今年は桜の開花後も寒い日が続いたこともあり長くお花見を楽しめたのではないでしょうか。
ジンダイアケボノ(神代曙)は、ソメイヨシノと同じころに似た花を咲かせ、ソメイヨシノより「てんぐ巣病」にかかりにくいとされるサクラの品種です。来歴、ソメイヨシノとの違い、てんぐ巣病のしくみ、植え替えの事例を、日本花の会や研究機関の資料でまとめました。
お花見の桜の代名詞といえばソメイヨシノ(染井吉野)をイメージされるかと思いますが、
ジンダイアケボノ(神代曙)をご存知でしょうか。
ジンダイアケボノ(神代曙)の来歴
調布市の神代植物公園にはジンダイアケボノの原木があります。
公益財団法人日本花の会の「桜図鑑」によると、神代植物公園の原木は、はじめ「アケボノ」と呼ばれていました。これを西田尚道氏が別の品種であると見いだし、林弥栄氏が、植えられている場所と元の名前にちなんで「神代曙」と名付けました。日本花の会は、ソメイヨシノ系の品種としています。
ソメイヨシノは、江戸時代中期に、東京の駒込あたりの染井村の植木屋がつくったといわれる園芸品種です(日本花の会)。森林総合研究所が DNA を調べた結果では、全国のソメイヨシノはすべて同じ遺伝子の型をもつ1つのクローンで、エドヒガンとオオシマザクラがおよそ半分ずつ関わっていることが確かめられています。
ジンダイアケボノの特徴──ソメイヨシノとの違い
ジンダイアケボノの特徴
・ソメイヨシノの系統のサクラ
・花色が淡紅色でやや濃く、一重咲きの中輪
・てんぐ巣病にかかりにくい
・樹形は傘状の高木
日本花の会の説明では、開花は地域によって違うものの、ソメイヨシノとほぼ同じ時期か少し早く、樹形もソメイヨシノと同じ傘状で、木の大きさはソメイヨシノの7割ほどです。国土交通省がまとめた街路樹の合意形成の事例集でも、ソメイヨシノと開花の時期や花の形・色が似ていて、やや小ぶりで病気になりにくいといわれていることが、植え替えの品種に選んだ理由として挙げられています(東京都国立市)。
| 項目 | ソメイヨシノ | ジンダイアケボノ |
|---|---|---|
| 成り立ち | 江戸時代中期に染井村の植木屋がつくったとされる、全国で1つのクローン | 神代植物公園の原木、日本花の会はソメイヨシノ系の品種とする |
| 花 | ― | 一重咲きの中輪、淡紅色、ソメイヨシノより色がやや濃い |
| 開花の時期 | ― | ソメイヨシノとほぼ同じか少し早い |
| 樹形と大きさ | 傘状 | 傘状、大きさはソメイヨシノの7割ほど |
| てんぐ巣病 | かかりやすく、被害が大きい | ソメイヨシノに比べてかかりにくい |
出典: 公益財団法人日本花の会「桜図鑑 神代曙」「FAQ・桜の豆知識」、加藤珠理・松本麻子「DNAから見たサクラの栽培品種」(季刊 森林総研 No.32)、松下範久ほか(植物防疫 65巻8号、2011年)。「―」はこの表のための資料に書かれていない項目です。
てんぐ巣病とは──ソメイヨシノがかかりやすいサクラの病気
サクラのてんぐ巣病は、子のう菌類のカビ(Taphrina wiesneri)が起こす病気です。東京大学の研究者による解説(植物防疫、2011年)によると、国内では沖縄県を除く九州から北海道まで被害が確認され、被害を受ける樹種はソメイヨシノ、ヤマザクラ、オオヤマザクラなどで、とくにソメイヨシノの被害が大きいとされています。
菌に感染すると、枝の一部がふくらみ、そこから小枝がほうき状に不規則に生えてきます。この姿を「天狗の巣」に見立てたのが病名の由来です。病気の枝には花芽がほとんどつかず、開花の時期に小さく厚い葉を広げるため、花だけが咲くソメイヨシノの樹冠の中で、緑の葉を出した枝がはっきり見分けられます。てんぐ巣は数年から時に10年以上大きくなってから枯れ、数が増えると木は次第に弱り、枯れることもあります。
同じ解説によると、菌は病気の枝の内樹皮や芽の中で冬を越します。伝染のしくみには分かっていないことが多く、病気の枝を切り取る以外に有効な防除法は確立されていません。長野県林業総合センターの技術情報は、成長の休止期に、てんぐ巣の付け根のこぶより幹側で切り、切り口を保護剤で覆うことを勧めています。
ソメイヨシノからジンダイアケボノへ──苗木の配布と植え替え
日本花の会は、ソメイヨシノがてんぐ巣病にかかりやすく、この病気が全国に広がっていることから、新しくソメイヨシノを植えれば病気を広げることになると考え、2005年度にソメイヨシノの苗木の配布を、2009年度からは販売もやめました。代わりに配っているのがジンダイアケボノで、1997年10月から配布を始め、2021年2月までに延べ71,182本を出荷しています。
「かかりにくい」ことは、てんぐ巣病のソメイヨシノがある秋田県と熊本県の試験地に、ソメイヨシノとジンダイアケボノの苗木を植えて数年間比べた現地の試験で確かめられています。菌を人工的に植え付けて発病させる方法が難しいためで、日本花の会の言い方も「罹り難い」です。かからないわけではありません。

図: ソメイヨシノとジンダイアケボノ、てんぐ巣病の年表(出典: 日本花の会、植物防疫 65巻8号、国土交通省の資料をもとに当社作成)
ソメイヨシノは戦後より全国各地で多く植栽されてきましたが、
大きくなりすぎたり、管理が行き届いていないと腐朽などの異常により
近年問題となってきており、ジンダイアケボノへの植え替えが各地で進んできています。
植え替えの例として、国土交通省の事例集は東京都国立市の「さくら通り」を挙げています。市は2014年2月の市報で、ソメイヨシノより病害に強く同じ系統のジンダイアケボノに植え替えると知らせましたが、市民の反対を受けて、樹木医の診断で危険度の高い木から植え替える計画に改め、年に1回、樹木医による市民向けの現地説明会を開いています。今ある木を伐って植え替えることは、街の景色を大きく変えます。一本ずつの診断にもとづいて順番を決める進め方は、私たち樹木医の仕事とも重なります。
昭和・平成の時代を楽しませてくれたソメイヨシノの時代から、
令和はジンダイアケボノの時代になっていくのかもしれません。
株式会社トシ・ランドスケープ
よくある質問
Q1. ジンダイアケボノ(神代曙)とは、どんなサクラですか。
調布市の神代植物公園に原木があるサクラの品種で、日本花の会はソメイヨシノ系の品種としています。花は一重咲きの中輪で、ソメイヨシノより色がやや濃く、ソメイヨシノに比べててんぐ巣病にかかりにくいとされています。
Q2. ソメイヨシノとは、どこが違いますか。
日本花の会の説明では、開花はソメイヨシノとほぼ同じ時期か少し早く、樹形は同じ傘状で、木の大きさはソメイヨシノの7割ほどです。花の色はやや濃く、てんぐ巣病にかかりにくい点が大きな違いです。
Q3. てんぐ巣病とは、どんな病気ですか。
カビの一種(Taphrina wiesneri)が起こすサクラの病気で、枝の一部がふくらんでそこから小枝がほうき状に生え、その枝には花がほとんど咲きません。ソメイヨシノの被害がとくに大きく、病気の枝を切り取る以外に有効な防除法は確立されていません。
Q4. ジンダイアケボノは、てんぐ巣病にかからないのですか。
かからないわけではありません。日本花の会は、秋田県と熊本県の試験地で数年間ソメイヨシノと比べた結果から、「罹り難い」としています。
「樹木診断」のサービス内容と、ご相談の窓口であるお問い合わせのページはこちらです。
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出典・参考情報
・神代曙|桜図鑑(公益財団法人日本花の会) 原木が調布市の神代植物公園にあること、ソメイヨシノ系の品種であること、サクラ類てんぐ巣病に罹り難いことから染井吉野に代わる桜として配布されていること、花色・花の大きさ・樹形の特徴の記載を2026年9月27日に確認しました。
・公益財団法人日本花の会「FAQ・桜の豆知識」(ソメイヨシノの苗木の配布と販売の中止、神代曙の配布と試験、開花の時期・大きさ)
・加藤珠理・松本麻子「DNAから見たサクラの栽培品種」季刊 森林総研 No.32、国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
・松下範久・小松雅史・宝月岱造「ソメイヨシノの枝内におけるサクラてんぐ巣病菌の越冬部位の解明」植物防疫 65巻8号 p.469〜472、2011年
・長野県林業総合センター「ミニ技術情報 No.16 サクラのがんしゅ病害」(平成11年)
・国土交通省「街路樹の植え替えや除去等に伴う合意形成事例 ポイント⑤」「同 ポイント③」(国立市の事例)
いずれも2026年10月12日に確認しました。
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