2026年9月28日(月)、東京都公園協会様の「暮らしに役立つ樹木講座 ~樹木で生活を豊かに~」で、樹木医として講師を務めさせていただきました。座学と公園でのお話の報告とあわせて、主催の東京都公園協会様と、東京都の東京グリーンビズの取組についてまとめます。
講座の実施報告──日比谷公園の緑と水の市民カレッジで
樹木医の中村雅俊(株式会社トシ・ランドスケープ)は、2026年9月28日、日比谷公園の緑と水の市民カレッジで、公益財団法人東京都公園協会様が主催する東京都都市緑化基金の講座「暮らしに役立つ樹木講座 ~樹木で生活を豊かに~」の講師を務め、木陰の効果と樹木の管理事例を、座学と公園でのお話でお伝えしました。
会場は、緑と水の市民カレッジ 2階の講習室(東京都千代田区日比谷公園1-5)です。担当は協会様の公益事業推進課 緑の基金担当で、時間は13時30分から16時30分までの3時間、定員は先着30名、受講料は無料でした。暑さ対策や住環境の向上に関心のある方、マンション・集合住宅の管理に携わる方、自治体職員の方などに向けた講座です。開催前のご案内は「9月28日 東京都公園協会「暮らしに役立つ樹木講座」(日比谷公園)で樹木医・中村雅俊が講師を務めました」に書いています。

講習室の入口に掲示された「東京都都市緑化基金 暮らしに役立つ樹木講座【会場】」のご案内
講座は、前半の座学(第1部〜第3部)、日比谷公園の中を歩く屋外の部(第4部)、講習室に戻っての講義(第5部)、ディスカッション、質疑応答の順に組みました。

開始前の講習室。机に講座の資料を置いています
座学では、なぜ都市は暑いのかというところから入り、木陰のある暮らし、緑がもたらす働き、そして私たちが日頃どのように樹木を管理しているかをお話ししました。第4部では、木陰と日なたを行き来する、足元の違いを確かめる、樹冠(枝葉が広がる部分)の下に立つ、樹冠の緑の中を歩く、という4つの体験を用意しました。

講座の資料から。第4部「実際に歩きながら、体感してみましょう。」と4つの体験
座学と公園でのお話は、どちらも好評をいただきました。終わったあとには、参加者の皆様から次回の開催を望むお声もいただいています。

日比谷公園の園内で、樹木を前にお話ししている様子(参加者のお顔はぼかしています)
木陰はなぜ涼しいのか──環境省ガイドラインの数字と、樹木が健全であること
座学の最初にお伝えしたのは、都市が暑くなるしくみです。気象庁は、ヒートアイランド現象を「都市の気温が周囲よりも高くなる現象」と説明しています。要因の一つは土地利用の変化で、アスファルトやコンクリートに覆われた地面は、草地・森林・水面などの植生域より日射の熱をため込みやすく、植生域は水分の蒸発で多くの熱を使う、とされています。

講座の資料から「なぜ、都市は暑いのか?」
環境省の「まちなかの暑さ対策ガイドライン 令和4年度部分改訂版」(令和5年3月)は、盛夏に樹木の陰に入ると、頭上からの日射と足元からの赤外放射が大幅に減り、日向に比べて暑さ指数(WBGT)が2程度、体感温度(SET)が7℃程度低くなる場合があるとしています(p.5)。暑さ指数(WBGT)は、気温に加えて湿度や日射・輻射熱の影響を合わせ、熱中症の危険度を表す指標です。
同じガイドラインには、日向と木陰の気温がほぼ同じ場合でも、木陰では日射や路面からの赤外放射が少ないために日向より涼しく感じる、とも書かれています(p.3)。気温計の数字だけでは、木陰の涼しさは測りきれません。
講座では、木陰を「木の下の面積」として見る見方もお伝えしました。樹木が地面をどれだけ覆っているかで、涼しさも変わります。

講座の資料から「木陰とは、木の下の面積である」
ただ、この効果は、葉がしっかり茂った健全な樹木があってこそだと考えています。樹勢が衰えて枝葉が少なくなった樹木や、強い剪定を繰り返して葉の量が減った樹木では、同じ一本の木でも、できる陰は小さく、薄くなります。これは文献の数字ではなく、現場での経験から感じていることです。
主催の東京都公園協会様と、緑と水の市民カレッジ、東京都都市緑化基金
東京都公園協会様は、昭和23年2月1日に任意団体として発足し、昭和29年2月25日に財団法人の設立が許可され、平成22年4月1日に公益財団法人となりました。目的には「都市緑化、公園緑地、河川及び水辺環境に関する事業を通して、都民生活に安らぎとゆとりをもたらし、あわせて日本の文化を世界に発信する。」と掲げられています。協会様の中期経営計画「NEXT STEP 2030」(2026年4月1日)によると、2025年12月の時点で、45の公園、9の庭園、8の霊園、1の葬儀所、1のビジターセンターを管理されています。

講座の日の日比谷公園
緑と水の市民カレッジは、2000年に開館した協会様の施設です。緑や水に関する講座や企画展示のほか、緑の専門図書館「東京グリーンアーカイブス」の運営などを行っています。
東京都都市緑化基金は、1985年(昭和60年)に東京都公園協会内に創設された基金です。都民の皆さまと一緒に都内の民有地の緑を増やすことを目的に、民間施設の緑化工事やボランティア団体などの緑化活動への支援と、都市緑化への理解を広げる普及啓発を続けてこられました。基金の造成額は29億5,964万円(令和8年3月31日現在)で、緑化助成事業のページでは、この助成で「東京ドーム約8個分の面積が緑化できました」と紹介されています。2025年には設立40周年を迎えました。
市民カレッジでは、東京グリーンビズに関連した講座も開かれています。2026年度後期の講座には「TOKYO GREEN BIZ 関連講座」と題したものが並び、11月5日の「樹木医と学ぼう ~スマートフォンを使って代々木公園の樹木を見てまわろう~」などが案内されています。
東京グリーンビズとは──100年先を見据えた、東京の緑の取組
東京都は、東京グリーンビズを「『自然と調和した持続可能な都市』を目指し、都民や企業の皆様など様々な方々とともに、東京の緑を『まもる』『育てる』『活かす』取組を進める、100年先を見据えた緑のプロジェクト」と説明しています(2026年9月24日の報道発表)。
始まったのは令和5(2023)年です。同年8月の資料「みどりと生きるまちづくり GREEN TOKYO BIZ」では、取組の柱は「まもる」「増やし・つなぐ」「活かす」でした。令和6(2024)年1月の「東京都の緑の取組 Ver.2」から「まもる」「育てる」「活かす」となり、いまの基本資料は令和7(2025)年1月の「東京都の緑の取組 Ver.3」です。Ver.3 に並ぶ主な取組は、次のとおりです。
- まもる: 農地を守る、樹林地(屋敷林等)を守る、豊かな自然(保全地域等)を守る、森林(水道水源林等)を守る
- 育てる: 公園の整備、街路樹の充実、緑と水のネットワーク化、東京グリーンビズ・ムーブメントの推進(東京の緑を知り、親しむ/体験・参加する)など
- 活かす: 自然が有する機能を活用する「グリーンインフラ」の導入、緑の多様な価値を活かす、など
「育てる」の一つ、街路樹では、東京都建設局が計画的な剪定で樹冠を大きくする取組を進めています。建設局の「7.街路樹の樹冠拡大」には、「街路樹の枝や葉を大きく広げることで、木陰を確保して夏の日差しをさえぎったり、まちにうるおいを与え、魅力ある景色をつくることができます。」と書かれています。
2026年9月24日には、オフィスビルの緑に囲まれた空間で休息の効果を確かめる「東京グリーンビズ・ラウンジ」(10月7日〜23日、大手町タワーなど)と、緑豊かなスポットを巡る「東京グリーンビズウォーク」(実施期間 10月26日〜12月20日)が発表されました。
東京都公園協会様も、東京グリーンビズのコラボレーションパートナーとして都の一覧に載っています。「NEXT STEP 2030」にも、パートナーとして緑化の普及啓発や都市緑化基金の PR を行っていると書かれています。
「まもる・育てる・活かす」と、私たちの仕事の重なり
当社は、グリーンメンテナンス(植栽管理)、ツリーリスクアセスメント(樹木診断)、ランドスケープコンサルティング(植栽コンサルティング)の3つの部門で、樹木の仕事をしています。都の3つの柱を読み返すと、普段の仕事と同じ方向を向いていると感じるところが多くありました。
まもる──ツリーリスクアセスメント(樹木診断)
Ver.3 の「まもる」には、公園の樹林の管理として「大径木等を中心とした樹木診断」が書かれています。長い時間をかけて大きく育った樹木は、一度失うと、同じ姿に戻るまでに何十年もかかります。危険があるからという理由だけで伐採に傾くのではなく、樹木診断で幹や根の状態を確かめ、利用する方の安全を確保しながら残す道を探る。この仕事は、今ある緑を守る取組と重なっていると考えています。都の記述の読み方は、連載「東京グリーンビズ」の第1回に書きました。
育てる──グリーンメンテナンス(植栽管理)
「樹木は植えた時がスタート」。この考え方が、私が樹木医を目指したきっかけでした。植えたあとの手入れの積み重ねで、樹木の姿は決まっていきます。木陰の節で書いたように、強く切り詰める剪定を繰り返せば、木陰も小さくなります。建設局が進める、枝や葉を大きく広げて木陰を確保する剪定は、私たちが普段の植栽管理で大切にしていることと重なります。

講座の資料から「剪定には目的がある」
講座では、剪定には安全・日照・通行・樹形・木陰といった目的があり、現場ごとにどの目的を重く見るかを考えて管理している、とお話ししました。街路樹の樹冠を広げる剪定については、連載の第2回でも考えを書いています。
活かす──ランドスケープコンサルティング(植栽コンサルティング)
Ver.3 の「活かす」には、自然が有する機能を活用するグリーンインフラの導入が挙げられています。木陰による暑さの緩和は、緑の機能を暮らしに活かす、身近な例の一つだと思います。マンションや施設の植栽を、目の前の作業だけで考えず、中長期の計画で景観と住環境の価値につなげていく。当社のGREEN MANAGEMENTは、プランニング・メンテナンス・専門業務までを長期的な視点で植栽管理をして、建物の景観や資産などの付加価値を向上させるためのマネジメント手法です。当社では、伝統的な造園技術と、欧米で発展してきたアーボリカルチャー(樹木学・樹芸学)の専門技術・知識を融合して、植栽管理に取り入れています。

講座の資料から「大きく育てるか、環境に合わせるか」
同じ樹木でも、大きく育てる管理と、建物や道の環境に合わせる管理があります。講座では、どちらが正解ということではなく、目的に合わせて選ぶことが大切だとお伝えしました。その目的を決めるところから管理組合や施設の方と一緒に考えるのが、植栽コンサルティングの仕事です。緑の効果をどう測り、どう伝えるかは、連載の第3回に書きました。
知り、親しむ──講座という機会
「育てる」には、東京の緑を知り、親しむ、体験・参加する、という東京グリーンビズ・ムーブメントの推進も含まれています。座学で木陰のしくみを知り、公園で木陰を体感していただく今回の講座は、樹木を知り、親しむ機会になったと思います。

日比谷公園で、参加者の皆様にお話ししている様子(参加者のお顔はぼかしています)
当社のミッションは「都市の景観に付加価値を 人と都市をグリーンでつなぐ」です。都が掲げる「様々な方々とともに」「100年先を見据えた」という言葉とは、緑を一時の飾りではなく、長い時間をかけて育てていくものとして捉えている点で、同じ方向を見ていると感じています。
次回へのご要望と、これから
次回の開催を望むお声は、ありがたく受け止めています。また機会をいただけましたら、樹木の話をさせていただければと思います。
東京都公園協会様、緑の基金担当の皆様、そしてご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
よくある質問(Q&A)
Q1. 東京グリーンビズとは何ですか?
A. 東京都が進める、100年先を見据えた緑のプロジェクトです。「自然と調和した持続可能な都市」を目指し、都民や企業など様々な方々とともに、東京の緑を「まもる」「育てる」「活かす」取組を進めています。令和5(2023)年に始まり、いまの基本資料は令和7(2025)年1月の「東京都の緑の取組 Ver.3」です。
Q2. 木陰に入ると、どのくらい涼しくなりますか?
A. 環境省の「まちなかの暑さ対策ガイドライン 令和4年度部分改訂版」では、盛夏に樹木の陰に入ると、日向に比べて暑さ指数(WBGT)が2程度、体感温度(SET)が7℃程度低くなる場合があるとされています。頭上からの日射と足元からの赤外放射が大幅に減るためです。気温がほぼ同じでも、木陰では日向より涼しく感じるとも書かれています。
Q3. 緑と水の市民カレッジとは、どのような施設ですか?
A. 日比谷公園の中(東京都千代田区日比谷公園1-5)にある、公益財団法人東京都公園協会の施設で、2000年に開館しました。緑や水に関する講座や企画展示のほか、緑の専門図書館「東京グリーンアーカイブス」の運営などを行っています。
Q4. 東京都都市緑化基金とは何ですか?
A. 1985年(昭和60年)に東京都公園協会内に創設された基金です。都内の民有地の緑を増やすことを目的に、民間施設の緑化工事やボランティア団体などの緑化活動への支援と、都市緑化への理解を広げる普及啓発を行っています。2025年に設立40周年を迎えました。
出典・参考情報
・公益財団法人東京都公園協会「9/28「暮らしに役立つ樹木講座 ~樹木で生活を豊かに~」を開催します」
・公益財団法人東京都公園協会「組織概要」
・公益財団法人東京都公園協会「中期経営計画 NEXT STEP 2030」(2026年4月1日)
・公益財団法人東京都公園協会「緑と水の市民カレッジ」
・公益財団法人東京都公園協会「東京都都市緑化基金」「緑化助成事業」
・気象庁「ヒートアイランド現象とは」「ヒートアイランド現象の要因」
・環境省「まちなかの暑さ対策ガイドライン 令和4年度部分改訂版」(令和5年3月)
・東京都政策企画局「みどりと生きるまちづくり GREEN TOKYO BIZ」(令和5年8月)
・東京都政策企画局「東京都の緑の取組 Ver.3」(令和7年1月)
・東京都建設局「7.街路樹の樹冠拡大」
・東京都報道発表「東京グリーンビズ・ラウンジ」「東京グリーンビズウォーク」(2026年9月24日)
・TOKYO GREEN BIZ MAP「コラボレーションパートナー 一覧」
関連記事
・9月28日 東京都公園協会「暮らしに役立つ樹木講座」(日比谷公園)で樹木医・中村雅俊が講師を務めました
・東京グリーンビズが「大径木の樹木診断」を掲げたことを、樹木医はどう読むか──連載 まもる・育てる・活かす 第1回
・街路樹100万本の「樹冠を拡大する」剪定──都の方針を、現場で樹木を育てる側はどう受け止めるか|東京グリーンビズ連載 第2回 育てる
・緑の効果を「定量化する」と都は書いた──樹木医が測れるもの、まだ測れないもの|東京グリーンビズ連載 第3回 活かす
・樹木医として緑を維持管理してきた経験から考える都市の価値
・植栽コンサルティング 中長期的視点で描く、持続可能な緑の未来
































