ピカスの新しい解析ソフト「IML Tree Inspection」は、従来のパソコン用ソフト「PiCUS Q74」の後継で、パソコンとタブレットの同じソフトで、測定から報告書までを木ごとの記録として積み上げます。メーカーの説明書で何が変わったかを、Q74で解析している樹木医が整理します。
ピカス(PiCUS Sonic Tomograph。東京都の街路樹診断等マニュアルでの呼び名は弾性波樹木診断装置)は、幹の周りに打った釘にセンサーを当て、ハンマーでたたいた音が届くまでの時間から、幹の中の様子を推し量るドイツ IML Electronic 社の機器です。同じ釘で電気の通りにくさを測るトロニック(PiCUS TreeTronic)、釘どうしの距離を測って幹の形を決めるキャリパー(PiCUS Calliper)と組み合わせて使います。測った数字は、パソコンのソフトで計算して初めて、色の付いた断面画像になります。
当社は今、解析のソフトに、従来のパソコン用ソフト「PiCUS Q74」を使っています。メーカーが後継として出している「IML Tree Inspection」は、当社ではまだ運用していません。この記事は、新しいソフトがどんなソフトで、Q74と何が変わったのかを、メーカーが公開している英語の説明書「IML Tree Inspection Manual」v1.1(以下「説明書」。ページは各ページの下に印字された番号)と、当社が使っているQ74の画面を照らし合わせて書いたものです。
なお、説明書はQ74と機能を1つずつ比べてはいません。そこでこの記事では、説明書と当社のQ74の画面の両方で確かめられたことだけを「変わらないこと」「変わること」として書き、どちらか一方でしか確かめられないことは、そう書き分けています。
先に答え
- IML Tree Inspectionは、ピカス3・トロニック3・キャリパー3のための、パソコン(Windows)とアプリ(Android・iOS)で動く1つのソフトです。以前のパソコン用ソフトPiCUS Q74の後継にあたります。
- 解析の中心は、Q74と同じ考え方です。データの点検、亀裂の検出、計算の方法(SoT 1・SoT 2)、歯車効果の補正、残存壁厚の円、3D、年ごとの比較は、当社のQ74の画面にもあります。
- 大きく変わるのは、記録の持ち方と仕事の流れです。測定ごとのファイルではなく、計画→樹木→点検の順に木ごとに記録を積み上げ、現場ではタブレットのアプリで樹高・方位・位置・写真を記録し、報告書はWord(.docx)で自動で組み立て、クラウドで現場と事務所の間を受け渡せます。
- Q74のファイル(.pit・.trt)は、新しいソフトの「取り込み」で読み込みます。計算の手順は版ごとに最適化されているため、同じデータでも見え方が変わることがあり、旧型のトロニック(1・2)の測定は取り込めません。
- メーカーの説明書は、断面画像だけを根拠に木を伐ってはならない、としています。ソフトが変わっても、判断するのは調べた人です。

図1 PiCUS Q74とIML Tree Inspection。解析の中心は共通で、変わるのは記録の持ち方と仕事の流れ(当社のQ74の画面と、説明書 v1.1 をもとに当社作成)
IML Tree Inspectionとは パソコンとアプリで同じソフトが動く
IML Tree Inspectionは、ドイツ ロストックのIML Electronic社が出している、第3世代のピカス(Sonic Tomograph 3)・トロニック(TreeTronic 3)・キャリパー(Calliper 3)のためのソフトです。メーカーは2025年4月3日のお知らせで、これをPiCUS Q74を発展させたソフトとして発表し、製品ページでも同じように説明しています。第1・第2世代の機器は、原則として使えないとされています(製品ページ)。
WindowsとAndroidとiOSは、それぞれのアプリのストアから入れます。Mac(Apple Silicon)でも理屈の上では動くものの、メーカーは最適化も試験もしていないとしています(p.14)。説明書v1.1の表紙の版はAndroid・iOS・Mac用が1.3.4、Windows用が1.3.3.0ですが(p.1)、2026年11月1日に確かめたところ、3つのストアの最新の版はどれも1.3.44(2026年7月14日の更新)でした。発表のときに「今後」とされていたトロニック3への完全な対応は、App Storeの更新履歴で2025年12月の版1.3.4に入っています。
日本で使うときに知っておきたいのは、画面の言語に日本語が無いことです。ストアに載っている言語は、英語・ドイツ語・フランス語など11言語でした(2026年11月1日に確認)。項目の名前は英語のまま読むことになります。
ひとつのソフトがパソコンでもタブレットでも動くのが、目に見える大きな変化です。説明書の機能の比較表(p.12〜13)を見ると、記録の作成、音波・電気抵抗・キャリパーの測定、断面画像の計算と解析、亀裂の検出、残存壁厚、年ごとの比較、3D、報告書の自動作成、クラウドへの保存は、パソコン版とアプリの両方でできます。違うのは次の所です。
| 項目 | パソコン版 | アプリ(Android・iOS) |
|---|---|---|
| 古い型の無線(BT Classic)の機器との接続 | できる | できない |
| USBでの接続 | できる | Androidはできる、iOSはできない |
| 機器だけで測った記録の読み込み | できる | Androidはできる、iOSはできない |
| 樹高の測定 | 手で入力 | カメラと傾きのセンサーで測る |
| 木の位置(GPS) | ピカス3・トロニック3のGPSから読み出す | 端末のGPSで取る |
| 記録用の写真 | 画像を追加する | その場で撮る |
(出典: IML Electronic「IML Tree Inspection Manual」v1.1 p.12〜13・19・26)

図3 パソコン版とアプリでできること。灰色の行は、説明書の表で「まだ実装されていない」とされている機能(説明書 v1.1 p.12〜13 をもとに当社作成)
機器との通信は、Bluetooth LE(省電力の新しい型の無線)が基本です。説明書は、Bluetooth LEの無線を持たない古いピカス3は、スマートフォンやタブレットのアプリでは使えず、パソコン版で使うとしています(p.12・19)。製品ページの互換の表では、機器のハードウェアの版によって、そのまま使えるもの、ファームウェアの更新が要るもの、機器をメーカーへ送って無線の部品を替える必要があるものに分かれています。当社のQ74は、パソコンの通信の口(COMポート)を選んで機器とつなぐ作りです。新しいソフトをアプリで使うなら、まず手元の機器の版と無線の型を確かめることになります。
もうひとつ、ソフトの登録(ライセンス)をしないと、機器との通信、断面画像の書き出し、報告書の自動作成が使えません(p.27)。登録の情報は機器と一緒に届くもので、クラウドの利用者の情報とは別物です(p.18・27)。別の端末へ移すときは登録を解除してから、とされています(p.18)。製品ページによると、Q7*のエキスパート版の登録を持っている利用者は、手元の登録の書面のまま、新しいソフトで機器の登録を有効にできます。メーカーのソフトの案内のページには、今もQ74のダウンロードの案内が残っています。
当社の今のソフト PiCUS Q74と、変わらないこと
当社が使っているのは、Q74のエキスパート版(画面の表記はPiCUSQ74EXPT)です。Windowsのパソコンで動き、ピカスで測った音波のファイル(.pit)とトロニックで測った電気抵抗のファイル(.trt)を、測定ごとに1つずつ作ります。説明書も、.pitと.trtを「Q74以前のパソコン用ソフト」で作ったファイルとして挙げています(p.55。p.8の略語の表では、トロニックのファイルを.ertと書いています)。
Q74の画面を見直してみると、新しいソフトの説明書に出てくる解析の道具の多くが、すでにQ74にもあります。
| 解析の道具 | 当社のQ74の画面 | 新しいソフト(説明書 v1.1) |
|---|---|---|
| データの点検 | Data checking のタブ | 速さの上下の限度、自動の点検、打撃・測定点を外す(p.142〜148) |
| 亀裂の検出 | CrackDect(感度を設定) | Crack Detection(感度は高・中・低・切る)(p.135〜137) |
| 計算の方法 | SoT 1・SoT 2 | SoT 1・SoT 2(p.143) |
| 歯車効果 | Cog Wheel のタブ | 検出と補正(p.127・137・142) |
| 残存壁厚の目安 | t/R の設定・TreeSA のタブ | VTA-0.3 と TreeSA の赤い輪(p.139〜141) |
| 3Dと年ごとの比較 | 3D View・Timeline | 比較の記録で時系列・差分・3D(p.173〜186) |
| 断面画像の色 | 茶=健全、緑、紫・青=異常の範囲 | 茶=速い、緑=どちらとも言えない、紫・青=遅い(p.130〜131) |
(出典: 当社のQ74の画面写真〈社内マニュアル「ピカス機器診断手順」2026年8月10日版〉、IML Electronic「IML Tree Inspection Manual」v1.1)

当社が使っているPiCUS Q74の設定の画面。亀裂の検出(CrackDect)や計算の方法(SoT 1・SoT 2)は、新しいソフトにも引き継がれている(当社のソフトの画面)
つまり、断面画像をどう計算し、どう点検して読むかという中心の考え方と道具は、Q74から新しいソフトへ引き継がれています。色の考え方も同じで、説明書は、色の幅を測定ごとに最も速い所から最も遅い所までに割り当て、ほとんど健全な木で細かな差が大げさに出ないよう幅を最大の速さの20%以上に広げ、最大の速さの50%より遅い所は同じ色にする、と説明しています(p.131)。当社がQ74で行っている解析の手順はピカスのPC解析の手順と、音波データの読み方に、断面画像の読み方はピカスの断面画像の読み解き方とピカスの腐朽診断カルテの読み方に書いています。
説明書は、計算の手順そのものは版ごとに最適化されているとしています(p.55)。ただし、Q74より精度が上がった、とは書いていません。ここは、同じ木を新旧のソフトで計算し比べてみないと言えないことです。
変わること1 記録を「木ごと」に積み上げる
新しいソフトで大きく変わるのは、記録の持ち方です。Q74では、測定ごとに1つのファイルを作り、当社はファイル名に現場名・樹種名・高さを入れて見分けています。同じ木を何年か後に測り直したときは、前のファイルをフォルダとファイル名から探すことになります。
新しいソフトは、計画(公園・通り・敷地など)→樹木→点検(日時)→形(高さごと)→測定(音波・電気抵抗)→解析(断面画像)の順に記録をつなげます(p.34)。樹木には番号・属・位置のように時間で変わらない情報だけを入れ、樹高や樹冠の大きさ、幹周、活力度、写真は、その日の点検に入れます(p.39〜43)。木は育ち、剪定で形も変わるので、点検の日付ごとに残す作りです。年ごとの比較と報告書は、樹木の下に作ります(p.47〜48)。

図2 記録の持ち方の違い。Q74は測定ごとのファイル、新しいソフトは同じ木の点検が日付順に積み重なる(説明書 v1.1 p.34〜48 をもとに当社作成。名前・日付・高さは例)
使う前に知っておきたい決まりもあります。計画の名前は50字まで、ほかの記録の名前は20字までです(p.49)。名前がフォルダの名前になり、どの機種でも扱えるよう字数を限っているためで、フォルダの中身を手で動かしたり名前を変えたりすると計画全体が壊れるおそれがある、とされています(p.49)。使う会社では、現場名や樹木番号の付け方を先に決めておくと、後で困りません。
私の見方では、この記録の持ち方が生きるのは、同じ木を何年かおきに測り直す仕事です。御神木や公園の大きな木、街路樹の継続の診断では、前回の点検と今回の点検が同じ木の下に並び、比較と報告書もそこから作れます。ファイル名に頼る今のやり方より、取り違えの起きにくい作りだと思います。
変わること2 現場で使えるアプリ 樹高・方位・位置・写真
アプリでは、端末のカメラとセンサーを使って、現場の記録を補えます(p.28〜43)。
- 高さ計: カメラで木のてっぺんと根元を狙い、距離と角度から三角測量で樹高を出します。扉の枠など高さの分かる物で、2〜5m離れて較正します(p.28〜30)
- 方位: 磁気のセンサーで、測定点や写真の向きを記録します。最初の測定点は、釘の上から幹の中心へ向けて測ります(p.30〜32)
- 位置: 端末のGPSで木の位置を取り、精度を色で示します(p.39〜40)
- 樹木番号: 木の札のQRコード・バーコードを読み取れます(p.40)
- 写真と傷みの印: 写真ごとにコメントと撮った向きを残せます。傷みの記号を形の図に置く機能はQ74にもありますが(Diagnostics)、アプリではその場で撮った写真を印に結び付けられます(p.85〜92)

ピカスを付けた幹を、タブレットのアプリで写真に残す。アプリは写真の向きや木の位置も記録できる(イラストは当社作成)
キャリパーの測定は、Q74と同じく距離の表に沿って進みます。新しいソフトの説明書では、基点を最大6点まで置け、三角形が成り立たない距離をオレンジ、補正した距離を緑で示します(p.72・79〜81)。第6回 キャリパーで書いたとおり、当社はQ74で、1人がキャリパーを当て、もう1人がノートパソコンの表と形を見る2人1組で測っています。

アプリでキャリパーを使う例。1人がキャリパーを2本の釘に当て、もう1人がタブレットの画面を見る(イラストは当社作成)
ただし、写真と断面画像を重ねる機能は、説明書の表で「まだ実装されていない」とされています(p.13)。当社のQ74では、3Dの画面に木の写真を読み込んで断面を重ねた画像を作れるので、ここは今のところQ74のほうができることです。樹冠の直径の測定も、まだ実装されていません(p.12)。
年ごとの比較と3D 説明書に書かれた読み方と注意
年ごとの比較と3Dは、Q74にもある機能です。新しいソフトの説明書は、そのうち年ごとの比較を、元の速さや抵抗の値の差から計算した「差分の断面画像」として説明しています(p.178)。差は、時系列の最初の断面との差です(p.173・178)。色の幅の違いは打ち消され、色は次の意味です。
| 差分の色 | 意味 |
|---|---|
| 濃い緑 | 新しく加わった範囲(前の断面に無かった形) |
| 緑 | 値が上がった |
| 白 | 変化なし |
| 赤 | 値が下がった |
| 濃い赤 | 材が無くなった |
(出典: IML Electronic「IML Tree Inspection Manual」v1.1 p.178)

1回目と後の回の断面を比べた差分の図の読み方(模式図。断面の色は説明のための仮想のもの。当社作成)
説明書は、この差分の読み方に注意を重ねています。断面全体がうっすら色づくなら、木は変わっておらず、気温や水分など測った日の条件の違いである見込みが高い、としています(p.179)。凍った木では音速も電気抵抗も大きく上がり、傷みが大きく見えるので、凍結の時期の測定は勧めないとしています(p.179〜180)。計算の設定の違いだけでも色が付くので、設定をそろえます(p.181)。比べやすくするために、毎回同じ高さで、測定点の数と向き(測定点1を北など)をそろえ、測り方を記録しておくよう書かれています(p.175)。比べられるのは同じ木の中だけで、別の木とは比べられません(p.173)。
3Dは、1回の点検で測った複数の高さの断面を、高さと北の向きで積み重ねます(p.182)。面はすべて水平、重心は真上に一直線と仮定し、断面と断面の間は測っていないので、輪郭は推定です(p.182・184)。新しいソフトの3Dには、亀裂の線と、レジ(Resi PD)などで穿孔した位置と向きを描き込めます(p.184〜185)。亀裂や幹の分かれ目で区切って測った部分の断面画像を、1枚に合成することもできます(p.186)。
新しいソフトでは、レジで穿孔した位置・深さ・方位・傾きを、ピカスの測定点に結び付けて記録でき(p.86〜90)、レジのアプリ(IML Studio)から書き出したPDFを取り込んで、報告書に入れられます(p.43・91・187)。ただし、レジの波形そのものを表示・解析する機能は、説明書には書かれていません。当社はレジのデータを、IML社のPD-Tools Proで読んでいます。
変わること3 Wordの報告書と、クラウドでの分業
当社はQ74で断面画像を書き出し、カルテと報告書は別に作っています。新しいソフトは、報告書をMicrosoft Wordの形式(.docx)で自動で組み立て、手で書くのは「結論」の欄だけです(p.188)。計画や樹木の情報、お客様と点検者の名刺、点検の情報、選んだ写真とそのコメント・向き、形と測定の主な値、凡例が、入力済みの記録から入ります(p.188〜191)。

年ごとの断面を見比べて、報告書の結論を書く。最後の判断と言葉は、調べた人が書く(イラストは当社作成)
ただし、全部が自動というわけではありません。断面画像は報告書に直接は入らず、先に画面を画像(jpegが勧められている)として保存し、それを選びます(p.191)。報告書を作り直すと上書きになるので、別の版にするなら新しい報告書の記録を作ります(p.192)。日本の行政の様式のカルテをそのまま出す機能ではないので、私の見方では、当社のカルテに置き換わるものではなく、お客様への説明資料や社内の記録として生きる機能だと思います。

報告書は、入力済みの記録から自動で組み立てられ、手で書くのは結論の欄だけ(説明書 v1.1 の考え方をもとに当社作成)
クラウドは、端末どうしの受け渡しの場所です。記録を作り、直すのはいつも端末の中で、クラウドへ上げ、別の端末で下ろします(p.49〜51)。点検者の名刺で作成者が記録に残るので、現場の点検者がクラウドへ送り、事務所の別の人が報告書を作る、という分業を想定した作りです(p.21〜22)。

現場でタブレットに記録し、クラウドを通して、事務所で解析と報告書を進める(イラストは当社作成)
ここで説明書が注意しているのが上書きです。送り直すと、違うファイルだけを更新し、更新の日時は見ないので、古い版がほかの人の新しい版を上書きするおそれがあります(p.51)。クラウドの版が新しければ先に下ろし、直し、すぐに上げる、という順番が勧められています(p.51)。クラウドにお客様の測定データを置くことになるので、置いてよいデータの決まりも要ります。

図5 クラウドは受け渡しの場所。先に下ろし、直し、すぐ上げる(説明書 v1.1 p.49〜51 をもとに当社作成)
Q74のデータを新しいソフトで読むとき
Q74で作った.pitと.trtのファイルは、新しいソフトでそのまま開くのではなく、「取り込み」の機能で、計画の中の樹木・点検の記録に組み込みます(p.55)。機器だけで測った記録も、機器の中では同じ旧形式で保存されるので、パソコンへ移してから取り込みます(p.56)。

図4 Q74のファイルを新しいソフトで使うとき。p.55の注意をまとめた5つ(説明書 v1.1 p.55〜56 をもとに当社作成)
p.55の注意をまとめると、次の5つです。
- 取り込んだ記録は、後から別の点検へ移せないので、取り込む場所を先に決める
- 旧ファイルは新しい記録より情報が少ないので、足りない入力と写真を補う
- 計算の手順は版ごとに最適化されているので、計算し直すと見え方が変わることがある
- 新旧で比べるときは、計算の設定と、データの点検で手で外した値の扱いを同じにする。それでも大きく違えば、メーカーに連絡する
- 旧型のトロニック(1・2)の測定は、データの構造が違うため取り込めない
過去のカルテに載せた数字と、新しいソフトで計算し直した画像が違って見えることがある、という点は、継続して診断している木で効いてくる点です。私の見方では、前回の数字を今回と比べるときは、どのソフトのどの設定で計算した数字なのかを、カルテに書いておくほうがよいと思います。
Q74にあって、新しいソフトの説明書で見当たらない機能もあります。先に書いた写真と断面画像の重ね合わせは「まだ実装されていない」とされ(p.13)、Q74の画面にある根の測定のファイル(Root File)は、説明書には出てきません。
ソフトが変わっても、判断するのは人
説明書は冒頭で、断面画像は資格のある専門家が解釈するもので、そこから引き出した結論は解釈した人の責任だとし、「断面画像だけを根拠に木を伐ってはならない」と書いています(p.9)。機器が捉えるのは音の伝わり方や電気の通り方の違いだけで、紫や青の原因が空洞か腐朽か亀裂かは、原理の上で見分けられないとも書かれています(p.9・131)。
新しいソフトは、記録の持ち方と、現場から報告書までの流れを大きく変えます。それでも、どの木を機器で調べるかを決めるのは、木槌で叩き、根元を確かめる外観診断です。断面画像は、樹種、樹勢、根元の状態、立地と重ねて読む材料のひとつです。ソフトが替わっても、私たちが現場で確かめることは変わりません。
当社は今、Q74でピカス・トロニック・キャリパーのデータを解析し、断面画像を外観診断と重ねて総合判定を行っています。樹木診断は、お問い合わせフォームからのご相談をお待ちしています。
株式会社トシ・ランドスケープ 樹木医 中村雅俊
よくある質問(Q&A)
Q1. IML Tree Inspectionとは何ですか?
A. ドイツのIML Electronic社が出している、第3世代のピカス・トロニック・キャリパーのための解析ソフトです。WindowsのパソコンとAndroid・iOSのアプリで同じソフトが動き、測定、断面画像の計算と解析、年ごとの比較、3D、報告書の作成までを、木ごとの記録として行います。従来のパソコン用ソフトPiCUS Q74の後継にあたります。
Q2. PiCUS Q74とIML Tree Inspectionは何が違いますか?
A. データの点検、亀裂の検出、計算の方法、残存壁厚の円、3D、年ごとの比較といった解析の中心は、Q74にもあり、共通しています。大きく違うのは、測定ごとのファイルではなく計画→樹木→点検の順に記録を積み上げること、タブレットのアプリで樹高・方位・位置・写真を記録できること、Wordの報告書を自動で組み立てること、クラウドで端末どうしの受け渡しができることです。
Q3. トシ・ランドスケープはIML Tree Inspectionを使っていますか?
A. 使っていません。当社は今、従来のパソコン用ソフトPiCUS Q74で、ピカス・トロニック・キャリパーのデータを解析しています。この記事は、メーカーが公開している説明書と、当社が使っているQ74の画面を照らし合わせて書いたものです。
Q4. Q74で測ったデータは、新しいソフトで読めますか?
A. .pitと.trtのファイルは、新しいソフトの取り込みの機能で読み込めます。ただし、計算の手順が版ごとに最適化されているため、計算し直すと見え方が変わることがあり、新旧で比べるときは計算の設定と手で外した値の扱いをそろえるよう説明書に書かれています。旧型のトロニック1・2の測定は取り込めません。
Q5. 古いピカスでも、タブレットのアプリで使えますか?
A. 新しい型の無線(Bluetooth LE)を持たない古いピカス3は、アプリでは使えず、パソコン版で使います。機器の版によっては、ファームウェアの更新や、メーカーでの無線の部品の交換が要ります。第1・第2世代のピカスは、パソコン版でも原則として使えません。
Q6. 新しいソフトの報告書は、そのまま診断の報告書として出せますか?
A. 報告書はWordの形式で自動で組み立てられ、手で書くのは結論の欄だけです。ただし、断面画像は先に画像として保存して選ぶ必要があり、日本の行政の様式のカルテを作る機能ではありません。当社は、断面画像を外観診断と重ねて読み、カルテと報告書は別に作っています。
Q7. 年ごとに測り直すと、傷みの変化が分かりますか?
A. 新しいソフトでは、同じ木の点検どうしの差を色で示す差分の断面画像を作れます。ただし、気温や水分、凍結、計算の設定の違いでも色が付くので、毎回同じ高さ・同じ測定点の数と向きで測り、測り方を記録し、凍結の時期を避けることが前提になります。
Q8. IML Tree Inspectionは日本語で使えますか?
A. 2026年11月1日に3つのアプリのストアで確かめたところ、画面の言語は英語・ドイツ語・フランス語など11言語で、日本語はありませんでした。説明書も英語とドイツ語で、項目の名前は英語のまま読むことになります。
出典・参考情報
メーカーの資料(2026年11月に確認)
・IML Electronic「IML Tree Inspection Manual」v1.1(英語。ページは各ページの下に印字された番号。p.1・7〜9・12〜14・18〜19・21〜43・47〜56・72・79〜92・127〜148・173〜193)
・IML Electronic「IML Tree Inspection Software」製品ページ(英語。Q74との関係、互換の表、ライセンスの移行)
・IML Electronic「IML Tree Inspection Software: the new standard for tree tomography」2025年4月3日(英語)
・IML Electronic「Software」ソフトの案内のページ(英語)
・App Store・Google Play・Microsoft Storeの「IML Tree Inspection」のページ(版・更新履歴・言語。2026年11月1日に確認)
当社の資料
・当社の社内マニュアル「ピカス機器診断手順」(2026年8月10日版)のPiCUS Q74の画面写真。記事中のQ74の画面は当社のソフトの画面です
記事中の図とイラストは、上の資料をもとに株式会社トシ・ランドスケープが作成しました。ソフトの画面の再現ではありません。
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- IML社の樹木診断機器 第12回 ソフトウェアとクラウド
- ピカスのPC解析の手順と、音波データの読み方
- ピカスの断面画像の読み解き方
- ピカスの腐朽診断カルテの読み方
※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。
※ この記事の製品名(IML Tree Inspection、PiCUS Q74、PiCUS Sonic Tomograph 3、PiCUS TreeTronic 3、PiCUS Calliper 3、IML Studio、PD-Tools Pro、Microsoft Word)は、IML Electronic 社(ドイツ)、IML 社(ドイツ)、Microsoft 社の製品名です。

































