ナラ枯れの枯死木はなぜ突然倒れるのか オオミコブタケと倒木リスクを樹木医が考察しました

ナラ枯れで枯れた木に広がる「オオミコブタケ(学名 Kretzschmaria deusta)」。外から見ると幹はまだ立っているのに根元から突然折れるその倒木リスクを、国内外の研究と現場の経験から樹木医が考察しました。

※本記事のうち、ナラ枯れとオオミコブタケの関係を直接結びつける部分は、論文等による定量的な裏づけがまだ得られていない領域を含みます。その箇所は、当社が現場で重ねてきた診断・伐採の経験にもとづく見立てとして記しています。個別の樹木の危険度は立地・樹種・経過年数によって大きく異なりますので、実際の判断は現地での診断のうえで行ってください。

ここ数年、マンション管理組合や寺社、公園を管理される方から「ナラ枯れで枯れた木を、いつまでに切ればいいのか」というご相談が増えました。枯れた木は、枯れた瞬間にいちばん危ないわけではありません。むしろ、枯れてから2年、3年と時間が経つほどに、徐々に危険が増していきます。その危険に関わっている可能性があるのが、今回とりあげるオオミコブタケという菌です。少し専門的な話になりますが、なるべくわかりやすい言葉で書いていきます。

そもそもナラ枯れとは──ナラ菌とカシノナガキクイムシの関係

ナラ枯れは、正式には「ブナ科樹木萎凋病」と呼ばれる伝染病です。体長5mmほどのカシノナガキクイムシ(学名 Platypus quercivorus)という甲虫が、ナラ菌(学名 Raffaelea quercivora)という菌を体に付けて健全な木に穴を掘り、菌が辺材の中で増えることで水の通り道がふさがれ、木が水を吸い上げられなくなって枯れます。盛夏から晩夏にかけて、葉が急に赤茶けて落ちます。1本の虫が持ち込むだけでは枯れず、多数の虫が集団で穴を掘る「マスアタック」が起きたときに枯死に至ります。太い木ほど虫が繁殖しやすく、大径木ほど被害を受けやすいことが分かっています。

被害は今も広がっています。林野庁の資料によれば、令和6年度には全国44都道府県で発生し、被害材積は18万7,900立方メートルにのぼりました。ナラ枯れそのものの仕組みについては、長くこの病気を研究されてきた神戸大学の黒田慶子氏の解説ページが分かりやすく、行政の対策では奈良県愛知県のページも参考になります。

ここで押さえておきたいのは、ナラ枯れは「枯らす」病気であって、「腐らせる」病気ではない、ということです。木を倒す力そのものは、枯れた後にやってくる別の菌が担っています。その代表格が、次にお話しするオオミコブタケです。

「オオミコブタケ」とは何者か──学名 Kretzschmaria deusta の正体

じつはこの菌、名前の扱いが少しややこしいところがあります。和名の「オオミコブタケ」に対応する学名は Kretzschmaria deusta(クロサイワイタケ科)で、古い文献では Ustulina deustaUstulina vulgaris という名でも出てきます。英語圏では「brittle cinder(脆い燃えさし)」「burnt crust(焦げたかさぶた)」と呼ばれます。焼け焦げた炭のような見た目を、そのまま名前にしたわけです。

オオミコブタケは、決して新顔ではありません。青島清雄氏が1955年に日本林学会誌へ報告した論文で、すでに日本のブナの生立木や常緑カシ類の「根株腐れ」を起こす菌として記載されています。70年前から、この菌は木の根元を腐らせる存在として知られていたのです。海外でも、米国マサチューセッツ大学の解説など、街路樹・公園樹の根株・幹基部腐朽の代表菌として扱われています。子座の姿については、弘前大学の白神データベースに、はじめ灰色〜灰褐色の膏薬(こうやく)のような菌体が広がり、秋になると黒い炭のような塊に成熟していく様子が記録されています。

なぜ外から見て健全な木が、根元から突然折れるのか

木を腐らせる菌には、大きく分けていくつかのタイプがあります。オオミコブタケが起こすのは「軟腐朽(なんふきゅう/soft rot)」と呼ばれるもので、細胞壁の中のセルロースを先に分解していきます。ここが厄介なところで、材はしばらく外見を保ったまま、内側から粘りと強さを失っていきます。腐って柔らかくブヨブヨになるのではなく、むしろ「乾いて脆くなる」傾向にあります。折れるときは陶器が割れるように、あるいは乾いた枝を膝で折るように、パキッと一気にいきます。

この菌がとくに危ないのは、通常の警告サインを出さないまま進むことです。幹に大きな空洞ができるわけでも、根元が異様に膨らむわけでも、枝先が目に見えて枯れ込むわけでもない。外から見るかぎり、まだしっかり立っている木に見えます。ところが内部では強度がごっそり抜けている。海外のアーボリストの間でも、登った瞬間に幹が破断しかねない「静かな倒木の要因」として、根株・幹基部を腐らせる菌のなかでもとくに警戒すべき相手とされています。

破断の起きる場所も特徴的です。オオミコブタケの腐朽は根や幹の付け根に集中しやすく、その結果、幹の途中で折れる「幹折れ」だけでなく、根を張った土ごと倒れる「根返り」も起こします。実際、イタリア・トレンティーノ地方の老齢のブナを調べた2021年の研究(Cordin ら)では、調査した木の約半数(50.4%)からこの菌が確認され、リスクが極めて高いと判定された1本は、調査から15日後、風もない展葉期に突然倒れたと報告されています。子実体は幹の下のほう、とくに根元から2mまでの範囲に集中していたことも記録されています。菌がどこで悪さをしているかを、そのまま物語る分布です。この菌が個体の中でどう侵入し広がるかは、集団構造を調べた研究(Guglielmo ら, 2012)でも分析されています。

機器診断が効きにくい菌──ピカス・アーボソニック3D・Resi PD の限界と使い分け

私たちは樹木医として、木を切らずに内部を調べるために機器診断を使います。音を木に通して伝わり方から内部を推定する音響トモグラフィ(ピカスアーボソニック3D)、細いドリルを刺して抵抗の変化から密度を見る穿孔抵抗(Resi PD)などです。ところが、オオミコブタケに関しては、この機器診断では判断が難しい可能性があることが、複数の論文で示唆されています。

古典的な研究として、Schwarze らの1995年の論文があります。音を使う応力波タイマーでは、白色腐朽や褐色腐朽を起こす他の菌の腐朽は検出できたのに、オオミコブタケの軟腐朽は検出できなかった。理由は、この菌が分解を進めても、リグニンに富んだ脆い「骨格」が材の中に残り、音の伝わる速さがあまり変わらないためだと説明されています。つまり「音は普通に通るのに、強さは失われている」という、いちばん危ない状態が起こりうる。一方で、コアを採って曲げ折る破断試験では、初期の腐朽でも強度低下がしっかり出た、とも報告されています。

その後、音響トモグラフィ(ピカスの系統)を使ったDeflorio らの2008年の研究でも、腐朽がある程度進めば音速の低下として捉えられるものの、樹皮に近い外周部の初期腐朽は画像に出にくい、と結論づけられています。さらに近年の材料試験(Cristini ら, 2022同, 2024)では、音速が健全材とほとんど変わらないのに曲げ強度は大きく落ちている試験体があること、同じだけ目方が減っていても、この菌は白色腐朽菌よりも曲げ強度の低下が大きいことが示されています。

ここから私たちが学ぶべきことは、ひとつです。オオミコブタケが疑われる木では、機器診断の「異常なし」を鵜呑みにしてはいけない。音響トモグラフィで白く(健全と)出ても安心せず、穿孔抵抗や根元の掘り取り確認を併せて、控えめに見積もって判断する。機械の数字は、木を切らないための強力な道具ですが、万能ではありません。相手の菌の性質を知ったうえで使い分けることが、樹木医の仕事だと考えています。

枯死してから何年で倒れるのか──公的データが示す時間軸

「いつまでに切ればいいのか」という問いについては、腐朽菌の種類までは特定していないものの、ナラ枯れの枯死木がどう壊れていくかを、年次で追った貴重な資料があります。千葉県森林研究所が令和6年3月にまとめた報告です。鴨川市のマテバシイ林を6年間追いかけた記録で、枯れてからの経過がこう記されています。

枯死からの経過 木の状態(千葉県・マテバシイの例)
翌年 葉が落ちる
2〜3年 枝が落下し、幹だけの姿になる
3〜5年 幹の腐朽が進み、幹折れが一気に増える。倒伏する個体も出る

同じ千葉県の関連資料では、枯死からおよそ2年で幹が折れやすくなり、4年を過ぎると根の腐朽で根返りしやすくなる、とも整理されています。「枝が落ちる時期」と「幹が折れる時期」と「根ごと倒れる時期」が、少しずつずれて訪れる。この時間差を頭に入れておくと、管理の優先順位がつけやすくなります。

樹種による違いも大きいところです。常緑のマテバシイやシイ、カシの仲間は、まとまった範囲で一斉に枯れやすく、急な斜面では倒伏や土砂の崩れにつながる心配があります。一方、落葉性のコナラやミズナラは、比較的ばらばらに単木で枯れる傾向があります。前述の青島論文の時代からブナや常緑カシがこの根株腐朽菌に侵されると知られていたことを思うと、常緑樹の被害地でとくに根元を注意して見る意味があると感じます。なお、被害がどう広がり収束していくかの年次推移については、楠本ら(2023, 日本森林学会誌 105:103-109)が、被害木の割合が一定を超えると急速に収まっていくこと、胸高直径10cm未満はほとんど被害を受けず、20cm以上ではほぼ全数が穿入されることを報告しています。

都市の側から見ると、倒木は現実の事故として起きています。国土交通省が令和7年4月に公表した『倒木等による事故に関する全国調査』では、都市公園で931件(うち人身事故77件)、道路で801件(うち人身事故33件)が集計され、コナラ類ではナラ枯れの被害木の倒木が多く見られたと明記されています。街路や公園の木は、山の木と違って人のすぐそばに立っています。ここが、私たちがこの問題を放っておけない理由です。

ナラ枯れとオオミコブタケは「別々の現象」──それでも現場では重なる

ここで、正直に線を引いておきたいことがあります。「ナラ枯れで枯れた木に、オオミコブタケが生えて、その木の倒木率が何%だった」という数字を直接示した論文や公的資料は、国内外を探しても見あたりませんでした。ナラ枯れの研究と、オオミコブタケの研究は、これまで別々に積み上げられてきたのです。ですから、両者を結びつける部分は、確立された事実としてではなく、現場に立つ者の見立てとして解釈いただけると幸いです。

そのうえで、これまで数多くの枯死木の診断と伐採に立ち会ってきた私たちの現場での経験からは、次のように考えています。ナラ枯れで木が弱り、枯れる。すると、もともと根元に潜んでいたり、周りから胞子で入り込んだりするオオミコブタケのような腐朽菌にとって、そこは格好の住みかになります。オオミコブタケが根株を腐らせれば、ナラ枯れの枯死木は「幹の途中で折れる」から「根ごと倒れる」へと、壊れ方が変わり、時期も早まりうる。これは論文で直接確かめられたことではありませんが、根元に黒い炭のような菌が出たナラ枯れ木を前にしたとき、私たちは強く警戒します。

腐朽の進み方は単純ではありません。東北大学の深澤遊氏らが2025年に発表した研究(Fukasawa ら, Environmental Microbiology)は、ナラ枯れで枯れたコナラの丸太では、健全に伐った木よりも内部の菌の多様性が下がり、材の分解がむしろ初期には遅くなりうることを示しました(大学の発表資料もあります)。「枯れたら即、腐りが早まる」という単純な図式は成り立たない、ということです。だからこそ、木ごとに、根元ごとに見て判断するしかありません。

樹木医は現場で何を見て、どう判断するか

では、実際にナラ枯れの枯死木を前にして、私たちが何を見ているのかをお話しします。当社でも以前、枯死後のナラ枯れ木が抱える見えない危険について書いた記事がありますが、そこで触れたとおり、枯れて2〜3年の木は外見が立木の形を保っていても、幹や枝が自立できないほど強度を失っていることが少なくありません。登った瞬間に幹が大きく揺れることもあり、ナラ枯れ木の伐採は、私たちの作業のなかでもとくに危険度の高い部類に入ります。

診断の順番としては、まず根元です。幹の付け根、根の張り出し、地際、そして落ち葉や敷きチップの下まで、灰色の膏薬状あるいは黒い炭状の子座が出ていないかを探します。オオミコブタケの子実体が確認できたら、それは「腐朽がもう進んでいる」というサインとして重く受け取ります。ヘルシンキ市の危険木を調べた研究の系譜でも、この菌の子実体は「そろそろ切るべき」という閾値を、他の菌よりよく言い当てる指標だと指摘されています。

次に、機器診断です。前に述べたとおり、この菌には音響トモグラフィが効きにくいので、ピカスアーボソニック3Dの結果だけに頼らず、穿孔抵抗のResi PDや根元の掘り取り確認を組み合わせます。残った健全な壁の厚みが半径に対してどれくらいあるか(樹木医の間で使う t/R 比という目安)も参考にしますが、この目安は本来「幹の中が空洞になった木」を想定したものです。オオミコブタケのように空洞を作らず脆くする腐朽や、根株そのものの破壊には、そのまま当てはめると危険を小さく見積もってしまう恐れがあります。ですから、数字が微妙なときほど、安全側に倒して判断します。加えて、診断のために木に登る・荷重をかける前に、その木がそもそも登れる状態なのかを見極め、必要なら高所作業車や重機を使って登らずに済ませることも、作業者の安全のために欠かせません。

これから樹木医に求められること──気候変動の時代の倒木対策

最後に、この先を見据えて、私たち樹木医に何が求められていくのかを、現場の実感を交えて書いておきます。

1つ目は、視点を「枯らさない」から「枯れた後」へも広げることです。ナラ枯れの対策というと、これまでは薬剤の樹幹注入や、枯死木のくん蒸・粘着シートといった、生きている木を守り、虫を減らすための防除が中心でした。それはもちろん大切です。ただ、防除と、枯れてしまった木を安全に管理することは、目的の異なる別の仕事です。管理計画の中に「枯死木をいつ、どの順番で片づけるか」という危険木管理の枠を、はじめから組み込んでおく必要があると考えています。

2つ目は、根元と子実体を見る習慣を、診断の当たり前にすることです。梢や葉の色に目が行きがちですが、倒木の芽は多くの場合、足元で育っています。地際をかがんで見て、菌の姿を記録する。地味ですが、ここを飛ばさないことが事故を防ぎます。

3つ目は、機器診断を過信しないことです。道具は年々良くなっていますが、オオミコブタケのように機械の弱点を突く相手がいる以上、複数の方法を重ね、最後は人の目と手で確かめる姿勢は変わりません。むしろ、機器の限界を正しく知っている人ほど、機器をうまく使えると感じます。

4つ目は、気候の変化に備えることです。乾燥や高温が続くと、木は弱り、ふだんはおとなしくしている潜在的な菌が暴れやすくなります。地中海のオーク類では、干ばつがこうした菌の発病の引き金になることが研究(Biscogniauxia の解析)や、ブナの内生菌を健康の指標として使おうという提案(Luchi ら, 2015)でも論じられています。日本のオオミコブタケについて同じ強さのデータがそろっているわけではありませんが、木が弱れば菌が動く、という道理は変わりません。夏の異常な暑さが続いた後の秋は、根元をとくに丁寧に見るようにしています。

5つ目は、管理される方々とのコミュニケーションです。マンションの管理組合、寺社、公園、行政の方など、木を預かる立場の方に、「なぜこの木を今切る必要があるのか」「なぜこの木はもう少し様子を見られるのか」を、数字と根拠で率直にお伝えする。限られた予算のなかで優先順位をつけるには、この説明が欠かせません。そして、定点で記録を残し、地域で早く気づいて知らせ合う仕組みや、大学・研究機関・行政との連携を積み重ねていくこと。倒木は一本の木の問題であると同時に、その土地全体の問題でもあります。

ナラ枯れは、枯らして終わる病気ではありません。枯れた後の時間の中で菌が静かに木を腐らせていきます。その代表がオオミコブタケです。派手な兆候が出ないぶん、判断が難しい面があります。木の立ち姿には、その木が置かれた環境と、これまでの手入れの跡が残っています。根元にかがんで、その痕跡を一つずつ読み解いていく。それが、これからの時代の樹木医に求められている仕事だと思っています。

 


出典・参考情報

[ナラ枯れ(病理・被害・対策)]

[オオミコブタケ(Kretzschmaria deusta)]

  • 青島清雄(1955)「オオミコブタケ(Ustulina vulgaris TUL.)によるブナ生立木の根株腐れ」日本林学会誌 37(6): 254-256. J-STAGE
  • 弘前大学 白神自然環境研究センター「オオミコブタケ」 白神データベース
  • University of Massachusetts Amherst「Root and Butt Rot caused by Kretzschmaria deusta」 UMass Extension
  • Guglielmo ら(2012)「Kretzschmaria deusta の集団構造と感染生態」Fungal Ecology. ScienceDirect

[倒木リスク・破壊様式・機器診断の限界]

  • Cordin ら(2021)「老齢ブナにおける Kretzschmaria deustaiForest 14: 576-581. iForest
  • Schwarze, Lonsdale & Mattheck(1995)「Ustulina deusta による材腐朽の検出性」European Journal of Forest Pathology 25: 327-341. 抄録
  • Deflorio, Fink & Schwarze(2008)「音響トモグラフィによる初期腐朽の検出」Wood Science and Technology 42: 117-132. ResearchGate
  • Cristini ら(2022)「Kretzschmaria deusta によるブナ材の劣化と曲げ特性」Holzforschung 76(9): 813-824. De Gruyter
  • Cristini ら(2024)「ブナとシナノキの初期腐朽の材料解析」Forest Ecology and Management. ResearchGate
  • 国土交通省「倒木等による事故に関する全国調査」(令和7年4月公表)

[腐朽の進み方・気候ストレス(参考)]

  • Fukasawa ら(2025)「Oak wilt disease may reduce the initial decay rate of dead Quercus serrata stems…」Environmental Microbiology 27: e70026. Wiley東北大学 発表資料
  • Biscogniauxia mediterranea のゲノム解析(オーク炭化病) PMC
  • Luchi ら(2015)「ブナにおける Biscogniauxia nummularia の潜在感染」iForest 9: 49-54. iForest

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