ISA・TCIA・英国AAとは──海外のアーボリスト団体と日本の樹木医制度を、樹木医が比べる

樹木医 管理組合 報告書 樹木診断 マンション

海外の樹木の専門家の団体は、個人の資格を出す ISA、会社を審査して認定する米国 TCIA と英国 Arboricultural Association、管理や点検の規格をつくる ANSI・BSI・ドイツ FLL に分かれます。日本の樹木医制度と並べ、樹木診断を頼む前に確かめたいことを樹木医が整理しました。

株式会社トシ・ランドスケープの樹木医、中村雅俊です。私は樹木医のほかに、街路樹・都市樹木診断士、1級造園施工管理技士、1級造園技能士、植栽基盤診断士の資格を持っています。当社はこれまで、ドイツやイタリアでアーボリスト(樹木の手入れを専門とする職業)の方々を訪ね、その記録をこのブログに書いてきました。2026年3月には、国土交通省が街路樹の点検を進めるためのガイドラインを出し、樹木を誰がどう確かめるのかが、改めて問われています。この記事では、海外の主な団体と日本の資格・団体を、各団体の公式の資料で確かめて並べました。数字と制度は2026年10月16日に確かめたものです。

 

先に答え

  • 海外の団体は3つの型に分かれる: 個人の資格を出す団体(ISA・欧州の EAC)、会社を審査して認定する団体(米国の TCIA・英国の Arboricultural Association)、管理・安全の規格や指針をつくる団体(米国の ANSI の委員会・英国の BSI・ドイツの FLL)
  • 日本の中心は「人」の資格: 樹木医を土台に、街路樹・都市樹木診断士などの資格が、東京都の街路樹診断のように自治体の仕様と結びついて広がってきた
  • 会社を第三者が審査して認定する全国の仕組みは、調べた範囲では日本に見当たらない。そのぶん、発注する側が、担当する人・診断の拠り所・報告書の中身を確かめることが、選ぶときの手がかりになる
  • ISA の資格と樹木医を相互に認める取り決めは、公式の資料に見当たらない。日本での ISA の窓口は、提携団体の一般社団法人 Japan Arboriculture Society(JAS)

 

海外では「人・会社・ルール」の3つで、仕事の質を確かめる

海外の団体を調べていくと、名前はさまざまでも、役目は3つに分けられることに気づきます。1つ目は、樹木の仕事をする人の知識と技能を試験で確かめ、資格を出す団体です。2つ目は、樹木の仕事をする会社そのものを審査し、保険・安全・社員の教育などの条件を満たした会社を認定する団体です。3つ目は、剪定や点検、作業の安全のルール(規格・指針)をつくる団体です。

米国でいえば、人は国際アーボリカルチャー協会(ISA)、会社は米国樹木管理業協会(TCIA)、ルールは ANSI(米国規格協会)の規格の委員会が受け持ちます。英国では Arboricultural Association(AA)が会社の認定を運営し、英国規格協会(BSI)の規格が樹木作業や工事の場面の拠り所になっています。

ISA TCIA 英国AA 資格 事業者認定 規格

海外の主な仕組みを「人・会社・ルール」の3つで並べた図(各団体・規格の公式の資料をもとに当社作図)

型 何を確かめるか 主な団体・規格
人(個人の資格) 一人ひとりの知識と技能を、試験と更新で確かめる ISA の認定資格、欧州 EAC の ETW・ETT、ドイツ FLL の樹木点検者
会社(事業者の認定) 保険・許認可・安全・社員の教育・顧客対応を、会社ごとに審査する 米国 TCIA の Accreditation、英国 AA の ARB Approved Contractor
ルール(規格・指針) 剪定・点検・作業の安全・工事のときの樹木の守り方の基準をそろえる 米国 ANSI A300・Z133、英国 BS 3998・BS 5837、ドイツ FLL の ZTV-Baumpflege と樹木点検の指針

出典: ISA・TCIA・Arboricultural Association・EAC・FLL・BSI の公式サイト(2026年10月16日に確認)

3つは独立しているのではなく、互いに支え合っています。たとえば米国では、TCIA が事務局を務める ANSI A300 がルールの役目を担い、ISA の樹木リスク評価の資格(TRAQ)の作成にも、その規格の樹木リスク評価の部が使われたと TCIA の業界誌は書いています。人が学ぶ中身(TRAQ)と、発注の仕様書が引く中身(A300)が、同じ規格を通してつながっている形です。

 

なぜ今、確かめ方を知っておきたいのか──国の街路樹点検のガイドライン

国土交通省は2026年3月30日、「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」を公表しました。ガイドラインによると、道路の街路樹の倒木は2018〜2022年の平均で年に約5,200本、倒木などによる事故は2021年4月〜2024年11月に801件ありました。報道発表は、事故を年に約200件と書いています。一方で、定期巡回(歩いて近くから目で見る点検)をしていない道路管理者は57%にのぼります。

街路樹 倒木 事故 定期巡回 国土交通省

道路の街路樹の倒木と点検の今(国土交通省「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」をもとに当社作図)

ガイドラインは、過去5年に事故のあった同じ路線・同じ樹種の街路樹、緊急輸送道路、通学路の街路樹を「区分A」とし、おおむね年1回の定期巡回を基本としています。危ない木は、樹木医などの専門家を交えた健全度の調査が有効だとも書いています。ただし、ガイドラインは点検・診断の「目安」や「参考となる考え方」を示すものです。検討会の骨子案には「強制力を伴うものではない」とありました。

街路樹に限らず、マンションの中庭の大木や、寺社の御神木も同じです。木の状態と、木の下にある人や物の両方で、危険の大きさは変わります。点検や診断を頼むとき、「誰が・何に沿って・どう確かめるのか」を発注する側が知っておくことは、木を残す判断にも、利用する人の安全にも関わります。都の施設で行われた一斉点検の数字の読み方は、「都有施設80万本の樹木一斉点検 約14,000本(速報)の「異状あり」を、樹木医はどう読むか」にも書きました。

樹木 空洞 木の下 駐輪場 樹木診断

同じ空洞のある木でも、木の下に何があるかで、手立ての選び方は変わる(イラストは当社作成)

 

ISA(国際アーボリカルチャー協会)──個人の資格をつくる国際団体

ISA(International Society of Arboriculture)は、1924年に米国コネチカット州で開かれた樹木の関係者の集まり(Shade Tree Conference)から始まった団体です。1968年に International Shade Tree Conference となり、1976年に今の名前に改めました。本部は米国ジョージア州アトランタにあり、2024年に創立100年を迎えています。2025年末の会員は24,647人、73か国です。

樹上作業 クスノキ 手鋸 剪定 アーボリスト

ISA には、木に登って作業する人の資格(Certified Tree Climber)もある(イラストは当社作成)

資格の種類と保持数

ISA の認定資格で最も多いのは ISA Certified Arborist で、2025年末の保持数は38,825件です。樹木のリスク評価の資格 TRAQ(Tree Risk Assessment Qualification)が15,004件で続きます。ただし、2024年の資格の保持数を地域で分けると、北米が44,212件で全体の9割を超え、アジア太平洋は2,957件でした。国際団体ではあっても、資格の9割強は北米で持たれています。

ISA 認定資格 保持数 Certified Arborist

ISA の認定資格の保持数(ISA の2025年・2024年の年報をもとに当社作図)

資格 対象 受けるための主な条件・更新
ISA Certified Arborist 樹木管理の全般 フルタイムの実務3年以上、または学歴・訓練と実務の組み合わせ、有効3年で、3年間に継続教育単位(CEU)30以上か再受験で更新、試験は英語・フランス語・スペイン語・繁体字中国語(日本語は無い)
Board Certified Master Arborist 上位の資格 Certified Arborist であること、更新は3年で60 CEU(科学・実践・管理の各分野で10以上)
ISA Certified Tree Climber 木に登って作業する人 木登りの実務18か月と、樹上の救助・心肺蘇生・応急手当の訓練、日本語で受験できる
Urban Forest Professional 都市の緑の計画・管理 2024年に Municipal Specialist から名前を改めた
TRAQ 樹木のリスク評価 2日間の講習と、筆記(4択110問・2時間・合格75%)と実技、講習と試験は英語、2025年11月5日からの新しい課程では有効7年

出典: ISA「ISA Certified Arborist Program Guide」(2025年8月改訂)p.4・p.8、「Board Certified Master Arborist Program Guide」(2026年5月改訂)p.7、「ISA Certified Arborist」「ISA Certified Tree Climber」、「2024 Annual Report」p.7、TRAQ Program Guide(2026年7月改訂)p.3・p.7・p.8、プレスリリース(2025年9月8日)

TRAQ の変更──有効期間が7年に

ISA は2025年9月8日、TRAQ の仕組みを改めると発表しました。2025年11月5日以降に新しい課程を修了した人は有効期間が5年から7年に延び、期限が来たら、講習と試験を受け直す形になります。古い課程で修了・更新した人は5年のままで、古い版の更新の講座も当面は続くと、プレスリリースの脚注にあります。

作業の安全の規格 ANSI Z133 は、2026年に新しい版

米国の樹木作業の安全の規格 ANSI Z133 は、ISA が事務局を務めています。ISA の前身が事務局になったのは1969年11月です。2026年5月27日には新しい版の Z133-2026 が出て、名前に「Health(健康)」が加わり、「Safety and Health Requirements for Arboricultural Operations」になりました。前の版は2017年版です。日本の窓口の JAS も、2026年6月に公開を知らせています。

日本との関係──支部ではなく「提携団体」

日本には ISA の支部(Chapter)は無く、提携団体(Associate Organization)の一般社団法人 Japan Arboriculture Society(JAS)が窓口です。前身の JAA が2013年5月に提携団体となり、2024年7月1日に JAS へ事業を引き継ぎました。JAS は ISA の試験の実施や、会員の継続教育単位の申請の代行を事業に挙げていますが、2026年10月16日の時点で、国内の次の試験の日程は公開されていませんでした。

ISA の資格と樹木医を相互に認める取り決めは、ISA・日本緑化センター・JAS の公式の資料には見当たりません。ISA が TRAQ の受講資格として認める他の団体の資格の一覧にも、樹木医は載っていませんでした。2つの資格は、別々の仕組みで育ってきたものです。

 

TCIA(米国樹木管理業協会)──会社を審査する業界団体

TCIA(Tree Care Industry Association)は、1938年に National Arborist Association として発足した、米国の樹木管理の会社の業界団体です。公式サイトによると、1,400社を超える樹木管理会社と、400社近い関連企業が加盟しています。ISA が「人」の団体なら、TCIA は「会社」の団体です。

安全教育 指導者 新人 道具の点検

会社の中で、指導者が道具の点検を新人に教える場面。TCIA は、こうした会社の安全の担い手の資格も出している(イラストは当社作成)

TCIA Accreditation──会社ごとの認定

TCIA は、樹木管理の会社を審査して認定する「TCIA Accreditation」を運営し、米国で唯一の、樹木管理の会社向けの事業と法令順守の認定だと説明しています。認定を受ける会社は、保険・許認可・社員の訓練・安全の決まり・事業の倫理・顧客対応などを書類で示し、事業の実務の監査を受けます。認定の有効期間は3年で、毎年の確認があります。TCIA は、認定を受けていないのに認定のロゴを使う会社を、公式サイトで公表しています。会社の認定の中身は、次の英国 AA の節で表にして比べます。

CTSP──会社の安全の担い手の資格

TCIA は、会社の中で安全の旗振りをする人の資格 CTSP(Certified Treecare Safety Professional)も出しています。受けるには、樹木管理の現場経験3年以上(うち1年以上は安全の責任を負った立場)などが要り、学習・ワークショップ・試験を経て認定され、3年ごとに継続教育単位30で更新します。米国・カナダ・メキシコに3,000人を超える認定者がいると TCIA は書いています。

ANSI A300──剪定から樹木リスク評価までの規格

TCIA は、米国の樹木管理の規格 ANSI A300 の事務局でもあります。1991年に規格をつくる委員会ができ、1995年に剪定の部(Part 1)が出ました。その後、土壌・支持(ケーブリングなど)・避雷・建設のときの管理・植栽と移植・根の管理・樹木リスク評価などの部が加わり、2023年に10部が1冊の「ANSI A300-2023 Tree Care Standards」にまとめられました。TCIA の業界誌は、A300 が契約の仕様書に引用されたり、裁判で注意義務を判断する材料にされたりすることがあると書いています。

 

英国 Arboricultural Association──会社の認定と、工事から木を守る規格

英国の Arboricultural Association(AA)は1964年に設立された登録チャリティ(公益の団体)で、会員は3,000人を超えます。本部はイングランド西部のグロスタシャー州 Stonehouse にあります。1971年にコンサルタントの登録制度(Register of Consultants)を始め、のちに樹木作業の会社の認定を始めました。

ARB Approved Contractor──自治体の発注の条件にも

AA の会社の認定「ARB Approved Contractor」は、40年以上の歴史がある制度です。2012年に品質の国際規格 ISO 9001(UKAS)を取得し、2013年5月には、発注者が業者の安全の体制を確かめる仕組みを共通にする SSIP に加わりました。2023年のハンドブックでは、認定を受けた会社は原則として毎年監査を受け、2年に1度は現地で審査し直されます。1年目の審査は、作業現場・車庫・書類を現地で確かめる形です。AA は、この認定が自治体や大きな商業組織から求められることが増えていると説明しています。

事業者認定 審査 道具 点検記録 樹木管理会社

会社の認定の審査のイメージ。英国 AA の認定では、1年目に作業現場・車庫・書類を現地で確かめる(イラストは当社作成)

米国の TCIA と英国の AA の会社の認定を並べると、次のとおりです。

項目 米国 TCIA Accreditation 英国 AA の ARB Approved Contractor
認定の対象 樹木管理の会社 樹木作業の会社
確かめること 保険・許認可・社員の訓練・安全・倫理・顧客対応 現地(作業現場・車庫)と書類の審査
審査の周期 有効3年、毎年の確認 原則として毎年の監査と、2年に1度の現地の再審査(1年目は現地、2年目は書類)
外の仕組みとの関わり 規格 ANSI A300 の事務局も TCIA ISO 9001(UKAS)を2012年に取得、2013年に SSIP(発注の安全審査の共通化の仕組み)に加盟

出典: TCIA「Accreditation」「Hiring a Tree Care Company」、Arboricultural Association「Become an ARB Approved Contractor」「Approved Contractor (AC) Handbook」(2023年5月)3.5・表3、SSIP「Arboricultural Association」(2026年10月16日に確認)

BS 3998 と BS 5837──樹木作業と、工事のときの樹木

英国規格では、樹木作業の推奨事項を BS 3998:2010 が、建物の設計・解体・建設と樹木の関係を BS 5837:2012 が扱います。BS 5837 は改訂の途中で、2024年8月16日〜10月16日の意見募集には2,000件を超える意見が寄せられました。AA は2026年3月の記事で、改訂版の発行を2026年11月と見込んでいます。2026年10月16日の時点では、BSI のページで2012年版が「現行・見直し中」となっていて、改訂版はまだ出ていません。

工事 樹木 根 保護柵 BS 5837

工事の前に、残す木の根を守る範囲を頑丈な柵で囲い、柵の中には重機も資材も入れない考え方のイメージ。柵の範囲は模式(イラストは当社作成)

AA が改訂の説明のために出した資料によると、BS 5837 は2005年版で、残す木の根を守る範囲(Root Protection Area。幹の直径の12倍をもとに決める範囲)と、工事を入れない区域の考え方を取り入れ、2012年版では根を守る柵の形を図で示しています。日本でも、東京都の「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」が、街路樹のそばの工事で根を守る「工事配慮エリア」と配慮事項を示しています。くわしくは「街路樹のそばで工事をするとき、根をどう守るか」に書きました。

 

欧州 EAC・ドイツ FLL・豪州──国をまたぐ資格、判例を踏まえた点検の指針、国の職業資格

EAC──欧州共通の資格 ETW・ETT

EAC(European Arboricultural Council)は、1992年にブリュッセルで発足した、欧州各国の樹木管理の団体の協議体です。EAC は、樹上や地上で作業する人の資格 ETW(European Tree Worker)と、現場の監督・管理を担う人の資格 ETT(European Tree Technician)を運営しています。ETW は1996〜1999年に EU の計画で開発された資格で、筆記・口述・樹種の見分け・実技の試験があり、有効期間は3年です。試験を行う認定センターは、2026年10月時点で欧州の21か国と香港に53か所あります。

欧州では、EU の助成を受けて2019年9月に始まった3年の事業 TeST で、剪定などの各国に共通の作業の基準 EAS(European Arboricultural Standards)づくりが進められました。その基準書を日本へ送ってくださったヴェローナのアーボリストとの交流は、「イタリア ヴェローナでアーボリストとの交流」に書きました。

FLL──契約の条件と、樹木点検の指針

ドイツの FLL(景観開発・景観造成研究協会、ボン)は、造園の技術の規則をつくる団体です。樹木管理の契約の技術条件「ZTV-Baumpflege」は、現行が2017年の第6版で、FLL が初めて発行したのは1987年です。樹木の点検の指針「Baumkontrollrichtlinien」は2004年に初版が出て、今は2020年版です。FLL は、この指針が連邦通常裁判所(BGH)の判例を基に点検の範囲・時期・頻度を定めたもので、自治体で広く使われ、裁判でも引用されると説明しています。2007年3月からは、樹木点検者の認証試験も行っています。

樹木点検 街路樹 2人一組 樹木医

街路樹の点検を、見る人と記録する人の2人一組で行う場面(イラストは当社作成)

名前 出しているところ 中身
ETW(European Tree Worker) EAC 作業者の資格、筆記・口述・樹種の見分け・実技の試験、有効3年
ETT(European Tree Technician) EAC 監督・管理を担う人の資格、樹木点検の管理演習などの試験、有効3年
ZTV-Baumpflege 2017 FLL 樹木管理の契約の技術条件、第6版
Baumkontrollrichtlinien 2020 FLL 樹木の点検の範囲・時期・頻度の指針、初版2004年
Baumuntersuchungsrichtlinien 2013 FLL 点検のあとに疑いが残る木の詳しい調査の指針
FLL 認定の樹木点検者 FLL 点検の指針と ZTV-Baumpflege に基づく試験、2007年3月から

出典: EAC「ETW」「ETT」「Certification Centers」、FLL「Gesamtverzeichnis 2025」p.8・p.18、「FLL-Zertifizierter Baumkontrolleur」、「ZTV-Baumpflege 2017」の見本(2026年10月16日に確認)

ドイツの樹木管理の会社 Arbocare と、専門の商社 Freeworker を訪ねたときの記録は、「ドイツ・フライジングでアーボリスト視察 Arbocareと専門商社Freeworkerに学ぶ樹冠固定(ケーブリング)と樹木管理の基準」に書きました。

豪州──国の職業訓練の資格

オーストラリアでは、業界の全国団体 Arboriculture Australia があり、資格は国の職業訓練の仕組みの中に置かれています。現場の作業者の Certificate III in Arboriculture(AHC30824)と、コンサルタントや樹木の管理者の技能と知識を扱う Diploma of Arboriculture(AHC50524)は、どちらも国の職業訓練の登録(training.gov.au)に載る現行の資格です。この記事で取り上げたほかの団体の資格と違い、国の職業訓練の制度に載る資格です。

 

日本の樹木の資格と団体

日本の樹木の専門資格は、1991年度に始まった樹木医を土台にしています。年表にすると、海外の団体よりも新しいことが分かります。ただ、1990年代からは、海外も日本も、資格や指針がほぼ同じ時期に増えてきました。

年表 ISA 樹木医 街路樹診断 規格

海外と日本の、樹木の資格・団体・規格の歩み(各団体・行政の公表資料をもとに当社作図)

樹木医──国の補助事業から始まった資格

樹木医は、林野庁の補助事業「ふるさとの樹保全対策事業」として1991年度に始まった制度で、今は一般財団法人日本緑化センターが認定する民間資格です。1996年度からは農林水産大臣の認定を受けていましたが、その認定の制度そのものが2000年度末で廃止されました。第1期の認定は76人で、2025年度までの認定は通算3,471人、登録している人は2025年12月1日時点で3,244人です。受験には業務経験5年以上(2023年度に7年から短縮)、樹木医補なら認定後1年以上が要ります。2019年度以降に認定された人は、5年ごとに登録を更新します。

2025年2月14日、樹木医は国土交通省の「公共工事に関する調査及び設計等の品質確保に資する技術者資格」に登録されました。対象は公園施設(樹木)の点検と診断で、国土交通省は、登録された資格を持つ人を総合評価落札方式で加点するなどして活用するとしています。

街路樹・都市樹木診断士──自治体の仕様と結びついた資格

一般社団法人 街路樹・都市樹木診断協会は、樹木の外観から弱いところを読む VTA(Visual Tree Assessment)の手法を使って、倒木の危険のある木を見つけるために1998年に発足しました。2009年に法人となり、2025年10月31日に旧名の「街路樹診断協会」から今の名前に改めました(英語の表記は変わっていません)。資格の「街路樹・都市樹木診断士」は、樹木医の取得後3年以上の人が、協会の講習と試験を経て認定されます。

東京都は1998年度に「街路樹診断マニュアル」を作り、現行は「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」です。このマニュアルでは、根株診断を含む発注では街路樹診断士(マニュアルの表記。今の街路樹・都市樹木診断士)の取得後2年以上の実務と都の講習、それ以外の発注では樹木医と都の講習を、診断する人に求めています。マニュアルの本文は、改称前の資格名・協会名のままです。海外では会社の認定や規格が発注の条件になる例があるのに対し、東京都では人の資格がマニュアルに直に書かれています。

東京都 街路樹診断 樹木医 街路樹診断士 資格

東京都の街路樹診断で、診断する人に求める資格(東京都「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」をもとに当社作図)

令和3年度版のマニュアルでは、外観診断が必須になり、「精密診断」は「機器診断」に改められました。外観で症状を探し、必要な木だけ機器で確かめる順番です。機器の使い分けは「樹木の精密診断(機器診断)とは」に書きました。

外観診断 機器診断 樹木医 樹木診断

外観で症状を探し、必要な所だけ機器で確かめる(イラストは当社作成)

そのほかの団体と、樹上作業の安全

団体 発足 主な役目
一般財団法人 日本緑化センター —(樹木医制度は1991年度から) 樹木医・樹木医補の認定と登録
一般社団法人 日本樹木医会 1992年6月(任意団体)、2009年7月に法人化 樹木医の全国組織、正会員は約2,400名
樹木医学会 1995年9月(樹木医学研究会)、1998年11月に改称 樹木医学の学術団体、1999年9月に日本学術会議の学術研究団体に登録
一般社団法人 街路樹・都市樹木診断協会 1998年10月、2025年10月31日に改称 街路樹・都市樹木診断士の認定
一般社団法人 日本造園建設業協会 1965年4月(任意団体)、1971年に社団法人 街路樹剪定士・緑地樹木剪定士・植栽基盤診断士の認定
一般社団法人 日本植木協会 1971年1月 植木の生産・流通に携わる会員の団体
一般社団法人 Japan Arboriculture Society 2024年7月1日に事業を継承 ISA の提携団体、ISA の試験・講習の窓口

出典: 日本緑化センター「樹木医・樹木医補」「樹木医登録者数などの参考資料」(2025年)、日本樹木医会「日本樹木医会について」、樹木医学会「樹木医学会について」、街路樹・都市樹木診断協会「協会概要」、日本造園建設業協会「協会案内」、日本植木協会「沿革年表」、JAS「沿革」(2026年10月16日に確認)

樹上作業の安全については、労働安全衛生規則が、チェーンソーで木を伐る業務やロープ高所作業、フルハーネス型の墜落制止用器具を使う作業の特別教育を定めています。ただ、木に登って行う作業だけを対象にした国の安全基準は、調べた範囲では見当たりません。一方で、日本造園組合連合会が「樹木作業に係る造園用ワークポジショニングガイドライン」(2019年初版、2024年10月改訂)を業界の自主的な安全対策として出しており、日本造園建設業協会の街路樹剪定士は、フルハーネスの特別教育を受けていることを受験の条件にしています。造園の資格と法令の教育の全体は、「造園・植木屋の資格一覧」にまとめました。

 

日本と海外を並べると──日本にまだ見当たらない仕組み

ここまでを1枚の表にすると、次のようになります。

項目 米国 英国 ドイツ・欧州 日本
個人の資格 ISA の認定資格 AA の登録コンサルタントほか EAC の ETW・ETT、FLL の樹木点検者 樹木医、街路樹・都市樹木診断士、街路樹剪定士、植栽基盤診断士ほか
会社の認定 TCIA Accreditation ARB Approved Contractor 今回は確かめていない 第三者が会社を監査する全国の仕組みは見当たらない
管理・剪定の規格 ANSI A300(TCIA が事務局) BS 3998・BS 5837 FLL の ZTV-Baumpflege 一冊にまとまった全国の規格は見当たらない、国の基準・指針と自治体の仕様・マニュアル
作業の安全 ANSI Z133(ISA が事務局) 今回は確かめていない ETW の受験に応急手当・チェーンソーの訓練の証明が要る 労働安全衛生法令の特別教育、造園連の自主ガイドライン
点検・リスク評価 ISA の TRAQ、A300 のリスク評価の部 QTRA・THREATS などの手法 FLL の樹木点検の指針(2020年版) 東京都のマニュアル、国総研の手引き、国の指針・ガイドライン

出典: 本文の各節の出典による(2026年10月16日に確認)。「今回は確かめていない」は、仕組みが無いという意味ではない

並べてみると、日本で薄いのは「会社」の段です。日本では、樹木医や街路樹・都市樹木診断士といった人の資格を、発注者が仕様書で求める形が中心で、TCIA や AA のように会社そのものを外の審査員が監査して認定する全国の仕組みは、調べた範囲では見当たりませんでした。建設業許可の造園工事業は工事を請け負うための許可で、樹木作業の質や安全を現地で監査する制度ではありません。

剪定の基準も、米国の ANSI A300 やドイツの ZTV-Baumpflege のように一冊にまとまった全国の規格は、調べた範囲では見当たらず、国の基準・指針や自治体ごとの仕様・マニュアルが拠り所です。人の資格に加えて、会社の仕事の仕方と、仕様の拠り所をそろえる仕組みが育てば、発注する側の負担は軽くなると考えています。当社が掲げる GREEN MANAGEMENT の一つは「科学的な知見(アーボリカルチャー)と現場経験の融合」で、海外の規格や手法は、日本の公的なマニュアルに沿って診断するときにも、考え方の物差しとして読んでいます。

 

樹木のリスク評価の手法──東京都・ANSI・FLL・英国

樹木のリスク評価の考え方も、国によって形は違いますが、骨組みはよく似ています。東京都のマニュアルは樹木点検・外観診断・機器診断、米国 ANSI A300 のリスク評価の部は「限られた目視」「基本」「高度」の3つの段階、ドイツ FLL の指針は定期点検と詳しい調査に分けていて、どれも、まず目で見て、必要な木だけを詳しく調べる形です。

樹木点検 段階 東京都 ANSI FLL

東京都・米国 ANSI・ドイツ FLL の段階の対応(当社の整理。当社作成の図)

樹木のリスク評価 段階 樹木医

ANSI A300 の評価の3つの段階を、当社が描いたイラスト。限られた目視(左)、1本ずつの詳しい目視(中)、機器などを加えた高度な評価(右)

英国では、QTRA(Quantified Tree Risk Assessment。運営は英国の会社)や THREATS(英国の樹木コンサルタントが開発)といった評価の手法が使われ、非営利の団体 VALID の手法もあります。QTRA は、木の下の土地の使われ方・折れる部分の大きさ・折れる確率の3つを組み合わせて危険を数値で表し、VALID は、木の便益とリスクを比べて信号の色の4段階で評価すると、それぞれの運営元が説明しています。QTRA と VALID は、木の状態だけでなく、木の下の使われ方も合わせて見る形です。リスク評価の研修で考えたことは、「都市樹木のリスク評価の研修を、国交省・国総研の資料と読み合わせて」に書きました。

 

樹木診断・高木の手入れを頼む前に確かめたい5つ

日本では会社の認定の仕組みが見当たらない分、海外の「人・会社・ルール」を、発注する側の確認に置き換えておくと役に立つと思います。

樹木診断 業者選び 確認 樹木医 報告書

樹木診断・高木の手入れを頼む前に、確かめたい5つ(当社の整理)

  1. 担当するのは誰か: 樹木医か。街路樹や都市の樹木なら、街路樹・都市樹木診断士か。資格の名前と人数
  2. 何に沿って診断するか: 東京都のマニュアルや国の指針など、拠り所の名前。外観診断から機器診断へ進む段階の考え方
  3. 報告書に何が書かれるか: 1本ごとの判定・対策・次の点検の時期。報告書の見本があるか
  4. 高い所の作業の安全: 高所作業車や木に登る作業の教育、保険、作業の区域の管理
  5. 伐るかどうかの理由: 伐採を勧めるとき、診断の数値や写真で理由を示し、残す手立ても併せて示すか

当社には、樹木医3名、街路樹・都市樹木診断士3名、植栽基盤診断士2名が在籍しています。当社の樹木診断は、外観診断で症状を探し、必要な木だけを機器で確かめる2段の進め方で、カルテは東京都の「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」に沿った形で作っています。危ないからすぐ伐るのではなく、残せる木を残すための判断の材料をそろえることを、診断の目的にしています。マンションの場合の業者の選び方は「マンションの植栽管理とは」にも書きました。

「樹木診断」のサービス内容と、ご相談の窓口であるお問い合わせのページはこちらです。

 

よくある質問(Q&A)

Q1. ISA とはどんな団体ですか?

A. ISA(国際アーボリカルチャー協会)は、1924年に米国で始まった樹木管理の専門家の国際団体です。本部は米国ジョージア州アトランタにあり、2025年末の会員は24,647人、73か国です。ISA Certified Arborist などの個人の資格を認定し、米国の樹木作業の安全の規格 ANSI Z133 の事務局も務めています。

Q2. TCIA と ISA の違いは何ですか?

A. ISA は個人の資格を出す団体で、TCIA は樹木管理の会社の業界団体です。TCIA は会社を審査して認定する TCIA Accreditation を運営し、樹木管理の規格 ANSI A300 の事務局を務めています。規格の受け持ちでいえば、ISA が安全の ANSI Z133、TCIA が管理の ANSI A300 です。

Q3. 英国の Arboricultural Association とは何ですか?

A. 1964年に設立された英国の登録チャリティで、会員は3,000人を超えます。樹木作業の会社を審査して認定する ARB Approved Contractor を運営し、認定を受けた会社は毎年の監査と2年に1度の現地の再審査を受けます。AA は、この認定が自治体などから求められることが増えていると説明しています。

Q4. 樹木医とアーボリストは何が違いますか?

A. 樹木医は、一般財団法人日本緑化センターが認定する日本の民間資格です。アーボリストは、樹木の手入れを専門とする職業を指す言葉で、ISA などの団体が個人の資格を出しています。ISA の資格と樹木医を相互に認める取り決めは、公式の資料には見当たりません。

Q5. 日本で ISA の資格は取れますか?

A. 日本での窓口は、ISA の提携団体の一般社団法人 Japan Arboriculture Society(JAS)です。日本語で受験できるのは ISA Certified Tree Climber で、ISA Certified Arborist には日本語の試験がなく、TRAQ の講習と試験は英語です。2026年10月16日の時点で、国内の次の試験の日程は公開されていませんでした。

Q6. TRAQ とは何ですか?

A. TRAQ(Tree Risk Assessment Qualification)は、ISA の樹木のリスク評価の資格です。2日間の講習と、筆記(4択110問・2時間)と実技の試験で認定されます。2025年11月5日以降に新しい課程を修了した人は有効期間が7年で、期限が来たら講習と試験を受け直します。

Q7. 日本に、樹木の会社を認定する制度はありますか?

A. 米国の TCIA や英国の AA のように、樹木作業の会社そのものを外の審査員が監査して認定する全国の仕組みは、調べた範囲では日本に見当たりません。日本では、樹木医や街路樹・都市樹木診断士などの人の資格を、発注者が仕様書で求める形が中心です。

Q8. 街路樹診断士は今どう呼ばれていますか?

A. 一般社団法人 街路樹診断協会が2025年10月31日に「街路樹・都市樹木診断協会」へ名前を改め、資格も「街路樹・都市樹木診断士」になりました。英語の表記は変わっていません。東京都の令和3年度のマニュアルの本文は、改称前の名前のままです。

Q9. 国の街路樹点検のガイドラインは、点検を義務づけていますか?

A. 国土交通省が2026年3月30日に公表したガイドラインは、点検・診断の目安や参考となる考え方を示すもので、検討会の骨子案には強制力を伴うものではないとありました。そのうえで、事故のあった同じ路線・同じ樹種の街路樹、緊急輸送道路、通学路の街路樹は、おおむね年1回の定期巡回を基本としています。

Q10. 樹木診断はどんな会社に頼めばよいですか?

A. 担当する人が樹木医か、都市の樹木なら街路樹・都市樹木診断士かを確かめるのが第一です。あわせて、東京都のマニュアルや国の指針など診断の拠り所、報告書に1本ごとの判定・対策・次の点検の時期が書かれるか、高い所の作業の安全の体制、伐採を勧めるときの理由の示し方を確かめておくと、比べやすくなります。

 

株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊

 

出典・参考情報

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※ 「アーボリスト」は、株式会社ツリークライミングワールドの登録商標です。当社の記事では、樹木の手入れを専門とする職業(英語の arborist)を指す言葉として使っています。

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