事務所の中に、一本の木が立っています。
幹は丸太杭、枝は竹、葉のかわりにプラスチック樹脂製のフェイクモスをまとわせています。株式会社明日檜の畑山樹木医がつくってくださった、剪定の練習のための樹木模型です。
一度落とした枝は、二度と戻らない
生きている樹木に対して、剪定はやり直しがききません。一度落とした枝は、二度と戻らないのです。
接ぎ木でつなぐことも、貼り直すこともできない。だからこそ若手には、鋏を入れる前に、剪定した後の樹形をはっきりと思い描いてほしいと思っています。さらにその先、来年・再来年に枝がどう伸びていくのか。その未来までイメージしたうえで、最初の一枝を選んでほしいのです。
剪定とは、いま目の前の枝を切る作業のようでいて、じつは数年先の樹の姿を決める仕事です。
- 事務所に立つ剪定練習用の樹木模型
- 枝を指して剪定を考える
- 模型を囲んでの検討
「枝を読む」という、剪定で最初に時間をかけるところ
どの枝が樹の骨格を担っているのか。どこが混み合い、風や光の通り道をふさいでいるのか。光をどうやって樹冠の奥まで届けるのか。
これを見極めることを、私たちは「枝を読む」と呼んでいます。
生きた樹を相手にすると、読みを誤ればそのまま傷として残ります。けれど模型であれば、その読みを何度でも繰り返せる。同じ枝の前で立ち止まり、考え、やり直す、その時間をたっぷりとれることが、この模型の何よりの価値です。
「ここを抜いたら、樹はどうなるか」を語り合う
この日は、枝先のひとつひとつを指でたどりながら、「ここを抜いたら、樹はどういう形になるか」を若手と語り合いました。
正解をひとつに決めるための時間ではありません。生きた樹ではけっして許されない試行錯誤を、むしろ楽しむための時間です。「こっちを残すと、来年こう伸びますよね」「いや、ここを抜いたほうが懐に光が入る」、そんなやりとりが、自然と生まれていきます。
手を動かす前に、まず眼を育てる。その時間を、こうして社内でつくれることのありがたさを、あらためて感じた一日でした。
- 枝先をたどりながら話し合う
- 枝の混み具合を確かめる
- 丸太杭の幹とフェイクモスの枝葉
道具の前に、眼。眼の前に、樹への敬意
剪定の技術というと、ハサミやノコギリの使い方を思い浮かべる方が多いかもしれません。けれど私たちが若手に最初に伝えたいのは、道具のことではありません。
道具の前に、眼。眼の前に、樹木への敬意。
これから造園の世界を目指す方にも、知っておいていただきたいことがあります。樹を切る仕事は、樹を生かす仕事でもあるということです。一本の樹とどう向き合うか——その姿勢こそが、何十年と残る樹形をつくっていきます。
すばらしい剪定練習の場をつくってくださった畑山樹木医の手仕事に、心より感謝申し上げます。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
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