街路樹診断で、樹木医は何を見ているのか。東京都建設局の「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」は、樹木点検から外観診断、機器診断、総合判定、フォローアップ診断までの流れと、見るべき項目を定めています。前編では、樹木点検と、外観診断で確かめる活力診断・部位診断の18項目を、当社のイラスト30点でたどります。
街路樹の根元にしゃがみ込んでいる作業員を見かけて、何をしているのだろうと思われた方もいらっしゃるかもしれません。木槌で幹をたたいたり、細い鋼の棒を根元に刺したり、脚立に乗って枝の付け根を触ったり。どれも、マニュアルに定められた診断項目をひとつずつ確かめている場面です。この記事は、その「見ているところ」を、マニュアルの流れに沿ってお伝えするものです。読んでいただきたいのは、街路樹や公園・マンションの樹木を管理する立場の方と、診断のカルテを受け取る側の方です。何を根拠に A から C の判定が付くのかが分かると、カルテの読み方が変わります。
対象にしたのは、東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」です。東京都は平成10年度に全国に先駆けて街路樹診断マニュアルを作り、診断機器の発展や診断結果の蓄積に合わせて改定を重ねてきました(同マニュアル p.2)。当社の樹木診断も、この基準に準拠しています。以下、ページ番号はすべてこのマニュアルのものです。
街路樹診断の流れ 樹木点検から外観診断、機器診断、フォローアップ診断まで

街路樹診断の流れ図
マニュアルの全体は、上の図のように組み立てられています(p.1、p.11)。
最初にあるのが樹木点検です。これは道路管理者の職員など、樹木の知識を持つ担当者が行う点検で、「外観診断が必要な木」と「維持管理の処置が必要な木」を拾い出すためのものです。かつて「初期診断」と呼ばれていたものが、令和3年度の改定で「点検」として位置づけ直されました(p.3、p.5)。
次が外観診断で、これは診断対象の木すべてに必ず行います。樹木全体を見て活力を診る「活力診断」と、根元・幹・骨格となる大枝の状態を診る「部位診断」から成り、A(健全か健全に近い)、B1(注意すべき被害が見られる)、B2(著しい被害が見られる)、C(不健全)の4段階で判定します(p.11、p.14)。
外観診断で内部の腐朽や空洞が疑われた木だけに行うのが機器診断です。幹や根元、大枝を測る「腐朽診断」と、地中の根株を測る「根株診断」があり、腐朽や空洞の程度を数値で把握します(p.11、p.51)。
そして外観診断と機器診断の結果を合わせて総合判定を出し、判定に応じて処置と次回の診断を決めます。B2 と判定された木には、前回の被害に焦点を当てたフォローアップ診断を1〜3年後に行います(p.67)。機器診断から後の流れは、後編に書きました。
樹木点検 管理者が「診断が必要な木」を拾い出す
樹木点検の対象は、基本的に高さ3m以上の高木すべてです。枯枝を見つけやすく支障の状況が分かりやすい、葉の茂っている5月から10月に行うのが望ましいとされています(p.5)。
点検は「維持管理上の問題」と「樹木の健全状態」の2つの視点から行い、結果は「異常なし」か「異常あり」の2段階だけというシンプルな組み立てです(p.6)。維持管理上の問題は、車道側と歩道側の建築限界越え、道路施設との競合、支柱の直し・撤去、太枝の枯れ・折れ、根上がり・舗装クラックの6項目。健全状態は、葉の状態、先端枝の枯れ、枯死・著しい衰弱、キノコ、開口空洞、樹皮枯死・欠損・腐朽、病虫害、揺れ、不自然な傾斜の9項目です(p.6〜10)。健全状態の9項目にひとつでも丸が付けば、その木は速やかに外観診断へ回ります(p.10)。
点検で問題がなかった木でも、幹周60cm以上などの診断対象木は、5年から10年のサイクルで外観診断を行う必要があります(p.5、p.12)。点検はあくまで「ふるい」で、診断の代わりにはなりません。
外観診断の準備 誰が、何を持って、どう記録するか
診断する人の資格
外観診断は、目視と診断用具によって樹木の外観を総合的に診るもので、「高い専門知識と経験に基づく技術が求められる」と書かれています(p.15)。診断者の資格も定められていて、根株診断を含む発注では、街路樹・都市樹木診断士(一般社団法人 街路樹診断協会認定。マニュアルの記載では改称前の「街路樹診断士」)の資格を取ったあと2年以上の実務経験を持つ人、それ以外では樹木医(一般財団法人 日本緑化センター認定)で、いずれも東京都の街路樹診断に関する講習を受けていることが条件です(p.12〜13)。当社の樹木医も、この基準に準拠して街路樹診断に当たっています。街路樹診断士の資格は2025年10月31日に「街路樹・都市樹木診断士」へ名称が変わりました。経緯は街路樹診断士が「街路樹・都市樹木診断士」へ 名称変更の背景と樹木医との違いに書きました。
道具

診断の道具一式
マニュアルが挙げる用具は、ナイフ、木槌、鋼棒、シャベル、双眼鏡、ルーペ、梯子または脚立(1.5m程度の高さ)、巻き尺、カメラ、筆記用具、画板など(p.15〜16)。機器診断の機械と違って、どれも手で持てる道具ばかりです。外観診断の大半は、この道具と目と手で進みます。安全のため、できるだけ複数人で行うことが望ましいともあります(p.15)。
番号札と写真

樹木番号の設置と記録
外観診断を行った木には、原則として幹に樹木番号プレートを付けます(p.16)。5年後、10年後の次の診断で同じ木を同じ番号で追えるようにするためです。写真は、1本ごとの全景写真と、問題箇所の局部写真を撮ってカルテに貼ります。ベッコウタケ、ナラタケ、ナラタケモドキ、コフキタケが出ている場合は、必ず写真を貼って説明を書くことになっています(p.16)。
幹周の測り方

幹周の計測
幹周は、地上1.2mの位置の幹の周囲長を測ります。その高さが枝の分岐部や凹凸に当たるときは、その上側の適切な位置で測り、株立ちの木は全部の幹周を合計して0.7を掛けます(p.6)。街路樹診断の対象は原則として幹周60cm以上ですが、ハナミズキ、ウメ、ウバメガシ、クワ、ヤマモモは30cm以上、エンジュ、シダレヤナギ、トウカエデ、サルスベリ、シンジュ、トネリコ、ニセアカシアは50cm以上で対象になります(p.12)。
根元・幹・骨格となる大枝

根元と幹と骨格となる大枝の区分
部位診断では、木を「根元」「幹」「骨格となる大枝」の3つに分けて診ます。根元は地際からルートカラー部(高さ20cm程度)まで。風を受けたときに最も力が加わる場所で、倒木の被害のほとんどは根元からの幹折れか根返りによるものなので、ここを注意深く診るよう書かれています(p.20)。幹は原則として1本で、分岐した所から先は太さによらず枝として扱います。大枝は元口の直径5cm以上、中枝は2cm以上5cm未満、小枝は2cm未満です(p.4)。
活力診断 樹木全体を見て、樹勢と樹形を5段階で診る
樹勢の7つの視点

樹勢の7つの視点
樹勢は、枝の伸長量、梢や上枝の先端の枯損、下枝の先端の枯損、枝や幹の枯損・損傷、剪定後の巻き込み、葉の大きさ、葉の色の7つの視点で、5段階で評価します(p.18〜19)。葉の様子は生育環境でかなり変わるので、周囲の同じ樹種と比べて判断します。
マニュアルが特に注意を促しているのが、先端部です。梢の枯れや枯れ下がり、葉の極端な小ささは確かめにくいのに、樹勢の診断に大きく影響する。しかも頂端枝の衰弱や先端枝の枯れ下がりは、根株腐朽の末期や根系の障害と関係していることがある、と書かれています(p.18)。地上部の先端に出るサインが、地下の根の状態を映している。外観診断で梢を双眼鏡で見上げるのは、そのためです。
活力度1から5

活力度の5段階
活力度は、1(旺盛な生育状態で被害が全く見られない)から5(ほぼ枯死している)までの5段階です。枝の伸長量でいえば、1は良好、3は枝が細く短い、4は枝が極度に短くショウガ状の節間がある、5はほとんど成長していない、というように、視点ごとに段階の目安が表にまとめられています(p.19)。活力判定は、樹勢と樹形のどちらも1か2なら「健全か健全に近い」、3があれば「注意すべき被害」、4があれば「著しい被害」、5があれば「不健全」です(p.18)。
樹形

樹形の判定
樹形は、幹の傾きや湾曲、幹の欠損や枯損、枝の密度や分布の3つから、街路樹として望ましい樹形が保たれているかを5段階で診ます。ここで気をつけるのは、枯枝や切除を要する枝があっても、剪定後の姿ではなく現状の樹形で評価するという決まりです(p.18)。

樹勢の判定
並木では、同じ樹種が同じ条件で並んでいるので、隣と比べると違いがはっきり出ます。1本だけ葉が小さく梢が透けている木は、その1本に何かが起きている。活力診断は、木を1本ずつ見ると同時に、並びの中で見る診断でもあります。
部位診断 根元・幹・大枝の18項目を、ひとつずつ確かめる
ここからが部位診断です。マニュアルは、ア〜ツの項目ごとに判定基準の表を置いていて、「なし」なら健全、「あり」なら程度に応じて注意すべき被害、著しい被害、不健全のどこに当たるかが決まります(p.20〜43)。部位判定は、各項目の最も悪い判定を採用します(p.44)。以下、マニュアルの順にたどります。
ア 樹皮枯死・欠損・腐朽 周囲長の3分の1が目安

樹皮欠損の幅の計測
樹皮が枯れたり欠けたり腐ったりしている部分の幅を測り、その部位の周囲長に対して3分の1未満か、それ以上かを判定します。幹や根元で周囲長の2分の1以上に及び、被害が進んでいる場合は、理由を所見欄に書いたうえで不健全とします(p.21)。車両の接触で樹皮が欠けたのか、樹皮の薄い樹種で強い日差しが続いて形成層が壊死したのか、原因もできる限り特定します。大枝の剪定痕や穿孔虫の傷も樹皮の欠損で、放っておくと腐朽して開口空洞に発展するため、所見に書きます。

ナイフで形成層を確かめる
樹皮が本当に枯れているかは、ナイフで樹皮を削って内部の変色を見ると分かります。ただし健全な形成層を傷つけるおそれがあるので、最小限の範囲で慎重に行う、とされています(p.21)。削るのは、親指の爪ほどの範囲です。
イ・ウ 開口空洞 芯に達しているか、いないか

芯に達していない空洞と達した空洞
開口空洞は、芯(幹や根株の中心部)に達していない空洞と、達している空洞に分けて判定します。どちらも、開口部の周囲長がその部位の周囲長の3分の1未満か以上かを測り、芯に達していなくても今後腐朽が進む可能性があるため、鋼棒などで空洞の大きさを推定して材の状況を把握します(p.23〜24)。芯に達した開口空洞では、開口角度が120度(周囲長比率で3分の1)を超えると幹折れの可能性が高まる、という目安も書かれています(p.25)。

開口空洞の大きさの計測
現場では、開口の幅を巻尺で幹の丸みに沿って測り、鋼棒を差し込んで奥行きを確かめます。空洞の大きさが分からない場合は機器診断に回します(p.23)。
エ 枯枝・ぶら下がり枝・折れ枝 落ちる危険があるか

枯枝とぶら下がり枝
大枝の枯枝、ぶら下がり枝、折れ枝があるかを診ます。中枝・大枝や長さ30cm以上の枯枝は、落枝の危険があるとして「著しい被害」に判定し、剪定が必要です。小枝の枯れや梢端の枯れ下がりは、活力や生育基盤の問題と考えられるので所見に書きます(p.26)。

双眼鏡による樹冠の観察
高い所の枯枝や裂けは、地上から双眼鏡で確かめます。現場での経験から言えば、サクラの古木の枯枝は、葉の着いている時期の方がよく分かります。緑の樹冠の中で、葉のない枝だけが浮いて見えるからです。落葉期は枯枝も生きた枝も同じように裸なので、見分けに時間がかかります。
オ スタブカット 切り残した枝から腐朽が幹へ進む

スタブカット
スタブカットとは、枝を付け根で切らず途中で切ったために残った「切り残し」のことです。切り口から腐朽菌が入って切り残しが腐って落ちるおそれに加え、腐朽が大枝や幹にまで及ぶおそれがあるため、見つけたら速やかに切除するのが望ましいとされています。直径3cm以上、長さ20cm以上のスタブカットは、落下の影響が大きいとして「著しい被害」です(p.27)。路線全体でスタブカットが目立つ場合は、診断の報告書で都に報告することにもなっています。剪定の仕方そのものが、診断で問われているのです。
カ キノコ 出ている場所で危険の種類が変わる

キノコの発生部位と危険
キノコは、木材腐朽菌が胞子を散らすための器官です。腐朽菌は剪定痕、根の切断痕、交通事故の傷、穿孔虫の穴、枯死部などの傷口から入って材を腐らせます(p.28)。マニュアルは、キノコの出ている部位ごとに危険の種類を整理しています。大枝に出ていれば落枝、幹に出ていれば幹折れ、根元や幹の下部に出ていれば根返りです(p.29)。
種類によっても扱いが変わります。コフキタケは腐朽力が強いため、幹に出ていれば必ず機器診断を行い、根株に腐朽力の強いベッコウタケが見られる場合は必ず根株診断を行います。根元にベッコウタケ、コフキタケ、ナラタケ、ナラタケモドキが出て、かつ梢に枯れが多い木は、腐朽が著しく進んでいると考えられるため更新(植替え)とします(p.29)。キノコが見えない時期もあるので、柄や傘の痕跡、新しく出た幼菌にも注意を払います(p.28)。

根元のキノコの確認
根元に出ている場合は、木を傷つけないように注意しながらシャベルで10cm程度掘り下げて、腐朽の状況を確かめます(p.28)。キノコの種類の見分けは、写真でないと伝わらないので、ここではイラストの範囲にとどめます。
キ 木槌打診 音で中の空洞を聞き分ける

木槌による打診
木槌で幹をたたき、音の質と範囲から内部の空洞や腐朽を判断します。中に空洞や腐朽があると、健全で詰まった材とは違う響きのある音がするので、明らかに健全な箇所をたたいて被害部と聞き分け、異常音の範囲から空洞の広がりを推定します(p.32)。

打音の聞き分け
異常音が小さく範囲も狭ければ「注意すべき被害」、大きいか範囲が広ければ「著しい被害」で機器診断が必要です(p.32)。打診の強さによっては樹皮が傷つくので、樹皮の厚さに応じて加減し、必要最小限にとどめます。現場での経験から言えば、打音は木の種類や樹皮の厚さ、その日の湿り具合でも変わるので、同じ木の健全な所と必ず比べて聞くようにしています。
ク 分岐部・付根の異常 脚立に乗って、手で触る

分岐部を脚立で確かめる
幹の分岐部や大枝の付け根の亀裂、入り皮、腐朽や空洞を診ます。亀裂や入り皮のある幹や大枝は、風や雪だけでなく、初夏に葉が茂った重さでも折れることがあります(p.33)。この項目は、梯子か脚立(1.5m程度)を使って、分岐部に直接触れて診断する、と定められています。脚立を使うときは補助者が支えるかロープで固定し、調べる範囲は高さ2.0m程度まで。それより上は墜落制止用器具や高所作業車が要ります(p.33)。

入り皮と健全な分岐
入り皮は、2本の幹や枝が狭い角度で立ち上がって、その間に樹皮が巻き込まれた状態です。外からは股の部分に縦の溝が見えるだけで、中では2本がつながっていない。手で触ると、健全な分岐の付け根にある盛り上がり(稜)と、入り皮の溝の違いが分かります。
ケ 胴枯れなどの病害

胴枯れとがんしゅ
胴枯病、枝枯病、がんしゅ性病害などの有無を診ます。病害部では形成層の壊死や腐朽菌の侵入で材が十分に作られず、幹や枝が枯れたり折れたりするおそれがあるため、病害の種類と程度を所見に書きます(p.34)。病害の見分けはマニュアルの参考資料(p.127〜128)に写真があり、現場でも写真と照らします。
コ 虫穴・虫フン・ヤニ 穿孔性の害虫

虫穴と虫フンとヤニ
カミキリムシ類、コウモリガ、コスカシバなどの穿孔性害虫による食害を、虫穴、フラス(木くず状の虫フン)、食痕、ヤニの有無で判断します。マニュアルは、近年の街路樹ではクワカミキリやゴマダラカミキリのほか、サクラ類のクビアカツヤカミキリ、コナラやマテバシイのカシノナガキクイムシに特に注意が必要だとしています(p.35)。被害が広範囲なら「著しい被害」で、必要に応じて機器診断です。アリやミツバチが出入りしている木は、腐朽空洞に巣を作っていると考えられるので、空洞にも注意します(p.35)。フラスの見た目は、クビアカツヤカミキリの記事に写真を載せています。
サ 根元の揺らぎ 体重をかけて押す

根元の揺らぎの確認
根元の揺らぎは、地割れの有無と、診断者が幹に両手をついて体重をかけ、数回強く押して確かめます(p.36)。押している本人には揺れが分かりにくいので、もう1人が地際のすき間や樹上の動きを見ます(p.10)。揺れがあれば、根域の狭さや根系の腐朽が原因と考えられるので、地際を掘り下げるか全周を確かめ、必要に応じて根株診断を行います。支柱で対処できないほど大きく揺れる場合は不健全です(p.36)。
シ 鋼棒貫入異常 地際に鋼の棒を刺す

鋼棒貫入異常
根元の周囲を見て、根株に腐朽や空洞がありそうな形が確認されたときに、先の尖った鋼棒で地際を刺して根株の状態を確かめます。鋼棒が抵抗なく内部まで入る、あるいは軋み音を立てながら入る場合は、地下の根株が腐朽しているおそれがあるので、地際を掘り下げて確かめ、必要に応じて根株診断を行います。芯に達していれば「著しい被害」で根株診断が必要です(p.37)。必要以上に刺すと健全な根株を傷つけるので、腐朽や空洞が推測される場合にだけ行います。腐朽部を診た鋼棒は、菌を移さないよう使うたびにアルコールで消毒します(p.21)。
ス 巻き根 自分の幹を締め付ける根

巻き根
巻き根は、ポット苗から育った場合や根の伸びる範囲が狭い場合、深植えで根が持ち上がる場合などに発生します。太くなると自分の幹や根元を締め付け、支持根を弱らせたり組織を壊死させたりして、そこから腐朽が進み、将来の根返りや倒木につながる可能性があります。初期段階で切除するのが望ましい一方、根は生命維持に欠かせない器官なので、切除の判断は十分に気をつけ、切り口には癒合剤を塗ります。切除できず幹を締め付けている場合は、腐朽が進んでいる可能性があるため根株診断を検討します(p.38)。
セ ルートカラー 根元の広がりが見えるか

ルートカラー
ルートカラーは、幹が地際で裾広がりに太くなる根元の部分です。これが見えない場合は、深植えや盛土の影響が考えられます。深植えで根が呼吸しにくくなり、幹や枝の先端が衰弱したり枯れたりしている場合は、根の腐朽や切断、根が地表近くで伸びているなどの被害が考えられるので、地際を掘り下げて根株と根元の材を確かめます(p.39)。現場での経験から言えば、幹が電柱のようにまっすぐ土に刺さって見える木は、まずこの項目を疑います。
ソ 露出根被害 切られた支持根

露出根被害
露出した根が切られるなどの被害があると、切断面から腐朽菌が入って腐朽が進む可能性があります。切られた露出根が支持根(木を支える太い根)である場合は、必要に応じて根株診断を行います(p.40)。歩道の改修や埋設工事で根が切られた木は、見た目に変化がなくても、数年後に根元から傾くことがあります。マニュアルの第Ⅵ章には、街路樹の根の保護に関するガイドラインも設けられています(p.96〜102)。
タ 不自然な傾斜 立ち直っているか、根返りのおそれか

立ち直った傾斜と根返りのおそれ
木の傾きは、根が木を支えられなくなったときに起きることがあるので、傾斜の有無にかかわらず、地際周囲の舗装の亀裂や異常な盛り上がりも確かめます。根元から傾いていても、途中で幹が立ち直って根付いたと思われる木は、地際に異常がなければ健全か健全に近いと考えます。支柱などで対処できず根返りのおそれがある場合は、理由を書いて不健全とします(p.41)。

不自然な傾斜の確認
傾いている木は、傾きと反対側の地際が持ち上がります。そこに亀裂や舗装の浮きがあれば、根鉢ごと動いている可能性がある。傾き自体より、根元の地面を見ることが多い項目です。
チ 建築限界越え 車道4.5m、歩道2.5m

建築限界越え
建築限界は、道路の上に確保しなければならない空間で、車道側は高さ4.5m(重要物流道路では4.8m)、歩道側は2.5mです(p.6〜7)。枝が越えている場合は原則として剪定で対処しますが、太枝を切ると樹勢が悪化して枯れるおそれがある場合は更新を検討します。幹が建築限界を越えている場合は、原則として更新が望ましいとされています(p.42)。
ツ その他 根上がり、道路施設との競合、立地環境

舗装の根上がり
項目にない周囲の状況も所見に書きます。根による舗装や縁石の亀裂・持ち上げ、根の乗り上げ、踏圧、ほかの道路施設との競合、枝の道路境界越え(民地への越境)、周辺の工事による根の損傷の有無や可能性、風や日照などの立地環境です(p.42)。電線共同溝工事などの計画路線では、根の損傷の有無が設計の参考資料になるため、特に丁寧に確認して所見に書くことになっています。
外観診断判定 活力と部位の悪い方を採る
外観診断判定は、活力判定と部位判定の悪い方を採用します。A は樹勢・樹形の活力度が1か2で、その他の項目に異常がないか軽微なもの。B1 は活力度3か、今後の活力低下や腐朽の進行が予測され、簡易な処置を必要とするもの。B2 は活力度4か、幹や根の腐朽が進み何らかの処置を必要とするもの。C は活力度5か、腐朽が著しく回復の見込みがないもの、倒木や幹折れの危険があるものです(p.44)。
機器診断を行う必要のない木は、この外観診断判定がそのまま総合判定になります。機器診断が必要と判定した場合は、判定の根拠となった被害状況を所見欄に必ず書きます(p.43)。マニュアルには、問題や異常がありながら所見や判定理由が書かれていないカルテは成果品として認められない、という一文もあります(p.65)。何を見て、どう判断したかを言葉で残すところまでが診断です。
ここまでが前編です。後編では、外観診断で機器診断が必要とされた木をどう測るのか(腐朽診断と根株診断、t/R率と腐朽空洞率)、総合判定の考え方、判定後の処置、そして B2 の木に行うフォローアップ診断を書きます。
診断のご相談、仕様書づくり、イラストの使用について
当社の樹木診断は、診断して判定を出すところで終わりません。判定に合った剪定や支柱、植栽基盤の改善といった処置、その後の経過観察や長期の管理計画まで、同じ樹木医が一貫してお受けしています。診断の結果を「次に何をするか」までつなげたい管理者の方は、ご相談ください。
また、自治体・行政の方からの、樹木診断の仕様書や点検要領の作成に関するご相談にも対応しています。この記事に載せた当社の透かし入りのイラストを、仕様書や説明資料などに使用されたいご希望があれば、あわせてお問い合わせページからお知らせください。
よくある質問(Q&A)
Q1. 街路樹診断の外観診断では、何を見ているのですか?
A. 樹木全体の活力(樹勢と樹形)と、根元・幹・骨格となる大枝の部位ごとの被害です。東京都建設局の令和3年度 街路樹診断等マニュアルでは、樹皮の枯死・欠損、開口空洞、枯枝、スタブカット、キノコ、木槌打診の異常音、分岐部の亀裂や入り皮、病害、虫穴・虫フン・ヤニ、根元の揺らぎ、鋼棒貫入異常、巻き根、ルートカラー、露出根被害、不自然な傾斜、建築限界越えなどの項目を、目視と木槌・鋼棒・ナイフ・双眼鏡などの道具で確かめ、A・B1・B2・C の4段階で判定します。
Q2. 樹木点検と外観診断は何が違うのですか?
A. 樹木点検は、道路管理者の職員など樹木の知識を持つ担当者が、外観診断が必要な木と維持管理の処置が必要な木を拾い出すために行う点検で、結果は異常なし・ありの2段階です。外観診断は、東京都の講習を受けた樹木医や街路樹・都市樹木診断士が診断対象の木すべてに行う診断で、活力診断と部位診断に基づいて4段階の健全度を判定し、機器診断の要否も判断します。点検で問題がなくても、診断対象の木は5〜10年のサイクルで外観診断を行います。
Q3. 木槌で幹をたたいたり、鋼の棒を根元に刺したりするのはなぜですか?
A. 外から見えない内部の空洞や腐朽を確かめるためです。木槌の打診では、空洞や腐朽がある幹は健全な材と違う響きのある音がするので、健全な箇所と聞き分けて範囲を推定します。鋼棒は、根株に腐朽や空洞が推測される形が見られたときにだけ地際に刺し、抵抗なく入る場合は根株が腐朽しているおそれがあると判断します。どちらも異常が大きければ、機器診断(腐朽診断や根株診断)に回します。
Q4. 根元のキノコは、どのくらい危険なのですか?
A. キノコが出ている部位によって危険の種類が変わります。大枝なら落枝、幹なら幹折れ、根元や幹の下部なら根返り(倒木)のおそれです。マニュアルでは、幹にコフキタケが出ていれば必ず機器診断、根株にベッコウタケが見られれば必ず根株診断を行い、根元にベッコウタケやコフキタケ、ナラタケ、ナラタケモドキが出てかつ梢に枯れが多い木は更新(植替え)とするとしています。根元に出ている場合は、シャベルで10cm程度掘り下げて腐朽の状況を確かめます。
Q5. 外観診断の A・B1・B2・C は、どう決まるのですか?
A. 活力判定(樹勢・樹形の活力度)と部位判定(各項目の最も悪い判定)の悪い方を採用します。A は活力度が1か2でその他の項目に異常がないか軽微なもの、B1 は活力度3か簡易な処置を必要とするもの、B2 は活力度4か腐朽が進み何らかの処置を必要とするもの、C は活力度5か回復の見込みがなく倒木や幹折れの危険があるものです。機器診断が不要な木は、この判定がそのまま総合判定になります。
出典・参考情報
東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」第Ⅰ章 管理のフロー(p.1〜4)、第Ⅱ章 樹木点検について(p.5〜10)、第Ⅲ章 街路樹診断について 1 診断実施に当たって(p.11〜13)、2 外観診断(p.14〜49)。本文のページ番号はすべて同マニュアルのものです。図「街路樹診断の流れ」は、同マニュアル p.1・p.11・p.67 をもとに当社が作図しました。活力度の5段階の図(表Ⅲ-2・2)と建築限界の図(図Ⅲ-1)は、マニュアルの図を写さず、当社の画風で描き直しています。
国土交通省 道路局「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」令和8年3月(街路樹の点検の頻度と優先順位の考え方)。
記事中のイラストは、株式会社トシ・ランドスケープの説明用イラストです。診断の手順と道具は上記マニュアルで確かめて描いていますが、絵は説明のための簡略化で、実際の判定はカルテの基準と現地の状況によります。
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株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
































