近年、都市部では街路樹や公園樹などの緑化樹木が植栽から半世紀以上を経て老齢化・巨木化しています。
その結果、幹内部の空洞化や腐朽、根系の衰退などが進み、樹勢の低下や倒木リスクが増加しています。
安全を確かめるために、樹木医・街路樹診断士による樹木診断が必要になる場面は、私の感覚では年々増えています。
本記事では、株式会社トシ・ランドスケープで実際に行っている樹木内部の機器診断について、使っている機器と使い分けをご紹介します。
先に答え
- 高度経済成長期に整備が進んだ都市の街路樹・公園樹について、国の「緑の基本方針」(令和6年12月)は、多くの樹木で老齢化・大径木化が進んでいると記しています。全国の街路樹(高木)は2022年3月末で約629万本です。
- 東京都建設局の「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」では、樹木診断は樹木点検、外観診断(必須)、機器診断(必要に応じて)、総合判定、処置の順に進めます。
- 総合判定はA・B1・B2・Cの4区分です。A・B1は5〜10年後に外観診断、B2は1〜3年後にフォローアップ診断、Cは更新(撤去・植替え)とされています。
- 当社は樹木医・街路樹・都市樹木診断士3名の体制で、レジ(Resi PD)とアーボソニック3Dに加え、2026年からはピカスも使い、ドローンや樹上からの確認を組み合わせて診断しています。
都市樹木の老齢化が進む背景
都市部の街路樹や公園樹の多くは、戦後の緑化政策や高度経済成長期に一斉に植えられた個体です。
国の「緑の基本方針」(令和6年12月)も、高度経済成長期に整備が進んだ都市公園の樹木や街路樹などで、老齢化・大径木化が進んでいると記しています。
その結果、以下のような問題が目立ち始めています。
-
幹内部の空洞化
-
幹や根の腐朽
-
根系の衰退による樹勢低下
-
強風時などにおける倒木リスクの増加
これらは、樹木の外観だけでは判断が難しいため、内部構造の可視化診断が欠かせません。
- 根元のキノコとアーボソニック3Dのセンサー
- 根元に巻いたセンサーとキノコ
数字で見る街路樹・公園樹の老齢化と倒木の事故
国土交通省の「緑の基本方針」(都市における緑地の保全及び緑化の推進に関する基本的な方針、令和6年12月20日 国土交通省告示第1367号)は、老齢化・大径木化によって、倒伏や落枝による重大な事故などのリスクが高まっているとも記しています。
国土技術政策総合研究所(国総研)の集計では、全国の街路樹(高木)は2002年の約679万本が最も多く、2022年3月31日時点では約629万本と、前回(2017年)から約41万本減りました。
| 集計の時点 | 全国の街路樹(高木)の本数 |
|---|---|
| 1987年 | 約371万本 |
| 1992年 | 約478万本 |
| 1997年 | 約621万本 |
| 2002年 | 約679万本(最も多い) |
| 2017年 | 約670万本 |
| 2022年3月31日 | 約629万本(前回から約41万本減) |
(出典: 国土技術政策総合研究所「わが国の街路樹Ⅸ」国総研資料第1246号 第2章 図-2.1(p.1-65)から抜粋)
倒木の事故も、数字で見えるようになりました。国土交通省が令和7年4月に公表した「倒木等による事故に関する全国調査」(令和3年4月1日〜令和6年11月7日)では、都市公園で931件(うち人身事故77件)の事故が確認されています。都市公園の931件のうち298件は要因が「腐朽・病害」で、都市公園で定期点検を実施している自治体等は40%にとどまりました。
東京都は2026年4月、都有施設の高さ3m以上の樹木約80万本を、職員などの目視で一斉に点検しました。5月15日の確報では、約13,900本(約2%)に枯損・枝折れなどの異状が見つかっています(東京都「都有施設における樹木の一斉点検の結果について(確報)」)。
国土交通省道路局が令和8年3月30日に出した「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」(国土交通省の報道発表)は、近年の事故の背景に街路樹の老木化と異常気象の頻発化を挙げ、道路の街路樹の倒木を年平均約5,200本(平成30〜令和4年)としています(p.2)。
木が大きく古くなったことと、点検の手が十分に届いていないこと。これらの数字が示しているのは、その両方だと受け止めています。
樹木医による内部診断の重要性
安全管理の観点からも、老齢樹や巨木は「外観の見た目だけで判断できないリスク」を抱えています。
そのため、近年では 樹木内部の構造を科学的に可視化する診断 のニーズが高まっています。
弊社では、樹木医が診断機器を用いて、樹木内部の健全性を確認し、維持・保全計画に役立てています。
また、株式会社トシ・ランドスケープは「街路樹診断協会」に加盟しており、
協会の技術基準と研究の情報を取り入れながら、診断を行っています。
当社が加盟している街路樹診断協会は、2025年10月31日に一般社団法人 街路樹・都市樹木診断協会へ名称を変更しました(協会のお知らせ)。資格の名前も「街路樹・都市樹木診断士」に変わりました。
さらに弊社には、樹木医および街路樹診断士が3名在籍しており、
複数の専門家によるチーム体制で、現地の樹木診断と、
令和3年度 街路樹診断等マニュアル – 東京都建設局 に準拠した報告書の作成を行っています。
- ノートPCで測定の結果を見る
- 幹の周りにセンサーを付けて測る
- 根元の近くで測定する樹木医
樹木診断の流れ──樹木点検・外観診断・機器診断・総合判定・処置
当社が報告書の準拠先にしている東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」は、街路樹の診断を次の5つの段階で進めます(p.1・p.11)。

街路樹診断の流れ図
| 段階 | 何をするか | 対象と時期 |
|---|---|---|
| 樹木点検(任意) | 15項目を見て、○が1つでもあれば外観診断か処置へ | 高さ3m以上の高木すべて、着葉期(5〜10月)が望ましい、頻度は管理者が定める |
| 外観診断(必須) | 樹勢と樹形を見る活力診断と、根元・幹・骨格となる大枝を見る部位診断 | 原則として幹周60cm以上(樹種により30cm・50cm以上)、点検の後すみやかに |
| 機器診断(必要に応じて) | 診断機器で腐朽や空洞の程度を数値で測る(腐朽診断と根株診断) | 外観診断でB2の木のほとんど、Cでも状況に応じて、季節の制約はない |
| 総合判定 | 外観診断判定と機器診断の結果を合わせて、A・B1・B2・Cに判定 | 機器の数値だけで判定しない |
| 処置・次の診断 | 剪定・支柱・植栽基盤の改善・更新など、判定に応じた処置と次の診断の時期を決める | A・B1は5〜10年後、B2は1〜3年後、Cは更新 |
(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.1・p.3・p.5〜15・p.44・p.51・p.65〜67 から当社でまとめた)
令和3年度の改定で、それまでの「初期診断」は「樹木点検」に、「精密診断」は「機器診断」に名前が変わりました。外観診断をより「精密に」行う診断だという誤解を正すためと説明されています(p.3)。
この流れを、樹木点検と外観診断の項目に沿って詳しく説明したのが「樹木医は街路樹診断で何を見ているか(前編) 東京都の街路樹診断等マニュアルの流れで、樹木点検と外観診断の18項目を解説」、機器診断から総合判定、フォローアップ診断までが「樹木医は街路樹診断で何を見ているか(後編) 機器診断のt/R率と腐朽空洞率、総合判定、処置、フォローアップ診断」です。
外観診断で見るもの
外観診断は、目視と木槌・鋼棒などの診断用具で行います。枝の伸びや葉の密度・色などから樹勢と樹形を5段階で見る活力診断と、根元・幹・骨格となる大枝の項目を見る部位診断から成り、活力判定と部位判定のうち悪い方が外観診断の判定になります(p.18・p.44)。
機器診断を行うのは、どんなときか
マニュアルでは、外観診断でB2と判定された木のほとんどに機器診断が必要とされ、C判定でも状況に応じて行います(p.15)。きっかけになる被害は表Ⅲ-2・21にまとめられていて、主なものは次のとおりです(p.43)。
- 樹皮の枯死・欠損・腐朽や開口空洞が、周囲長比率で1/3以上ある
- キノコの発生部位の被害が大きい、ベッコウタケやコフキタケが出て被害が進んでいる
- 木槌で叩いたときの異常音が大きい、または範囲が広い
- 根株の腐朽を調べる鋼棒が、芯まで入る
東京都の街路樹診断では、機器診断は貫入抵抗測定器(レジ)によるものを基本としています(p.51)。機器の使い分けと費用の考え方は「樹木の精密診断(機器診断)とは──外観診断との違い、レジ・ピカス・アーボソニック3D・静的負荷試験(引張り試験)の使い分けと費用の考え方を樹木医が解説」で説明しています。
総合判定のA・B1・B2・C
腐朽空洞率には判定ごとの参考基準値がありますが、マニュアルは機器の数値だけで判定せず、外観と合わせて総合的に判断するとしています(p.65〜66)。幹の半径に対する健全な材の厚さの割合(t/R率)が0.3未満のときも注意が要るとされています。
| 総合判定 | 木の状態 | 腐朽空洞率の参考基準値 |
|---|---|---|
| A | 健全か健全に近い | 10%未満 |
| B1 | 注意すべき被害が見られる | 10%以上30%未満 |
| B2 | 著しい被害が見られる | 30%以上50%未満 |
| C | 不健全 | 50%以上 |
(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 表Ⅲ-4・1 総合判定基準(p.66))
使用している主要な診断機器
弊社では、機械を使用した診断「機器診断」に
レジ(Resi PD)および アーボソニック3D(ArborSonic 3D)を活用しています。
これらの機器は、腐朽の有無や進行状況、空洞の位置・範囲をより正確に把握するうえで、樹木医にとって大事な道具です。
レジ(Resi PD)
微細なドリル抵抗の変化を利用して、樹木内部の硬さや空洞の有無を測る機器です。
腐朽部の深さや位置を、針が進むときの抵抗のグラフで確かめられます。
アーボソニック3D(ArborSonic 3D)
音波を利用して内部の空洞や腐朽部を三次元的に可視化する装置です。
非破壊で広範囲を短時間に測定できるため、文化財樹木や巨木の診断に適しています。
- 幹に取り付けたセンサー
- 幹に付けたアーボソニック3Dの機器
- アーボソニック3Dの3次元の解析画面
2026年からは、ピカスも使っています
この記事を書いた2025年10月の時点で、当社の機器診断はレジとアーボソニック3Dでした。2026年2月に、ドイツ IML 社のピカス(PiCUS)の音波トモグラフィと電気抵抗トモグラフィの2機種を導入しました。幹の周りのセンサーの間を伝わる音の速さと電気抵抗から、腐朽の広がりと性状を断面の画像で見られます。ピカスで問題のある所を絞り、必要な所だけレジで確かめる使い方ができるようになりました。導入のご報告は「PiCUS(ピカス)導入のお知らせ 樹木診断(機器診断) 非破壊診断×微破壊診断で、樹木診断を世界水準へ」にまとめています。
状況に応じた機器の使い分け
それぞれの機器には、以下のような特性があります。
-
樹木の形状や腐朽の進行度に応じて最適な機器を選択
-
測定精度・操作性・診断範囲を考慮して使い分け
-
高い診断精度が求められる場合は両機器を同一箇所に使用し、データを照合・補完
特に神社の御神木や天然記念物の樹木診断では、複数機器を併用することでより信頼性の高い診断結果を導き出しています。
ドローン・ツリークライミングによる補完診断
内部診断に加え、ドローンによる空撮やツリークライミング技術を活用した高所診断も実施しています。
これにより、地上からは確認できない以下の情報を取得可能です。
-
樹冠部の樹勢・枝葉の密度
-
上部枝の腐朽や損傷状況
-
樹形全体のバランスや風通しの状態
立体的かつ多角的に情報を得ることで、樹木全体を総合的に評価することができます。
ドローンで樹冠を真上から確かめた例は、「ドローンによる樹木診断──樹高20m弱のケヤキの樹冠を真上から見て分かること、記録として残す意味を樹木医が解説」にあります。
診断の後の処置と、次の診断の時期
樹木診断は、木を伐るかどうかだけを決めるためのものではありません。東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」は、総合判定ごとに処置の方針と、次に行う診断の内容と時期を定めています(p.67・p.68)。
| 総合判定 | 処置の方針 | 次の診断 |
|---|---|---|
| A | 日常的な観察を行い、状態の変化に応じて対応 | 5〜10年後に外観診断 |
| B1 | 観察と点検を行い、剪定・支柱・植栽基盤の改善などの適切な処置を行う | 5〜10年後に外観診断(前回の被害の変化に注意) |
| B2 | B1と同じく適切な処置を行い、必要に応じて植替え(撤去)も検討 | 被害の状況に応じて1〜3年後にフォローアップ診断(必要に応じて機器診断) |
| C | 更新(撤去・植替え) | 更新を行う |
(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 表Ⅲ-4・3 次回の診断内容及び診断時期(p.67)、表Ⅳ-1・1 総合判定及び処置の方針・内容(p.68)から当社でまとめた)
B2のフォローアップ診断は、令和3年度の改定で新しく位置づけられました。以前の平成26年度版では、B2の木に毎年機器診断を行う必要があり、樹体への悪影響が心配されていたためです(p.3)。フォローアップ診断が5年以上続いた場合は、外観診断に戻します(p.67・p.89)。
都市公園の点検の頻度──国の指針(案)の考え方
国土交通省の「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」(平成29年9月策定、令和8年3月30日改訂)は、点検・診断を日常点検・定期点検・診断・災害対策点検の4つに分け、点検の頻度は数字で決めず、公園管理者が利用の状況や樹木の特性、加齢の状況などを踏まえてあらかじめ定めるとしています(p.6・p.10)。診断は専門技術者を活用するのが望ましいとされています(p.8)。
まとめ 老齢化する街路樹・公園樹の診断
都市部の緑化樹木は今、老齢化という新たな課題に直面しています。
安全で持続可能な都市緑化を維持するためには、科学的根拠に基づいた診断と的確な保全計画が必要です。
株式会社トシ・ランドスケープでは、
街路樹診断協会の加盟企業として、3名の樹木医・街路樹診断士による体制で、
街路樹・公園樹を安全に残していくための診断と保全計画をお手伝いしています。
よくある質問(Q&A)
Q1. 樹木診断とは何ですか?
A. 樹木医などが、木の元気さと根元・幹・大枝の傷みを調べ、倒れたり折れたりするおそれがないかを判定することです。東京都建設局の街路樹診断等マニュアルでは、樹木点検、外観診断、機器診断、総合判定、処置の順に進めます。
Q2. なぜ老齢化した街路樹や公園樹に樹木診断が必要なのですか?
A. 幹の中の空洞や腐朽、根系の衰えは、外観だけでは判断しにくいからです。国の緑の基本方針は都市の樹木の老齢化・大径木化を記し、国土交通省の全国調査では、都市公園の倒木等の事故931件のうち298件が腐朽・病害によるものでした。
Q3. 街路樹や公園樹の樹木診断は、どんな流れで進みますか?
A. 東京都のマニュアルでは、樹木点検で手当てが要りそうな木を拾い、外観診断で一本ずつ判定し、必要な木だけ機器診断で幹の中を測ります。外観と機器の結果を合わせて総合判定を出し、処置と次の診断の時期を決めます。
Q4. 外観診断では何を見るのですか?
A. 樹勢と樹形から木の元気さを5段階で見る活力診断と、根元・幹・骨格となる大枝を見る部位診断を、目視と木槌・鋼棒などの診断用具で行います。活力判定と部位判定のうち悪い方が、外観診断の判定になります。
Q5. 機器診断はどんなときに行いますか?
A. 東京都のマニュアルでは、外観診断でB2と判定された木のほとんどで必要とされ、C判定でも状況に応じて行います。開口空洞などが周囲長比率で1/3以上ある、ベッコウタケが出て被害が進んでいる、打診の異常音が大きいといった被害がきっかけになります。
Q6. 総合判定のA・B1・B2・Cとは何ですか?
A. 外観診断と機器診断の結果を合わせた4つの区分で、Aは健全か健全に近い、B1は注意すべき被害、B2は著しい被害、Cは不健全です。腐朽空洞率の参考基準値はA 10%未満からC 50%以上までありますが、数値だけで決めず外観と合わせて判断します。
Q7. 次の樹木診断はいつ行うのですか?
A. 東京都のマニュアルでは、A・B1の木は5〜10年後に外観診断、B2の木は被害の状況に応じて1〜3年後にフォローアップ診断を行い、Cの木は更新(撤去・植替え)とされています。
Q8. 樹木診断の結果が悪いと、木は伐られるのですか?
A. 更新(撤去・植替え)とされるのは総合判定がCの場合です。B1・B2の木には観察と点検に加えて剪定・支柱・植栽基盤の改善などの処置を行い、B2では必要に応じて植替え(撤去)も検討します。診断は、木を残すための手当てを決める材料でもあります。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
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「樹木診断」のサービス内容と、ご相談の窓口であるお問い合わせのページはこちらです。
※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。
※ 「ツリークライミング」は、株式会社ツリークライミングワールドの登録商標です。当社の記事では、ロープとハーネスで樹木に登って作業する技術を指す言葉として使っています。





























