林野庁によると、全国のナラ枯れ被害の量は平成22(2010)年度をピークにいったん減りましたが、令和2(2020)年度に再び増え、令和7(2025)年度は21.2万m3(前年度比113%)、44都道府県で被害が出ています。
現場での経験から、枯死から2〜3年たった木では、外観は立木の形を保っていても、幹や枝が自立できないほど強度を失っている例が増えていると感じています。千葉県のマテバシイ林の調査でも、枯れて2〜3年で枝が落下し、3〜5年後に幹折れが一気に生じ、倒伏したものもありました。こうした木は、強風などの荷重や振動で倒れたり、枝が折れたりするおそれがあり、現場では深刻な危険として受け止められつつあると感じています。

先に答え
- ナラ枯れは、カシノナガキクイムシがナラ菌をブナ科の木に持ち込んで起きる樹病です。病名は「ブナ科樹木萎凋病」です。
- 枯れた木は、外観は立木の形を保っていても、内部の腐朽が進んで幹や枝が自立できないほど強度を失うことがあります。現場での経験から、枯死から2〜3年経った木でこうした例が増えていると感じています。
- 千葉県農林水産技術会議の技術指導資料(令和6年3月、鴨川市のマテバシイ林)では、枯れると翌年に葉が落ち、2〜3年で枝が落下し、3〜5年後に幹折れが一気に生じて、倒伏したものもありました。
- 当社では、レジ(Resi PD)、アーボソニック3D、チルホールによる引っ張り強度試験を組み合わせて内部の実態を調べ、緊急対応が必要な木と、監視を続けて推移を見る木を選別しています。
よくある質問
Q1. ナラ枯れとは何ですか。
病名は「ブナ科樹木萎凋病」で、ブナ科の木に発生する樹病です。カシノナガキクイムシがナラ菌を木の内部に持ち込むことで発生し、夏に急に葉の色が変わったり落葉したりして、そのまま枯れる場合もあります(千葉県の技術指導資料、令和6年3月)。
Q2. 枯れたナラ枯れの木は、なぜ危険なのですか。
内部の腐朽が進み、外観は立木の形でも幹や枝が自立できないほど強度を失うことがあるためです。千葉県の技術指導資料(令和6年3月)のマテバシイ林では、枯れて2〜3年で枝が落下し、3〜5年後に幹折れが一気に生じ、倒伏したものもありました。
Q3. ナラ枯れの木の伐採は、なぜ危険なのですか。
高所作業車が入れない急斜面や建物の近くでは、ロープワークで登って伐採することがあります。枯死後数年たった木では、登った瞬間に幹が大きく揺れたり、枝降ろしや断幹で荷重をかけた枝や幹が破断したりすることも珍しくなく、ロープワークだけでは対応しきれない木もあります。
Q4. 倒木リスクは、どのように調べるのですか。
当社の樹木医兼街路樹・都市樹木診断士3名が、レジ(Resi PD)による穿孔抵抗測定、アーボソニック3Dによる音波伝導解析、チルホールによる引っ張り強度試験を組み合わせています。診断データと耐力の実測値を照らし合わせ、外観だけでは分からない内部の実態を確かめます。
Q5. 枯れたナラ枯れの木には、どう対応するのですか。
千葉県の技術指導資料では、人通りの多い公園や街路樹、学校やインフラ沿いでは、枯死木を速やかに伐採・除去することが望ましいとされています。当社では診断をもとに、緊急対応が必要な木、監視を続けて推移を見る木を選別し、伐採後の植栽計画まで考えます。
Q6. ナラ枯れになりやすい木は何ですか。
ミズナラとコナラが代表です。新版 ナラ枯れ被害対策マニュアル(令和8年3月)によると、ミズナラは林の約5割、場合によってはほぼすべてが枯れることもあり、コナラは林のごく一部から約5割が枯れます。シイ・カシ類は部分的な枯れが多く、林全体の枯死率は多くの場合1割以下です。胸高直径20cm以上の木では9〜10割が穿入を受けていたという報告もあります。
Q7. ナラ枯れのフラスとは何ですか。
カシノナガキクイムシが幹に穴を掘るときに出る、木くずと糞の混ざったものです。新版 ナラ枯れ被害対策マニュアルによると、穿孔の初期は繊維状、中期は団粒状、後期は粉状になります。根元のフラスと、直径1.4〜1.8mmの穿入孔が、ナラ枯れを見分ける手がかりになります。
Q8. ナラ枯れの被害は、いつ起こりますか。
夏です。カシノナガキクイムシの成虫は5月頃から木を出て、6〜9月に生きた木に穿孔し、とくに7〜8月に多くなります。蒸散の多い梅雨明け後に木が急に萎れ、7〜9月に葉が赤褐色に変わります。林野庁は、多くのナラが7月下旬から8月中旬にかけて変色するとしています。
Q9. ナラ枯れで枯れた木は、何年で折れたり倒れたりしますか。
富山県森林研究所の研究レポート No.10(2015年)では、枯れて1〜2年で大枝と幹だけの木が現れ、主幹の折れは早ければ2年後から、根元からの転倒は4〜6年後から見られました。千葉県のマテバシイ林では、3〜5年後に幹折れが一気に生じています。地域と樹種によって年数に幅があります。
Q10. カシノナガキクイムシに穴をあけられても、枯れない木はありますか。
あります。穿孔が少なく水の通り道が保たれた木は枯れずに残り、穿入生存木と呼ばれます。富山県の調査では、続けて穿入を受けて2年目以降の木は、同じくらい穿入されていても枯れにくくなっていました。ただし、都立公園の報告では、生き残った木の幹や根元に木材腐朽菌の子実体が出ている例もあり、倒れる危険は別に確かめる必要があります。
Q11. ナラ枯れは予防できますか。
予防の手法はありますが、限界もあります。幹をビニールシートなどで覆う方法は、覆った部分では穿孔を防ぐ効果が認められる一方、覆いきれない上部や地際からの穿孔は防げません。殺菌剤の樹幹注入には、なら類の萎凋病に登録のある薬剤があります。新版 ナラ枯れ被害対策マニュアルは、すべての被害を完全に防ぐことは難しいとしています。
Q12. ナラ枯れで枯れた木は、いつまでに伐るべきですか。
人が通る場所では、枯れてから2年以内が一つの目安です。富山県の調査は樹下の安全を考えると2年以内の伐倒が望ましいとし、新版 ナラ枯れ被害対策マニュアルも、人の往来がある場所の枯死木は被害後2年以内に除くよう求めています。一方で、6〜9月の伐倒は周りのカシナガを呼び寄せるおそれがあるため避けます。

枯死木にアーボソニック3Dのセンサーを付けて測る
ナラ枯れとは──枯れる仕組み、なりやすい木、見分け方
枯れた後の危険を考える前に、ナラ枯れの要点を整理しておきます。枯れた後に根元を腐らせる菌の話は「ナラ枯れの枯死木はなぜ突然倒れるのか オオミコブタケと倒木リスクを樹木医が考察しました」に書きました。
なぜ夏に一気に枯れるのか──集中加害と水の通り道
病原体はナラ菌(Raffaelea quercivora)、運ぶのは体長約5mmの甲虫カシノナガキクイムシ(以下、カシナガ)です。メスはマイカンギア(菌のう)という器官にナラ菌を持ち、穿孔するときに木の中へ持ち込みます。オスが穿孔のときにフラスに付ける集合フェロモン(主な成分はケルキボロール)とナラ類から出る匂いに誘われて、数百〜数千頭が1本の木に集まることがあり、これを集中加害(マスアタック)と呼びます。ナラ菌が辺材の道管のまわりの細胞を壊死させ、穿孔で道管も壊れるため、蒸散の多い梅雨明け後の7〜8月に水が葉まで届かなくなり、木は急に萎れて枯れます。
穿孔が少なく水の通り道が保たれた木は枯れずに残り、「穿入生存木」と呼ばれます(日本森林技術協会「新版 ナラ枯れ被害対策マニュアル」令和8年3月、p.5〜7。以下、新版マニュアル)。富山県森林研究所の調査では、続けて穿入を受けて2年目以降の木は、同じくらい穿入されていても枯れにくく、その木から翌年に出てくるカシナガもほとんどいませんでした(研究レポート No.10、2015年3月)。
ナラ枯れになりやすい木──樹種と太さ
新版マニュアルには、ナラ枯れが報告されている主要な樹種として、コナラ属・クリ属・シイ属・マテバシイ属の19種が挙がり、被害の出方は樹種で大きく違います。
| 樹種 | 被害の程度(新版マニュアル) | 富山県の調査区の枯死率 |
|---|---|---|
| ミズナラ | 最も激しくなりやすく、林の約5割、場合によってはほぼすべてが枯れることもある | 79% |
| コナラ | 林のごく一部から約5割が枯れる | 36% |
| シイ・カシ類 | 部分的な枯れが多く、林全体の枯死率は多くの場合1割以下 | 対象外 |
| マテバシイ | 2割程度枯れる場合がある | 対象外 |
(出典: 新版マニュアル p.8、富山県森林研究所 研究レポート No.10 p.7。富山県の値は、被害が続いた期間を通しての胸高直径5cm以上の木の枯死率)
太さも関わります。楠本ら(2023、日本森林学会誌)は、被害が収まった時点で、胸高直径10cm未満の木はほとんど無被害だったのに対し、20cm以上では9〜10割が穿入を受けていたと報告しています。
ナラ枯れの見分け方と時期──葉の色・フラス・穿入孔
新版マニュアル(p.16〜17)が挙げる手がかりは、紅葉より早い夏に葉が赤褐色に変わること、根元のフラス(木くずと糞の混ざったもの。穿孔の初期は繊維状、中期は団粒状、後期は粉状)、そして直径1.4〜1.8mmの穿入孔です。
| 時期 | カシナガと木の動き |
|---|---|
| 5月頃から | 木の中で冬を越した幼虫が成虫になり、出ていく(ピークは6〜7月) |
| 6〜9月 | 生きた木に穿孔する、とくに多いのは7〜8月 |
| 7〜9月 | 葉が赤褐色に変わる、林野庁は多くのナラが7月下旬から8月中旬に変色するとしている |
| 秋〜冬 | 多くの幼虫が木の中で冬を越す |
(出典: 新版マニュアル p.3・5〜6、林野庁「ナラ枯れ被害について」)
高まる伐採現場のリスク——“登った瞬間に揺れる木”が増えている
高所作業車が入れない急斜面・雑木林・建物近接地などでは、クライマーがツリークライミング・ロープワークで登り込みながら伐採を行うことがあります。
しかし、枯死後数年を経たナラ枯れ木は、登った瞬間に幹が大きく揺れたり、枝降ろしや断幹などによって荷重や衝撃をかけた枝や幹が破断することも珍しくありません。
ロープワークによる安全確保だけでは対応しきれないほど弱っている木も多く、現場での経験から、
ナラ枯れの枯死木の伐採は、特に危険度の高い作業
だと感じています。
国の資料が示す、枯れた広葉樹の伐採の危険
新版マニュアル(p.20)も、ナラ類などの広葉樹は幹の中ほどから太い枝が横に張り出すので、伐倒のときに「掛かり木」(倒した木がほかの木に引っかかった状態)が生じやすく、枝の落下事故の危険も高いとしています。厚生労働省の「チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン」(令和2年1月31日 改正)は、作業前に頭上に落ちてきそうな枯れ枝が無いかを確かめること、空洞木・腐朽木は突然の倒木や追い切り中の割れの原因となるので幹の側面を切り取らないことを挙げ、枯損木が多い場所を幹や枝が落ちてくるおそれのある場所としています。木を根元から倒せない場所の考え方は「特殊伐採とは──住宅地で大きな木を根元から倒せない理由を、「木の高さの2倍」の決まりから樹木医が解説|高木・特殊伐採とケーブリング 第2回」で説明しています。
- ロープワークで枯死木に登って伐採する
- 雑木林の中の枯死木の伐採
レジ(Resi PD)・アーボソニック3D・チルホールの引っ張り試験で調べる
当社の樹木医兼街路樹・都市樹木診断士の3名で、枯死後のナラ枯れ木がどの段階で倒木のリスクを抱えるのかを数値でつかむため、複数の診断機器と引っ張り試験を組み合わせて調べています。
外観だけでは分からない内部の状態を確かめ、伐採や管理の判断の根拠にするための取り組みです。
3つの調べ方の違いを表にしました。
| 調べ方 | 測るもの | わかること | 注意点 |
|---|---|---|---|
| レジ(Resi PD)による穿孔抵抗測定 | 細い錐が材に入るときの抵抗 | 腐朽の進み具合、健全な材の残り、空洞化の傾向 | 腐朽空洞の形が大きく変形しているほど計測の差が大きくなり、過大にも過小にも評価されることがある |
| アーボソニック3D による応力波の測定 | 幹の周りのセンサーの間を伝わる応力波の到達時間 | 内部の異常部の位置と形の断面図、高さを変えれば上下方向の広がり | 異常部を小さめにも大きめにも映すことがあるので、外観診断と照らして判断する |
| チルホールによる引張り試験 | 実際に外力を加えたときの荷重と幹の変形 | どの程度の荷重で破断するか、腐朽した幹がどう変形して破断に至るか | 診断のデータと実際に測った耐力を照らし合わせて使う(当社の取り組み) |
出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.52(貫入抵抗測定器)、同 参考資料 p.108(アーボソニック3D)。引張り試験の行は本文の当社の取り組みをまとめたもの。
レジ(Resi PD)による穿孔抵抗測定
錐による貫入抵抗の変化から、腐朽の進行度・健全木部の残存率・空洞化の傾向を精密に可視化します。
目視だけでは把握できない内部の状態を、ミリ単位で読み解くことができます。
アーボソニック3D(ArborSonic 3D)による応力波の測定
幹の周りに複数のセンサーを付け、センサーの間を伝わる応力波(音波)の到達時間から、内部の異常部の位置と形を断面図にします。
高さを変えて複数の断面を測ると、異常部の上下方向の広がりも推定できます。ただし、異常部を小さめ・大きめに映すことがあるため、外観診断と照らして判断します(東京都 街路樹診断等マニュアル 参考資料 p.108)。
チルホールによる引っ張り試験
実際に外力を加えながら、
「どの程度の荷重で破断が起こるのか」
「腐朽した幹がどのように変形し、どのポイントで破断に至るのか」
といった破断挙動を直接計測します。
診断のデータと、実際に測った耐力を照らし合わせることで、危険木を判断する根拠を増やしています。
これらのデータを組み合わせることで、外観だけでは判断できない倒木リスクの“実態”を明らかにし、伐採や管理判断の精度向上に取り組んでいます。
- アーボソニック3Dの測定
- レジ(Resi PD)で幹の貫入抵抗を測る
- ロープを掛けた枯死木と測定の様子
枯死後数年を迎えるナラ枯れ木
林野庁の集計では、神奈川県の被害量は令和3〜4年度(約1.7万m3)に、東京都は令和4〜5年度(約0.6万m3)に多く、その後はどちらも減っています。被害の多かった時期に枯れた木が、これから枯死後数年を迎えるため、次のような問題が起きやすくなると考えています。

枯れた木が年を追ってどう壊れていくかは、千葉県の調査が数字で示しています。

-
居住者・通行者への落枝・倒木事故
-
公園・遊歩道・散策林での安全性低下
-
災害時における倒木による道路・ライフラインの遮断
枯れたままの放置は、地域にとって大きなリスクとなり得ます。
富山県の調査では、被害のあった約1km四方ごとに見ると、枯れる木の本数は被害が始まって2年後に最も多く、6年後にはほぼなくなっていました。被害量が減っても、枯れた木は年数を重ねていきます。
富山県の調査──枯れた木が壊れていく6つの段階
富山県農林水産総合技術センター森林研究所の研究レポート No.10「「ナラ枯れ」はその後どうなったのか?」(2015年3月)は、コナラ4か所・ミズナラ4か所の林で枯死木を比べ、残っている形からⅠ〜Ⅵの段階に分けています。
| 段階 | 枯死木の形 | 現れる時期 |
|---|---|---|
| Ⅰ | 枯れ葉が枝に残っている | 枯れた年 |
| Ⅱ | 葉が落ちて、枝と幹だけになる | 年を越してから |
| Ⅲ | 小枝が落ち始める | Ⅱの後 |
| Ⅳ | 大枝と幹だけになる | 枯れて1〜2年から |
| Ⅴ | 主幹が折れる | 早ければ2年後から |
| Ⅵ | 根元から倒れる | 4〜6年後から |
(出典: 同レポート p.6。胸高直径10cm以上の枯死木)

レポートは、樹下の安全を十分に考えると枯死木は2年以内に伐倒することが望ましいとまとめています。カシナガが枯死木で繁殖するのは枯れた翌年までで、その後は木材腐朽菌などに分解されていくとも書いています。千葉県のマテバシイ林(枯れて3〜5年で幹折れ)とは地域も樹種も違い、年数は目安ですが、冒頭に書いた現場での感覚も、この幅の中にあります。木の状態ごとの扱いは「ナラ枯れの被害量は21.2万m3に──2026年10月、全国の最新状況と都市の緑への影響を樹木医が読む」にまとめました。
都市の公園で起きたこと──都立砧公園・光が丘公園
東京都公園協会の松元信乃氏の報告「ナラ枯れによって都立公園の樹林はどのように変化したのか〜砧公園・光が丘公園〜」(東京都建設局のサイト)には、都市の公園での経過が数字で記されています。
- 令和元年8月、砧公園ほか複数の都立公園でコナラが大量に枯れた
- 2つの公園で、5年間に少なくとも269本のブナ科の木を伐採し、うちコナラが約74%
- 令和4年度には、光が丘公園で90本が枯れた
- コナラの枯死率は砧公園32.9%、光が丘公園38.5%
当初はカシナガが飛ぶ時期を避けて10月から3月に伐採・搬出するよう指導されていましたが、コナラの落ち枝が駐輪中の自転車を壊した事故の後、人身・物損事故の危険が高い箇所は、時期を選ばずに措置せざるを得なくなったといいます。また、生き残ったコナラの中にも、幹や根元に木材腐朽菌の子実体が出ている木があり、今後の倒木リスクはこうした木で増えると報告は見ています。
診断にもとづく危険木の管理
株式会社トシ・ランドスケープでは、
樹木医が診断をもとに、危険木の選別から対応までを一貫して行っています。
-
緊急対応が必要な個体
-
引き続き監視管理で推移観察できる個体
-
景観維持・再生に向けて伐採後に必要な植栽計画
外観だけに頼らずに評価し、診断と管理を続けていきます。
枯れた木を伐る時期と、生き残った木
処理の方法と時期の細かな決まりは「ナラ枯れ対策は秋から冬が勝負──くん蒸剤NCSの登録失効と、最新の防除の知見を樹木医が読む」にまとめました。倒木の危険の側からの要点は次のとおりです。
- 人の往来がある場所やインフラ周辺の枯死木は、落枝が本格化する前(被害後2年以内)に除く(新版マニュアル p.46)。送電線・道路・鉄道に被害が及んだ例もある(p.10)
- 被害の翌年の秋以降に見つかった枯死木は、カシナガが出ていった後なので、除く時期を問わない(p.46)
- 6〜9月に伐ると、伐った木の匂いで周りのカシナガを呼び寄せるおそれがあるため、危険木の除去もこの期間を避ける(p.41)
「2年以内」と「6〜9月は避ける」は、都立公園の例のように現場でぶつかることがあります。新版マニュアル(p.22)は、被害木の位置・樹種・太さ・状態を毎年記録すると優先順位づけに役立つとしています。どの木がいつ枯れたかの記録が、伐る順番を決める出発点になります。また、穿入生存木は基本的には伐らないとされています(p.34)が、カシナガを増やさない木でも、倒れる危険は別に確かめる必要があります。
ナラ枯れの予防と防除──それぞれの効果と限界
新版マニュアル(p.23)は、すべての被害を完全に防ぐことは難しいとし、人員と予算に応じて対策を選ぶよう求めています。守る木と範囲に優先順位を付けることも挙げています(p.18)。主な手法を表にしました。
| 手法 | 時期 | 限界・注意 |
|---|---|---|
| 幹をビニールシートなどで覆う | 5〜9月 | 覆った部分では穿孔を防ぐ効果が認められるが、覆いきれない上部や地際からの穿孔は防げない、長く覆うと中が高温・多湿になり腐朽菌を招くことがある(p.32) |
| 粘着シートを粘着面を内側に巻く | 被害翌年の5月頃までに巻き、10月以降に外す | 穿入生存木から出てくる成虫を捕らえる手法で、穿孔は防がない(p.34) |
| 殺菌剤の樹幹注入 | 林野庁の資料では春〜夏 | 登録のある薬剤の適用と使用時期を守る |
| 立木くん蒸 | 10月〜翌年5月頃 | 大径木では効果が限られることがある、処理後も立ち枯れで残るので人家や道路の近くでは別の方法を選ぶ(p.38) |
| おとり丸太 | 5〜6月頃に設置 | 有効な範囲は半径300m程度、未被害地での施工は厳禁(p.43) |
(出典: 新版マニュアル、林野庁「ナラ枯れ被害について」)
殺菌剤では、たとえば「微量注入用ウッドキングDASH」(登録番号23301、トリホリン乳剤)に、なら類の萎凋病への樹幹注入の登録があり、使用時期は「着葉期、但し紅葉始期まで」です(農林水産省 農薬登録情報提供システム、2026年10月17日に確認)。どの手法も、すでに枯れた木を元に戻すものではありません。
枯れた後の管理
ナラ枯れは森林だけの問題ではなく、都市の景観や暮らし、災害時の道路の確保にも関わる問題です。
枯れた後にこそ危険が高まることを、公園や道路の管理者、土地の所有者の方々と共有しながら、診断にもとづく危険木の管理と、伐採後の植栽まで含めた管理のあり方を考えていきたいと思います。
研究者・行政・技術者が向き合う課題の大きさを実感しつつ、「都市の景観に付加価値を」という理念のもと、これからも診断の根拠を示しながら樹木の管理を続けていきます。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
- 林野庁「ナラ枯れ被害」 全国の被害量の推移、令和7年度の被害量(21.2万m3、前年度比113%、44都道府県)、都道府県別の被害量の推移(令和3〜7年度)の記載を2026年10月11日に確認しました。
- 千葉県におけるナラ枯れ被害の現状と被害対策としての森林管理(千葉県農林水産技術会議 技術指導資料、令和6年3月) ナラ枯れとは(p.2)、鴨川市のマテバシイ林の調査(p.8)と幹折れの発生状況(p.9)、危険木の伐採(p.12)の記載を2026年9月27日に確認しました。
- ナラ枯れの枯死木はなぜ突然倒れるのか オオミコブタケと倒木リスクを樹木医が考察しました(当社ブログ。ナラ枯れと倒木リスクのまとめと、研究文献の一覧)
- 日本森林技術協会「新版 ナラ枯れ被害対策マニュアル」(令和8年3月、林野庁補助事業)
- 富山県農林水産総合技術センター森林研究所「「ナラ枯れ」はその後どうなったのか?」(研究レポート No.10、2015年3月)
- 楠本ら(2023)「千葉県鴨川市のマテバシイ林と愛知県瀬戸市のコナラ林におけるナラ枯れ被害の年次推移」日本森林学会誌 105(4)
- 松元信乃「ナラ枯れによって都立公園の樹林はどのように変化したのか〜砧公園・光が丘公園〜」(東京都建設局)
- 厚生労働省「チェーンソーによる伐木等作業の安全に関するガイドライン」の改正について(令和2年1月31日)
- 農林水産省 農薬登録情報提供システム「微量注入用ウッドキングDASH」
- 以上と林野庁「ナラ枯れ被害について」(PDF)は、2026年10月17日に確認しました。
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