樹上作業は、登る前の下見と打合せから、降りたあとの片付けまでが一続きの仕事です。連載「アーボリストの基礎」の第2回では、樹上作業の一日の流れと、地上で支える地上作業員(グランドワーカー)の役目、新人が最初に地上の役を務める理由を、安全の基準と法令に沿って解説します。
この連載をお読みいただく前に
この記事は、ツリークライミングの仕組みと安全の考え方を紹介するものです。登り方や結び方の手順は載せていません。樹上での作業は、資格と経験のある指導者のもとで訓練を受けてから行うもので、記事だけを手がかりに木に登ることは、重大な事故につながるため決して行わないでください。
第1回の終わりに、樹上の仕事は地上の仲間と一緒に行うものだと書きました。木に登る職人に目が行きがちですが、樹上作業のうち実際に枝の上にいる時間は、一日の一部です。登る前に木と周りを確かめ、全員で段取りを決め、作業の間は地上が樹下を守り、降りたあとは道具と現場を片付ける。今回は、その一日を順にたどりながら、地上で支える役目を中心に書きます。

建物前の高木での樹上作業。根元では地上の職人が樹上の動きを見守る
樹上作業の一日 ― 6つの段階
樹上作業の一日は、大きく6つの段階に分けられます。
- 下見: 作業する木と、その周りを確かめる
- 段取り: 現場の全員で打合せ、役割と合図を決め、樹下を立入禁止にする
- 登る: 樹上の職人が、ロープとハーネスのシステムで樹冠に入る
- 作業: 樹上で剪定などを行い、地上が樹下と周りを守る
- 降りる: 地上と確かめ合いながら、樹上の職人が地上に戻る
- 片付け: 切った枝を片付け、道具を点検し、立入禁止を解く
3番目と5番目の「登る」「降りる」は、この連載では第12回から第15回で、システムの仕組みと決まりとして書きます。登り方・降り方の手順は、どの回にも載せません。今回は、その前後と、地上の役目に絞ります。
登る前に半分が決まる ― 下見と作業前の打合せ
樹上作業の安全は、木に登る前にほとんど決まります。登る前に確かめることは、木そのもの、木の周り、現場の全員の段取り、そして何かあったときの救助と連絡の4つです。どれか一つでも欠けていたら、まだ登りません。

登る前に確かめる4つ。4つがそろってから樹上作業を始める
木を見る
米国の樹木作業の安全基準 ANSI Z133 は、ISA(国際アーボリカルチャー協会)が事務局を務めています。ISA が公開している改訂案(2024年1月の公開レビュー版)では、誰かが木に登る前に、樹木の危険の見分け方の訓練を受けた人が、根元と木のすぐ周りまで含めて木を目で確かめることを求めています。腐朽や付け根の弱い枝がはっきり見えるときは、作業でかかる力に木が耐えられるかを判断し、木の状態に疑問があれば、詳しく調べられるまで作業を始めない、としています。
体を預ける木そのものが、システムのいちばん大事な部分だということです。樹木医が登る前に何を見るかは、第10回で詳しく書きます。
周りを見る
木の周りも同じように確かめます。近くに電線は通っていないか。建物や車、塀はどこにあるか。人や車はどこを通るか。切った枝をどこに落とし、どこに集めるか。天気も判断の対象です。労働安全衛生規則は、高さ2m以上の箇所の作業について、強風・大雨・大雪などの悪天候で危険が予想されるときは作業をさせてはならないと定めています(第522条)。

登る前の下見。建物や電線に近い枝、人の通り道、切った枝を集める場所を地上で確かめる
日本の規則には、ロープで体を支えて行う高所の作業について、作業の前に作業する場所とその下の状況を調べて記録し(第539条の4)、その結果に合った作業計画を前もって定めて関係者に知らせる(第539条の5)という決まりもあります。計画には、作業の方法と順序、人数、物が落ちる危険を防ぐ措置、事故が起きたときの応急の措置などを書きます。樹上作業にどの決まりが当たるかは第20回で書きますが、「下を調べてから計画を立て、全員に伝える」という考え方は、樹上作業の段取りそのものです。
全員で打合せる
下見で分かったことは、作業を始める前に現場の全員で共有します。ANSI Z133 の改訂案では、この作業前の打合せ(job briefing)を、仕事の開始前に現場で責任者が行うものとし、扱う中身として、その仕事の危険、作業の進め方、役割の割り振り、特別な注意、電気などの危険の管理、保護具を挙げています。打合せは1日に少なくとも1回行い、途中で状況が変わったときや新しい危険が見つかったときはやり直す、としています。
英国アーボリカルチャー協会が公開している樹上作業の点検表には、「作業の当日、現場の全員がリスク評価に意見を言える機会があるか」「焦らずに済む時間が取ってあるか」という項目があります。打合せは、責任者が一方的に伝える場ではなく、新人も含めて気づいたことを口に出せる場だということです。日本の現場で行われてきた危険予知(KY)活動も、作業にひそむ危険を少人数で話し合い、行動する前に対策を決めるという点で、同じ考え方に立っています。当社でも、作業の前に全員で危険と段取りを確かめてから始めます。
救助と連絡の段取りを、登る前に決める
樹上作業は一人では行いません。英国の安全衛生庁(HSE)は、樹上作業のときは必ず2人以上が現場にいること、そして地上の1人は、すぐに樹上の救助ができる力量と装備を備えていることを求めています。HSE が公開している事例には、救助の手順を用意しないまま木に登って落ち、樹上で意識を失って消防に下ろされた作業員の会社が、起訴されたものがあります。
樹上で動けなくなったとき、誰がどう動くか。救急に正確な場所をどう伝え、どの道から入ってもらうか。HSE は、樹上の人のように近づきにくい場合を前もって考えておくよう求めています。日本でも、林業向けの厚生労働省の指針が、緊急時の連絡の方法や運び出しの方法、救急用品を前もって決めて全員に知らせるよう定めています。救助の準備が無い現場では登らない、という決まりの中身は第19回で書きます。救助の手順は載せません。
地上作業員(グランドワーカー)の役目
樹上作業の地上の担い手は、英語で ground worker(米国の安全基準・業界団体)、ground staff(英国 HSE)などと呼ばれ、日本ではグランドワーカーとも言います。HSE は、地上作業員はチームの一員であり、作業の間ずっと樹上の人を支え、見守るものだとしています。地上の役目は、大きく4つにまとめられます。

樹上の2人は別々のロープで作業し、地上の職人が樹下を見守る
1. 落ちてくる場所の番人になる ― 立入禁止
樹上で切った枝は、地上に落ちてきます。ANSI Z133 の改訂案は、枝や道具を落とす・下ろす前に、落とす場所(落下区域、drop zone)を決め、樹上の人が認めたとき以外は人を入れないよう求めています。そのうえで、地上作業員の1人を落下区域の管理役に決めることを勧めています。米国労働安全衛生局(OSHA)の資料には、切った枝を集めていた地上の作業員が、落下区域の中で落ちてきた枝に当たって亡くなった事例が載っています。
立入禁止の範囲は、落ちた枝が届く範囲だけでなく、地面で跳ねたり転がったりする範囲まで見込んで広く取る、というのが考え方です。木の高さ、枝の重さ、地面の傾き、周りの建物によって範囲は変わるため、下見と打合せで現場ごとに決めます。決めた範囲は、コーンや縞のロープで目に見えるようにし、作業の間は地上の役が見張ります。
樹下に入ってくるのは、仲間だけではありません。HSE は、作業中は一般の人と車を作業区域から締め出し、立入禁止が破られたら作業をすぐ止めるよう求めています。日本の労働安全衛生規則も、墜落の危険がある箇所への立入禁止(第530条)や、物が落ちる危険があるときの立入区域の設定(第537条)を定めており、2025年4月からは、こうした立入禁止などの措置の対象が、同じ場所で作業する一人親方や他社の作業員などにも広がりました。マンションの中庭や歩道の街路樹では、住民の方や歩行者に声をかけ、回り道をお願いするのも地上の仕事です。

歩道の街路樹では、地上の職人が歩行者を誘導し、樹下に人が入らないよう見張る
2. 呼びかけて、返事を聞いてから動く ― 合図
樹上と地上は、離れていて、互いの様子がすべて見えるわけではありません。チェーンソーの音や車の音で、声が届きにくいこともあります。そこで、合図には型を決めておきます。
ANSI Z133 は、連絡を「指示」と「返事」の組で行う考え方をとってきました。ISA が公開している改訂案では、これに「返事を受けたという確認」を足し、指示 → 返事 → 確認の3段で行うよう求めています。たとえば、樹上の人が枝を落とす前に地上へ呼びかけ、地上が樹下に誰もいないことを確かめて返事をし、樹上がその返事を受けたと伝えてから枝を落とす、という流れです。返事が無ければ、落とさない。声のほか、笛や手の合図、無線も使えますが、どれを使うかは作業を始める前に全員で決めておくことが前提です。
日本の法令にも、同じ考え方があります。労働安全衛生規則は、木を伐り倒す作業について、倒すときの合図を一定に決めて関係者に知らせ、ほかの人が避難したことを確かめてからでなければ倒させてはならないと定めています(第479条)。伐倒の決まりですが、樹上から枝を落とすときの「呼びかけて、確かめてから」と根は同じです。
3. ロープと道具を見守る
地上には、樹上の職人の体を支えるロープの余りや、使う道具が置かれます。HSE は、地上作業員の役目として、ロープを絡ませず、切った枝や車・機械・人から離しておくこと、使わない道具を作業区域から離しておくことを挙げています。ロープは樹上の人の命を支える道具です。地上でロープが踏まれたり、刃物や枝の山に巻き込まれたりしないよう見守ることも、地上の大事な役目です。ロープそのものの扱いの決まりは、第5回で書きます。
切った枝をロープで吊って下ろす作業(リギング)では、地上の職人がそのロープを受け持つこともあります。こちらは人を支えるロープとは別の系統で、考え方は第18回と、高木・特殊伐採とケーブリングの連載で書きます。

地上の職人は、樹上の動きを見上げながらロープを受け持つ

切った枝を吊り下ろすときも、地上の職人がロープを受け持つ。人を支えるロープとは別の系統
4. 先回りして支え、片付ける
HSE は、地上作業員が樹上の人をよく見て、要るものを先回りして渡すことも役目に挙げています。ISA の職業案内は、地上作業員の仕事として、登る人の補助、枝の粉砕、玉切り(切った幹や枝を運べる長さに切ること)、作業後の片付けを挙げています。切った枝を集め、運び、通路を確保しておくことは、落下区域を空けておくことでもあり、次の作業を待たせないことでもあります。

マンションの高木での樹上作業。樹上の作業が続く間、地上では片付けと見守りが続く
降りたあとまでが一日
樹上の職人が降りるときも、地上と確かめ合います。下に人がいないか、ロープの先に何も無いか。降りるときに何を管理するかは第15回で書きます。
全員が地上に戻ったら、切った枝を片付け、現場を作業の前の状態に戻します。立入禁止を解くのは、樹上に人がいなくなり、落ちてくる物が無くなってからです。道具も、使ったあとに傷や汚れを確かめます。日本の規則は、ロープで体を支える作業について、その日の作業を始める前にロープや墜落制止用器具、保護帽を点検するよう定めています(第539条の9)。使う前・使った後の点検と記録の考え方は、第8回で詳しく書きます。
新人が最初に務めるのは、地上の役
ISA の職業案内は、地上作業員を、アーボリカルチャーの多くの場合の入口の職とし、そこから登る人や高所作業車の操作者などへ進む、と書いています。米国の樹木管理会社の団体(TCIA)の講座も、地上の基礎講座が「地上作業員の責任」「登る人の補助」「緊急対応の基本」から始まり、登る人の講座と並ぶ職業の道筋の入口になっています。
当社でも、新しく入った社員は、まず地上の役から仕事を覚えます。地上にいると、現場の全体が見えます。樹上の職人がどの枝から切り、枝がどこへ落ち、どこで合図が交わされるのか。打合せで決めたことが、作業の中でどう生きるのか。道具の名前や合図の意味も、地上で樹上とやり取りする中で覚えていきます。
地上の役は、登る前の見習いの期間というだけではありません。HSE がチームの一員と書くように、地上の役がしっかりしているから、樹上の職人は作業に集中できます。樹下を守り、合図に応え、ロープを見守る。どれか一つが抜けると、樹上の安全も崩れます。いずれ自分が登る側になったとき、地上の役がどれだけ自分を支えているかが分かっていることは、樹上での判断にもつながるはずです。
職人の視点 ― 下から見て、覚える
私が修業時代から見てきた現場では、若い職人は、まず木の下で切り落とされた枝を集め、束ね、運ぶところから仕事を始めていました。手を動かしながら、上で鋏を入れる親方がどの枝を残し、どの枝を抜くのかを、下から見て覚えていく。ロープの技術が入ってきても、この覚え方は変わっていないと思います。
現場での経験から言うと、樹上からは、自分の真下や樹冠の外は思ったより見えません。葉に隠れ、枝に遮られ、足元に人が近づいても気づけないことがあります。そのとき、地上の声が樹上の職人の目の代わりになります。だから地上の役には、樹上を見上げるだけでなく、周りを見回し続けることが求められます。

樹上で並んで作業する当社の職人。地上の声が、樹上から見えにくい所を補う
樹上の職人が次にどの道具を欲しがるかを、言われる前に用意できるようになると、地上の役は一段上がります。それは、上の仕事の段取りが頭に入ってきた証しでもあります。地上で積み重ねたこうした経験が、いずれ自分が登るときの、いちばんの土台になると私は考えています。
新人のための確認
この回で覚える名前
- 地上作業員(グランドワーカー、ground worker)
- 作業前の打合せ(job briefing)と、危険予知(KY)
- 落下区域(drop zone)と、立入禁止
- 指示 → 返事 → 確認(合図の型)
理解しておく考え方・決まり
- 樹上作業は一人では行わない。地上に、すぐ動ける人を置く
- 登る前に、木と周りを確かめ、危険・進め方・役割・合図・救助の段取りを全員で決める。状況が変わったら決め直す
- 落下区域には、樹上の人が認めたとき以外は入らない。立入禁止が破られたら、作業を止める
- 合図は、返事を聞いてから動く。返事が無ければ動かない
- ロープは樹上の人の命を支える道具。踏ませない、絡ませない、刃物や枝の山に巻き込ませない
- 悪天候で危険が予想されるときは、作業をしない
指導者のもとで習う項目
- 当社の現場で使う合図
- 立入禁止の範囲の決め方と、表示の仕方
- 地上でのロープと道具の扱い
- 緊急時の連絡と、救助のときの自分の役割
よくある質問(Q&A)
Q1. 樹上作業は何人で行いますか?
A. 一人では行わず、樹上の職人のほかに、地上に少なくとも1人を置きます。英国の安全衛生庁(HSE)は、樹上作業のときは2人以上が現場にいること、地上の1人はすぐに救助できる力量と装備を持つことを求めています。実際の人数は、木の大きさや周りの状況、作業の中身によって決めます。
Q2. 地上作業員(グランドワーカー)は何をする人ですか?
A. 樹上の作業を地上で支える人です。枝が落ちてくる範囲を立入禁止にして見張る、樹上と合図をやり取りする、ロープと道具を見守る、切った枝を片付ける、といった役目を受け持ちます。米国の国際アーボリカルチャー協会(ISA)は、地上作業員をこの仕事の多くの場合の入口の職としています。
Q3. 作業前の打合せでは、何を確かめるのですか?
A. その日の作業の危険、作業の進め方、一人ひとりの役割、合図の決め方、保護具、緊急時の連絡と救助の段取りなどです。米国の安全基準 ANSI Z133 の改訂案は、打合せを1日に少なくとも1回行い、状況が変わったらやり直すよう求めています。
Q4. 作業中の木の下を通ってもよいですか?
A. 立入禁止の範囲には入らないでください。樹上から切った枝が落ちてくることがあり、枝は地面で跳ねたり転がったりもします。地上の職人が回り道をご案内しますので、その案内に従っていただければと思います。
Q5. この記事を読んで、自分で木に登ってもよいですか?
A. 記事だけを手がかりに木に登ることは、重大な事故につながるため行わないでください。この連載は仕組みと安全の考え方を紹介するもので、登り方や結び方の手順は載せていません。樹上での作業は、資格と経験のある指導者のもとで訓練を受けてから行うものです。高い木の手入れでお困りの場合は、専門の業者にご相談ください。
出典・参考情報
- International Society of Arboriculture「ANSI Z133 改訂案(第2回公開レビュー版、2024年1月)」(最新版は Z133-2026。本文の記述は改訂案による)
- International Society of Arboriculture「Career Paths in Arboriculture: Groundworker」
- Health and Safety Executive(英国)「Aerial work」「Tree-climbing operations」「Managing public safety」「First aid and emergency procedures」「Working and tree climbing without any emergency procedures」(事例)
- Arboricultural Association(英国)「Safety Guide 1: Tree Climbing and Aerial Rescue」(2020年)
- Tree Care Industry Association「Ground Operations」
- Occupational Safety and Health Administration(米国)「Hazard Bulletin: Tree Care Work: Falls and Falling Object Hazards」
- e-Gov 法令検索「労働安全衛生規則」(第479条、第522条、第530条、第537条、第539条の4・第539条の5・第539条の9)
- 厚生労働省・東京労働局「2025年4月から事業者が行う退避や立入禁止等の措置について」
- 厚生労働省「林業の作業現場における緊急連絡体制の整備等のためのガイドライン」(令和2年1月31日 改正)
- 厚生労働省 職場のあんぜんサイト「危険予知訓練(KYT)」、中央労働災害防止協会「危険予知訓練(KYT)とは」
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株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊































