【マテック博士と VTA 法 第4回】VTAで幹の膨らみと亀裂を読む──bulge wood、shear crack、hazard beam crack、banana crackがどんな力で生じるかを樹木医が解説

VTA 症状 幹の膨らみ 亀裂 せん断 hazard beam banana crack 図解

マテック(Mattheck)氏のVTA(Visual Tree Assessment)で症状として読む、幹の膨らみと亀裂を取り上げます。bulge wood、shear crack、hazard beam crack、banana crackがどんな力で生じるのかを、論文と行政の資料をもとに樹木医が図で整理しました。

マテック博士とVTA法の連載の第4回です。第3回では、VTAが「症状を見る、疑わしければ詳しく調べる、欠陥の大きさを測って評価する」という流れの診断法であることを見ました。今回から2回に分けて、その最初の段階で読む「症状」を取り上げます。今回は幹の膨らみと亀裂、次回は腐朽と菌、根元、枝のつけ根です。マテック氏の研究所(現在のKIT)が公開している症状の図と論文を、東京都と国の資料と読み合わせて紹介します。

先に答え

  • VTAでは、幹の膨らみや亀裂を「樹木が力の偏りに応えた跡」として読みます。欠陥のために一部の応力が高くなると、樹木はそこに材を足して応力を均そうとし、その足した材が外から見える症状になる、という考え方です。
  • KITが2018年に公開した症状の図には、bulge wood(幹の膨らみ)、shear bomb crack と separation shear crack(根元のせん断の亀裂)、hazard beam crack、banana crack などの名前が並びます。図に定義の文はありません。
  • shear crack(せん断の亀裂)は、幹が横から曲げられたとき、風の向きと直角の面に入る縦の亀裂で、多くは髄を通ります。マテック氏らは、空洞の幹の破壊は縦のせん断亀裂から始まるとし、断面がつぶれて割れるとする別の研究もあります。
  • hazard beam crack は、曲がった大枝などが曲がりを伸ばす向きに曲げられ、中ほどの髄の面で割れる亀裂です(KITの図では根張りの付け根にも描かれています)。banana crack は、曲がった幹や枝を曲がりに逆らって曲げたとき、縦に押される凸側に開く縦の亀裂です。
  • 日本の資料には「VTA」の語はありませんが、亀裂は「幹が裂ける途中段階」、横方向の亀裂は「折損の危険が切迫している兆候」、幹の隆起は内部の空洞・腐朽を疑う手がかりとして扱われています。
VTA 症状 幹の膨らみ 亀裂 せん断 hazard beam banana crack 図解
この回で取り上げる症状の位置。幹の膨らみ、幹の縦の亀裂、根元のせん断の亀裂、曲がった大枝の側面の亀裂、曲がった枝の下側の亀裂(イラストは当社作成)

 

膨らみと亀裂は「樹木の返事」──補修のための成長という考え方

第2回で見たように、マテック氏の研究の土台は「樹木は表面の応力が均一になるように形をつくる」という一様応力の公理です。マテック氏とベトゲ氏は1993年の論文で、この考え方をVTAにつなげて次のように説明しています。腐朽や亀裂などの欠陥で応力の均一な状態が崩れると、樹木は補修のための成長で均一な状態を取り戻そうとする。その補修のための成長は、力学的な欠陥があることの警告であり、症状である。

同じ論文には、凍裂などの亀裂は外側のリブ(rib、カルスの盛り上がり)の形成で示され、多くの場合、外から見えるリブの向きから亀裂の向きが分かる、とも書かれています。研究所が1995年にまとめた機器の報告書にも、リブの後ろにある亀裂を音の測定で確かめ、おおよその大きさをつかむ図が載っています。VTAでは、膨らみやリブを、傷んだ所を樹木が補っている跡として読みます。

補修のための成長 リブ 膨らみ 年輪 亀裂 腐朽 一様応力 断面図
補修のための成長の模式図。亀裂の外側では年輪が厚く付いてリブ(盛り上がり)になり(左)、内部の腐朽の周りでは年輪が厚くなって幹が膨らむ(右)(当社作成の図)

bulge wood──幹の膨らみ

KITのポスター「VTA – Symptoms」(マテック氏、ベトゲ氏、ヴェーバー(Weber)氏、2018年)は、1本の樹木の絵に24の症状を描き込んだものです。その8番目が bulge wood で、幹の下部が帯状に太った形で描かれています。

bulge wood の定義をそのまま書いた一次資料は、まだ確かめられていません。前の節の考え方で読むと、幹の内部で材が失われ、残った外側の材に応力が集まると、樹木はそこに年輪を厚く足し、幹が局所的に太ります。膨らみは、その内側を疑う手がかりです。

日本の資料にも、同じ方向の記述があります。東京都の街路樹診断等マニュアルは、木槌打診で異常音を聞き分けるとき、「異常音発生箇所周辺部の膨らみ」にも注意するよう書いています。国総研の『街路樹の倒伏対策の手引き 第2版』は、外観診断で見る弱点に「隆起やこぶ」を挙げ、弱点「大」の隆起を「隆起した幹内部に断面の50%以上の空洞・腐朽が推測される」としたうえで、樹幹の異常な隆起を、腐朽の機器診断に進む理由のひとつにしています。国土交通省の都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)の参考資料も、樹幹の隆起を、内部の大規模な腐朽や空洞に対して樹木が材を多く生長させて補強した結果の膨らみと説明しています。国総研や国交省の「隆起」とVTAの bulge wood は、同じ現れを指していると私は読んでいます。

幹の膨らみ 隆起 木槌 打診 外観診断 樹木医 図解
幹の下部の膨らみ。膨らみの周りは、打診の音の変わり目を探すように叩き分ける(イラストは当社作成)

shear crack──本のページがずれるように割れる

次は亀裂です。マテック氏の研究所でまとめられた博士論文(Dietrich 1995)は、樹木の亀裂を原因ごとに整理しています。その中で、幹の形と力から生じる亀裂の最初に挙げられているのが、せん断の亀裂(shear crack)です。論文によると、この亀裂の多くは髄を通り、幹の傾きや樹冠の偏り、風の向きに対して直角の面に入り、風下側では繊維がつぶれる座屈を伴うことも多いとされています。

マテック氏とブレロア氏は、これを本を曲げたときのページのずれにたとえました。幹も、横からの力で曲げられると、中の層どうしをずらそうとする力(せん断)がかかります。国総研の手引きも、曲げを受けた幹や枝には場所ごとに圧縮、引張、せん断の力がかかると説明しています。曲げの応力は風上側と風下側の表面で大きく、せん断は幹の中ほど、風の向きと直角の面で大きくなります。木材は繊維の方向にずらす力に弱いので、その面に沿って縦に割れます(梁の理論による当社の整理。Dietrich の論文は、この亀裂を力学的にはせん断の亀裂としています)。

曲げ応力 せん断応力 中立面 幹 断面 風 縦の亀裂 shear crack 図解
横からの力で曲げられた幹の中の力。曲げの応力は風上と風下の表面で大きく、せん断は中ほどの面で大きい。せん断の亀裂はこの面に沿って縦に入る(当社作成の図)
せん断 本のページ ずれ たとえ 幹 縦に割れる 図解
本を曲げるとページどうしがすべる(左)。幹も曲げられると中の層をずらす力がかかり、髄を通る面で縦に割れることがある(右)(当社作成の図)

この考え方は、空洞の幹の壊れ方の説明にもつながります。マテック氏、ベトゲ氏、テサリ(Tesari)氏は2006年の論文で、亀裂のない空洞の幹の曲げ応力だけでは破壊を説明できず、縦方向のせん断亀裂が入ることが主な原因で、曲げによる折れはその後に二次的に起こる、と結論しました。付録では、根元でせん断が高くなる理由と、空洞になると曲げ応力よりせん断応力の方が大きく増える理由を示しています。

一方で、台湾の研究者らの2017年の論文は、タイワンベニヒノキなど4樹種の材の性質を使って空洞の幹の壊れ方を式で比べ、断面がつぶれて扁平になることで接線方向の亀裂が入り、続いて縦に割れる壊れ方が主だとしました。中立面の最大のせん断による破壊は、ずっと大きな曲げの力が要るので起こりにくい、という計算です。そのうえで、根元では引張と圧縮が交わってせん断が大きくなり、中まで詰まった幹でも縦のせん断亀裂が始まりうるというマテック氏らの計算を、さらに研究する価値のある見方として紹介しています。どちらも、空洞の幹は単純な曲げで折れるのではなく、割れが壊れ方に関わるとする点は似ていますが、割れの始まり方の説明は違います。空洞の大きさと壊れ方の関係は、第6回のt/Rの回で改めて取り上げます。

空洞 幹 壊れ方 せん断亀裂 断面の扁平化 接線方向の亀裂 縦の割裂 比較 図解
空洞の幹の壊れ方の2つの説明。縦のせん断亀裂が先に入るとする説明(左、Mattheck ら 2006)と、断面がつぶれて扁平になり接線方向の亀裂から縦に割れるとする説明(右、Huang ら 2017)(当社作成の図)

根元のせん断の亀裂──shear bomb crack と separation shear crack

せん断の亀裂には、根元に出る形もあります。KITが2009年に公開した「Cracks at tree base(樹木の根元の亀裂)」の図には、2つの名前が出てきます。

  • shear bomb crack: 風による横からの力で生じる通常のせん断に対して、根元では「より大きく、向きが逆のせん断」が生じる、と図に書き込まれています。図では、風の向きと直角の側から見た根元の、根張りと根張りの間に縦の亀裂が描かれ、樹皮の巻き込みも示されています。
  • separation shear crack: 横からの力によるせん断で、根張りの付け根に入る亀裂です。図では、圧縮される側(風下側)と、引っ張られる側(風上側)の両方の付け根に描かれています。

2018年の別の図「Effect of root anchorage on shear stresses in stems」は、根の固定のしかたを変えた計算とスポンジゴムの模型の試験で、根がどこで支えられているか(根の固定のしかた)によって、根元のどこにせん断が集まるかが変わることを示しています。

根元 根張り せん断 亀裂 shear bomb crack separation shear crack 風 図解
根元のせん断の亀裂の位置。風の向きと直角の側から見ると、根張りの間の縦の亀裂(shear bomb crack)、風上側と風下側の根張りの付け根の亀裂(separation shear crack)がある(KIT の公開資料をもとに当社作成)

hazard beam crack──曲がりを伸ばされる大枝

hazard beam crack は、曲がった材が、その曲がりを伸ばす向きに曲げられたときに入る亀裂です。Dietrich の論文は、枝の「ひざ」(曲がった所)を曲がりに逆らう向きに曲げると、曲がった形のために縦の力が横向きに向きを変え、材が割れると説明しています(図はマテック氏による)。横向きの引張は材の中ほどの広い範囲にかかり、最大の所でも髄の付近の約1.2倍です。木材は髄の所が弱いので、多くは髄の面に沿って上下に割れます。

典型は、上向きに弓なりに伸びた大枝です。先の枝葉の重さで枝が下へ引かれると、曲がりが伸ばされる向きの力がかかります。割れは枝を上下に分ける面に入るので、外から見えるのは枝の側面の縦の線。KITの症状の図では、この亀裂が上向きに曲がった大枝と、根張りの付け根の2か所に描かれています。根張りも、幹から根へ曲がって続く材だからだと私は読んでいます(図に説明文はありません)。

hazard beam crack 曲がった大枝 横向きの引張 髄 上下に割れる 亀裂 図解
hazard beam crack の力。上向きに曲がった大枝が先の重さで曲がりを伸ばす向きに曲げられると、中ほどに横向きの引張がかかり、髄の面に沿って上下に割れる(Dietrich 1995 の説明をもとに当社作成)

banana crack──縦に押される凸側の亀裂

banana crack も、曲がった材にだけ出る亀裂です。名前は、生のバナナを曲がりに逆らって曲げると、押される凸の側が縦に裂けることから来ています(Dietrich 1995)。曲がった幹や枝を曲がりを伸ばす向きに曲げると、凸側は縦に押され、同時に横へ引き離す力(接線方向の引張)が生じて縦の亀裂が開きます。論文は、生のヤナギの枝で、曲がった枝の凸側の切れ目は開き、まっすぐな枝では開かないことを示し、曲がりが条件で、曲がりが強いほど横の引張が大きいとしています。

論文は、内部の空洞がこの亀裂の危険を何倍にも高めること、hazard beam crack などの後に二次の亀裂として出ることも示しています。先に入った hazard beam crack と直角に banana crack が入ると、断面ではT字の亀裂になります。著者は、この亀裂を主に放任の林や公園の曲がった樹木で見たと書いています。

banana crack 曲がった幹 凸側 縦の圧縮 接線方向の引張 T字の亀裂 図解
banana crack の力。曲がった幹を曲がりに逆らって曲げると、凸側が縦に押され、横へ引き離す力で縦の亀裂が開く(左)。hazard beam crack の後に直角に入ると T 字の亀裂になる(右)(Dietrich 1995 の説明をもとに当社作成)

日本の資料では、亀裂と膨らみをどう扱っているか

東京都、国土交通省、国総研の資料に「VTA」の語は出てきませんが、亀裂と膨らみは外観で見る手がかりとして扱われています。

資料 亀裂について 膨らみ・隆起について
東京都 街路樹診断等マニュアル(令和3年度) 分岐部・付根の異常の項目で、亀裂と入り皮を判定、大きな亀裂・入り皮に腐朽・開口空洞が加わると著しい被害(p.33) 木槌打診で、異常音発生箇所の周りの膨らみにも注意(p.32)
国土交通省 都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案) 参考資料 樹幹の亀裂は幹が裂ける途中段階で非常に危険、樹体の存立に明らかに影響する規模はD評価(p.7) 診断の項目「樹幹の隆起」。内部に大規模な腐朽や空洞ができると、樹木が力学的に補強するためにその部分の材を多く生長させ、幹が膨らむ。幹周全体や根元に出た隆起はD評価(p.15)
国総研 街路樹の倒伏対策の手引き 第2版(2019年) 垂直亀裂は幹を分断するリスク、水平亀裂は折損するリスク(1-18)、横方向の亀裂は折損の危険が切迫している兆候(1-20)、弱点「大」は幹・枝の中心部まで深く達している亀裂 外観診断で「隆起やこぶ」を確認、弱点「大」は隆起した幹内部に断面の50%以上の空洞・腐朽が推測されるもの

ページは各資料に印刷されたページ。国総研の弱点「大」は別冊 第3章の簡易診断の参考表-3.1(1-33)による。

国総研の手引きは、亀裂は主に縦方向に出るが、横方向の亀裂は折損が差し迫った兆候だ、としています。これは米国農務省森林局の資料(邦訳『都市樹木のリスクマネジメント』)からの引用で、マテック氏の資料ではありません。この回のVTAの亀裂は、いずれも繊維に沿った縦の亀裂です。縦の亀裂は「どの力で、どの面に入ったか」を読み、横の亀裂は「折損が差し迫った兆候」と読む。亀裂はまず向きを見る、ということです。

縦の亀裂 横の亀裂 幹 折損 分断 外観診断 機器診断 流れ 図解
亀裂は向きを見る。縦の亀裂は幹を分断するおそれ、横の亀裂は折損が切迫した兆候(国総研の手引きによる)。見つけたら、力の向きを考え、機器で中を確かめる(当社作成の図)

症状の名前の一覧

KITの2枚のポスター(2018年)に載る名前のうち、膨らみと亀裂に関わるものと、この連載で扱う回をまとめました。名前はポスターの英語表記のままにしています。

英語名(KIT のポスター) 内容の要点 扱う回
Bulge wood 幹の局所的な膨らみ 第4回
Decay swelling at woodpecker’s hole キツツキの穴の周りの腐朽による膨らみ 第4回(名前のみ)
Shear bomb crack 根元の、向きの逆の大きなせん断による縦の亀裂 第4回
Separation shear crack 根張りの付け根のせん断による亀裂 第4回
Hazard beam crack 曲がりを伸ばされた材が髄の面で上下に割れる亀裂 第4回
Banana crack 曲がった材の、縦に押される凸側の縦の亀裂 第4回
Ovalization crack、Lateral grain accumulation、Cupboard door crack、Spiral crack、Lightning furrow 名前のみ(定義の文は未確認) 第4回(名前のみ)
Included bark split、Compression fork、Shedding collar、Soil crack 枝のつけ根と根元の症状 第5回

英語名は KIT のポスター(2018年)、内容の要点は Dietrich 1995、KIT「Cracks at tree base」2009 とポスターの絵による当社の要約。

当社の考え方

当社の外観診断は、東京都の街路樹診断等マニュアルの項目に沿って行っています。そのうえで、膨らみや亀裂を見つけたときに「どんな力がかかって、そうなったのか」を考える手がかりとして、VTAの見方を使っています。亀裂が風の向きと直角の側にあるのか、曲がった枝の側面か、凸側か。それが分かると、次にどこを確かめるかの見当がつきます。

現場での経験から、膨らみのある幹は、膨らみの周りを広めに打診し、音の変わり目を探すようにしています。亀裂は、縦か横か、どの面に入っているかを先に書き留めます。そのうえで、必要な樹木に、レジ(Resi PD)やピカスで幹の中を確かめます。外観の症状は、樹木が見せてくれる手がかりであって、それだけで中の状態が決まるわけではありません。VTAが「症状を見て、疑わしければ詳しく調べる」という流れになっているのも、そのためだと思います。

株式会社トシ・ランドスケープのツリーリスクアセスメント(樹木診断)部門では、樹木医が外観診断から機器診断、報告書の作成、その後の管理計画までを一貫して担当しています。ご依頼は、マンション管理組合様、学校施設、寺社の御神木など様々です。幹の膨らみや亀裂が気になる樹木がありましたら、樹木診断のサービスページをご覧のうえ、お問い合わせフォームからのご相談をお待ちしています。

次回は、症状を読むの2回目として、キノコ(子実体)と腐朽、根元と根、枝のつけ根の症状を取り上げます。

 

株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊

 

よくあるご質問(VTA の膨らみと亀裂について)

Q1. 幹の膨らみは、それだけで危険な印ですか?

A. 膨らみがあるだけで、中の傷み具合までは決まりません。VTAでは、膨らみを、樹木が内部の欠陥を補うために材を足した跡として読みます。内部に空洞や腐朽があるかもしれないという手がかりなので、打診や機器診断で中を確かめます。国総研の手引きも、隆起を腐朽の機器診断に進む理由のひとつとしています。なお、国土交通省の都市公園の指針(案)の参考資料は、幹周全体や根元に出た隆起を、すぐに倒伏・枝折れするおそれがあるD評価としています。大きな膨らみは、それだけで注意が要る印です。

Q2. せん断の亀裂(shear crack)とは何ですか?

A. 幹が横から曲げられたとき、中の層どうしをずらす力(せん断)で入る縦の亀裂です。風の向きや幹の傾きと直角の面に、髄を通って入ることが多いとされます。マテック氏らのたとえは、本を曲げたときにページどうしがすべる様子です。

Q3. hazard beam crack と banana crack はどう違いますか?

A. どちらも曲がった材が曲がりを伸ばす向きに曲げられたときの亀裂です。hazard beam crack は材の中ほど、髄の面に沿って上下に割れ、外からは側面の縦の線として見えます。banana crack は、縦に押される凸側の表面に開く縦の亀裂です。hazard beam crack の後に、直角に banana crack が入ることもあります。

Q4. 縦の亀裂と横の亀裂では、どちらに注意が要りますか?

A. 国総研の手引きは、亀裂は主に縦方向に出るが、横方向の亀裂は折損の危険が切迫している兆候だとしています。縦の亀裂も、幹を分断するおそれがあり、腐朽菌の入り口にもなります。どちらも見つけたら、向きと位置を記録し、詳しく調べます。

Q5. 空洞のある幹は、どのように壊れ始めるのですか?

A. マテック氏らは、空洞の幹では縦方向のせん断亀裂が先に入り、曲げによる折れはその後に起こると結論しています。一方で、断面がつぶれて扁平になり、接線方向の亀裂から縦に割れる壊れ方が主だとする研究もあります。どちらも単純な曲げの折れではなく割れが関わるとしていますが、割れの始まり方の説明は違います。

Q6. 東京都のマニュアルにVTAの症状の名前は出てきますか?

A. 出てきません。東京都の街路樹診断等マニュアルは、分岐部・付根の異常の項目で亀裂と入り皮を判定し、木槌打診では異常音のする所の周りの膨らみにも注意するよう書いています。VTAの名前ではなく、亀裂と膨らみを外観で見る点が共通しています。

 

出典・参考情報

マテック氏の研究所(KIT)の公開資料(いずれも2026年10月に確認。図・写真は転載していません)

・Mattheck, C., Bethge, K. & Weber, K.「VTA – Symptoms: At a glance」KIT, 2018年7月27日(PDF・英語) 24の症状の名前
・Mattheck, C., Bethge, K. & Weber, K.「10 VTA – Symptoms: Cracks in trees」KIT, 2018年7月27日(PDF・英語) 亀裂10種の名前
・Mattheck, C., Bethge, K. & Weber, K.「Cracks at tree base」KIT(Institute for Materials Research II), 2009年11月12日(PDF・英語) shear bomb crack、separation shear crack、hazard beam crack
・Mattheck, C., Bethge, K., Weber, K. & Tesari, I.「Effect of root anchorage on shear stresses in stems」KIT, 2018年8月13日(PDF・英語)

研究

・Mattheck, C. & Bethge, K. (1993) Detection of Decay in Trees With the Metriguard Stress Wave Timer. Journal of Arboriculture 19(6): 374–378 一様応力の公理、補修のための成長、リブと亀裂の向き
・Bethge, K., Mattheck, C. & Hunger, E. (1995) Geräte zum Auffinden und Bewerten von holzzersetzender Fäule in Bäumen. FZKA 5661, Forschungszentrum Karlsruhe(ドイツ語) リブの後ろの亀裂の確かめ方(図11)
・Dietrich, F. (1995) Wie der grüne Baum tangentiale Zugbelastungen bewältigt. FZKA 5685, Forschungszentrum Karlsruhe(博士論文、ドイツ語・英語の要旨) せん断の亀裂(3.3.1。本のページのたとえは同論文が引く Mattheck & Breloer『Handbuch der Schadenskunde von Bäumen』1994年)、hazard beam(3.3.3)、banana crack(3.3.4・4章・まとめ)
・Mattheck, C., Bethge, K. & Tesari, I. (2006) Shear effects on failure of hollow trees. Trees 20(3): 329–333(要旨で確認)
・Huang, Y.-S., Hsu, F.-L., Lee, C.-M. & Juang, J.-Y. (2017) Failure mechanism of hollow tree trunks due to cross-sectional flattening. Royal Society Open Science 4: 160972
・Mattheck, C. & Breloer, H. (1994) Field Guide for Visual Tree Assessment (VTA). Arboricultural Journal 18(1): 1–23(書誌のみ確認)

日本の資料

・東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 第III章 外観診断(キ)木槌打診 p.32、(ク)分岐部・付根の異常 p.33
・国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案) 参考資料」(平成29年9月、令和8年3月30日改訂) 2-3 樹幹の亀裂 p.7、3-2 樹幹の隆起 p.15
・国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」国総研資料 第1059号(2019年2月) 第1編 1.2(1-12)、1.3 表-1.4(1-18)・(2)幹と枝の亀裂(1-20)、別冊 第3章 参考表-3.1 簡易診断結果「小・大」の目安(1-33)、第4章 4.2.4 外観診断の方法(1-43)・4.2.6 詳細診断の方法(1-54)

 

連載「マテック博士と VTA 法」と、樹木診断の記事

連載

外観診断と機器診断

・樹木医は街路樹診断で何を見ているか(後編) 機器診断のt/R率と腐朽空洞率、総合判定、処置、フォローアップ診断
・樹木医は街路樹診断で何を見ているか(前編) 東京都の街路樹診断等マニュアルの流れで、樹木点検と外観診断の18項目を解説
・レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か。樹木医がレジ(Resi PD)で幹の中を「針」で診る機器診断を、一般の方向けに解説します
・ピカス(PiCUS)とは何か。音波と電気抵抗で幹の断面を診る樹木診断機器を、樹木医が解説します
・樹木診断機器 IML社製 レジ(Resi PD)について
・東京都「街路樹診断等マニュアル」の要点と、国土交通省の点検・診断の指針(案)──大型化・老木化する街路樹・公園樹木の管理を樹木医が解説

IML社の樹木診断機器(連載)

・ツリーキネティック(PiCUS TreeQinetic)の仕組みと考え方──ロープで木を引き、根返りと幹折れの安全率を見積もる静的負荷試験(引張り試験)を樹木医が解説
・ピカス(PiCUS Sonic Tomograph 3)の構成と測り方──測定点の数、キャリパーの扱いを樹木医が解説
・IML社とは──レジ(Resi PD)とピカスをつくるドイツの樹木診断機器メーカーを、樹木医が解説

樹木診断の記録

・【ツリーケア最前線】樹木医が語るレジ(Resi PD)診断とロープワークの統合 相模原市での樹木診断レポート
・区保存樹木イチョウ 樹木医・高所外観診断 東京都

サービス

・樹木診断(ツリーリスクアセスメント部門)

 

※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。

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