ナラ枯れの防除で長く使われてきたくん蒸剤「NCS」の農薬登録が、2026年6月30日に失効しました。被害木を割って林床に置くだけで駆除できるという森林総研の成果、新版マニュアルの被害段階ごとの対策、秋から冬にできる処理を、一次情報をもとに樹木医が整理します。
月に1回お届けしているナラ枯れのニュース、今回は第2回です。第1回では、林野庁がまとめた令和7年度の被害量(21.2万m3)と、都市の公園での動きを取り上げました。今回は、防除の道具と方法の変化を中心に、カシノナガキクイムシ(カシナガ)が木の中で冬を越すこの時期にできることを整理します。
今月の要点
- 伐倒木や立木のくん蒸に使われてきたカーバム剤「NCS」「ヤシマNCS」の農薬登録が、2026年6月30日に失効しました。
- 森林総研などの研究で、被害丸太を薪のように割って林床に置くだけで、95%以上のカシナガを駆除できることが分かりました。
- 市販のノズル式殺虫剤が、生きている木の中のカシナガの駆除に使えるよう適用拡大されています(2024年2月)。
- 新版マニュアル(令和8年3月)は、被害の段階をステージ0〜4に分け、段階ごとの対策を示しています。
- 枯れた木の処理は、カシナガが出ていく前の10月から翌年5月ごろまでが目安です。
最新情報──くん蒸剤NCSの登録が失効
農林水産消費安全技術センター(FAMIC)の失効農薬一覧によると、カーバム剤の「NCS」「三洋NCS」「ヤシマNCS」は、2026年6月30日に登録が失効しました。ナラ枯れの被害木を玉切りしてシートで覆い、薬剤でくん蒸する方法は、林野庁の資料でも駆除の柱として紹介されてきたものです。同じカーバムナトリウム塩の「キルパー40」には、カシノナガキクイムシへの登録があります。少し前の資料にはNCSが載っているものもあるので、薬剤を使う前には、最新のラベルと農薬登録情報提供システムで、適用と使用方法を確かめる必要があります。
なお、林野庁のページは、令和7年度の被害量のデータを令和8年10月に統計(e-Stat)へ載せる予定としています。新しい数字が出たら、次回以降でお伝えします。
最新の防除の知見
割って置くだけ、短く切るだけの駆除(森林総研など)
森林総合研究所などの研究グループは、令和4〜6年度の研究の成果を「With/Post ナラ枯れ時代の広葉樹林管理戦略」(2025年3月)にまとめました。その一つが、薬剤を使わない駆除です。被害を受けた丸太を薪のように分割して林床に置いておくだけで、95%以上のカシナガを駆除できました。材を持ち出して乾かす手間が省けます。丸太をなるべく短く玉切りして置くだけでも、駆除の効果があります。一方、被害丸太を地中に埋める方法は、実証試験の結果、ほかの方法ほどの効果は見られませんでした。
市販のノズル式殺虫剤で、生きている木の中を駆除
同じ研究では、市民にも手に入りやすい市販のノズル式殺虫剤「園芸用キンチョールE」(ペルメトリン)で、枯れていない木の幹の中のカシナガを駆除する方法も確かめられました。この殺虫剤は、2024年2月14日にカシナガへの適用拡大が承認されています。試験では、コナラ・マテバシイ・シラカシ・スダジイで、カシナガが入ってからおおむね2〜4週までにノズルを穿入孔へ差し、薬液が出てくるまで注入しました(北島ら 2025、森林総合研究所研究報告)。

都市の公園では、もう一つ大事な知見が出ています。埼玉県の調査では、公園の木が弱る大きな原因の一つがナラタケモドキ(根を腐らせるきのこの仲間)で、ナラタケモドキだけで枯れた例もありました。カシナガの穴が少ない木では、ナラ枯れかどうかの判断が難しいため、孔から菌を採ってナラ菌を調べる早期診断の技術も開発されています。
新版マニュアルの「被害段階」
日本森林技術協会の「新版 ナラ枯れ被害対策マニュアル」(令和8年3月、林野庁補助事業)は、地域の被害の段階を5つに分けて対策を示しています。
- ステージ0(被害地が遠い段階): ナラ類などの老齢木・大径木を計画的に伐って若返らせる
- ステージ1(近隣の市区町村で被害がある段階): 監視を強め、守りたい木は幹を覆って守る
- ステージ2(その土地で初めて確認された段階): 早く徹底して防除し、被害の連鎖を断つ
- ステージ3(被害が広がった段階): 人家や道路の近くの危険な木から優先して取り除く
- ステージ4(被害が減ってきた段階): 危険な木を除き、森林の回復と再発の防止を図る

秋から冬にできること
新版マニュアルによると、カシナガが活動する6〜9月に被害木を伐ると、伐った木から出る匂いで周りのカシナガを呼び寄せてしまいます。枯れた木は、カシナガが出ていく前の10月から翌年5月ごろまでに、破砕・焼却・薬剤などで確実に処理します。伐倒はできるだけ低い位置(10cm以下が推奨)で行い、カシナガが多く残る切り株にも処理をします。

処理の方法は、現場の条件で選びます。搬出してチップにする場合は、チップの厚さが10mmを超えるとカシナガが生き残るおそれがあるため、10mm以下に破砕します。被害を受けた年の冬までに破砕を終えるのが望ましく、遅くとも翌年5月ごろまでに終えます。薪として使う場合は、幼虫が蛹になる前の被害翌年2月ごろまでに割り、中まで十分に乾かします。割っても駆除率は100%ではないため、薪は被害地域の中で使い、未被害地への持ち出しは厳禁とされています。立木のままくん蒸する方法は、処理後も立ち枯れのまま残るため、人家・道路・公共施設の近くでは別の方法を選びます。
人の行き来がある場所では、第1回で書いたとおり、枯れた木が年を追って小枝、大枝、幹の順に落ちていくことにも備える必要があります。

枯れた木の根元にも注意が要ります。オオミコブタケは、広葉樹の根株を腐らせる菌として古くから知られ(青島 1955)、ミズナラなど広葉樹の衰弱木の幹の下部に、はじめ灰色〜灰褐色の膏薬のような菌体が広がり、秋には黒い炭のような塊になります(弘前大学 白神自然環境研究センター)。現場での経験から、ナラ枯れで枯れた木の根元にこの菌が付き、根株が腐って根の支えが失われ、根元から倒れることにも備える必要があると考えています。ナラ枯れとオオミコブタケの関係は、論文などでの裏づけがまだ十分ではないため、別の記事で研究と現場での経験から考察しています。

冬のうちに、翌春の予防も考えておきます。幹を覆う予防は、カシナガが穴をあけやすい根元から高さ2〜4mほどまでを確実に覆います。新版マニュアルは、布・紙・厚さ0.1mm未満の薄いシートは噛み切られて穴をあけられるおそれがあり、目の粗さ1mm以上の金網もすり抜けられるので適さないとしています。

樹木医から見たこと
NCSの失効は、現場の段取りに直接かかわります。これまでの手順書や見積りがNCSを前提にしていれば、使える薬剤と方法を確かめ直す必要があります。一方で、割って置く、短く切って置くといった、薬剤に頼らない方法の効果が数字で示されたことは、公園や社寺林のように薬剤を使いにくい場所にとって大きな前進だと受け止めています。
どの方法を選ぶにしても、出発点は「どの木が、いつ、どうなったか」の記録です。新版マニュアルも、被害木の位置・樹種・太さ・状態を毎年記録すると、翌年の予測や優先順位づけに役立つとしています。当社が枯死木の機器診断と引っ張り試験で強さを調べてきたのも、伐る順番を根拠をもって決めるためです。秋から冬は、その記録を整え、処理に取りかかる時期です。
来月は、e-Statに載る令和7年度の被害量のデータや、各地の冬の処理の動きを追っていきます。
よくある質問
Q1. ナラ枯れのくん蒸に使っていたNCSは、もう使えないのですか。
カーバム剤の「NCS」「三洋NCS」「ヤシマNCS」は、2026年6月30日に農薬登録が失効しました。同じカーバムナトリウム塩の「キルパー40」にはカシノナガキクイムシへの登録があります。使う前に、最新のラベルと農薬登録情報提供システムで確かめる必要があります。
Q2. 薬剤を使わずにナラ枯れの被害木を処理できますか。
森林総研などの研究で、被害丸太を薪のように割って林床に置くだけで、95%以上のカシノナガキクイムシを駆除できることが分かりました。短く玉切りして置くだけでも効果があります。一方、地中に埋める方法では大きな効果は見られませんでした。
Q3. ナラ枯れで枯れた木は、いつまでに処理すればよいですか。
新版 ナラ枯れ被害対策マニュアルは、カシナガが出ていく前の10月から翌年5月ごろまでに、破砕・焼却・薬剤などで確実に処理するよう求めています。6〜9月の伐倒は、周りのカシナガを呼び寄せるため行いません。
Q4. ナラ枯れの被害木を薪にしてもよいですか。
使えますが、注意が要ります。新版マニュアルは、幼虫が蛹になる前の被害翌年2月ごろまでに割って中まで乾かすこと、駆除率は100%ではないため薪は被害地域の中で使い、未被害地への持ち出しは厳禁とすることを求めています。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
・農林水産消費安全技術センター「登録・失効農薬情報」(失効農薬一覧 2026年9月30日現在)、農林水産省「農薬登録情報提供システム」
・林野庁「ナラ枯れ被害」(令和8年9月30日更新)
・森林総合研究所「With/Post ナラ枯れ時代の広葉樹林管理戦略」(2025年3月)、「研究成果選集2025」
・青島清雄(1955)「オオミコブタケによるブナ生立木の根株腐れ」日本林学会誌 37(6)、弘前大学農学生命科学部附属白神自然環境研究センター「オオミコブタケ」(白神山地きのこ情報検索)
・一般社団法人日本森林技術協会「新版 ナラ枯れ被害対策マニュアル」(令和8年3月、林野庁補助事業)
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