街路樹の近くで電気・水道・ガスなどの埋設物の掘削工事を行うとき、樹木医が現場に立ち会い、掘って現れた根を切ってよいか、残すべきかをその場で判断します。立会いの流れと判断の理由を、国総研の手引きと東京都の街路樹診断等マニュアル、当社の2019年の記録をもとに樹木医が説明します。
東京都のマニュアルが定める工事のときの決まりは「街路樹のそばで工事をするとき、根をどう守るか」で、電線共同溝の工事での1つの現場の記録は「樹木医・街路樹掘削工事立ち合い 根系調査・移植適性度診断」で、くわしく書きました。この記事では、なぜ樹木医が立ち会うのか、工事の計画から診断書までの流れ、そして2019年の現場の写真をまとめます。
先に答え
- 掘削で現れた根を、切ってよいか、残すべきかをその場で見分けるのが、掘削工事の樹木医立会いです。
- 根は木を地面に固定する力のもとで、根株や根の腐朽は、根の切断などから菌が入って起きる場合が多いとされています(国総研の手引き)。
- 東京都のマニュアルは、街路樹の周りの「工事配慮エリア」の掘削は極力人の手で行い、必要な場合は樹木医等の立会いのもとで掘削するとしています。
- 当社は、計画の段階のご相談、試掘、掘削中の判断、切る根の処置、工事ごとの診断書の作成までを受け持ちます。
なぜ掘削工事に樹木医が立ち会うのか 根は見えない所で木を支えている
街路樹の植樹帯、歩道、車道の下には、普段は見えない根と、電気・水道・ガスなどの埋設物が混在しています。埋設物の工事で溝を掘れば、その途中で根に当たることがあります。
根は、水や養分を吸うだけの器官ではありません。国土技術政策総合研究所(国総研)の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」は、支持根が土と結びついて木を地面に固定する力を「根系の抵抗力」とし、根の切断や腐朽、伸長不良があると、その影響に応じて低下するとしています(1-14〜1-15)。さらに、根株や根の腐朽は、根の切断などから根株腐朽菌が材の中に入って起きる場合が多いと書かれています(1-23)。根を切ることは、その日の木を支える力を減らすだけでなく、後になって腐朽が進む入口をつくることにもなります。
街路樹では、事情がもう一段厳しくなります。東京都建設局の「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度)は、車道側は締め固められていて、根は歩道と車道の境にある街きょの下をくぐらなければならないため、車道側へ伸びる太根は少なく、ほとんどが植栽桝にあると説明しています。街路樹は歩道側の太根で体を支えていることになります(p.96)。同じページには、電線共同溝の工事などで歩道を改修する機会が増え、誤って根を切ったり傷つけたりするおそれがあるとも書かれています。埋設物の工事が行われるのは、まさにその歩道の下です。
では、どこまでの根が大切なのか。国総研の手引きは、樹木の生育と安定にとって重要な根の範囲の目安として、根株を中心に「胸高直径(cm)×18」を半径とする範囲を挙げています(1-14)。胸高直径30cmの木なら、半径5.4mです。そして、この幹に近い重要な根域の根の40%以上が損傷すると、樹木の支持に重大な弱点が生じる場合があるとしています(1-24)。

東京都の工事配慮エリアと海外の根の保護の決まりは「街路樹のそばで工事をするとき、根をどう守るか」で比べています。
同じ手引きは、地下の周辺工事では工事関係者と根系の保護の調整を図り、できる限り根を切らないことを挙げています(1-93)。ただ、根の位置は掘ってみるまで正確には分かりません。溝の中に根が現れたとき、その根が木を支えているのか、切っても影響の小さい根なのかを見分け、工事の方と納め方を相談する。樹木医の立会いは、この調整を現場で、その場で行う仕事だと考えています。
立会いの流れ 工事の計画から診断書まで
当社がこれまで行ってきた立会いを、工事の段取りの順に並べると次のようになります。工事の内容と木の状態によって、行う段階は変わります。

1. 計画の段階で、掘る範囲と木を重ねる
東京都のマニュアルは、道路管理者の工事と、道路法第32条の占用許可を受けた工事を対象に、幹の周りに「工事配慮エリア」を定めています。幹周り90cm以上の木は車道側を除いて幹芯から道路に沿って3m・横断方向に1.5m、90cm未満の木は2m・1mで、そのうち幹芯から1mの範囲は可能な限り掘削を避けることになっています(p.100〜101)。

計画の段階でご相談いただければ、このエリアを図面に重ね、掘る範囲を木からどこまで離せるかを、工事の方と一緒に考えることができます。エリアの決め方と10の配慮事項は「街路樹のそばで工事をするとき、根をどう守るか」で解説しています。
2. 根の位置が読めないときは、試掘で確かめる
根がどこに、どの深さまで伸びているかが分からなければ、工事の前に試しに掘って確かめます(根系試掘調査)。無電柱化の工事に先立って、夜間に試掘を行ったこともあります(無電柱化に伴う夜間の根系試掘調査)。試掘で分かった根の広がりは、掘る範囲や工法を見直す材料になります。土を圧縮空気で吹き飛ばし、根をなるべく傷つけずに露出させる方法(エアースコップ)も使っています(樹木医による樹木根系調査業務)。調査の内容は「根系試掘調査」のページにまとめています。

1・2 試掘で根の広がりを確かめる(イメージ)。歩道の街路樹の根元を掘り、根の伸び方を見る
3. 掘るときは、できる限り人の手で
東京都のマニュアルは、工事配慮エリアの中の掘削は、根の切断を防ぐため、極力人力施工とすることを求めています(p.101〜102)。重機のバケットは、太い根に当たっても止まらずに引きちぎってしまいます。引きちぎられた根は切り口が裂けてささくれ、そのままでは処置もしにくくなります。人の手で掘れば、根に当たった所で手を止め、その根をどうするかを考える間が生まれます。

3 重機で掘る場合(左)と、人の手で掘る場合(右)(イメージ)
4. 現れた根を見て、残すか切るかを決める
溝に根が現れたら、立ち会う樹木医がその根を見て判断します。見るのは、幹からの距離(重要な根域や幹芯1mの範囲に入るか)、根の太さと伸びる向き(歩道側で木を支える太根か)、そして過去の工事で切られた跡や腐朽の有無です。東京都のマニュアルでは、工事配慮エリアの中で支持根が露出した場合は、切らずに保護し、街路樹担当へ報告することになっています(p.101〜102)。
支える根を残すと決めたら、管の通し方や掘る位置を工事の方と相談します。2019年にこの記事で書いた「剪定してよい根」と「温存しておきたい根」の判断は、この段階のことです。
当社の記録には、過去の工事のたびに根が切られ、そこから新しい根が出ている所と、腐朽している所の両方が見られた現場があります。同じ現場では、日々の剪定の仕方と根の分布に相関がみられる結果も得られました(大田区での電柱設置の立会い)。根を見ずに、図面の上だけで切る・残すを決めることはできません。

4 切ってよい根と残したい根(イメージ)。溝を横切る太い根は残し、細い根を切る位置を示す
5. 切る根は切り直し、切り口に薬剤を塗る
やむを得ず切る根は、鋭利な刃物で切り口を整えてから、殺菌癒合剤を塗ります。国総研の手引きは、鋭利な刃物による切断と殺菌剤の塗布を、周辺工事で切断された根の適正な処置として写真で示しています(1-93〜1-94)。東京都のマニュアルも、やむを得ず切断するときは鋭利な刃物で切断し、防菌癒合材を塗布することになっています(p.101〜102)。
当社では、樹木類の「切り口及び傷口のゆ合促進」に農薬登録のあるトップジンMペースト(殺菌癒合剤)を使ってきました。下の2019年の写真にも、その作業が写っています。

5 裂けた根の先を鋭利な刃物で切り直し、切り口に殺菌癒合剤を塗る(イメージ)
6. 露出した根を乾かさず、埋め戻しの後は水極め
溝の中で露出した根は、土の中にあったときと違い、日差しと風にさらされます。東京都のマニュアルは、露出した根は散水するかマルチングシート材などで乾燥から守り、工事が終わったら十分に水極めを行うことを求めています(p.101〜102)。乾燥の防ぎ方と水極めは「街路樹のそばで工事をするとき、根をどう守るか」の⑦と⑩で書いています。
7. 記録を取り、工事ごとの書式で診断書にまとめる
掘って現れた根の様子と処置は、現場で写真などに記録します(電線共同溝の工事での立会い)。掘削工事の立会いの診断書は、決まった1つの書式ではなく、工事ごとに最適な書式で作成しています。樹木医を目指す当社の若手が立会いに同行し、普段は見られない街路樹の根を間近で確かめたこともあります。
8. 残すのが難しいときは、移植や更新も含めて考える
工事の計画によっては、幹のすぐ近くを掘らざるを得ないことがあります。東京都のマニュアルは、幹芯1mの範囲を避けた工事が難しい場合には、将来の倒木のリスクなどを防ぐため、今の街路樹を無理に残すのではなく、更新も含めて検討することが望ましいとしています(p.101)。
当社では、歩道の工事に伴って、木を別の場所へ移せるかを確かめる移植適性度診断もお受けしています。木を残す努力を尽くすことと、支える根の多くを失った木を歩道に立たせ続けないこと。その両方を、工事の方と同じ図面を見ながら考えます。
2019年に多かったご依頼 街路樹の近くの掘削工事の立会い
ここからは、2019年12月にこの記事を最初に書いたときの記録です。
今年2019年を振り返ってみますと植栽管理にとどまらず、樹木医の診断業務も多数ご依頼を頂きました。ありがとうございました。
特に多かったご依頼が、
国道、都道、区道などの街路樹に近い場所での掘削工事の樹木医立会い診断でした。
街路樹の植樹帯や歩道、車道の下には普段見ることはほとんどありませんが、
電気・水道・ガスなど様々な埋設物があります。
それらの掘削工事の際に街路樹の根を傷めない様に適切に工事が行えるように
樹木医が立会い、剪定してよい根、温存しておきたい根を判断し、
剪定する根に関しても適切に処理する為のアドバイスや樹木医自ら剪定を行います。
夜間の現場
1つ目は夜間の現場です。深く掘られた溝の壁から、根が出ています。

夜間の掘削の溝の中で、溝の壁から出た細い根を処置する

溝の壁の根の切り口に、トップジンMペーストを塗る

根の切り口に、トップジンMペーストをチューブから直接塗る
昼間の現場
2つ目は昼間の現場です。幹の近くを掘った溝の縁から、たくさんの根が出ています。

幹の近くを掘った溝で、露出した根を処置する

幹のそばの溝の壁で、根の切り口に癒合剤を塗る

同じ現場。溝に黒い波付きの管を通し、木杭に留めて立ち上げてある。奥に幹
写真の作業の多くは、上の流れの「5. 切る根は切り直し、切り口に薬剤を塗る」にあたります。
街路樹とインフラの共存
街路樹は都市環境において、
・景観の向上
・夏場の緑陰の提供
・環境の保全
・交通の安全
など様々な機能があります。
街路樹とインフラ設備どちらもよりよく共存していけるよう、
樹木医として適切な診断・アドバイスに努めてまいります。
掘削工事における診断の書式は、その工事ごとに最適な診断書を作成しております。
樹木医掘削工事立会い診断での豊富な診断経験がございますので、
樹木医へのご依頼が初めての方もご相談をお待ちしています。
よくある質問(Q&A)
Q1. 街路樹の近くの掘削工事に、なぜ樹木医が立ち会うのですか?
A. 掘って初めて現れる根を、切ってよいか、残すべきかをその場で判断するためです。根は木を地面に固定する力のもとで、根株や根の腐朽は、根の切断などから菌が入って起きる場合が多いとされています。樹木医が立ち会い、支える根を残す納め方を工事の方と相談し、やむを得ず切る根は適切に処置します。
Q2. 樹木医の立会いは、工事のどの段階から相談できますか?
A. 工事の計画の段階から相談できます。計画の段階なら、東京都の工事配慮エリアを図面に重ね、掘る範囲を木からどこまで離せるか、試掘で根の位置を確かめるかを、工事の方と一緒に考えられます。掘削の当日の立会い、切った根の処置、工事ごとの診断書の作成までお受けしています。
Q3. 掘削で切った根の切り口は、どう処置しますか?
A. 裂けた根を鋭利な刃物で切り直し、切り口に殺菌癒合剤を塗ります。国総研の街路樹の倒伏対策の手引き(第2版)も、鋭利な刃物による切断と殺菌剤の塗布を適正な処置として示しています。当社では、樹木類の切り口及び傷口のゆ合促進に農薬登録のあるトップジンMペーストを使ってきました。
Q4. 根をどのくらい切ると、木は危なくなりますか?
A. 国総研の街路樹の倒伏対策の手引き(第2版)は、幹に近い重要な根域の根の40%以上が損傷すると、樹木の支持に重大な弱点が生じる場合があるとしています。重要な根域の目安は、根株を中心に胸高直径(cm)×18を半径とする範囲で、胸高直径30cmの木なら半径5.4mです。
Q5. 立会いの結果は、どのような形でまとめますか?
A. 掘削工事の立会いの診断書は、工事ごとに最適な書式で作成しています。掘って現れた根の様子と処置は、現場で写真などに記録します。根を残すことが難しい場合は、移植適性度診断で、木を別の場所へ移せるかを確かめることもあります。
出典・参考情報
・国土交通省 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」(国総研資料 第1059号、2019年2月)1-14・1-15(根系の抵抗力と重要な根域)、1-23(根株と根の腐朽)、1-24(重要な根域の根の損傷)、1-93・1-94(周辺工事における保護対策、写真-3.16)
・東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」第Ⅵ章 街路樹の根の保護に関するガイドライン p.96(街路樹の根の分布と歩道の改修)、p.100〜102(工事配慮エリアと工事のときの配慮事項)。本文のp.は同マニュアルのページです。
・日本曹達「トップジンMペースト」(農林水産省登録 第13411号)
・記事中のイラストは、株式会社トシ・ランドスケープの説明用イラストです。工事の進め方や根の納め方は一つの例で、実際の工事は道路管理者の指示と現地の状況によります。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
同じ内容の現場の記録
・樹木医 掘削工事立会い診断 東京都板橋区・国道沿い
・樹木医・街路樹掘削工事立ち合い 根系調査・移植適性度診断
・樹木医 電柱設置掘削工事 根系調査立ち合い 東京都大田区
・無電柱化に伴う樹木保全 樹木医による夜間根系試掘調査の重要性 東京都
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