歩道の切り下げ工事を行う際には、周辺の街路樹への影響を無視することはできません。
本記事では、東京都練馬区で実施した「歩道の切り下げ工事に伴う樹木移植適性度診断」について、その目的・内容・評価項目・現場での取り組みをご紹介します。
都市緑化とインフラ整備の両立を目指す上で、樹木医の専門的な診断は欠かせない重要な工程です。
先に答え
- 歩道の切り下げは、車両の乗り入れなど沿道の方の都合で行う道路工事で、道路管理者の承認(道路法第24条)が必要です。費用は申請者の負担で、東京都の建設事務所の案内では、街路樹がある場合は移植(移設)が原則とされています。
- 移植適性度診断は、その木を掘り取って植え替えたときに根付いて育ち続けられるかを、工事の前に見極める診断です。当社では、健全度、根系まわりの環境、工事日程と移植適期、根回しと養生、移植先の土壌と環境の5つを評価します。
- 街路樹は歩道側の太い根で体を支えています。東京都の街路樹診断等マニュアルは、歩道の工事で根を守る「工事配慮エリア」を定め、幹芯から1m以内はできる限り工事の範囲に含めないとしています。
- 当社の現地診断は1日間、診断書は最短1日間で作成できます。根回しは移植の半年から1年ほど前が効果的とされ、早い段階の診断ほど選べる方法が増えます。
歩道切り下げ工事と街路樹の関係
歩道の切り下げ工事の計画に際し、街路樹の状態や根の伸長状況を確認し、適切な処理方法を診断しました。
近年では、根元周りに真砂土舗装が施工されている場面にもよく出くわします。
街路樹は都市環境の中で景観や環境改善、防災機能など多様な役割を担っており、
インフラ設備との共存を目指し、適切な診断とアドバイスに努めています。
歩道の切り下げ工事とは 手続きと街路樹の扱い
歩道の切り下げは、車両の乗り入れのために歩道の段差を下げる工事です。沿道の方の都合で行う道路工事なので、道路管理者の承認(道路法第24条)が必要で、費用は申請者の負担になります(同第57条)。練馬区と東京都の2つの建設事務所の案内をまとめると、次のとおりです。
| 項目 | 案内されている内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 工事の承認 | 自己の都合で行う道路工事には道路管理者の承認が必要(道路法第24条) | 練馬区 |
| 工事の着手 | 別に所轄警察署長の道路使用許可が必要(道路交通法第77条) | 練馬区 |
| 承認までの期間 | 申請から承認書の交付まで2週間程度 | 練馬区 |
| 事前協議での植栽の調査 | 種類・数量・写真、高木は目通り(地上1.2mの幹回り)を測って撮影 | 東京都第五建設事務所 |
| 街路樹の扱い | 移植(移設)が原則、移植予定先の案内図と現況写真を用意 | 東京都第五建設事務所、東京都北多摩北部建設事務所 |
| 移設が難しい高木 | 代替木を植える | 東京都北多摩北部建設事務所 |
(出典: 練馬区「道路・河川工事施行承認申請(自費工事申請)」2025年6月18日更新、東京都第五建設事務所「道路工事(自費工事)施行承認手続き」令和3年10月、東京都北多摩北部建設事務所「道路(自費)工事施行承認申請手続き」)
手続きや街路樹の扱いは、その道路を管理する役所(区市町村道なら区市町村、都道なら東京都の建設事務所など)ごとに違い、上の表は案内の例です。移植が原則とされる以上、工事の前に「この木は移植に耐えられるか」「いつ、どう移すか」を決めておく必要があり、その判断の材料をつくるのが移植適性度診断です。
切り下げ工事が街路樹の根に与える影響 工事配慮エリアと重要な根域
東京都建設局の「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度)は、街路樹は歩道側の太い根で樹体を支えているため、歩道側の太い根を切ることは街路樹にとって大きなダメージになると書いています(p.96)。そのうえで、根を守る範囲として工事配慮エリアを定めています(p.100)。
| 幹周り | 工事配慮エリア(車道側を除く) |
|---|---|
| 90cm以上 | 幹芯から道路縦断方向(道路に沿った方向)に3m、道路横断方向に1.5m |
| 90cm未満 | 幹芯から道路縦断方向に2m、道路横断方向に1m |
| 共通 | 高木の幹芯から1m以内は、できる限り工事の範囲に含めない |
(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.100〜101)
エリアの中では、できる限り人の手で掘る、木を支える根(支持根)は切らずに保護する、やむを得ず切るときは鋭利な刃物で切って防菌癒合材を塗る、といった配慮事項が挙げられ、道路管理者の工事と占用工事(道路法第32条)以外の工事にも準用が望まれるとされています(p.101〜102)。幹芯から1mの範囲を避けた工事が難しい場合は、木を無理に保存するのではなく、更新も含めて検討することが望ましいともしています(p.101)。各項目は「街路樹のそばで工事をするとき、根をどう守るか 東京都の街路樹診断等マニュアル「工事配慮エリア」と10の配慮事項を樹木医が解説」で解説しています。
国土技術政策総合研究所(国総研)の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」(2019年2月)は、幹に近い重要な根域(胸高直径×18を半径とする範囲)の根のうち40%以上が損傷すると、樹木の支持に重大な弱点が生じる場合があるとしています(1-24)。この範囲と工事配慮エリアの広さの違いは、「樹木医・街路樹掘削工事立ち合い 根系調査・移植適性度診断」で図にして比べています。
街路樹の移植適性度診断とは
都市の再開発や道路の自費工事に伴い、既存の街路樹を移植または撤去する際には、
樹木医による専門的な診断が求められる場合があります。
当社では、樹木医兼街路樹診断士が、樹木の健全性や植栽環境を踏まえた
「移植適性度診断(移植可否診断)」を実施し、行政・事業者双方にとって適切な判断材料を提供しています。
現地での樹木診断は1日間です。
診断書の提出は現地での診断後最短1日間で作成可能です。
移植適性度診断で見極めること
掘り取りでは根の多くを切り離し、枝葉も整理するので、移植は木にとって大きな負担になります。国総研の「街路樹再生の手引き」(平成28年3月)は、樹種の特性(根の形や根の出やすさ)や樹齢によって移植の難しさが違うため、十分に検討したうえで適否を決める必要があるとしています(1-114)。

街路樹の外観の確認
診断の主な評価項目
この診断では、樹木が移植に耐え得るかどうかを多角的に評価するため、
以下の観点に基づき総合的な調査を行います。
-
現状の樹木の健全度(外観・樹勢・病虫害・腐朽などの確認)
-
根鉢の確保状況や植え枡の形状など、根系まわりの環境調査
-
工事スケジュールと移植適期の整合性
-
根回しや養生措置の実施状況
-
移植先の土壌条件や周辺環境の適合性
診断には目視・打音検査なども併用し、科学的根拠に基づいた判断を行います。
その結果に基づき、適切な移植手法の提案や、移植が困難な場合の代替措置・リスク軽減策を提示いたします。
5つの評価項目で、それぞれ何を見るか
| 評価項目 | 主に見ること | 見る理由 |
|---|---|---|
| ① 現状の樹木の健全度 | 外観・樹勢・病虫害・腐朽 | 移植の負担に耐えられる状態か |
| ② 根系まわりの環境 | 根鉢の確保状況、植え桝の形状、過去の工事で切られた根 | 細根を含む十分な根鉢が取れるか |
| ③ 工事日程と移植適期 | 工事の時期、樹種ごとの適期、根回しに使える期間 | 活着しやすい時期に作業できるか |
| ④ 根回しや養生措置 | 根回しの有無と時期、支柱や枝葉の整理 | 根元の近くに細根を出させる準備ができているか |
| ⑤ 移植先の土壌と周辺環境 | 土壌の性質と排水、植え桝の広さ、周りの施設 | 移植した後に根を伸ばせる場所か |
(評価項目は当社のサービスページによる。見ることと理由は、国総研「街路樹再生の手引き」1-114 と東京都「街路樹等維持標準仕様書 緑地管理編」2-4 をもとに当社で整理)
健全度と根鉢 移植に耐えられる木か
もともと弱っている木は、移植の負担に耐えられません。外観・樹勢・病虫害・腐朽を確かめ、幹は木槌で叩いて、音の違いから内部の腐朽や空洞の疑いを探ります。外観で見る項目は「樹木医は街路樹診断で何を見ているか(前編) 東京都の街路樹診断等マニュアルの流れで、樹木点検と外観診断の18項目を解説」で書いています。
根鉢は、掘り取るときに根と土をひとかたまりにして持ち上げる部分です。水を吸う細い根(細根)は根の先の方に多く、掘り取りで失われやすいので(「街路樹再生の手引き」1-114)、植え桝が狭いと十分な根鉢が取れません。
- 木槌で幹を打診する
- 根元と植え桝の確認
移植の適期と根回しの進め方
「街路樹再生の手引き」は、移植の適期を、落葉樹は休眠期から萌芽前まで(厳冬期を除く)、常緑広葉樹は春芽が動きはじめる直前と梅雨期、針葉樹は休眠期の2月上旬から萌芽前までと休眠期に入った時期としています(1-114。樹木の種類ごとの表は「街路樹の移植可否診断(移植適性度診断) 東京都」)。根回しは、掘り取りの前に根の一部を切って養生し、根元の近くに細根を出させておく作業で、必要な場合は移植の半年から1年ほど前に行うと効果的とされています。準備から植え付けまでを並べると次のとおりです。
| 段階 | 時期の目安 | 主な作業 |
|---|---|---|
| 根回し | 移植の半年から1年ほど前 | 支えになる太い根は残して形成層まで環状はく離し、ほかの根は鉢に沿って鋭利な刃物で切る、養生の期間中は支柱を付ける |
| 掘取り | 樹種ごとの適期 | 枝葉を切詰め・切透かし・摘葉で整える、根回しをした木は細根を傷めない、わら縄で鉢を巻く、幹を保護する |
| 運搬 | 掘取りの後 | こもなどで根を日射や風から守る |
| 植栽 | 搬入の後すぐ | 移植地の植栽基盤(土壌の物理性・化学性と排水)を整備・改良して植える |
(出典: 東京都建設局「街路樹等維持標準仕様書 緑地管理編」平成25年4月 2-4-2、国総研「街路樹再生の手引き」平成28年3月 1-114)
工事の日程が適期に合わないこともあります。東京都の仕様書は、やむを得ず不適期に行う場合は、補助材料(蒸散抑制剤、防寒剤など)の使用や適切な保護養生で活着に万全を期すとしています(2-4-1)。ただし、掘り取りのときに樹冠を大きく切り詰めると、活着に影響するとされています(「街路樹再生の手引き」1-114)。
移植が難しいと判断したとき 代替措置と更新
移植が難しいと判断したときも、理由を診断書にまとめ、代替措置やリスク軽減策をお示しします。一次情報が示している方向は、次のようなものです。
- 工事の範囲を見直して幹芯から1m以内を避け、人の手で掘るなど根を守る手順で工事を進めて木を残す(東京都の街路樹診断等マニュアル p.101〜102)
- 幹芯から1mの範囲を避けた工事が難しい場合は、無理に保存せず、更新も含めて検討する(同 p.101)
- 移設が難しい高木は、代替木を植える(東京都北多摩北部建設事務所の案内)
移植適性度診断から工事までの流れ
- 現地での樹木診断: 1日間
- 診断書の提出: 現地での診断後、最短1日間で作成
- 根系試掘調査との組み合わせ: 試掘で根の広がりや形状、健康状態を詳しく確かめ、移植の可否や方法を判断する
根回しの期間に加えて、道路工事の承認にも日数がかかります(練馬区の案内では2週間程度)。診断は、工事の計画がまだ動かせる早い段階で行うほど、選べる方法が増えます。
実地診断と人材育成の取り組み
今回の東京都練馬区での街路樹診断では、若手スタッフの育成も兼ねて、実地での診断技術指導を実施しました。
診断道具の使用方法や評価基準についての共有を通じて、
日常業務の中での実践的な学びを積み重ねています。
こうした取り組みが、将来的な現場での提案力の向上や、
安全で持続可能な植栽管理へと繋がると考えています。
樹木医としての使命
樹木医としての役割は、単に木を「残す・伐る」の判断を下すことにとどまりません。
限られた都市空間の中で、人と樹木が共生できる最適な在り方を模索することこそが、
私たちの使命だと考えています。
歩道工事や都市開発において、街路樹は“邪魔な存在”ではなく“都市の資産”です。
科学的診断に基づく移植適性度の評価は、人と緑が共に生きる街づくりに不可欠なステップです。
今後も現場経験と専門知識を活かし、都市の樹木を次世代へ繋ぐための取り組みを続けていきます。
よくある質問(Q&A)
Q1. 歩道の切り下げ工事をすると、街路樹はどうなりますか?
A. 東京都の建設事務所の案内では、街路樹は移植(移設)が原則とされています。事前協議では植栽の種類・数量・写真と、移植予定先の案内図・現況写真が求められ、移設が難しい高木は代替木を植えるよう案内している事務所もあります。扱いは道路管理者ごとに違います。
Q2. 移植適性度診断とは何ですか?
A. 樹木を掘り取って別の場所へ植え替えたときに、根付いて育ち続けられるかを、工事の前に見極める診断です。移植可否診断とも呼ばれます。当社では樹木医が現地で評価し、移植する場合の方法か、移植が難しい場合の代替措置・リスク軽減策をお示しします。
Q3. 街路樹が移植できるかどうかは、何を見て判断するのですか?
A. 当社では、現状の樹木の健全度、根鉢の確保状況や植え桝の形状など根系まわりの環境、工事スケジュールと移植適期の整合性、根回しや養生措置の実施状況、移植先の土壌条件や周辺環境の適合性の5つを評価します。目視や打音検査も併用して判断します。
Q4. 街路樹の移植に向いている時期はいつですか?
A. 国土技術政策総合研究所の「街路樹再生の手引き」では、落葉樹は休眠期から萌芽前まで(厳冬期を除く)、常緑広葉樹は春芽が動きはじめる直前と梅雨期、針葉樹は休眠期の2月上旬から萌芽前までと休眠期に入った時期が適しているとされています。
Q5. 根回しとは何ですか?どのくらい前に行いますか?
A. 掘り取りの前に根の一部を切って養生し、根元の近くに細根を出させておく作業です。必要な場合は移植の半年から1年ほど前に行うと効果的とされています。東京都の仕様書では、支えになる太い根は切らずに環状はく離し、ほかの根は鉢に沿って鋭利な刃物で切るとしています。
Q6. 街路樹の移植が難しいと判断されたら、どうなりますか?
A. 当社では理由を診断書にまとめ、代替措置やリスク軽減策をお示しします。東京都の街路樹診断等マニュアルは、幹芯から1mの範囲を避けた工事が難しい場合、木を無理に保存するのではなく、更新も含めて検討することが望ましいとしています。
Q7. 歩道の切り下げの手続きは、どこに相談すればよいですか?
A. その道路を管理する役所(区市町村道なら区市町村、都道なら東京都の建設事務所など)が窓口です。練馬区の案内では、道路管理者の承認(道路法第24条)のほかに、工事の着手には所轄警察署長の道路使用許可が要り、承認書の交付まで2週間程度かかるとされています。
Q8. 移植適性度診断には何日かかりますか?
A. 当社では、現地での樹木診断は1日間で、診断書は現地での診断後、最短1日間で作成できます。根の広がりや状態を詳しく確かめる必要があるときは、根系試掘調査と組み合わせることもできます。根回しの期間も考えると、工事の計画がまだ動かせる早い段階の診断ほど、選べる方法が増えます。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
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