雪吊り(ゆきづり)は、湿った重い雪で枝が折れないように、芯柱から張った縄で枝を吊る日本の造園技術です。模型の構造解析では積雪の荷重を最大で40%程度減らせると報告されています。仕組みと4つの種類、兼六園と東京の都立庭園の違い、史料で分かる歴史、冬前の樹木点検を樹木医がまとめました。
この記事の要点
- 雪吊りは、枝に乗った雪の重さの一部を縄と芯柱に受け持たせる技術です。2004年の構造解析(模型とモデル式)では、りんご吊りで樹木に作用する積雪荷重を最大で40%程度軽減できると報告されています。実際の庭で、吊った木と吊らない木の枝折れを比べた研究は見つかりませんでした。
- 雪で枝が折れるかどうかを左右するのは、積雪の深さより、枝にどれだけ雪が着くかです。気温マイナス3〜0℃で降る湿った雪が枝に着きやすく、冠雪害は年間の積雪量とは直接関係しません。雪の少ない東京でも無関係ではありません。
- 東京の都立庭園の雪吊りは、冬の景観の演出と技能伝承が目的だと、東京都公園協会が説明しています。兼六園では実用と景観を兼ねています。
- 「江戸時代から兼六園で続く」という言い方は、史料では確かめられていません。金沢市は、りんごの枝吊りを雪吊りに取り入れたのは明治後期以降と考えられると説明しています。
毎年11月になると、ニュースで兼六園の雪吊りの映像が流れます。それを見ると、今年も冬の仕事が始まるなと身が引き締まります。今年(2026年)も11月1日の朝、唐崎松から作業が始まったと報じられました。東京でも六義園が、11月1日の帆柱づくりに続いて、15日に縄下ろしの見学会を予定しています。
雪吊りは本当に枝を守っているのか。雪の少ない東京でなぜ雪吊りをするのか。いつから行われているのか。この記事では、公的な資料と研究を一つずつ確かめながら整理しました。資料で確かめられなかったことは、確かめられなかったと書いています。

兼六園の唐崎松の雪吊り。5本の芯柱から約800本の縄で枝を吊る。写真: lienyuan lee, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons
雪吊りとは何か──芯柱と縄で枝を吊る、冬の支柱
雪吊りとは、雪の重さで枝が折れないように、幹のそばに立てた柱(芯柱)や幹から張った縄で、枝を上から吊って支える技術です。代表的な形は「りんご吊り」で、幹の近くに1本の芯柱を立て、その先端から放射状に縄を張り、1本ずつ枝に結びます。縄が円錐形に広がるので、遠くからは傘を広げたように見えます。
読み方は「ゆきづり」と「ゆきつり」の両方があります。石川県立図書館のレファレンス事例によると、確認できた最も古い図書『四季の兼六園』(1967年)の振り仮名は「ゆきづり」で、新聞の見出しで最も古い表記は1964年11月29日の「雪つり」でした。金沢では「ゆきつり」、能登では「ゆきづり」と言う人が多いかもしれない、という聞き取りも添えられています。この記事では「ゆきづり」と書きます。
春に外すことが前提の、冬だけの支柱だと考えると分かりやすいと思います。当社の記事「日本の樹木支柱の種類と歴史」で書いた支柱が根を守るものなら、雪吊りは枝を守るものです。

雪吊りの4つの種類。左上から、りんご吊り・幹吊り・竹又吊り・しぼり(当社イラスト)
雪はなぜ枝を折るのか──湿った雪と「一度に降る雪」
雪で枝が折れるかどうかを左右するのは、積もった雪の深さよりも、枝葉にどれだけ雪が着くかです。森林総合研究所が新潟県十日町市でスギを使って行った野外実験では、気温マイナス3〜0℃で降る雪がとくに樹木に付着しやすく、0℃以上では気温や日射に応じて、融けて落ちる量が増えることが分かりました(2023年8月31日のプレスリリース。論文は Katsushima ほか、Hydrological Processes、2023年)。氷の融点に近い温度では雪の粘着力が高くなり、樹冠に雪がとらえられやすいためと考えられています。
これは新しい知見というより、古くからの観測と同じ向きの結果です。1952年の高橋の観測では、冠雪(枝に雪が乗ること)はおおむね気温1℃以下で起こり、0℃をわずかに下回るときに冠雪率が最も大きくなりました(日本森林学会『森林科学』88号の解説記事)。新潟県長岡で測った降雪直後の新雪の平均密度は0.072 g/cm³で、論文は、冬の月平均気温が0℃前後の北陸のような地域では新雪が湿って重いと述べています(五十嵐、『雪氷』53巻2号、1991年)。

図1 雪はどんな気温のときに枝へ着くか。森林総合研究所(2023年)の説明をもとにした概念図
もう一つ大事なのは、冠雪害は「一時に大量に降る雪によって発生する災害的な被害であって、年間の積雪量の多少に直接影響されるものではない」という林業試験場の指摘です。そのため「冠雪害の危険性は必ずしも多雪地方に多いとはいえない」とされています(佐伯・杉山「林木の冠雪害危険地域」林業試験場研究報告172号)。2014年の『日本森林学会誌』の論文も、冠雪害は「多雪地帯のみではなく、むしろ少雪地帯において甚大な被害」が生じると書いています。
東京の樹木も無関係ではない、ということです。現場での経験から言えば、慣れない湿った雪が一晩で降った朝が、いちばん枝が落ちます。雪に慣れた地域の木より、雪に慣れていない地域の、葉の残った木の方が危ないのです。
| 要因 | 枝が折れやすくなる条件 | 出典 |
|---|---|---|
| 気温 | マイナス3〜0℃の降雪は樹木に付着しやすい、0℃以上では融けて落ちる | 森林総合研究所(2023) |
| 雪の質 | 融点に近い湿った雪は粘着力が高く重い(新雪の平均密度 0.072 g/cm³、長岡) | 森林総合研究所(2023)、五十嵐(1991) |
| 降り方 | 一度に大量に降る雪で起こり、年間の積雪量とは直接関係しない | 佐伯・杉山(林業試験場研究報告172号) |
| 地域 | 多雪地帯より、むしろ少雪地帯で大きな被害が出ることがある | 日本森林学会誌(2014) |
| 葉 | 落葉前の初雪は葉に雪がたまり、枝折れが一度に多く出る(札幌市 平成22年10月) | 国土技術政策総合研究所の事例集 |
出典: 各行のとおり(詳細は記事末尾の出典・参考情報)
雪吊りの仕組み──枝の付け根を曲げる力を、縄と芯柱に逃がす
雪吊りの考え方は単純です。枝の上に雪が乗ると、枝は付け根を支点にして下へ曲げられます。雪が付け根から遠い所に乗るほど、付け根を折ろうとする力(曲げの力)は大きくなります。そこで枝の途中を縄で上から吊り、雪の重さの一部を縄と芯柱に受け持たせます。

雪吊りが枝を守る仕組み。枝に乗った雪の重さの一部を、縄が芯柱へ逃がす(当社イラスト)
この効果を数字で確かめた研究が一つあります。大村充・岸塚正昭「雪吊りの構造解析」(『ランドスケープ研究』67巻5号、2004年)です。最下段の太い枝(力枝)を模した横材・吊り縄・芯柱の模型で、モデル式による軸方向の力を検証し、わら縄の引張強度試験も行っています。結論は、りんご吊りの装置は「樹木へ作用する積雪荷重を最大で40%程度軽減」できる、というものでした。それまで職人の経験で決めていた縄の本数を、計算で求める理論式も提案しています。
ただし、この研究で確かめられているのは模型での荷重の軽減です。実際の庭で、雪吊りをした樹木としていない樹木の枝折れの率を比べたデータは、私が調べた範囲では見つかりませんでした。同じ論文にある「吊り縄の角度は40°前後が好ましい」という数字も、アンケートで「視覚的に美しい」とされた角度で、力学的に最も効く角度という意味ではありません。
現場の目安はどうなっているか。千葉市が公開している雪吊りの手順書(1991年の日本庭園協会の講義資料を出典とするもの)では、吊り縄の本数は「円周÷0.2m(20cm間隔の場合)」、帆柱(芯柱)の長さは「樹高×1.3倍以上かつ枝幅以上」とされ、幹を守るため、帆柱が当たる部分に杉皮テープを巻くことも書かれています。
| 項目 | 目安 | 出典 |
|---|---|---|
| 吊り縄の本数 | 外周の円周÷0.2m(縄の間隔を20cmにする場合) | 千葉市の雪吊り手順書 |
| 帆柱(芯柱)の長さ | 樹高×1.3倍以上、かつ枝幅以上 | 同上 |
| 幹の保護 | 帆柱が幹に当たる部分に杉皮テープを巻く | 同上 |
| 荷重の軽減 | りんご吊りで最大40%程度(模型とモデル式による) | 大村・岸塚(2004) |
| 縄の角度 | 40°前後が「視覚的に美しい」(アンケートによる) | 大村・岸塚(2004) |
出典: 千葉市「雪吊り手順書」、大村・岸塚「雪吊りの構造解析」ランドスケープ研究67(5)、2004年
果樹の分野にも参考になる例があります。秋田県果樹試験場の「果樹の雪害を省力的に回避できる技術」(平成31年3月)では、モモで支柱から枝を吊る栽培に「一定の雪害防止効果が認められた」とされる一方、「枝の角度が水平に近かった樹体では、効果が十分ではなかった」とも書かれています。果樹で問題になるのは枝が雪に埋もれて受ける力なので、庭木の冠雪とは仕組みが少し違いますが、縄を張れば何でも守れるわけではない、ということは共通していると思います。
雪吊りの4つの種類──りんご吊り・幹吊り・竹又吊り・しぼり
兼六園の雪吊りは、樹木の大きさと形に合わせて、おおむね4つの方法を使い分けています。石川県金沢城・兼六園管理事務所の資料(平成26年)に載っている方法と数は次のとおりです。
| 種類 | 方法 | 向く樹木 | 兼六園の数(平成26年) |
|---|---|---|---|
| りんご吊り | 幹のそばに芯柱を立て、先端から放射状に縄を張って枝を吊る | マツなど枝張りの大きい高木 | 54本 |
| 幹吊り | 芯柱を立てず、幹の上部から縄を張って枝を吊る | 幹のしっかりした大木 | 60本 |
| 竹又吊り | 竹を三つ又・四つ又に組んで立て、その交点から縄を張る | 中くらいの高さの木 | 約300組 |
| しぼり(絞り) | 低木の枝を縄でまとめて上向きに絞る | ツツジなどの低木 | 約400本 |
出典: 石川県金沢城・兼六園管理事務所 記者発表資料(平成26年10月30日)。数は年度により少し変わり、令和8年の予定はりんご吊り50本・幹吊り59本・その他約700か所

図2 兼六園の雪吊りの種類ごとの数(平成26年)
ニュースで映るのは唐崎松のりんご吊りですが、数で見れば園内の雪吊りの多くは低木の「しぼり」と中くらいの木の「竹又吊り」です。雪吊りは名木のためだけの技ではなく、庭全体を冬に備えさせる仕事の総称だと分かります。

兼六園の雪吊り(11月)。高木のりんご吊りの手前に、中くらいの木と低木の雪吊りが並ぶ。写真: 663highland, CC BY 2.5, via Wikimedia Commons
雪吊りの限界と、樹木医として気になること
樹木医として気になるのは、効果の数字そのものより、設置と撤去の丁寧さです。
一つは、芯柱が幹に当たる部分です。千葉市の手順書でも杉皮テープを巻くと書かれているとおり、硬い丸太や竹が樹皮に直接当たったまま風で動くと、樹皮がすれて傷になります。当社の現場でも、支柱や結束材が当たる所には必ず当て物をします。雪吊りの芯柱も同じ考え方です。

芯柱が幹に当たる部分に杉皮を巻き、樹皮を守る(当社イラスト)
もう一つは、春に外し忘れた縄です。雪吊りの縄に限った研究は見つかりませんでしたが、国土交通省の「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)参考資料」は、支柱を長く放置すると樹幹に食い込み、「損傷した部分から腐朽が入り、幹折れを起こすおそれがある」と注意しています。幹は毎年太ります。縄も支柱の結束材も、外さなければいつか樹皮に食い込み、そこが傷になります。縄も同じように考え、季節が終わったら必ず外すことが大原則です。兼六園では3月15日ごろから約1週間で取り外しを終えます(石川県の平成26年資料)。

外し忘れた縄が幹に食い込んだ状態。くびれの傷から腐朽が入ることがある(当社イラスト)
そしてもう一つ。雪吊りは健全な枝を支えるものであって、弱った枝や腐った枝を直すものではありません。この点は最後の節で改めて書きます。
菰巻きとの違い──雪ではなく、虫のための冬支度
冬の庭で雪吊りと一緒に見かけるのが、マツの幹に藁の菰(こも)を巻く「菰巻き」です。これは雪対策ではなく、越冬のために幹を降りるマツカレハの幼虫を菰の中に集め、春に菰ごと外して処分する害虫防除として行われてきました。

マツの幹の菰巻き。雪のためではなく、マツカレハの幼虫を集めるための冬支度(当社イラスト)
ところが、その中身を調べた研究があります。新穂千賀子さんらが姫路城とその周りの約300本のマツで、2002年から毎年3月に菰の中の生物を調べたところ、2006年までの5回の調査で見つかった生物は、クモ類やヤニサシガメなど、マツカレハを食べる側の益虫が57%でした。マツカレハの幼虫などの害虫はわずか4%で、マツカレハは菰を外したあとの幹の割れ目に残っていました(日本生態学会第55回大会の講演要旨)。

図3 姫路城とその周辺のマツの菰巻きの中で見つかった生物の内訳(新穂ほか、日本生態学会第55回大会)
発表者はこの結果を、菰巻きは防除より、むしろ益虫を増やし害虫を見張る手段として評価できる、という向きにも読んでいます。一方、皇居外苑では、環境省が「冬の風物詩であったこも巻きは、マツカレハの発生がほとんど見られなくなり、現在は行われていません」と説明しています。私も今は、菰巻きを防除の手段というより、冬の景色の一部として見ています。

浜離宮恩賜庭園のマツの菰巻き(2013年11月)。写真: Paul Asman and Jill Lenoble, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
兼六園の唐崎松──数字で見る雪吊り
雪吊りと聞いて多くの方が思い浮かべるのは、金沢・兼六園の唐崎松だと思います。石川県の資料から、数字だけ並べてみます。
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 唐崎松の大きさ | 高さ9.0m、枝張り21.0m、幹回り2.6m |
| 芯柱 | アテの丸太5本、最も高いもので16.0m |
| 縄 | 径6mmと8mmの藁縄を芯柱1本あたり50〜200本、合計約800本 |
| 園全体のわら縄 | 約4,000kg |
| 延べ作業人数 | 約500人 |
| 作業の期間 | 11月1日に唐崎松から始め、12月中旬に終了(2026年は11月1日 午前9時に開始) |
| 取り外し | 3月15日ごろから約1週間、唐崎松を最後に外す |
出典: 石川県金沢城・兼六園管理事務所 記者発表資料(平成26年10月30日・令和8年10月23日)

唐崎松の雪吊りの大きさ。高さ9m・枝張り21mの松に、最大16mの芯柱5本と約800本の縄(石川県の資料をもとにした当社イラスト)
高さより枝張りが2倍以上広い、横に長い松です。その上に、松より高い芯柱を5本立て、約800本の縄を枝1本ずつに結んでいきます。園全体で使う縄は約4トン、延べ500人の仕事です。そして3月、取り外しの最後に唐崎松の縄がほどかれ、県の資料の言葉を借りれば「北陸の春を迎えます」。実用の技術でありながら、季節の始まりと終わりを告げる行事にもなっています。
2025年は11月1日が雨で、唐崎松の雪吊りは4日に行われたと報じられました。今年(2026年)の県の発表も、雨なら低い木から始め、唐崎松は翌2日の朝8時に回すとしていました(今年は天候に恵まれ、1日に唐崎松から始まりました)。縄を結ぶ職人が濡れた枝の上に乗るのは危ないからだと、現場の人間としては読みます。

兼六園の雪吊りの作業(2018年11月1日)。芯柱の先から下ろした縄を、枝に1本ずつ結んでいく。写真: RachelH_, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
俳句では「雪吊」は冬の季語です。辞書(デジタル大辞泉)には例句として高浜虚子の「雪吊の小さき松や小待合」が載っています。大きな名園の松だけでなく、小さな庭の小さな松にも縄を掛ける。その暮らしの風景ごと季節の言葉になっているところが、私は好きです。

雪の兼六園。徽軫灯籠と唐崎松の雪吊り(2015年1月)。写真: そらみみ, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
雪の少ない東京で、なぜ雪吊りをするのか
浜離宮恩賜庭園、六義園、小石川後楽園、旧古河庭園など、東京の都立庭園でも12月から3月にかけて雪吊りが見られます。東京都公園協会は、東京の雪吊りは「兼六園など雪国の庭園にならって始められました」と書き、降雪の少ない東京では庭園に趣を添える装飾として採り入れられたと説明しています。浜離宮も六義園も、「積雪の少ない東京では、冬の景観を演出することを目的に」行っていると公式に書いています。
もう一つの目的が技能伝承です。小石川後楽園のかわら版(第178号)によると、都立庭園の雪吊りは「1980年(昭和55年)ごろより、技能伝承として代々の庭師に受け継がれています」。かつての北部・南部の公園緑地事務所の親方の手法が、それぞれ「北部式」「南部式」という2つの仕様になりました。
| 北部式 | 南部式 | |
|---|---|---|
| 頭飾り | ワラボッチ(藁で作った円錐形の帽子) | バレン(纏の房飾りに由来する藁の房) |
| 外周り(ブチ) | 割竹 | シュロ縄 |
| 由来 | 北部公園緑地事務所の親方の手法 | 南部公園緑地事務所の親方の手法 |
出典: 東京都公園協会「冬の見ごろ」、小石川後楽園かわら版 第178号(令和7年12月10日)。最近は両方を組み合わせたものも作られている

東京の都立庭園の雪吊りの2つの様式。左が北部式(ワラボッチと割竹)、右が南部式(バレンとシュロ縄)(当社イラスト)
庭園を歩くとき、芯柱の頭を見比べると、どちらの流れの職人の仕事かが分かります。藁の帽子なら北部式、房が垂れていれば南部式です。当社でも2025年12月、泉グリーンサービスの保泉さんから藁ボッチの作り方を教えていただきました。そのとき私は「藁の向き、締め具合、編み込みの間隔など数値では表せない感覚こそが、この手仕事の核心だと改めて実感しました」と書いています(2025年12月17日の当社の投稿)。帽子一つにも、数値にならない技が詰まっています。

小石川後楽園の雪吊り(2014年1月)。芯柱の先端に藁の頭飾りが載る。写真: Guilhem Vellut from Annecy, France, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
雪吊りは都立庭園の外にも広がっています。新宿御苑(環境省所管)は2019年から兼六園式の雪吊りを行い、2023年の吊り縄は88本でした(国民公園協会の記事)。海外では、アメリカのポートランド日本庭園(Portland Japanese Garden)に、1982〜84年に金沢出身の園長 佐野吉郎氏が雪吊りを導入しました。長く途絶えていたものが2024年の冬に再び設置され、園の公式サイトは、ポートランドでは「more of an aesthetic touch(どちらかといえば景観のため)」と説明しています。雪国の実用の技が、雪の少ない土地では景観と技の継承のために受け継がれる。東京と同じことが、海の向こうでも起きています。
| 庭園 | 見られる時期・できごと |
|---|---|
| 兼六園(金沢) | 11月1日から12月中旬にかけて作業し、3月中旬に取り外す(実用と景観を兼ねる) |
| 都立庭園9園(旧芝離宮・旧古河・清澄・小石川後楽園・神代植物公園・殿ヶ谷戸・浜離宮・向島百花園・六義園) | 見ごろは12月から3月(冬の景観の演出と技能伝承) |
| 六義園(2026年) | 11月1日 帆柱製作、11月15日 縄下ろしの見学会(東京都公園協会の告知) |
| 新宿御苑 | 2019年から兼六園式、2023年の吊り縄は88本 |
| ポートランド日本庭園(アメリカ) | 1982〜84年に導入、2024年の冬に再び設置 |
出典: 石川県の資料、東京都公園協会「冬の見ごろ」、六義園のお知らせ(2026年10月20日)、国民公園協会 新宿御苑(2023年12月21日)、Portland Japanese Garden の公式サイト
雪吊りの歴史──分かっていることと、分かっていないこと
「雪吊りは江戸時代から兼六園で続く伝統」と紹介されることがありますが、ここは慎重に見た方がよいところです。
史料で確かめられるのは、加賀藩が寛文3年(1663年)に改作奉行へ「雪折・風折・立枯、念を入相改。附、雪前無滞竹巻せ可申事」と指示していたことです(『特別名勝兼六園 本編』が引く「改作方仕帳」。石川県立図書館のレファレンス事例による)。雪や風で折れた木や立ち枯れをよく調べ、雪の前には滞りなく「竹巻」をせよ、という意味です。ただし同じ本は、この「竹巻が今に見る雪吊りの方法であったかは、定かではない」としています。昭和12年(1937年)の写真集『名園兼六園写真大観』の「真弓坂の雪景」には、雪吊りのない雪景色が写っています。
「りんご吊り」という名前について、金沢市は、長町の武家屋敷の敷地内にりんごや柿の果樹園があり、たわわに実ったりんごの実の重みから枝折れを防ぐため縄で枝を吊ったことが由来だとされる、と説明しています。そして「リンゴの枝吊りを雪吊りにとりいれたのは明治後期以降であると考えられています」と書いています。金沢市は2024年(令和6年)4月1日、石川県造園業協同組合金沢支部を保持団体として、雪吊りを市の無形の歴史文化遺産に認定しました。大村・岸塚の論文の補注にも、西洋リンゴは明治8年ごろ石川県に導入され、りんご吊りの歴史は100年ほどというのが通説だと書かれています。

実の重みで枝が折れないように、リンゴの枝を縄で吊る枝吊り。「りんご吊り」の名前の由来とされる(当社イラスト)
なお、加賀藩士の日記には、安政2年(1855年)に江戸の藩邸で「アッフル」を育てて食べた記録があります。これがセイヨウリンゴかどうかは研究者も断定しておらず(柳沢芙美子「福井藩巣鴨下屋敷のリンゴをめぐって」『福井県文書館研究紀要』7、2010年)、場所も金沢ではなく江戸です。兼六園で雪吊りが始まった正確な年と、「雪吊り」という言葉が文献に初めて出てくる箇所は、私が調べた範囲では確認できませんでした。

図4 雪吊りの歴史の年表。出典のある出来事だけを並べたもの
分からないことは分からないとしたうえで、職人たちが何世代もかけて機能と美しさを磨いてきた技だと受け止めるのが、いちばん誠実だと思います。
雪吊りより先に見ておきたいもの──雪が降る前の樹木点検
最後に、現場の人間として一番お伝えしたいことです。雪で折れる枝や倒れる樹木の多くは、雪が降る前からすでに弱っています。国土技術政策総合研究所の「街路樹の倒伏対策の手引き」には、「倒伏(根返り、幹折れ)や枝折れする樹木の多くは、樹体が被害の発生前に、損傷や衰退、腐朽等により障害を受けている樹木であることが多い」と書かれています。
同じ研究所の事例集には、札幌市で平成22年10月、落葉前の初雪で街路樹に出た被害が載っています。倒木72本、半倒木74本、枝折れ1,272本でした。葉が残っている時期に湿った雪が降ると、葉に雪がたまり、一晩で大量の枝が落ちます。

図5 落葉前の初雪で街路樹に出た被害(札幌市、平成22年10月)。国土技術政策総合研究所の事例集をもとに作成
東京都建設局の「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度)は、キノコを作る腐朽菌が剪定痕などの傷口から入り込み、木部を分解して強度を落とし、「倒木や落枝を起こしている」と説明しています。腐朽は外からは見えないまま進みます。根元や幹にベッコウタケのようなキノコが出ている、大枝の付け根に割れがある、枝先の伸びが年々落ちている。こうしたサインのある樹木に湿った雪が乗れば、縄で吊っていても折れることがあります。

雪が降る前の樹木点検。根元のキノコと大枝の付け根の割れは、雪の重さで折れる前のサイン(当社イラスト)
落葉樹の骨格が見やすくなる晩秋は、外観診断にちょうどよい季節です。気になる樹木があれば、雪が降る前に一度、樹木診断で状態を確かめておくことをお勧めします。縄を掛ける前に、掛ける枝が健全かどうかを見ておく。それが、雪吊りより確実な冬支度になることもあります。
今年も11月1日に、唐崎松から冬が始まりました。縄の傘の美しさの下に、枝を守るための計算と、何世代もの手の感覚があることを思いながら、私も現場の木を見上げる冬にしたいと思います。
よくある質問(Q&A)
Q1. 雪吊りにはどのくらい効果がありますか?
A. 模型とモデル式による構造解析では、りんご吊りで樹木に作用する積雪荷重を最大で40%程度軽減できると報告されています(大村・岸塚、2004年)。実際の庭で、吊った木と吊らない木の枝折れを比べた研究は見つかっていません。縄は健全な枝を支えるもので、腐朽や衰えのある枝を直すものではありません。
Q2. 雪吊りはどんな雪に意味がありますか?
A. 気温マイナス3〜0℃で降る湿った雪は樹木に付着しやすいことが、森林総合研究所のスギの野外実験で分かっています。冠雪害は一度に大量に降る雪で起こり、年間の積雪量とは直接関係しないため、雪の少ない地域でも、慣れない湿った大雪のときは枝折れが起こります。
Q3. りんご吊りの名前の由来は何ですか?
A. 金沢市は、長町の武家屋敷の果樹園で、たわわに実ったりんごの実の重みから枝折れを防ぐため縄で枝を吊ったことが由来だとされる、と説明しています。りんごの枝吊りを雪吊りに取り入れたのは明治後期以降と考えられています。
Q4. 兼六園の雪吊りはいつからいつまで見られますか?
A. 例年11月1日に唐崎松から作業が始まり、12月中旬までに園内の約800か所で完成します。取り外しは3月15日ごろから約1週間で、唐崎松を最後に外します。2026年も11月1日の朝、唐崎松から始まりました。
Q5. 雪の少ない東京でなぜ雪吊りをするのですか?
A. 東京都公園協会は、東京の雪吊りは兼六園など雪国の庭園にならって始められ、降雪の少ない東京では庭園に趣を添える装飾として採り入れられたと説明しています。都立庭園では1980年(昭和55年)ごろから、技能伝承として代々の庭師に受け継がれています。
Q6. 北部式と南部式の違いは何ですか?
A. 東京の都立庭園の雪吊りの2つの様式です。北部式は頭飾りがワラボッチで外周りに割竹を使い、南部式は頭飾りがバレンで外周りにシュロ縄を使います。かつての北部・南部の公園緑地事務所の親方の手法に由来します。
Q7. 雪吊りは江戸時代からあるのですか?
A. 史料で確かめられていません。加賀藩は寛文3年(1663年)に雪の前の「竹巻」を指示していますが、それが今の雪吊りと同じ方法だったかは「定かではない」とされています。金沢市は、りんごの枝吊りを雪吊りに取り入れたのは明治後期以降と考えられると説明しています。
Q8. 菰巻きは雪吊りと同じ目的ですか?
A. 違います。菰巻きはマツカレハの幼虫を菰の中に集める害虫防除として行われてきたもので、雪を防ぐものではありません。姫路城の調査では菰の中の生物の57%が益虫で、害虫は4%でした。皇居外苑では、マツカレハの発生がほとんど見られなくなったため現在は行われていません。
Q9. 自宅の庭木にも雪吊りは必要ですか?
A. 東京では、毎年必要になることはまれです。枝張りの大きいマツや常緑樹があり、湿った大雪の予報が出たときや、腐朽・樹勢の衰えのある樹木では、雪の前の点検や支えを検討する価値があります。縄や支柱は、季節が終わったら必ず外します。
Q10. 雪の前に樹木の何を見ておけばよいですか?
A. 根元や幹のキノコ、大枝の付け根の割れ、枝先の伸びの低下です。雪で折れる樹木の多くは、雪が降る前から損傷や腐朽で弱っていることが多いと、国土技術政策総合研究所の手引きに書かれています。落葉樹の骨格が見やすい晩秋が点検に向いています。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
- 森林総合研究所 プレスリリース(2023年8月31日。論文は Katsushima ほか、Hydrological Processes、2023年) https://www.ffpri.go.jp/press/2023/20230831/index.html
- 日本森林学会『森林科学』88号 特集「林木の雪害」(高橋1952の観測の紹介) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsk/88/0/88_12/_pdf
- 佐伯正夫・杉山利治「林木の冠雪害危険地域」林業試験場研究報告172号 https://www.ffpri.go.jp/fic/s/documents/172-4.pdf
- 『日本森林学会誌』96巻(2014)6–11頁 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjfs/96/1/96_6/_pdf
- 五十嵐『雪氷』53巻2号(1991)155–162頁 https://www.jstage.jst.go.jp/article/seppyo1941/53/2/53_2_155/_pdf
- 大村充・岸塚正昭「雪吊りの構造解析」『ランドスケープ研究』67巻5号(2004)461–464頁 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jila/67/5/67_5_461/_article/-char/ja/
- 千葉市「雪吊り手順書」 https://www.city.chiba.jp/toshi/koenryokuchi/kanri/chuo-mihama/documents/yukituri-tejun_2_1.pdf
- 秋田県果樹試験場「果樹の雪害を省力的に回避できる技術」(平成31年3月) 秋田県のサイト(PDF)
- 石川県金沢城・兼六園管理事務所 記者発表資料(兼六園の雪吊り作業)平成26年10月30日 https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kisya/h26/documents/1030kanazawazyou.pdf、令和6年10月28日 https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kisya/r6-1/documents/1028_10_kouenryokuti.pdf、令和8年10月23日 https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kisya/r8/documents/1023_10_kouenryokuti.pdf
- 金沢市 文化財保護課「雪吊り」(金沢市認定の無形の歴史文化遺産) https://www4.city.kanazawa.lg.jp/soshikikarasagasu/bunkazaihogoka/gyomuannai/3/1/4/7/27914.html
- 石川県立図書館 レファレンス事例(レファレンス協同データベース。『特別名勝兼六園 本編』などを引くもの) https://crd.ndl.go.jp/reference/entry/index.php?id=1000184659&page=ref_view
- 柳沢芙美子「福井藩巣鴨下屋敷のリンゴをめぐって」『福井県文書館研究紀要』7(2010)
- 東京都公園協会「冬の見ごろ 雪吊り」 https://www.tokyo-park.or.jp/special/migoro/winter.html
- 小石川後楽園かわら版 第178号(令和7年12月10日) https://www.tokyo-park.or.jp/park/koishikawakorakuen/assets/kawara178.pdf
- 浜離宮恩賜庭園「伝統技能見学会 雪吊り」(令和7年) https://www.tokyo-park.or.jp/park/hama-rikyu/news/2025/park_info_20.html
- 六義園「伝統技能見学会 雪吊り」(2026年10月20日) https://www.tokyo-park.or.jp/park/rikugien/news/2026/11_1_17.html
- テレビ金沢「冬を迎える準備が本格化 石川・兼六園で冬の風物詩「雪吊り」の作業始まる」(2026年11月1日、Yahoo!ニュース) https://news.yahoo.co.jp/articles/39556cb0bea85897a132015534d6564949e6deb0
- 一般財団法人国民公園協会 新宿御苑「雪吊り」(2023年12月21日) https://fng.or.jp/shinjuku/2023/12/21/20231221-01/
- Portland Japanese Garden “Winter Scenery” https://japanesegarden.org/winter-scenery/
- 環境省「皇居外苑の一年間(3月)」 https://www.env.go.jp/garden/kokyogaien/1_intro/03_mar.html
- 新穂ほか 日本生態学会第55回大会(ESJ55)講演要旨 B2-15(姫路城のマツの菰巻きの調査) https://www.esj.ne.jp/meeting/abst/55/B2-15.html
- 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)参考資料」 https://www.mlit.go.jp/common/001203394.pdf
- 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き」(国総研資料第669号) https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0669pdf/ks066906.pdf、同 事例集(国総研資料第1059号) https://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn1059pdf/Ks1059013.pdf
- 東京都建設局「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度) https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/content/000051876.pdf

































