東京都北区のマンションで、生垣のヒイラギモクセイの枯れの範囲が年々徐々に広がってきていて困ってしまっている、というご相談をいただきました。
根元の白い菌糸を専門機関で調べていただいたところ、原因は白紋羽病でした。2023年4月に行った診断と防除、植え替えまでの記録に、2026年10月の時点の経過と、白紋羽病の見分け方を加えてまとめます。
年々広がる生垣の枯れ──原因がつかみにくかった理由

マンションの外周の生垣。中ほどの区画が枯れて、葉が無くなっている
既に枯れてしまった部分は撤去されてしまっていたりと、原因となるものの特定が難しい状況でした。枯れた木が残っていなければ、根を掘って確かめることができません。
根の病気は、地上から見ているだけでは気づきにくいものです。長野県病害虫防除所の資料では、白紋羽病は感染の初めには地上部に異常が見られず、地上部に症状が出たときには手遅れになっていることが多いとされています。葉が黄色くなる、葉が小さくなる、早く落ちる、新しい枝が伸びない、といった変化は、根の傷みが進んだ結果として現れます。
そこで、まだ残っている衰弱木の根元を掘ってみると、太根の部分に白い菌糸が確認できました。

衰弱したヒイラギモクセイの根元。太い根から細い根まで、白い菌糸が絡みついている

株元の土と根の表面に広がる白い菌糸

細い根の間にも白い菌糸が見える
根元の白い菌糸を、専門機関で調べる
外部の病害調査の専門機関に、枝葉や根を採取したものを送り、調査を依頼しました。その結果、菌糸の隔壁部でラッキョウ形に膨らむ形態的特徴は、白紋羽病菌(Rosellinia necatrix)の特徴であることから、枯死株の根に生じた菌糸は白紋羽病菌と判断でき、白紋羽病による立枯れであることが判明しました。
この膨らみは、文献では「洋ナシ状」と表現されています。顕微鏡で菌糸を見たときの診断のポイントです。根元に白いカビのようなものがあっても、それだけで病名は決められません。白紋羽病の病原菌は健全と思われた生存木にも感染が確認されたので、生垣植栽の広範囲に拡大していると推察されました。
白紋羽病とは──果樹だけの病気ではない
白紋羽病は、土の中の糸状菌(カビの仲間)が根を腐らせる病気です。ナシ・リンゴ・ブドウなど果樹の病気として知られていますが、宿主の範囲はとても広く、農研機構の資料では、日本植物病名目録(2000年)に130種以上の宿主植物が載っているとされています。
農研機構の「日本植物病名データベース」を見ると、同じモクセイ属のキンモクセイやヒイラギのほか、イヌツゲ、マサキ、カナメモチ、ツツジ類など、生垣や植え込みによく使われる樹木にも記録があります。マンションの植栽にとっても、無縁の病気ではありません。
似た症状の病気との見分け
地上部の症状だけでは、ほかの根の病気と区別がつきません。株元を掘って、根の表面と樹皮の下を見ることが欠かせません。
・白紋羽病: 根の表面に白色〜灰白色の綿毛のような菌糸が絡みつき、樹皮の下には白い扇状の菌糸が広がります。
・紫紋羽病: 地上部の症状はほぼ同じですが、根の表面や地際に、赤紫〜赤褐色でフェルト状の膜(子実体)ができます。
・ならたけ病: 根の材が水っぽく腐り、樹皮の下に純白の菌糸が膜状に張り付きます。春や秋に、株元にキノコが出ることがあります。
株元を掘ったときに見るところを、3つの病気で並べました。
| 病気 | 根の表面 | 樹皮の下 | ほかの手がかり |
|---|---|---|---|
| 白紋羽病 | 白色〜灰白色の綿毛のような菌糸が絡みつく | 白色で扇状の菌糸が広がる | 菌糸を顕微鏡で見ると、隔壁の近くに洋ナシ状の膨らみがある、ならたけ病より早く枯れが進む |
| 紫紋羽病 | 赤紫色でフェルト状の膜(子実体)ができる、地際にもできることがある | 根の表皮が侵されて崩れる | 白紋羽病と違い、急にしおれて枯れることは少ない |
| ならたけ病 | 根の材が水っぽく腐る | 純白の菌糸が膜状に張り付く | 春か秋に、株元にキノコが出ることがある |
地上部の症状(葉の黄化・小型化・早い落葉・枝の伸びの悪さ)は3つともよく似ていて、株元を掘って菌糸を見るまで区別できない。病名を決めるには顕微鏡などの調べが要る。出典: 島根県農業技術センター「ブドウ 白紋羽病・ならたけ病」、宮城県病害虫防除所「りんご 紫紋羽病」(令和8年1月作成)、長野県病害虫防除所「病害虫発生予察特殊報 第6号」(2010年)、農研機構「微生物遺伝資源利用マニュアル(27)」(2009年)p.14
根に菌糸が見つからない場合は、土が締め固まって根が伸びない、水はけが悪い、植栽地が狭くて乾きやすいといった、植栽基盤の問題を疑います。その場合は、植栽基盤調査(土壌調査)で土の硬さや水はけを確かめてから、対策を考えます。
健全に見える木まで、広く抜き取った理由
診断結果を元に、防除対策は感染源となる発病木の撤去と土壌の入れ替えをご提案いたしました。撤去にあたっては健全に見えても、少しでも黄化や衰弱が疑われる樹木まで広域に抜き取って植え替えをする必要があります。
理由は、この病気の広がり方にあります。島根県の資料では、地下で発病樹の根が隣の健全な木の根に触れて被害が広がると説明されています。生垣は同じ樹種を間隔を詰めて植えるため、根どうしが土の中で触れ合いやすい植え方です。並びに沿って枯れが年々伸びていったのは、このためだと考えています。

また、白紋羽病菌は、病気になった根や、土の中の未熟な有機物に付いた菌糸が残り、長い期間、土の中で生き残ります。木を抜いても、根の切れ端が残れば、そこが次の伝染源になります。長野県の資料でも、発見したら抜き取り、掘り起こした周りの土は取り除いて新しい土と入れ替えることが示されています。

抜き取った株の根元。根の間に白い菌糸が残っている

土の中に残った根にも菌糸が付いている。根の残りは次の伝染源になる
土の回収と土壌灌注
まず樹木の撤去と、既存の土の回収を行い、白紋羽病に適用のある殺菌剤・フロンサイドSCを土壌灌注します。

土壌灌注に使ったフロンサイドSC

薬剤をタンクで希釈する

計った薬剤を、タンクの水に溶かす

株を抜き、土を回収した後の植栽地に薬液を灌注する

フェンス沿いの植栽地全体に、薬液を行き渡らせる
菌の感染によって枯れた植栽の並びにある健全木の根元にも、部分部分に土を掘り、土壌灌注をしました。メーカーの説明にもありますが、土壌灌注は予防的使用か軽症の樹木に限られるので、被害状況によっては効果が出ないこともありますので現場状況で判断が必要です。メーカーの製品ページでも、この薬剤は予防が主体で、治療の効果は認められないと説明されています。抜き取りと土の入れ替えが防除の中心で、灌注はそれを補うものという位置づけです。

並びに残した木の根元にも、土を掘って灌注する

土を回収した植栽地。埋設管のまわりまで薬液を染み込ませる
埋め戻す土にも注意が要ります。京都府や島根県の資料では、白紋羽病菌は未熟な有機物で増えるため、生の枝や未熟な堆肥を土に入れることは控えるよう示されています。植え替えの土は、回収した古い土を戻さず、新しい土に入れ替えています。
植え替えから2年半──同じヒイラギモクセイで生垣をつくり直して
2023年4月の作業はこの灌注までとし、養生をして、GW明けに新たな植栽の植え付けを行いました。植えたのは、元と同じヒイラギモクセイです。
以前に発生した場所では、再び被害が出ることが多いとされています(京都府の資料)。同じ樹種を植え直すのであれば、なおさら、菌の残った根と土をどれだけ持ち出せるかが分かれ目になります。今回、健全に見える木まで抜き取り、土を入れ替えたのは、そのためでした。
2026年10月の時点で、植え替えた生垣に白紋羽病の再発は見られず、順調に育っています。根の病気は地上に症状が出るまで時間がかかるので、これからも葉の色や伸び方を毎年見ていきます。

原因の分からない枯れは、根元から確かめる
不可解な枯れによるご相談も多くいただきますが、今回の白紋羽病のように、土壌や根に潜む菌が原因のこともあります。枯れた木を抜いて植え直すだけでは、同じ場所でまた枯れることがあります。原因を突き止めてから、撤去の範囲と土の扱いを決めることが、植え替えを無駄にしないための近道です。
樹木医による適切な診断、適切な対応を行うことで改善する場合がありますので、ご相談をお待ちしています。
よくある質問
Q1. 白紋羽病とはどんな病気ですか?
A. 土の中の糸状菌(Rosellinia necatrix)が根を腐らせる病気です。根の表面に白色〜灰白色の綿毛のような菌糸が絡みつき、樹皮の下には白い扇状の菌糸が広がります。果樹の病気として知られていますが、キンモクセイやヒイラギ、イヌツゲ、マサキ、カナメモチ、ツツジ類など、生垣に使われる樹木にも記録があります。
Q2. 生垣が部分的に枯れてきました。白紋羽病かどうかはどう見分けますか?
A. 地上部の症状だけでは、紫紋羽病やならたけ病など、ほかの根の病気と区別がつきません。弱った株の根元を掘り、根の表面と樹皮の下の菌糸の色や形を見ます。病名を確かめるには、菌糸を顕微鏡で調べる必要があります。今回も、専門機関の調査で白紋羽病菌と判明しました。
Q3. 白紋羽病は、どのように広がりますか?
A. 土の中で、発病した木の根が隣の健全な木の根に触れて広がります。生垣は同じ樹種を間隔を詰めて植えるため、並びに沿って枯れが広がりやすい植え方です。また、病気の根や未熟な有機物に付いた菌糸が残り、長い期間、土の中で生き残ります。
Q4. 枯れた木を抜けば、病気は止まりますか?
A. 枯れた木を抜くだけでは止まらないことがあります。土の中に残った根が次の伝染源になるためです。今回は、健全に見えても黄化や衰弱が疑われる木まで広く抜き取り、土を回収して新しい土に入れ替えました。
Q5. 白紋羽病が出た場所に、また木を植えられますか?
A. 以前に発生した場所は、再び被害が出やすいとされています。植え直すときは、菌の残った根と土をできるだけ持ち出し、新しい土に入れ替えることが前提です。今回は同じヒイラギモクセイを植え直し、2026年10月の時点で再発は見られていません。
出典・参考情報
・長野県病害虫防除所「病害虫発生予察特殊報 第6号(ブルーベリー白紋羽病)」(2010年)
・島根県農業技術センター「ブドウ 白紋羽病・ならたけ病」
・京都府「果樹の病害虫 白紋羽病」
・宮城県病害虫防除所「りんご 紫紋羽病」
・農研機構「微生物遺伝資源利用マニュアル(27) 紫紋羽病菌・白紋羽病菌」(2009年)
・農研機構「日本植物病名データベース」(日本植物病理学会編「日本植物病名目録」がもと。2026年10月に確認)
・石原バイオサイエンス「フロンサイドSC」製品ページ
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
「土壌調査」のサービス内容と、ご相談の窓口であるお問い合わせのページはこちらです。
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