国土交通省の「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」には、樹木点検票と樹木診断カルテの様式が載っています。ただし、載っているのは空欄の様式だけで、記入例はありません。この記事では、空欄の様式と、当社が架空の木で記入した「説明用の記入例」を並べて、どこに何を書き、何を確かめているのかを、樹木医が1欄ずつ解説します。
指針(案)は平成29年9月に策定され、令和8年3月30日に改訂されました。様式は、本文とは別の「参考資料」(36ページ)の27〜30ページにあり、国土交通省のページから Word 版も入手できます。国の様式の全体像と、東京都の様式との違いは、総論の記事「国土交通省の樹木点検・診断のカルテには何があるか」にまとめました。この記事のページ番号は、断りのない限り参考資料のものです。
先にお断りしておきます。この記事の「説明用の記入例」は、様式の使い方を説明するために当社が作った架空のものです。実在の公園・樹木の診断結果ではありません。公園名・所属・氏名は「○○」にしています。
樹木点検票と樹木診断カルテはどんな書類か
都市公園の指針(案)は、点検・診断を、日常点検、定期点検、診断、災害対策点検の4種類に分けています(本文 p.6)。様式は、このうち定期点検で使う樹木点検票と、診断で使う樹木診断カルテの2種類です(p.24)。
| 様式 | ページ | 使う段階 | 何を記録するか |
|---|---|---|---|
| Ⅵ 樹木点検票(個表) | p.27 | 定期点検 | 1本ごとの点検項目の「あり」「重要」、特記事項、箇所図示、点検判定(診断の必要性・応急的措置の必要性) |
| 樹木点検票(総括表) | p.28 | 定期点検 | 点検した木の一覧(要応急的措置・要診断) |
| 注意すべき実生木 | p.28 | 定期点検 | かぶれなど利用者に被害を及ぼすおそれのある実生の木 |
| Ⅶ 樹木診断カルテ(1/2) | p.29 | 診断 | 外観の13項目の評価 A〜D、活力度、機器診断、総合判定、本格的措置、経過観察、実施記録 |
| 樹木診断カルテ(2/2) | p.30 | 診断 | 立地平面図、樹木全景、本格的措置部位写真(措置前後)、その他特記事項 |
出典: 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料 p.24・27〜30
説明用の記入例は、次のような筋書きにしました。公園の北入口に近い園路沿いのソメイヨシノ(樹木番号 N-12)で、5月の定期点検で園路の上の枯れ枝と、地際のキノコが見つかります。枯れ枝はすぐに取り除き、キノコについては6月に診断を行い、総合判定を出して、7月に措置をする、という流れです。
| 日付(架空) | 段階 | 使った様式 | 記入例の中身 |
|---|---|---|---|
| 2026年5月20日 | 定期点検 | 樹木点検票(個表・総括表) | 枯れ枝とキノコに「あり」「重要」、診断が必要、応急的措置が必要 |
| 2026年5月22日 | 応急的措置 | (カルテ 2/2 の特記事項に記録) | 園路の上の枯れ枝(直径約8cm)を除去 |
| 2026年6月10日 | 診断 | 樹木診断カルテ(1/2) | 外観の評価と機器診断、キノコ(ベッコウタケ)で外観 D、機器診断で地際の腐朽約30% |
| 2026年6月24日 | 総合判定 | 樹木診断カルテ(1/2) | C 要注意、本格的措置あり、1年後に再び診断 |
| 2026年7月8日〜9日 | 本格的措置 | 樹木診断カルテ(1/2・2/2) | 枯れ枝の除去、剪定、土壌改良 |
すべて当社の説明用の架空の例です
樹木点検票(個表) 定期点検で1本ずつ付ける
下の1枚目は参考資料の樹木点検票(個表)です。ページの画像は加工せずに引用し、左右の❶〜❼の番号と線だけを当社が付けました。2枚目が、同じ様式に当社が架空の木で記入した説明用の記入例です。青い字と印が記入した部分です。

樹木点検票(個表)。出典: 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料 p.27 より引用(ページの画像は加工せず、左右の番号と線は当社が付記)

樹木点検票(個表)の説明用の架空の記入例(当社作成。実際の診断結果ではありません)。様式は国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料 p.27
❶ 上の欄 どの木を、いつ、誰が点検したか

樹木点検票(個表) 上の欄の説明用の架空の記入例(当社作成。実際の診断結果ではありません)
公園名、箇所、点検日時、樹種名、樹木番号、点検者の所属と氏名を書きます。様式の左上に「(定期点検)」とあるとおり、個表は定期点検で使う票です。指針(案)は、点検票を木ごとに作り、木の位置を示した図面と合わせて保存することが望ましいとしています(本文 p.12)。担当者が替わっても、次の点検で前回の記録を確かめられるようにするためで、樹木番号はそのための鍵になります。
❷ 日常点検項目 枯れ枝・ぶら下がり枝・視距の阻害・突出枝

樹木点検票(個表) 点検項目と「重要」の詳細の説明用の架空の記入例(当社作成。実際の診断結果ではありません)
点検項目は、上から日常点検項目、主要項目、その他の項目の3つに分かれています。見つかった項目の「あり」の列に印を付け、その中でも重要なものには「重要」の列にも印を付けます。
日常点検項目の4つは、ふだんの見回りで見る項目で、定期点検でも見ます(p.1・2)。
| 項目 | 見ること(参考資料の解説から) |
|---|---|
| 枯れ枝 | 枯損の規模が大きいなど危険性の高い枯れ枝、下から梢が見えないときは、見通しのよい離れた場所から見る(p.3) |
| ぶら下がり枝 | 折れて落ちずに引っかかっている枝、わずかな風でも落ちるおそれがあり、見つけたら速やかに除去する(p.4) |
| 視距の阻害 | 園路の見通しをさえぎる枝(中低木を含む)、自転車園路の合流部や園路の交差部では衝突のおそれ(p.4) |
| 突出枝 | 園路や広場、階段に張り出し、接触や転倒のおそれのある枝(中低木を含む)(p.5) |
出典: 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料 p.2〜5

枯れ枝とぶら下がり枝(イラストは当社作成)
記入例では、園路の上に張り出した大枝の先の枯れ枝に「あり」と「重要」を付けました。
❸ 主要項目 揺らぎ・傾斜・亀裂・キノコと、活力度
主要項目は、定期点検で加わる項目です。幹を押して揺らぎを確かめ、目で傾斜、亀裂、樹幹・大枝・地際のキノコを見ます(p.1)。キノコは、ベッコウタケやコフキサルノコシカケのような、材を腐らせる力の強い種類を見分けられるようにしておくことが重要とされています(p.7)。

幹を押して、根元からの揺らぎを確かめる(イラストは当社作成)
活力度は、樹勢と樹形をそれぞれ1〜4で評価します。樹勢は、枝の伸び、梢の枯れ、葉の密度・大きさ・色などから総合的に判断し、すべての葉が開いた後に見ないと誤った判定をするおそれがあります(p.8)。樹形は、主幹や骨格となる大枝の枯れや欠け、葉の密度と配置で見て、強い剪定で本来の樹形が大きく損なわれていれば、それも低い評価になります(p.10)。樹勢の欄には「(ナラ枯れ・マツ枯れ)」と添えられていて、参考資料の樹勢の解説には、ナラ枯れとマツ枯れの症状の見分け方も書かれています(p.9)。
様式には、活力度の数字をどこに書くかの指定はありません。当社の記入例では、「あり」の列に数字(樹勢2、樹形2)を書きました。
❹ その他の項目 道路・支柱・舗装・踏圧防止板
木そのものよりも、木の周りの施設との関係を見る項目です。
| 項目 | 見ること(参考資料の解説から) |
|---|---|
| 外周道路の建築限界侵害 | 公園の外の道路にはみ出した枝が、建築限界(車道4.5m、歩道2.5m)を侵していないか(p.10) |
| 支柱の腐朽・損傷・浮上・結束緩み | 支柱がまだ必要かを確かめ、不要なら撤去、必要なら補修や交換、木製の支柱の撤去の目安はおおむね5年経過以降(p.10・11) |
| 支柱の樹幹への食込み | 幹が支柱を巻き込んでいないか、傷んだ所から腐朽が入り、幹折れのおそれ(p.11) |
| 舗装部の根上がり | 根が舗装を持ち上げ、利用者がつまずくおそれ(p.12) |
| 踏圧防止板の損傷・不陸・根元への食込み | 植樹桝の踏圧防止板が浮いたり、根元を傷めたりしていないか(p.12) |
出典: 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料 p.10〜12

舗装の根上がり(イラストは当社作成)
記入例では、北側の園路の舗装が根上がりで持ち上がっていることに「あり」を付け、「重要」は付けませんでした。
❺ 「重要」の場合の詳細
右側の広い欄には、「重要」に印を付けた項目について、写真やスケッチ、状況の説明を書きます。様式には「重要」を付ける基準は書かれていません。指針(案)の本文は、点検項目の重要度の例として、高い所に出た枯れ枝は落ちれば衝撃が大きく、人身事故の原因になりやすいので重要である、と説明しています(本文 p.13)。当社の記入例では、この考え方にならい、落ちたり倒れたりすれば人に当たるおそれのある枯れ枝と、根株の腐朽が疑われるキノコに「重要」を付けて、位置・大きさ・高さを書きました。
❻ 特記事項と箇所図示

樹木点検票(個表) 特記事項と箇所図示の説明用の架空の記入例(当社作成。実際の診断結果ではありません)
特記事項には、点検項目の欄に書ききれないことを書きます。記入例では、活力度の中身(南側の樹冠に小枝の枯れが散らばっている)、根上がりの高さ、その場でとった安全の措置(枯れ枝の下の園路を片側通行止めにした)を書きました。箇所図示には、木の位置が分かる簡単な平面図を描きます。隣の木の番号、園路、ベンチなどを入れておくと、次に点検する人が迷いません。
❼ 点検判定 診断の必要性と、応急的措置の必要性

樹木点検票(個表) 点検判定の説明用の架空の記入例(当社作成。実際の診断結果ではありません)
いちばん下の点検判定は、2つの問いに答える欄です。「診断の必要性」は必要か不要か、「応急的措置の必要性」は必要か不要か不明かを選び、必要なら括弧の中に措置の内容を書きます。
応急的措置は、ぶら下がり枝の撤去や立入禁止など、差し迫った危険を急いで取り除く措置です(本文 p.13)。指針(案)は、点検で見つけた変状のうち、現地で対応できる応急的措置はその場で講じ、応急的措置のあとも長く放っておかず、本格的措置の方針を決めることが望ましいとしています(本文 p.13)。記入例では、枯れ枝の除去を応急的措置とし、キノコの方は、範囲や程度が分からないので診断が必要としました。
樹木点検票(総括表)と、注意すべき実生木

樹木点検票(総括表)と注意すべき実生木。出典: 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料 p.28 より引用(番号と線は当社が付記)

樹木点検票(総括表)の説明用の架空の記入例(当社作成。実際の診断結果ではありません)。様式は参考資料 p.28
総括表は、ゾーンごとに、点検した木を1行ずつ並べた一覧です(❶❷)。樹木番号、樹種名、点検日時、要応急的措置、要診断、点検者を書きます。個表の点検判定で「必要」とした木に印が付くので、どの木を診断に回し、どの木に急ぎの措置が要るかが一目で分かります。
下の「注意すべき実生木」(❸)には、鳥のふんなどで運ばれた種から生えた木のうち、ウルシのようにかぶれなどの被害を及ぼすおそれのある木を記録します。実生木は植えた記録が残らないので樹木台帳に載らず、管理者が気づかないまま見落とし続けるおそれがあるため、点検の中で見つけて記録することが求められています(p.13)。記入例では、北入口の植え込みの中のヤマウルシを書きました。
樹木診断カルテ(1/2) 外観の評価から総合判定まで
樹木診断カルテは、定期点検などで変状や異常が見つかり、その範囲や程度が分からない木について、健全度をより詳しく調べて判定するための記録です(本文 p.6)。1/2 の1枚に、外観診断、機器診断、総合判定、措置と観察の記録が並びます。

樹木診断カルテ(1/2)。出典: 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料 p.29 より引用(番号と線は当社が付記)

樹木診断カルテ(1/2)の説明用の架空の記入例(当社作成。実際の診断結果ではありません)。様式は参考資料 p.29
❶❷ 上の欄 箇所・樹種・樹木番号と、実施日・実施者

樹木診断カルテ 上の欄の説明用の架空の記入例(当社作成。実際の診断結果ではありません)
樹木番号は、点検票と同じ番号を使います。診断は、樹木や機器の専門的な知見と技能を持つ専門技術者を活用して行うことが望ましいとされています(本文 p.8)。記入例では、実施者を「○○(樹木医)」としました。
外観の評価は A〜D の4段階
カルテの外観の項目の右には「判定 □A □B □C □D」が並んでいます。判定の物差しは、参考資料の「Ⅲ 健全度判定に係る外観の評価基準」です。

健全度判定に係る外観の評価基準と活力度の評価基準(出典: 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料 p.25 より引用)
| 評価 | 意味 |
|---|---|
| A | 変状及び異常なし |
| B | 変状及び異常が認められるが、危険性はない |
| C | 危険性を有しているが、すぐには倒伏(、枝折れ)しない |
| D | 非常に高い危険性があり、すぐに倒伏(、枝折れ)するおそれがある |
出典: 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料 p.25
項目によっては、使わない段階があります。たとえば揺らぎは A・C・D だけで B がなく、樹皮枯死・欠損は A・B・C だけで D がありません。カルテの判定の欄も、項目ごとに使える段階の□だけが印刷されています。
❸ 揺らぎ・傾斜・亀裂・子実体(キノコ)

樹木診断カルテ 揺らぎから活力度の説明用の架空の記入例(当社作成。実際の診断結果ではありません)
どの項目も「□なし □あり(部位: )」に印を付け、ありなら部位を書いて、判定を選びます。
| 項目 | D になるとき(参考資料の解説から) |
|---|---|
| 樹幹の揺らぎ | 根元部分から揺らぐ、または根株や植え桝と土壌に隙間などがある(p.6) |
| 樹幹の不自然な傾斜 | 根元からの傾斜で、地際の周りの舗装の亀裂や異常な盛り上がりがある、または樹体の揺れがある、根付きに異常がなければ B(p.6) |
| 樹幹の亀裂 | 樹体の存立に明らかに影響があるような規模(p.7) |
| 子実体(キノコ) | キノコはすべて C 以上、ベッコウタケ、コフキサルノコシカケなど腐朽力の強いキノコや、剪定などでは対処できないほどの腐朽があれば D(p.8) |
出典: 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料 p.6〜8
記入例では、地際の北側にベッコウタケが出ているので、子実体を「あり」、判定を D にしました。ベッコウタケは根株の心材を腐らせるキノコです(p.8)。キノコが1つでも出ていれば C 以上、種類によっては D、という決まりなので、キノコの欄は、カルテを受け取った方がまず確かめたい欄のひとつです。

ベッコウタケは地際にキノコが出て根株の心材を、コフキタケは幹の心材を腐らせる(幹と根株の縦断面の模式図。イラストは当社作成)
❹ 活力度 樹勢と樹形
点検票と同じ1〜4の物差しで、□に印を付けます。樹勢は1 良い、2 少し悪い、3 悪い、4 枯死、樹形は1 望ましい樹形を保っている、2 樹形に乱れがある、3 樹形が著しく乱れ回復の見込みが低い、4 望ましい樹形が完全に崩壊している、です(p.25)。活力度の数字も、あとで総合判定に使います。
❺ 開口空洞から貫入異常まで 詳しく見る9つの項目

樹木診断カルテ 開口空洞から貫入異常の説明用の架空の記入例(当社作成。実際の診断結果ではありません)
ここからは診断で加わる項目で、目で詳しく見る項目、木槌でたたく打診、鋼棒を刺す貫入で確かめる項目です(p.1)。
| 項目 | 判定の目安(参考資料の解説から) |
|---|---|
| 開口空洞(芯に達した/達しない) | 芯に達しない B、芯に達し周囲長比率1/3未満 C、1/3以上 D、開口角度120度以上(周囲長の1/3以上)で幹折れの危険が高まる(p.14) |
| 樹幹の隆起 | 幹周全体または根元に出ていれば D(p.15) |
| 腐朽部露出 | 周囲長比率1/3未満 C、1/3以上 D、範囲が分からなければ機器診断(p.16・17) |
| 樹皮枯死・欠損 | 周囲長比率1/3未満 B、1/3以上 C、腐朽があれば腐朽部露出として評価(p.17) |
| 結合部の変状及び異常 | 入り皮など、強風などで被害が出る危険性の高いものは D(p.18) |
| 穿孔害虫等 | 枯損の兆候が見られれば C、クビアカツヤカミキリを確認したら速やかな措置(p.18・19) |
| 根張り(ルートカラー) | 見えなければ C、地際を掘って根株の材を確かめる(p.19) |
| 打診音異常 | 異常が広い範囲に及べば D(p.20) |
| 貫入異常 | 鋼棒で地際を刺す、異常が芯に達しているか、掘って広い範囲の腐朽が見つかれば D(p.21) |
出典: 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料 p.14〜21

木槌で幹をたたき、音で内部の状態を推し量る(イラストは当社作成)

鋼棒を地際に刺して、腐朽を確かめる(イラストは当社作成)
記入例では、キノコの出ている地際の北側で、樹皮の欠けが周囲の約6分の1(B)、狭い範囲の打診音の異常(C)、鋼棒が約6cm入る貫入異常(C)としました。キノコと同じ場所に、打診と鋼棒の異常が重なっている、という書き方です。項目ごとに部位を書いておくと、異常がどこに集まっているかが読み取れます。

サクラの外観診断で見るところ(イラストは当社作成)
❻ 枯れ枝から踏圧防止板まで 判定の欄のない項目

樹木診断カルテ 枯れ枝から判定の説明用の架空の記入例(当社作成。実際の診断結果ではありません)
枯れ枝とぶら下がり枝は、部位と、本数、最大の枝の太さ(枝径)を書きます。外周道路の建築限界侵害、支柱、舗装部の根上がり、踏圧防止板は、なし・ありに印を付けます。これらの項目には A〜D の判定の欄がありません。総合判定の物差しになるのは、❸と❺の13項目と、❹の活力度です。
❼ 判定 機器診断の必要性と、応急的措置の必要性
外観診断のまとめとして、機器診断が必要か、応急的措置が必要かを選びます。記入例では、地際の腐朽がどこまで広がっているかを確かめるために機器診断を「必要」とし、園路の上の枯れ枝はすでに除去したので、応急的措置は「不要」としました。
❽ 機器診断

樹木診断カルテ 機器診断の説明用の架空の記入例(当社作成。実際の診断結果ではありません)
機器診断の欄には、実施日、診断書の番号、実施者、実施方法、診断結果、判定、判定理由を書きます。診断結果は、測った高さを地面からの高さ(GL ○m)で2か所書けるようになっています。参考資料は、診断に使う主な機器として、γ線透過量測定機、弾性波速度測定機、貫入抵抗値測定機を挙げ、それぞれの利点と欠点を表にしています(p.22)。機器の種類と考え方は樹木の精密診断(機器診断)とはで解説しました。
判定は「本格的措置は不要」「本格的措置が必要」「経過観察が必要」から選びます。記入例では、当社が使う弾性波速度測定機のピカス(音響トモグラフ)で測った想定で、地際(GL 0.3m)の腐朽が約30%、地上1.2mでは腐朽なし、として、「本格的措置が必要」と「経過観察が必要」の両方に印を付けました。
❾ 総合判定 A 健全・B 健全に近い・C 要注意・D 危険木

樹木診断カルテ 総合判定の説明用の架空の記入例(当社作成。実際の診断結果ではありません)
総合判定は、外観の評価と活力度、機器診断の結果を合わせて、4段階で決めます。決まり方は「Ⅴ 総合判定基準」(p.26)にあります。

総合判定基準(出典: 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料 p.26 より引用)

総合判定の決まり方(国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料 p.25・26 をもとに当社作図。右下の N-12 は当社の説明用の架空の記入例)
総合判定は、外観の13項目と活力度のうち、いちばん悪いものに合わせて決まります。外観に C か活力度に 3 があれば C 要注意、外観に D か活力度に 4 があれば D 危険木です。ただし、外観に D があっても、機器による診断で腐朽面積が幹断面積の50%未満であれば C になります(p.26)。腐朽面積の割合はγ線透過量測定機で算定でき、ほかの機器を使う場合はこれに相当する判定値で代えるとされています(p.26 注1)。
記入例の N-12 は、外観の子実体が D でしたが、機器診断で地際の腐朽が約30%で50%未満だったため、総合判定は C 要注意になります。C の措置等の目安は「本格的措置を行い、経過を観察するが、周辺の条件に支障があれば伐採する」です。D でも、樹体の状況により専門技術者が再生可能と判断した場合は本格的措置と経過観察、歴史的価値の高い木や名木などは伐採以外の対応も含めて慎重に検討する、とされています(p.26)。
判定理由と総合所見の欄には、どの項目のどの評価から、なぜその判定になったかを書きます。カルテを受け取った方にとっては、判定の記号よりも、この2つの欄のほうが大事です。記号だけが書かれて理由が空いているカルテは、どこが問題なのかが読み取れません。
❿ 本格的措置の必要性・内容と、経過観察の内容
本格的措置は、樹勢回復や伐採など、変状や異常の原因を根本から取り除く措置です(本文 p.13)。カルテには、撤去、植替え、危険部位除去、剪定、支柱補修・撤去、踏圧防止板補修・撤去、土壌改良、施肥、薬剤処理、その他の□が並んでいます。経過観察の内容には、次回点検の時期と内容を書きます。経過観察する木の次回の点検時期は、定期点検の頻度に準ずることが望ましいが、変状や異常の程度に応じて増やすことも考えられる、とされています(本文 p.14)。
記入例では、危険部位除去(枯れ枝3本)、剪定、土壌改良に印を付け、次回点検を「2027年6月に診断(外観と機器)」としました。指針(案)は、措置のための剪定が過度な強剪定になったり、根上がり対策の工事が植栽基盤を小さくしたりして、木の健全度を損なわないよう留意することも求めています(本文 p.13)。
⓫⓬ 本格的措置の実施記録と、観察の実施記録

樹木診断カルテ 実施記録の説明用の架空の記入例(当社作成。実際の診断結果ではありません)
措置を実際に行った日と内容、その後の観察の日と所見を、同じカルテに書き足していきます。診断から措置、観察までが1枚にまとまるので、担当者が替わっても、この木にいつ何をしたかが追えます。記入例では、7月8日〜9日に行った措置の内容を書き、観察の欄は次の観察で書く欄として空けています。
樹木診断カルテ(2/2) 立地平面図・樹木全景・措置の前後の写真

樹木診断カルテ(2/2)。出典: 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料 p.30 より引用(番号と線は当社が付記)

樹木診断カルテ(2/2)の説明用の架空の記入例(当社作成。実際の診断結果ではありません)。様式は参考資料 p.30
2/2 は図と写真のページです。⓭の立地平面図には木の位置と周りの園路・施設を、樹木全景には木の全体の写真を貼ります。⓮の本格的措置部位写真は、措置の前と後を並べる欄です。同じ位置から撮っておくと、何をどれだけ変えたかが比べられます。⓯のその他特記事項には、1/2 に書ききれなかった経緯を書きます。記入例では、定期点検で見つけてから応急的措置をとるまでの経緯と、同じ列の木も次の定期点検で地際を重点的に見ることを書きました。
東京都の街路樹診断カルテとの違い
| 見るところ | 国 都市公園(指針(案)参考資料) | 東京都(令和3年度 街路樹診断等マニュアル) |
|---|---|---|
| 点検と診断の様式 | 点検は樹木点検票、診断は樹木診断カルテ | 点検は樹木点検表、外観診断と機器診断は街路樹診断カルテ |
| 外観の評価 | 13項目ごとに A〜D | 根元・幹・骨格となる大枝の部位ごとに判定し、外観診断判定 A・B1・B2・C |
| 活力 | 樹勢・樹形 1〜4 | 樹勢・樹形 1〜5 |
| 総合判定 | A 健全・B 健全に近い・C 要注意・D 危険木 | A・B1・B2・C(C が最も悪い) |
| 機器診断の数字 | 腐朽面積/幹断面積(50%で C と D が分かれる) | 腐朽空洞率・t/R率 |
| 措置と記録 | 本格的措置の内容、経過観察(次回点検)、実施記録、措置前後の写真 | 処置の内容と時期、次回診断の時期 |
| 記入例 | 無し(空欄の様式) | あり |
出典: 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料 p.25〜30、東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」
いちばん大きな違いは、判定の記号の意味です。国の都市公園の C は「要注意」で、その下に D 危険木がありますが、東京都の C は4段階のいちばん悪い「不健全」です。東京都のカルテの読み方は街路樹診断カルテ(外観診断)の読み方で解説しています。
カルテを受け取ったら、確かめたいこと
- 樹木番号が、点検票と診断カルテで同じか(同じ木の記録がつながっているか)
- 外観の評価で D や C が付いた項目はどれか、その部位はどこか
- 総合判定の判定理由に、どの項目のどの評価から判定したかが書かれているか
- D の項目があるのに総合判定が C の場合、機器診断の結果(腐朽の割合)が書かれているか
- 本格的措置の内容と、次回点検の時期と内容が書かれているか
- 措置のあとに、実施記録と措置前後の写真が書き足されているか
指針(案)は、樹木の維持管理は健全度を保つことが第一で、変状や異常が見つかった木をみだりに伐採せず、再生する可能性を念頭に措置を検討することが望ましいとしています(本文 p.4)。カルテは、伐るか残すかを記号だけで決めるための書類ではなく、木の状態と、措置と観察の経過を、次の担当者へ引き継ぐための記録です。
点検・診断のご相談、仕様書づくり、イラストの使用について
当社の樹木診断は、診断して判定を出すところで終わりません。判定に合った剪定や支柱、植栽基盤の改善といった処置、その後の経過観察や長期の管理計画まで、同じ樹木医が一貫してお受けしています。カルテの結論を「次に何をするか」までつなげたい管理者の方は、ご相談ください。
また、自治体・行政の方からの、樹木点検や樹木診断の仕様書・点検要領の作成に関するご相談にも対応しています。この記事に載せた当社の透かし入りのイラストを、仕様書や説明資料などに使用されたいご希望があれば、あわせてお問い合わせページからお知らせください。
よくある質問(Q&A)
Q1. 都市公園の樹木点検票と樹木診断カルテは、どこで入手できますか?
A. 国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」の参考資料(p.27〜30)に載っています。国土交通省のページでは、樹木点検表と樹木診断カルテ、外観の評価基準の Word 版も公開されています。記入例は載っていません。
Q2. 樹木点検票の「あり」と「重要」は、どう違いますか?
A. 「あり」はその変状や異常が見つかったこと、「重要」はその中でも特に注意が必要なものに付けます。「重要」を付けた項目は、右の欄に写真やスケッチ、状況の説明を書きます。様式に「重要」の基準は書かれていませんが、指針(案)は、高い所の枯れ枝は落ちれば人身事故の原因になりやすいので重要である、という例を挙げています。
Q3. 外観の評価に D があるのに、総合判定が C になるのはなぜですか?
A. 指針(案)の総合判定基準では、外観の評価に D があっても、機器による診断で腐朽面積が幹断面積の50%未満であれば、総合判定は C(要注意)になります。50%以上なら D(危険木)です。機器診断の結果は、カルテの機器診断の欄と判定理由で確かめられます。
Q4. 総合判定が D(危険木)なら、必ず伐採するのですか?
A. 措置等の目安は「伐採する」ですが、樹体の状況により専門技術者が再生可能と判断した場合は、本格的措置を行い経過を観察するとされています。歴史的価値の高い木や名木などは、伐採以外の対応も含めて慎重に検討することになっています。
Q5. 樹木診断カルテのキノコの欄は、どう判定されますか?
A. 参考資料の評価基準では、キノコの発生を認めたときはすべて C 以上とし、ベッコウタケやコフキサルノコシカケなど腐朽力の強いキノコや、剪定などでは対処できないほどの腐朽がある場合は D とします。D の場合は、必要に応じて機器による診断の対象になります。
出典・参考情報
国土交通省 都市局 公園緑地・景観課「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」(平成29年9月策定、令和8年3月30日改訂)本文と参考資料(国土交通省のページ)。
東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」。
樹木点検票・樹木診断カルテ・評価基準の画像は、参考資料のページを加工せずに引用し、左右の番号と線だけを当社が付けました。説明用の記入例は、同じ様式に当社が架空の木(ソメイヨシノ N-12)で記入したもので、実在の公園・樹木の診断結果ではありません。総合判定の決まり方の図は、参考資料をもとに当社が作図しました。国土交通省の資料は公共データ利用規約(第1.0版)に従って利用しています。
記事中のイラストは、株式会社トシ・ランドスケープの説明用イラストです。点検・診断の内容は上記の資料で確かめて描いていますが、絵は説明のための簡略化です。
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株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊





















