トロニック(PiCUS TreeTronic 3)の構成と測り方──電気抵抗で断面を描き、音波の画像と重ねて読む方法を樹木医が解説

トロニック PiCUS TreeTronic 電気抵抗トモグラフ 樹木診断 樹木医

トロニック(PiCUS TreeTronic 3)は、ピカスと同じ釘を電極にして、幹の断面の電気の通りにくさ(電気抵抗)を画像にする機器です。日本ではまだ情報の少ないこの機器の仕組みと測り方、音波の画像と重ねる読み方、値が変わる要因を、メーカーの資料と海外の研究をもとに樹木医がまとめました。

IML社の樹木診断機器をひとつずつ取り上げる連載の第5回です。第4回では、音で幹の断面を描くピカス(PiCUS Sonic Tomograph 3)を取り上げました。今回は、その相棒にあたるトロニックです。トロニックについては、日本語で読める資料がまだ多くありません。そこで今回は、メーカーが公開している英語の取扱説明書と製品資料、そして欧米や中国の研究と事例を読み込み、いつもより詳しく書くことにしました。電気抵抗で何が見えるのかの入り口は、ピカス(PiCUS) 樹木診断を非破壊診断×微破壊診断で、樹木診断を世界水準へにもまとめてあります。

先に答え

  • トロニックは、幹に打った測定点に電圧をかけて電流と電圧を測り、断面の電気抵抗の分布を画像にする電気抵抗トモグラフ(ERT)です。現行の型はPiCUS TreeTronic 3です。
  • 木の電気抵抗は、主に水分と、水に溶けたイオンの量で決まります。腐朽は水分が多く抵抗が低いことが多いため、メーカーは特に初期の腐朽をとらえやすいとしています。
  • 測定点は1回に8〜24点の偶数で、点の間隔は平均25cm以下が目安です。測定ケーブルのクリップは赤・黒・赤の順に並び、番号どおりに釘へつなぎます。
  • ピカスと同じ釘と同じ形のデータを使い、続けて測れます。音波と電気抵抗の2枚を重ねると、健全、腐朽の初期、空洞や亀裂、進行中の腐朽の見分けがしやすくなります。米国の研究では、伐倒して確かめた105断面のうち95断面で内部の状態を正しく言い当てました。
  • 電気抵抗は、樹種、気温、凍結、季節、材の水分、水食い材などにも左右されます。画像は「どの色がどこにあるか」の分布として読み、樹種と測った時期を踏まえて判断します。
トロニック PiCUS TreeTronic 電気抵抗トモグラフ 電極 クリップ 赤 黒 樹木診断 図解
トロニックの測定。幹に巻いたベルトに本体を留め、釘の頭を赤と黒のクリップで交互につなぐ(イラストは当社作成)

 

トロニックとは──電気の通りにくさで断面を描く

トロニックの測り方は、もともと地球物理の分野で、地下の水や地層を調べるために使われてきた電気探査の方法を、樹木に応用したものです。メーカーの説明書によると、樹木への応用は1998年にドイツで始まりました。

IML Electronic社の製品ページと公開の取扱説明書によると、木の電気抵抗は、主に材に含まれる水分と、水に溶けたイオン(カリウムやマグネシウムなど)の量で決まり、細胞の構造や化学的な組成も影響します。腐朽した部分は水分が多いことが多く、そのため電気抵抗が低くなります。

トロニック 電気抵抗トモグラフィ 原理 電圧 電流 腐朽 水分 抵抗が低い 図解
2つの測定点の間に電流を流すと、電気は幹の中を流れる。水分の多い腐朽の部分は電気を通しやすい(仕組みを示す模式図。イラストは当社作成)

測定では、トロニックが2本の釘の間に電流を流し、ほかの2本の釘の間の電圧を測る、という組み合わせを、釘の組を順に替えながら繰り返します。公開の取扱説明書では、かける電圧は最大80ボルト、電流は最大20ミリアンペアです。こうして集めた多くの組み合わせの測定値と、測定面の形の情報から、ソフトが断面の中の「見かけの電気抵抗」を計算して画像にします。

画像の色は、青が電気を通しやすい(抵抗が低い、湿っている)部分、赤が通しにくい(抵抗が高い、乾いている)部分です。色の目盛は対数で、その断面で測れた最小の値が青、最大の値が赤になるよう、断面ごとに自動で合わされます。この「断面ごとに目盛が変わる」性質は、読み方を考えるうえで大切なので、あとでもう一度取り上げます。

説明書は、トロニックが示すのは電気抵抗の「違い」であって、その原因が腐朽なのか空洞なのか亀裂なのかまでは、機器そのものは決められないとしています。また、画像だけで伐採を決めないこと、結果の解釈は専門の知識を持つ人が行い、その責任は解釈する人にあることも明記しています。

ピカスが音の伝わる速さ、つまり材の硬さや密度にかかわる「機械的な性質」を映すのに対して、トロニックは材に含まれる水分やイオンといった「化学的な性質」を映します。説明書によると、トロニックは音波の機器と並べて使うことを前提に開発され、物理の原理が違う2つを同じ測定点で測ることで、片方だけでは残るあいまいさの一部が解けるとされています。

トロニックは何でできているか──標準の構成と仕様

製品ページに載っている標準の構成は次のとおりです。ピカスと同じく、ひとつの運搬ケースに収まっています。

トロニック 標準の構成 運搬ケース 本体 測定ケーブル 赤 黒 クリップ 締め付けベルト 図解
トロニックの標準の構成。本体、測定ケーブル2本(先は赤と黒のクリップ)、締め付けベルト、巻尺、ゴムハンマー、ペンチ、釘の入れ物、番号札(イラストは当社作成)
部品 役割
本体(コントロールユニット) 測定の操作と記録、回すつまみと画面で単独でも、パソコンやアプリからでも操作できる
測定ケーブル(12点用×2本) 1〜12番用と13〜24番用、先が12本の細い線に分かれ、クリップで釘につなぐ、1本の長さは3.5m
締め付けベルト(長さ4.5m、2本) 本体とケーブルを幹に留める
巻尺、ゴムハンマー、ペンチ、釘・ねじの入れ物、番号札(1〜24) 測定点の位置決め、釘打ち、抜き取り、番号付け
ソフトウェア、取扱説明書、運搬ケース、バッグ、テスト用の部品 測定後の計算と記録、持ち運び、動作の確かめ

公開の取扱説明書(TreeTronic 3 Device Manual、2026年版)と製品資料に書かれている主な仕様をまとめると、次のようになります。

項目 内容
測定チャンネル 24
1回の測定点 8〜24点、偶数のみ
最大の電圧・電流 80ボルト・20ミリアンペア
測定にかかる時間 点の数と材の電気の通りやすさにより10〜60秒(製品資料は「24点で30秒未満」)
本体への保存 最大120件(製品資料は「100件超」)
測れる幹周 約6.5mまで(製品資料ではオプションの延長で約10mまで)
そのほか GPS、樹高を測る傾きセンサー、Bluetooth・USB、ケース一式の重さは約9kg

本体は測定と保存を受け持ちますが、断面の画像を計算する力は持っていません。説明書は、測ったデータを必ずパソコンかアプリに移して画像を計算するよう求めています。動作の点検には、24点を等間隔につなぐと均一な同心円の画像が出るテスト用の部品が付いています。

トロニック 本体 回すつまみ 画面 単独操作 測定 クリップ 赤 黒 手元 図解
本体の右のつまみを回して操作する。釘のクリップは赤・黒・赤の順に並ぶ(イラストは当社作成)

当社のトロニックには延長は付いていないので、幹周約6.5mまでの樹木で使っています。

測定の流れ──ピカスと同じ釘で、続けて測る

公開の取扱説明書とソフトの説明書に書かれている流れを、当社の手順とあわせて整理すると、次のようになります。

  1. 外観診断で、測るかどうかと、どの高さで測るかを決める
  2. 測定点を決めて釘を打ち、番号札を付ける
  3. 測定面の形(すべての釘の位置)を測る。ピカスで先に測っていれば、形と樹木のデータを本体どうしで受け渡せる
  4. 本体を幹に留め、測定ケーブルのクリップを番号どおりに釘へつなぎ、測る
  5. 保存し、パソコンかアプリで断面の画像を計算して確かめる
  6. 画像を確かめてから、機器と釘を外す

当社では、ピカスで音波を測り終えたら、センサーを外し、同じ釘に測定ケーブルのクリップをつないでトロニックで測ります。説明書も、電気抵抗を測る前に音波のセンサーを必ず外すよう求めています。トロニックの電圧で、音波のセンサーが傷むことがあるためです。

ピカス トロニック 同じ釘 測定点 センサー クリップ 赤 黒 続けて測る 図解
左: 釘にピカスのセンサーを付けて音波を測る。右: センサーを外し、同じ釘に赤と黒のクリップをつないで電気抵抗を測る(イラストは当社作成)

釘の打ち方と点の数

説明書によると、釘は幹のまわりにできるだけ均等に、同じ高さの面にそろえて打ちます。腐朽などの疑いのある所の近くには打ちますが、その中には打ちません。樹皮は材とは電気の通り方が大きく違うので、釘は樹皮を貫いて材に届かせます。根張りの部分では、根の上と根の間の両方に打ち、断面の形を正しく写します。

点の間隔は、平均で25cm以下が目安とされています。メーカーの説明書と、チェコやブラジルの研究で共通して紹介されているやり方は、まずピカスを12点で測り、はっきりしない場合は、その釘を残したまま間に釘を足して、24点でトロニックを測る方法です。本体だけでは24点までですが、パソコンやアプリを使って端子を付け替え、部分ごとに測って重ねれば、24点を超える太い木も測れます。

クリップのつなぎ方──赤・黒・赤

測定ケーブルの細い線の先には、小さなワニ口のクリップが付いています。クリップは隣どうしで赤と黒が交互になっていて、1番の端子を1番の釘に、2番を2番に、と番号どおりにつないでいくと、赤・黒・赤の並びになります。説明書は、この色の並びがつなぎ間違いを防ぐ手がかりになるとしています。1本の釘につなぐクリップは1つだけです。

トロニック 測定ケーブル クリップ 赤 黒 交互 釘 番号札 つなぎ方 図解
番号札の順に、釘の頭へ赤・黒・赤とクリップをつないでいく(イラストは当社作成)

説明書は、1本でもつなぎ間違えると、データは必ず誤ったものになると強調しています。本体は24点のとき12番と13番の間に置き、1〜12番のケーブルを左、13〜24番を右の差し込み口につなぎます。

トロニック PiCUS TreeTronic 本体 幹 ベルト 電極 クリップ 番号札 樹木診断 写真
幹にトロニックの本体を留め、根元近くの釘に赤と黒のクリップをつないだところ

測っている間に気を付けること

測っている間は、最大80ボルトの電圧がかかります。説明書は、けがのおそれがあり、結果も乱れるので、クリップや釘、木に触れないよう注意しています。データの質は、本体の画面の棒グラフで確かめます。黄色の棒は、木に流し込んだ電流を表します。電流が少なすぎたり多すぎたりすると、本体がエラーを出すので、クリップと釘の接触を確かめます。

ソフトにも点検の機能があり、接触の悪い組み合わせは赤で示されます。説明書によると、1本の釘の接触不良は隣り合う2つの組に表れるので、赤は必ず複数の点にまたがって出ます。接触不良が出たら、釘が樹皮を貫いて材に届いているか、クリップや釘に錆や汚れがないかを確かめて測り直します。直しても同じ点で出る場合は、材そのもの、たとえば亀裂で一部が囲まれていることが原因と考えられ、その点を除いて計算はできますが、信頼性は下がるとされています。

説明書は、釘が樹木から樹木へ病気を運ぶおそれがあるとして、使った釘を消毒するか、使い捨てにするよう勧めています。また、釘を長く刺したままにすると画像が乱れることが、オーストリアの研究でも確かめられています。当社では、画像を確かめたあと、釘をすぐに抜き取ります。

2枚の画像を重ねて読む

メーカーは、ピカスの音波の画像にトロニックの電気抵抗の画像を重ねることで、多くの場合、折れにくさを判断するための残った健全な材の厚さ(残存壁厚)を、より正確に求められるとしています。また、電気抵抗は音波と違って幹の亀裂の影響を受けにくいため、亀裂で音波の画像がぼやけたときの読み取りに役立つとしています。

ピカス 音波 トロニック 電気抵抗 断面画像 同じ木 同じ測定点 実測 比較
当社が同じ樹木の同じ高さを、同じ24点で測った断面画像。左が音波(ピカス)、右が電気抵抗(トロニック)

ソフトの説明書には、多くの樹種に当てはまる読み方の表が載っています。要点は次の4つの組み合わせです。

ピカス トロニック 音波 電気抵抗 組み合わせ 読み方 腐朽 空洞 健全 表 図解
音波と電気抵抗の組み合わせで見立ての幅を絞る(メーカーの説明書の考え方をもとにした目安。当社作成の図)
音波(ピカス) 電気抵抗(トロニック) 考えられる材の状態
速い 高い 健全な材
速い 低い まだ強さは保たれているが、腐朽の初期の可能性
遅い 高い 空洞、亀裂、乾いた(進行の止まった)腐朽
遅い 低い 水分を含んで進んでいる腐朽
亀裂 音波 ぼやける 電気抵抗 影響を受けにくい ピカス トロニック 図解
亀裂は音の通り道をさえぎり、音波の画像を乱すことがある。電気抵抗は亀裂の影響を受けにくいとされる(仕組みを示す模式図。イラストは当社作成)

この読み方が実際にどこまで当たるのかは、海外で確かめられています。米国コネチカット州の森で、アメリカブナ、サトウカエデ、キハダカンバの72本をピカスの音波とトロニックで測った Marra らの研究(2018)は、2枚を重ねて内部を4つに分類し、そのうち39本を伐倒して、105枚の円板と照らし合わせました。その結果、105断面のうち95断面で内部の状態を正しく言い当て、空洞でない所を空洞と誤ったことは一度もありませんでした。一方で、直径10cm未満の小さな空洞は見落とすことがあり、腐朽や空洞の面積はやや小さめに出る傾向があったとも報告しています。

同じ米国北東部のカエデ類・カバノキ類・ブナ類の9本を調べた Brazee らの研究(2011)も、音波と電気抵抗の両方を使って腐朽の面積を推定すると、どちらか一方だけよりもはるかに正確だったと報告しています。中国のハルビンでマンシュウトネリコとポプラの一種あわせて80本を、トロニックと別の会社の音波の機器で測った Yue らの研究(2019)では、腐朽の初期(材の重さの減りが30%未満)では電気抵抗が、腐朽が進んだ段階(30%以上)では音波が、実際の腐朽の程度とよく対応しました。初期は電気抵抗、空洞化が進んだら音波、と得意な段階が違うことを示した研究です。

樹種ごとに「健全な姿」が違う

トロニックを読むうえで、もうひとつ大切なのは、腐朽のない健全な樹木でも、樹種によって画像の模様が違うことです。ソフトの説明書は、健全な樹木の模様を3つの型に分けています。

  • 型1: 外側(樹皮と辺材)が低く、中心が高い。カエデ、トチノキ、カバノキ、クリ、クスノキ、ブナ、トネリコ、マツ、トウヒ、ポプラ、シナノキ、ニレなど、多くの樹種がこの型とされています
  • 型2: 外側が高く、中心が低い。健全なジャイアントセコイアの例が挙げられています
  • 型3: 外側が低い輪になり、中心にも低い部分がある。健全なヨーロッパナラの典型とされ、近縁のナラ類も同じ群らしいとされています

型3のナラ類の中心が低く出る理由は、研究でも裏づけられています。ドイツの街路のヨーロッパナラ6本を調べた Bieker と Rust の研究(2010)は、電気抵抗が材の含水率や密度とは相関せず、心材の中のカリウムやマグネシウムといったイオンの量の違いで模様が説明できることを示し、腐朽の検出に使うには樹種ごとの模様をさらに調べる必要があると結論しています。オーストリアの研究グループ(Bär ら、2019)も、樹種による違いが大きく、正しく読むには基準となる健全な樹木の測定が大切だとしています。

説明書自身も、この型の分け方は限られたデータにもとづくもので、すべての樹種を網羅しているわけではないと断っています。ケヤキ、サクラ、イチョウ、スギ、ヒノキなど、日本でよく診断する樹種は、この一覧に個別には挙がっていません。当社では、その樹種の健全な樹木の画像を見比べながら読むようにしています。

値を左右するもの──気温、季節、水分、水食い材

電気抵抗は、腐朽のほかにもさまざまな要因で変わります。海外の研究と説明書から、読むときに気を付けたい点を整理します。

トロニック 電気抵抗 湿度 気温 含水率 季節 影響 読み方 図解
電気抵抗は湿度・気温・含水率・季節などにも左右される(当社作成の図)

気温と凍結

オーストリアのインスブルック大学のグループが、6樹種の若木をトロニックで測った実験(Ganthaler ら、2019)では、0℃より上で温度が変わっても、断面の模様そのものは変わりませんでした。ただし、抵抗の値は温度が下がるほど上がり、30℃から0℃までの間で約2.5倍になりました。凍ると抵抗は大きく上がり、特に外側で目立ちました。研究者は、腐朽の診断は「予想外に高い所や低い所」を探す読み方なので、0℃より上の温度の影響は小さいとする一方、十分に水を吸った状態の樹木で測ることを勧めています。

ソフトの説明書には、腐朽のあるクリを、秋(約15℃)と、1週間以上凍り続けた後の冬(約-5℃)に測って比べた例が載っています。凍った時は電気抵抗が断面のほぼ全体で大きく上がり、傷みが前より大きく見えました。説明書は、長く0℃を下回った時期やその直後は、音波も電気抵抗も測れない、と書いています。

季節と水分

フランスの山地のヨーロッパモミ58本を1年以上にわたって測った研究(Martin ら、2021)では、電気抵抗は冬に最も高く、夏に最も低くなりました。スイスマツを季節を通して測った研究(Losso ら、2020)でも、像は1年の中で大きく変わり、気温や材の温度と強く結びついていました。米国フロリダのヤシを測った研究(Elliott ら、2016)では、同じ樹種の健全な木でも、散水する住宅地の木は抵抗が低く、散水しない場所の木は高く出ました。研究者は、診断の前に、その場所での「ふつうの姿」を知っておく必要があるとしています。

同じ樹木を何年かおきに測って比べるときは、説明書が勧めるとおり、毎回同じ釘の位置で、できるだけ同じ季節に測り、気温や天候も記録しておくのがよいと考えています。

水食い材は腐朽と紛れる

心材に水がたまった「水食い材(ウェットウッド)」も、電気抵抗が低く、青く出ます。説明書には、ポプラの初期の水食い材が、音波では異常なし、電気抵抗では中心が青く出た例が載っています。先ほどのモミの研究では、外見は健全な58本のうち約9割の心材に水食い材がありました。「音が速く、電気抵抗が低い」組み合わせには、腐朽の初期だけでなく、水食い材の場合もあることを覚えておく必要があります。

大きな空洞と、色の目盛の自動合わせ

乾いた大きな空洞があると、その高い抵抗が色の目盛の上の端になり、健全な材まで青く見えることがある、と説明書は注意しています。逆に、水のたまった空洞は青く出ます。チェコでドイツトウヒ27本をトロニックで測り、その日のうちに伐倒して確かめた Humplík らの研究(2016)も、色の目盛が断面ごとに最小から最大へ合わされるため、画像だけでは腐朽の広がりや段階を決めきれない場合があると指摘し、抵抗の値そのものも見ること、音波と組み合わせることを勧めています。

根元の測定

計算は、測定面の上下に幹がそのまま続いていると仮定しています。説明書は、根元の測定はこの前提から外れると書いており、オーストリアの研究も、地際に近い測定は像に大きく影響するとしています。当社では、根元を測るときは、その点を踏まえて読みます。

海外の事例から

トロニックは、欧米を中心に、研究だけでなく実際の樹木管理にも使われています。読んだ論文の中から、いくつか紹介します。

  • ポーランドのサンドミェシュ市では、歴史的な巨木13本(ノルウェーカエデ、ヨーロッパトネリコ、ウラジロハコヤナギ、ヨーロッパナラ、フユボダイジュ)を、ピカスの音波とトロニックで調べ、市の管理計画に生かしました(Durlak ら、2022)。研究者は、まず音波で測り、電気抵抗で確かめると、音波で青く出た部分が空洞か腐朽かを見分けられるとまとめています。
  • 米国フロリダでは、ジョオウヤシの病気の診断に使われ、コフキタケの仲間による腐朽と、萎凋病の部分が、電気抵抗の低い所として写りました(Elliott ら、2016)。
  • ブラジルの大学構内の大通りでは、植栽からおよそ100年のカエンボク43本を音波とトロニックで調べ、内部の腐朽を見つけた割合は音波で27.9%、電気抵抗で30.2%と近い一方、5本では2つの結果が食い違いました。研究者は、両方を使うと解釈しやすく、正しい解釈は測る人の知識に左右されるとしています(Emerick ら、2025)。
  • チェコでは、現場の作業時間が調べられ、音波と電気抵抗の両方で1断面を測るのに、1人で約52分、2人で続けて測ると約37分でした(Baláš ら、2020)。電気抵抗は、測定と計算を本体とソフトが自動で行うぶん、時間がかかるとされています。

メーカーの資料にも、時間を追って測った例が載っています。あるブナでは、最初の測定で音波はまだ良好でしたが、電気抵抗では欠陥がより広く湿って写り、8年後には欠陥が広がり、以前「湿っていた」部分が乾いた空洞に変わっていました。シナノキを11年にわたって5回測った例でも、傷みの範囲は常に音波より電気抵抗の方が広く写りました。電気抵抗が、音波より先に変化をとらえることを示す例として紹介されています。

当社の使い方

当社は、トロニックを株式会社ワイ・システムズ国際様から購入し、ピカスと組み合わせて使っています。外観診断で内部の異常が疑われた樹木について、まずピカスで断面の全体を画像にし、続けてトロニックで同じ断面を測り、2枚を重ねて読みます。そのうえで、気になる範囲に絞ってレジ(Resi PD)を通し、実際の材の状態を確かめます。

樹木診断 流れ 外観診断 ピカス トロニック レジ 機器診断 図解
当社の機器診断の流れ。外観診断で見立てを立て、ピカスとトロニックで断面を見て、レジで確かめる(イラストは当社作成)

トロニックの画像は、それだけで答えを出すものではありません。研究が示すとおり、樹種、季節、水分、水食い材など、色を変える要因はいくつもあります。だからこそ当社では、ピカスの画像、外観診断で見た樹皮や根元の様子、樹種、測った時期をあわせて読み、色の濃さだけで腐朽の有無を決めないようにしています。

これまでに、山梨県都留市の西涼寺様の霊木ケヤキ(西涼寺様 霊木ケヤキの樹木診断)や、埼玉県内の伝統校のクスノキ(埼玉県内の伝統校 樹木医によるクスノキ2本の機器診断)などで、ピカスとトロニックを組み合わせて使ってきました。

株式会社トシ・ランドスケープのツリーリスクアセスメント(樹木診断)部門では、樹木医が外観診断から機器診断、報告書の作成、その後の管理計画までを一貫して担当しています。ご依頼は、マンション管理組合様、学校施設、寺社の御神木など様々です。幹や根元の内部が気になる樹木がありましたら、樹木診断のサービスページをご覧のうえ、お問い合わせフォームからのご相談をお待ちしています。

次回は、測定点の位置を正確に測り、断面の形を入力するための道具、PiCUS Calliper(キャリパー)を取り上げます。

 

株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊

 

よくあるご質問(トロニック PiCUS TreeTronic 3 について)

Q1. トロニックでは何を測りますか?

A. 幹の断面の電気抵抗の分布です。釘の組を順に替えながら電流を流して電圧を測り、ソフトが断面の見かけの電気抵抗を計算して画像にします。木の電気抵抗は、主に水分と、水に溶けたイオンで決まります。

Q2. 測定点は何点まで設定できますか?

A. 本体だけで1回に8〜24点の偶数です。点の間隔は平均25cm以下が目安です。パソコンやアプリを使えば、部分ごとに測って重ね、24点を超える太い木も測れます。

Q3. 測定ケーブルのクリップの赤と黒には、どんな意味がありますか?

A. 番号どおりに釘へつないでいくと、クリップが赤・黒・赤と交互に並びます。メーカーの説明書は、この色の並びがつなぎ間違いを防ぐ手がかりになるとしています。1本でもつなぎ間違えるとデータは必ず誤るため、色の並びで確かめながらつなぎます。

Q4. ピカスと同じ釘を使えますか?

A. 使えます。ピカスで打った釘に、トロニックのクリップをつないで測ります。電気抵抗を測る前には、音波のセンサーを必ず外します。トロニックの電圧で音波のセンサーが傷むことがあるためです。

Q5. 音波と電気抵抗の2枚は、どう読み分けますか?

A. 組み合わせで見立ての幅を絞ります。音が速く電気抵抗も高ければ健全な材、音が速く電気抵抗が低ければ腐朽の初期の可能性、音が遅く電気抵抗が高ければ空洞や亀裂、音が遅く電気抵抗も低ければ水分を含んで進んでいる腐朽、という読み方が目安です。米国の研究では、この読み方で伐倒した105断面のうち95断面の内部を正しく言い当てました。

Q6. 測る季節や天気で結果は変わりますか?

A. 変わります。0℃より上の温度では模様はほとんど変わりませんが、抵抗の値は温度で大きく変わり、凍ると断面全体が高く出ます。冬と夏でも値が変わり、雨や散水の影響も受けます。同じ樹木を比べるときは、同じ季節に測り、条件を記録しておきます。

Q7. 青く出た所は、必ず腐朽ですか?

A. 必ずではありません。心材に水がたまった水食い材も青く出ますし、ナラ類のように健全でも中心が青く出る樹種があります。乾いた大きな空洞があると、健全な材まで青く見えることもあります。音波の画像、樹種、外観をあわせて判断します。

Q8. どのくらいの太さの幹を測れますか?

A. 製品ページでは幹周約6.5mまでです。2025年6月版の製品資料には、オプションの延長で約10mまでと書かれています。当社のトロニックは延長なしで使っています。

 

出典・参考情報

メーカーの資料(いずれも2026年10月に確認)

・IML Electronic「PiCUS TreeTronic」製品ページ(英語) 測定の原理、標準の構成、技術データ、音波との重ね合わせと亀裂
・IML Electronic「TreeTronic 3 Device Manual」v1.0(PDF・英語) 構成、取り付け(赤・黒・赤の並び、音波のセンサーを外す)、測定中の注意(最大80ボルト、電流の棒グラフ)、仕様
・IML Electronic「IML Tree Inspection Manual」v1.1(PDF・英語) 電気抵抗トモグラフィの説明、釘の打ち方と点の間隔、接触の点検、樹種の3つの型、音波との読み合わせの表、凍結時の測定例、読み違いの要因
・IML Electronic「TreeTronic 3」製品資料(PDF・英語、2025年6月版) 24点で30秒未満、延長で約10m
・IML Electronic「TreeTronic Hardware Manual」(PDF・英語、2017年版) ブナの経年変化の例

研究

・Marra, R.E., Brazee, N.J. & Fraver, S. (2018) Estimating carbon loss due to internal decay in living trees using tomography: implications for forest carbon budgets. Environmental Research Letters 13: 105004
・Brazee, N.J. et al. (2011) Non-destructive assessment of internal decay in three hardwood species of northeastern North America using sonic and electrical impedance tomography. Forestry 84(1)
・Yue, X. et al. (2019) Electric resistance tomography and stress wave tomography for decay detection in trees—a comparison study. PeerJ 7: e6444
・Humplík, P., Čermák, P. & Žid, T. (2016) Electrical impedance tomography for decay diagnostics of Norway spruce (Picea abies): possibilities and opportunities. Silva Fennica 50(1)
・Bieker, D. & Rust, S. (2010) Electric resistivity tomography shows radial variation of electrolytes in Quercus robur. Canadian Journal of Forest Research 40(6)
・Bär, A. et al. (2019) Electrical resistivity tomography: patterns in Betula pendula, Fagus sylvatica, Picea abies and Pinus sylvestris. Tree Physiology 39(7)
・Ganthaler, A. et al. (2019) Noninvasive Analysis of Tree Stems by Electrical Resistivity Tomography: Unraveling the Effects of Temperature, Water Status, and Electrode Installation. Frontiers in Plant Science 10: 1455
・Losso, A. et al. (2020) Insights into trunks of Pinus cembra L.: analyses of hydraulics via electrical resistivity tomography. Trees 34(4)
・Martin, L. et al. (2021) Using electrical resistivity tomography to detect wetwood and estimate moisture content in silver fir (Abies alba Mill.). Annals of Forest Science 78: 65
・Elliott, M.L., Broschat, T.K. & Göcke, L. (2016) Preliminary Evaluation of Electrical Resistance Tomography for Imaging Palm Trunks. Arboriculture & Urban Forestry 42(2): 111–119
・Durlak, W., Dudkiewicz, M. & Milecka, M. (2022) A Combined Methods of Senile Trees Inventory in Sustainable Urban Greenery Management on the Example of the City of Sandomierz (Poland). Land 11: 1914
・Emerick, A. et al. (2025) Evaluation of internal wood condition in tree trunks using sonic tomography and electrical resistance tomography. CERNE 31: e-103486
・Baláš, M., Gallo, J. & Kuneš, I. (2020) Work sampling and work process optimization in sonic and electrical resistance tree tomography. Journal of Forest Science 66(1)

国内の代理店

・株式会社ワイ・システムズ国際「ピカス(PICUS)」

 

樹木診断機器(ピカス・レジ・アーボソニック3D)の記事

機器の解説・導入・研修

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・レジ(Resi PD)とは何か。樹木医が幹の中を「針」で診る機器診断を、一般の方向けに解説します
・ピカス(PiCUS) 樹木診断を非破壊診断×微破壊診断で、樹木診断を世界水準へ
・樹木診断機器Resi PD500の「Overload feed motor」エラー 原因は針でも設定でもなく、テレスコープ内のサポーターの曲がりでした
・音で、樹木の中を視る 非破壊樹木診断機器「ドクターウッズ」
・樹木診断 無料モニター募集
・PiCUS(ピカス)導入のお知らせ 樹木診断(機器診断) 非破壊診断×微破壊診断で、樹木診断を世界水準へ
・樹木診断機器 IML社製 レジ(Resi PD)について
・樹木模擬診断研修会を終えて 人の眼 × 機械の眼が拓く、新しい都市樹木管理のかたち
・「大型化・老木化」時代の樹木医・街路樹診断士による東京型・街路樹や公園樹木のマネジメント
・樹木医がイギリスの樹木診断に学ぶ ― 都市の樹木を守るための対話と発見

機器診断の記録

・山梨県都留市・西涼寺様 樹木医による霊木ケヤキの樹木診断 ピカス・ツリートロニック・レジとドローンで診た結果と、残すための3つの対策
・埼玉県内の伝統校 樹木医によるクスノキ2本の機器診断 ピカスで幹の内部を診る
・樹木医が街路樹エンジュの樹木診断と伐採後の腐朽具合の答え合わせ
・山形県での出張樹木診断 樹木医によるピカス、レジでの診断検証
・診断した木を、その日のうちに伐る──ピカス・アーボソニック3D・レジを同一木のサクラで比べた「樹木診断機器比較研修会」千葉県習志野市
・都有施設80万本の樹木一斉点検 約14,000本の「異状あり」を、樹木医はどう読むか
・港区三田 薬王寺様の境内 樹木診断 地上と樹上、樹木医がふたつの視点で木の内側を読む
・砧公園で4回目の倒木 樹木医として思うこと
・【ツリーケア最前線】樹木医が語るレジ(Resi PD)診断とロープワークの統合 相模原市での樹木診断レポート
・樹木医による都内の学校施設でのサクラの樹木診断 豊島区
・学校施設 ケヤキなど樹木医診断 東京都
・公園樹木診断 樹木医による機器診断・根株診断(レジ) 東京都
・マンション内のイチョウ(銀杏) 樹木医診断(機器診断) 東京都大田区
・公園のサクラ(桜)を樹木医が樹木診断(機器診断)しました
・樹木医 保存樹木サクラ等 樹木診断 東京都杉並区
・学校施設内 桜(サクラ)樹木医診断 東京都
・銀杏岡八幡神社 台東区浅草橋 樹木医診断
・樹木医 サクラ樹木診断(機器診断・レジ)
・樹木医診断 レジ過去マンション事例

サービス

・樹木診断(ツリーリスクアセスメント部門)
・GREEN MANAGEMENT

 

※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。

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