アーボソニック3D(ArborSonic 3D)は、幹に打ったセンサーの間を伝わる音の時間から、幹の断面を画像にする音響トモグラフです。道具の一式、センサーの打ち方とたたき方、断面画像の色の見方、安全率や3D表示などの機能、国内での使われ方を、取扱説明書と当社の現場から樹木医がまとめました。
仕組みの考え方や費用、精度の研究、レジ(Resi PD)との使い分けは、先に公開したアーボソニック3Dとは何かに書きました。今回は、現場で実際にどう測るのかを、道具のひとつひとつから順に追っていきます。読んでいただきたいのは、機器診断の結果を受け取る管理者の方と、同じ機器を使う同業の方です。画像がどういう手順で出てきたかを知っておくと、診断カルテの断面画像を読む目が変わります。
先に答え
- アーボソニック3Dは、ハンガリーのFakopp社の機器で、2006年に発売されました。幹の周りに8〜32個のセンサーを打ち、1個ずつ鋼製ハンマーでたたいて、音がほかのセンサーへ届く時間を±2マイクロ秒の精度で測ります。
- 空洞や腐朽があると音はそこを迂回するので、届くまでの時間が長くなります。ソフトがすべての組み合わせの時間から、断面の中の音の速さを計算して色分けします。
- 取扱説明書の推奨の配色では、緑が健全(Intact)、赤が腐朽(Decayed)、青から水色が空洞(Hollow)です。ただし色が示すのは音の速さで、健全さそのものではありません。
- 高さを変えて測った断面を重ねる3D表示、表面から入った亀裂の深さの推定、写真と風の条件から幹の安全率を出す機能、受信しない補助の釘(Ludwigセンサー)などがあります。
- 東京都建設局は平成25年度の街路樹診断マニュアル改訂でこの機器を取り入れ、現行のマニュアルには専用の診断カルテの様式があります。

幹に打ったセンサーを2個ずつアンプボックスにつなぎ、バッテリーボックスからパソコンへ送る(イラストは当社作成)
アーボソニック3Dの特徴
製造元のFakopp社は、ハンガリーの西部、オーストリアとの国境に近い町にある会社です。公式サイトの年表によると、1994年に木材の剛性や樹木の内部を調べるマイクロ秒タイマーをつくり、2000年と2002年の「Fakopp 2D」を経て、2006年にArborSonic 3D Acoustic Tomographを発売しました。逆解析の計算と3次元の表示を加えたのが「3D」の由来です。2020年には、後で触れるLudwigセンサーが加わりました。
メーカーの製品ページに載っている仕様は、次のとおりです。
| 時間の測定精度 | ±2マイクロ秒 |
|---|---|
| センサー | SD02 圧電センサー、8〜32個で可変 |
| 電源 | 市販の9V角形電池(充電池も可)。電池1個で約2時間 |
| パソコンとの接続 | ケーブルまたはBluetooth |
| 1断面の測定時間 | 20分(センサー10個で、組み立てから撤去まで) |
| 使える気温 | 0〜40℃ |
| 重さ | 6kg(パソコンを除き、ケース・ハンマー・センサー10個を含む) |
東京都建設局の「街路樹診断等マニュアル」では、この機器を多点式応力波速度測定器と呼んでいます。ピカスやドクターウッズと同じく、音(応力波)の伝わる速さから幹の中を推し量る仲間です。センサーの釘を樹皮に打つので、東京都のマニュアルは「弱度の破壊を伴う」と書いています。レジのように針で幹を深く貫く方法と比べると、樹木に残る傷はずっと小さくなります。
現場で使っていて感じる強みは、断面の全体を一度に「面」で見られることと、結果がその場のパソコンに出ることです。管理組合の理事の方や行政の担当の方と、木の前で同じ画像を見ながら話ができます。
道具の一式──ひとつずつ見ていきます
取扱説明書に挙がっている構成部品は、センサー、アンプボックス(黒)、バッテリーボックス(灰色)、接続ケーブル、キャリパー(オプション)、センサー抜き取り具、巻尺、鋼製ハンマーとゴムハンマー、ケースです。当社の実機の写真と照らして、ひとつずつ描きました。

アーボソニック3Dの道具一式(イラストは当社作成)
センサー
手のひらに乗るくらいの部品です。角の丸い小さな四角い頭の横から、長さ6cmの鋼の釘がまっすぐ出ていて、頭の下には透明な樹脂の筒が下がります。センサーには、振動を電気の信号に変えるピエゾ素子(圧電素子)が封入されています(東京都のマニュアルの参考資料による)。釘と反対側の平らな面が、ハンマーでたたく場所です。
センサーに付いている番号は、取扱説明書では「飾りにすぎず、自由に入れ替えてかまわない」とされています。大事なのは、次のアンプボックスの番号のほうです。

センサー。釘は長さ6cm、頭の釘と反対の面をたたく(イラストは当社作成)
アンプボックス
黒い小さな箱で、表に黄緑のラベルと木のマークが付いています。上の端にセンサーのケーブルを2本差し、1台でセンサー2個を受け持ちます。箱の上部には「1 2」「3 4」のようにセンサーの番号が書かれていて、この番号がそのまま、ソフトでの測定点の番号になります。箱どうしは、下の端のコネクターから次の箱の横のコネクターへと、数珠つなぎにします。

アンプボックス。上にセンサー2個、下と横に箱どうしをつなぐケーブル(イラストは当社作成)
バッテリーボックス
明るい灰色の箱で、9V電池とBluetoothの送信機が入っています。列の端のアンプボックスにつなぎ、ここからパソコンへデータを送ります。電源を入れるとランプが5秒ほど点滅し、電池が減るとランプが点滅し続けます。取扱説明書は、電圧8V未満での測定は正しくない可能性があるとしていて、測定中もソフトの画面で電圧を確かめられます。

バッテリーボックスと9V電池(イラストは当社作成)
2本のハンマー
ハンマーは2本を使い分けます。センサーを幹に打ち込むのはゴムハンマー、測定の音を出すのは鋼製ハンマーです。取扱説明書の注意事項にも、この使い分けがはっきり書かれています。

左が測定用の鋼製ハンマー、右が取り付け用のゴムハンマー(イラストは当社作成)
デジタルキャリパー
幹の形が円や楕円でないときに、センサーどうしの距離を測る大きな挟み尺です。2本のカーボンの腕が丸い本体を軸に開き、先を2つのセンサーに当てると、本体の表示とBluetoothでソフトに距離が入ります。取扱説明書では、キャリパーの電池が3.5V以上あれば正しく動くとされています。当社でも、根元の形がいびつな木で使っています。

デジタルキャリパー(イラストは当社作成)
センサー抜き取り具
測定が終わったセンサーを抜く道具です。先の金具でセンサーの頭をはさみ、棒に沿って重りを手前へ打ち付けて、釘の方向にまっすぐ抜きます。取扱説明書は、てこのように何かを支えにして抜くと釘が曲がったり折れたりする、ケーブルを引っ張って抜かない、と注意しています。

抜き取り具で、釘の方向にまっすぐ抜く(イラストは当社作成)
Ludwigセンサーと、長い釘のセンサー
Ludwigセンサーは、センサーの付いていない専用の釘です。たたけば音を出しますが、音を受けることはできません。取扱説明書には、耳は聞こえないけれども申し分のない音を出す、という一文があります。使い方は後の章で書きます。
樹皮が厚い樹種のために、釘の長さが12cmのセンサーもあります。通常は6cmなので、ちょうど2倍です。1回の測定で、通常の釘と長い釘を混ぜてはいけません。

Ludwigセンサー(左)と、幹に打ったLudwigセンサーとセンサー(右)(イラストは当社作成)

上が通常の釘(6cm)、下が長い釘(12cm)のセンサー(イラストは当社作成)
測定の原理──音は、空洞を迂回する
センサーをハンマーでたたくと、音(応力波)が幹の中を伝わり、ほかのセンサーに届きます。健全な木の中ではまっすぐ届きますが、空洞があると、音は空洞の縁を回り込むしかありません。その分、反対側のセンサーに届くまでの時間が長くなります。取扱説明書の最初のページに書かれている、この機器の考え方そのものです。

健全な断面(左)では音はまっすぐ届き、空洞のある断面(右)では回り込む(イラストは当社作成)
1個のセンサーをたたくと、ほかのすべてのセンサーで同時に時間が測られます。センサーが10個なら、2個の組み合わせは45通りあります。腐朽の領域を通る組み合わせだけ時間が長くなるので、どの線が遅いかを重ね合わせると、遅い場所が断面のどこにあるかが浮かび上がります。ソフトが行っているのは、この計算です。

1個をたたくと、残りのすべてのセンサーへ音が届く。腐朽を通る線だけ遅くなる(イラストは当社作成)
測り方──準備から打撃まで
ここからは、取扱説明書の手順に、当社の現場でのやり方を重ねて書きます。測る前には、必ず外観診断をしています。キノコ(子実体)や開口空洞、樹皮の枯れ、木槌でたたいたときの鈍い音など、外から見て疑いのある木だけに機器を当てます。
1. 測る高さを決め、巻尺を一周させる
2026年9月版の取扱説明書は、外から見て最も弱そうな高さ、たとえばキノコや傷、見える腐朽のある高さを選ぶよう書いています。高さを決めたら、巻尺を幹に水平に一周させて幹周を測り、ソフトに入れます。巻尺は、センサーを同じ平面にそろえる目安にもなります。
センサーは同じ平面に並べますが、その平面は必ずしも水平でなくてかまいません。取扱説明書の言い方では、平面は幹の成長の方向に直角にします。傾いた木なら、平面も傾きます。

測る高さに巻尺を一周させ、センサーを打つ位置の目安にする(イラストは当社作成)
2. ゴムハンマーでセンサーを打ち込む
センサーは、樹皮を貫いて木部まで届かせます。取扱説明書の目安は分かりやすく、伸ばした指3本でセンサーの頭を回そうとして回らなければ、密着は十分です。回るようなら、もう少し打ち込みます。釘と木部の密着が悪いと、音がうまく伝わりません。
釘は幹の中心に向けます。ただし取扱説明書は、これはそれほど厳密でなくてよいとしています。もうひとつ大事なのは、センサーを健全な木部に打つことです。腐朽した部分に打つと、そのセンサーの時間がおかしくなります。森林総合研究所の2025年の報告も、辺材がすでに腐朽・枯死していると異常を検知しにくくなる、と注意しています。

ゴムハンマーで、釘の方向にセンサーを打ち込む(イラストは当社作成)
ソフトには、樹皮の表面から釘の先までの深さ(PD)と、樹皮の厚さ(BT)を入れます。釘の先が樹皮の内側の木部に入っていることが前提なので、PDは必ずBTより大きくなります。取扱説明書は、どちらも直径の小さな木では特に大事なパラメーターだとしています。

釘は樹皮を貫いて木部へ。上の寸法が貫入深さ(PD)、下が樹皮の厚さ(BT)(イラストは当社作成)
3. 上から見て反時計回りに並べる
センサーは、上から見て反時計回りの順に並べます。1番の隣が2番、その隣が3番です。アンプボックスは1台で2個を受け持つので、1・2番、3・4番の順に箱をつなぎます。取扱説明書は、ケーブルを交差させてつなぐと測定全体が台無しになる、と強い言葉で書いています。

上から見て反時計回りに1番から並べ、2個ずつアンプボックスへ(イラストは当社作成)
4. 箱をつなぎ、パソコンと接続する
組み立ての順は、センサー、アンプボックス、接続ケーブルです。バッテリーボックスは、つなぎ終えるまで電源を切っておきます。列の端の箱にバッテリーボックスをつなぎ、電源を入れて、パソコンとはBluetoothかケーブルで接続します。Bluetoothの届く距離は最大で約10mです。
そして、たたく前に巻尺を外します。巻尺が幹に巻いたままだと、音が巻尺を伝わって近道をしてしまい(音響的な短絡)、断面画像がゆがみます。
5. センサーどうしの距離を入れる
ソフトには、センサーの並び方を入れます。方式は円形・楕円形・長方形(角材用)・不規則形の4つです。円形・楕円形では幹周や長径・短径を入れると、センサーを打つ位置をソフトが示してくれます。不規則形では、先にセンサーを打ってから、キャリパーで各センサーの間の距離を測って入れます。
幹にくぼみがあるのに円形で入力すると、実際と違う形で計算されます。取扱説明書の設置の誤りの例には、幹周232cmを2320cmと入れてしまった画像や、貫入深さ2cmを20cmと入れてしまった画像が載っています。後者は、健全な木なのに全体が腐朽しているように見えます。入力する数字が、そのまま画像の正しさを決めます。

根元の形がいびつな木では、キャリパーでセンサーどうしの距離を測る(イラストは当社作成)
6. 鋼製ハンマーで、頭の中心をたたく
各センサーの頭の中心を、釘と同じ方向に、鋼製ハンマーでたたきます。取扱説明書の推奨は、1個につき少なくとも3回、できれば5回です。強さはそろえ、大きな木ではやや強めに、手首の力を抜いてたたきます。センサーの横の面やケーブルの付け根をたたいてしまったら、そのデータは消してたたき直します。

頭の中心を釘の方向にたたく(左)。横の面やケーブルの付け根はたたかない(右)(イラストは当社作成)
7. 画面で、たたいたデータを確かめる
たたくたびに、ソフトの「Time Data」の表に1行ずつ時間が入ります。列の見出しの横には、各センサーの正しい打撃の回数が出て、3回に満たないうちは赤、足りると緑になります。センサーの組ごとの平均の時間のばらつきが5%を超えると、そのセルが赤くなります。
不具合のあるセンサーを見つける手がかりもあります。2つのセンサーの間の時間は、どちらをたたくかで2回測られ、その差の平均が別の表に出ます。取扱説明書 v6.5は、この値が100を超えるセンサーは、先が腐朽材や空洞に入っている、壊れている、巻尺が外れていない、のどれかを疑うとしています。当社の現場でも、たたく人と画面を見る人に分かれて進めることがあります。

1人がたたき、もう1人が画面で時間データを確かめる(イラストは当社作成)
8. 高さを変えて、もう一度
腐朽が上下にどこまで広がっているかを見たいときは、センサーを次の高さへ移して同じ手順を繰り返します。ソフトではこれをレイヤーと呼びます。移すときは、コネクターを傷めないよう、ケーブルを外してから動かします。

1つの高さずつ測り、高さの違う断面を重ねて腐朽の上下のつながりを見る(イラストは当社作成)
9. 片付けは、組み立ての逆の順に
片付けは、ケーブル、アンプボックス、センサーの順です。センサーを抜くときは、抜き取り具を使うか、手で回してから釘の方向に引きます。腐朽した木を測ったあとは、次の木へ菌を持ち込まないよう、センサーを消毒します。

片付けは、ケーブル→アンプボックス→センサーの順(イラストは当社作成)
断面画像の色の見方
計算が終わると、「Tomograms」のタブに断面画像(トモグラム)が出ます。取扱説明書が推奨する配色「Detailed」では、画像の左の凡例が、上から緑のIntact(健全)、赤のDecayed(腐朽)、青から水色のHollow(空洞)の順に並びます。緑が濃いほど音が速く、黄、赤、青と進むにつれて遅くなり、淡い水色がいちばん遅い部分です。

断面画像の色の見方(模式図)。外側の濃い緑ほど音が速く、内側の水色ほど遅い(イラストは当社作成)

当社の実測の断面画像。十字に重ねた帯は、同じ断面を2方向から測ったレジ(Resi PD)の波形(当社の実測)
ここで、いちばん大事な注意を書いておきます。色が示しているのは、音の速さです。腐朽そのものではありません。2026年9月版の取扱説明書は、トモグラムは断面の健全さではなく応力波の速度を示すもので、速度は健全さと関係することが多いものの、目回り(年輪に沿った割れ)や入り皮でも速度は下がる、と書いています。東京都のマニュアルも、繊維の方向による速さの違いや音の近道で異常が小さく見えることと、わずかな傷で経路が延びて大きく見えることの両方を挙げ、外観と照らして総合的に判断するよう求めています。
色の境目を決める速度の上下限は、ソフトが自動で計算するのが推奨です。高さを変えて測ったレイヤーは、それぞれのレイヤーの速度の範囲で色分けされます。2026年9月版の取扱説明書は、地際と胸の高さで健全な材の平均の速度が違うのは普通のことで、同じ緑でもレイヤーが違えば速度が違う、と注意しています。
表示の切り替えには、測った数値の表(Matrix)、センサーの間の速さを色付きの線で示す図(Graph)、断面の色分け(2D Map)、立体の曲面(3D Map)があります。

当社の実測の画面。センサーの間の音の速さを、色付きの線で示す
そのほかの機能
複数の高さを重ねる3D表示
レイヤーが2つ以上あると、すべての断面を立体に重ねて見られます。レイヤーの間を補間した縦の断面も表示でき、腐朽が上下のどこまで続いているかをつかみやすくなります。東京都のマニュアルにも、多断層の記録で異常部の上下方向への広がりを推定できる、とあります。

高さの違う断面を重ねた3D表示(模式図。イラストは当社作成)

当社の実測。3つの高さを重ねた立体表示
表面から入った亀裂の深さ
「Cracks」の表示は、幹の表面から内側へ入った亀裂の深さを、センサーの間ごとに推定してリストに出します。ただし取扱説明書は、この機能では内部の亀裂は見つけられないとはっきり書いています。

表面から入った亀裂は、音が奥を回り込むことで深さを推定できる。内部の割れは分からない(イラストは当社作成)
幹の安全率の計算(バイオメカニクス)
「Biomechanics」のページでは、測った断面の画像と風の条件から、幹の安全率(Safety Factor)を計算します。樹冠の大きさは、樹木全体の写真に樹冠の輪郭をなぞって入れられます。写真には基準になる長さ(樹高や、同じ距離に立つ人の背丈)と、幹の傾きも書き込みます。ゆがみを避けるため、写真は樹高と同じかそれ以上離れて撮ります。

樹木全体の写真に、樹冠の範囲・基準の高さ・幹の傾きを書き込み、風の力を見積もる(イラストは当社作成)
風の計算には2つのモデルがあります。ひとつは高さに関係なく一様な風を当てる「Uniform」で、想定する最大瞬間風速は通常33m/s、海岸や山地では45m/sのように高く設定します。もうひとつは欧州規格EN 1991-1-4を樹木に当てはめた「EN1991」で、周りが市街地か、集落か、海岸かといった地表面の区分を選びます。
安全率は、木材の降伏強度を、計算した最大の応力で割った値です。ソフトは5度ごとにすべての風向で計算し、最も弱い方向の値を出します。取扱説明書は、50%未満を極めて高いリスク、50〜100%を高い、100〜150%を中程度、150%を超えれば低いとしています。過大評価に備えて50%の余裕を見込み、150%を超えていれば安全とみなせる、という考え方です。

安全率とリスク評価の区分(取扱説明書 v6.5 p.30・31 をもとに当社作成)
ただし、この数字には限りがあります。取扱説明書自身が、幹が筒のように中空で、しかも裂けている場合は安全率が過大に出る、と書いています。2026年9月版では、モデルは外側の壁が健全な筒の形を前提にしていて、裂けた幹や開口した幹には当てはまらない、と書き足されました。周りの木や建物に守られている木では、Uniformのモデルは安全率を実際より低めに出すことがあります。私たちは安全率を、外観診断と、必要ならレジの結果と並べて読む参考値として扱っています。
Ludwigセンサーで、測る線を増やす
Ludwigセンサーは、通常のセンサーの間に1本ずつ交互に打ちます。センサーと同じ数を、同じ深さまで打ち、通常のセンサーを測り終えてから、L1、L2の順にたたきます。ソフトの「Auto Advance」を使うと、次にたたくLudwigセンサーの番号を音声で知らせてくれます。
音を受けるセンサーの数は変わらなくても、音を出す点が倍になるので、断面を通る線が増え、画像が細かくなります。センサーは最大32個、Ludwigセンサーも最大32個で、合わせると約1000本の線で測れます。取扱説明書は、専用品と形・材質が同じでない釘を使ったり、10個未満しか使わなかったりすると、トモグラムは信頼できないとしています。

センサー(白)の間にLudwigセンサー(黒)を交互に打つ。Ludwigセンサーは音を出すだけで受けない(イラストは当社作成)
長い釘のセンサー
樹皮の厚い木では、12cmの長い釘のセンサーを使い、10〜11cmの深さまで打ち込むこともあります。音が釘の中を伝わる時間が長くなるので、ソフトの時間の補正を変えます。取扱説明書 v6.5では「Minimal T0」と「Maximal T0」を初期値の20と35から45と60に変える手順でしたが、2026年9月版では、センサーの種類で「Long」を選ぶ方式に変わりました。補正を誤ると、腐朽が実際より少なく表示されることがあります。
Androidアプリ
Google Playに無料のアプリがあり、スマートフォンで測定し、写真を加え、断面の2D画像を確かめられます。3Dモデル、安全率の計算、報告書の作成はパソコン用のソフトだけでできます。パソコン用のソフトの最新版は、2026年10月6日時点で version 5.3.179 です。
当社の現場での使い方
当社の写真から、アーボソニック3Dを使っている場面をいくつか描きました。
根元とキノコ
根元にキノコが出ている木は、地際に近い高さで測ります。根張りの凹凸に沿ってセンサーを並べるので、円形の入力ではなく、キャリパーで距離を測る不規則形で入れることが多くなります。

キノコの出ている根元を、地際に近い高さで測る(イラストは当社作成)
樹上での測定
地上から数m上の幹に腐朽が疑われるときは、ロープで木に登って、その高さにセンサーを打って測ります。

ロープで登り、地上数mの断面を測る(イラストは当社作成)
レジ(Resi PD)と組み合わせる
断面画像で遅い場所が見つかったら、その場所にレジ(Resi PD)の針を入れて、実際に腐朽しているか、健全な材がどれだけ残っているかを数字で確かめます。アーボソニック3Dで面を見渡し、レジで線を確かめる、という順です。二階堂ほか(2020)も、非破壊の機器で空洞率が25%以上と出たら異常部をレジで確かめる、という使い方を提案しています。

センサーの間の気になる場所に、レジ(Resi PD)を当てる(イラストは当社作成)
精度について、研究が示していること
アーボソニック3Dの精度は、伐った木の断面と照らし合わせる研究で確かめられてきました。
- Ostrovskýほか(2017)は、大きく損傷した都市の樹木を伐って円板と比べ、損傷面積の判定の精度を90%、位置まで含めた総合の精度を83%と報告しています。
- 二階堂ほか(2020)は、ケヤキ材に人工の空洞をつくって4種の機器を比べました。アーボソニック3Dは、実際の空洞率が28%以上では実際に近い値を示しましたが、20%以下では大きく出すぎる傾向がありました。危険な木を見逃して小さく出す可能性は低い、という結論です。東京都のマニュアルの参考資料は、この論文を出典に、外周に沿って長い空洞などでは腐朽空洞率が過大に、小さな空洞では過小に評価される可能性がある、と書いています。
- 山下ほか(2025)は、ソメイヨシノの白色腐朽材で、材の密度が半分になると音の速さは0.63〜0.68倍に下がるのに対し、圧縮強度は0.16〜0.20倍まで下がると報告しました。腐朽材では、音の速さの低下以上に強度が落ちていると考えたほうがよい、という結論です。
- 森林総合研究所は、2025年4月の倒木を受けて、構内のソメイヨシノ12本をアーボソニック3Dで診断し、伐ったあとの検証を2026年9月に報告しました。6本すべてで内部の異常を検出できた一方、腐朽空洞率は個体によって実際と大きく離れていました。
どの研究も、腐朽のある場所と大きな広がりはよく捉える一方、空洞率の数字そのものには幅がある、という点で共通しています。現場での経験からも、断面画像は「どこを、どこまで疑うか」を決める道具で、伐るか残すかの結論は外観診断やレジと合わせて出すものだと考えています。
日本での使われ方
アーボソニック3Dは、国内の街路樹や公園樹木の診断で使われてきた機器です。確かめられた記録を挙げます。
- 東京都建設局: 平成25年度の街路樹診断マニュアルの改訂で、アーボソニック3D、ドクターウッズ、ツリーレーダの3機種を取り入れました(当面はレジを原則とし、ほかは必要に応じて併用)。現行の令和3年度のマニュアルでは、使える機器の表に「多点式応力波速度測定器(アーボソニック3D)」が載り、参考資料に測定方法と注意があります。単断面と多断面の2つの専用の診断カルテ(様式5・様式6)もあり、多断面のカルテには測定部ごとの腐朽空洞率、最大腐朽空洞率、3D図の欄があります。
- 一般社団法人街路樹診断協会: 国内での運用数が多く、修理の体制も整っていることから、貫入抵抗測定器(IML-RESI)とアーボソニック3Dの2機種を推奨している、と日本樹木医学会の大会で報告しています(高村ほか 2020)。
- 国の資料: 国土技術政策総合研究所の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」(2019年)は、弾性波速度測定機の例にアーボソニックを挙げ、写真を載せています。
- 研究機関・自治体の検証: 森林総合研究所のソメイヨシノの診断と伐採後の検証(2025〜2026年)、東京都町田市のサクラ類の街路樹での複数機器の検証(2018年の診断。2020・2021年に報告)、東京都内の街路樹ケヤキを伐って8機種を比べた研究(2024年)などがあります。
当社では、東京を中心に、サクラ、ケヤキ、ユリノキなどの樹木を、アーボソニック3Dで年間200本近く診断しています。外観診断の結果に応じて機器を当て、センサーは10個を標準にしています。
2026年9月の新しい取扱説明書で変わったこと
この記事は、当社が持っている取扱説明書 v6.5(2020年6月)と、メーカーの公式サイトに2026年9月7日付で出た新しい取扱説明書(英語、91ページ)をもとに書きました。新しい版で変わった主な点は次のとおりです。
- 2025年以降に売られたバッテリーボックスとキャリパーは、Bluetooth Low Energyでつなぐ
- 新しい型のバッテリーボックスは、GPSの位置を送り、地図で測定した場所を確かめられる
- 長い釘のセンサーは、時間の補正を手で変えるのではなく、センサーの種類を選ぶ方式になった
- 大径木用に、各センサーから3つ先のセンサーまでの距離を測る不規則形の入力方式が加わった
- センサーに付いた樹脂(やに)は、消毒用のアルコールで落とす
よくあるご質問(アーボソニック3Dの使い方)
Q1. アーボソニック3Dでは、センサーを何個使いますか?
A. 8〜32個の間で、幹の太さや形に合わせて決めます。メーカーの仕様の測定時間(1断面20分)は10個での値で、当社も10個を標準にしています。補助の釘のLudwigセンサーを加えると、センサーと同じ数まで増やせます。
Q2. センサーを打つと、木は傷みませんか?
A. 樹皮を貫いて木部に届く小さな傷が、センサーの数だけできます。東京都のマニュアルは弱度の破壊を伴うと書いていますが、レジのように幹を深く貫く方法より、傷はずっと小さくなります。当社は外観診断で必要と判断した木だけに使い、腐朽した木を測ったあとはセンサーを消毒します。
Q3. 断面画像の色は、何を表していますか?
A. 音の速さです。推奨の配色では、緑が健全、赤が腐朽、青から水色が空洞の目安です。ただし目回りや入り皮でも音は遅くなるので、色がそのまま腐朽を示すわけではありません。外観診断と照らして読みます。
Q4. センサーは何回たたけばよいですか?
A. 取扱説明書の推奨は、1個につき少なくとも3回、できれば5回です。頭の中心を釘の方向に、同じくらいの強さでたたきます。横の面をたたいたデータは消して、たたき直します。
Q5. 巻尺を付けたまま測ってもよいですか?
A. いいえ、たたく前に外します。巻尺を伝わって音が近道をする(音響的な短絡)ため、断面画像がゆがんだり、穴があるように見えたりします。
Q6. 安全率が150%を超えていれば、その木は安全ですか?
A. 取扱説明書は150%を超えれば安全とみなせる目安としていますが、幹が中空で裂けている場合は過大に出ます。計算には簡略化があり、周りの建物や木による風の弱まりも一律には入りません。安全率は参考値として、外観診断やレジの結果と合わせて判断します。
Q7. Ludwigセンサーとは何ですか?
A. センサーの付いていない専用の釘で、たたけば音を出しますが受信はしません。通常のセンサーの間に交互に打つと、断面を通る線が増え、画像が細かくなります。専用品と同じ形・材質の釘を10個以上使わないと、結果は信頼できないとされています。
Q8. 雨の日や冬でも測れますか?
A. 取扱説明書は、気温0℃未満や40℃を超えるとき、激しい嵐・雨・霧の中では使わないよう求めています。
機器の画像は、手順のひとつひとつが正しく積み重なって、はじめて木の中を映します。センサーを打つ深さ、たたく向き、巻尺を外すひと手間。画像を前にして判断するのは樹木医の仕事ですが、その画像の確かさは、現場での地味な手順に支えられています。
機器診断のご相談は、樹木診断のページからお問い合わせください。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
出典・参考情報
- Fakopp Enterprise, ArborSonic 3D User’s Manual v6.5 (2020年6月3日)
- Fakopp Kft., ArborSonic 3D Manual (2026年9月7日) https://files.fakopp.com/arborsonic3d/arborsonic3d_manual.pdf
- Fakopp Kft.「ArborSonic 3D」製品ページ https://fakopp.com/en/product/arborsonic/、「About Us」 https://fakopp.com/en/about/(2026年10月6日閲覧)
- 東京都建設局「令和三年度 街路樹診断等マニュアル」本編 p.51・53・65、第Ⅶ章 参考資料 p.106・108・139・141
- 根来千秋・土居裕子(2018)東京都における街路樹の健康管理. 樹木医学研究 22(1):16–18
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- 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」(2019年2月)
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※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。
























