東京都の「街路樹診断等マニュアル」は、平成10年度に作られてから令和3年度までに7回改定されてきました。中身がわかる改定の背景には、表参道のケヤキの倒木、「健全」と判定された樹木の根株腐朽による倒木、台風15号を受けた防災診断といった、実際の倒木がありました。改定の歴史と2026年のこれからを樹木医が読み解きます。
この記事の要点
- 東京都は平成10年度に、国や自治体に先駆けて街路樹診断のマニュアルを作りました。その後、平成11・18・19・22・25・26年度と令和3年度に改定しています(2025年3月の都議会での都の答弁)。
- 中身がわかる改定のきっかけは、「実際に倒れた樹木」と「それまでの診断では捉えきれなかった弱点」でした。平成25年度には、「健全」と判定された樹木が根株の腐朽で倒れた事例を受けて根株診断を加えています。
- 令和3年度版は、不健全な樹木を見つけて更新する段階から、健全な状態を保つための包括的な管理へと考え方を広げました。外観診断の必須化、「精密診断」から「機器診断」への改称、フォローアップ診断の新設、根の保護のガイドラインなどです。
- 2026年には砧公園の倒木と都有施設約80万本の一斉点検、国土交通省の新しいガイドラインが続きました。都は2025年3月の時点で「現時点で改定の予定はございません」と答えており、次の改定の動きは公開資料では確かめられません。
街路樹診断等マニュアルとは──点検から処置までの決まり
街路樹診断等マニュアルは、東京都建設局が都道の街路樹について、点検・診断・処置の手順と判定の基準をまとめた技術文書です。最新版は令和3年度版で、本編と参考資料、正誤表(令和3年6月30日)、樹木点検表と診断カルテの様式(Excel)が東京都建設局のページで公開されています。
令和3年度版の第Ⅰ章は、題を「街路樹の健全状態を保つための包括的管理について」としています。冒頭の管理のフローを描き直すと、次のようになります。入口の「樹木点検」で拾い上げ、樹木医などが「外観診断」で判定し、必要な樹木だけ「機器診断」を行い、総合判定のあとに処置と次の診断の時期を決めるという流れです。

令和3年度版の流れ。樹木点検で拾い上げ、外観診断で判定し、必要な樹木だけ機器診断を行う(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.1「管理のフロー」ほかをもとに当社作図)
このフローでは、「点検」と「診断」がはっきり分けられています。樹木点検は、原則として樹木の知識を持つ街路樹担当職員が行う任意の点検で(委託でもよいとされています)、結果は「異常なし・該当なし」か「異常あり・該当あり」の2段階です。一方、外観診断は樹木医などが木槌や鋼棒などの診断用具で全身を見て、活力と部位から判定します。点検で見る15の項目は「樹木点検表と外観診断カルテの読み方」で説明しています。

左: 歩きながら目で見て回る点検。右: 樹木医が近づき、木槌や鋼棒で調べる診断(イラストは当社作成)
マンションや公園の樹木にも関係する理由
このマニュアルは都道のための文書ですが、影響は都道にとどまりません。港区は令和5年4月の「樹木管理マニュアル」で、樹木診断に都の令和3年度版を一部準用し、公園などの樹木にも準拠するとしています。2026年3月の都議会では、都立公園の樹木の管理にも街路樹診断等マニュアルを活用していると都が答えています。当社の樹木診断も、このマニュアルの流れとカルテの考え方をもとにしています。
始まりは表参道のケヤキだった(平成7〜10年)
東京都の街路樹診断の出発点は、平成7年(1995年)9月に明治神宮の表参道でケヤキが倒れたことです。都の計画課長らの論文(根来・土居 2018)は、このケヤキが「突然倒木した」ことを契機に、街路樹の緊急調査を行ったと書いています。2018年11月の都議会でも、都は表参道のケヤキの倒木をきっかけに街路樹診断を始めたと答弁しています。

根株の腐朽で根元から倒れたケヤキのイメージ。特定の場所を描いたものではありません(イラストは当社作成)
当時の経緯は、山本正美氏の寄稿「東京都における街路樹の診断」(グリーン・エージ 2007年4月号)がまとめています。それによると、緊急調査では164本のうち10本に著しい腐朽が見つかり、平成8年度に約1,900本を調べたところ約540本が危険な状態でした。都道の約14万本のうち、危険木は約35,000本と推定されたといいます。

表参道の倒木のあとの調査で、腐朽した街路樹が次々に見つかった(数字は山本正美 2007「東京都における街路樹の診断」グリーン・エージ 34(4) による。割合は当社の計算)
調べるほど、外から見ただけではわからない腐朽が見つかった。これが、平成10年度に「街路樹診断マニュアル」がつくられ、診断が事業になった理由です。根来・土居(2018)によると、初版は目で見る「外観診断」と機器を使う「精密診断」の2本立てで、判定は3段階でした。
樹木医の制度が林野庁の補助事業として始まったのは平成3年度です。都はその後、マニュアルで街路樹診断は樹木医が行うと定め(2018年11月の都議会での答弁)、平成18年には都が認定する街路樹診断の講習会も始まりました(有賀ほか 2020)。制度ができて間もない資格が、都市の街路樹の安全を支える仕組みに組み込まれていったことになります。

樹木医制度の年表(出典: 日本緑化センターの資料をもとに当社作成)
改訂の歴史を年表で見る──作成から7回の改定
東京都の街路樹診断のマニュアルは、平成10年度に作られたあと、平成11・18・19・22・25・26年度と令和3年度の7回改定されています。これは2025年3月17日の都議会 環境・建設委員会で、都の公園計画担当部長が答えた年度の並びです。上の段に倒木や災害、下の段に改定を置いて並べました。

上の段が倒木・災害と国の動き、下の段が東京都のマニュアルの改定(改定の年度は2025年3月17日の都議会答弁。当社作図)
平成11・19・22年度の改定は、何が変わったのかを公開資料で確かめることができませんでした。平成10年度版は職員向けにまとめたものと都が答弁しており、令和3年度版より前の版は、公開資料の中に見当たりません。ここからは、学会誌の論文と令和3年度版の本文で中身が確かめられる改定を中心に見ていきます。
平成18年: 点検の導入と5段階の判定
平成18年の改定では、のちの初期診断(令和3年度版では樹木点検)にあたる「街路樹点検」と、樹木医が行う「専門診断」(外観診断・精密診断)に分け、判定を3段階から5段階に増やしました(根来・土居 2018)。山本(2007)は、5段階を A・B1・B2・B3・C としています。

判定の段階の変わり方。5段階から4段階に変わった年度は公開資料に見当たらない(出典: 根来・土居 2018、山本 2007、東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.11 をもとに当社作図)
平成26年度版の時点では、判定は A・B1・B2・C の4段階になっていました。5段階から4段階に変わった年度と、その理由は、調べた範囲の資料に書かれていません。
平成25〜26年度: 根株診断の新設と、再診断の周期
平成25年度の改定では、精密診断に「根株診断」を加えました。平成26年度版では、総合判定に応じて1年から10年の間隔で再診断の時期を定めています(令和3年度版 p.3)。
令和3年度: 「探して更新する」から「健全に保つ」へ
令和3年度版は、名前を「街路樹診断等マニュアル」に変え、点検・処置・根の保護まで含む文書になりました。改定の目的の節には、不健全木の更新が進んで事業の効果は出ていると書いたうえで、海外の主要都市では診断に加えて樹体に配慮した剪定など総合的な維持管理が行われていることを挙げています。
改定のたびに、同じ段階の呼び名も変わってきました。点検と精密診断の改称には、令和3年度版が理由を書いています。

街路樹点検→初期診断→樹木点検、精密診断→機器診断(出典: 根来・土居 2018、東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.2〜4 をもとに当社作図)
改訂の裏にあった課題──倒れた樹木と、制度の弱点
中身がわかる改定の理由は、倒木の事故と、運用してみて見えてきた制度の弱点の2つに分けられます。どちらも、令和3年度版の本文と都の担当者の論文に書かれています。
「健全」と判定された樹木が、根株腐朽で倒れた
平成25年度の改定の理由は、「判定結果が健全であったにも関わらず、倒木するという事例」でした。根来・土居(2018)は、その原因を「当時は診断対象部位となっていない根株の腐朽」と書いています。改定は、学識経験者・樹木医資格を持つ実務者・街路樹担当者による検討会で検討されました。

「健全」と判定された樹木の根株腐朽による倒木を受けた、平成25年度の改定の3点(出典: 根来・土居 2018 樹木医学研究 22(1) をもとに当社作図)
このときレジ(Resi PD)のキリが60cmまで伸び、根株まで入れて診断できるようになりました。あわせてアーボソニック3Dなどの新しい機器も導入されましたが、当面は実績のある貫入抵抗測定器(レジ)を原則としています。根株診断の測り方とカルテの読み方は、「レジ(Resi PD)の根株診断カルテの読み方」で詳しく説明しています。

根株の中心が腐朽すると、外からは元気に見える木でも地際から倒れることがある(イラストは当社作成)
現場での経験から言えば、葉がよく茂っている樹木でも、根元の状態は別に確かめる必要があります。地上部の勢いと根株の腐朽は、必ずしも一致しないからです。平成25年度の改定は、この当たり前を制度に書き込んだものだと受け止めています。
平成23年の台風15号と、大径木の防災診断
平成23年(2011年)9月の台風15号について、根来・土居(2018)は、八王子で43m/s、大手町で36m/sの「観測史上最も強い風」が吹き、都の街路樹の倒木・半倒木・枝折れが1,000本を超えたと書いています。都はこれを受けて「大径木再生大作戦」を始め、防災上重要な38路線の幹周り90cm以上の大径木で、外観診断と根株診断を必須にした「防災診断」を行いました。

台風15号の被害を受けて、防災上重要な38路線の大径木で外観診断と根株診断を必須にした防災診断が行われた(出典: 根来・土居 2018、東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.2、東京都の事業報告をもとに当社作図)
都の事業報告によると、この事業は平成23年12月の「2020年の東京」に位置づけられ、平成25年6月に指針を策定して着手し、令和3年3月に完了しました。防災診断そのものは平成30年度に終わり、都はその効果を検証しています。台風は改定そのものではなく、のちの改定の材料になった防災診断のきっかけでした。
検証の結果、外観診断で根株の異常の6割以上を検出していたことがわかりました(令和3年度版 p.2)。令和3年度版が外観診断を必須にした裏付けの一つです。母数や数え方は本文に書かれていないので、「6割の樹木に根株の異常があった」という意味ではない点に注意が要ります。

東京都の効果検証では、外観診断で根株の異常の6割以上を検出した。対象の本数・確かめ方は公表資料に無い(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.2 をもとに当社作図)
5つの項目で、リスクを小さく見積もっていた
同じ検証で、もう一つの問題が見つかりました。部位診断の5項目(枯枝、スタブカット、子実体、巻き根、建築限界越え)は「処置を前提とした判定基準」になっていて、リスクが過小評価されていると、令和3年度版は自ら書いています。

令和3年度版で判定基準を見直した5項目: 枯枝・スタブカット・子実体・巻き根・建築限界越え(イラストは当社作成)
「精密診断」という名前と、「異常なし」の混同
言葉が招いた誤解もありました。「精密診断」という名前から、外観診断の結果を「より精密に」行う診断だと受け取られることがあったため、令和3年度版は名前を「機器診断」に改めました。機器によって得意とする腐朽の形や状態が違うことも、整理が必要だったとしています。
もう一つは、初期診断の「異常なし」が、専門診断の「健全」と同じだと混同されたことです。令和3年度版は初期診断を「樹木点検」として位置づけ直し、点検で問題がなくても、外観診断の対象木は5〜10年のサイクルで外観診断を受ける必要があるとしました。

樹木点検は2段階、診断の総合判定は4段階(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.3・p.5〜6・p.10・p.66 をもとに当社作図)
私の感覚では、点検は「ふるい」です。目の粗いふるいで拾えなかった樹木を、健全と呼ぶことはできません。管理する方にとっても、点検の結果と診断の結果を同じ言葉で扱わないことが第一歩になります。
B2判定の樹木に、毎年穴をあけるジレンマ
平成26年度版は、総合判定に応じて1年から10年の間隔で再診断の時期を決めましたが、診断の中身までは決めていませんでした。そのため再診断のたびに外観診断からやり直すことになり、コストの面で大きな課題になっていました。さらに、B2判定の樹木は毎年機器診断をしなければならず、樹体への悪影響が懸念されていたと令和3年度版は書いています。

平成26年度版は一律1年後に外観・機器診断、令和3年度版は1〜3年後にフォローアップ診断(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.3・p.67・p.89 をもとに当社作図。間隔は例)
レジの診断では、細いキリで幹に穴をあけます。私の感覚では、穴は小さくても、同じ樹木に毎年あけ続けることは避けたいものです。令和3年度版はここに「フォローアップ診断」を新しく設けました。B2の樹木を対象に、前回の被害の状況に焦点を当てて診る診断で、時期は被害の状態に応じて1〜3年の範囲で決めます。事前に前回までの診断データを受け取り、前回のカルテと同じ被害の部分を撮影します。

前回のカルテを見ながら、前回の被害の箇所に絞って確かめる(イラストは当社作成)
診断のあとの処置が弱かった
C判定の樹木の更新は進んだ一方で、それ以外の樹木には風圧軽減剪定などの適切な処置が取られず、強剪定などの不適切な処置で却って樹勢を弱めることがあった、と令和3年度版は書いています。強剪定を繰り返した樹木に何が起きるかは、次の図のとおりです。

強剪定を繰り返した木に起きること(当社作成)
令和3年度版の第Ⅳ章は、総合判定ごとに処置の方針を表にしました。剪定・樹体保護・植栽基盤の改善・根上がり対策・病虫害防除・更新を、A・B1・B2・Cのどれに行うかを示しています。

総合判定ごとの処置(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.68 表Ⅳ-1・1・p.70〜75 をもとに当社作図)
風圧軽減剪定については「いきなり強剪定で樹冠を詰めるのではなく、目標樹形を定め、数年かけて計画的に」行うよう書いています。さらに参考として、フロリダ大学の資料にもとづく海外の「構造的剪定」を例に挙げました。植栽してからおおむね25年のあいだに、幹と樹冠の骨組みを計画的につくる考え方です。

植栽しておおむね25年のあいだに樹冠の骨組みをつくる構造的剪定(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.74。フロリダ大学の資料を都がまとめた表をもとに当社作図)
工事で根が傷つく
最後の課題は、街路樹の周りで工事をする機会が増えたことです。電線共同溝工事などで歩道を改修するとき、誤って根が切られたり傷ついたりするおそれがあるとして、令和3年度版は第Ⅵ章に「街路樹の根の保護に関するガイドライン」を設けました。国内に参考になる事例がなかったため、ニューヨーク市などの海外の事例を調べたうえで、都道の歩道の幅や植栽の間隔に合わせて工事配慮エリアを定めています。中身は「街路樹のそばで工事をするとき、根をどう守るか」で解説しています。

工事配慮エリアの考え方(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.100 をもとに当社作成)
令和3年度版で何が変わったか──平成26年度版との比較
令和3年度版の改定を、課題と見直しの組で並べると次のようになります。下の比較表の「診断する人」に出てくる街路樹診断士は、現在の街路樹・都市樹木診断士です。

令和3年度版の課題と見直し(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.2〜4 をもとに当社作図)
平成29年2月時点の東京都の仕組み(国総研資料第1059号の事例集。平成26年度版に準拠)と、令和3年度版を表で比べます。
| 項目 | 平成29年時点(平成26年度版に準拠) | 令和3年度版 |
|---|---|---|
| 入口の調べ | 簡易診断の「初期診断」(樹木医が実施) | 樹木点検(原則として街路樹担当職員、委託も可、任意、2段階評価) |
| 外観診断 | 初期診断で異状ありの樹木に行う | 対象の樹木すべてに必須 |
| 機器を使う診断 | 精密診断、防災診断の根株診断・腐朽診断 | 機器診断(腐朽診断・根株診断)、貫入抵抗測定器(レジ)が基本 |
| 判定 | A・B1・B2・C の4段階 | A・B1・B2・C の4段階(総合判定の出し方は大きく変更) |
| B2の再診断 | 一律1年後に外観診断・機器診断 | フォローアップ診断を1〜3年後 |
| A・B1の再診断 | 判定に応じて1〜10年の間隔 | 5〜10年後に外観診断 |
| 処置 | 処置編で扱う | 判定ごとの処置の表、海外の構造的剪定を例示 |
| 根の保護 | 定めなし | 第Ⅵ章 根の保護に関するガイドライン(工事配慮エリア) |
| 住民などとの調整 | 設計編の1項目 | 第Ⅴ章として新しく章立て |
| 診断する人 | 樹木医(都の講習を受講) | 根株診断を含む発注は街路樹診断士の資格取得後2年以上の実務経験、それ以外は樹木医(いずれも講習を受講) |
出典: 国土技術政策総合研究所 資料第1059号「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」事例集 2-16・2-17(平成29年2月時点)、平成26年度版の判定の段階は根来・土居(2018)樹木医学研究 22(1) p.17、東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」p.3〜4・p.12〜13・p.67・p.89・p.93
診断の対象と、診断する人
外観診断の対象は、原則として幹周り60cm以上の樹木です。ただし、成木でも60cm以上になることが稀な樹種や、これまで倒木などの被害が多かった樹種は、幹周り30cm以上(5種)または50cm以上(7種)でも対象にします。診断する人は、根株診断を含む発注では街路樹診断士の資格を取ってから2年以上の実務経験がある人、それ以外は樹木医で、どちらも都の講習か都が認める講習・研修の受講が条件です。2025年10月31日に街路樹診断協会の名称が変わり、資格の名前も街路樹・都市樹木診断士に改められました。

診断の対象は原則として幹周り60cm以上。50cm以上・30cm以上で診断する樹種もある(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.12〜13 をもとに当社作図)
総合判定と、次の診断の時期
総合判定は A(健全か健全に近い)、B1(注意すべき被害が見られる)、B2(著しい被害が見られる)、C(不健全)の4段階です。次の診断は、A・B1 が5〜10年後に外観診断、B2 が1〜3年後にフォローアップ診断、C は更新(撤去・植替え)です。

総合判定の4段階と、その後。腐朽空洞率は参考基準値(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 表Ⅲ-4・1(p.66)ほかから当社作成)
機器診断は「精密」ではなく「機器」
令和3年度版は、機器診断を「貫入抵抗測定器(商品名:レジ)によるものを基本とする」とし、理由を作業効率とこれまでの測定実績としています。ピカス(マニュアルでの呼び名は弾性波樹木診断装置)やアーボソニック3D(多点式応力波速度測定器)などほかの機器は、参考資料で特徴と測定誤差を詳しく整理しました。腐朽空洞の形によって、機器ごとに大きめにも小さめにも出ることがある、という整理です。

マニュアルでの機器の呼び名と、過大・過小になりやすい例(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.51・p.53、参考資料 p.106 をもとに当社作図)
当社では、まずピカスで断面の全体を見て、気になる部分をレジで確かめる順で診断を組み立てることが多くあります。音の機器は面で、レジは線で見る機器なので、片方だけで判断しないためです。機器の違いは「精密診断(機器診断)とは」でも比べています。
住民・地元自治体との調整を章として立てた
令和3年度版は、第Ⅴ章「ステークホルダー(住民、地元自治体等)との調整等」を新しく立てました。街路樹を身近な緑として愛着を持つ住民の視線が変わりつつあり、従前以上の配慮が求められている、という認識からです。計画・実施・処置の3つの段階に分け、処置段階の調整はこれまでどおり行い、情報提供の期間は最低でも2週間確保するとしています。

計画・実施・処置の3つの段階での調整。情報提供の期間は最低でも2週間(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.4・p.93〜95 をもとに当社作図)
令和3年度版は、令和2年10月から令和3年1月までの4か月に、外部委員3名の改定検討委員会と、都の職員8名の作業部会で検討されました(参考資料 p.157〜158)。

令和2年10月〜令和3年1月に、委員会3回・作業部会3回(出典: 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 参考資料 p.157〜158 をもとに当社作図)
2026年、東京で起きたことと、残る論点
令和3年度版は、不健全木の更新が進み、事業の効果は出ているとしたうえで、健全な状態を保つ管理に軸足を移した版でした。その5年後の2026年、都立公園で倒木が続き、都の樹木の点検があらためて問われることになりました。

2026年の倒木と、東京都・国土交通省の動き(出典: 東京都・国土交通省・千代田区の発表、TOKYO MX・日テレNEWS NNN の報道をもとに当社作図)
砧公園の倒木と、都有施設約80万本の一斉点検
2026年3月7日、都立砧公園でサクラが倒れ、70代の女性が軽いけがをしました。3月8日にはヒマラヤスギ、4月2日には再びサクラが倒れ、同じ4月2日には千鳥ヶ淵でもソメイヨシノが倒れています。都は4月8日、樹木医などによる外観診断、異常があった場合の機器診断、AIを使った新しい点検手法の検討を発表しました。当社もこの時期、砧公園と千鳥ヶ淵の倒木についてテレビの取材を受けています。
5月15日の確報では、都有施設の高さ3m以上の樹木約80万本を職員などが目視で点検し、約13,900本(約2%)に異状があったとされました。伐採済みは約600本です。数字の読み方は「都有施設80万本の樹木一斉点検」で詳しく書きました。

異状のあった約13,900本のうち約11,100本が公園、応急措置は約11,700本が注意喚起等(出典: 東京都政策企画局「都有施設における樹木の一斉点検の結果について(確報)」2026年5月15日 別紙)
一方で、4月17日の TOKYO MX の報道で、都の担当者は「点検する人によって多少精度にばらつきが出てしまう」と述べ、AIによる画像の解析を砧公園で始めました。7月28日には、緊急点検で伐採の必要はないとされていた砧公園のケヤキ(高さ約19m)が倒れたと報じられています。
全国でも、点検と倒木の数字がそろってきた
国土交通省道路局が2023年12月に公表した全国調査では、2018〜2022年の街路樹の倒木は年平均約5,200本、点検に基づく伐採は年平均約26,700本でした。都道府県別の倒木では、東京都は年445本で、北海道・大阪府に次ぐ3番目です。

道路の街路樹の倒木は全国で年平均約5,200本、点検に基づく伐採は年平均約26,700本(出典: 国土交通省「街路樹の倒木に関する全国調査結果について」令和5年12月12日)
全国の街路樹(高木)の本数は、国総研の調査で2002年の679万本をピークに減り、2022年3月末には約629万本になりました。2017年からの5年間だけで約41万本減っています。

全国の街路樹(高木)は2002年の679万本をピークに減り、2022年3月末は約629万本(出典: 国土技術政策総合研究所 資料第1246号「わが国の街路樹Ⅸ」をもとに当社作図)
国土交通省「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」
国土交通省は2026年3月30日、「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」を公表しました。徒歩などで近づいて目で見る「定期巡回」を、道路管理者の57%が行っていないという調査結果を受けたものです。過去5年に事故があった同じ路線・同じ樹種、緊急輸送道路、通学路、市街化区域内などの路線(区分A)は、概ね年1回の定期巡回を基本としています。9月8日には、東京国道事務所の管内を舞台に、新しい点検技術の提案募集も始まりました。

区分Aは概ね年1回の定期巡回が基本(出典: 国土交通省道路局「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」令和8年3月 p.3〜6 をもとに当社作図)
都は2025年3月の都議会で、街路樹診断等マニュアルについて「現時点で改定の予定はございません」と答えています。同じ委員会では、診断の結果が伐採に結びつきすぎていないかを問う質問もあり、都は都が認定する研修などを受けた樹木医が適切に診断していると答えました。2026年の出来事のあとに改定の動きがあるかどうかは、公開資料では確かめられません。
残る4つの論点──点検のばらつき、機器の位置づけ、数字と伐採、緑の量
令和3年度版の考え方と、2026年に起きたことを重ねると、これからの論点は4つに整理できると考えています。

令和3年度版のあとに残る4つの論点(当社の整理)
一つ目は、大量の目視点検と診断の精度をどう両立させるかです。80万本を短期間に見た都有施設の一斉点検は、マニュアルの樹木点検とは別の点検ですが、どちらも1本ずつ時間をかける診断とは役割が違います。点検で拾えなかった樹木が倒れることは、令和3年度版が、点検の「異常なし」と診断の「健全」の混同を正そうとしたことと根は同じだと考えています。
二つ目は機器診断の位置づけです。マニュアルの標準はレジで、音響波の機器は参考資料で扱われています。樹木の内部を面で見る機器と線で見る機器を、どう組み合わせて判定に使うかは、マニュアルの中ではまだこれからの部分だと感じています。
三つ目は、数字だけで伐採を決めないことです。令和3年度版の総合判定基準では、C(不健全)の腐朽空洞率の参考基準値は50%以上ですが、マニュアルは腐朽空洞率を総合判定を出す際の参考とし、機器診断だけで総合判定を出さず、外観診断の結果と合わせて考えるよう注意しています。考える要素として、形状比、樹冠の形、根系、t/R率、立地環境を挙げています。当社ではさらに、樹種や、そばを通る人や車の有無も重ねて読みます。

外観診断と機器診断をあわせた総合判定に、当社は樹形・根元・立地・土壌・管理の履歴・そばでの人の過ごし方を重ねて読む(総合判定の考え方は 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 p.11・50。当社作成)
四つ目は、緑の量と安全の両立です。都は東京2020大会に向けて街路樹の樹冠拡大を進め、いまは暑さ対策として位置づけています(「東京都の街路樹維持管理計画書とは」)。一方で全国の街路樹は減り続けています。安全のために伐ることと、緑陰を守ることのあいだで、診断はその判断の根拠を示す役目を負っています。
管理組合・自治体・施設管理者の方へ──マニュアルから学べる3つのこと
東京都のマニュアルの改訂史は、マンションや公園、施設の樹木を管理する方にも、そのまま当てはまる教訓を残しています。

マンション・公園・施設の樹木にも当てはまる3つのこと(当社の整理。根拠は 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」)
「点検」と「診断」は別もの
点検の「異常なし」は、診断の「健全」ではありません。日常の点検とは別に、樹木医の外観診断を受けているかどうかを確かめていただくのが第一歩です。
外観診断が基本で、機器診断は必要な樹木にだけ
令和3年度版は外観診断を必須にし、機器診断は外観診断で必要と判断した樹木に行うとしています。すべての樹木に機器を当てる必要はなく、穴をあける回数も少ないほうが樹木にとってよいと考えています。
診断のあとの処置と再診断までが1セット
判定が出たら、それに合わせた剪定や樹体保護と、次の診断の時期を決めるところまでが診断です。令和3年度版がフォローアップ診断と処置の表を加えたのも、診断を「判定して終わり」にしないためでした。当社の樹木診断でも、判定とあわせて処置と次の診断の時期をご提案しています。
表参道のケヤキから根株診断、防災診断の検証からフォローアップ診断へ。中身のわかる改定は、どれも前の仕組みで見落とした樹木への答えでした。次の改定がいつになるかはわかりませんが、2026年に倒れた樹木の記録も、いずれその材料になるはずです。
よくある質問(Q&A)
Q1. 街路樹診断等マニュアルの最新版はいつのものですか?
A. 東京都建設局の「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」が最新版で、正誤表は令和3年6月30日付です。都は2025年3月の都議会で、現時点で改定の予定はないと答えています。2026年10月時点で、新しい改定の動きは公開資料では確かめられません。
Q2. 東京都の街路樹診断マニュアルは何回改定されましたか?
A. 平成10年度に作られたあと、平成11・18・19・22・25・26年度と令和3年度の計7回改定されています。2025年3月17日の都議会での都の答弁による年度の並びです。平成11・19・22年度の改定の中身は、公開資料では確かめられません。
Q3. A・B1・B2・Cの判定はそれぞれ何を意味しますか?
A. Aは健全か健全に近い、B1は注意すべき被害が見られる、B2は著しい被害が見られる、Cは不健全です。次の診断は、A・B1が5〜10年後に外観診断、B2が1〜3年後にフォローアップ診断、Cは更新(撤去・植替え)です。
Q4. 外観診断と機器診断の違いは何ですか?
A. 外観診断は、樹木医などが目と木槌・鋼棒などの診断用具で、樹木の活力と部位の状態を判定する診断で、令和3年度版では必須です。機器診断は、外観診断で必要と判断した樹木に、貫入抵抗測定器(レジ)などの機器で腐朽の量を測る診断です。以前は精密診断と呼ばれていました。
Q5. 東京都の街路樹診断をするにはどんな資格が必要ですか?
A. 令和3年度版では、根株診断を含む発注は街路樹診断士の資格を取ってから2年以上の実務経験がある人、それ以外は樹木医とされています。どちらも東京都の講習か、都が認める講習・研修の受講が条件です。2025年10月31日に協会の名称が変わり、資格の名前も街路樹・都市樹木診断士に改められました。
Q6. 腐朽空洞率が50%を超えたら必ず伐採ですか?
A. 必ずではありません。令和3年度版ではC(不健全)の腐朽空洞率の参考基準値が50%以上ですが、マニュアルは腐朽空洞率を総合判定を出す際の参考とし、機器診断だけで総合判定を出さず、外観診断の結果と合わせて考えるよう注意しています。形状比・樹冠の形・根系・t/R率・立地環境なども合わせて判断します。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
- 東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」本編・参考資料・正誤表(令和3年6月30日)東京都建設局
- 根来千秋・土居裕子(2018)「東京都における街路樹の健康管理」樹木医学研究 22(1): 16–18 J-STAGE
- 有賀一郎ほか(2020)「都市樹木診断の成り立ちと近年の動向(2)─街路樹診断の生い立ち─」樹木医学研究 24(3): 164–165 J-STAGE
- 山本正美(2007)「東京都における街路樹の診断」グリーン・エージ 34(4): 14–17、日本緑化センター CiNii
- 東京都議会 環境・建設委員会 会議録(2018年11月22日、2025年3月17日、2026年3月17日)東京都議会 会議録検索
- 東京都「主要事業の進行状況報告書」86 建設局「街路樹の充実(質の向上)、大径木再生大作戦」(令和3年3月31日)東京都総務局
- 国土技術政策総合研究所 資料第1059号「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」(平成31年2月)事例集 東京都
- 国土技術政策総合研究所 資料第1246号「わが国の街路樹Ⅸ」(2023年6月)、資料第1050号「わが国の街路樹Ⅷ」
- 港区「樹木管理マニュアル」(令和5年4月)港区
- 広島県「樹木医制度について」広島県
- 東京都建設局「都立砧公園の倒木を受けた今後の対応について」(2026年4月8日)東京都
- 東京都政策企画局「都有施設における樹木の一斉点検の結果について(確報)」(2026年5月15日)東京都
- 千代田区「千鳥ヶ淵緑道脇のさくらの倒木」(2026年4月2日)千代田区
- TOKYO MX の報道(2026年3月9日、4月17日、7月28日)4月17日の記事・7月28日の記事
- 国土交通省道路局「街路樹の倒木に関する全国調査結果について」(2023年12月12日)国土交通省
- 国土交通省「倒木等による事故に関する全国調査について」(令和7年4月)国土交通省
- 国土交通省道路局「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」(令和8年3月)と報道発表(2026年3月30日)国土交通省
- 国土交通省道路局「街路樹点検技術の有効性等の検証に向けた提案を募集」(2026年9月8日)国土交通省
- 東京都建設局「7. 街路樹の樹冠拡大」東京都建設局
- 一般社団法人 街路樹・都市樹木診断協会「協会名称を変更しました」(2025年11月4日)協会のお知らせ
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※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。



















