昨年の11月、前職でお世話になった宮大工の親方に声をかけていただき、タイ・プーケットの新築物件で外壁に焼杉を施工する機会に恵まれました。焼杉そのものの話はまた別の折に譲るとして、今回は樹木にたずさわる者として何より心を奪われた、熱帯の植物たちのことを書き留めておきたいと思います。
はじめての、四季のない国へ
子どもの頃に訪れたカリブ海のグアドループ島や、これまでに巡ったヨーロッパの数カ国を別にすれば、四季のない熱帯気候の国を訪れるのは、大人になってから初めての経験でした。
訪れた11月は、ちょうど雨季から乾季への変わり目。ハイシーズンを迎える直前の、比較的過ごしやすい時期にあたります。とはいえ、紅葉の進む涼しい日本から降り立った空港で、季節が一気に夏へ巻き戻ったような強烈な蒸し暑さに包まれ、しばらく言葉を失ったのを覚えています。
それでも、熱帯の環境に息づく植物たちが織りなす風景を目の当たりにできることは、この滞在で何よりの楽しみでした。
道端のブーゲンビリアに、足を止める
最初の驚きは、空港から施主様のお車で現場へ向かう道中に訪れました。日本の道路脇でよく見かけるヒラドツツジのように、低く刈り込まれた植え込みが続いていて、それがなんと、ブーゲンビリアだったのです。
ブーゲンビリアはフランスでも日本でも育てられますが、ふつうは壁に這わせ、ボリュームたっぷりに咲かせて楽しむもの。それがコンパクトに刈り込まれ、一面に密生して咲き誇る光景は、満開のツツジに勝るとも劣らない美しさでした。
夜に立ち寄ったレストランの脇では、淡い紫の花を房に咲かせるツル性のペトレア・ヴォルビリスにも出会いました。クマツヅラ科のこの花を前にしたとき、藤が咲きはじめた頃と同じ、あの胸の高鳴りを覚えたのです。
未知の風景に、「架け橋」を探してしまう
おもしろいのは、見たことのない風景の前に立っても、私たちはつい、自分の文化や慣れ親しんだ環境との間に「架け橋」を見出そうとすることです。
ブーゲンビリアにツツジを重ね、ペトレアに藤を重ねる。その心の動きは、土地が変わっても、植物を見るまなざしの根っこは案外つながっているのだと教えてくれます。
熱帯で「松」を楽しむには──トクサバモクマオウという選択肢
帰国を前に施主様と雑談をしていたとき、こんなお話を伺いました。「たまに日本を訪れる機会があって、日本庭園や、盆栽のように仕立てられた松が好きなんです。自分の庭にもあったら素敵だろうな、と」
ただ、アカマツにせよクロマツにせよ、マツは基本的に冷涼から温暖な気候を好む樹木です。この熱帯の環境で健やかに育てるのは、正直なところ簡単ではありません。
そのとき、ふと思い出したのが、現地の街路樹や庭木としてよく見かける「トクサバモクマオウ」でした。モクマオウ科の常緑樹で、針葉樹のような細い枝ぶりから、一見すると松に間違えられることも少なくありません。じつは葉が退化した広葉樹でマツとの類縁は薄いのですが、果実は松かさによく似ています。街なかでは、丸く刈り込まれた個体も見かけました。
この木の成長特性を理解し、適切に手を入れていけば、日本庭園で見るような松の樹形を、この地でも近い姿で再現できるのではないか――。後日調べてみると、東南アジアやオーストラリアなどでトクサバモクマオウを盆栽に仕立てている事例も見つかり、あながち的外れな思いつきではなかったのだと、少しうれしくなりました。
- タイ プーケット トクサバモクマオウ
- タイ プーケット トクサバモクマオウ
環境を読むことが、植栽設計の引き出しを広げる
都市の景観も、それを保つための管理の手立ても、結局はその土地の「環境」に最も大きく左右されます。生き物を主役にした空間をつくる以上、その環境要因をどれだけ深く把握できるかが、すべての出発点になる。今回の滞在で、あらためてそう実感しました。
土地ごとの個性を理解するほど、植物を用いた空間づくりの発想はやわらかくなり、ご提案できる引き出しも増えていきます。マツが難しい場所でも、その土地の木でマツの趣を写し取る道がある。そう考えられるようになるだけで、設計の自由度はずいぶん変わってきます。
これからも国内外を問わず、訪れた先々で出会った光景や気づきを、新しい空間づくりやご提案、そして樹木医としての診断の糧として、大切に持ち帰っていきたいと思います。
株式会社トシ・ランドスケープ
加藤バンジャマン正拓
弊社ウェブサイト内にも樹木医診断や過去の事例について詳しく情報を公開しています。
樹木医診断・治療 施工実績一例をご紹介いたします。
・樹木医が製作した樹木模型を使用した剪定の練習
・港区赤坂 豊川稲荷・東京別院様 ケヤキなどの高木剪定
・ジュエリーブランドのテラス植栽メンテナンス 港区麻布台
・上野寛永寺・輪王寺 樹木医によるクスノキ剪定
・都有施設80万本の樹木一斉点検 約14,000本の「異状あり」を、樹木医はどう読むか
・港区三田 薬王寺様の境内 樹木診断 地上と樹上、樹木医がふたつの視点で木の内側を読む
・砧公園・千鳥ヶ淵のサクラ倒木 樹木医としてフジテレビ「newsイット!」様の取材を受けて
・砧公園で4回目の倒木 樹木医として思うこと
・国土交通省の全国倒木調査を樹木医が読み解く
・千鳥ヶ淵の桜が倒木。砧公園でも再び倒木。樹木医が考える、東京の老齢サクラに起きていること
・TBSテレビ「THE TIME,」 砧公園での倒木事故について樹木医として取材をいただきました
・砧公園で2日連続の倒木事故——ヒマラヤスギはなぜ倒れたのか 樹木医の考察 東京都世田谷区
・東京都世田谷区砧公園のサクラ倒木(根返りを伴う倒伏)について 樹木医の考察
・PiCUS(ピカス)導入のお知らせ 樹木診断(機器診断) 非破壊診断×微破壊診断で、樹木診断を世界水準へ
・恵比寿どろんこ山プレーパークで始まった「森の入口」プロジェクト 恵比寿南一公園
・植栽管理で失敗しない考え方 冬季落葉樹剪定と管理組合様との中長期計画 神奈川県
・良い技術は国境を越える。ヨーロッパの樹木管理スタンダードを学び、現場の判断精度を高める
・樹木診断機器 IML社製 RESI PD について
・【ツリーケア最前線】樹木医が語るRESI診断とロープワークの統合 相模原市での樹木診断レポート
・樹木模擬診断研修会を終えて 人の眼 × 機械の眼が拓く、新しい都市樹木管理のかたち
・枯死後のナラ枯れ木が抱える見えない危険 倒木リスクの科学的検証と、これからの管理のあり方
・樹木医学会 第30回大会 参加報告 都市樹木管理の未来を考える
・「大型化・老木化」時代の樹木医・街路樹診断士による東京型・街路樹や公園樹木のマネジメント
・都市部の街路樹・公園樹における老齢化と樹木医による樹木診断の重要性
・歩道の切り下げ工事に伴う樹木移植適性度診断(移植可否診断) 東京都
・樹木医がイギリスの樹木診断に学ぶ ― 都市の樹木を守るための対話と発見
・庭園樹のアカマツ 樹木医による樹勢回復、病虫害防除薬剤散布
・藍染と庭師の装い 青と緑が語る文化の物語
・日本の植木職人を支える伝統の履物「足袋」の魅力
・南アフリカの薬用多肉と都市の未来:ハオルシア由来
・マンションの植栽管理に関する考え方について
・植栽管理に関するコンサルティング業務
・マンションにおける中長期の植栽管理提案・コンサルティング マスタープラン策定 神奈川県横浜市
・学校施設 ケヤキなど樹木医診断 東京都
・公園樹木診断 樹木医による機器診断・根株診断(レジストグラフ) 東京都
・街路樹の移植可否診断(移植適性度診断) 東京都
・マンションの雑草管理(ケミカルコントロール)について 神奈川県横須賀市
・東京実業高等学校様 樹木医によるクスノキの樹勢回復作業 東京都大田区蒲田
・マンション内のイチョウ(銀杏) 樹木医診断(機器診断) 東京都大田区
・ベッコウタケによるサクラ倒木 緊急対応 東京都杉並区
・公園のサクラ(桜) 樹木医 樹木診断(機器診断) 東京都
・サクラ並木 樹木医 土壌改良・エアレーション 東京都
・いばらき樹木医会研修会 茨城県つくば市
・桜 ソメイヨシノ 樹木医診断~伐採工事
・樹木医診断 腐朽樹木・伐採工事 神奈川県川崎市
・学校施設内 桜(サクラ)樹木医診断 東京都
・銀杏岡八幡神社 台東区浅草橋 樹木医診断
・ナラ枯れ コナラ 樹木医診断・処置
・サクラ 樹木医診断(機器診断・レジストグラフ)
・樹木医診断 植栽基盤調査(土壌調査)
・樹木医診断 アカマツ
・ケヤキ・不定根発根治療 樹木医
・樹木医診断 レジストグラフ過去マンション事例
・腐朽樹木 樹木医診断・伐採工事
・腐朽樹木 樹木医診断~伐採工事 東京都目黒区
・クスベニヒラタカスミカメ クスノキの害虫 診断処置
・掘削工事 樹木医立会い診断
・中長期の植栽管理マスタープラン 神奈川県横浜市
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