山形駅前大通りの街路樹・ユリノキの診断に、当社の樹木医チームで参加させていただきました。株式会社環meguruの松沢樹木医からご相談をいただき、ピカス(音響トモグラフ)とレジ(Resi PD)を突き合わせて幹と根株の内部を確かめる協働の現場です。
初日の夜、駅前の郷土料理店で松沢樹木医と打ち合わせをしました。店内にたまたま置かれていた、切り株を模したクッション。それを前に腐朽の話、開口空洞の話、機器の話が始まり、気づけば3時間が経っていました。翌朝からの現場が、そのままその続きになりました。

樹木医の診断が入ったことのなかった路線で
この路線では、これまで樹木医による診断が行われてこなかったそうです。きっかけは、倒木の危険性が非常に高い個体が見つかったこと。それを受けて環meguruさんは2025年12月から、外観診断とピカスによる機器診断をこの並木で積み重ねてこられました。
今回、当社はレジ(Resi PD)を持参して根株診断を担当しました。あわせて、ピカスで調べた箇所をレジ(レジストグラフ)で確かめ直す作業も行っています。すでに面としてのデータがある路線に、点の検証を重ねに行く,
外から加わる立場として、とてもありがたい条件でした。
- 根株診断 レジ レジストグラフ ベッコウタケ キノコ 倒木
- 根株診断 レジ レジストグラフ ベッコウタケ キノコ 倒木
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面で推定するピカス、点で確かめるレジ──比較検証という考え方
ピカスは、幹に打診の音を通し、その伝わり方から断面全体の状態を推定する機器です。健全な材と腐朽・空洞部では音の速度が変わるため、輪切りの断面図のような画像が得られます。一方のレジは、細いドリルを樹体に進め、その抵抗値を一本の線として記録する機器です。面で捉えるピカスと、点を確かめるレジ。原理がまったく違うからこそ、両方の結果を突き合わせると、どこがどれくらい弱っているのかの判断はずいぶん確かなものになります。推定と実測が一致すれば自信を持って言い切れますし、食い違えば、含水や割れなど別の要因を疑う手がかりになります。
- ピカス トモグラフィ 音波 機器診断 picus
- ピカス トモグラフィ 音波 機器診断 picus
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倒木のリスクは、幹の空洞だけで決まるものではありません。地際から根株にかけての状態は、立ち姿からは見えにくい割に、支持力に直結します。ユリノキは成長が早く大きくなる樹種です。根系については、太く真っ直ぐ地下深くへ伸びる直根性(深根性)の傾向が強い、いわゆるゴボウ根を持ち、横方向へは中程度に広がるといわれています。だからこそ今回は根株にレジを当てました。そして機器を使う前に、剪定の具合、立地環境、大きくなった地上部の重さを根がどう支えているのか──外観から読み取れる部分をまず考察したうえで、総合的に判断することに意味があると考えています。木を診るとは、地上の姿だけを見ることではありません。
ユリノキという木──新宿御苑から全国へ広がった並木の樹
ユリノキは北米東部原産のモクレン科の落葉高木で、原産地では樹高30メートルを超える大木に育ちます。チューリップに似た花からチューリップツリー、半纏のような葉の形からハンテンボクとも呼ばれます。

日本との付き合いは明治にさかのぼります。1872(明治5)年、現在の新宿御苑の地に農作物や園芸植物の栽培試験場「内藤新宿試験場」が置かれ、海外から導入した樹木の研究が行われました。ユリノキが日本で初めて植えられたのはこの場所と伝えられ、1907(明治40)年には街路樹育成用として園内のユリノキの種子が払い下げられました。東京都内の街路樹のユリノキの多くは、御苑の木を母樹とする子孫だといわれています。皇居の桜田門から半蔵門へ続く内堀通りの街路樹も、今もユリノキです。
山形駅前の並木がどの系譜にあたるのか、手元に記録はありません。それでも、日本のユリノキが「試験場の一本」から街路樹として全国へ広がっていった120年ほどの時間の、その先端に立っている木々であることは確かです。成長が早く、まっすぐ高く育つ性質は、街路樹として選ばれてきた理由そのものです。そして年数を経れば、その同じ性質が、大きくなった樹体をどう支え、どう診るかという管理の課題に変わっていきます。
東根の大ケヤキ、羽黒山のスギ並木、久保桜──山形は木を守り継いできた土地
山形でご一緒して、あらためて思ったことがあります。この県は、木を守り継ぐことにかけて、確かな蓄積を持つ土地だということです。
東根市の小学校の校庭には、樹齢1500年以上と推定される「東根の大ケヤキ」が立っています。樹高28メートル、目通りの幹周は約16メートル。1926(大正15)年に国の天然記念物、1957(昭和32)年には特別天然記念物に指定された、ケヤキとしては全国で唯一の特別天然記念物です。幹の内部は大きく空洞化していますが、それでも立ち続けている。そして昭和の末、葉の変色など樹勢の衰えが見えたとき、東根市が行ったのは伐ることではなく、根まわりの透水性の悪い舗装を剥がし、雨水が浸み込む環境に変えることでした。木は活力を取り戻したと伝えられています。空洞の有無だけで木の運命を決めない、根の環境こそが樹勢を左右する──私たちが現場で日々確かめていることを、この一本は何十年も前から体現しています。
鶴岡市の羽黒山には、随神門から山頂まで約1.7キロメートル、2446段の石段の両側に、樹齢350〜500年の杉が連なる「羽黒山のスギ並木」があります。江戸時代初期に別当・天宥が植えたと伝えられる並木で、こちらも国の特別天然記念物です。人の手で植えられた並木が、300年を超える時を経て国の宝になった。街路樹に関わる者として、これほど示唆に富む先例はありません。同時に、指定当初585本を数えたスギが、台風被害などで現在は400本を下回ったという報告もあります。特別天然記念物でさえ、老いと風害から自由ではないのです。
長井市の「伊佐沢の久保ザクラ」は、樹齢約1200年と伝わるエドヒガンで、1924(大正13)年に国の天然記念物に指定されました。幕末に幹へ火が入り内部が炭化したため、古木の桜が本来行う不定根による世代交代が起きにくくなっている。そこで2006(平成18)年から、文化庁の承諾のもと、新たな根を発生させて地面まで誘導する長期の樹勢回復が続けられています。印象的なのは、その作業に樹木医の指導のもと地元の小学生たちが参加していることです。幹のまわりに縦穴を掘り、腐葉土や炭を入れ、節を抜いた竹を挿して水と空気の通り道をつくる。木を診る技術と、木を思う気持ちが、同じ穴の中で一緒に働いています。
天然記念物の扱いの核心は、ここにあると思います。文化財保護法による指定とは、「この木には守るべき価値がある」と社会が明文化することです。だから現状を変える処置には許可という手続きが伴い、計画的な樹勢回復に人と予算がつき、保存会が生まれ、子どもたちが土に触れる。当社も江戸川区の寿昌院様で、区登録天然記念物のクロマツ「臥竜の松」の手入れを毎年続けていますが、指定された木のまわりには、木を長生きさせる仕組みと関心が、目に見える形で積み上がっていきます。
守られる木と、数えられる木──街路樹の法的な立ち位置
では、街路樹はどうか。道路法の条文を開くと、街路樹は第2条第2項第2号に「道路上の並木又は街灯」として、道路の附属物のひとつに挙げられています。並びは街灯と同じです。街灯は歳を取りませんが、木は歳を取ります。生き物である並木を、設備と同じ枠で数えてきたところに、街路樹管理の難しさの一端があるように思います。
国土技術政策総合研究所は1982(昭和57)年から5年ごとに全国の道路緑化樹木を調査しており、2017(平成29)年の集計では高木だけで約670万本という規模でした。戦後から高度経済成長期にかけて植えられた並木の多くが、いま50年を超える樹齢に達しています。木が大きく育つほど、その恩恵──緑陰、景観、道路空間の質──は増していきますが、同時に、診ないままでは分からないことも増えていきます。
環meguruさんの発信には、ビジョンがなければ理想からの逆算による管理はできない、街路樹を安全で快適な道路空間を形成する街の資産にしたい、という考えが一貫して流れています。私も同じ考えです。診断のデータが一本ごとに揃えば、何かが起きてから動く管理ではなく、こうありたい姿から逆算する管理に変えていける。一本ごとの結果が、次の年の管理計画の根拠になります。天然記念物と街路樹を分けているのは、木の側の価値ではなく、価値を明文化する仕組みがあるかどうかです。以前、イギリスの樹木診断に学んだ記事で、保護対象の樹木が建築より優先されることさえある街づくりをご紹介しました。街路樹が「資産」として台帳に載る未来は、診断の一本一本から始まると考えています。
やまがた樹木医協会の設立──土地に「診る人」が根づく
樹木医は、1991(平成3)年度に始まった日本緑化センターの資格認定制度で、全国で活動しています。日本樹木医会の正会員は約2400名。決して多い数ではなく、地域によって層の厚さにも差があります。山形では、樹木医や樹木診断という仕事の認知がまだ十分ではないと伺いました。リスクが把握されないまま管理が続いている街路樹も、少なくないのかもしれません。
その山形で、松沢樹木医は今年5月、一般社団法人やまがた樹木医協会を設立され、事務局長を務めておられます。機器は運べますし、技術は伝えられます。しかし、毎年その並木の下を歩き、変化に気づき、行政と話し、子どもたちに木の話をする人は、その土地にいなければ育ちません。久保桜の縦穴を掘った小学生たちのように、診る人と関心を持つ人が土地に根づいていくこと。それが街路樹の管理にとって確かな形だと、東京から通う私たちは思っています。私たちは機器と診断の技術を持ち込む立場として、その積み上げにこれからもご一緒できれば幸いです。
街路樹は、問題が起きてから対応する対象ではなく、道路空間をつくる資産として扱われていくものだと思います。今回の診断が、そのためのきっかけのひとつになれば幸いです。松沢樹木医、環meguruの皆様、お声がけをいただきありがとうございました。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
・環境省 新宿御苑(一般財団法人国民公園協会)「新宿御苑の歴史探訪」 https://fng.or.jp/shinjuku/2025/05/29/20250529_01/
・皇居外苑(一般財団法人国民公園協会)「咲き始めたユリノキと静寂な半蔵門」 https://fng.or.jp/koukyo/2017/05/09/post_256/
・東根市「日本一の大ケヤキ」 https://www.city.higashine.yamagata.jp/tourism/asobu/39
・文化庁 日本遺産ポータルサイト「羽黒山のスギ並木」 https://japan-heritage.bunka.go.jp/ja/culturalproperties/result/1526/
・置賜さくら回廊「伊佐沢の久保ザクラ」 https://www.okitama-sakura.com/sakura_spot/22/
・国土交通省 国土技術政策総合研究所「わが国の街路樹Ⅸ」(道路緑化樹木現況調査) https://www.nilim.go.jp/lab/ddg/siryou/gairojyu/frame.html
・一般財団法人日本緑化センター「樹木医制度」 https://www.jpgreen.or.jp/treedoctor/
・一般社団法人日本樹木医会「日本樹木医会について」 https://jumokui.jp/about/
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