国は2026年10月6日、クビアカツヤカミキリの防除に予備費約32億円を使うことを閣議決定し、環境省は自治体向けの交付金の追加公募を始めました。長野県での新たな確認、森林総研・農研機構の最新の防除の知見、秋から冬にできる対策を、一次情報をもとに樹木医が整理します。
月に1回お届けしているクビアカツヤカミキリのニュース、今回は第2回です。第1回では、22都府県への広がりと国の防除戦略をまとめました。今回は、その後の国の動きに加えて、ここ1〜2年に発表された防除の研究や手引きの改訂を中心に、成虫が出てこない秋から冬のうちにできることを整理します。
今月の要点
- 国は10月6日、クビアカツヤカミキリの防除に必要な経費として、農林水産省と環境省あわせて約32億円(3,231,374千円)の予備費の使用を閣議決定しました。
- 環境省は同じ日から、自治体の防除を支援する交付金の追加公募を始めました(11月6日まで)。
- 長野県では10月1日、小諸市と南牧村で新たに確認されました。
- 農研機構が2026年3月に「外来カミキリムシ総合対策マニュアル」をまとめ、森林総研からは毒餌剤や脱出孔の封鎖などの新しい研究成果が出ています。
- 伐倒木のくん蒸に使われてきたカーバム剤「NCS」の農薬登録が、2026年6月30日に失効しました。
最新情報──予備費約32億円と、交付金の追加公募
10月6日の閣議で決まった予備費の使用は、農林水産省所管が527,574千円、環境省所管が2,703,800千円で、合わせて3,231,374千円です。事項名はどちらも「クビアカツヤカミキリの防除に必要な経費」。地方公共団体などが行う防除を支える交付金に充てられます。

これを受けて環境省は、特定外来生物防除等対策事業(交付金)のうち、クビアカツヤカミキリに係る事業の追加公募を始めました。公募期間は10月6日から11月6日までです。対象は、9月11日に国の対策本部が決めた「防除戦略」に沿って自治体が行う防除と、地域ごとの防除戦略づくりに向けた調査で、防除事業(交付率1/2以内)、早期防除計画の策定(定額250万円)、地域防除戦略の策定(定額500万円)の3つに分かれています。いずれもクビアカツヤカミキリに係る事業に限られます。
発生の広がりでは、長野県が10月1日、小諸市(サクラ類2本)と南牧村(サクラ類1本)で新たにクビアカツヤカミキリと断定したと発表しました。一方、農林水産省がまとめる発生確認の都府県は、8月19日更新の22都府県から変わっていません。
最新の防除の知見
農研機構「外来カミキリムシ総合対策マニュアル」(2026年3月)
農研機構は2026年3月、クビアカツヤカミキリなど外来のカミキリムシ3種の対策をまとめた「日本の果樹と樹木を守る外来カミキリムシ総合対策マニュアル」を公表しました。冒頭で「万能な単一の防除技術は存在しません」とし、発生段階や被害状況、地域の条件に応じて複数の手法を組み合わせることを前提にしています。
その中の一つが、幹に蛍光イエローのスプレー塗料を塗って産卵を抑える方法です。成虫が出る前に主幹を中心に塗り、目で見て色が薄くなっても3シーズンは産卵抑制の効果が続くことが確かめられています。ただし効果は徐々に落ちると考えられるため、2シーズンでの塗り直しが勧められています。費用の目安は、高さ150cmほどまで処理して、幹の直径5.9〜8.2cmで330円、28.5〜34.0cmで1,650円です。幼虫の掘り取りについては、冬はフラスが見えても幼虫が排糞孔から離れた位置で休眠している可能性が高く、時期が大事だと書かれています。
森林総研の新しい研究成果
森林総合研究所からは、ここ1年で3つの成果が出ています。いずれも研究段階のもので、すぐに現場で使える技術ではありませんが、防除の方向を考えるうえで大切な知見です。
- ボトル型の毒餌剤(2026年3月): 殺虫成分のアセタミプリドと、誘引成分の糖酢液(人工樹液)を使った毒餌剤を、被害木に巻いたネットの中に置いたところ、大型ボトル(250mL)で駆除率53%でした。カミキリムシ類では世界で初めての毒餌剤とされています。実用化には薬剤成分の探索や装置の改良が課題です。
- 接着剤で脱出予定孔を塞ぐ(2025年12月): 足利市のサクラ7本で、目で見つけた脱出予定孔37か所にエポキシ系の接着剤を注入したところ、成虫の脱出が見られた孔は18.9%でした。一方で、見落とした孔から脱出した成虫もいました。
- ほかの雌の卵がある場所に産卵する(2026年4月): 雌11個体のうち10個体が、卵がすでにある枝により多く産卵しました。カミキリムシは同じ種の痕跡を避けて産卵すると考えられてきたので、逆の傾向です。産卵を人の手で誘導する防除につながる可能性があるとされています。
大阪府の手引書 改訂第6版(2026年4月)
大阪府立環境農林水産総合研究所の「クビアカツヤカミキリ被害対策の手引書」も改訂されました。ネット巻きは、ポリエチレン製のネットが野外で5年以上使えることを確かめたうえで、木の成長でネットとの隙間が1cm以下になったら張り直すとしています。巻く時期は10月から翌5月(成虫が出る前まで)です。サクラへの樹幹注入は、注入した所の真上で水の通り道がふさがった事例があるため、繰り返さず、初回の後は予防の対策に切り替えるよう書かれています。脱出予定孔は、粘土状の資材で塞ぐと6割くらい脱出を防げるとしています。

農薬登録の変化
農薬にも動きがあります。伐倒木のくん蒸に長く使われてきたカーバム剤の「NCS」「三洋NCS」「ヤシマNCS」は、2026年6月30日に登録が失効しました(農林水産消費安全技術センターの失効農薬一覧)。一方、同じカーバムナトリウム塩の「キルパー40」は、2026年2月に核果類の伐倒木・枯損木への適用が加わっています。少し前の手引きにはNCSが載っているものもあるので、注意が要ります。薬剤を使う前には、最新のラベルと農薬登録情報提供システムで、適用と使用時期を確かめる必要があります。
秋から冬にできること
成虫が飛ぶのは初夏から夏ですが、秋から冬は、次の春に向けた準備の時期です。森林総合研究所の手引きによると、フラスは5〜9月に盛んに出され、冬の間は幼虫が活動を休みます。冬に見つかるフラスは、それまでに出たものが根元に残っていることが多く、見分けが大切になります。
見分けるときは、量・形・出る場所を見ます。大阪府立環境農林水産総合研究所の手引書(改訂第6版)は、クビアカツヤカミキリのフラス(木くずと糞の混ざったもの)の特徴として、量が多いこと、うどん状に固まること、幹の下部や側根に被害が多いことを挙げ、粒は薄く削り取られたコーンフレーク状だとしています。一方、コスカシバのフラスは顆粒状で少量、ゴマダラカミキリのフラスは主に幹の地際から出る長い繊維状です。東京都環境局の資料も、クビアカツヤカミキリのフラスが出たばかりのときは棒状やかりんとう状につながることを、写真で示しています。見回りでは、地際、根元の樹皮の割れ目、低い位置の枝の分かれ目を、しゃがんで下から確かめます。

当社の現場で撮影したクビアカツヤカミキリのフラスです(左: 幹にたまったフラス、右: 樹皮の下から出たフラス)。
- 幹にたまったフラス
- 樹皮の下から出たフラス

被害が進んだ木を伐るのも、この時期です。大阪府の手引書は、成虫が出る5〜8月の伐採を避けるよう書いています。農研機構のマニュアルは、伐った木は破砕・焼却・くん蒸のどれかで処理し、破砕するならチップの厚さを1cm以下にすること、土に埋めるなどそれ以外の方法は有効性が実証されていないので行わないことを求めています。切り株も、できるだけ根ごと取り除くことが望ましいとされています。

また、大阪府の手引書は、厳寒期を除く落葉期(12〜3月ごろ)に、バラ科以外の若木への植え替えを検討することも挙げています。フラスの出ている孔への薬剤の注入や幼虫の掘り取りは、幼虫が活動する春から秋の作業です。来春に向けて、どの木のどの孔だったかを記録しておくと、作業を早く始められます。

樹木医から見たこと
予備費と追加公募で、自治体が防除に使えるお金は大きく増えます。ただ、お金があっても、どの木が被害を受けていて、どの木から手を付けるべきかが分からなければ、伐採や薬剤は空回りします。防除戦略が求めているのも、被害の段階に応じた手の打ち方です。1本ずつ調べて記録し、その記録をもとに優先順位を決めることが、限られた時間と人手を生かす近道だと考えています。
新しい研究成果を見ていて感じるのは、どれも単独で決め手になる技術ではない、ということです。毒餌剤もネットの中に置いて初めて働き、接着剤の封鎖も見落とした孔があれば抜けられます。農研機構のマニュアルが「万能な単一の防除技術は存在しません」と書いているとおり、見回り、ネット、伐倒、薬剤を、木と場所に合わせて組み合わせていく。その組み合わせを考えることが、樹木医の仕事だと考えています。
来月は、福島県の対策会議の結果や、国の緊急調査の進み具合、交付金の交付決定などを追っていきます。
よくある質問
Q1. クビアカツヤカミキリの防除に、国はいくら使いますか。
2026年10月6日の閣議決定で、予備費から農林水産省所管527,574千円、環境省所管2,703,800千円、合わせて3,231,374千円(約32億円)を使うことが決まりました。地方公共団体などが行う防除への交付金に充てられます。
Q2. 冬でもクビアカツヤカミキリのフラスは出ますか。
森林総合研究所の手引きによると、フラスが盛んに出るのは5〜9月で、冬は幼虫が活動を休みます。冬に見つかるフラスは、それまでに出たものが根元に残っていることが多いので、形と量で見分けます。
Q3. 被害を受けたサクラは、いつ伐るのがよいですか。
大阪府の手引書は、成虫が出る5〜8月の伐採を避けるよう書いています。伐った木は、成虫が出る前に破砕・焼却・くん蒸のどれかで処理します。破砕するときは、チップの厚さを1cm以下にします。
Q4. 蛍光イエローの塗料で、本当に産卵を防げますか。
農研機構のマニュアルでは、塗った部分で産卵を抑える効果が、少なくとも3シーズン続くことが確かめられています。ただし効果は徐々に落ちると考えられるため、2シーズンでの塗り直しが勧められ、単独ではなくほかの対策と組み合わせることが前提です。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
・財務省「令和8年度一般会計予備費使用」(令和8年10月6日閣議決定)
・環境省「令和8年度特定外来生物防除等対策事業(交付金)の追加公募について」(2026年10月6日)、事業の概要
・長野県 報道発表(令和8年10月1日)
・農研機構「日本の果樹と樹木を守る外来カミキリムシ総合対策マニュアル」(2026年3月)
・森林総合研究所「クビアカツヤカミキリ誘って殺すボトル型毒餌剤開発、ネット内設置」(2026年3月2日)、「接着剤による成虫脱出孔封鎖でクビアカツヤカミキリ防除」(2025年12月26日)、「特定外来生物クビアカツヤカミキリ、同種が産み付けた卵がある場所に産卵する傾向」(2026年4月24日)、「クビアカツヤカミキリの防除法」(2022年)
・大阪府立環境農林水産総合研究所「クビアカツヤカミキリ被害対策の手引書(改訂第6版)」(2026年4月)
・農林水産消費安全技術センター「登録・失効農薬情報」(失効農薬一覧 2026年9月30日現在)、農林水産省「農薬登録情報提供システム」
・東京都環境局「クビアカツヤカミキリの被害が発生・拡大しています!」
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