このところ、マンション管理組合の皆様や自治体のご担当者から、特定外来生物クビアカツヤカミキリについてのご相談をいただくことが増えました。この虫の卵は、市販のブラックライトを当てると青白く光ります。栃木県農業試験場が令和4(2022)年度に確かめた性質で、樹木医として出どころを確かめながら整理しました。
ご相談の内容をうかがっていると、どこまでが研究で確かめられていて、どこからがまだ分かっていないのかが、少し混ざって伝わっている印象があります。「フラスや卵の周囲の樹皮も光るのですか」と聞かれることもありました。自分自身の整理も兼ねて、一次の資料に当たり直しましたので、出どころを添えて書いておきます。
発見の出どころ──栃木県農業試験場と月刊「植物防疫」
もとになっているのは栃木県農業試験場の研究です。病理昆虫研究室の春山直人氏が、令和4(2022)年度の研究として、この虫の卵に紫外線を当てると青白い蛍光を発することを見つけられ、「ブラックライトを使用したクビアカツヤカミキリ卵の簡易検出法の開発」として栃木県農業試験場研究成果集第42号に報告されています。
その後、「クビアカツヤカミキリ卵における生物蛍光の発見とブラックライトによる簡易検出法」として、月刊「植物防疫」第78巻第3号(2024年)に総説がまとめられました。県の一報告にとどまらず、専門誌で整理された知見になっている。ここは、お客様にご説明するうえで押さえておきたい点だと思っています。
- クビアカツヤカミキリ ブラックライト 卵
- クビアカツヤカミキリ ブラックライト 卵
- クビアカツヤカミキリ ブラックライト 卵
なぜ光るのか──化学反応ではなく「蛍光」です
卵の成分が何かと化学反応を起こして光っているわけではないようです。紫外線のエネルギーを吸って、その一部を目に見える光として返しているだけで、これは蛍光と呼ばれる現象になります。
深野和裕氏の「発光・蛍光・リン光──高等学校における光る物質の化学」(化学と教育65巻9号、2017年)を読んでみると、光る現象が、ルミノール反応のように化学反応そのもののエネルギーが光になる化学発光と、紫外線などで励起された物質がそのエネルギーを光として返す蛍光(フォトルミネッセンス)とに分けて説明されています。クビアカの卵は後者にあたります。
ですので、ライトを消せばその瞬間に光は止まります。光を蓄えておいて後から発光する夜光塗料──あちらはリン光ですが──とは別のものです。現場で「光った、光らない」を判断するときに、この違いは意外と効いてきます。ライトを外した状態でまだ光っているものがあれば、それは卵ではない、という切り分けができるからです。
効く波長と効かない波長──市販のブラックライトで足りる理由
蛍光には、効く波長と効かない波長があります。栃木県の成果集では、市販のブラックライトのピーク波長がおおむね365ナノメートルから405ナノメートルであることを踏まえて、365、375、395、405の4種類に、紫外線をほとんど含まない450ナノメートル(藍から青)を加えた5種類のLEDで検証されています。
結果は、365から405までのいずれでも蛍光が見られ、450では見られなかったとのことでした。紫外線から紫の領域で励起される性質が、たまたま市販品の帯域に収まっているということかと思います。専用の機器を用意しなくても確認できるのは、有り難い偶然だという気がしました。
肉眼で1個、紫外線で212個──樹皮のすき間という隠れ場所
効率については、同じ成果集に佐野市のもも園での比較が載っています。調査者3名がそれぞれ5本ずつ、計15本のももの主幹部と主枝の下部30センチほどの範囲を調べたところ、肉眼では全体で1個しか確認できなかった卵が、紫外線を当てながらの調査では212個確認できたそうです。成果集では、肉眼の200倍以上の効率と記されています。
この開きは、樹木医の目が節穴だという話ではないと思っています。植物防疫の総説によれば、雌成虫は産卵のための加工をほとんどせず、樹皮の割れ目やすき間に腹部末端を伸ばして差し込み、そこへ産みつけます。卵は平均1.68ミリほどのゴマ粒状。サクラの粗い樹皮を思い浮かべていただければ想像がつくかと思いますが、外から見えるはずのないものを見ようとしていたわけです。数字の開きは、その隠れ方の巧みさをそのまま表しているのだろうと思いました。
そしてこの研究は、若齢の幼虫はフラス(幼虫が排出する糞と木くずの混合物)をほとんど出さず、量が増えて気づく頃には樹皮の下が広く食害されている──という、いつも後手に回る事情をどうにかしようとして始まったものです。フラスを見つけてからでは、すでに何年か食われている。その手前の、卵の段階に手を伸ばすための方法だという位置づけになります。
現場で使うときに気をつけていること
使ううえでの注意も、成果集に率直に書かれていました。365ナノメートルのLEDは可視光をほとんど含まないため、自分がどこを照らしているのか分かりにくいこと。光源が弱いと、日中の明るい場所では蛍光が相対的に弱く見えにくいこと。照射範囲が狭いと調査に時間がかかること。日中でも、日陰であれば蛍光は確認できるそうです。
それから、裸眼で長時間ブラックライトを使うと目を傷める危険があるため、紫外線カットゴーグルなどの使用が勧められています。一本の樹を舐めるように見ていく調査ですから、ここは必ず守るべきところだと考えています。
誤認についても触れられていて、クビアカが発生していない宇都宮市と益子町のサクラとウメで同じ調査をしても、卵と同じ特徴を持つ蛍光物は樹皮の上に確認できなかったとのことでした。樹皮のすき間に2ミリ程度の卵を産む生物は限られているため、他の生物の卵と間違える心配は少ないという見立てです。ただ、実際に樹皮を照らすと、蛍光増白剤の付いた繊維くずや地衣類なども光ることがあります。光ったものが卵の形と大きさに合っているかどうかは、その場でルーペを当てて確かめるようにしています。
フラスは光るのか──調べた範囲では、報告が見当たりません
冒頭に書いたご質問への答えです。フラスが紫外線で光るという報告は、栃木県の成果集、植物防疫の総説、農林水産省や各都県の防除資料、海外の文献を私なりに探した限りでは、見つけられませんでした。
現場での経験からの見立てになりますが、フラスの主体は木くずで、木材そのものが自家蛍光を持ちます。仮に光ったとしても、それがクビアカのものかどうかを分ける手がかりにはなりにくいはずです。フラスの判別は、これまでどおり形で見るのが確かだと考えています。東京都環境局の資料では、本種のフラスは木屑が多くて量も多く、排出直後は棒状やかりんとう状につながっていること、ほぐすと薄い木の切片を多く含むことが、コスカシバの顆粒状の糞や、在来のゴマダラカミキリの繊維状の木屑と対比して整理されています。
ブラックライトは卵を見つけるための道具、フラスは形で見る。この二つを混ぜないほうが、結局は早く正確に判断できると思います。
対策本部の設置と22都府県──見回りにどう取り入れるか
農林水産省と環境省は令和8年7月31日にクビアカツヤカミキリ対策本部を設置し、防除戦略の策定に入りました。農林水産省の公表では、令和8年8月現在、22都府県で発生が確認されているとのことです。
私たちがお預かりしている団地や公園にも、サクラやウメ、モモは当たり前に植わっています。ブラックライトによる卵の調査は、成虫への薬剤散布や被害樹の処理、フラスをもとにした幼虫の駆除と組み合わせて使う補助的な手段です。それでも、被害が出てしまう前の段階に手が届く数少ない方法だと思いますので、成虫の発生期にあたる6月以降の見回りに取り入れさせていただこうと考えています。
卵は8日から9日で孵化します(埼玉県環境科学国際センター)。一度照らして終わりではなく、成虫の出る時期を通じて何度か見て回る前提の作業になります。手間のかかる話ではありますが、樹を伐らずに済む可能性が少しでも上がるのなら、やる価値のある手間だと考えています。
サクラの様子が気になる、フラスらしきものが出ている、といったご相談がありましたら、お気軽にお声がけください。
弊社でのクビアカツヤカミキリ防除の施工を過去のブログに掲載しております。
・クビアカツヤカミキリの被害と対策——都市で被害が止まらない理由を、樹木医はどう読むか
- クビアカツヤカミキリ サクラ 桜 モモ ウメ
出典・参考情報
・栃木県農業試験場「ブラックライトを使用したクビアカツヤカミキリ卵の簡易検出法の開発」研究成果集第42号(令和4年度、担当:研究開発部 病理昆虫研究室 春山直人)
・春山直人「クビアカツヤカミキリ卵における生物蛍光の発見とブラックライトによる簡易検出法」月刊「植物防疫」第78巻第3号(2024年)、日本植物防疫協会
・深野和裕「発光・蛍光・リン光──高等学校における光る物質の化学」化学と教育65巻9号(2017年)、日本化学会
・東京都環境局「本種被害の確認ポイント『フラス、樹液』」
・埼玉県環境科学国際センター「サクラの外来害虫“クビアカツヤカミキリ”情報」
・農林水産省「クビアカツヤカミキリ対策本部の開催について」(令和8年7月31日)、「クビアカツヤカミキリに関する情報」
・日本農業新聞「卵光らせ“クビアカ”防除 ブラックライト当てるだけ 栃木県農試」(2023年6月)
写真提供 川瀬さん
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
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