マンションや施設の敷地の樹木が倒れると、管理者が責任を問われることがあります。国の調査で最も多い倒木の原因は、幹や根の腐朽と病害でした。外から気づけるサインと、点検・外観診断・機器診断の進め方を、樹木医の立場からまとめました。
先に答え
- 国土交通省の調査(令和3年4月〜令和6年11月)では、倒木・落枝などの事故が都市公園で931件、道路で801件ありました。原因で最も多いのは「腐朽・病害」の298件(32%)です。
- 民法第717条第2項は、工作物の占有者・所有者の責任の規定を「竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合」にも準用しています。敷地の樹木が明らかに危険な状態だったと判断されれば、管理者が責任を問われる可能性があります。
- キノコ、開口空洞、樹皮の欠け、大枝の腐朽、根元の工事などは、外から気づける危険のサインです。ただし、葉がしっかりついていても、根が腐っていることがあります。
- 点検で気になる木を見つけ、樹木医が外観診断を行い、必要な木だけ機器で幹や根株の中を調べます。点検と診断の記録を残しておくことが、管理者を守ることにもつながります。
倒木はどのくらい起きているか
国土交通省の全国調査では、令和3年4月から令和6年11月までの約3年半に、全国の都市公園で倒木・落枝などの事故が931件起き、うち77件が人身事故でした。道路でも801件(人身事故33件)が報告されています。都道府県別では東京都が179件で、全国で最も多くなっていました。
東京都も2026年4月に、都有施設の樹木約80万本を一斉点検し、約13,900本に異状が見つかったと発表しています(5月15日確報)。どれも公共の樹木の話ですが、マンションや施設の敷地にも、同じ時代に植えられ、同じだけ年数を重ねた樹木が多くあります。調査の読み方は国土交通省の全国倒木調査を樹木医が読み解くに書いています。
倒れる原因──最も多いのは腐朽と病害
931件の原因を分けると、最も多いのは「腐朽・病害」の298件(32%)で、「その他強風」260件(28%)、「台風」102件(11%)が続きます。風はきっかけで、幹や根の中で腐朽が進み、すでに倒れやすくなっていた木に、風や雨が最後のひと押しを加える、という見方をしています。
樹種別の被害本数は、1位がコナラ、2位がサクラ類、3位がケヤキでした。コナラ類では、被害樹木の43%でナラ枯れが確認されています。
杉並区で倒れたサクラの根元には、ベッコウタケというキノコの発生痕があり、太い根はスポンジ状で、腐朽がかなり進んでいました。倒れる前の年の写真では葉がしっかりついていて、危険な兆候は感じにくい状態でした(ベッコウタケによるサクラ倒木 緊急対応 東京都杉並区)。東京都のマニュアルは、ベッコウタケやコフキタケのようなキノコが出ていれば、根株や幹は著しく腐朽していると考えてよい、としています。

敷地の樹木と、管理者の責任
民法第717条第1項は、土地の工作物の設置や保存に瑕疵があって他人に損害が生じたとき、その占有者・所有者が責任を負うと定めています。第2項は、この規定を「竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合」にも準用しています。マンションの敷地や施設の樹木が明らかに危険な状態にあったと判断されれば、管理組合や施設の管理者が責任を問われる可能性があります。
倒れてから「知らなかった」ではなく、いつ、誰が、どの木を見て、どう判断したかを記録しておくことが大切だと考えています。点検と診断の記録は、理事会や管理者が判断した根拠にもなります。
外から気づける危険のサイン
次のようなサインに気づいたら、樹木医に相談することをおすすめします。
- 幹や根元のキノコ(ベッコウタケ、コフキサルノコシカケなど)
- 開口空洞、樹皮の欠け、大枝の腐朽
- フラス(木くず)や穿孔の痕
- 葉の量・色・大きさの不良、枝の伸びの不良
- 根元の周りの掘削工事・舗装工事・盛土や転圧、土の固結
- 幹に直射日光や強い風が当たるようになった、日陰になったなど、周りの環境の変化
キノコはいつも出ているわけではなく、季節によって見えなくなります。サインが見えないことが、安全の証明にはなりません。

点検と診断の進め方
当社では、東京都建設局の「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度)の流れに沿って進めます。
- 樹木点検: 敷地の樹木を見て回り、異常のある木、気になる木を拾い出します
- 外観診断: 樹木医が、目で見て、木槌で叩いて音を聞き、鋼棒で腐朽を確かめ、幹周などを測ります
- 機器診断: 必要な木だけ、レジ(Resi PD)・アーボソニック3D・ピカスで、幹や根株の中の腐朽や空洞を調べます
機器診断は、以前は「精密診断」と呼ばれていました。東京都の令和3年度のマニュアルでは、外観診断をより「精密に」行う診断だという誤解を正すため、精密診断を機器診断に名称変更しています。機器の画像は判断の材料であって答えではなく、総合判定は、外観診断の判定と機器診断の腐朽空洞率をあわせて行います。

診断の結果は、危険がある木・経過観察が必要な木・健全な木に分け、診断カルテと報告書でお伝えします。危ないから伐る、の前に、残せる木は残す判断材料をそろえるのが診断の役割だと考えています。伐る前に残せるかどうかを確かめる考え方は高木・特殊伐採&ケーブリング、診断の内容と機器は樹木診断のページにまとめています。
よくある質問
Q1. 倒木の原因で一番多いのは何ですか。
国土交通省の全国調査(令和3年4月〜令和6年11月)では、都市公園の倒木・落枝などの事故931件のうち、最も多い原因は「腐朽・病害」の298件(32%)でした。「その他強風」260件(28%)、「台風」102件(11%)が続きます。
Q2. マンションの敷地の樹木が倒れたら、管理組合の責任になりますか。
民法第717条第2項は、工作物の占有者・所有者の責任の規定を「竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合」にも準用しています。敷地内の樹木が明らかに危険な状態にあったと判断されれば、管理組合が責任を問われる可能性があります。点検と診断の記録を残しておくことが大切です。
Q3. 葉が元気なら、倒れる心配はありませんか。
そうとは限りません。杉並区で倒れたサクラは、倒れる前の年には葉がしっかりついていましたが、根元にはベッコウタケの発生痕があり、太い根の腐朽がかなり進んでいました。外から見えない幹や根の中は、外観診断と機器診断で確かめます。
Q4. 精密診断と機器診断は違うものですか。
東京都建設局の令和3年度の街路樹診断等マニュアルで、それまでの精密診断は機器診断に名称変更されました。外観診断をより精密に行う診断だという誤解を正すためと説明されていて、あわせて標準的に使う機器も明確にされています。
Q5. どんなときに樹木医に相談すればよいですか。
幹や根元のキノコ、開口空洞、樹皮の欠け、大枝の腐朽、フラスや穿孔の痕に気づいたとき、根元の周りで工事があったとき、葉や枝の伸びがいつもと違うときです。サインが見えなくても、大きな木や年数を重ねた木は、定期的な点検をおすすめしています。
敷地の樹木の点検・診断のご相談は、樹木診断のページと、お問い合わせから承っています。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
- 国土交通省「倒木等による事故に関する全国調査について」(令和3年4月〜令和6年11月の調査)。読み方は記事 10573
- 東京都建設局「街路樹診断等マニュアル」(令和3年度) p.3(精密診断から機器診断への名称変更)、p.28(ベッコウタケ)
- 民法 第717条
※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。
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