― VTAと東京都マニュアルに学ぶ「樹木診断の順番」―
樹木の診断の出発点は、「機械を当てること」ではありません。
最初に行うべきは、樹木が外観として発しているサインを丁寧に読み取り、どこに・何を疑い・どんな仮説で検証するのかを組み立てることになります。
この考え方は、ドイツの研究者マテック(Mattheck)氏らが1990年代に開発した樹木の診断法 VTA(Visual Tree Assessment) と、東京都建設局の 「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 のどちらにも共通しています。
東京都のマニュアルも同じく、外観診断を必須とし、必要に応じて機器診断を行い、最後に総合判定へ進む流れを明確にしています。
この記事では、その“診断の順番”を軸に、IML社の レジ(Resi PD。メーカーの製品名は IML-RESI PowerDrill / PD-Series) のデータの読み解き方や、どこで、どう使うと診断の説明力が上がるのかをまとめました。
レジ・貫入抵抗測定器・レジストグラフという呼び名の違いと、一般の方向けの基本は、レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何かにまとめています。この記事では、波形の読み方など、診断に携わる方向けの内容を中心に書いています。
先に答え
- レジ(Resi PD)は、ドイツIML社の穿孔抵抗測定器です。細いドリル針を木に貫入させながら、深さごとの回転抵抗と貫入抵抗(送り力、FEED)を同時に記録します。
- 東京都建設局の「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」は、外観診断を必須とし、機器診断は外観診断で必要とされた樹木に行い、最後に総合判定を行う流れを示しています。
- 回転抵抗には、孔に残った切りくずで針の軸が締め付けられる摩擦(シャフト摩擦)が加わります。IML社の資料では、貫入抵抗はこの摩擦の影響が小さく、初期の腐朽も見つけやすいとしています。
- IML社の取扱説明書のとおり、測定結果には専門的な判読が必要です。当社は、外観診断で立てた仮説を確かめる道具としてレジを使い、波形を根拠として読める形で報告します。
- 幹をレジで測る
1|外観診断の重要性
まずは、樹木医や街路樹・都市樹木診断士による目視や打音などによる外観診断によって、樹木の外観(姿勢、樹勢、樹皮、キノコ、裂け、根元の状態など)に現れる兆候から危険性を推定し、必要なときにだけ内部確認(機器診断)の手段へ進むことです。
ドイツの FLL の樹木点検の指針(2020年版)も、定期の点検は、資格のある点検者が地上から目で見て確かめる「目視の点検」で行うとし、点検のあとも疑いが残るときにだけ、詳しい調査へ進むとしています(詳しい調査は2013年から別の指針で扱われています)。
マテック氏らが1993年に発表した論文でも、まず観察で欠陥の症状を探し、警告となる兆しがあるときに機器で音の速さを測る、という順番が示されています。
つまり VTA の考え方では、外観診断=診断の主幹であり、機器は「必要な場面で確証へ近づけるための補強線」となっています。

2|東京都「街路樹診断等マニュアル」が示す“順番”
― 外観診断→機器診断→総合判定 ―
令和3年度の東京都マニュアルでは、街路樹診断を 外観診断(必須) を起点として進め、必要に応じて機器診断の結果も踏まえ、最後に総合判定を行う構成が示されています。総合判定は「外観診断判定および機器診断による腐朽空洞率に基づき、総合的に判断する」と明記されています。

この流れが示しているのは、シンプルに言えば次の一点になります。
レジ(機器診断)は“最初に当てる道具”ではなく、
外観診断で立てた仮説を、機器で確証に近づける工程である。
順番を守るほど、診断は「説明できる判断」へ近づきます。
3|レジ(Resi PD)は何を測る機械か
レジは、細いドリル針を木質へ貫入させながら、深さに対して
-
回転抵抗(drilling resistance)
-
貫入抵抗(送り力=FEED)
を同時に記録する機器です。
- レジ(Resi PD)の本体
- レジ(Resi PD)の本体
用途は樹木だけでなく、木柱・木橋・遊具・杭などの木材構造物にも想定されています。
グラフの波形データでは、回転抵抗と貫入抵抗が別の色の線で表示されます。

貫入抵抗が出ない(ゼロに近い)領域は、空洞または進行した木質劣化(腐朽など)を示唆するとされています。
4|なぜ広葉樹で「貫入(FEED)の落ち方」が効くのか
― シャフト摩擦が回転抵抗を紛らわせる ―
オークやブナなどの硬い広葉樹では、穿孔が深くなるにつれて、切粉や孔内接触の影響で シャフト摩擦が増えやすく、回転抵抗(drilling)の曲線がじわじわ上がる形になりがちです。
「ドリル抵抗(回転側)」は材の硬さだけを見ていません。
IMLが明示している通り、ドリル抵抗(回転側)は概念的に先端でのねじり抵抗(torsional force at the needle tip)とシャフト摩擦(shaft friction:切粉が孔内に残ることで針の軸が締め付けられて増える摩擦)の合成です。
深くなるほど(レジの画面では左へ行くほど)回転抵抗が高くなり続ける傾向は、内部健全とは別に、シャフト摩擦で起こり得ます。レジの画面は深さ0(樹皮側)が右端にあり、波形は右から左へ読みます。
一方で、貫入抵抗(送り力:FEED)はシャフト摩擦の影響が小さいため、腐朽や劣化が初期段階でも検出感度が上がる、とされています。
抵抗ドリル値は、生材(living trees / green wood)では水分の影響を大きく受けることが研究で指摘されており、そのため樹木診断では、

-
同一個体内の比較(参照測定)
-
同樹種・同条件での比較
-
貫入曲線の併読(シャフト摩擦を加味した分析)
が、木橋診断などの木材構造物以上に重要になります。
硬い健全部でも深くなるほど(画面では左へ行くほど)回転抵抗が高くなることがあり、特に広葉樹硬材ではシャフト摩擦が顕著になり得る、と説明されています。
よって樹木では、回転側(ドリル抵抗)単独より、貫入抵抗の落ち方・落ち始め深さを重視する読みが実務的に安定します。
そのため、回転抵抗だけを見ていると「落ちにくい=健全に見える」ことがあります。
ここで効いてくるのが貫入抵抗です。IMLは、貫入抵抗を回転抵抗と合わせて読むことで、木質評価により現実的な結論を得られると述べています。
具体的な設定としては、弊社ではメーカーの仕様に準拠しつつ、下記の様な設定にしています。
レジの測定値(回転抵抗=drilling resistance、貫入抵抗=FEED)は、木材・樹木内部の状態だけでなく、フィードスピード(押し出し速度)とニードルスピード(回転速度)の組合せによっても波形の出方が変わります。設定は「読み取りやすさ」だけでなく、過負荷(overload)やビット摩耗、機器負担も含めて最適化する必要があります。
弊社設定レンジ
| 材の区分 | フィードスピード(押し出し速度) | ニードルスピード(回転速度) |
|---|---|---|
| 硬い材(Hard wood) | 50~175 cm/min | 2500 r/min(樹木の標準) |
| 柔らかい材(Soft wood) | 100~200 cm/min | 2500 r/min(樹木の標準) |
※この表の根拠は IML簡易手順書の該当箇所です。送り速度の上限は、取扱説明書(2023年1月版)の設定範囲(15~200 cm/min)に合わせています。IML
※回転速度については、取扱説明書でも樹木診断は 2500 r/min が「一般的」と明記されています。
柔らかい材ではフィードを上げると読み取りやすいという現場感はありますが、振幅が出て波形の差が見えやすくなるという意味で説明可能ですが、同じ理屈で 過負荷・摩耗リスクも同時に上がるため、上げ過ぎは禁物です。
5|グラフの読み方
5-1. 併読の基本は「同じ深さで2曲線を見比べる」
レジの肝は、回転抵抗(drilling)と貫入抵抗(FEED)を“同じ深さ軸”で併読することです。
貫入抵抗がゼロに近く、回転抵抗も下がる(硬い広葉樹では摩擦の分が残り、元の高さまでは下がらない)
→ 空洞・進行腐朽の可能性が高い
-
回転抵抗は落ちにくいが、貫入抵抗が先に落ちる
→ 摩擦で回転側が“盛られている”可能性。初期腐朽帯の疑いがあります。レジの画面では、深さ0cm(樹皮の側)が右端にあり、波形は右から左へ読みます。下の図も、画面と同じ向きで描いています。

図: 2本の線の読み方の型(模式図。実測ではない。レジの画面と同じく、右端が深さ0で右から左へ読む)(出典: IML社「Measured Variables of IML-RESI PowerDrill®」2023年 p.2〜3 のブナの測定例の説明をもとに当社作成) 波形の型と読み方を、早見表にまとめます。
波形の型(同じ深さで見る) 読み方 次に確かめること 2本とも高い位置で続く 健全な材 十字の4方向とも同じように読む 回転抵抗だけが深くなるほど(画面では左へ行くほど)高くなり、貫入抵抗は平ら 削りくずによるシャフト摩擦で、健全な材でも起こる(オークやブナなどの硬い広葉樹で目立つ) 回転抵抗の高さだけで健全と読まず、貫入抵抗を見る 回転抵抗は落ちないのに、貫入抵抗が先に下がる 初期の腐朽の疑い 同じ木の健全な所で測った波形(参照測定)と比べ、外観の所見と照らし合わせる 2本とも中間の高さまで下がり、乱れる 腐朽が進行中の可能性、読み取りに注意が要る 健全な材と腐朽部の境が分かりにくいときは、判読の基準や根拠を所見に書く 貫入抵抗がほぼ0、回転抵抗も下がる(摩擦の分は残る) 空洞・進行した腐朽の可能性が高い 境の深さから健全な材の厚さ(t)を読み、t/R率と腐朽空洞率を出す 出典: IML社「Measured Variables of IML-RESI PowerDrill®」(2023年)p.2〜3(ブナとクリの測定例)、東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.51〜52・57〜58
5-2. “面の塗り分け(intact/decay)”の扱い
グラフ上の intact / decay の区分は、診断者の解釈(判読)を分かりやすく示すラベルとして有効です。
東京都マニュアルでも、腐朽空洞率が高い場合や、健全材と腐朽空洞部の境界が不明瞭な場合には「判読の基準や根拠」を記すこと、測定結果(波形グラフ)を添付することが示されています。
つまり、“色やラベルを貼って終わり”ではなく、波形として根拠が読めることが、報告としての品質になります。
6|現場運用のまとめ
― 外観診断(VTA的視点)→レジ→総合判定 ―
ここまでを一つの型にすると、次の順番になります。
-
外観診断(VTA的視点)で兆候を読み、疑う部位と仮説を立てる。
-
レジで検証する(回転抵抗+貫入抵抗を併読し、摩擦の影響も加味して読む)。
-
総合判定として、外観診断と機器診断の所見を統合し、管理方針(経過観察、処置、更新など)を説明可能な形でまとめる。
レジは、樹木を裁く道具ではなく、外観診断で立てた仮説を確証に近づけるための道具です。
その使い方が整うほど、診断は「技術」として再現性を持ち、説明責任にも耐えるものになります。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
よくある質問
Q1. レジ(Resi PD)とは何ですか。
ドイツIML社の穿孔抵抗測定器です。細いドリル針を木に貫入させ、深さに対する回転抵抗と貫入抵抗(送り力)を同時に記録します。東京都のマニュアルも、PD型は回転抵抗に加え前進抵抗(本記事でいう貫入抵抗・送り力)を測り、2種類の抵抗の波形を記録するとしています。
Q2. 機器診断は、どんなときに行いますか。
東京都建設局の「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」では、外観診断を必須とし、機器診断は外観診断で必要とされた樹木に行います。そのうえで、外観診断判定と機器診断による腐朽空洞率に基づき、総合的に判定します。
Q3. なぜ回転抵抗だけでなく、貫入抵抗も見るのですか。
回転抵抗には、深くなるほど、孔に残った切りくずで針の軸が締め付けられて生じる摩擦(シャフト摩擦)が加わるためです。IML社の資料では、貫入抵抗はこの摩擦の影響が小さく、初期の段階の腐朽も見つけやすくなるとしています。
Q4. 硬い広葉樹では、どこに気をつけて波形を読みますか。
IML社の資料では、オークやブナなどの硬い広葉樹はシャフト摩擦が大きく、回転抵抗が深さとともに上がり続ける傾向が出るとしています。空洞に入っても回転抵抗が元の水準まで下がらないため、貫入抵抗の落ち方を併せて読みます。
Q5. レジの結果だけで、木の状態を判断できますか。
結果だけでは判断しません。IML社の取扱説明書は、測定結果はそれだけで答えを示すものではなく、専門的な判読が必要としています。東京都のマニュアルも、測定値が実際の腐朽と差が出る場合があるとし、外観診断と合わせた総合判定を求めています。
関連記事
・ピカス(PiCUS)とは何か。音波と電気抵抗で幹の断面を診る樹木診断機器を、樹木医が解説します(このテーマのまとめ)
・レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か。樹木医がレジ(Resi PD)で幹の中を「針」で診る機器診断を、一般の方向けに解説します
・樹木診断機器Resi PD500の「Overload feed motor」エラー 原因は針でも設定でもなく、テレスコープ内のサポーターの曲がりでした
・樹木医が街路樹エンジュの樹木診断と伐採後の腐朽具合の答え合わせ
マンション・施設・行政のご担当者様へ
当社は、年間の植栽管理、樹木診断、高木の剪定・特殊伐採を承っています。管理の進め方や診断の流れは、資料ダウンロードのページでご覧いただけます。ご相談はお問い合わせフォームからお待ちしています。
出典・参考情報
・令和3年度 街路樹診断等マニュアル(東京都建設局) 「管理のフロー」(1ページ)、「3 機器診断」の概要と貫入抵抗測定器(商品名:レジ)の特性(51〜52ページ)、機器診断カルテの所見と測定結果(58ページ)、「4 総合判定」(64〜65ページ)
・Measured Variables of IML-RESI PowerDrill®(IML社、2023年) 貫入抵抗(送り力)とシャフト摩擦の説明、硬い広葉樹での回転抵抗の傾向(2〜3ページ)
・IML-RESI PD-Series Manual(IML社、2024年12月版) 「1.3.2 Certainty of Reading」(2ページ)。測定結果には専門的な判読が必要であること
・Mattheck, C. & Bethge, K. (1993) Detection of decay in trees with the Metriguard Stress Wave Timer. Journal of Arboriculture 19(6): 374–378 VTA の開発(序)と、観察から音速の測定へ進む手順(結論)
・FLL (2020) Baumkontrollrichtlinien – Richtlinien für Baumkontrollen zur Überprüfung der Verkehrssicherheit, 3. Ausgabe, 5.1(ドイツ語) 定期の点検の方法と、詳しい調査へ進める場合
・Karlsruhe Institute of Technology, Press Release 120/2012「Tree Grafting – A Ticking Bomb?」(2012年7月10日) マテック氏の研究グループが1990年代に VTA を開発したこと
・Claus Mattheck「Baumkontrollen mit VTA」(本人のサイト・ドイツ語。2026年10月11日閲覧) 症状に不安があれば機器で詳しく調べるという VTA の流れ
「樹木診断」のサービス内容と、ご相談の窓口であるお問い合わせのページはこちらです。
※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。

























