松の伝統技術「短葉仕立て」とは|剪定・芽切り・病害虫管理まで徹底解説

剪定鋏 松の枝 松葉 短葉仕立て

こんばんは。株式会社トシ・ランドスケープの樹木医・中村雅俊です。

先日、泉グリーンサービスの保泉さんより、松の伝統的な剪定技術である「短葉仕立て」について、実地でのご指導をいただきました。
今回はその学びをもとに、短葉仕立ての意味・手入れの時期や方法、松の種類ごとの違い、病害虫対策の重要性まで詳しくご紹介します。

先に答え

  • 短葉仕立てとは、松の新芽(みどり)を一度切ることで、二度目に出る芽(夏芽)を短く整えた仕立て方法です。
  • 作業は年2回で、保泉さんの実地指導で教わった目安では、6月下旬の「芽切り」と、冬〜早春の「本手入れ」を毎年繰り返します。
  • 黒松は樹勢が強く短葉仕立てに適します。赤松・天目松は樹勢がやや弱いため、芽切り時期を2週間ほど早めるなど、慎重な管理が必要だと教わりました。
  • 剪定による負担が大きいため、ディプロディア病・葉ふるい病などの病害虫への対策が成功の鍵になります。

短葉仕立てとは?意味と由来

「短葉仕立て」とは、松の新芽(みどり)を一度切ることで、二度目に出る芽(夏芽)を短く整えた仕立て方法を指します。

正式な技術名称ではなく、市場などで短く整った松葉が「短葉」と呼ばれることから広まった便宜的な呼び名です。
盆栽の世界では「短葉法(たんようほう)」とも呼ばれ、地域や分野によって「芽切り」「もみあげ」「夏芽」など多様な呼称があります。

この手法を施すことで、松の樹形が引き締まり、凛とした佇まいと格調ある美しさを演出できます。


短葉仕立ての基本|年2回の丁寧な剪定作業

① 6月下旬の「芽切り」

春に伸びた新芽(みどり)をすべて切り落とす作業です。これが「芽切り」と呼ばれるもので、松が再度エネルギーを使って新しい芽(夏芽)を出すきっかけとなります。
指導で教わった目安では、約2週間後に芽吹いた夏芽は成長が緩やかで、10月頃には数cm程度の短葉に育ちます。

松 鋏 手入れ 指導 短葉仕立て

松の手入れの指導

② 冬〜早春の「本手入れ」

前年の夏芽から伸びた枝の中で、過剰なものを剪定し、2〜3芽を残すのが「本手入れ」です。
また、古葉の除去もこの時期に行い、全体のバランスや通気性、日当たりを確保します。

この2つの作業を毎年繰り返すことで、松本来の美しさが際立ち、管理された庭や景観に調和する樹形が完成します。

短葉仕立て 黒松 芽切り 夏芽 本手入れ 年間 カレンダー 移植 赤松 時期 図

図: 短葉仕立ての一年の流れ。6月下旬の芽切り、約2週間後の夏芽、冬〜早春の本手入れ(出典: 本記事の実地指導の内容を当社が図にしたもの)


習得には経験と観察力が不可欠

保泉さんからは、「短葉仕立ては特別な才能がなくても習得できるが、剪定の経験と木を読む感性が不可欠」と教わりました。

探求心と丁寧な作業があれば誰でも始められますが、美しい仕立てを生むには“実践量”と“観察力”が求められるのです。
これは一朝一夕で得られるものではなく、日々の現場で培っていく技術だと痛感しました。


移植木の扱いと2段階芽切りという選択肢

短葉仕立てを始めるタイミングにも配慮が必要です。指導で教わった時期の目安は、次のとおりです。

  • 定着した松:晩秋〜翌春に「本手入れ」、6月下旬に「芽切り」

  • 移植されたばかりの松:1年目は4月下旬〜5月上旬に芽切り → 徐々に6月に移行(3年かけて)

また、仕立てをさらに精密にしたい場合は「2段階芽切り」という手法もあります。
これは弱い芽・内側の芽を先に切り、1週間後に強い芽を切るという技術で、芽の成長バランスを均一にする効果があります。

松の状態や種類ごとの芽切りの時期を、指導で教わったとおりに表にすると次のとおりです。

松 芽切りの時期 本手入れ 気をつけること
定着した黒松 6月下旬 晩秋〜翌春 芽切りと本手入れの2つを毎年繰り返す
移植したばかりの松 1年目は4月下旬〜5月上旬、3年かけて6月へ移す 本文では定着した松の時期だけを示している 移植の負担があるうちは早めに切る
赤松・天目松 黒松より2週間ほど早める 本文では定着した松の時期だけを示している 樹勢がやや弱いため、慎重に管理する

出典: 泉グリーンサービス 保泉さんの実地指導(本記事)。行政・研究機関の資料で時期を確かめたものではありません。地域や樹勢、その年の天候で前後します

2段階芽切りの手順は次のとおりです。

  1. 弱い芽と、内側の芽を先に切る
  2. 1週間後に、強い芽を切る

ねらいは、芽の成長のバランスをそろえることです(指導で教わった手順)。


松の種類ごとの仕立て方の違い

短葉仕立てはすべての松に適しているわけではありません。

  • 黒松:樹勢が強く、短葉仕立てに適する

  • 赤松・天目松:樹勢がやや弱いため、芽切り時期を2週間ほど早めるなど、慎重な管理が必要(指導で教わった目安)

木の持つ特性や樹形をしっかり見極め、無理のない管理を心がけることが重要です。


病害虫対策の重要性|ディプロディア病・葉ふるい病に注意

短葉仕立ては、剪定による負担が大きいため、病害虫への対策が成功の鍵となります。葉枯れの病気が出た松は、もともと木が弱っていた可能性があるため、剪定を控えて木の回復を先にすることもあります(京都府の資料)。

特に注意すべき病害:

  • ディプロディア病:枝先の新しい芽や小枝、葉が枯れる

  • 葉ふるい病:古葉が早期に落ち、光合成力が低下

対策として、指導で教わった管理の例は、次のような定期的な薬剤散布です。

  • 春先(芽吹き前):殺菌剤を2週間おきに2回

  • 夏以降:月1回を目安に、殺菌・殺虫・殺ダニ剤を使い分けて散布

特にディプロディア病に対しては、まつに登録のある殺菌剤を、ラベルの使い方に従って使います。

2つの病気を、国内の病名データベースと行政の資料で確かめると次のとおりです。

病名 病原 資料にある主な症状
ディプロディア病 糸状菌 Sphaeropsis sapinea(異名 Diplodia pinea)、クロマツ・アカマツなど二葉・三葉の松に発生 葉枯れ、枝先の枯れ(先端枯れ)、胴枯れ、小枝の枯れ
葉ふるい病 糸状菌 Lophodermium 属(京都府の資料は L. conigenum など) 前年に葉に小さな病斑ができ、翌春以降に広がって葉が枯れ、落ちる

出典: 農研機構 遺伝資源センター「日本植物病名データベース」(ディプロディア病。根拠文献は伊藤一雄「図説林木病害診断法」1961年など)、京都府農林水産技術センター 森林技術センター「樹木の病害虫 マツの葉枯病類」。京都府の資料は、葉枯病類はもともと弱っていた木で出やすいとし、落ちた病葉の処分と、葉枯れが進む春〜秋の銅水和剤の散布を挙げています。薬剤は農薬のラベルに書かれた作物・病害・使い方の範囲で使います


海外での需要と今後の展望

日本国内だけでなく、仕立て松は海外市場でも高い評価を受けています。
特に欧米やアジア圏では、「日本的な美意識」や「和の庭園文化」への関心が高まりつつあり、今後は海外のガーデナーから短葉仕立ての技術指導を求められる場面が増えると感じています。

仕立て松 鉢植え 圃場 松 短葉仕立て

鉢植えの仕立て松


まとめ|短葉仕立ては松の美しさを引き出す“対話”の技術

短葉仕立ては、手間も時間もかかる作業です。
しかしそのぶん、完成した松の姿には他では得られない風格と存在感が宿ります。

木の状態を見極め、細部に心を配り、自然と向き合う対話の中から生まれる技術──
それが短葉仕立てです。

このたび貴重な時間を割き、現場での技術を惜しみなくご指導くださった
株式会社樹楽 小川さん、泉グリーンサービス 保泉さんに、心より御礼申し上げます。

よくある質問

Q1. 短葉仕立てとは何ですか。

松の新芽(みどり)を一度切ることで、二度目に出る芽(夏芽)を短く整えた仕立て方法です。正式な技術名称ではなく、短く整った松葉が「短葉」と呼ばれることから広まった呼び名で、盆栽の世界では「短葉法」とも呼ばれます。

Q2. 芽切りはいつ行いますか。

実地指導で教わった目安では、定着した松は6月下旬に、春に伸びた新芽(みどり)をすべて切り落とします。約2週間後に夏芽が出て、10月頃には数cm程度の短葉に育ちます。移植されたばかりの松は、1年目は4月下旬〜5月上旬に行い、3年かけて6月に移します。

Q3. 本手入れはいつ、何をしますか。

冬〜早春に行います。前年の夏芽から伸びた枝の中で過剰なものを剪定して2〜3芽を残し、古葉も取り除きます。これで、全体のバランスや通気性、日当たりを確保します。定着した松では晩秋〜翌春が目安で、芽切りと本手入れの2つの作業を毎年繰り返します。

Q4. 黒松と赤松では、短葉仕立ての違いはありますか。

黒松は樹勢が強く、短葉仕立てに適します。赤松・天目松は樹勢がやや弱いため、芽切りの時期を2週間ほど早めるなど、慎重な管理が必要だと教わりました。短葉仕立てはすべての松に適しているわけではなく、木の特性や樹形を見極めた無理のない管理が重要です。

Q5. なぜ病害虫対策が重要なのですか。

短葉仕立ては剪定による負担が大きいためです。ディプロディア病は枝先の新しい芽や小枝、葉を枯らし、葉ふるい病は古葉が早く落ちて光合成力が低下します。対策として、春先の芽吹き前に殺菌剤を2週間おきに2回、夏以降は月1回を目安に散布する管理の例を、指導で教わりました。

マンション・施設・行政のご担当者様へ
当社は、年間の植栽管理、樹木診断、高木の剪定・特殊伐採を承っています。管理の進め方や診断の流れは、資料ダウンロードのページでご覧いただけます。ご相談はお問い合わせフォームからお待ちしています。

剪定・伐採と高木管理の記事

当社の剪定・伐採の記録と考え方を、公開の新しい順に並べました。

剪定の考え方・技術

・松の「もみあげ」とは──古い葉を手でむしる冬の手入れ|樹木医が解説
・透かし剪定とは──日本の庭師が「抜いて整える」剪定の考え方|樹木医が解説
・樹木医が製作した樹木模型を使用した剪定の練習
・フジのお話 エスパリエ仕立てでの育て方
・将来を見据えた樹木の管理
・樹木を管理する上での気づき──剪定の切り口が塞がる木、塞がらない木
・Elagage et taille « à la naturelle »
・飛塚製鋏所 飛庄印剪定鋏(TOBISHO)
・渋谷区恵比寿の庭木を自然風剪定で管理 枝を更新して樹木への負担を減らす
・剪定の切る位置はブランチカラー フラッシュカットとスタブカットを避ける、樹木にやさしい剪定
・自然風剪定 剪定をしていないかのような、その樹木らしい枝ぶりを保つ

高木の剪定・管理の記録

・河口湖畔施設 緑地管理業務 山梨県
・センペルセコイア 樹木の名前の意味
・マンションのシンボルツリーのケヤキ剪定 高所作業車が入らない都市部でのロープワーク 渋谷区恵比寿
・スダジイ樹林剪定管理 東京都世田谷区
・丘の上のタブノキ 高木管理とドローン空撮・2回目 神奈川県横浜市
・東京アメリカンクラブ様 桜並木剪定 東京都港区麻布台
・聖公会神学院様 世田谷区用賀
・屋上テラス サクラ剪定 世田谷区
・保存樹木クスノキ 剪定作業 板橋区
・2021年 年末の手入れ作業
・東京アメリカンクラブ様 エントランス高木剪定 港区麻布台
・渋谷区恵比寿の個人邸 高木のサクラをロープワークで剪定──屋根に張り出した枝の吊り下ろしと、樹上と地上をつなぐ Bluetooth
・仕立て松の手入れ
・サクラ 枯れ枝除去作業 東京都世田谷区
・丘の上のタブノキ 剪定管理とドローンによる調査 神奈川県横浜市
・千代田区・登録有形文化財邸宅 クスノキ高木剪定
・樹木医診断 高木タブノキ 神奈川県横浜市
・空き家の庭木管理のご相談の増加
・ケヤキの透かし剪定のビフォーアフター 不定根を誘導した木を、高所作業車の入らない道路で手入れ 杉並区永福
・ユリノキ(約30m)の枯枝・忌み枝の剪定 高圧電線に近い枝をロープワークで安全に 樹木医

伐採・特殊伐採の記録

・世田谷区個人邸 老木スダジイの伐採
・橋脚沿い特殊伐採 埼玉県秩父市
・埼玉県秩父市 特殊伐採
・樹木医 別荘地・樹木伐採 静岡県熱海市
・埼玉県秩父市 法面特殊伐採・樹木医チーム
・マンション ケヤキ 伐採工事 東京都大田区
・送電線下樹木管理 埼玉県
・学校施設内 高木特殊伐採 東京都
・店舗前高木エノキ伐採 渋谷区神宮前
・幼稚園 渋谷区保存樹木・ケヤキ伐採 こどもたちの職業体験
・夏ミカン伐採伐根~タイル復旧工事
・大田区マンション 特殊伐採
・Chantier d’abattage par démontage d’un camphrier chez un particulier
・武蔵野市・個人邸 クスノキ伐採作業

「高木・特殊伐採&ケーブリング」のサービス内容と、ご相談の窓口であるお問い合わせのページはこちらです。

人気の記事
最新の記事
おすすめ記事
  1. 登録されている記事はございません。
  1. ファコップ Fakopp アーボソニック3D 樹木診断機器 メーカー ハンガリー ショプロン 樹木医

    ファコップ社とは──アーボソニック3Dをつくるハンガリー・ショプロンの樹木診断機器メーカーと、製品の全体像を樹木医が解説

  2. マンション 植栽 コンサルティング 流れ 管理組合 理事会 樹木医 中庭 ケヤキ

    マンションの植栽コンサルティングは、どう進むのか──管理組合と樹木医が歩く8つの段階と、3つの入口

  3. 巨木 御神木 大径木 樹木診断 樹木医

    日本人は子どものころから御神木に特別な思いを持っているのか 御神木・霊木と日本人の関係、歴史、文化を樹木医がたどる

  4. ハーネス 各部の名前 ウエストベルト レッグループ アタッチメントブリッジ リング サイドD環 ギアループ アーボリスト イラスト

    ハーネス ― 各部の名前と役割|アーボリストの基礎 第4回

  5. 3級造園技能士 実技試験 竹垣 縁石 敷石 植栽 模式図

    3級造園技能士の試験 竹垣・縁石・敷石の実技と樹種判定60種、学科の範囲を1級の樹木医が解説

  6. 2級造園技能士 実技試験 四つ目垣 縁石 飛石 敷石 築山 模式図

    2級造園技能士の試験 四つ目垣・縁石・築山の実技と樹種判定115種、学科の範囲を1級の樹木医が解説

  7. 1級造園技能士 実技試験 竹垣 蹲踞 延段 施工図 模式図

    1級造園技能士の試験 竹垣・蹲踞・延段の実技と樹種判定161種、学科の範囲を1級の樹木医が解説

  8. 造園施工管理技士 1級 2級 試験 造園工事 施工管理 樹木医

    造園施工管理技士とは 1級・2級の試験と合格率、取得のメリットを造園会社の樹木医が解説

  9. トロント大学 ゲスト講義 御神木 注連縄 都市の樹木保全 アーボリスト

    トロント大学の都市林業の授業で、当社の笠原がゲスト講義 御神木と都市の樹木保全を、AI通訳で海外の学生へ

  10. 樹木医 管理組合 報告書 樹木診断 マンション

    ISA・TCIA・英国AAとは──海外のアーボリスト団体と日本の樹木医制度を、樹木医が比べる

  1. 登録されている記事はございません。

関連記事