レジ(Resi PD)の腐朽診断カルテには、波形グラフ、想定断面図、t/R率、腐朽空洞率、所見など9つの欄があります。実際のカルテ(ヤマモモ、腐朽空洞率23.2%)を使い、東京都の街路樹診断等マニュアルに沿って、1つずつ読み方を樹木医が解説します。
機器診断の結果を受け取った管理者の方から、「グラフが何本も並んでいて、どこを見ればいいのか分からない」と言われることがあります。カルテは1枚の紙に多くの情報が詰まっていますが、欄の順番には意味があり、上から順に読むと、どの木を、どこで、どう測り、何が分かったのかが1本の線でつながります。この記事では、当社が実際に作ったヤマモモのカルテを1枚取り上げ、欄ごとに番号を振って読んでいきます。木の名前や場所、診断した人の名前は伏せ、写真の背景はぼかしています。様式は、東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」の腐朽診断カルテ(レジ)と同じです(同マニュアル p.59)。以下、ページ番号はこのマニュアルのものです。

カルテの見取り図
このカルテが出てくるのは、外観診断で機器診断が必要とされた木
レジの腐朽診断カルテは、すべての木に付くものではありません。外観診断で、幹や根元、大枝に腐朽や空洞が広がっていると考えられた木にだけ行う機器診断の記録です(p.43、p.51)。外観診断で何を見ているかは、樹木医は街路樹診断で何を見ているか(前編)に書きました。

レジ(Resi PD)による穿孔抵抗の測定
東京都の街路樹診断では、機器診断は貫入抵抗測定器(製品名 レジ)によるものが基本です。軸径1.5mm、先端幅3.0mmの細いキリを回転させながら幹に入れ、入るときの抵抗の高低から材の腐朽や空洞の状態を読み取ります(p.51)。腐朽診断では、キリを水平に入れて測ります(p.52)。カルテは、1本の木の、1つの高さの断面につき1枚です。同じ木でも高さを変えて測れば、カルテはその分だけ増えます。
❶❷ 基本情報と、測った位置・機器

基本情報と測定高さ
❶ 基本情報 どの木のカルテか
いちばん上の欄には、路線名、樹木医名、診断日、樹木番号、樹種名、樹高、幹周、枝張が並びます(p.56)。樹木番号は外観診断のカルテと同じ番号で、どの木の機器診断なのかをここで対応させます。この記事では、路線名・樹木医名・診断日・樹木番号を空欄にしています。

樹高と幹周と枝張
このカルテの木はヤマモモで、樹高15.0m、幹周244cm、枝張10.0mです。幹周は地上1.2mの高さで測ります(p.6)。ヤマモモは、幹周30cm以上で街路樹診断の対象になる樹種の一つに挙げられています(p.12)。樹種名は、診断の手順にも関わります。マニュアルには樹種ごとの材の硬さの区分があり、硬い材か軟らかい材かでキリの進む速さを調整します(p.51、p.55)。ヤマモモは硬い材に区分されています。
❷ 測定高さ・測定直径・機種名 どこを、何で測ったか
測定高さは、この断面を測った地上からの高さで、このカルテは0.5mです。根元に近い所の断面を測っています。測定直径は十字の2方向の直径で、↕が84cm、↔が72cmと書かれています。同じ高さでも方向によって12cm違い、この幹の断面は円ではなく楕円に近い形です。機種名は IML PD500、当社が使っている IML 社のレジです。

楕円の幹と十字の測定線
マニュアルでは、断面が楕円の幹で、長い方の径が短い方の1.5倍以上ある場合は、健全な部分の厚みも考える必要があるとして、その旨を所見に書くことになっています(p.57)。このカルテは84÷72で約1.17倍なので、その扱いには当たりません。
❸ 測定位置写真 十字の4方向から測る

測定高さと4方向の測点
写真の欄には、①〜④の4枚の写真が並び、赤い点が針を入れた位置です。どの方向から、幹のどこに針を入れたかが、写真で分かるようにしています。マニュアルでも、測定位置が分かる写真を貼ることになっています(p.56〜57)。この記事に載せたカルテでは、場所が分からないように、幹の周りの背景をぼかしています。

十字方向の4本の測定線
測る方向は、おおむね十字の4か所です。健全な材が薄くなっている所を捉えられるように、1方向ではなく4方向から入れます。芯に達する空洞の口が大きいなどで4方向が難しい場合は、3方向でもよいとされています(p.51)。
❹ 測定結果 波形グラフの読み方
カルテの下半分を占めるのが、4方向の波形グラフです。ここが機器診断の生のデータで、ほかの欄の数字はすべてここから読み取っています。

針が通る断面
グラフは右から左へ読む
横軸は樹皮からの深さ(cm)、縦軸は抵抗の大きさです(p.51)。右端の0cmが針の入口で、左へ行くほど深くなります。普段見慣れたグラフとは逆向きなので、まずここで戸惑う方が多い所です。右端の◀がデータの開始、左の▶がデータの終点です。抵抗が高い所は材が硬く詰まった健全な部分、低い所や波形が出ない所は腐朽や空洞と判断します。腐朽が進んでいる途中の材は、その中間の高さの波形になります(p.51〜52)。

波形1の読み方
bark・intact・decay の区切り
波形の上の帯は、樹木医が波形を読んで引いた区切りです。bark が樹皮、青い帯の intact が健全な材、赤い帯の decay が腐朽・空洞です。このカルテの方向①は、樹皮1.0cmのあと健全な材が17.5cmあり、深さ18.5cmのあたりで抵抗が急に落ちます。そこから先は低い線が深さ約34cmまで続いて終わり、▶ データの終点は幹の中心(直径84cmの半分の42cm)に置かれています。decay 23.5cmは、健全な材が終わった18.5cmから中心の42cmまでの長さです。
未計測部は異常部と判断
グラフの左側には「未計測部は異常部と判断」と書き込まれています。波形が終わった所から幹の中心までは測っていない、その部分を腐朽・空洞として扱った、という意味です。マニュアルでは、機器で測れなかった部分は、想定断面図に点線で書いたうえで、測った人が状態を判断することになっています(p.57)。手前の十数cmで抵抗がほとんど出ていないことから、その奥も健全とは考えにくい、という判断です。
緑と青、2本の線
波形が2色で描かれているのは、当社のレジ(PD シリーズ)が2種類の抵抗を同時に記録しているからです。IML 社の資料では、緑が回転抵抗(針を回す力)、青が送り力(針を押し込む力)です。同じ資料には、深く進むほど削りくずが針の軸にまとわりつき、回転抵抗にはその摩擦が加わって上がりやすいこと、送り力はその影響が小さく、腐朽の初期を見つけやすいことが書かれています。このカルテの方向①で、深さ18.5cmから先の青がほぼ0なのに緑だけが低く残っているのは、その説明に合う形と考えられます。当社では、2本の線を見比べて、腐朽の境目を読んでいます。マニュアルでも、PD 型は回転抵抗に加えて前進抵抗を記録するので、材の状態をより詳しく把握できるとされています(p.52)。
4方向を並べて読む

4方向の読み取り
4本の波形から読んだ長さを並べると、上の図のようになります。健全な材は、①17.5cm、②13.5cm、③26.5cm、④21.0cm。4方向とも、外側に十数cmから二十数cmの健全な材があり、その内側、中心の周りが傷んでいます。方向③は、深さ28cmで抵抗が落ちたあと、30〜36cmにもう一度中くらいの山があります。これは腐朽の途中に部分的に残った材で、外側の健全な材とはつながっていないため、カルテでは28cmから中心までを腐朽・空洞(decay 14.5cm)の側に含めています。
❺ 想定断面図 波形を、上から見た断面に写す

想定断面図
想定断面図は、波形から読んだ異常な部分を、十字の線の上に太い線で書き写したものです。方向の目印も書き込み、機器で測れなかった部分は点線で書いたうえで、測った人が状態を判断することになっています(p.57)。このカルテでは、4本の太線が中心の近くだけにあり、外側には白い健全な材が残っています。中心の小さな赤い点線の円が、凡例の「未測定部分」で、波形が終わったあと中心までの、異常部と判断した範囲です。断面図の外の「園内」「車道」は周りの条件で、どちら側に健全な材が残っているかを、立地と合わせて読むために書いています。
想定断面図は、あくまで4本の線から推し量った断面です。線と線の間がどうなっているかは測っていないので、太線どうしをつないだ形が、そのまま空洞の形とは限りません。
❻❼ 2つの数字 t/R率と腐朽空洞率
❻ t/R率 残っている健全材の厚さの割合

t/R率の計算
t/R率は、各方向の半径(R)に対して、残っている健全な材の厚さ(t)の割合です(p.57)。R も t も樹皮を含めないので、R は直径の半分から樹皮の厚さを引いた長さになります。①なら、17.5÷(84.0÷2−1.0)=17.5÷41.0=0.427。カルテの t/R率の欄には、この計算式がそのまま書かれています。4方向の結果は、①0.427、②0.391、③0.646、④0.600でした。
マニュアルには、t/R率が0.3未満になると倒木が発生する可能性が高くなる、という目安が書かれています(p.58)。このカルテは4方向とも0.3以上で、この目安は下回っていません。

腐朽空洞率とt/R率の比較
同じページには、空洞が片側に偏っている場合の注意もあります。最も薄くなっている部分の健全材の厚さを t、空洞の中心から最も近い幹の表面までを R として考える方法もあるが、その場合は測定半径を R とするより t/R率が大きくなり、危険性を低く評価してしまうことに留意する、という内容です(p.58)。数字の出し方ひとつで、同じ木の評価が甘くも辛くもなるということです。
❼ 腐朽空洞率 断面のうち、異常な部分の面積の割合

腐朽空洞率
腐朽空洞率は、測った断面の面積に対する、異常な部分の面積の割合です。レジで測る場合は、断面も異常な部分もほぼ円形だと仮定して、異常な部分の長さの合計を、測定した直径の合計で割り、それを二乗して面積の比に近い値を出します。式は {(A+B)÷(a+b)}² です(p.57)。このカルテでは、縦の直径から樹皮を除いた a が82.0cm、そのうち腐朽の A が38.0cm、横の b が69.5cm、腐朽の B が35.0cm。(38.0+35.0)÷(82.0+69.5)=0.482、その二乗で0.232、腐朽空洞率23.2%です。この A と B には、未計測部として異常部と判断した長さも入っています。

円と仮定した空洞と実際の空洞
ここで気をつけたいのは、この数字が「円だと仮定した」近似だという点です。実際の空洞は円とは限らず、腐朽空洞が大きく変形しているほど、計測の差が大きくなり、形によっては過大にも過小にもなります(p.52)。マニュアルも、レジが直接測っているのは健全な材の厚さで、t/R率を算出し、腐朽空洞率は参考値として出す、と書いています(p.56)。2つの数字は、いつも並べて読みます。
❽❾ 所見と凡例
❽ 所見 数字を、言葉で読む
所見の欄には、t/R率と腐朽空洞率から読み取ったことを書きます。t/R率が0.3未満、または腐朽空洞率が50%以上の場合は、腐朽の具合を詳しく書き、50%以上で波形の健全と腐朽の境が分かりにくい場合は、どう読んだかの根拠も書くことになっています(p.58)。
このカルテの所見は、「腐朽空洞率は23.2%で、やや大きな異常値が検出された。t/R率については測定方向①②③④ともに0.3以上であったが、根元に芯達の開口空洞等複数被害がみられるため、被害の進行に注意し、継続観察が必要である。」です。この所見は、カルテを読むうえで大切なことを示しています。機器診断の数字だけを見れば、t/R率は目安を上回り、腐朽空洞率も50%よりかなり低い。それでも、外観で見つかった根元の芯に達する開口空洞などの被害を合わせて、経過を見続ける必要があると判断しています。数字の評価から、次に何をするかまでを書くのが所見の役目です。
❾ 凡例
いちばん下の凡例には、▶がデータの終点、赤い帯が腐朽(空洞)部、bark が樹皮、intact が健全、decay が腐朽(空洞)、◀がデータの開始、と書かれています。波形の読み方に迷ったら、ここに戻ります。
カルテを受け取ったら 数字は判定の材料のひとつ

目安との位置
総合判定で使う腐朽空洞率の参考基準値は、A が10%未満、B1 が10%以上30%未満、B2 が30%以上50%未満、C が50%以上です(p.66)。このカルテの23.2%は B1 の範囲に入り、t/R率は4方向とも0.3以上です。
ただ、マニュアルは、機器診断の数字だけで総合判定を出してはいけない、としています。外観診断の結果、t/R率、木の形状比、樹冠の形、根系、立地環境を合わせて判断し、判定の理由を書く(p.65〜66)。このカルテの所見が、数字は目安の内側にありながら、根元の被害を理由に継続観察を求めているのは、その考え方どおりです。カルテは、木の中を数字で見せてくれる道具ですが、その数字をどう使うかを決めるのは、木と周りの条件を見た人の判断です。
機器診断から総合判定、フォローアップ診断までの流れは、街路樹診断の記事の後編に書きました。根株診断のカルテは、地際から斜めに針を入れるため、俯角や補正直径といった欄が加わります。こちらは「レジ(Resi PD)の根株診断カルテの読み方」で、実際のカルテをもとに読み方を書きました。
診断のご相談、仕様書づくり、イラストの使用について
当社の樹木診断は、診断して判定を出すところで終わりません。判定に合った剪定や支柱、植栽基盤の改善といった処置、その後の経過観察や長期の管理計画まで、同じ樹木医が一貫してお受けしています。診断の結果を「次に何をするか」までつなげたい管理者の方は、ご相談ください。
また、自治体・行政の方からの、樹木診断の仕様書や点検要領の作成に関するご相談にも対応しています。この記事に載せた当社の透かし入りのイラストを、仕様書や説明資料などに使用されたいご希望があれば、あわせてお問い合わせページからお知らせください。
よくある質問(Q&A)
Q1. レジの診断カルテには何が書かれていますか?
A. 1本の木の1つの高さの断面について、基本情報(樹種・樹高・幹周・枝張など)、測定高さ・測定直径・機種名、測定位置写真、4方向の波形グラフ、想定断面図、t/R率、腐朽空洞率、所見、凡例が書かれています。東京都建設局の令和3年度 街路樹診断等マニュアルの腐朽診断カルテ(レジ)の様式で、外観診断で機器診断が必要とされた木について作ります。
Q2. レジの波形グラフはどう読みますか?
A. 横軸が樹皮からの深さ、縦軸が抵抗の大きさで、右端の0cmが針の入口なので右から左へ読みます。抵抗が高い所は健全な材、低い所や波形が出ない所は腐朽や空洞です。波形の上の帯は、bark が樹皮、intact が健全、decay が腐朽・空洞の範囲を示します。PD シリーズの波形は2色で、IML 社の資料では緑が回転抵抗、青が送り力です。
Q3. t/R率とは何ですか?
A. 各方向の半径(R)に対して、残っている健全な材の厚さ(t)の割合です。R も t も樹皮を含めず、R は直径の半分から樹皮の厚さを引いた長さです。東京都のマニュアルには、t/R率が0.3未満になると倒木が発生する可能性が高くなるという目安が示されています。0.3以上であっても、外観診断で見つかった被害と合わせて判断します。
Q4. 腐朽空洞率はどうやって計算しますか?
A. 断面も異常な部分もほぼ円形だと仮定し、異常な部分の長さの合計(A+B)を、樹皮を除いた測定直径の合計(a+b)で割って二乗します。例えば A=38.0cm、B=35.0cm、a=82.0cm、b=69.5cm なら、(73.0÷151.5)の二乗で23.2%です。円だと仮定した近似なので、空洞の形によっては過大にも過小にもなり、東京都のマニュアルでは参考値として扱います。
Q5. 腐朽空洞率が低ければ、木は安全ですか?
A. 数字だけでは決まりません。東京都のマニュアルの参考基準値では、腐朽空洞率がA は10%未満、B1 は10%以上30%未満、B2 は30%以上50%未満、C は50%以上ですが、総合判定は外観診断の結果、t/R率、木の形状比、樹冠の形、根系、立地環境を合わせて出します。腐朽空洞率が低く t/R率が0.3以上でも、根元に芯に達する開口空洞などがあれば、継続して経過を見ることがあります。
出典・参考情報
東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」第Ⅲ章 1 診断実施に当たって(p.12)、2 外観診断(p.43)、3 機器診断(p.50〜59。様式Ⅲ-3・1 腐朽診断カルテ(レジ)記入例 p.59)、4 総合判定(p.64〜67)。本文のページ番号はすべて同マニュアルのものです。
IML社「Measured Variables of IML-RESI PowerDrill」(2023年。PDF)。回転抵抗(Drilling resistance)と送り力(Feed force)の表示色と、軸の摩擦の影響。
記事中のカルテは、株式会社トシ・ランドスケープが作成した腐朽診断カルテ(レジ)です。木の名前・場所・診断日・診断者の名前を伏せ、写真の背景をぼかしています。図は、このカルテの数字をもとに当社が作りました。イラストは当社の説明用イラストで、説明のために簡略化しています。
※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。
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樹木医 中村雅俊









