2026年10月12日、都市樹木のリスク評価をテーマにした研修を受けました。根の空間、腐朽率50%の基準、診断から措置までの期限、診断を補う新技術について、国土交通省・国総研の公開資料と読み合わせ、樹木診断のこれからを樹木医として考えます。
研修は2時間余り。倒木・落枝の実態から、根の空間、点検・診断の実務、診断機器と新しい技術、診断のあとの措置の制度まで、幅広い内容でした。
研修で心に残った4つのことと、国の資料で確かめられたこと
心に残ったのは、次の4つです。
- 倒木の背景には、点検の不足と、根の空間の不足があること
- 腐朽率50%という線引きを、大径木に一律に当てはめてはいけないこと
- 診断の結果を、期限のある措置につなげる仕組みが要ること。診断で分からないことは「分からない」と書くこと
- AI、傾斜センサー、揺れの検知、探知犬など、診断を補う技術が実用に近づいていること
研修で語られたことは、国の公開資料と読み合わせて、確かめられたことと、確かめられなかったことに分けました。
| 研修で語られた論点 | 国の資料で確かめられたこと | 読み合わせて気づいたこと |
|---|---|---|
| 根の空間が倒木の主因 | 国総研の手引き第2版は、倒伏・傾斜・根返りを合わせた被害を「根系に起因する被害」とまとめ、全体の約76%としている/重要な根域の目安は、半径で胸高直径×18 | 「ここまで確保すれば根返りしない」という範囲を示した記載は無い |
| 腐朽率50%を一律に当てない | 手引きは腐朽割合50%以上を最も高い区分(E)としつつ、単独で使わず総合判断するとしている/国交省の公園の指針(案)の参考資料は、名木などの扱いを慎重に検討するとしている | 大径木に別の数値基準を定めた記載は、確認した範囲では無い |
| 診断から措置までの期限 | 次回の点検・観察までの年数の目安は示されている/危険度が最も高い木は「速やかに」伐採とされている | 措置までの日数・期限を定めた記載は、確認した4つの資料には無い |
| 診断を補う新しい技術 | 国交省道路局のガイドラインは、新技術を、特性と限界を理解したうえで活用するとしている/公園の指針の参考資料は、既存の診断機器の長所と短所を整理している | AI判定や傾斜センサーなど個別の技術を評価した記載は、確認できていない |
出典: 国総研「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」(国総研資料第1059号、2019年2月)/国土交通省 都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)とその参考資料(令和8年3月30日改訂)/国土交通省道路局 街路樹点検の実施促進のためのガイドライン(令和8年3月)/国土交通省 東京国道事務所 街路樹点検マニュアル(令和5年3月)。表は当社作成
倒れる木の被害形態のうち、約76%は根系に起因する──根の空間という視点
国総研の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」の第3編には、平成29年4月から平成30年10月に全国の道路で起きた、街路樹の倒伏・落枝の調査が載っています。被害形態の延べ本数は9,389本。内訳は、倒伏が5,158本(55%)、幹折れが1,204本(13%)、傾斜が1,055本(11%)、根返りが961本(10%)、落枝が846本(9%)です。手引きは、倒伏・傾斜・根返りの3つを根系に起因する被害とまとめていて、合計は7,174本、約76%になります。

街路樹の倒伏・落枝の被害形態。根系に起因するとされる3つで約76%(国総研「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」の数値をもとに当社作成)
読み方には注意が要ります。この調査は台風によるものが92%を占める期間のもので、「倒伏」は手引き自身の定義で幹折れと根返りの総称です。どの部位が原因かまでは、分けられていません。それでも、倒れる木の多くは根の支えを失って倒れている、という見方を支える数字だと受け止めました。倒木・落枝の背景にある腐朽・病害と強風については、国土交通省の全国倒木調査を樹木医が読み解くで読み解いています。

木の壊れ方は、根元から倒れる「根返り」と、幹が折れる「幹折れ」に分かれる。引張り試験は、それぞれの安全率を出す(イラストは当社作成)
根の空間は「胸高直径×18」で考える
手引きは、重要な根域(根株を中心に、太い根から細い根まで発達した範囲)の半径の目安を、胸高直径(cm)×18としています(第1編 p.1-14。出典は米国農務省森林局の資料)。胸高直径40cmなら半径7.2m、60cmなら10.8m、100cmなら18mです。この範囲の根の40%以上が傷むと、支持に重大な弱点が生じるおそれがある、とも書かれています。工事の場面での考え方は街路樹のそばで工事をするとき、根をどう守るかに、植栽基盤の広がり・深さ・物理性・化学性は植栽基盤の4つの条件にまとめています。
街路樹の現実は、この数字から離れています。国総研の「街路樹再生の手引き」(国総研資料第885号、平成28年3月)は、植栽空間が狭い場所で同じ樹種を植え直すと根上りを繰り返す可能性があり、空間に適した樹種への更新が効果的だとしています(p.1-78)。
研修でも、樹木の大きさに見合った根の空間がなければ、立派な大径木でも倒れやすくなる、という話が軸でした。根の空間は、診断の話であると同時に、植える段階と工事の段階の話でもあります。地下の根の状態は、外観診断では見えにくい部分です。研修でも、不具合の多くが根元や地下部にあるのに、年に1回の診断では見えにくい、と指摘されました。
「腐朽率50%」を、大径木に一律に当てはめてよいのか
手引き第2版の別冊は、幹の腐朽・空洞の割合を、A(0%)からE(50%以上)まで5段階に分けています(別冊 p.1-60)。Eは「非常に高い危険性があり、すぐに倒伏、枝折れに繋がる恐れがある」区分です。同じ表に、健全材の厚さを幹の半径で割った値(t/R)の区分もあり、0.3未満がEです。
この50%の根拠は、別冊のコラムにあります(p.1-61)。ドイツのマテック博士の実態調査で、腐朽・空洞の半径が幹の半径の0.7倍を超えると、立っている木より折れた木のほうが多くなる。0.7倍を面積に直すと49%、つまり約50%です。ここで大事なのは、手引き自身が、この区分を単独で使わず、他の評価と合わせて総合判断するとしていることです。樹高が低い木や樹冠が小さい木では、基準を超えても倒れていない例があり、樹高や樹冠を小さく抑えれば危険性を下げられる、とも述べています。

腐朽の面積割合と、曲げに対する断面の強さ。t/R=0.3で面積は約49%、強さは計算上約4分の3が残る(単純化した模型。当社の計算)
当社で、簡単な計算をしてみました。幹を丸い断面、空洞を中心の円と単純化します。t/R=0.3のとき、面積では約49%が空洞なのに、曲げに対する断面の強さは計算上、約4分の3が残ります。中空の円断面の断面係数は、中実の円断面の「1−(内径÷外径)の4乗」倍になるためです。同じt/R=0.3でも、必要な健全材の厚さは、直径20cmの木で3cm、100cmの木で15cmと、木が太いほど大きくなります。実際の木は空洞が偏り、開口し、樹皮に傷があります。この計算は、「50%だから危ない」とも「50%でも大丈夫」とも言えないことを示す材料であって、安全を保証するものではありません。
研修では、腐朽率50%を直径100cm・樹齢200年といった大径木に一律に当てはめると、本来残せる木まで伐採の対象になってしまう、敷地全体の状況や樹木全体の健全性を踏まえて基準を見直すべきだ、という主張がありました。公開資料にも、同じ方向の記述があります。景観重要樹木の手引き(国総研資料第565号、平成22年1月)は、腐朽割合50以上を「不可」としますが、その区分で行うのは伐採ではなく、日常管理に加えた治療・回復です。総合評価では対策の緊急性やコストも考慮するとしています(p.148〜149)。国土交通省の都市公園の指針(案)の参考資料にある評価の一例も、歴史的価値の高い木や名木などは、伐採以外も含めて慎重に検討するとしています。
私は、これを基準を緩める話だとは受け止めていません。数字の読み方を精密にする話です。当社の診断でも、機器の数値だけで結論は出さず、外観診断の結果と合わせて総合判定をしています(樹木医は街路樹診断で何を見ているか(後編))。社寺の御神木や、地域に親しまれてきた大径木は、伐れば同じものは二度と戻りません。巨樹・老樹の保全対策事例集(国総研資料No.566、2010年1月)の前書きにも、そうした木の価値は失われてから気づかれることが多く、復元には長い年月がかかる、とあります。
診断のあと、何日以内に措置するのか──決まっていない部分
診断で危険と判断された木を、いつまでに伐採・剪定するのか。研修では、日本にはこれを定めた決まりがなく、危険と分かっていながら長く手が付けられないまま事故になった例がある、と語られました。海外には、オーストラリアのサーフコースト・シャイア(自治体)のように、点検の間隔と、危険を取り除くまでの対応期間を樹木リスク管理計画(Tree Risk Management Plan 2023-2027)に定めている例があります。公式ページで、計画が点検間隔と対応期間を定めていることを確かめました。具体的な日数は計画書の本体で確かめる必要があるため、ここには書きません。
日本の公開資料を、この点だけに絞って読み直しました。次回の点検・観察までの年数の目安は、あります。国総研の手引き第2版(別冊 表-1.1)は、措置を行ったあとの次回の診断・観察を、旺盛で被害のない木で3〜5年後、僅かな異状の木で2〜3年後、被害は明らかだが危険性はない木で1〜2年後、危険性のある木で数か月〜1年後としています。東京国道事務所の街路樹点検マニュアルは、危険度をⅠからⅣの4段階に分け、次回点検の目安と対応を次のように定めています。

診断のあとの次回点検の目安と、措置までの期限の定め(国総研・国土交通省・東京国道事務所の資料をもとに当社作成)
| 危険度 | 状態 | 対応 | 次回点検の目安 |
|---|---|---|---|
| Ⅰ | 被害なし〜小 | 通常管理を続ける | 5年後 |
| Ⅱ | 被害中 | 判定会議で対応方針を決める | 弱点はあるが危険性なしで3年後、危険性はあるがすぐには倒伏しない場合は1年後 |
| Ⅲ | 被害大で、倒伏の危険性は低い | 判定会議で決め、危険性が高いと思われる木は有識者の確認を経て措置する | Ⅱと同じ |
| Ⅳ | 被害大で、倒伏の危険性が高い | 速やかに伐採する(有識者は事後に確認) | 伐採 |
出典: 国土交通省 関東地方整備局 東京国道事務所「街路樹点検マニュアル」令和5年3月 p.2・10〜14。表の年数は目安で、早めてもよいとされている。表は当社作成
「速やかに」「早急に」という言い方はあっても、「何日以内に」を定めた記載は、確認した範囲では見つかりませんでした。国土交通省の公園の指針(案)は、別の側から書いています。明らかな危険性は事故の予見が可能なものであり、これを見逃さずに回避することが重要で、点検・診断が後手に回って事後の措置に追われることがないように、という趣旨です(p.5)。落枝の危険が明らかな樹木の下を相当数の利用者が通行する状態は、通常有すべき安全性を欠くとした判例にも触れています。
研修では、危険を把握しながら措置をとらなかった場合には管理者の責任が認められ、適切な点検・診断を行っていた場合には責任が認められなかった例もある、と紹介されました。そのうえで、診断で分からないことは「分からない」と明記し、適切な処置につなげることが重要だと述べられました。診断する側として、重く受け止めています。公開資料にも、打診音の判別は熟練を要すること、診断機器にはそれぞれ測れない範囲があることが明記されています(公園の指針(案)参考資料 p.20・22)。措置には、周りの人の理解も要ります。国総研の手引き第2版は、地域住民等との合意形成を1つの章に立てていて、国の緑の基本方針(令和6年12月20日告示)も、危険木の伐採・更新の必要性について、住民の理解を促す普及啓発を挙げています。
AI・傾斜センサー・探知犬を、診断の中にどう置くか
研修の後半では、4方向から撮った写真をAIが判定してキノコや樹皮の異常を拾うしくみ、根元の傾きや揺れを継続して測るセンサー、腐朽やシロアリを嗅ぎ分ける探知犬など、診断を補う技術が次々に紹介されました。
国の資料は、新しい技術への向き合い方を、すでに示しています。国土交通省道路局のガイドライン(令和8年3月)は、新技術を、各技術の特性や限界を十分に理解したうえで活用するとしています。樹木を引っ張って安定性を把握する技術については、作業スペースが必要なこと、結果の判断が道路管理者だけでは難しいことを留意点に挙げています(p.18)。公園の指針(案)の参考資料には、診断機器それぞれの利点と欠点が表になっていて、γ線は直径1.5m程度まで、貫入抵抗測定器は1m程度までと、測れる太さの限界も書かれています(p.22)。
当社が診断で使うピカス(弾性波樹木診断装置)、レジ(Resi PD)(貫入抵抗測定器)、アーボソニック3D(多点式応力波速度測定器)も、それぞれ、見える範囲と見えない範囲があります。新しい技術にも、同じ読み方をします。何を測っているのか。何が測れないのか。結果を、誰がどう判断するのか。

立ち直った傾斜と根返りのおそれ
傾きのセンサーでは、外観や打診音に異常が見つからなかった木で、傾きの変化が、根の異常を先に知らせた事例が紹介されました。年に1回の診断が「点」だとすれば、傾きや揺れの記録は、点と点の間をつなぐ「線」にあたります。私は、新しい技術が、目視や打診、機器診断に取って代わるとは考えていません。診断と診断の間の時間を埋め、どの木から先に精密に診るかを決める材料になる。そう位置づけるのが、現場に合っていると思います。
樹木診断のこれから 当社が取り組みたい4つのこと
- 地下部を、診断とセットで診る。根の空間は、外観診断では見えにくい部分です。樹木診断の提案に、植栽基盤の調査と、根元の掘り取り調査を組み合わせて入れていきたいと考えています。
- 数値は総合判断で使い、残す木には残す根拠を示す。腐朽割合やt/Rは目安です。社寺の御神木や、地域に親しまれてきた大径木では、幹の太さ、樹高・樹冠、根の状態を合わせて、残せる理由と、残すための条件を報告書に書きます。
- 診断結果は、「いつまでに何をするか」まで書いて渡す。国の資料に期限の定めが見当たらないなら、管理者との契約・仕様の中で、危険度ごとの対応期限と次回点検の時期を先に決めておく。診断のあとに手が付けられない状態を、診断する側からも減らしたいと考えています。診断で確認できなかった範囲も、報告書に明記します。
- 記録を残す。国土交通省の公園の指針(案)は、対象の樹木ごとに、点検の結果、写真、健全度の判定、措置の内容、次回点検の時期を記録して整理保存するとしています(p.12)。点検から倒伏までの期間を整理できれば、見込んだ点検の間隔が適切だったかを、あとから確かめられます。

樹木台帳と管理計画
診断は、木を伐るための作業ではなく、木を残せるかどうかを見極める作業でもあります。診断の数字と、そのあとに続く時間。その両方を見ていくことが、これからの樹木診断だと考えています。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
- 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」国総研資料第1059号(2019年2月)。第3編 3-8(被害形態の内訳)、第1編 p.1-14・1-24(重要な根域)、別冊 p.1-17 表-1.1(次回診断・観察までの期間)、別冊 p.1-60・1-61(腐朽割合の区分と根拠のコラム)
- 国土技術政策総合研究所「街路樹再生の手引き」国総研資料第885号(平成28年3月)p.1-78
- 国土技術政策総合研究所「景観重要樹木の保全対策の手引き」国総研資料第565号(平成22年1月)p.148〜149
- 国土技術政策総合研究所「巨樹・老樹の保全対策事例集」国総研資料No.566(2010年1月)前書き
- 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」(令和8年3月30日改訂)p.5・12 と、同参考資料 p.20・22・25〜26
- 国土交通省道路局「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」(令和8年3月)p.18
- 国土交通省 関東地方整備局 東京国道事務所「街路樹点検マニュアル」(令和5年3月)p.2・10〜14
- 国土交通省「都市における緑地の保全及び緑化の推進に関する基本的な方針」(令和6年12月20日告示)p.14
- Surf Coast Shire(オーストラリア)「Tree Risk Management Plan 2023-2027」公式ページ: https://surfcoast.vic.gov.au/About-us/Council/Policies-plans-strategies-and-reports/Plans-and-strategies/Tree-Risk-Management-Plan
- 2026年10月12日の研修(都市樹木のリスク評価をテーマにしたもの)の聴講メモ。講演資料の図・数値は掲載していません
関連記事
- 国土交通省の全国倒木調査を樹木医が読み解く
- 樹木医は街路樹診断で何を見ているか(後編) 機器診断のt/R率と腐朽空洞率、総合判定、処置、フォローアップ診断
- 街路樹のそばで工事をするとき、根をどう守るか
- 植栽基盤の4つの条件──広がり・深さ・物理性・化学性を、樹木医が1つずつ解説|土壌調査と土壌改良 第1回
※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。






















