TBSテレビ「THE TIME,」様に、世田谷区砧公園での倒木事故について樹木医として取材を受け、2026年3月12日(木)に放送していただきました。

TBSの放送画面(2026年3月12日)
東京都世田谷区の砧公園では、3月7日と8日の2日連続で倒木事故が発生しました。3月7日にはサクラの高木が倒れて歩行者の方が負傷され、翌8日にはヒマラヤスギが倒伏して駐車中の車両に接触しました。幸い8日のほうはけが人が出ませんでしたが、同じ公園で立て続けに大木が倒れたという事実は、やはり重く受け止めるべきだと感じています。
取材では、なぜこうした倒木が起きるのか、そして樹木医として現場をどう見ているのかについてお話しさせていただきました。
- 取材で倒木について説明する
- 事務所での取材の様子
「危ないから切る」で終わらせたくない
こうした事故が報じられると、「危ない木は全部切ってしまえばいい」という声が出ることがあります。お気持ちはわかります。大切な人が怪我をするかもしれないと思えば、不安になるのは当然です。
ただ、危険性があるからという理由だけで、安易に伐採へ傾いてほしくはありません。
公園の木には、何十年もかけてその場所に根を張り、地域の風景をつくってきた歴史があります。木陰をつくり、季節を告げ、子どもたちの記憶に残る存在でもあります。そうした価値を、一度の事故で一律に失わせてしまう判断は、あまりにもったいない。
もちろん、人の安全は最優先です。腐朽が深刻で、不特定多数の方が利用する場所にある木については、景観価値が高くても更新(植え替え)を判断しなければならない場面はあります。けれど、保存できる木であれば、樹冠荷重を軽くする剪定や土壌改良、立入動線の見直しなど、リスクを下げながら残す方法はいくつもあるのです。
大切なのは、「切るか放置か」の二択にしないこと。なぜ危険なのか、なぜ保存が難しいのか、そして景観をどう次の世代へつないでいくのか——そこまで含めて説明できる判断が必要だと考えています。
木は「突然」倒れたわけではない
今回の2件について、弊社では樹木医が現地を確認し、気象データや目視所見をもとに考察記事を公開しています。
詳細はそれぞれの記事に譲りますが、共通して言えるのは、倒木は「その日の強風でいきなり倒れた」のではなく、木そのものの衰弱、根と土の保持力の低下、そしてそこに加わった外力——この三つが長い時間をかけて重なった結果だということです。
実際、倒木当日(3月7日)の最大瞬間風速は12.3m/sで、台風のような暴風ではありませんでした。ただし、その数日前の3月3日に31.0mm、3月4日に25.5mmのまとまった雨が降っています。先行降雨で土壌が水を含み、根鉢を支える地盤が緩んでいたところへ風荷重がかかった。そうした複合的な条件が重なっていた可能性があります。
▶ 東京都世田谷区砧公園のサクラ倒木(根返りを伴う倒伏)について 樹木医の考察
▶ 砧公園で2日連続の倒木事故——ヒマラヤスギはなぜ倒れたのか 樹木医の考察
- 倒れたヒマラヤスギの根鉢。奥は駐車場
- 倒れたヒマラヤスギの根鉢
- 根返りしたヒマラヤスギ
- 倒れたサクラの根鉢
- 倒れたサクラと玉切りした幹
- 根鉢と幹の切断面
目に見えない地下にこそ、原因がある
都市の木は、地上部がどれほど立派に見えても、地下では根が十分に張れていないことがあります。舗装、縁石、埋設物、踏圧、周辺工事による根切り——そうした都市特有の制約が、長い年月をかけて木の足元を弱らせていきます。
花が咲いていても、葉が茂っていても、根元の内部では腐朽が静かに進んでいることがある。地上部の見た目だけでは安全性を判断できないところが、都市の樹木管理の難しいところです。
だからこそ私たちは、幹や枝だけでなく、木を支えている土壌環境まで含めて診ることを重視しています。外観の目視確認(樹木点検、外観診断)に加えて、疑わしい木にはピカス(PiCUS)やレジ(Resi PD)、アーボソニック3Dといった樹木診断機器(機器診断)を用いて、内部の状態を客観的に評価する。弊社では今年、ドイツIML社製の音波トモグラフィ(PiCUS Sonic Tomograph)と電気抵抗トモグラフィ(PiCUS TreeTronic)を新たに導入し、非破壊診断の精度をさらに高めました。
- 幹のセンサーと画面の断面画像
- レジ(Resi PD)の本体
- ピカスで測った木にレジを通す
- トロニックの本体
- 音波(左)と電気抵抗(右)の断面画像
- 境内の樹木での測定
- 音波トモグラフの測定画面
- 同じ木にピカス・トロニック・レジの機材
- 釘にセンサーを取り付ける
▶ PiCUS(ピカス)導入のお知らせ 非破壊診断×微破壊診断で、樹木診断を世界水準へ
これから先、樹木とどう向き合うか
今回のような事故が繰り返されないために、私たちにできることは何か。取材の場でもお伝えしましたが、まずは人への影響が大きい場所——園路沿い、ベンチ周辺、遊具まわり、駐車場——から優先して点検・診断を進めること。そして、一本ずつの対処だけでなく、「どの木を残すか」「どの木の負荷を下げて維持するか」「どの木を段階的に更新するか」を整理した中長期の管理計画を立てること。この二つが欠かせないと考えています。
同じ時代に植えられた木は、同じように高齢化しています。一本だけが特別だったのではなく、同じ課題を抱えた木が周囲にもあるかもしれない。そう考えれば、今回の事故は「対岸の火事」ではなく、都市の高木管理が向き合うべき現実そのものです。
樹木の価値と人の安全、その両方を守るために
樹木診断・管理マニュアル策定のご相談を、都内各自治体から多数いただいています。
現場での外観診断→機器診断→合意形成の一連を、制度・仕様書に落とし込むお手伝いをしています。
大型化・老木化が進む今、「診断に基づく計画的更新」と「若齢期からの良質な育成」は不可避です。
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東京都の標準(街路樹診断等マニュアル)で骨格を合わせ、
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機器診断(レジ・アーボソニック3D・ピカス)で見える化と説明責任を強化する。
この三位一体で、事故予防・景観・ライフサイクルコストの同時最適化が実現できます。
樹木医の仕事は、倒れてから理由を語ることではありません。倒れる前の小さな兆候を見つけ、診断し、優先順位をつけ、残す手立てと更新の判断を重ねていくことです。
公園利用者の安全を守ること。そしてこれから先、樹木とどのように向き合っていくべきかについては、引き続き丁寧に検討していく必要があると考えています。木の価値と人の安全——その両方を守りながら、都市の緑と共生していく仕事を、私たちはこれからも続けていきます。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
樹木医 髙尾聡司
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※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。


























