砧公園で4回目の倒木 樹木医として思うこと

砧公園で4回目の倒木──「インフラの老朽化と更新」の時代に、樹木の専門家として思うこと

2026年4月7日夜、砧公園で再び高木樹木倒木しました。高さ20メートルと18メートルの2本が根元から倒れ、公園内の車道を塞いだとのことです。

3月7日のサクラ、翌8日のヒマラヤスギ、4月2日のサクラに続き、わずか1か月のあいだに4回目の倒木です。
本数で見れば、合計5本の大木が同じ公園内で倒れたことになります。

 

幸いにも今回はけが人がなかったことが救いですが、もはや「たまたま」で片づけられる状況ではありません。

「倒れた」のではなく、「倒れる順番が来た」

弊社ブログでも、3月の砧公園での事故直後から考察記事を公開してきました。今回あらためてこれらの倒木が単発の突発事故ではなく、
長い時間をかけて進行してきた構造的な問題の表面化だということです。

東京都の公式発表によれば、3月に倒れたサクラは、腐朽菌の影響で支持根が傷み、降雨後の地盤の軟化によって根返りに至ったと推測されています。また、ヒマラヤスギについては、根元の土被りが厚かったことで、長期間にわたり根が酸欠状態に置かれ、衰退が進んでいたとされています。

いずれの木についても、直近の点検では幹の腐朽や打音上の異常は確認されていなかったと報告されています。

つまり、木の内部で何年もかけて進行していた劣化が、ある日、目に見えるかたちで現れたということです。風や雨は最後の引き金であって、本質はその前からすでに始まっていたと推察できます。

樹木だけの話ではない──日本中が「更新期」に入っている

この春、砧公園の倒木と重なるように、全国の水道事業の2割が経常収支で赤字に転落したという報道がありました。上下水道料金の改定、学校施設の改修費の増大など、高度経済成長期に一斉に整備された公共インフラが、いま全国で同時に寿命を迎えつつあります。

橋梁、トンネル、道路、鉄道。コンクリートや鉄でできたインフラの老朽化には、これまでも大きな関心が向けられてきました。しかし、同じ時代に一斉に植えられた「グリーンインフラ」である、街路樹公園樹木もまた、同じ更新の波の中にあることは、十分に語られてきたとは言えません。

砧公園の開園は1966年です。ちょうど60年という時間が経ちました。当時植栽されたソメイヨシノは、一般に寿命が60年前後とも言われています。千鳥ヶ淵ソメイヨシノも、ほぼ同じ時代を生きてきた木々です。実際に4月2日には、その千鳥ヶ淵でもソメイヨシノが根元から倒れ、お堀側へ倒れているのが確認されました。

千代田区 桜 ソメイヨシノ 倒木

千代田区 桜 ソメイヨシノ 倒木

コンクリートの橋に寿命があるように、木にも成育環境などにより寿命が変わってきます。そして今、日本各地の公園や街路で、同じ世代の木が一斉に老いてきています。この現実は、水道管が破裂し、橋が通行止めになることと、実は同じ文脈の中にあります。

「見ている」ことと「見抜いている」ことは違う

国土交通省の全国調査によれば、都市公園における樹木の定期点検を実施している自治体は約40%にとどまり、59%は「未実施」と回答しています。日常巡回の63%は自治体職員が担っているとのことですが、根株の内部腐朽や、ベッコウタケの兆候のような異変を見抜くには、樹木医街路樹診断士などの専門的な訓練と経験が必要です。

砧公園のケースでも、直近の点検では異常が確認されていませんでした。東京都の管理体制は、全国的に見ればむしろ手厚い部類に入ると思います。それでも見抜けなかった。この事実は、現場の担当者個人の責任というよりも、樹木点検という業務そのものの難しさを示しています。とりわけ、根の病害地下部の異常を地上から捉えることの難しさは、想像以上に大きいものです。

木槌による打診鋼棒による貫入検査、そしてベッコウタケ子実体が現れやすい初夏から晩秋にかけての適期診断。さらに、レジストグラフピカスアーボソニック3Dといった機器診断を組み合わせることで、ようやく樹木の内部(根や幹)の状態に近づくことができます。

こうした手仕事の感覚と、診断技術の両方が揃って、はじめてリスクを「見抜く」ことに近づけるのだと、私は日々の現場で感じています。

「賢く縮む」という発想を、樹木管理にも

老朽化するインフラへの対応として、近年は「賢く縮む」という考え方が語られるようになっています。すべてを維持するのではなく、限られた予算と人手の中で、何を優先し、何を次世代へ手渡していくのかを見極める考え方です。

私は、この発想は都市樹木の管理にもそのまま必要だと考えています。すべての木を一律に守ることは、現実的にはできません。しかし、リスクの高い木を的確に抽出し、優先順位をつけて診断し、必要な処置を行うことはできます。また、伐採が必要になった木について、そこで終わらせるのではなく、次の世代の緑をどう育てるかまで設計することも、私たち樹木医のような樹木の専門家の大切な役割です。

木は、自分で痛みを訴えることができません。葉を青々と茂らせていても、根の内部が空洞化していることは決して珍しくありません。だからこそ、人間の側が能動的に「見に行く」仕組みを、制度として、予算として、技術として整えていく必要があります。

砧公園で続く倒木は、その必要性を私たちの社会に強く問いかけているように思いました。

株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊

弊社ウェブサイト内にも樹木医診断や過去の事例について詳しく情報を公開しています。
コンサルティング業務・樹木医診断・治療 施工実績一例をご紹介いたします。

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