樹木模擬診断研修会を終えて 人の眼 × 機械の眼が拓く、新しい都市樹木管理のかたち

今回の「樹木模擬診断研修会」は、最新機器のデモンストレーションではなく、“人の眼”と“機械の眼”を擦り合わせることで樹木診断の解像度を高めるという明確な理念のもとに実施されました。

機器活用の知識を増やすだけでなく、専門家と市民、現場と研究をつなぎ、樹木をめぐる課題を社会と共有するための学びの場であったことが、終始一貫して伝わってきました。

とりわけ裏テーマとして掲げられた
「専門家の眼」と「一般の方の眼」を合わせる
という視点は、近年の都市樹木管理の社会的要請を象徴するキーワードであり、樹木医として強く共感を覚えました。


なぜ今、“共通理解”が必要なのか——近年の樹木を取り巻く問題点

近年、日本の樹木を取り巻く環境は大きく変化しています。

  • 都市樹木の一斉老齢化(高度経済成長期〜昭和植栽木が40〜60年の節目)

  • ナラ枯れ・松枯れをはじめとする樹病の全国的拡大

  • 豪雨・強風・猛暑など極端気象の増加によるリスクの顕在化

  • 樹木管理予算の縮減による診断・更新の遅れ

  • 専門人材(樹木医・クライマー)の不足

こうした複合的な問題が重なり、外観だけではリスクを捉えきれない木が増えているのが現状です。

だからこそ、「機械による可視化」と「人の感覚・経験」が対立するのではなく、補完し合う未来型の診断体制が求められています。

今回の研修は、その重要性を可視化する“モデルケース”でもありました。


各種診断機器の理解と役割——範囲が違うからこそ、組み合わせに価値が生まれる

地中レーダー(ツリーレーダーを含む)——地中の“見えない世界”を読む

地中レーダーは、根系の位置・深さ・伸長方向・更新状況、さらには地中空洞の兆候まで非破壊で読み取れる技術です。
都市部の倒木リスク評価において極めて重要で、後続の精密診断の質を左右します。

応用地質様の「ツリーレーダー」は、

  1. 外観観察

  2. レーダーによる簡易診断

  3. 必要木のみ精密機器診断

という効率的な運用モデルを採用しており、大規模施設・街路樹管理において高い価値を発揮します。


音波診断(アーボソニック3Dとピカス)の違いと補完関係

同じ「音波トモグラフィ」であっても、特徴は異なります。

アーボソニック3D

多点センサーを用いた高精度の応力波解析により、内部構造を2Dだけでなく3D的に把握できます。
巨樹・文化財樹木など、精度が重視される場面に適しています。

ピカス(PiCUS)

断層画像が色で表示され説明性が高く、不整形断面の木でも解析しやすい特長があります。
Sonic(音波)とTreeTronic(電気抵抗)を組み合わせることで、

  • 初期腐朽の検出

  • 湿潤腐朽か空洞かの判別

  • 一見健全でも内部劣化が進んだ木の把握が可能になります。


レジ(RESI-PD / 貫入抵抗測定)——ピンポイントで“確証”を得る技術

微細な錐の貫入抵抗を読み取ることで、腐朽の進行度や健全部の残存率をミリ単位で把握できます。
音波診断で抽出した弱部の「確証フェーズ」として非常に重要な役割を担います。


機器は判断を“決める”のではなく、“支える”もの

研修を通じて改めて感じたのは、
最終判断はあくまで樹木医の統合的な視点で行うものだという原則です。

  • 視診・触診

  • 樹種特性

  • 環境条件

  • 管理履歴

  • 利用状況

  • 現場感覚

  • そして機器データ

これらすべてを束ねて初めて、樹木のリスクと未来像が立体的に見えてきます。

ハイテクであっても“人の眼”は欠かせず、
アナログであっても“科学的根拠”は必要です。
その両輪こそが、これからの都市樹木管理を支える基盤になると確信しました。


「樹木 × 人 × 都市」の未来へ——共感と科学でつくる新しい樹木文化

マメシバ造園様が紹介された
《Office By-you(台湾)》
《Dancing Trees, Singing Birds(東京)》
といった事例は、樹木が単に“管理すべき対象”ではなく、
人の身体感覚・心理的安心・コミュニティ形成に寄与する存在へと進化していることを示唆していました。

また、クライマーが樹上で感じる
「揺れ」「怖さ」「違和感」
といった主観的体感を数値化し、診断に取り入れようとする試みも非常に示唆的でした。

これは、樹木医の専門領域が
“科学診断 × 人の感性”へと広がっていく未来の兆しであると感じています。


多分野とつながる樹木医へ——都市の安全と文化を支える存在として

都市樹木が果たす役割は、安全管理だけではありません。

  • 地域文化の継承

  • 景観の価値形成

  • 心理的・社会的な豊かさ

  • 都市環境の質向上(温熱環境・生態系)

これらすべてに関わる存在であり、樹木医には
科学・市民参加・造園・建築・地質・行政・教育との協働
が求められています。

今回の研修は、その未来像への実践的な一歩でした。


感謝の気持ちを込めて

技術提供者、参加者、市民の視点が自然に交わる、とても豊かで魅力的な場でした。
企画設計、CPD調整、会場環境に至るまで、細やかなご配慮に深く感謝申し上げます。

河合菜採さん(マメシバ造園)
樹木医・クライマー・研究者・市民の距離を近づける場を、情熱と愛情をもって継続的につくり続ける姿勢に、心から敬意を抱いております。

私たちも今回の学びを現場へ還元し、
都市と人と樹木の未来をより良い方向へつなげていくことをお約束いたします。

貴重な機会をいただき、本当にありがとうございました。


株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医・街路樹診断士 中村雅俊

弊社ウェブサイト内にも樹木医診断や過去の事例について
詳しく情報を公開しています。
コンサルティング業務・樹木医診断・治療 施工実績一例をご紹介いたします。

・枯死後のナラ枯れ木が抱える見えない危険  倒木リスクの科学的検証と、これからの管理のあり方
・樹木医学会 第30回大会 参加報告 都市樹木管理の未来を考える
・「大型化・老木化」時代の樹木医・街路樹診断士による東京型・街路樹や公園樹木のマネジメント
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