2年前の2019年6月に剪定と合わせて、樹木医による樹勢回復治療を行ったケヤキのメンテナンスを行いました。
杉並区永福のケヤキで、葉を落とした2021年の冬に透かし剪定を行いました。同じ場所から撮った前と後の写真で、枝の重なり方と空の透け方の違いがよく分かる、ケヤキの冬の透かし剪定のわかりやすい例です。あわせて、2019年に幹から出ていた不定根を地中へ誘導した治療の、その後の経過も書きます。
この1本のケヤキには、記事が3つあります。2019年の不定根を誘導する治療、同じ年の葉のある時期に行った透かし剪定、そして2年後の冬の手入れを記録したこの記事です。
先に答え
- 葉を落とした冬は、枝の1本1本と分かれ目が見えるため、込み合った枝を付け根から抜く透かし剪定に向く時期です。東京都の街路樹の計画書も、ケヤキの剪定時期を冬期(12月〜2月頃)としています。
- このケヤキでは、剪定の後に枝先の重なりが減って枝の間から空が透け、幹から分かれて伸びる太い枝の形が見えるようになりました。樹冠の外形とおおよその大きさは前後で変わっていません。
- 高所作業車を置けない場所のため、ロープワーク・ツリークライミングで樹上に登って作業しました。
- 2019年の治療で資材を詰めて巻いた養生部は、2021年は開かずに残し、2023年の作業で開くと、直径1cmほどの細い不定根が3本、地面まで届いていました。不定根を育てる治療は、3〜5年程度の長い目で見るものです。
冬の透かし剪定の前と後──3つの向きから見たケヤキ
2021年の作業の前と後を、3つの場所から撮りました。どの組写真も、左が剪定の前、右が後です。撮った位置や日の当たり方は前後で少しずつ違いますが、枝の込み具合の違いははっきり見て取れます。
交差点の手前から

交差点の手前から見た剪定の前(左)と後(右)。2021年、葉を落とした冬の作業
- 前は、樹冠の外側で細い枝先が幾重にも重なり、樹冠の縁がかすんで見えます。後は枝先の重なりが減り、1本1本の枝の線をたどれます。
- 後は、幹から上へ分かれていく太い枝(木の骨格になる枝)の形が、樹冠の下のほうまで見えるようになりました。
- 丸みのある樹冠の外形と、おおよその大きさは前後で変わっていません。
- 幹の下のほうには、横に紐をかけて資材を巻いた部分が、前後どちらの写真にも写っています。2019年の治療で巻いた不定根の養生部です(下の章で書きます)。
反対側の道から見上げて

反対側の道から見上げた剪定の前(左)と後(右)
- 前は、樹冠の中ほどから上が細い枝で埋まり、向こうの空が細かく区切られています。後は内側の枝が減り、枝と枝の間に空が大きく抜けています。
- 後の写真では、幹が分かれてから枝先へ扇のように広がっていく形が、下から上までつながって見えます。
電線の下から見上げて

電線の下から見上げた剪定の前(左)と後(右)
- 前は、枝が重なり合って、樹冠全体が黒っぽいひとつの塊に見えます。後は枝の間に空がのぞき、主な枝がどこで分かれているかを見分けられます。
- 後の写真は日が当たって明るく写っているので、その分は差し引いて見比べる必要があります。それでも、枝の重なりが減ったことは見て取れます。
木の形はそのままに、中の枝の重なりだけを減らす。葉のある時期には葉に隠れて分かりにくいこの違いが、冬の写真でははっきり出ます。当社では、このケヤキをケヤキの透かし剪定のわかりやすい例と考えています。2年前の2019年に葉のある時期に行った剪定の前後は、ケヤキの透かし剪定のビフォーアフターで紹介しています。
なぜ葉を落とした冬に透かすのか
今回は前回と同じく枝の透かしを中心とした自然風剪定を行いました。
令和3年12月の東京都建設局「街路樹維持管理計画書」では、剪定のダメージを最小限にとどめるために、基本の剪定(冬期剪定)を樹木の休眠期である晩秋〜早春に行うとしています。ケヤキの項の剪定時期は「冬期:12月~2月頃」で、樹冠の内側で混んだ枝を整理し、緑陰を残すために切りすぎず、切り詰めずに枝抜きや切返しで仕上げることが原則として書かれています。
庭師・植木屋が「透かし」と呼ぶ作業は、東京都の「街路樹等維持標準仕様書 緑地管理編」でいう枝抜き剪定にあたります。仕様書は枝抜き剪定を「込み過ぎた部分の中すかし及び樹冠の形姿構成上、不必要な枝(冗枝)等をその付け根から切り取ること」としています。枝の途中で切るのではなく、付け根から抜くので、木の骨格と外形が残ります(切り方は枝抜き剪定とは、考え方は透かし剪定とは)。

葉を落とした冬のケヤキ(図)。枝先から分かれ目までをたどれるので、どこで切るかを1本ずつ決められる。破線は切る位置の例
現場での経験から、葉のない冬は、枝の付け根や分かれ目、内側へ向かう枝や交差する枝が、地上からも樹上からもよく見えます。どの枝を抜けば重なりがほどけるかを、目で確かめながら選べるのが冬の剪定の良さです。葉のある時期は、切った後の姿を葉の量から想像しながら進めることになります。透かす深さの段階は大透かし・中透かし・小透かしとはで図にしています。
樹木にとってもストレスの少ない剪定を行う事で不自然な徒長枝などが発生しにくく、樹形が崩れにくく美しい景観が維持出来るメリットがあります。
2019年の剪定は、諸事情により葉のある時期の作業となり、透かしと、支障になる枝の処理にとどめました。2年後のこの回は、ケヤキの剪定の基本の時期である冬の作業です。
この大きさを保つための手入れ
このケヤキも含めて都内の限られた環境の中でこれだけの樹冠サイズで維持していくとなると、今回の下記対策のような問題に対応していく必要があります。
- 下枝へトラックなどの接触
- 近隣住宅への枝の接触
- 枯枝落枝の危険、落ち葉問題
写真を見ると、このケヤキは交差点の角に立ち、すぐ脇を電柱と電線が通り、生垣と住宅に囲まれています。木を大きく縮めるのではなく、今の大きさのまま、枝が込み合わないように付き合っていく木です。
当社の剪定の図解では、剪定の目的を「育てる・保つ・縮める・作り直す」の4つに分けて説明しています(剪定の目的で、仕上がりは変わる)。このケヤキは、そのうちの「保つ」手入れにあたります。

保つ手入れ(図)。左は枝先が外形(点線)からはみ出し、込み合った木。右は長い枝先を内側の短い枝に切り替えて、外形の内側に収めた姿
2021年の作業は透かしが中心で、外形を縮める切り方を主にした回ではありません。それでも、樹冠の大きさを保ちながら中の枝の密度を整えるという考え方は、図の「保つ」手入れと同じです。長い枝先を分かれ目で短い枝に替える「切り替え」は透かし剪定をもう一歩深く、切り方は切り戻し剪定とはで図にしています。

左は手入れの前、中は手入れの直後、右は1年後(図)。伸びた枝先が、目標の外形まで戻ってくる
剪定した木は、次の手入れまでの間にまた枝を伸ばします。現場での経験から、保つ手入れでは、次の回までに伸びる分を見込んで、今回どこまで戻すかを決めます。このケヤキには、2019年、2021年、2023年と、2年ごとに作業に入っています。強い切り詰めを繰り返した都市の高木がどうなっていくかは、都市の高木は、なぜ手入れできなくなるのかで詳しく取り上げています。
高所作業車が入らない場所で──ロープワークとツリークライミング
高所作業車の設置が難しい環境下でしたので、ロープワーク・ツリークライミングによる登り込みでの作業にて対応致しました。

葉を落としたケヤキの樹上で、2人が作業する。左には電柱と電線が通る

樹冠の上のほうで、ロープで体を確保して枝を選ぶ

幹の分かれ目から見上げた太い枝と、枝に掛けたロープ

道沿いの高い生垣の上で、樹上の作業員が枝を切る
登り込みの良さは、地上からは届かない樹冠の内側に体を置けることです。枝の付け根を手の届く距離で見ながら、抜く枝と残す枝を1本ずつ決められます。高所作業車が入れない場所でのケヤキの剪定は、恵比寿のマンションのシンボルツリーのケヤキや、豊川稲荷・東京別院様のケヤキでも紹介しています。
不定根発根治療のその後
2019年に行った治療
2年前に行った具体的な樹勢回復の施工内容としては下記の内容になります。
- 不定根発根治療
- 土壌改良
不定根発根治療とは
幹から出てきている不定根を地中まで誘導する処置をしています。誘導する為にピートモスなど自然素材の資材をブレンドしたものを、根元や幹の空洞部分に充填していきます。


詰める資材を、2人でバケツに入れて根元へ運ぶ(2019年)

コンテナの資材を、手で根元の空洞へ詰める(2019年)

資材を詰めた後、幹の下のほうを資材で巻いて養生した(2019年)
不定根は、根以外の幹や枝などから二次的にできる根のことです。東京都建設局の令和3年度「街路樹診断等マニュアル」では、用語集で、ケヤキ、イチョウ、サクラなどは幹の腐朽箇所から不定根がよく発達すると説明しています。国土技術政策総合研究所(国総研)の「街路樹再生の手引き」は、幹から出た不定根を育てて土壌まで導く処置を「不定根育成」として載せています。言葉の定義と国の手引きの方法、全国の事例の集計は、同じケヤキの2019年の剪定の記事にまとめました。
2年後の幹──養生部は開かずに見守る
交差点の手前から撮った2021年の前後の写真には、幹の下のほうに、2019年に巻いた資材がそのまま写っています。不定根が育っている途中の部分なので、この回は開かずに残しました。
不定根を育てる治療は、すぐに結果が見えるものではありません。街路樹再生の手引きでは、不定根育成の効果が現れるまでを「長期」に分類し、その目安を3〜5年程度としています。不定根が育つまでの長い間、管理を続ける必要があることにも触れています。治療から2年の2021年は、その途中にあたります。
同じ手引きは、空洞や腐朽部の処置について、腐朽部の湿度が高くなって腐朽の進行を促すことがないよう注意する、とも書いています。資材で覆った部分は、ただ覆ったままにせず、時期を決めて開き、発根の状況などを確かめる。2021年の時点で、次の作業でそれを行う予定を立てていました。
2023年、養生部を開いて確かめたこと
2021年2月の時点では、「次回の2年後の2023年の作業の際には、不定根発根の施工養生部位を開いて、発根状況などの確認を行う予定です。」と書いていました。
予定どおり、2023年の作業で養生部を開くと、直径1cmほどの細い不定根が3本、地面まで届いていました。

所有者様がとても大切にしてらっしゃるこのケヤキを、今後もプロとして最善の手段でサポート、維持管理させて頂きたく思います。
ご依頼頂きありがとうございました。
よくある質問
Q1. ケヤキの透かし剪定は、冬と夏のどちらに行うのがよいですか?
基本は葉を落とした冬です。東京都の街路樹維持管理計画書では、ケヤキの剪定の時期を冬期(12月〜2月頃)としており、葉を茂らせる時期の剪定は強く行わず、必要最低限にとどめるとしています。現場での経験から、冬は枝の付け根や分かれ目が見えるため、抜く枝を選びやすい時期でもあります。
Q2. 冬に透かし剪定をすると、ケヤキの見た目はどう変わりますか?
樹冠の外形を大きく変えずに、枝先の重なりが減り、枝の間から空が透けて見えるようになります。杉並区永福のケヤキでは、剪定の後に、幹から上へ分かれていく太い枝の形が、樹冠の下のほうまで見えるようになりました。
Q3. 高所作業車を置けない場所の高木は、どのように剪定しますか?
ロープワーク・ツリークライミングで樹上に登り、ロープで体を確保して剪定します。このケヤキは高所作業車の設置が難しい環境のため、2019年も2021年も登り込みで作業しました。樹上からは、枝の付け根を間近に見ながら抜く枝を選べます。
Q4. 不定根発根治療(不定根誘導)の効果は、どのくらいで分かりますか?
数年単位の時間がかかります。国土技術政策総合研究所の「街路樹再生の手引き」では、不定根育成の効果が現れるまでを「長期」に分類し、3〜5年程度を目安としています。このケヤキでは、2019年の治療の後、2021年は養生部を開かずに見守り、2023年の作業で開いて発根の状況を確かめました。
Q5. 不定根誘導の養生部は、いつ開いて確かめるのですか?
当社では、時期を決めて養生部を開き、発根の状況などを確かめています。このケヤキでは、治療から2年後の2021年は開かずに剪定を行い、2023年の作業で開きました。国の手引きは、不定根が成長するまでの長い期間の管理が必要なことと、腐朽部の湿度が高くなって腐朽を進めないよう注意することを挙げています。
出典・参考情報
・東京都建設局公園緑地部「街路樹維持管理計画書」(令和3年12月)p.1(基本剪定〈冬期剪定〉と軽剪定〈夏期剪定〉)、p.32〜33(ケヤキの剪定時期・剪定の要点・剪定の原則)
・東京都建設局「街路樹等維持標準仕様書 緑地管理編」(平成25年4月)p.8(枝抜き剪定)
・東京都建設局「令和三年度 街路樹診断等マニュアル」第Ⅶ章 参考資料 6 用語集 p.120(不定根)
・国土交通省 国土技術政策総合研究所「街路樹再生の手引き」(国総研資料 第885号、平成28年3月)1-52 表-3.18(効果の発現時期)、1-106(空洞・腐朽部の処置の留意点)、1-107(不定根育成)
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
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・港区赤坂 豊川稲荷・東京別院様 ケヤキなどの高木剪定
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