テーマは、サクラやモモ、ウメを枯らす特定外来生物「クビアカツヤカミキリ」の防除──この記事では、被害の仕組みから探索、工法の選び方、5年間の計画まで、防除計画の考え方を整理します。
クビアカツヤカミキリとは。サクラ・モモ・ウメを枯らす特定外来生物
クビアカツヤカミキリ(学名 Aromia bungii)は、中国・東南アジア原産のカミキリムシです。幼虫がサクラ・モモ・ウメ・スモモなどバラ科樹木の幹の内部を食い荒らし、樹木を枯らします。外来生物法にもとづく特定外来生物に指定され、生きたままの飼育・運搬・放出は禁止。農林水産省によれば、2026年8月現在で22都府県まで発生が拡大しています。

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なぜ「防除計画」が必要なのか。気づいたときには侵入3年目
理由は、この虫の生態そのものにあります。講師の資料によれば、メスは生涯に300〜1,000個の卵を産み、羽化した成虫は後食(羽化後の栄養補給)をせずにすぐ交尾できます。幼虫は樹皮のすぐ内側にある形成層を好んで食べ、幹を環状に食われると水が上がらなくなり、食害からおよそ5〜8年で枯死に至る可能性が高くなります。
最大の問題は時間差です。成虫やフラス(幼虫が出す、木くずと糞の混ざった排出物)に気づいた時点で、侵入からすでに3年ほど経過しています。目の前の1匹は「始まり」ではなく、3年目の結果です。だから、見つけてから対応を考えるのではなく、見つかる前から探索・判定・工法・体制を決めておく、防除計画が必要です。講師は、根絶を目指すなら最低5年の計画が必要です。
どうやって見つけるのか──フラスの探索が計画の起点
早期発見の手がかりはフラスです。「かりんとう状」とよく言われますが、白い木くず状のこともあり、マツの雄花(落ちた花穂)と見間違えやすいこともあります。アリの蟻道、コスカシバ、タマムシなど紛らわしい痕跡も多く、正体の分からない付着物は剥がして中を確かめます。探すのは幹の下方──地際や根元、枝の分かれ目を、下から見上げるように。根にも産卵・食害するというお話は初めて聞く知見でした。産卵期の6〜8月は最低でも週2回の巡回を。成虫捕殺は6月上旬から7月上旬に集中します。
そして、探索を「計画」に変えるのが記録です。樹木に番号を振り、品種・胸高直径・フラス孔の数・樹脂・樹勢を調査表(カルテ)に落とし、被害度を点数化する。誰が見ても分かる記録が、翌年の工法選択と、行政や管理組合への説明の根拠になります。
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どの防除方法を選ぶのか──樹木1本ごとの被害度で決める
一律の防除ではうまくいかないことがあります。同じ公園でも、1本ごとに被害の段階はまるで違います。未被害から激甚被害までを警戒レベルを分け、レベルごとに対応を変える考え方が示されました。
被害がない、あるいはごく初期の樹木には、予防が中心です。周辺の地域で発生があれば予防的な樹幹散布を行い、どうしても守りたいサクラには樹幹注入という選択肢もあります。注入は健全な樹木ほど根から枝先までよく効き、食害が進んだ樹木は薬剤を吸い上げられず効果が激減します。登録上サクラにしか使えないこともあり、「本当に守るべき樹木」に絞る工法です。
被害が確認された樹木では、樹幹散布に、フラス排出孔への薬剤注入や幼虫の掘り取りを組み合わせます。ネット巻きは成虫の脱出・拡散を止める手段ですが、6月までに設置し、9〜10月には必ず撤去すること。張りっぱなしのネットが、逆に成虫を中で育ててしまうことになります。ネットはかけて終わりではなく、毎日見回って網の中の成虫を捕殺してこそ機能します。
伐って終わりではありません。伐採材を放置すればそこから発生源になるため焼却・破砕・燻蒸まで行い、伐採後も根株への散布やネット崖が必要な場合があります。
防除にかかる負担の大小も、結局はここで決まります。早く見つけるほど選べる工法が多く、処置は軽い。後手に回るほど、伐倒・搬出・1年間の後処理まで含む重い対応しか残りません。探索と記録に力を入れる理由は、ここにあります。
薬剤散布を効かせる考え方──時期・下準備・かけ方
散布でまず押さえるのは薬剤と時期です。講師によれば、現行の農薬登録で殺卵効果が確認されているのは、フェニトロチオン(スミパイン乳剤)とアセタミプリド(マツグリーン液剤2)の2成分のみ。マツグリーン液剤2は3〜11月、スミパイン乳剤はアリの活動が鈍る12〜2月に使い分けます。
なぜアリの都合に合わせるのか。産みつけられた直後の卵は、2時間以内に2割ほどがアリに食べられるという報告があるからです。アリはこの防除の数少ない味方であり、味方への影響が小さい薬剤と時期を選ぶ。理由の通った設計こそ、現場で効く防除だと感じます。
次に下準備。草を刈り、地表と幹のフラスをブラシで取り除き、詰まった排出孔を清掃して、樹皮を露出させてから撒きます。フラスを残したまま撒いても、薬剤は中まで届きません。孔の清掃では中の幼虫も駆除できるため、同じ手間で効果が上がります。講師ご自身、掃除しきれなかった箇所から散布3週間後に成虫が脱出した失敗を経験されたそうです。
かけ方にも理屈があります。産卵管は匂い・味・硬さを感じ取る感覚器で、薬剤という「異物」のある場所を避けて産む。だから薬剤は、卵の挟まる樹皮の割れ目の奥まで届かせます。まず縦に上下へ1周、次に横にジグザグで1周。乾いた樹皮は1回目が染み込みにくいので、全体を一度濡らしてから丁寧に。
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5年間やり切るための体制──記録と人手が計画を支える
計画は、続けられて初めて計画です。
周知徹底と人手が最強の防衛で管理者だけで5年間は回りません。地域への説明、ボランティアの育成、発見情報を集める窓口など体制づくりも防除計画の重要な一部だと感じます。記録は、翌年の検証につながります。当社の受け止めも書いておきます。樹木ごとに調べ、記録し、段階に応じて手を選ぶというのは、当社が日頃ツリーリスクアセスメント(樹木診断)で行っている仕事と同じです。東京でも、「見つける目」を増やす段階に入ったと受け止めています。

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クビアカツヤカミキリ Q&A
Q. 成虫やフラスを見つけたら、どうすればよいですか。
A. 特定外来生物のため、生きたままの持ち運びはできません。成虫はその場で捕殺して構いません。あわせて、お住まいの都府県・市区町村の窓口へ通報してください(環境省のリンク集に各都府県の連絡先がまとまっています)。樹木そのものは、被害の段階を確かめる調査(樹木診断)へ進めるのが確実です。
Q. 被害を受けた樹木は、伐るしかないのでしょうか。
A. 段階によります。食害がまだ少なければ、散布・注入・掘り取りの組み合わせで守れる可能性があります。状況によっては、伐倒とその後1年間の後処理までを一連で計画するのが現実的です。
Q. 予防はできますか。
A. できます。周辺の地域で発生が確認されたら年1回の予防散布を検討し、6〜8月は定期的に幹の下方を見回ります。粗い樹皮の大径木・老木ほど産卵されやすいため、樹勢を保つ日常の管理も、遠回りに見えて確かな予防になります。
数字だけ並べれば、確かに手ごわい虫です。それでも防除計画とは特別な技術ではなく、樹木を1本ずつ診て、記録し、翌年に活かすという樹木診断の積み重ねそのものだ、という手応えでした。管理されている敷地のサクラやウメの根元に見慣れない木くずがありましたら、被害の段階を確かめるところから、どうぞお早めにご相談ください。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村 雅俊
出典・参考情報
・森林総合研究所「クビアカツヤカミキリの防除法」解説ページ(クビアカツヤカミキリコンソーシアム)/マニュアル本体PDF
・環境省「クビアカツヤカミキリの関連情報のリンク集」/環境省「クビアカツヤカミキリ資料集」
・国立環境研究所 侵入生物データベース「クビアカツヤカミキリ」
・東京都環境局「クビアカツヤカミキリの被害が発生・拡大しています!」
・埼玉県「サクラの外来害虫”クビアカツヤカミキリ”情報」/埼玉県クビアカツヤカミキリ防除実施計画
・群馬県「特定外来生物クビアカツヤカミキリに注意してください」/クビアカツヤカミキリ対策の手引き(群馬県)
・大阪府「特定外来生物『クビアカツヤカミキリ』警戒中!!」/大阪府立環境農林水産総合研究所「クビアカツヤカミキリ被害対策」
・徳島県「クビアカツヤカミキリの情報提供にご協力をお願いします」
・栃木県農業試験場「ブラックライトを使用したクビアカツヤカミキリ卵の簡易検出法の開発」
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