神奈川県内のマンションで、年間管理計画に基づく植栽管理を実施しました。樹木医として剪定と劣化した支柱の撤去を行い、景観と安全性、将来の維持管理まで見据えた判断を現場で共有しました。
植栽管理は「今日きれいにする」だけの作業ではありません。数年後の樹形・コスト・倒木リスクまで連動します。この記事では、管理組合・理事会の皆さまが判断に迷いやすいところを、現場に立つ樹木医の視点で整理させていただきます。
マンションの植栽管理で「失敗」しやすいのは、短期の見栄えを優先したときです
植栽は年々成長し、樹形も樹勢も変わります。日照や風の条件も少しずつ動いていきます。短期の見栄えを優先して切り込み過ぎれば、数年後に徒長枝が増え、樹形が荒れて、余計なコストとリスクを生みます。反対に、手を入れるべき時期を逃せば枝は太り、切り口は大きくなり、回復にも時間がかかります。
徒長枝(とちょうし=勢いよく上へ伸びる枝)が増えるのには理由があります。太い枝を一度に切り詰める強剪定を行うと、樹木は失った葉の量を取り戻そうとして、幹や枝に眠っていた潜伏芽(せんぷくが=ふだんは伸びずに待機している芽)を一斉に動かします。その結果、細く弱い枝が上向きに数多く噴き出します。強く切るほど強く反発する、というのが樹木の性質です。だからこそ、管理の基本は「その場しのぎ」ではなく、中長期で目的と優先順位を組み立てることにあると考えています。
冬季剪定が適期になる理由|落葉高木は骨格が読み取りやすい
落葉樹の基本剪定に冬が向くのには、はっきりした根拠があります。落葉樹は葉を落として休眠期に入り、成長が止まっています。この時期は剪定による負担が小さく、春の萌芽もそのあと順調に進みます。加えて葉がないぶん、枝ぶりや骨格が見通せます。次の芽吹きと枝の更新を見越して、残す枝・減らす枝を選びやすい季節です。
行政のマニュアルでも、落葉樹の剪定適期は同じ考え方で示されています。港区「樹木管理マニュアル」(令和5年4月)には、落葉樹は新緑が出揃って葉が固まった7月〜8月頃と、落葉した11月〜3月頃が適すると記されています。私が現場で冬を選ぶのも、この休眠期の性質を利用して、樹木への負担をできるだけ抑えたいからです。
- 落葉樹剪定 樹木医 マンション 植栽管理
- 落葉樹剪定 樹木医 マンション 植栽管理
切り方で寿命が変わる|枝の付け根「ブランチカラー」を残す
剪定は、どこで切るかで結果が大きく変わります。私たちが基準にしているのは、CODIT(コディット/Compartmentalization of Decay in Trees=樹木が傷の周囲に壁をつくって腐朽を封じ込める仕組み)の考え方です。米国森林局の樹木病理学者アレックス・シャイゴ(Alex L. Shigo)が提唱したもので、いまの樹木管理の土台になっています。
枝の付け根には、ブランチカラー(枝の基部のふくらみ)と、ブランチバークリッジ(枝の上側にできる樹皮の隆起線)があります。ここには腐朽の広がりを食い止める防御の仕組みが集まっています。幹の面いっぱいに削ぐフラッシュカット(深切り)をすると、この部分ごと切り落としてしまい、切り口が塞がりにくく腐朽が幹へ進みます。逆に枝を長く残すスタブカット(切り残し)も、残った部分が枯れて菌の温床になります。ブランチカラーとブランチバークリッジを傷つけず、その外側で切る。この一手が、切り口の巻き込みを早め、樹木の寿命を守ります。
樹種の性質も見ています。「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」という言葉のとおり、サクラは切り口から木材腐朽菌が入りやすく、大枝の切除には特に慎重さが要ります。
管理組合が押さえるべき視点①|樹木は「ただの緑」ではなく資産です
現場に立つと、樹木は「ただそこにある緑」ではなく、建物と暮らしを支える資産だと実感します。エントランスに季節の表情をつくり、窓辺に木漏れ日を落とし、視線を受け止めて生活の輪郭を整える。植栽がつくる価値は、日々の管理の積み重ねで守られています。
この実感は、データでも裏づけられています。ニッセイ基礎研究所のレポート「視界に入る『みどり』が住宅賃料に及ぼす影響」(2020年)では、視界に入る緑の割合(緑視率)が10%高い場合、マンション賃料が月1,326円高いことが示唆されています(東京都江東区の賃貸住宅を対象とした分析です)。管理された緑は、居住性だけでなく資産としても効いている、ということです。
国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」(令和6年6月改定)でも、性能向上工事項目の例として「外部環境(外構、植栽、工作物等の整備)」が挙げられています。植栽を長期修繕計画の中で扱うことは、これからの管理組合にとって現実的な選択肢だと考えます。
管理組合が押さえるべき視点②|剪定は「形」より先に、樹勢と負担を読む
枝を外す、降ろす、透かす、整える。同じ剪定でも、樹木医が最初に見るのは形ではありません。樹勢、芽のつき方、枝の伸びの癖、葉量の偏り、樹皮の表情。こうした小さなサインから、「この樹木は今、どこに無理が出ているか」「何を守り、どこを軽くするべきか」を読み取ります。
剪定は一本の樹木だけを整える作業でもありません。植栽全体のバランスを保ち、景観として成立させるための判断でもあります。単木で完結させず、植込み全体、そして建物との関係で考える。集合住宅の植栽管理では、ここが特に問われます。
今回の支柱撤去|劣化した支柱を外すことは、将来リスクの低減です
今回は、劣化した支柱の撤去も行いました。支柱は、植栽した樹木が自分の根で体を支えられるようになるまでの一時的な補助です。根が張って自立できるようになれば、役目を終えます。役目を終えた支柱をそのままにすると、二つの問題が出ます。ひとつは、結束部分が成長した幹に食い込み、幹を絞めてしまうこと。もうひとつは、支柱そのものが腐朽・破損し、強風時にかえって危険物になることです。
劣化支柱の撤去は、今の景観だけの話ではありません。幹への食い込みを防ぎ、将来の維持管理負担やリスクを軽くし、次の管理を組み立てやすくするための判断として位置づけています。

管理組合が押さえるべき視点③|「今の一手」が3年後・5年後のコストを決めます
植栽管理は、切ったその日ではなく、翌年以降に差が出ます。
切り過ぎは徒長枝を増やし、次回以降の手間と危険度が上がります。逆に、先送りは枝を太らせ、切り口を大きくし、回復を遅らせます。
だからこそ、「今の一手が3年後・5年後の木を決める」という前提で、年間管理計画の中で、目的と優先順位を明確にすることが大切です。
管理組合・理事会との進め方|住民ニーズに寄り添い、景観と安全を両立する
マンションごとに、住民のライフスタイルやニーズは異なります。季節ごとの美しさを楽しみたいという声もあれば、子どもたちが安全に遊べる空間を重視したいという声もあります。
私たちは理事会などに参加させていただき、お住まいの方の声に耳を傾けながら、現場条件と合わせて、景観性と安全性が両立する管理をご提案しています。
また、経年劣化や成長の問題で景観・安全性に影響が出る場合は、管理組合様と協議のうえで、必要な植栽の更新やリニューアルも提案します。手を入れ続けるべきものと、更新したほうがよいものを見極め、いつ訪れても魅力的な空間を保っていきます。
- 樹木診断 樹木医 外観診断 機器診断 レジ レジストグラフ 街路樹 サクラ ケヤキ
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薬剤散布が必要になったとき|住宅地でのルールを守ります
マンションの植栽で病害虫が出たとき、農薬(殺虫剤・殺菌剤)に頼る前に、まず剪定や捕殺、被害部の除去といった物理的な手当てを優先します。これは私たちの考え方であると同時に、行政が求めている考え方でもあります。
農林水産省・環境省の通知「住宅地等における農薬使用について」(平成25年4月26日)では、人が居住し、滞在し、頻繁に訪れる場所の植栽について、定期的な予防散布をやめ、日常の観察で早期に見つけて物理的防除で対応するよう求めています。やむを得ず散布する場合も、その植物に適用のある登録農薬をラベルの使用方法どおりに使うこと、複数の農薬を現場で混ぜる「現地混用」を行わないこと、散布日時や農薬の種類を事前に周知して立入りを制限すること、使用した農薬を記録して保管することが示されています。
法令では、「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」により、食用・飼料用の農作物等には登録内容どおりの使用が義務づけられ、それ以外の植物も含め、ラベルの表示事項に従って安全かつ適正に使うよう努めることが求められています。マンションは人が暮らす場所です。散布ありきにしない。これが基本です。
見えない内部は機器診断で確かめる|レジ・ピカス・アーボソニック3D
葉が茂り樹形も整って見えても、幹の内部で腐朽や空洞が進んでいることがあります。外から見えない部分は、機器診断で確かめます。当社はResi PD(レジ)、ピカス、アーボソニック3Dを保有しています。
Resi PD(レジ)は、ドイツIML社の貫入抵抗測定器です。細い針を幹に挿し込み、内部から受ける抵抗を波形として記録します。健全な材は抵抗が高く、腐朽や空洞では抵抗が下がるため、針が通った線上の内部状態を細かく読み取れます。ピカスとアーボソニック3Dは、幹の周囲に打った複数の測定点の間を音波が伝わる速さを測る機器です。健全な材では音波が速く伝わり、腐朽や空洞があると遅くなる。この差から断面の内部を画像として可視化し、腐朽空洞率を算出できます。
局所を深く診るレジと、断面全体を面でとらえるピカス・アーボソニック3D。目的に応じて組み合わせることで、「切るべきか、残せるか」の判断を、経験だけでなくデータで支えられます。危険だから即伐採、と急がずに、残す余地を数値で探るために使っています。
管理組合・理事会との進め方|「今の一手」が3年後・5年後を決めます
マンションごとに、住民のライフスタイルやニーズは異なります。季節ごとの美しさを楽しみたいという声もあれば、子どもたちが安全に遊べる空間を重視したいという声もあります。私たちは理事会などに参加させていただき、お住まいの方の声に耳を傾けながら、現場条件と合わせて景観性と安全性が両立する管理を提案します。
植栽管理は、切ったその日ではなく翌年以降に差が出ます。切り過ぎは徒長枝を増やし、次回以降の手間と危険度を上げます。先送りは枝を太らせ、切り口を大きくし、回復を遅らせます。だからこそ、年間管理計画の中で目的と優先順位を明確にし、経年劣化や成長で景観・安全性に影響が出る場合は、管理組合様と協議のうえで植栽の更新やリニューアルも提案します。手を入れ続けるべきものと、更新したほうがよいものを見極める。いつ訪れても魅力的な空間を、10年先まで見据えて整えていきます。
現場での技術継承|判断を言語化し、若手に手渡す
この日は、樹木医の中村が若手社員に向けて、作業を進めながら植栽管理の勘所を一つひとつ言葉にし、マンションにおける樹木の価値と、中長期で管理を組み立てる考え方を共有しました。目の前の枝を切ることが目的ではなく、「この場所の緑を、どう育て、どう守り、どう次につなげるか」を、現場の動きと一緒に伝える時間になりました。
まとめ|植栽管理は「計画」と「判断」で、マンションの価値を守ります
私たちが目指す植栽管理は、今ある緑を消耗させず、時間を味方にしながら育てていくことです。冬に骨格を読んで剪定し、枝の付け根を残して切り、役目を終えた支柱を外し、見えない内部は機器で確かめる。ひとつひとつは地味な判断の積み重ねですが、それが住まいの景観と安心を、10年先まで支えます。株式会社トシ・ランドスケープは「都市の景観に付加価値を 人と都市をグリーンでつなぐ」を掲げ、そのための判断を年間管理計画の中で積み上げていきます。
剪定の判断、高木剪定の安全性や将来性、支柱の扱い、植栽更新のタイミングなどで迷うことがあれば、状況整理からお手伝いできます。お気軽にお問い合わせください。
ご依頼をいただきありがとうございました。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
植栽管理は「今の見栄え」だけでなく、数年後の樹形・コスト・リスクまで連動してきます。
剪定の判断、高木剪定の安全性や将来性、植栽更新のタイミングなどで迷うことがあれば、状況整理からお手伝いできます。お気軽にお問い合わせください。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
マンションの植栽管理 よくあるご質問(Q&A)
Q1. マンションの落葉高木の剪定は、いつやるのがよいですか?
A. 基本剪定は、葉を落として休眠する11月〜3月頃が適期です。成長が止まっているため負担が小さく、葉がないぶん枝の骨格を見通して残す枝・減らす枝を選べます。港区「樹木管理マニュアル」でも、落葉樹は落葉した11月〜3月頃(と、葉が固まった7月〜8月頃)が適するとされています。
Q2. 強く切ってさっぱりさせれば、次の剪定まで長くもちますか?
A. 逆効果になりがちです。太い枝を一度に切り詰めると、樹木が失った葉を取り戻そうとして潜伏芽を一斉に動かし、細く弱い徒長枝が数多く噴き出します。結果として翌年以降の手間と危険度が上がります。必要な枝を選んで抜く剪定のほうが、長い目で管理が楽になります。
Q3. 枝はどこで切るのが正解ですか?
A. 枝の付け根のふくらみ「ブランチカラー」と、上側の隆起線「ブランチバークリッジ」を残し、その外側で切ります。幹の面いっぱいに削ぐ深切り(フラッシュカット)は腐朽を招き、長く残す切り残し(スタブカット)は枯れて菌の温床になります。CODITの考え方に基づく切り方です。
Q4. サクラは切ってはいけないと聞きました。本当ですか?
A. 切ってはいけないわけではなく、慎重さが要る、が正確です。サクラは切り口から木材腐朽菌が入りやすい性質があります。枯れ枝や支障枝は適切に処理できますが、大枝の切除は位置・量・切ったあとの管理まで含めて樹木医が判断すべき作業です。
Q5. 植えたときの支柱は、ずっと付けたままでよいですか?
A. 樹木が自立できるようになったら外すのが基本です。付けたままだと結束が幹に食い込んで絞めたり、支柱自体が腐朽・破損して強風時に危険物になったりします。定期点検のたびに、食い込みや緩み、支柱の劣化を確認してください。
Q6. マンションの植栽で害虫が出たら、すぐ農薬を撒くべきですか?
A. まず剪定・捕殺・被害部の除去など、農薬以外の対応を優先します。農林水産省・環境省の通知「住宅地等における農薬使用について」でも、定期的な予防散布をやめ、日常の観察で早期に見つけて物理的防除で対応するよう求めています。
Q7. どうしても農薬を使う場合、何に注意すればよいですか?
A. その植物に適用のある登録農薬を、ラベルの使用方法どおりに使うことが大前提です。複数薬剤をその場で混ぜる「現地混用」は行いません。散布日時と農薬の種類を事前に周知し、立入りを制限し、使用記録を残して保管します。
Q8. 見た目が元気な樹木でも、診断は必要ですか?
A. 葉が茂り樹形が整っていても、幹の内部で腐朽や空洞が進んでいることがあります。外から見えない部分は、Resi PD(レジ)やピカス、アーボソニック3Dといった機器で確かめられます。特に大径木や、根元にキノコが出ている樹木は、内部の確認をおすすめします。
Q9. 危険な樹木は、すぐ伐採するしかないのでしょうか?
A. 伐採ありきでは考えません。まず機器診断で内部の腐朽や空洞の位置と広がりを数値で把握し、残せるか、経過観察できるか、部分的な処置で安全を確保できるかを検討します。安全確保と、樹木を残す努力の両方を天秤にかけて判断します。
Q10. 植栽管理はマンションの資産価値に関係しますか?
A. 関係します。ニッセイ基礎研究所の分析(東京都江東区の賃貸住宅が対象)では、緑視率が10%高い場合にマンション賃料が月1,326円高いことが示唆されています。国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインでも、植栽の整備が工事項目の例に挙げられており、計画的な植栽管理は資産の維持につながります。
参考情報
・港区「樹木管理マニュアル」(令和5年4月)
・ニッセイ基礎研究所「視界に入る『みどり』が住宅賃料に及ぼす影響」(2020年)
・国土交通省「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」(令和6年6月改定)
・農林水産省・環境省 通知「住宅地等における農薬使用について」(平成25年4月26日)
・農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令(e-Gov法令検索)
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