区の保存樹木のイチョウのケーブリング支柱の施工を行いました。
区の保存樹木に指定されたイチョウに、枝折れによる落枝を防ぐロープのケーブリング支柱を取り付けた記録です。保存樹木の制度、高所の外観診断、ロープの支柱の考え方も、法令やマニュアルをもとに書き添えます。
ケーブリング支柱とは──樹冠の中で枝と幹を結ぶ支柱
ケーブリング支柱は樹木の倒木や枝折れ予防や、それらリスクの軽減になります。
今回は枝折れによる落枝のリスク軽減の為の施工です。
地面に丸太や杭を立てて幹を支える支柱と違い、ケーブリングは樹冠の中で、守りたい枝と、それを支える幹や枝とをロープで結びます。地面からではなく木の上で支えるので、根元のまわりに支柱が立ちません。

左が樹冠の中で幹どうしを結ぶケーブリング、右が地面のアンカーからワイヤーで引くワイヤー支柱。支える場所も目的も違う(当社イラスト)
当社が使っている資材の一つ、コブラ(ドイツ製のロープの樹冠固定の資材)のマニュアルは、ケーブリングを目的で3つに分けています。
| 種類 | 使う場面 | 取り付け方(マニュアルの記載) |
|---|---|---|
| ダイナミック(伸縮) | 過度の揺れによる枝折れを防ぐ | 守る枝の付け根から、枝の長さの3分の2の高さに付ける、伸び縮みするロープで適度な揺れを残す |
| スタティック(低伸縮) | 亀裂などの損傷の広がりを抑える | 損傷のある所から枝の長さの3分の2の位置に付ける、亀裂が進まないよう伸びるものは使わず緩衝材も付けない |
| 重量サポート | 枝が折れたときに落ちないよう吊る | できるだけ垂直に、緩みなく付ける |
出典: レイ・ソーラデザイン株式会社「コブラ ツリーケーブリング システム」マニュアル(2025年版)p.4。仕組みと規格は「コブラ・ツリーケーブリングとは」で説明しています。
樹木医3名がロープで登る、高所の外観診断
今回は事前に樹木医3名が実際に保存樹木イチョウにロープワーク(ツリークライミング)で登りこみ
診断を行う高所外観診断を行っておりました。
実際に樹高20mを超えるような保存樹木クラスの樹木となると
地上からだけでは上部の枝や幹の腐れや傷みなどについて確認できない箇所も出てきます。
今回はその診断結果を元に、大枝の枝折れ・落枝のリスク軽減の為に支柱を施工する事になりました。
東京都の街路樹診断等マニュアルは、外観診断で幹の分岐部や大枝の付け根に直接触れて診断するとき、梯子や脚立で調べるのは高さ2.0m程度までとし、それより高い所は墜落制止用器具や高所作業車を使って調べるとしています(p.33)。同じページの判定の基準では、分岐部の亀裂や入り皮が大きく、腐朽や開口空洞もある場合は「著しい被害」とし、必要に応じて支柱の設置・切除・機器診断を行うとされています。

高所の樹木診断。地上から見えない樹冠の上の傷みは、クライミング、高所作業車、ドローンで確かめる(当社イラスト)
保存樹木とは──法律と区の制度
保存樹木の仕組みのもとになっているのが、1962年(昭和37年)の「都市の美観風致を維持するための樹木の保存に関する法律」です。市町村長は、都市計画区域の中で美観風致を維持するため必要があると認めるとき、政令の基準に当てはまる樹木を「保存樹」に指定できます(第2条)。政令の基準は、健全で樹容が美観上とくにすぐれていることに加えて、次のいずれかに当てはまることです。
| 樹木の形 | 政令の基準 |
|---|---|
| 一般の樹木 | 高さ1.5mの所の幹の周囲が1.5m以上 |
| 高い樹木 | 高さが15m以上 |
| 株立ちした樹木 | 高さが3m以上 |
| つる性(攀登性)の樹木 | 枝葉の面積が30㎡以上 |
出典: 都市の美観風致を維持するための樹木の保存に関する法律施行令(昭和37年政令第404号)
指定されると、市町村は標識を設置し(第4条)、所有者は枯損の防止その他の保存に努めることになります(第5条)。木が滅失・枯死したときは届け出が必要です(第6条)。東京の区には、区の条例にもとづいて指定している区もあります。たとえば渋谷区は「渋谷区みどりの確保に関する条例」にもとづいて保存樹木を指定し、地上1.5mの高さで幹の周囲が1.2m以上であることを目安の一つにしています(渋谷区「樹木等の保護」)。呼び名や指定の目安、助成の中身は区ごとに違います。9区の公式ページで確かめた内容は「保存樹木・保護樹木とは」にまとめています。
イチョウは全国でいちばん多い街路樹
イチョウは、保存樹木だけでなく街の中でもよく見かける木です。国土技術政策総合研究所の「わが国の街路樹IX」(国総研資料 第1246号、2023年)によると、令和4年3月31日現在、全国の高木の街路樹は6,287,588本で、樹種別ではイチョウが521,075本(8%)と最も多く、サクラ類の521,053本が続いています。
ロープによる支柱──金属の部材を使わない資材
支柱というと丸太や竹、金属製のワイヤーをイメージされることも多いと思いますが、
近年では、ポリエステル製などのロープによる支柱も増えてきています。
今回使用した資材は、強化ポリエステル製の耐久伸縮性のあるロープで
金属、金具類の部材を一切使用しません。
更新時などに出る古い部材の処分が容易です。
金属のワイヤーと異なりサビの心配がない為、
潮風の影響のある海に近い立地でもメリットがあります。
ロープの種類(対荷重、伸縮率など)も様々なので、
対象の樹木、枝の部位などによって使い分けています。
国内で買えるケーブリングの資材と金属のワイヤーの比べ方は「国内で買える樹木のケーブリング資材とワイヤー支柱を比べる」にまとめています。

樹上でケーブリングを取り付ける作業(当社イラスト)
樹木医とともに、OJTで施工
樹木医の中村、髙尾と、樹木医を目指す若手が
OJTをしながらの施工となりました。

樹木医 支柱 高所外観診断 カルテ 樹木診断 ケーブリング
若い職人たちにとって樹木医とともに実際に触れ、
施工できる機会はきっと今後の大きな糧となると思います。
ありがとうございました。
※OJTは「On The Job Training」の略で、
先輩が後輩に対し業務に必要な知識やスキルを
現場で実践しながら伝承する手法です。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
樹木医 髙尾聡司
よくある質問
Q1. ケーブリング支柱は、何のために取り付けますか。
樹木の倒木や枝折れを予防し、そのリスクを軽くするためです。この記事のイチョウでは、樹木医の高所の外観診断の結果をもとに、枝折れによる落枝のリスクを軽くするために取り付けました。
Q2. 高い所の枝の傷みは、地上から確かめられますか。
樹高20mを超えるような木では、地上からだけでは上部の枝や幹の腐れや傷みを確かめられない箇所が出てきます。この木では、樹木医3名がロープで登って診断しました。
出典・参考情報
・都市の美観風致を維持するための樹木の保存に関する法律(昭和37年法律第142号)第2条・第4条・第5条・第6条、同法施行令(昭和37年政令第404号)(e-Gov 法令検索)
・渋谷区「樹木等の保護」(保存樹木の指定の根拠と基準)
・東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.33(分岐部・付根の異常の診断と判定の基準)
・国土技術政策総合研究所「わが国の街路樹IX」(国総研資料 第1246号、2023年6月)(令和4年3月31日現在の樹種別の本数)
・レイ・ソーラデザイン株式会社「コブラ ツリーケーブリング システム」マニュアル(2025年版)p.4(ケーブリングの3つの種類)
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