・クロマツの林帯・2列の天然砂丘のクロマツ林が続き、砂丘の間や内陸側に道路と畑がある(当社イラスト。山形県の資料にある庄内砂丘の一般的な横断図をもとに模式的に描いたもの)
庄内海岸林は、遊佐町から酒田市、鶴岡市まで、日本海に沿って長さ約33km、幅約2kmにわたる海岸林です。地元の官民で作る「出羽庄内公益の森づくりを考える会」の「庄内海岸松原再生計画」(令和7年7月一部改訂)によると、面積は2,656haで、その約3分の1にあたる833haが国有林、1,763haが県・市町や個人などの民有林、60haが公園などです。飛砂防備・潮害防備・防風・保健の保安林に指定され、「日本の白砂青松百選」にも選ばれています。
| 市町 | 海岸の長さ | 国有林 | 民有林 | 公園など | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|
| 遊佐町 | 10km | 176ha | 643ha | 10ha | 829ha |
| 酒田市 | 19km | 601ha | 931ha | 50ha | 1,582ha |
| 鶴岡市 | 4km | 56ha | 189ha | – | 245ha |
| 合計 | 33km | 833ha | 1,763ha | 60ha | 2,656ha |
出典: 出羽庄内公益の森づくりを考える会「庄内海岸松原再生計画【改訂版】」(令和7年7月一部改訂)p.5 表1
この林は、自然にできた森ではありません。同じ計画によると、中世ごろまでは広葉樹の森に覆われていたと言われ、乱伐が続いた末に、江戸時代の中ごろには飛んでくる砂で家や田畑が埋まる時代を迎えました。約300年前から植林が始まり、砂丘の厳しい環境に耐えるクロマツが選ばれます。庄内藩も「植付役」を置き、佐藤藤左衛門・藤蔵父子や本間光丘らが植林を進めました。戦時中に再び荒れた砂丘には戦後、国が大規模に植林し、植林は昭和50年代にひととおり完了したとされています。
海側から見ると、ハマニンニクなどの砂草地、アキグミなどの低い木の林帯(犠牲林帯)、戦後に造られた人工砂丘のクロマツ林、その奥の2列の天然砂丘のクロマツ林と続きます。砂丘の間や内陸側には国道や畑があり、その先に庄内平野が広がります。砂丘の畑ではメロンをはじめ多くの作物が作られていて、海岸林は風と砂からその畑を守っています。2026年3月27日の再生プロジェクト会議では、農協の出席者から、マツを伐った場所で非常に強い風が吹き始めている、という声も出ました。松が枯れることは、景色の問題だけではなく、農業と暮らしの問題でもあるということです。

海岸林が風と砂を受け止め、内陸の畑を守る。林が枯れて伐られると、その隙間から風と砂が畑へ入る(当社イラスト)
北の山形で、なぜ松枯れが広がるのか
マツ枯れ(マツ材線虫病)は、マツノマダラカミキリが運ぶマツノザイセンチュウが松の中で増えて起こる病気です。仕組みは第1回で説明したので、ここでは「寒い地域で、なぜ広がるのか」に絞ります。森林総合研究所東北支所の冊子「マツ材線虫病にどう対処するか」(2022年3月)は、次のように説明しています。
- 線虫もカミキリも変温動物で、気温が高いほど活動が活発になり、症状の進み方が速く、被害が広がりやすくなる。被害が広がりにくい目安として「年平均気温10〜12℃」を示すが、実際に効くのは夏の気温で、年平均気温は直接の指標ではない
- 寒い地域では、カミキリが成虫になるまでに2年かかる場合がある。感染から発症までに時間がかかる木(潜在感染木)も出やすく、見た目に症状の無い松でも松やにが止まっていることがある
- 被害が西南日本から東北へ広がって見えるのは、九州・山陽などを起点とする伝染病が周りへ広がってきた過程でもある。被害の北限は、広がろうとする病気と、抑えようとする防除の「せめぎ合い」で決まっている
- 一方で、温暖化が進むと、これまで低温で抑えられてきた地域でも発生・まん延の可能性は確実に高まる

幹に小さな傷をつけ、松やにの出方を見る(当社イラスト)
山形県の資料は、庄内の被害量の推移の図に、被害が増えた年の気象を書き添えています。並べると次のとおりです。
| 年(度) | 県が挙げた気象のきっかけ |
|---|---|
| 平成6年 | 夏の高温少雨、異常渇水 |
| 平成10年 | 11月の記録的な大雪による雪害 |
| 平成24年 | 4月の爆弾低気圧による枝折れ、夏の高温 |
| 平成26〜28年 | 春の高温、春から夏にかけての少雨 |
| 令和2年12月〜令和3年1月 | 風雪害、夏の高温少雨 |
| 令和5年 | 夏の記録的な高温少雨 |
出典: 山形県「庄内地域の松くい虫被害発生状況について」(被害量の推移の図の書き込み)
県の森林研究研修センターは、令和5年度の急増について、平年を大きく超える高温と極端な少雨で、水を保ちにくい砂丘のクロマツ林の樹勢が弱まり、カミキリと線虫の影響を強く受けたと推察しています。さらに県は、プロジェクト会議の場で、高温少雨に加えて被害木の切り残しが拡大に拍車をかけたと説明しました。気象で弱った松と、処理しきれずに残った枯れ木。その2つが重なったことが、3年続けての急増につながったと読めます。
山形県・市町の対策──全量駆除から「選択と集中」へ
守る松林を法律で指定する
松くい虫の対策は、森林病害虫等防除法にもとづいて、守る松林とその周りの松林を知事と市町村長が指定するところから始まります。山形県は松林16,700haのうち28%にあたる4,679haを対策の対象にしています。
| 区分 | 指定する人 | 面積 | 主な場所・考え方 | 対策 |
|---|---|---|---|---|
| 高度公益機能森林 | 知事 | 1,790ha | 保安林・景勝地など(庄内海岸林、山寺〈山形市〉など) | 特別伐倒駆除・伐倒駆除・地上散布などを徹底 |
| 被害拡大防止森林 | 知事 | 150ha | 高度公益機能森林の周り2km程度 | 樹種転換を進め、それまでは伐倒駆除など |
| 地区保全森林 | 市町村長 | 2,128ha | 舞鶴山(天童市)など | 高度公益機能森林に準じた防除 |
| 地区被害拡大防止森林 | 市町村長 | 611ha | 地区保全森林の周り2km程度 | 樹種転換を進め、それまでは伐倒駆除など |
出典: 山形県「山形県松くい虫被害対策推進計画【抜粋】」(令和4〜8年度)p.2〜3
計画が挙げる防除の方法は、被害木を伐って破砕・焼却・くん蒸する伐倒駆除(特別伐倒駆除を含む)、地上からの薬剤散布、無人航空機による散布、守るべき松林で伐倒駆除や散布が向かない所での樹幹注入です。散布は、地域住民などの理解が得られ、安全の措置がとれる松林で選ぶ、と書かれています。庄内地域では、伐った被害材の約8割をパルプやペレットの原料、発電の燃料に使い、残りの枝葉は現地で破砕しています。2026年3月のプロジェクト会議では、ボランティア団体から遊佐町の残る松への薬剤の空中散布の継続と樹幹注入を求める声が、農協からは散布の時期をメロンなどの作物と調整する必要があるという声が出ました。薬剤の種類と使い方は第2回にまとめました。
抵抗性クロマツの苗づくり
県の森林研究研修センターは、マツノザイセンチュウに強い抵抗性クロマツの種苗の開発と供給に取り組んでいて、県のページは、令和4年以降の抵抗性クロマツの苗木の供給率を100%としています。2026年度は、鶴岡市羽黒町のクロマツ採種園に水やりの施設を整え、植物ホルモンで松ぼっくりを増やす取り組みや、培養で苗を大量に増やす研究も進めています。

海岸林での抵抗性クロマツの植栽(当社イラスト)
守る林と、広葉樹へ移す林を分ける
方針の見直しも進んでいます。庄内海岸林ではこれまで、被害木を全部駆除することを前提にしてきましたが、被害が増えて予算と人手が限界に達したため、県は守る松林を選んで力を集める「選択と集中」を検討しています。その土台として、出羽庄内公益の森づくりを考える会が「庄内海岸松原再生計画」の令和7年7月の改訂で示したゾーニングは次のとおりです。航空レーザ測量のデータで調べると、広葉樹の樹冠が4割以上を占める区画が全体の約4割あり、すでに広葉樹が入り込んだ林では、松を無理に守るより混交林や広葉樹林へ移すほうが、海岸林に求める働きを保てる、という判断です。
| エリア | ゾーン | 対象 | 主な対策 |
|---|---|---|---|
| 重点エリア(クロマツ林を守る) | A-1 | 国有林の前縁部から幅250mを基本とするクロマツ林帯 | 特別伐倒駆除・伐倒駆除・薬剤散布・樹幹注入を徹底、植えるのは抵抗性クロマツ |
| A-2 | 畑などに接する耕地防風林 | 伐倒駆除が中心、抵抗性クロマツ・アカマツや広葉樹の試験植栽 | |
| A-3 | 保健休養林や、歴史・文化があり地域が長く守ってきた松林 | A-1と同じ防除 | |
| 準重点エリア(広葉樹林へ移す) | B | A-1を守る緩衝帯 | 伐倒駆除と並行して、予防的にクロマツを除き広葉樹を導入 |
| C | 広葉樹が4割以上入り込んだ林など | 松くい虫の防除はせず、枯れた木の伐倒と天然更新で広葉樹林へ |
出典: 出羽庄内公益の森づくりを考える会「庄内海岸松原再生計画【改訂版】」(令和7年7月一部改訂)p.38〜42 を当社で要約
市町の取り組みと、協働の輪
市町も独自に動いています。鶴岡市は、湯野浜地区・西郷地区で松くい虫の被害木を業者に頼んで伐り、枝まで含めて破砕かくん蒸で処理する費用の2分の1(上限5万円)を補助しています。山形市は「山形市松くい虫被害対策地区実施計画」で、松林726haのうち469haを守る松林とし、伐倒駆除、樹幹注入、不要木の除去を行っています。山形市のページは、駆除していない被害材を動かすことは県の公告で禁止されている、とも伝えています。
庄内海岸林は、地域の人の手で守られてきた林でもあります。平成14年に官民の「出羽庄内公益の森づくりを考える会」が、平成27年に「庄内海岸林松くい虫被害対策強化プロジェクト会議」ができ、「庄内海岸のクロマツ林をたたえる会」などのボランティア団体が長く手入れを続けています。今は「庄内海岸林応援基金」への寄附と「庄内海岸林サポーター制度」の募集もあります。
2026年度の動き──日付で追う
県の発表と報道から、この1年の主な動きを並べます。
| 日付 | 動き | 出どころ |
|---|---|---|
| 2025年11月28日 | 知事が酒田市黒森の被害現場を視察し農協と意見交換、同じ日に副知事が林野庁長官へ松くい虫被害対策の強化を緊急要望 | 山形県の報道発表(11月25日・26日) |
| 2026年3月27日 | 知事を会長とする「庄内海岸林再生プロジェクト会議」を設立 | 会議の要旨 |
| 2026年度当初予算 | 庄内海岸林再生事業に11億2,100万円(前年度の補正予算分を含み、うち当初2億7,290万円) | 令和8年度当初予算主要事業の概要 |
| 5月8日 | 専門部会(森林再生部会・出羽庄内公益の森づくり部会)の初会合、6つの専門チームで検討を始める | 報道発表(4月22日)、通信 第2号 |
| 6月3日 | 二次被害対策推進チームが、優先順位の評価基準、危険木マップ、監視体制の進め方を確認 | 通信 第3号 |
| 6月6日・20日 | 鶴岡市でタブ・カシワ・コナラなど広葉樹の植樹(約350人)、酒田市光ケ丘公園で松林整備のボランティア(延べ331名) | 通信 第3号 |
| 7月16日 | 酒田市浜中で、危険木の伐採の現場を報道に公開する予定と県が発表 | 報道発表(6月25日) |
| 7月31日 | 幹事会で「庄内海岸林再生プロジェクト基本方針(案)」を協議、砂草地から丘の頂・風背地までの区域ごとに目指す森の姿を決め、年度内に最終決定 | 通信 第5号 |
| 9月6日 | 国道112号と日本海東北自動車道沿いの保安林で、危険木の伐採が完了したと報道 | 山形新聞 |
| 9月30日 | 林野庁が令和7年度の被害量を公表、山形県は323.8千m3で全国の約半分 | 林野庁 |
2026年度の予算の中身を見ると、県が何を急いでいるかがよく分かります。
| 目的 | 事業 | 金額 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 二次被害対策 | 荒廃森林緊急整備事業 | 1億3,146万円 | 人家や公共施設、道路などに接する被害木のうち、倒木などの危険がある所を伐採 |
| 再生 | 治山事業 | 8億4,223万円 | 被害が多発する保安林で、被害木を伐り抵抗性クロマツを植える |
| 再生 | 森林施業支援事業 | 3,496万円 | 被害が多発する民有林の再造林や広葉樹林化 |
| 防除 | 森林病害虫防除事業 | 1億1,235万円 | 被害が少ないエリアで、被害木の伐採や薬剤散布による徹底防除 |
| 合計 | 庄内海岸林再生事業 | 11億2,100万円 | 前年度の補正予算(国の補正予算に対応した分)を含む |
出典: 山形県「令和8年度当初予算主要事業の概要」p.38(千円の単位の値を万円に直し、1万円未満を四捨五入)

道路に面した枯れ松は、倒れる前に伐る。二次被害を防ぐための伐採(当社イラスト)
予算の多くは、伐ることと植えることに向けられ、薬剤散布などの防除は被害の少ないエリアで徹底する位置づけです。まず倒れそうな枯れ木から人と道路を守り、そのうえで林をつくり直す。予算はその順番を映しています。
樹木医から見たこと
山形県の数字を追って感じたのは、対策の中心が「病害虫の防除」から「森の作り直し」に移りつつあることです。県自身が、防除だけでは対応が難しいと書いています。守る林を選び、ほかは広葉樹の林へ移す判断は、松を手入れする立場としては寂しさもありますが、限られた人手と予算で海岸林の働きを保つための筋の通った選択だと受け止めています。
一方で、伐ることそのものの難しさもあります。プロジェクト会議では、枯れた松を一度に伐ると防風・防砂の効果が無くなるので、枯れた松を残すことである程度の効果を保てないか、という県の考えが示され、具体的な方法は専門部会で検討するとされました。枯れた木は次の年のカミキリの発生源になり得て、時間がたてば倒れる危険も増します。現場での経験から言うと、枯れて時間のたった高木は枝や幹の折れ方が読みにくく、生きている木よりも伐る段取りに慎重さが要ります。風を防ぐ働き、虫を減らすこと、倒木から人を守ること。この3つをどう両立させるかが、これからの庄内の大きな課題になると考えています。
数字の読み方にも注意が要ります。県の森林研究研修センターが出した令和5年度の庄内海岸のクロマツ林の値(28千m3)は12月末時点の暫定値で、のちの資料の値(58千m3)とは大きく違います。民有林だけか国有林を含むか、暫定値か確定値か、本数か材積かで、同じ年の数字が変わります。
山形県から離れた東京でも、学べることは同じです。当社が手入れと薬剤散布を行ってきた江戸川区の「臥竜の松」(寿昌院)のように、守りたい1本の松があるなら、元気なうちに樹幹注入や薬剤散布で予防し、枯れた松は早く見つけて、カミキリが出てくる前に処理する。山形県庄内総合支庁のページも、守りたい松の所有者に、冬の間の樹幹注入を勧めています。庄内の「切り残し」の教訓は、1本の庭木や社寺の松でも変わらないと考えています。
よくある質問
Q1. 山形県の松枯れは、どのくらい増えていますか。
林野庁の集計では、山形県の松くい虫の被害量は令和4年度の25.0千m3から、令和5年度59.0千m3、令和6年度108.8千m3、令和7年度323.8千m3と増えました。令和7年度は令和4年度の約13倍で、全国の被害量の約半分を占めています。
Q2. 山形県で松枯れが多いのはどこですか。
日本海沿いの庄内海岸林(遊佐町・酒田市・鶴岡市)です。県の資料の値では、令和7年度は県全体323.8千m3のうち約320千m3が庄内海岸林でした。山形市など内陸でも被害は続いていて、山形市は令和6年に市全域で被害の拡大が見られると伝えています。
Q3. 庄内海岸林は、なぜ大切なのですか。
庄内海岸林は、江戸時代から約300年かけて砂丘にクロマツを植えて育てた、長さ約33km、面積2,656haの海岸林です。飛砂防備・潮害防備・防風などの保安林に指定され、冬の季節風と砂から、メロンなどを作る砂丘の畑や集落を守っています。
Q4. 山形県や市町は、どんな松枯れ対策をしていますか。
守る松林を指定して、伐倒駆除・薬剤散布・樹幹注入を行い、抵抗性クロマツの苗を県内で育てています。庄内海岸林では、守るクロマツ林と広葉樹林へ移す林を分ける方針の見直しを進め、2026年度は庄内海岸林再生事業に11億2,100万円を充てて、危険木の伐採と植え直しを進めています。鶴岡市は被害木の伐倒の費用の2分の1(上限5万円)を補助しています。
Q5. 寒い山形県で、なぜ松枯れが広がるのですか。
森林総合研究所東北支所の冊子は、線虫もカミキリも変温動物で、夏の気温が高いほど被害が広がりやすいと説明しています。山形県は令和5年の夏の記録的な高温少雨と、被害木の切り残しを急増の理由に挙げています。寒い地域では発症が翌年以降になる潜在感染木も出やすく、見つけにくいことも対策を難しくしています。
Q6. 山形県で、自分の土地の松が枯れたらどうすればよいですか。
山形県は、枯れた松は枝が落ちたり倒れたりするおそれがあるので近づかないこと、住宅や農業用ハウスの近くの被害木は所有者や管理者が早めに対応することを呼びかけています。県のページには危険木に対応できる業者の一覧があり、鶴岡市の湯野浜・西郷地区では伐倒の費用の補助があります。守りたい松には、冬の間の樹幹注入が勧められています。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
・林野庁「松くい虫被害」(令和8年9月30日更新)、「都道府県別松くい虫被害量(被害材積)の推移(総数)」、「民有林における都道府県別松くい虫被害量(被害材積)の推移」、「国有林における都道府県別松くい虫被害量(被害材積)の推移」
・e-Stat「森林病害虫被害量」(令和4〜6年度の松くい虫都道府県別被害量)
・山形県「山形県松くい虫被害対策推進計画【抜粋】」(令和4〜8年度)
・山形県庄内総合支庁「松くい虫防除対策」、「庄内地域の松くい虫被害発生状況について」
・山形県森林研究研修センター「令和5年度の森林病虫獣害の発生状況」
・出羽庄内公益の森づくりを考える会「庄内海岸松原再生計画【改訂版】」(令和7年7月一部改訂)
・山形県「庄内海岸林再生プロジェクト会議(設立会議)【要旨】」(令和8年3月27日)、「庄内海岸林再生プロジェクト通信」第1〜5号(令和8年5月18日〜8月27日)
・山形県 報道発表「庄内海岸林松くい虫被害現場の知事視察について」(2025年11月25日)、「松くい虫被害に対する緊急要望の実施について」(2025年11月26日)、「庄内海岸林再生プロジェクト会議専門部会の開催について」(2026年4月22日)、「庄内海岸林再生プロジェクト 二次被害対策の推進の取組み状況を紹介します」(2026年6月25日)
・山形県「令和8年度当初予算主要事業の概要」p.38
・山形市「松くい虫防除事業について」(令和6年10月7日更新)、鶴岡市「鶴岡市松くい虫被害木伐倒費補助金について」
・森林総合研究所東北支所「マツ材線虫病にどう対処するか―防除対策の考え方と実践―」(2022年3月)p.5・9〜13・23
・山形新聞「松くい虫被害の庄内海岸林、保安林危険木の伐採作業完了 国道112号と日東道沿い」(2026年9月6日)
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・寿昌院様 臥竜の松 緑摘みとマツ枯れ対策の薬剤散布 東京都江戸川区
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