都内の公園で、樹木医の髙尾聡司と、樹木医を目指す若手メンバーで、サクラ(桜)の外観診断を行いました。
木槌で幹をたたいて音を聞く「打診」、根元に鋼棒を差す確認、離れて樹冠を見る観察と、手を動かしながら、樹木医がどこを見て、何を判断の材料にしているのかを、その場で若手に伝えました。
この記事では、当日の写真に沿って樹木の外観診断の進め方を紹介し、とくに「打音」で何が分かり、何が分からないのか、公園樹木のサクラでどこに気をつけるのかを、東京都と国土交通省の基準を引きながら書きます。
先に答え
- 樹木の外観診断は、樹勢と樹形から木全体の活力を見る「活力診断」と、根元・幹・骨格となる大枝の状態を見る「部位診断」で組み立てます(東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」)。
- 打音(木槌打診)は、木槌で幹をたたき、明らかに健全な箇所の音と聞き比べて、内部の空洞や腐朽の範囲を推定する方法です。異常音が大きい、または範囲が広い場合は、機器診断に進みます。
- 鋼棒は、根元に腐朽や空洞が疑われる場合にだけ地際に差し、抵抗なく入るかどうかで根株の腐朽を確かめます。健全な根株を傷つけないよう、むやみに刺しません。
- サクラ類は、国の手引きで腐朽しやすい樹種、枯れ枝による落枝が多い樹種に挙げられています。太い枝の切り口、根元のキノコ、穿孔性害虫の虫フンは、とくに注意して見ます。
- 外観診断は、どの木を機器で詳しく調べるかを決める段階です。打音だけで木の中を言い切ることはしません。
樹木の外観診断とは 公園樹木の点検と診断の違い
国土交通省の「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」(平成29年9月、令和8年3月30日改訂)は、公園樹木の確認を、日常点検・定期点検・診断・災害対策点検に分けています。このうち診断は、点検で変状や異常が見つかった樹木のうち、その範囲や程度が分からないものについて、健全度をより詳しく把握し、正確に判定するために行うものとされています。同じ指針の参考資料では、診断の段階で、詳しい目視に加えて、打診、鋼棒の貫入、機器による診断を行う項目が並びます。
指針(案)が分けている点検・診断の4つの種類は、次のとおりです。
| 種類 | 行うときと内容 |
|---|---|
| 日常点検 | 日常業務の中で行う巡視や立ち寄りによる点検が主、頻度は公園の利用などに応じて公園管理者が決める |
| 定期点検 | 一定期間ごとに行う、日常点検より詳しい点検 |
| 診断 | 日常点検や定期点検で変状や異常が見つかった木のうち、範囲や程度が分からないものについて、木の重要度に応じて健全度をより詳しく把握し、正確に判定する |
| 災害対策点検 | 災害が起きたとき、または起きることが想定されるときに臨時に行う |
出典: 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」(平成29年9月、令和8年3月30日改訂)p.6「5. 点検・診断の種類と作業」
東京都建設局の「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」は、外観診断を、樹木の外観を目視と診断用具によって総合的に診断するもので、高い専門知識と経験に基づく技術が求められると書いています。木全体の樹勢と樹形を見る「活力診断」と、根元・幹・骨格となる大枝の状態を見る「部位診断」を、カルテ(診断の記録用紙)の項目に沿って行い、その結果から判定します。用意する道具として、ナイフ、木槌、鋼棒、シャベル、双眼鏡、ルーペ、巻き尺、カメラなどが挙げられています。
同じマニュアルには、活力が健全に見える樹木でも、幹の内部や根株にきわめて危険な空洞や腐朽を抱えている場合があるため、幹の形をよく観察し、打診などで機器診断が必要な樹木を見極める、とあります。葉が茂っていて元気そうに見える木ほど、外から見える小さな手がかりを一つずつ拾っていく必要があります。

当日の外観診断 写真で見る4つの作業
当日の写真には、外観診断の基本の作業が写っています。東京都のマニュアルも、診断の記録として、目視、木槌打診、分岐部の確認、鋼棒貫入などの作業の写真を残すよう求めています。
離れて、樹形と樹冠を見る

木の全体は、離れた位置から見ます。樹冠の広がり、葉の量、枝先の枯れ、幹の傾きといった活力診断の材料は、根元に近づくと見渡せなくなるためです。根元からでは見上げる角度がきつい樹冠の上の方の枝は、双眼鏡で確かめます。

木槌で幹をたたき、打音を聞く

幹は、木槌でたたいて音を聞く打診で確かめます。たたく前に、幹の形をよく見ます。この日のサクラも、写真のとおり幹の上の方に太い枝を切った跡がいくつも残り、幹にはこぶやくぼみがありました。切り跡のまわりや、ふくらみ・くぼみのある所は、打音を丁寧に聞く場所になります。打音の聞き分けについては、次の章でくわしく書きます。

根元に鋼棒を差し、根株の腐朽を確かめる

根元は、風を受けたときに最も力のかかる場所で、東京都のマニュアルは、倒木の被害のほとんどは根元からの幹折れや根返りによるものだとしています。根元のまわりに腐朽や空洞が疑われる形が見つかったときは、先の尖った鋼棒で地際を刺して、根株の状態を確かめます。健全な材なら木部に当たって止まり、腐朽していれば抵抗なく入ります。きしむ音を立てながら入る場合も、地下の根株が腐朽しているおそれがあります。
ただし、必要以上に刺すと健全な根株を傷つけるおそれがあるため、腐朽や空洞が疑われる場合にだけ行います。異常があれば、シャベルで地際を掘り下げて根株と材の状態を確かめ、必要に応じて機器による根株の診断に進みます。

測って、記録する

傷や空洞は、目で見た印象ではなく、大きさを測って記録します。幹周などの基本の数値とあわせて、傷の位置と大きさをカルテに書き、全景と問題の箇所の写真を残します。東京都のマニュアルは、判断の正確さを高めるため、また測定と記録を分担し、作業する人と歩行者の安全を確保するため、外観診断はできるだけ複数人で行うことが望ましいとしています。当日も、一人が測り、もう一人が記録する形で進めました。

打音で分かること、分からないこと
東京都のマニュアルによると、樹木を木槌でたたくと、内部に空洞や腐朽がある場合は、健全でつまった材とは違う響きのある音がします。そこで、まず明らかに健全な箇所をたたいて、その音を基準にし、傷みが疑われる所の音と聞き分けて、空洞や腐朽の範囲を推定します。異常音の大きさと範囲に加え、異常音の出る所のまわりのふくらみや、腐朽・開口空洞の有無にも注意します。

同マニュアルの木槌打診の判定基準は、異常音がなければ「健全か健全に近い」、異常音が小さく範囲も狭ければ「注意すべき被害」で必要に応じて機器診断、異常音が大きい、または範囲が広ければ「著しい被害」で機器診断が必要、という3段階です。
東京都のマニュアルの木槌打診の判定基準を表にすると、次のとおりです。
| 異常音 | 判定 | 機器診断 |
|---|---|---|
| なし | 健全か健全に近い | 求められていない |
| あり(異常音は小さい、かつ範囲は狭い) | 注意すべき被害 | 必要に応じて行う |
| あり(異常音は大きい、又は範囲が広い) | 著しい被害 | 必要 |
木槌打診だけで「不健全」と判定する欄は無い。出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」表Ⅲ-2・10 木槌打診の判定基準(p.32)
一方で、国土交通省の指針(案)の参考資料は、打診音について、響く音や音が吸収される場合は内部に腐朽があることが多いものの、その判別は難しく熟練を要すると書いています。音は樹種や部位によっても違い、樹皮にコケが生えていると、さらに聞き分けにくくなります。この日のサクラも、幹の片側にコケが付いていました。強くたたき過ぎると樹皮を傷つけるため、樹皮の厚さなどに応じて強さを加減することも、両方の資料に書かれています。
こうした性質から、私たちは打音を、木の中を見るための方法ではなく、どの木のどの高さを詳しく調べるかを決めるための方法として使っています。打音で異常が見つかった木は、必要に応じて、穿孔抵抗測定器のレジ(Resi PD)、音で幹の断面を画像にするピカス(音波トモグラフ)、アーボソニック3Dといった機器で内部を確かめ、外観診断の所見と合わせて判断します。
サクラ(桜)の外観診断で気をつけるところ
国土技術政策総合研究所の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」(国総研資料 第1059号、2019年2月)は、点検・診断の結果や倒伏の実態から、木材腐朽菌に侵されやすい樹種として、サクラ類を最初に挙げています。倒伏・落枝が多く見られた樹種でも、全国的な傾向、関東ともにサクラ類が最初に挙がっています。枯れ枝による落枝の事故が多い樹種としても、ケヤキ、マツ類とともにサクラ類が挙がっています。東京都の街路樹診断でも、サクラは過去に幹折れや倒木などの被害が生じた6樹種(エンジュ、シダレヤナギ、ケヤキ、サクラ、スズカケノキ、ユリノキ)の一つとして、優先して診断する対象になっています。
サクラが挙がっている国と東京都の資料を並べると、次のとおりです。
| 資料 | 区分 | 挙がっている樹種 |
|---|---|---|
| 国総研 手引き 図-2.9 | 樹体が腐朽しやすい樹種 | サクラ類、ケヤキ、プラタナス類、ユリノキ、シダレヤナギ、エンジュ、ニセアカシア、ポプラ類 |
| 国総研 手引き 図-2.8(関東) | 倒伏・落枝が多く見られた樹種 | サクラ類、ハナミズキ、ケヤキ、ニセアカシア、ヤナギ類、エンジュ、プラタナス類 |
| 国総研 手引き p.1-42 | 枯枝による落枝の事故が多い樹種 | ケヤキ、マツ類、サクラ類 |
| 東京都 マニュアル p.12 | 優先診断(過去に幹折れや倒木などの被害が生じた6樹種) | エンジュ、シダレヤナギ、ケヤキ、サクラ、スズカケノキ、ユリノキ |
図-2.8 は植栽本数に対する発生率ではなく発生本数の比較で、植えられている本数の多い樹種が挙がりやすい。出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」(国総研資料 第1059号、2019年2月)Ⅱ p.1-41 図-2.8・図-2.9、p.1-42、東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.12

太い枝の切り口
木材腐朽菌は、剪定の切り口、根の切断の跡、穿孔虫の食害の跡、枯れた部分などの傷口から入り、材を腐らせます(東京都のマニュアル)。国総研の手引きは、腐朽菌の被害は樹齢とともに増える傾向があり、老齢木で多く見られるとしています。太い枝を切った跡が残る老木は、切り口のまわりの打音と、樹皮の状態を丁寧に見ます。切る位置と切り口のふさがり方については、剪定の切る位置はブランチカラー フラッシュカットとスタブカットを避ける、樹木にやさしい剪定にくわしく書いています。
根元と幹のキノコ
キノコは、木材腐朽菌が胞子を散らすための器官で、出ている場所によって、落枝につながるのか、倒木につながるのかの見当がつきます。東京都のマニュアルは、根元とそのまわりに出るキノコとしてベッコウタケ、コフキタケなどを挙げ、ベッコウタケ、ナラタケ、ナラタケモドキ、コフキタケが出ている場合は、必ず写真を付けて記録するよう求めています。国土交通省の指針(案)の参考資料では、ベッコウタケは広葉樹の根株の心材を腐朽させるキノコとされ、カワウソタケは、とくにサクラ類の幹や枝に出る腐朽菌として挙げられています。小さな幼菌や、傘の跡だけが残っていることもあるので、根元の草をよけて地際まで見ます。当社が杉並区で緊急対応したベッコウタケによるサクラの倒木では、根元にベッコウタケの発生痕があり、太い根はスポンジ状に腐っていましたが、倒れる前の年の写真では葉がしっかりついていました。

穿孔性害虫の虫フンとヤニ
幹や枝の中を食べる穿孔性害虫は、穴から木くずのような虫フン(フラス)が出るので、注意して見れば見つけられます。サクラ類では、特定外来生物のクビアカツヤカミキリや、コスカシバが挙げられています(国土交通省の指針(案)の参考資料、東京都のマニュアル)。根元の地面にたまった木くずや、幹のヤニは、上を見上げているだけでは気づきません。クビアカツヤカミキリについては、クビアカツヤカミキリの被害と対策の記事にまとめています。
樹木医を目指す若手と一緒に診断する理由
当日は、髙尾が手を動かしながら、樹木医が見ているポイントや、診断のときの注意点を若手メンバーに伝えました。
打音の聞き分けや樹勢の見方は、マニュアルを読むだけでは身につきません。国土交通省の指針(案)の参考資料も、樹勢を正しく見極めるには、日ごろからいろいろな樹種・樹齢・状態の樹木を多く観察して判断の力を養い、その樹種の健全で最も良い例を見ておくことも大切だとしています。
樹木診断を経験すると、普段の植栽管理で木を見る視点が変わり、課題や問題を一段深く掘り下げられるようになります。剪定や管理の現場に立つ私たちが診断の目を持つことは、診断の場だけでなく、日々の管理の質にもつながると考えています。
よくある質問
Q1. 樹木の外観診断とは何ですか?
A. 樹木医などが、木の外から目視と、木槌・鋼棒・双眼鏡などの診断用具を使って、樹木の状態を総合的に診断することです。東京都建設局のマニュアルでは、樹勢と樹形から活力を見る「活力診断」と、根元・幹・骨格となる大枝の状態を見る「部位診断」で組み立て、その結果から判定します。
Q2. 打音(木槌打診)で何が分かりますか?
A. 木槌で幹をたたいた音の質と範囲から、内部の空洞や腐朽の有無と広がりを推定できます。明らかに健全な箇所の音と聞き比べるのが基本です。ただし判別は難しく熟練を要し、樹種や部位、樹皮のコケによっても聞こえ方が変わるため、打音だけで内部を言い切ることはせず、異常音があれば機器診断で確かめます。
Q3. 公園のサクラ(桜)はなぜ注意して診断するのですか?
A. サクラ類は、国土技術政策総合研究所の手引きで、木材腐朽菌に侵されやすい樹種、枯れ枝による落枝が多い樹種に挙げられているためです。東京都のマニュアルでも、過去に幹折れや倒木などの被害が生じた6樹種の一つとして、優先して診断する対象になっています。
Q4. 外観診断で異常が見つかったらどうなりますか?
A. 異常の大きさや範囲に応じて、機器診断に進みます。東京都のマニュアルでは、木槌打診の異常音が大きい、または範囲が広い場合は機器診断が必要としています。当社では、レジ(Resi PD)、ピカス、アーボソニック3Dで幹や根元の内部を調べ、外観診断の所見と合わせて判断します。
Q5. 公園樹木の点検と診断はどう違いますか?
A. 国土交通省の指針(案)では、日常点検や定期点検で樹木の変状や異常を見つけ、そのうち範囲や程度が分からないものについて、健全度をより詳しく把握して正確に判定するのが診断としています。診断では、詳しい目視に加えて、打診、鋼棒の貫入、機器による診断を行います。
診断書(カルテ)の様式は、東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」に準拠しています。また当社は、2023年10月に、一般社団法人 街路樹診断協会(現 一般社団法人 街路樹・都市樹木診断協会)の正会員になりました。
花の季節に多くの人が木の下に集まる公園のサクラだからこそ、安全を確かめることと、残せる木を残すための判断の材料をそろえることの両方を、外観診断から丁寧に積み重ねていきたいと思います。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 髙尾聡司
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
- 令和三年度 街路樹診断等マニュアル(東京都建設局): 診断の対象(12ページ)、外観診断の概要と用具(15〜17ページ)、根元の留意事項(20ページ)、キノコ(28ページ)、木槌打診(32ページ)、虫穴・虫フン、ヤニ(35ページ)、鋼棒貫入異常(37ページ)
- 都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)(国土交通省、平成29年9月・令和8年3月30日改訂): 点検・診断の種類(6ページ)
- 同 参考資料(国土交通省): 点検・診断の項目(1ページ)、キノコと樹勢(8ページ)、穿孔害虫等(18ページ)、打診音異常(20ページ)、根系の変状及び異常(21ページ)
- 街路樹の倒伏対策の手引き 第2版(国土技術政策総合研究所資料 第1059号、2019年2月): 幹と枝の腐朽・空洞(Ⅱ 1-19)、腐朽しやすい樹種・落枝が発生しやすい樹種(Ⅱ 1-41〜1-42)
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※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。






















