都市の大きな樹木は、建物や電線、道路に囲まれて、手入れをしたくてもできなくなることがあります。連載「高木・特殊伐採とケーブリング」の第1回では、手入れが難しくなる理由と、強剪定の繰り返しが腐朽や伐採につながる流れ、手入れを続ける方法を、樹木医が国の手引きとあわせて解説します。
大田区のマンションで伐採したケヤキは、敷地の境界ぎりぎりに植えられ、何十年ものあいだ、落ち葉の問題もあって毎年強く剪定されてきた木でした。太い枝や幹には大きな腐朽がいくつもあり、伐採して中心を確かめると、外からは分かりにくかったものの、ほぼ空洞になっていました(マンション ケヤキ 伐採工事 東京都大田区)。この木を伐ることになった理由をたどると、ある年の一度の判断というより、同じ手入れが長い年月をかけて積み重なった結果だったと思います。
この連載では、当社の高木・特殊伐採&ケーブリングのページに並べた項目を、1回に1つずつ掘り下げていきます。第1回は、伐採の話に入る前に、都市の高木がなぜ手入れできなくなるのか、手入れが止まった木に何が起きるのか、そして手入れを続けるためにどんな方法があるのかを書きます。

マンションの前に並ぶ高木の剪定。道路側にコーンを置き、作業員が樹上に登って枝を切っている
都市の高木が「手入れしたくてもできない」理由
サービスページの冒頭に、「都市部では建物や電線、周辺の道路環境といった様々な要因によって、適切な管理をしたくてもできない高木樹木がたくさんあります」と書きました。これまでの現場の記録から、その「様々な要因」を拾うと、次のようなものがあります。
建物・電線・道路が近い
武蔵野市の個人邸で伐採した高さ12m前後のクスノキは、枝葉が電線に絡み、近隣との境界ぎりぎりに植えられていました(武蔵野市・個人邸 クスノキ伐採作業)。建物に近い木は、切った枝を落とす場所がありません。道路の上に枝が張り出していれば、通行を止める段取りも要ります。電線に枝が触れている木は、作業する人の感電を防ぐことが先に立ちます。どれも、木そのものより周りの条件で、手入れの難しさが決まっていく例です。
電線に枝が触れているのを見つけたときは、感電の危険があるので、ご自身で枝を払おうとせずに離れてください。

電線と枝の干渉(イラスト)。道路沿いの高木の上部の枝が電線に触れている
車両や機械が木に近づけない
大田区のマンションのケヤキは、真下に駐輪場があり、周りに建物もあって、高所作業車もクレーン車も置けませんでした(大田区マンション 特殊伐採)。学校の中庭のイヌシデも、建物に囲まれて、高所作業車やラフタークレーン車を置くのが難しい場所でした(学校施設内 高木特殊伐採 東京都)。高い木の手入れは、作業車が木のそばまで入れるかどうかで、取れる方法が大きく変わります。
植えたときより、大きく育った
国土技術政策総合研究所(国総研)の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」は、全国の街路樹の本数が平成14年ごろから横ばいになっている背景として、植えてから長い期間がたった街路樹が、限られた道路空間の中で大きく育ち、見通しを妨げるなどの交通の障害を起こしていること、そして樹体を小さくするための強剪定などで衰弱していることを挙げています。
現場での経験から言えば、同じことはマンションや学校、社寺の木でも起きています。植えたときには十分な広さだった場所も、数十年たつと、枝が建物の壁や窓、通路、電線とぶつかるようになります。

成長と空間のミスマッチ(イラスト)。植えたときの想定より大きく育ち、標識を隠す、通行を妨げる、自転車や車に枝がかかる
落ち葉や越境への対応が、毎年の強剪定になる
冒頭のケヤキと、「大田区マンション 特殊伐採」で紹介したケヤキには、共通点がありました。どちらも隣の敷地に近く、落ち葉の問題もあって、毎年強めに剪定されてきた木でした。後者のケヤキは、落葉の前に、落ち葉対策も兼ねて強く切られていました。落ち葉や隣地への枝の越境は、周りで暮らす方にとっては切実な問題です。ただ、その対応を毎年の強い切り詰めで続けると、次に書くように、木の側に別の問題が少しずつ積み重なっていきます。
強剪定を繰り返した高木に起きること
強剪定は、太い枝や幹を途中で切り詰めて、樹冠(枝葉の広がり)を一度に大きく減らす剪定です。「ぶつ切り」とも呼ばれます。国総研の手引きは、維持管理の段階で倒伏や落枝につながる剪定の要因として、強剪定について次のことを挙げています(p.1-79。要約)。
- 強剪定によって、不定枝・徒長枝・胴吹きが多く出て、折れやすい枝が増える
- 多くの枝葉が出ることで樹冠の内側に日が当たらなくなり、枯れ枝が出る要因になる
- 定期的な強剪定で樹勢が衰え、腐朽菌の侵入や根の衰えの要因になる
さらに手引きは、不定枝(本来の芽ではないところから出る枝)は強剪定された幹や枝から出やすく、剪定の切り口から腐朽菌が入ると、木材の強度はいっそう下がるとしています(p.1-20)。剪定の基本を示した図にも、「強剪定による樹体の傷害とその後の腐朽」「太い樹幹での寸胴切りによる腐朽」が並んでいます(p.1-80)。

強剪定(イラスト)。強く切り詰めると切り口から勢いの強い枝が多く出て、数年で元より大きくなる

強剪定の切り口から腐朽が広がる(イラスト)。太い枝を途中で切った切り口から腐朽が入り、年月をかけて幹の中にウロ(樹洞)ができていく
「大田区マンション 特殊伐採」のケヤキには、長年の剪定によるダメージで、ウロ(樹洞。枝や幹の芯が腐ってできた空洞)がいくつもできていました。冒頭のケヤキは、太い枝や幹に大きな腐朽があり、伐採してみるとほぼ空洞でした。どちらも、真下や間に駐輪場がある、隣に保育園があるといった、人が近くを通る場所の木です。安全を考えて、伐採を選びました。

大田区のマンションで伐採したケヤキの幹。外からは分かりにくかったが、中はほぼ空洞だった
「大田区マンション 特殊伐採」の現場では、同じ時に、前の年に枯れてしまったクスノキも伐採しました。強い風が吹き抜ける場所で強剪定をしたことで、葉と新しい芽が風で飛ばされ、枯れてしまった可能性があると考えています。剪定の時期と強さは、その木が立っている場所の風や日当たりまで含めて決める必要があります。
一方で、ウロは鳥などの生きものの住みかにもなります。伐採を予定していた別の現場のケヤキでは、ウロの中でシジュウカラの雛が育っていて、工程を組み替えたことがあります(学校施設内 高木特殊伐採 東京都)。ウロがあるからすぐに危ないとは限らず、残すか伐るかは、診断で中の状態を確かめてから決めます。その判断の仕方は、この連載の第5回で詳しく書きます。
大きくなった木を小さくしたいときは、数年をかけて
「大きくなりすぎたので小さくしたい」というとき、強剪定のほかに方法はないのでしょうか。東京都建設局の「街路樹維持管理計画書」(令和3年12月)は、倒木の危険を避けるために樹冠を小さくする剪定について、強剪定で樹冠を詰めるのではなく、目標とする樹形を定め、数年かけて計画的に樹高や枝張りを縮小していくことが求められる、としています(p.6)。同じページには、新宿副都心の高さ25mのケヤキの大枝を抜き、樹形全体を縮めて18mにした例の写真が載っています。
国総研の手引きも、樹体に大きな傷をつける強剪定を行わないように、成長の段階に応じた長い期間の剪定計画を立てることを、倒伏・落枝に配慮した剪定の基本の1つ目に挙げています(p.1-80)。

数年かけて樹冠を小さくする(イラスト)。目標の輪郭を決め、1年に少しずつ、枝の付け根や内側の枝まで切り戻して近づけていく
私たちも、枝を付け根から抜く枝抜き剪定や、外側の枝を内側の枝の分かれ目まで戻す切り戻し剪定を組み合わせて、何年かかけて目標の大きさに近づけることを基本にしています。剪定は、切った瞬間に結果が出るものではありません。切り口がふさがり、新しい芽が動き出し、数年後にどんな樹冠になるかを思い描きながら、どの枝を切るかを決めていきます。光と風を通す透かし剪定を含め、切り方は剪定の記事で図とあわせて書いています。
高木の手入れを続ける方法──脚立・高所作業車・ツリークライミング
高さのある木の剪定は、高さと周りの状況で方法を使い分けています。高さ4m以下は脚立、4mを超えて車両を置ける場所は高所作業車、車両が入れない場所はツリークライミングで作業します(当社のよくあるご質問 Q34)。

高い木の手入れの方法の選び方(図)。高さと、車両を木のそばに置けるかで決める
高所作業車
車両を木のそばに置ければ、バケットという安定した足場から、樹冠の外側の枝に手が届きます。道路や駐車場、広い通路に面した木に向いています。

大木の剪定に高所作業車を使う。バケットの安定した足場から外側の枝を切る
ツリークライミング
ロープで体を確保して樹上に登り、枝を切ります。車両が入れない中庭や建物の裏、駐輪場の上の木でも作業できます。樹上に入ると、樹冠の内側や幹に近い太い枝の状態を、間近に見て触れながら確かめられます。国総研の手引きも、剪定の作業の際には、地上の点検では確かめられない樹体の異状を、樹上からも確認するよう求めています(p.1-79)。

大きな落葉樹の樹冠の中で作業する。樹上に入ると、幹に近い太い枝の状態を間近に確かめられる
2つを組み合わせる
上野の寛永寺・輪王寺で、高さ30mを超えるクスノキを剪定したときは、ツリークライミングと高所作業車を併用しました(上野寛永寺・輪王寺 樹木医によるクスノキ剪定)。高所作業車は外側の枝へ、樹上に入ったクライマーは樹冠の内側や構造となる枝へ、と受け持ちを分けました。伐採のときは、ここにクレーンが加わります。伐採の方法は、この連載の第3回と第4回で書きます。
台風のあとに慌てないために
東京都の計画書は、夏に行う軽い剪定の目的の1つに、台風などの強風による倒木の防止を挙げています(p.1)。また、枝の先のほうにだけ葉が偏って付いた枝(ライオンテイル)は、荷重が先端にかかるため、強風で倒木や枝折れが起こる危険が高くなるとしています(p.6)。
手入れを続けている木は、台風の季節の前に枝を整理しておけます。手入れが止まっている木は、現場での経験から言えば、台風のあとに折れた枝や倒れた木の片付けから始めることになりがちです。倒木や落枝のときの対応は、この連載の第12回で書きます。
伐るかどうかを決める前に
手入れが難しくなった高木でも、すぐに伐るしかないとは限りません。樹木医が中の状態を確かめ、枝を減らす剪定やケーブリング(樹上の枝どうしをロープでつなぐ支え)で、危険を下げて残せることもあります。反対に、大田区のマンションの2本のケヤキのように、人の近くで腐朽が進んだ木は、安全のために伐採を選ぶこともあります。その判断の仕方は第5回、伐らずに支えるケーブリングは第6回で書きます。
次回(第2回)は、住宅地で大きな木を根元から倒せない理由を、労働安全衛生規則の「木の高さの2倍」の決まりから書きます。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
よくある質問(都市の高木の手入れについて)
Q1. 大きくなりすぎた高木は、伐るしかないのですか?
A. 伐るしかないとは限りません。東京都の街路樹維持管理計画書は、強剪定で樹冠を詰めるのではなく、目標の樹形を決めて数年かけて計画的に小さくしていく方法を示しています。中の腐朽がどこまで進んでいるかは樹木医が診断で確かめ、残せる木は剪定やケーブリングで危険を下げて残します。
Q2. 強剪定(ぶつ切り)をすると、なぜ木が弱るのですか?
A. 国総研の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」は、強剪定で不定枝や徒長枝が多く出て折れやすい枝が増えること、定期的な強剪定で樹勢が衰え、腐朽菌の侵入や根の衰えの要因になることを挙げています。切り口から腐朽菌が入ると、木材の強度はさらに下がります。
Q3. 高所作業車が入らない場所の高い木も、剪定できますか?
A. できます。ロープで体を確保して樹上に登るツリークライミングで作業します。車両が入れない中庭や建物の裏、駐輪場の上の木でも対応できます。樹上からは、樹冠の内側や幹に近い太い枝の状態も間近に確かめられます。
Q4. 高い木の剪定の方法は、どうやって決めるのですか?
A. 高さと周りの状況で決めます。当社では、高さ4m以下は脚立、4mを超えて車両を置ける場所は高所作業車、車両が入れない場所はツリークライミングで作業します。大きな木では、高所作業車とツリークライミングを組み合わせることもあります。
Q5. 電線に木の枝が触れているときは、どうすればよいですか?
A. 感電の危険があるので、ご自身で枝を払おうとせず、近づかないでください。東京電力パワーグリッドのサービスエリアでは、電柱・電線に樹木などが接触している件を、同社のLINEやWebのチャットで受け付けています。木の剪定のご相談は、当社でも承ります。
Q6. 落ち葉が多いので、毎年強く切り詰めてもよいですか?
A. 毎年の強い切り詰めはお勧めしません。大田区のマンションで毎年強剪定されてきたケヤキは、太い枝や幹に腐朽が広がり、最後は伐採することになりました。落ち葉への対応は、枝を間引く剪定や剪定の時期、清掃の回数などを組み合わせて考えます。
出典・参考情報
- 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」国総研資料第1059号、2019年2月(はじめに、p.1-20、1-79、1-80)
- 東京都建設局公園緑地部「街路樹維持管理計画書」令和3年12月(p.1、p.6)
- 東京電力パワーグリッド株式会社「停電・電気設備(LINEチャット WEBチャット)」(2026年10月9日に閲覧)









