樹木診断機器 IML社製 RESI PD について

― VTAと東京都マニュアルに学ぶ「樹木診断の順番」―

樹木の診断で一番大切なのは、「機械を当てること」ではありません。
最初に行うべきは、樹木が外観として発しているサインを丁寧に読み取り、どこに・何を疑い・どんな仮説で検証するのかを組み立てることになります。

この考え方は、海外で広く用いられる VTA(Visual Tree Assessment) と、東京都建設局の 「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 のどちらにも共通しています。
一方、東京都のマニュアルも、外観診断を必須とし、必要に応じて機器診断を行い、最後に総合判定へ進む流れを明確にしています。

この記事では、その“診断の順番”を軸に、IML社の RESI PD(IML-RESI PowerDrill / PD-Series) のデータの読み解き方や、どこで、どう使うと診断の説明力が上がるのかをまとめました。


1|外観診断の重要性

まずは、樹木医や街路樹診断士による目視や打音などによる外観診断によって、樹木の外観(姿勢、樹勢、樹皮、キノコ、裂け、根元の状態など)に現れる兆候から危険性を推定し、必要なときにだけ内部確認(機器診断)の手段へ進むことです。

ドイツの樹木点検の枠組みでも、FLLのガイドラインに基づく点検は「visual tree inspection(視診)」として実施されることが示されています。
つまり海外の標準的な考え方は、外観診断=診断の主幹であり、機器は「必要な場面で確証へ近づけるための補強線」となっています。


2|東京都「街路樹診断等マニュアル」が示す“順番”

― 外観診断→機器診断→総合判定 ―

令和3年度の東京都マニュアルでは、街路樹診断を 外観診断(必須) を起点として進め、必要に応じて機器診断の結果も踏まえ、最後に総合判定を行う構成が示されています。総合判定は「外観診断判定および機器診断による腐朽空洞率に基づき、総合的に判断する」と明記されています。

この流れが示しているのは、シンプルに言えば次の一点になります。

レジ(機器診断)は“最初に当てる道具”ではなく、
外観診断で立てた仮説を、機器で確証に近づける工程である。

順番を守るほど、診断は「説明できる判断」へ近づきます。


3|RESI PD(IML-RESI PowerDrill)は何を測る機械か

RESI PDは、細いドリル針を木質へ貫入させながら、深さに対して

  • 回転抵抗(drilling resistance)

  • 貫入抵抗(送り力=FEED)

を同時に記録する機器です。

用途は樹木だけでなく、木柱・木橋・遊具・杭などの木材構造物にも想定されています。

グラフの波形データでは下記の様な色分けになっています。
・回転抵抗:緑色
・貫入抵抗:青色

貫入抵抗が出ない(ゼロに近い)領域は、空洞または進行した木質劣化(腐朽など)を示唆するとされています。


4|なぜ広葉樹で「貫入(FEED)の落ち方」が効くのか

― シャフト摩擦が回転抵抗を紛らわせる ―

広葉樹(硬い材)では、穿孔が深くなるにつれて、切粉や孔内接触の影響で シャフト摩擦が増えやすく、回転抵抗(drilling)の曲線がじわじわ上がる形になりがちです。

「ドリル抵抗(回転側)」は材の硬さだけを見ていません。
IMLが明示している通り、ドリル抵抗(回転側)は概念的に先端でのねじり抵抗(torsional force at the needle tip)とシャフト摩擦(shaft friction:切粉が孔内に残ることで針の軸が締め付けられて増える摩擦)の合成です。
深くなるほど抵抗が上がり続ける“右肩上がり傾向”は、内部健全とは別に シャフト摩擦で起こり得ます。
一方で、貫入抵抗(送り力:FEED)はシャフト摩擦の影響が小さいため、腐朽や劣化が初期段階でも検出感度が上がる、とされています。

抵抗ドリル値は、生材(living trees / green wood)では水分の影響を大きく受けることが古くから指摘されており、そのため樹木診断では、

  • 同一個体内の比較(参照測定)

  • 同樹種・同条件での比較

  • 貫入曲線の併読(シャフト摩擦を加味した分析)

が、木橋診断などの木材構造物以上に重要になります。

硬い健全部でも深さ方向に右肩上がりが出ることがあり、特に広葉樹硬材ではシャフト摩擦が顕著になり得る、と説明されています。
よって樹木では、回転側(ドリル抵抗)単独より、貫入抵抗の落ち方・落ち始め深さを重視する読みが実務的に安定します。

そのため、回転抵抗だけを見ていると「落ちにくい=健全に見える」ことがあります。
ここで効いてくるの貫入抵抗です。IMLは、貫入抵抗回転抵抗と合わせて読むことで、木質評価により現実的な結論を得られると述べています。

具体的な設定としては、弊社ではメーカーの仕様に準拠しつつ、下記の様な設定にしています。

RESI PDの測定値(回転抵抗=drilling resistance貫入抵抗=FEED)は、木材・樹木内部の状態だけでなく、フィードスピード(押し出し速度)とニードルスピード(回転速度)の組合せによっても波形の出方が変わります。設定は「読み取りやすさ」だけでなく、過負荷(overload)やビット摩耗、機器負担も含めて最適化する必要があります。

弊社設定レンジ

材の区分 フィードスピード(押し出し速度) ニードルスピード(回転速度)
硬い材(Hard wood) 25~50 cm/min 2500 r/min(標準)
柔らかい材(Soft wood) 50~100 cm/min 2500 r/min(標準)

※この表の根拠は IML簡易手順書の該当箇所です。IML
※回転速度については、取扱説明書でも樹木診断は 2500 r/min が「一般的」と明記されています。

柔らかい材ではフィードを上げると読み取りやすいという現場感はありますが、振幅が出て波形の差が見えやすくなるという意味で説明可能ですが、同じ理屈で 過負荷・摩耗リスクも同時に上がるため、上げ過ぎは禁物です。

 


5|グラフの読み方

5-1. 併読の基本は「同じ深さで2曲線を見比べる」

RESI PDの肝は、回転抵抗(drilling)と貫入抵抗(FEED)を“同じ深さ軸”で併読することです。

貫入抵抗も回転抵抗も同時に落ちる/貫入抵抗がゼロに近い
空洞・進行腐朽の可能性が高い

  • 回転抵抗は落ちにくいが、貫入抵抗が先に落ちる
    → 摩擦で回転側が“盛られている”可能性。初期腐朽帯の疑いがあります。

5-2. “面の塗り分け(intact/decay)”の扱い

グラフ上の intact / decay の区分は、診断者の解釈(判読)を分かりやすく示すラベルとして非常に有効です。
東京都マニュアルでも、腐朽空洞率が高い場合や、健全材と腐朽空洞部の境界が不明瞭な場合には「判読の基準や根拠」を記すこと、測定結果(波形グラフ)を添付することが示されています。
つまり、“色やラベルを貼って終わり”ではなく、波形として根拠が読めることが、報告としての品質になります。


6|現場運用のまとめ

― 外観診断(VTA的視点)→RESI PD→総合判定 ―

ここまでを一つの型にすると、次の順番が最も堅牢です。

  1. 外観診断(VTA的視点)で兆候を読み、疑う部位と仮説を立てる。

  2. RESI PDで検証する(回転抵抗+貫入抵抗を併読し、摩擦の影響も加味して読む)。

  3. 総合判定として、外観診断と機器機器診断の所見を統合し、管理方針(経過観察、処置、更新など)を説明可能な形でまとめる。

レジは、樹木を裁く道具ではなく、外観診断で立てた仮説を確証に近づけるための道具です。
その使い方が整うほど、診断は「技術」として再現性を持ち、説明責任にも耐えるものになります。

株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊

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