クビアカツヤカミキリの被害を受けたサクラは、手当てをして残せるのか、伐るべきか。群馬県の手引きにある被害の5段階と対策の効き目、東京都・埼玉県・大阪府の手引きの判断の手がかりを、長野県の最新の状況とあわせて樹木医が各地の一次情報で整理します。
クビアカツヤカミキリのニュースは、今回の第4回から週に1回のお届けになりました。第3回(10月14日)では、環境省の「クビアカ発見・通報ネット」の試行と、伐った後の切株の処理を取り上げました。今週は国の大きな発表が無かったので、樹木を管理する方からいちばん多く聞かれる「この木は残せるのか」という問いを、各地の手引きから読み解きます。
今週の要点
- 長野県では10月16日現在、11市町村で79件の確認があり、被害木は303本です。県内で初めて確認されたのは今年7月です。
- 国の地域ブロック説明会は、10月20日の近畿に続き、23日に九州・沖縄で開かれます。報道では、所有者の分からない土地での防除の強化も伝えられています。
- 群馬県の手引き(2026年2月改訂)は、被害をレベル0〜4の5段階に分け、段階ごとに対策の効き目を示しています。樹幹注入はレベル1・2で「効果が高い」、レベル4では「効果がない」とされています。
- 伐るかどうかを、孔の数などの数字で決める基準は、確かめた手引きのどれにもありません。フラスの出る位置と量、脱出孔、枝の枯れから、被害の進み具合を見て決めます。
- 伐った後は、バラ科以外の木への植え替えも選択肢になります。大阪府の手引書は、植え付けを12月〜3月ごろとしています。
最新情報──長野県は11市町村・被害木303本に
長野県の確認状況
長野県は10月16日にクビアカツヤカミキリのページを更新しました。10月16日現在、佐久市、御代田町、佐久穂町、小海町、東御市、辰野町、長野市、南相木村、小諸市、南牧村、上田市の11市町村で79件の確認があり、被害木は303本です。79件は、成虫の確認と被害木の確認(クビアカツヤカミキリによるフラスの疑いを含む)を合わせた件数です。県内で初めて確認されたのは2026年7月なので、3か月ほどで東信から上伊那・長野地域まで確認が広がったことになります。10月1日には小諸市と南牧村、6日には上田市で、それぞれ初めて被害が確認されたと発表されています。
国の動き
農林水産省のまとめでは、発生を確認した都府県は8月19日更新の22都府県のままです。国の地域ブロック説明会は、10月20日の近畿に続いて、23日に九州・沖縄で開かれ、7回の予定を終えます。説明資料は、対策本部のページで「準備中」とされています。
NHKは10月16日、環境省などが所有者の分からない土地での防除対策を強化すると報じました。10月15日の第3回対策本部の環境省の資料には、外来生物法にある立入りなどの規定について、自治体へのアンケートで周知と活用が十分でないことが分かったとして、周知とマニュアルなどの作成を予定していると書かれています。報道にある対策の中身は、国の発表ではまだ確かめられていません。公表されたら、この連載でお伝えします。
最新の防除の知見──被害の5段階と、段階に合う対策
今週、新しく公表された研究成果や、農薬登録の変更は見当たりませんでした。ここでは、2026年の2月から4月にかけて改訂された各地の手引きから、被害木を残すか伐るかを考える手がかりを整理します。
群馬県の手引きは、被害を5段階に分ける
群馬県の「クビアカツヤカミキリ 対策の手引き」(2026年2月改訂)は、「効果的な対策には、木の被害状況に応じた適切な対策を選択することが重要」として、木の状態を次の5段階に分けています。
| レベル | 状態 | 見分け方 |
|---|---|---|
| 0 未被害木 | 未侵入の健康な木 | フラスが出ていない(0と1は外見では区別できないため、周りの発生状況で判断する) |
| 1 侵入初期木 | 幼虫が寄生して間もない木 | 同上 |
| 2 初期被害木 | フラスが出ているのが確認できる木 | 細いフラスや樹液が、目線より低い位置の数か所から出ている。成虫の脱出孔はほとんど見られない |
| 3 被害進行木 | フラスが大量に出ている木 | 幹から大量の樹液、太くて大量のフラスが根際にたまる、目線より高い位置からもフラス、成虫の脱出孔が多い |
| 4 衰弱枯死木 | 主幹の内部が穴だらけで、衰弱・枯死した木 | 葉が枯れる・紅葉以外で変色する、花や蕾・新しい葉を付けない、枝が簡単に折れる、落枝が多い、樹皮がボロボロにはげる など |
出典: 群馬県「クビアカツヤカミキリ 対策の手引き」(令和8年2月改訂)p.10
そのうえで手引きは、対策ごとに、どの段階で効くかを示しています。表を図にしました。

図から読み取れるのは、木の中の幼虫を薬で駆除する方法には、効く段階があるということです。幹に穴をあけて薬剤を入れる樹幹注入は、レベル1・2では「効果が高い」、レベル3では「効果が薄い」、レベル4では「効果がない」とされています。フラスの出ている孔に薬剤を入れるフラス孔注入も、レベル2の「効果がある」から、レベル3・4では「効果が薄い」に下がります。一方、伐倒は、レベル1から4まで「効果が高い」とされています。手引きは、いくつかの対策を組み合わせて行うことが望ましいとしています。
幼虫は木の中で2〜3年かけて育つため(長野県のページ)、外から被害に気づくまでに時間がかかります。下の当社のイラストは、1年の生活と、木が衰えていく流れを描いたものです。

段階ごとの木の姿
レベル2の木は、葉がよく茂り、遠目には健康に見えます。気づく手がかりは根元です。目線より低い位置の数か所から細いフラスが出て、根元にわずかに落ちています。群馬県の手引きで樹幹注入が「効果が高い」とされているのは、この段階までです。

レベル3になると、根際に太いフラスが大量にたまり、目線より高い位置からもフラスが出ます。成虫が出た後の脱出孔も多くなります。脱出孔は、縦に長い楕円形で、長さ2〜3cmほどの、機械で開けたような滑らかな穴です。群馬県の手引きは、脱出孔がある木は過去に被害を受けていて、ほかの幼虫がまだ中にいることも考えられるとしています。

レベル4は、主幹の内部が穴だらけになり、衰弱・枯死した木です。葉を付けず、枝が簡単に折れます。群馬県の手引きは、被害の著しい木は「農薬などによる対策の効果が薄いだけでなく、枝が落ちたり、木が倒れるなど人身・建物被害が発生するおそれがある」ため、伐倒するとしています。国の防除戦略も、道路・河川・都市公園や学校、観光地で、衰弱・枯死した木の落枝や倒木による人身被害を「二次被害」と呼び、起きる前に伐倒・伐根や植樹などを適時に行うよう求めています。

ほかの手引きにある、判断の手がかり
埼玉県の手引(2026年2月 第8版)は、フラス、フラスの出ている孔、成虫の脱出孔、枯れた箇所の4つを確かめ、被害の程度をつかんでから防除の方法を考えるとしています。脱出孔が複数あれば内部は大きく食べられている可能性があり、枯れた箇所があれば、内部はかなり大きく食べられていると考えられるとしています。そのうえで、複数のフラスの孔や脱出孔があり、特に枝などに枯れが見られる木は、幼虫が活動を止めている冬から初春に伐るのが望ましいとしています。
東京都の手引(2026年3月)は、フラスの出ている孔にエアゾール式の薬剤を注入する方法を、1本の木で孔が5か所未満の、被害が小さい場合に効果的としています。伐るかどうかの基準ではなく、孔への注入が効く目安です。伐採は、木の中の幼虫と蛹をすべて駆除し、倒木や落枝の被害も防げる「最も効果的な防除法」としつつ、木の大半が無傷で枝の一部だけが被害を受けている場合は、その枝だけを切り落として処分する場合もあるとしています。
大阪府の手引書(2026年4月 改訂第6版)は、樹幹注入について、被害が進んでいる木や樹勢の悪い木は避け、被害の初期に使うとしています。注入した位置より低いところには効果が期待できないこと、注入した穴の真上で水の通り道が妨げられた事例があるため、繰り返しの処理は避けたほうがよいことも書かれています。どの薬剤も、使う前に最新のラベルと農薬登録情報提供システムで、対象の樹木、使う時期、回数を確かめる必要があります。
| 手引き | 判断の手がかり |
|---|---|
| 群馬県(2026年2月改訂) | 被害を5段階に分け、段階ごとに対策の効き目を示す。被害の著しい木は伐倒する |
| 埼玉県(2026年2月 第8版) | フラス・孔・脱出孔・枯れの4項目で被害の程度をつかむ。孔や脱出孔が複数あり枝が枯れていれば、冬から初春に伐るのが望ましい |
| 東京都(2026年3月) | 孔への注入は孔が5か所未満の小さな被害に効果的。枝の一部だけの被害は、その枝だけ切ることもある |
| 大阪府(2026年4月) | 樹幹注入は被害の初期に。枯死・衰弱した木は早期の伐採を検討、飛び地の被害木は直ちに伐採を検討 |
出典: 各手引き(下の「出典・参考情報」)
数えて、記録して、比べる
段階を見極めるには、1本ずつの記録が欠かせません。東京都の手引は、被害木の調査で記録する項目として、フラスの位置と箇所数(根元・主幹・大枝・地上からの高さ)、フラスの形と太さ、樹勢(健全、部分的に落葉、半分以上落葉など)、脱出孔と脱出予定孔の有無と数を挙げ、表か1本ごとのカルテにまとめるとしています。孔に印を付けて数えておけば、薬剤を入れた後に、フラスが止まったかどうかも同じ孔で確かめられます。

群馬県の図では、幹への薬剤散布は、どの段階でも成虫に「効果がある」とされています。散布は木の外にいる成虫と、これから来る成虫への対策で、木の中の幼虫には届きません。残すと決めた木は、幼虫への手当てと、成虫と産卵への備えを分けて組み立てることになります。

伐った後は、植え替えも考える
大阪府の手引書は、被害地の回復のために若木への植え替えを検討するよう書いています。同じ種類の若木を植えると再び被害を受ける可能性があり、防除を続ける必要があります。対策の手間や費用をかけられない場合は、被害を受けない植物(バラ科以外)への植え替えも検討するとしています。植え付けの時期は、厳寒期を除く落葉期(12月〜3月ごろ)です。若木の生育を助け、同じ場所に植え続けることによる障害(連作障害)を避けるため、土を深く耕すことや、土壌改良資材を入れることも挙げられています。

樹木医から見たこと
被害木を前にして「残せますか」と聞かれたとき、答えは1本ずつ違います。手引きを読み比べても、孔がいくつなら伐る、という線はどこにも引かれていません。あるのは、フラスの出る高さと量、脱出孔の数、枝の枯れという手がかりと、その段階では薬が効きにくいという目安です。群馬県の5段階は、その手がかりを並べ直したものとして、所有者や管理者と話すときの共通の物差しになると考えています。
判断を難しくするのは、被害の段階のほかに、木の下に何があるかです。同じレベル3の木でも、園路や通学路の上に枝を伸ばしている木と、人の入らない斜面の木とでは、急ぐ度合いが違います。防除戦略が学校や観光地の木について「二次被害が発生する前に」と書いているのは、この違いのことだと読んでいます。現場での経験から、被害が進んだサクラでは、外から見えるより中の傷みが大きいことが少なくありません。残すと決めた木も、枯れ枝の落ちる先を確かめ、見回りの間隔を決めておく必要があります。
伐ると決めたときは、それで終わりにはなりません。伐る時期は9月から翌4月、切株は抜くか覆う、伐った幹は成虫が出る前に処理する(第3回)。そして跡地に何を植えるか。サクラを植え直すなら防除を続ける覚悟が要り、バラ科以外を選ぶなら、景色が変わることを地域で受け止める話し合いが要ります。どちらを選んでも、決めるのは木を持つ人で、私たちの仕事は、その判断に足りる材料をそろえることだと考えています。
来週は、九州・沖縄の説明会の後の動きや、交付金の追加公募の締切(11月6日)に向けた動きなどを追っていきます。
よくある質問
Q1. クビアカツヤカミキリの被害を受けたサクラは、伐らないといけませんか。
必ず伐るとは限りません。群馬県の手引きは被害を5段階に分け、フラスが目線より低い位置の数か所から出ている初期の木(レベル2)までは、樹幹注入の効果が高いとしています。被害が進み、衰弱・枯死した木(レベル4)は、薬の効果が見込めないうえ落枝や倒木のおそれがあるため、伐倒するとしています。
Q2. 被害の進み具合は、どこを見れば分かりますか。
フラスの出る位置と量、成虫の脱出孔(縦に長い楕円形で2〜3cmほど)の数、枝の枯れを見ます。埼玉県の手引は、フラス・フラスの孔・脱出孔・枯れた箇所の4つを確かめて被害の程度をつかむとしています。目線より高い位置からもフラスが出ていたり、脱出孔が多かったりすれば、被害は進んでいます。
Q3. 樹幹注入は、いつ、どんな木に効きますか。
被害の初期の木に向く方法です。大阪府の手引書は、被害が進んでいる木や樹勢の悪い木は避けるとしています。群馬県の手引きの効果的な時期は5月〜10月です。樹幹注入の農薬登録があるのはサクラだけで、使う前に最新のラベルと登録情報で、使う時期と回数を確かめる必要があります。
Q4. 伐った後に、またサクラを植えてもよいですか。
植えることはできますが、大阪府の手引書は、同じ種類の若木は再び被害を受ける可能性があり、防除を続ける必要があるとしています。手間や費用をかけられない場合は、バラ科以外の植物への植え替えも検討するとしています。植え付けは厳寒期を除く落葉期(12月〜3月ごろ)です。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
・群馬県「クビアカツヤカミキリ 対策の手引き」(令和8年2月改訂)、「特定外来生物クビアカツヤカミキリに注意してください」
・埼玉県環境科学国際センター「サクラの外来害虫“クビアカツヤカミキリ”被害防止の手引」(令和8年2月 第8版)
・東京都環境局「クビアカツヤカミキリ防除の手引」(2026年3月)
・大阪府立環境農林水産総合研究所「クビアカツヤカミキリ被害対策の手引書(改訂第6版)」(2026年4月)
・クビアカツヤカミキリ対策本部「クビアカツヤカミキリ防除戦略」(令和8年9月11日)、「第3回対策本部 資料」(令和8年10月15日)
・農林水産省「クビアカツヤカミキリ対策本部」、「クビアカツヤカミキリに関する情報」
・長野県「クビアカツヤカミキリについて」(2026年10月16日更新)
・NHK「クビアカツヤカミキリ 所有者不明土地でも対策強化 被害が確認されている栃木県と大阪府で講習会実施」(2026年10月16日)
・農林水産省「農薬登録情報提供システム」
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