2025年11月、前職でお世話になった宮大工の親方に声をかけていただき、タイ・プーケットの新築物件で外壁に焼杉を施工する機会に恵まれました。焼杉そのものの話はまた別の折に譲るとして、今回は樹木にたずさわる者として何より心を奪われた、熱帯の植物たちのことを書き留めておきたいと思います。
はじめての、四季のない国へ
子どもの頃に訪れたカリブ海のグアドループ島や、これまでに巡ったヨーロッパの数カ国を別にすれば、四季のない熱帯気候の国を訪れるのは、大人になってから初めての経験でした。
訪れた11月は、ちょうど雨季から乾季への変わり目。ハイシーズンを迎える直前の、比較的過ごしやすい時期にあたります。とはいえ、紅葉の進む涼しい日本から降り立った空港で、季節が一気に夏へ巻き戻ったような強烈な蒸し暑さに包まれ、しばらく言葉を失ったのを覚えています。
それでも、熱帯の環境に息づく植物たちが織りなす風景を目の当たりにできることは、この滞在で何よりの楽しみでした。
道端のブーゲンビリアに、足を止める
最初の驚きは、空港から施主様のお車で現場へ向かう道中に訪れました。日本の道路脇でよく見かけるヒラドツツジのように、低く刈り込まれた植え込みが続いていて、それがなんと、ブーゲンビリアだったのです。
ブーゲンビリアはフランスでも日本でも育てられますが、ふつうは壁に這わせ、ボリュームたっぷりに咲かせて楽しむもの。それがコンパクトに刈り込まれ、一面に密生して咲き誇る光景は、満開のツツジに勝るとも劣らない美しさでした。
夜に立ち寄ったレストランの脇では、淡い紫の花を房に咲かせるツル性のペトレア・ヴォルビリスにも出会いました。クマツヅラ科のこの花を前にしたとき、藤が咲きはじめた頃と同じ、あの胸の高鳴りを覚えたのです。
未知の風景に、「架け橋」を探してしまう
おもしろいのは、見たことのない風景の前に立っても、私たちはつい、自分の文化や慣れ親しんだ環境との間に「架け橋」を見出そうとすることです。
ブーゲンビリアにツツジを重ね、ペトレアに藤を重ねる。その心の動きは、土地が変わっても、植物を見るまなざしの根っこは案外つながっているのだと教えてくれます。
熱帯で「松」を楽しむには──トクサバモクマオウという選択肢
帰国を前に施主様と雑談をしていたとき、こんなお話を伺いました。「たまに日本を訪れる機会があって、日本庭園や、盆栽のように仕立てられた松が好きなんです。自分の庭にもあったら素敵だろうな、と」
ただ、アカマツにせよクロマツにせよ、マツは基本的に冷涼から温暖な気候を好む樹木です。この熱帯の環境で健やかに育てるのは、正直なところ簡単ではありません。
そのとき、ふと思い出したのが、現地の街路樹や庭木としてよく見かける「トクサバモクマオウ」でした。モクマオウ科の常緑樹で、針葉樹のような細い枝ぶりから、一見すると松に間違えられることも少なくありません。じつは葉が退化した広葉樹でマツとの類縁は薄いのですが、果実は松かさによく似ています。街なかでは、丸く刈り込まれた個体も見かけました。
この木の成長特性を理解し、適切に手を入れていけば、日本庭園で見るような松の樹形を、この地でも近い姿で再現できるのではないか――。後日調べてみると、東南アジアやオーストラリアなどでトクサバモクマオウを盆栽に仕立てている事例も見つかり、あながち的外れな思いつきではなかったのだと、少しうれしくなりました。
- タイ プーケット トクサバモクマオウ
- タイ プーケット トクサバモクマオウ
環境を読むことが、植栽設計の引き出しを広げる
都市の景観も、それを保つための管理の手立ても、結局はその土地の「環境」に最も大きく左右されます。生き物を主役にした空間をつくる以上、その環境要因をどれだけ深く把握できるかが、すべての出発点になる。今回の滞在で、あらためてそう実感しました。
土地ごとの個性を理解するほど、植物を用いた空間づくりの発想はやわらかくなり、ご提案できる引き出しも増えていきます。マツが難しい場所でも、その土地の木でマツの趣を写し取る道がある。そう考えられるようになるだけで、設計の自由度はずいぶん変わってきます。
これからも国内外を問わず、訪れた先々で出会った光景や気づきを、新しい空間づくりやご提案、そして樹木医としての診断の糧として、大切に持ち帰っていきたいと思います。
株式会社トシ・ランドスケープ
加藤バンジャマン正拓
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