先日、神奈川県のマンションで植栽の中長期計画立案に向けたコンサルティングのご相談をいただき、初回の取り組みとして植栽委員会と住民有志の皆様、樹木医の私中村とで敷地の樹木を見てまわりました。これからのマンション・団地での植栽管理と、植栽管理から樹木診断、コンサルティング調査から施工まで一気通貫で担う当社の視点をまとめます。
当日は強い日差しの日でした。それでも、大きく育った桜の木陰に入ると、暑さがはっきりと和らぎます。資料の説明よりも先に、この体感の差を住民の皆様と分かち合えたことが、初回としては何よりの収穫だったと思っています。

桜の木陰での現地確認
桜の木陰で行った初回の現地確認──資料の前に、まず樹木を見上げる
今回のご相談は、剪定や伐採といった個別の作業ではなく、すでに築40年を超え、敷地の植栽全体をこれから先、10年、20年の単位でどう育て、どう管理していくかという中長期計画の立案です。その第一歩として、報告書や図面をお渡しする前に、植栽委員会と住民有志の皆様と一緒に敷地を歩くことから始めさせていただきました。
資料を手にした皆様と樹木を見上げながら、幹の様子や枝の伸び方から読み取れること、これまでの剪定など管理の具合、そしていまこの樹木がどういう状態にあるのかを、その場でご説明しました。同じ内容は報告書にも書けます。ただ、写真や図面ではなかなか伝わらないことも、実際に見上げていただくと伝わるものだと、現地でご一緒するたびに感じます。
剪定の判断は、痕として木に残ります。切り口の巻き込み方や、そこから伸び直した枝の向きと勢い。そうした場所に過去の管理の入り方が表れるため、初回はまず、木そのものに残された記録を皆様と一緒に考えるところから始めています。
切るのか、残すのか、どう手入れを続けるのか。安全性、景観、費用、樹木の健全性と、判断の軸はひとつではなく、お住まいの方それぞれで見え方や考え方も違います。だからこそ、まず現状を知っていただいた上で、住民の皆様ご自身が納得して判断できるように材料を整えていく。当社の植栽コンサルティングは、いつもこの形をとらせていただいています。
- 住民の方々と樹木を見上げる
築40年超のマンションは20年で3倍超に──植栽も同じ年月を生きています
国土交通省の統計によると、全国の分譲マンションストックは2024年末時点で約713万戸。このうち築40年以上は約148万戸あり、10年後の2034年末には約293万戸、20年後の2044年末には約482万戸へ増える見込みです。また、国土交通省の資料では、築40年以上のマンションで世帯主が70歳以上の住戸は5割を超えているとされています。建物の高経年化と居住者の高齢化、という側面があります。
この数字は建物と設備の話として語られることがほとんどですが、そのまま植栽の話でもあります。竣工時に植えられた木々は、建物と同じ40年、50年をその敷地で生きてきました。植えた当時の想定を超えて育ち、高さも根の張りも当初の計画には収まらなくなっている例が少なくありません。今回歩いた敷地の桜も、見上げるほどに育っていました。
管理する側の事情も変わっています。管理組合の役員は数年で交代する輪番制が多く、植栽の経緯や過去の剪定の判断は、記録がなければ引き継がれません。なぜこの木はこういう樹形なのか、いつから弱っているのか。それが分からないまま毎年の剪定予算だけが執行されていく──ご相談の場でよくうかがう状況です。
- 枝の上に立つツリークライマー
観測史上最も暑い夏を経て、木陰の価値が数字で語られ始めています
気象庁によると、2025年夏(6〜8月)の日本の平均気温は平年より2.36℃高く、1898年の統計開始以降で最も高くなりました。それまでの記録だった2023年・2024年(いずれも+1.76℃)を大きく上回る、3年連続の記録更新です(環境省・脱炭素ポータルの解説)。
この暑さの中で、木陰の見直しが進んでいます。樹冠(枝葉の広がり)は日差しを遮るだけでなく、舗装や壁面が溜め込む熱、つまり輻射熱を抑える働きを持ちます。照り返しの強い舗装の上と、大きな樹冠の下とでは体感がまるで違います。今回の現地確認で皆様と共有できたのは、この差でした。
都市の緑を樹冠被覆率(樹冠が地面を覆う割合)で捉える動きも国際的に広がっています。都市林学研究者のセシル・コナインダイク氏が2022年に提唱した「3-30-300ルール」──どの住まいからも3本の樹木が見え、街区の樹冠被覆率が30%、最寄りの緑地まで300m以内──は、その代表的な指標です。マンション敷地の木々は、この意味で、住民の皆様の暮らしのすぐそばにある緑陰の資産だと私たちは考えています。
もちろん、大きく育った樹木は恵みだけをもたらすわけではありません。落枝や倒木への不安、日照や落ち葉をめぐる意見の違いも現実にあります。ただ、危険の可能性があるという理由だけで伐採に傾くのではなく、診断で状態を確かめ、残す努力と安全の確保を両立させる。植栽管理を自分たちの手で一貫して行う樹木医として、その順番を崩さずにいたいと思っています。
これから植栽コンサルティングの需要が高まると考える理由
建物には長期修繕計画という枠組みが広く定着しました。いっぽう植栽は、毎年伸び、年ごとに状態が変わる生き物であるにもかかわらず、同じ精度の中長期計画を持っているマンションはまだ多くありません。これは統計ではなく、現場での実感です。計画がないまま毎年の剪定だけを続けると、樹木は少しずつ形を崩し、問題が表に出たときには強く切るか、伐るかしか選べなくなっていることがあります。手を打つのが遅れるほど、選べたはずの道は確実に減っていきます。
中長期の計画には、費用の波を均すという実際的な利点もあります。大きくなってからの一斉の強剪定や伐採・撤去は単年度の出費として重く、合意も得にくくなりがちです。早めに方針を持ち、年ごとに手を分けておけば、支出も作業も無理なくならしていけます。
実際、当社にも植栽管理や樹木診断のご相談は目に見えて増えており、この夏には部門ごとの案内のパンフレット資料を新たに作り直したほどです。マンションストックの高経年化、管理の担い手の交代、そして猛暑。これらが重なる場面で求められているのは、作業を請け負う相手だけではなく、判断の材料を整え、合意形成まで並走するパートナーなのだと感じています。
植栽コンサルティングの中身は、派手なものではありません。樹木ごとの現況を調べて台帳に整え、健全度と優先順位を示し、年次計画と費用の見通しを立て、総会や説明会での合意形成をお手伝いする。その積み重ねです。今回のように住民の皆様と敷地を歩くのも、この最初の一歩にあたります。
調査から計画、施工、日々の手入れまで──一気通貫で担うということ
株式会社トシ・ランドスケープは、ランドスケープコンサルティング(植栽計画の立案・合意形成支援)、ツリーリスクアセスメント(樹木診断)、グリーンメンテナンス(植栽の維持管理)の3部門で、この一連の流れをひとつの会社の中で担っています。法人設立から9年目、社員は20名を超え、樹木医3名、街路樹診断士3名、植栽基盤診断士2名が在籍しています(2026年8月時点)。
診断では、外観診断に加えて、ピカス(音響トモグラフ)やアーボソニック3D、レジ(Resi PD・穿孔抵抗測定器)といった機器で幹の内部の状態を確かめます。計画づくりでは、樹木がもたらす便益を定量的に評価するi-Tree Ecoの運用も始めました。技術の土台には樹木医や海外のアーボリカルチャー(樹芸学)の知見があります。
- 境内の樹木での測定
- 音波(左)と電気抵抗(右)の断面画像
- レジ(Resi PD)の本体
- ピカスで測った木にレジを通す
- 樹上でのアーボソニック3Dの計測
一気通貫にこだわる理由は単純で、計画を絵で終わらせないためです。診断の結果は翌年の剪定の強さに反映され、施工の現場で見えた根や土の状態は、次の計画の精度を上げてくれます。調査した者と、計画を書いた者と、鋏を持つ者が同じ会社にいれば、判断の理由も責任の所在も途中で途切れません。施工まで自社で行うからこそ、コンサルティングの段階で「やらなくてよい作業」をはっきり申し上げられる、という面もあります。
真夏の木陰の心地よさを感じながら、この木々とこれからどう付き合っていくかを住民の皆様とご一緒に考える。今回の現地確認は、そのための最初の時間になりました。こうした仕事がこれからの社会でいっそう必要とされていくのだろうと、桜の木陰で感じた一日でした。
このたびはご相談をいただき、ありがとうございました。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
・国土交通省「マンションに関する統計・データ等」(分譲マンションストック数の推移/築40年以上の分譲マンション数の推移、2024年末現在)
・環境省 脱炭素ポータル「2025年夏の記録的高温の要因とは?〜気象庁異常気象分析検討会による分析結果の概要〜」
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・植栽コンサルティング 中長期的視点で描く、持続可能な緑の未来
・中長期の植栽管理マスタープラン
・ピカス(PiCUS) 樹木診断を非破壊診断×微破壊診断で、樹木診断を世界水準へ
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※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。



















