樹上で体を支えるメインロープ、体を幹や枝に寄せるランヤード、ロープを高い枝へ導くスローライン。同じロープでも役目と決まりが違います。連載「アーボリストの基礎」の第5回では、ロープの構造と伸びの少なさの意味、扱いの決まりを、日本の法令を先に、海外の基準を後に、樹木医が解説します。
この連載をお読みいただく前に
この記事は、ツリークライミングの仕組みと安全の考え方を紹介するものです。登り方や結び方の手順は載せていません。樹上での作業は、資格と経験のある指導者のもとで訓練を受けてから行うもので、記事だけを手がかりに木に登ることは、重大な事故につながるため決して行わないでください。
第3回では保護具を、第4回ではハーネスを取り上げました。今回は、そのハーネスと樹木の間にあるロープです。第2回で「第5回で書きます」とお約束した、ロープの扱いの決まりもここで書きます。
ツリークライミングのロープについて、この回で書くのは、役目と選ばれる基準、扱いの決まりまでです。ロープを枝に通す方法や結び方、器具へのセットの仕方は、指導者が現場で直接教えるもので、この記事には載せません。製品名は仕組みを説明するための例で、特定の製品を勧めるものではありません。
樹上で使う4つのロープ ― 役目で分かれる
樹上で使うロープは、大きく4つに分かれます。体を支えるメインロープ(英語では climbing rope)、体を幹や枝に寄せて作業の位置を保つランヤード、メインロープを高い枝まで導くスローライン、切った枝を吊って地上へ下ろすリギング用ロープです。違いは、人の体重を預けるかどうかと、何を基準に選ぶかにあります。
日本の労働安全衛生規則は、ロープで体を支えて行う高所の作業(ロープ高所作業)について、体を支えるロープを、規則の言葉で「メインロープ」と呼び、それとは別に、墜落制止用器具のための「ライフライン」を設けるよう定めています(第539条の2)。樹上作業を名指しした決まりではありませんが、体を支えるロープと、もう一つの備えを分けて考える点は、樹上のロープと通じます。
海外では、ISA が行う木登りの資格(ISA Certified Tree Climber)の試験の範囲が、メインロープとリギング用ロープの性質を、作業の条件や器具との相性から説明できることを求めています。
| ロープ | 役目 | 人の体重を預けるか | 選ぶときの考え方 | 規格・決まりの例 |
|---|---|---|---|---|
| メインロープ | 樹上で体を支え、樹冠の中を上り下りし動く | 預ける | 人を支える基準(伸びの少なさ・器具との相性)で選ぶ | EN 1891 タイプA、ANSI Z133 改訂案 8.1.5 |
| ランヤード | 体を幹や枝に寄せて作業の位置を保つ、もう一つの確保の手段 | 預ける | メインロープと同じ基準、長さを調節できる型がある | EN 358、ANSI Z133 改訂案 8.1.5・8.2.4 |
| スローライン | メインロープを樹冠の高い所まで導く案内の綱 | 預けない | 細く軽く、枝の間をなめらかに動くこと | ANSI Z133 改訂案 7.1.6・4.1.8 |
| リギング用ロープ | 切った枝を吊って地上へ下ろす | 預けない | 荷の重さと使用荷重の限度で選ぶ | ANSI Z133 改訂案 9.2.4・9.2.6・9.2.9 |
出典: ANSI Z133 改訂案(ISA、2024年1月)、ペツル「ツリーケア カタログ 2026」、EN 1891
メインロープ ― 芯と外皮の構造と、伸びの少なさ
日本の法令での位置づけ
日本では、ロープ高所作業のメインロープやライフライン、それに取り付ける器具に、十分な強度を持ち、著しい損傷・摩耗・変形・腐食が無いものを使うよう定めています(労働安全衛生規則第539条の3)。ロープが切れるおそれのある所では、覆いを設けるなどして切断を防ぐことも求めています。施行の通達(平成27年8月5日 基発0805第1号)は、覆いにはロープを養生材で守ることも含むとし、ロープに取り付ける器具(下降器や登高器)は使うメインロープに適合したものを、としています。
| 項目 | 日本のロープ高所作業(労働安全衛生規則) | 樹上の作業(ANSI Z133 改訂案) |
|---|---|---|
| 体を支えるロープ | メインロープ(規則の言葉) | メインロープ(この連載での呼び名) |
| もう一つの備え | ライフライン(墜落制止用器具用)を、メインロープとは別の支持物に設ける | メインロープのほかに、もう一つの確保の手段(例: ランヤード)を常に身に着ける |
| ロープに求めること | 十分な強度、著しい損傷・摩耗・変形・腐食が無いこと | 合成繊維、作業時の伸びの上限、木登りに適するとメーカーが表示、器具との相性 |
| 点検 | その日の作業を始める前 | 使うたびに、使う前 |
出典: 労働安全衛生規則 第539条の2・第539条の3・第539条の9、ANSI Z133 改訂案 8.1.5・8.2.3・8.2.4
樹上作業がロープ高所作業に当たるかは、法令にも通達にも明示がありません。表は作りの違いを並べたもので、どちらの決まりが当たるかは第20回で書きます。
人の体を支える登はん用のロープそのものを定めた JIS は、日本産業標準調査会(JISC)の JIS 検索で、規格の名前と本文に使われている言葉の両方から探した範囲では見当たりませんでした(2026年10月に確認)。名前に「ロープ」を含む JIS は、ワイヤロープや、麻・ナイロン・ポリエステルなど素材ごとの繊維ロープの規格で、登はん用のロープを名指ししたものはありません。ワークポジショニング用のロープが出てくるのは、墜落制止用器具の JIS T 8165 の中の一項目としてです。国の「墜落制止用器具の規格」(告示)も、墜落を止める器具の性能を定めるもので、U字つりのように体を作業位置に保つ器具は含めていません。
芯と外皮 ― ロープのつくりの種類
ロープの断面をのぞくと、つくりにはいくつもの種類があります。日本では、ロープ高所作業のメインロープの強さや傷みについては労働安全衛生規則が定めていますが、ロープのつくりの種類までを決めた法令や JIS は、調べた範囲では見当たりませんでした。そこで、つくりの種類は、海外の資格の試験範囲とロープメーカーの資料で確かめました。
海外では、ISA の資格(ISA Certified Tree Climber)の試験範囲が、「登はんとリギング」の分野の知識として、ロープのつくりの種類に3つ打ち、16本組み、カーンマントル、ダブルブレイドを挙げ、それぞれの使い道を知ることを求めています。3つ打ちは、繊維を撚ったストランドを3本撚り合わせた、いちばん単純なつくりで、外皮と芯の区別がありません。樹木作業向けのロープメーカーの資料では、いまは主にリギング用(枝を吊り下ろすロープ)として載っています。
残りの3つは、どれも芯を外皮で包んだつくりで、違いは芯と外皮の作り方にあります。16本組みは、組みひもでできた外皮の中に撚った芯を持つつくりで、樹木作業のメインロープとして昔から使われてきました。ダブルブレイドは、組んだ芯を、さらに組んだ外皮で包んだ、いわば「1本の中に2本のロープ」です。外皮を目の細かい組みにしたものが、摩擦の結びや滑車と組み合わせて登る MRS(第12回で書きます)のメインロープとして広まりました。ロープメーカーの技術資料は、このつくりでは外皮と芯が荷重を分け合うと説明しています。
カーンマントルは、芯(カーン)の繊維の束を、目の詰んだ組みの外皮(マントル)で包んだつくりです。伸びが少なく、ロープを止めて登る SRT(第13回で書きます)のメインロープや、ロープアクセス、救助に使われます。欧州の規格 EN 1891 は、このつくりを持つ「低伸度」のロープを、ロープアクセスやワークポジショニング、救助に使う個人用保護具として定めています。ペツルの説明では、同社のセミスタティックロープ(伸びの少ないロープ)は、芯がナイロン、外皮がポリエステルです。素材は製品ごとに違います。同社の日本語の解説は、外皮には芯を守る役目があり、芯と外皮がずれると荷重のたびにこすれ合って耐久性に関わる、と説明しています。
ただし、ダブルブレイドとカーンマントルの呼び分けはメーカーによって違い、いまの樹木作業のロープを「ダブルブレイドかカーンマントル」とひとまとめに紹介する技術資料もあります。つくりの名前だけで選ぶのではなく、ロープに表示された規格と、メーカーが示す使い道、組み合わせる器具との相性を確かめることが大切です。
| つくりの種類 | つくり | 主な使い道 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 3つ打ち | 繊維を撚ったストランドを3本撚り合わせる、外皮と芯の区別が無い | 樹木作業向けのメーカーの資料では、主にリギング用 | いちばん単純なつくり、繊維の力を生かす効率が比較的低いとメーカーが説明 |
| 16本組み | 組みひもの外皮の中に、撚った芯 | 昔から使われてきたメインロープ、リギング用、摩擦の結びに使う短いロープ | 樹木作業のロープとして昔からあるつくり |
| ダブルブレイド | 組んだ芯を、組んだ外皮でもう一度包む | MRS のメインロープ(摩擦の結びや滑車と組み合わせる)、リギング用 | 外皮と芯が荷重を分け合う、芯が主に強さを受け持つ種類もある、芯は外皮で摩耗から守られる |
| カーンマントル | 平行に並べたり撚ったりした繊維の束の芯を、目の詰んだ組みの外皮で包む | SRT のメインロープ、ロープアクセス、救助 | 伸びが少ない、機械式の器具に合わせて外皮を固く締めたものがある、EN 1891 はこのつくりの低伸度ロープの規格 |
出典: ISA「Certified Tree Climber Examination Outline」、Teufelberger「How to choose the right rope for Tree Care?」、Samson Rope 樹木作業向け製品の一覧、Yale Cordage「Arborist」カタログ、EN 1891、ペツル「ツリーケア カタログ 2026」、ペツル・ジャパン「ロープに関する規格」
当社では、メインロープに、カーンマントルとダブルブレイドの両方のつくりを使っています。どのロープを使うかは、指導者のもとで学ぶことの一つです。

ロープのつくりの4種類。外皮の中に芯がある形と、3本を撚り合わせた形がある(代表的な形として描いた図)
伸びが少ないことの意味
メインロープは、体重をかけても伸びが少ないように作られています。体を預けるたびにロープが大きく伸びれば、そのぶん体が沈みます。米国の樹木作業の安全基準 ANSI Z133 の改訂案は、メインロープとランヤードに、決まった荷重での作業時の伸びの上限を定めています(8.1.5)。伸びの少なさは好みではなく、基準で決められた性質です。ペツルも、伸び率が低いので樹冠の中を効率よく動け、ロープで登るのも効率がよい、と説明しています。
海外の基準と、器具との相性
ISA が事務局を務める ANSI Z133 の改訂案(2024年1月の公開レビュー版)は、メインロープとワークポジショニング用ランヤードに、次のことを求めています(8.1.5)。
- 最小の直径の決まりを満たす
- 合成繊維でできている(ランヤードは、鋼の芯の入ったロープでもよい)
- 新品のときの最小の破断強度の決まりを満たす
- 決まった荷重での作業時の伸びが、上限を超えない
- 木登りに適していると、メーカーが表示している
- システムのほかの部品と相性が合う
最後の「相性」は、ロープを単体で選ばない、ということです。ペツルの ZIGZAG(摩擦で体を止める機械式の器具。第7回で書きます)は、使えるロープを EN 1891 タイプAのセミスタティックロープと指定しています。日本の通達と同じ考え方です。カタログの仕様表にも、強さのほかに次の項目が並びます。
| 仕様表の項目 | 何を表すか |
|---|---|
| 破断強度 | ロープが切れるときの力、端に結び目があるとき・縫製の輪のとき・どちらも無いときで別々に表示される |
| 伸び率 | 荷重をかけたときにどれだけ伸びるか |
| 外皮のずれ | 芯に対して外皮がどれだけずれるか |
| 外皮率 | ロープの中で外皮が占める割合 |
| 収縮率 | ロープがどれだけ縮むか |
出典: ペツル「ツリーケア カタログ 2026」(日本語版)のロープの仕様表の項目。値はこの記事では書かない
ランヤード ― 体を寄せて作業の位置を保つ
ランヤードは、ハーネスの左右の取付点(サイドD環)の間で、幹や枝を介して体をU字に支え、作業する位置を保つための短いロープです。メインロープとランヤードの両方に体を預けることで、両手を作業に使えます。
日本では、厚生労働省の「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」(平成30年)が、伸縮調節器で長さを調整したロープの張力で、U字つりの状態で体の作業位置を保つものを「ワークポジショニング用ロープ」と呼び、電柱などとこすれて摩耗が激しいので、こまめに点検するよう求めています(JIS T 8165 にも構造の項があります)。樹木を名指しした指針ではありませんが、樹上のランヤードと同じ考え方の注意です。
海外では、ANSI Z133 の改訂案が、登る間は、メインロープに加えて、少なくとももう一つの確保の手段(例としてランヤード)を常に身に着けるよう定めています(8.2.4)。ランヤードにもメインロープと同じ基準が当たり(8.1.5)、余りの端が摩擦の器具を抜けないよう、端の処理も求められます(8.1.17)。
ペツルの ZILLON(ジヨン)は、ハーネスの側部の取付点につながってU字で体を支え、荷重を腰ベルト全体に分ける作りで、欧州のワークポジショニングの規格 EN 358 に合っています。MICROFLIP(マイクロフリップ)は、芯に鋼線のケーブルを入れて、刃物でランヤードを切ってしまう危険を抑えています。ところが Z133 の改訂案は、鋼の芯のランヤードを、電気が通っている設備や電線の近くで使わないよう定めています(8.1.18)。刃物に強いことと、電気を通すことは、同じ鋼線の表と裏です。

ランヤードを幹に回して体を寄せ、斜めの太枝を上る作業員
同じ「ランヤード」という名前でも、墜落を止めるためのものは別の道具です。
| 項目 | ワークポジショニング用ランヤード | 墜落を止めるランヤード |
|---|---|---|
| 役目 | 体を幹や枝に寄せて、作業の位置を保つ | 落ちたときに体を止める |
| 作りの特徴 | 長さを調節できる、U字で体を支える、鋼の芯の型もある | 落ちたときの衝撃を和らげる部品(エネルギーアブソーバー)が付く |
| 規格の例 | EN 358 | 日本の墜落制止用器具の規格(第2種) |
| 製品の例(ペツル) | ZILLON・MICROFLIP | ABSORBICA |
出典: ペツル「ツリーケア カタログ 2026」(日本語版)のランヤードの項
スローラインとリギング用ロープ ― 人を支えないロープ
スローライン ― メインロープを導く案内の綱
スローラインは細く軽い綱で、おもりの付いた小さな袋(スローバッグ)と組で使います。ペツルのカタログは、その役目を、地上からメインロープを樹冠の支点まで届けることだと説明しています。同社の AIRLINE(エアライン)は、外皮と芯がずれず断面が丸いまま保たれ、樹冠の中をなめらかに動く作りです。
スローラインは、体重を預けるロープではありません。ANSI Z133 の改訂案は、ロープとスローライン以外の道具を木へ投げないよう定め(7.1.6)、スローラインも、電線から離すべき電気を通しうる装備に含めています(4.1.8)。扱い方は ISA の資格でも技能として試される項目で、指導者のもとで習います。

樹冠の股を越えたスローライン。先にスローバッグが付き、足元に収納袋とロープバッグを置く
リギング用ロープ ― 荷を下ろすロープとの違い
海外では、ANSI Z133 の改訂案が、リギングをする人に荷の重さを見積もる訓練を求め、部品は使用荷重の限度に見合うものを選ぶよう定めています(9.2.4・9.2.6)。リギングの器具が登はんの器具と取り違えられるおそれがあるときは、目的が分かるよう表示します(9.2.9)。反対に、体を確保する器具は本来の目的以外に使いません。例外は、メインロープで軽い道具を上げ下ろしすることだけです(8.1.12)。英国の安全衛生庁(HSE)も、リギングのシステムに、人を運ぶためのものではないと分かる表示を求めています。
| 項目 | メインロープ | リギング用ロープ |
|---|---|---|
| 支えるもの | 人の体 | 切った枝などの荷 |
| 選ぶ基準 | 人を支える基準(伸びの上限・木登りに適する表示・器具との相性) | 荷の重さの見積もりと、使用荷重の限度 |
| 取り違えへの備え | 本来の目的以外に使わない | 取り違えるおそれがあれば目的を表示する、人を運ぶ物ではないと表示する |
出典: ANSI Z133 改訂案 8.1.5・8.1.12・9.2.4・9.2.6・9.2.9、英国 HSE「Lifting equipment in arboriculture」
人を支えるロープと、荷を下ろすロープは混ぜない。リギングの考え方は第18回と、高木・特殊伐採とケーブリングの連載で書きます。

切った枝を吊るリギングロープと、人を支えるメインロープは別の系統
ロープの扱いの決まり ― 刃物・薬品・電気から離す
日本では、ロープ高所作業について、その日の作業を始める前にメインロープなどを点検し、異常があればすぐ直すか取り替えるよう定めています(労働安全衛生規則第539条の9)。施行の通達は、保管の場所と方法、使うのをやめて取り替える基準を、前もって決めておくことが望ましいとしています。厚生労働省の墜落制止用器具のガイドラインも、直射日光・湿気・火気・腐食性の物を避けて保管し、強度に影響する溶剤を使わないよう求めています。樹上で使うロープを名指ししたものではありませんが、繊維でできた命綱を守る考え方は同じです。
海外では、ANSI Z133 の改訂案が、ロープと登はんの器具を、鋭い道具や刃先、燃料、油、薬品に触れて傷まないように保管し、運ぶよう定めています(8.1.14)。ISA の学術誌に載った実験では、張ったロープに手鋸の刃が当たると、刃の種類によってはロープが切れてしまい、切れ込みが深いほど強さが落ちました(Kane ほか、2009年)。著者は、この危険を軽く見ている人が多いと注意しています。扱いの決まりをまとめると、次のとおりです。
| 扱いの決まり | 出典 |
|---|---|
| その日の作業の前に、ロープの状態を点検する | 労働安全衛生規則 第539条の9(ロープ高所作業) |
| ロープが切れるおそれのある所では、覆いや養生材で守る | 労働安全衛生規則 第539条の3(ロープ高所作業)、施行通達 |
| 保管の場所と方法、使うのをやめる基準を前もって決めておく | 施行通達(望ましいとされる) |
| 直射日光・湿気・火気・腐食性の物を避けて保管する | 厚生労働省 墜落制止用器具のガイドライン |
| 刃物・燃料・油・薬品から離して保管し、運ぶ | ANSI Z133 改訂案 8.1.14 |
| 使うたびに、使う前に傷や擦れを確かめ、ひどく傷んでいれば使うのをやめる | ANSI Z133 改訂案 8.2.3 |
| 地上の班は、メインロープを傷みから守り、傷みに気づいたら樹上へ伝える | ANSI Z133 改訂案 8.2.18 |
| 電線から離す(ロープもスローラインも電気を通しうる) | ANSI Z133 改訂案 4.1.8 |
| 鋼の芯のランヤードを、電線の近くで使わない | ANSI Z133 改訂案 8.1.18 |
| 見張りの無いまま木に残さない(傷めず危険を生まない形で留める場合を除く) | ANSI Z133 改訂案 8.1.15 |
| 枝の粉砕の作業中は、ロープを粉砕の区域から離す | ANSI Z133 改訂案 9.6.6 |
| ロープを踏まない | 現場での経験から(当社) |
出典: 表の各欄のとおり
最後の「踏まない」は、調べた資料に文字どおりの定めが見つかりませんでした。現場での経験から言うと、踏まれたロープには、靴底の砂や小石が外皮の目に押し込まれます。当社では、ロープを地面に直に置かず、ロープバッグやシートの上で扱い、踏まないことを地上の決まりにしています。ロープだけでなく、チェーンソーなどの道具も、すべてシートの上に置きます。地面を汚さないためと、道具を整理して、どこに何があるかを見やすくするためです。第2回で地上の役目として書いた「ロープを踏ませない」も、この決まりです。

ロープも道具もシートの上に置く。ロープのシートと刃物・燃料のシートは離す
職人の視点 ― 縄に体を預けてきた仕事として
第1回で書いたとおり、私が修業時代から見てきた現場では、植木職人は腰縄で体を幹や枝にとどめ、両手で鋏や鋸を使ってきました。縄一本に体を預ける仕事では、縄の傷みは、そのまま自分の体の危うさです。現場での経験から言うと、腰縄を大事に扱う職人ほど、樹上での動きにも無理がありませんでした。
縄がハーネスとロープに置き換わっても、この感覚は変わらないと思います。私の感覚では、ロープの傷みは樹上より地上で生まれることが多く、使ったあとに状態を確かめる時間が、次の日の安全をつくります。新人に最初に伝えたいのは、結び方より先に、この扱い方です。
新人のための確認
この回で覚える名前
- メインロープ、ランヤード、スローライン、リギング用ロープ
- ロープのつくりの名前: 3つ打ち、16本組み、ダブルブレイド、カーンマントル(芯=カーン、外皮=マントル)
- セミスタティックロープ
- ワークポジショニング用ランヤードと、墜落を止めるランヤード
- 日本の法令の言葉: メインロープ(ロープ高所作業の規則の言葉)、ライフライン、ワークポジショニング用ロープ
- 規格の名前: EN 1891、EN 358、ANSI Z133
理解しておく考え方・決まり
- 4つのロープは役目が違う。人を支えるロープと、荷を下ろすロープは混ぜない
- スローラインは案内の綱で、体重を預けるロープではない
- 伸びの少なさは基準で決められた性質。ロープは器具との相性で選ぶ
- 刃物・燃料・油・薬品から離す。電線から離す。鋼の芯のランヤードは電線の近くで使わない
- 使うたびに、使う前に確かめる。ひどい傷みがあれば使うのをやめる
指導者のもとで習う項目
- 当社で使うロープの種類と見分け方
- ロープの点検、手入れ、保管
- スローラインの扱い
- ランヤードの使い方
よくある質問(Q&A)
Q1. ツリークライミングのメインロープは、普通のロープと何が違うのですか?
A. 人の体を支えるために作られたロープで、芯を外皮で包んだつくり(カーンマントルやダブルブレイドなど)と、体重をかけても伸びが少ないことが特徴です。欧州の規格 EN 1891 は、このうち低伸度のカーンマントルロープを定めています。米国の安全基準 ANSI Z133 の改訂案も、メインロープに、合成繊維であること、作業時の伸びの上限、メーカーが木登りに適すると表示していること、ほかの器具との相性を求めています。
Q2. ランヤードとは何ですか?
A. 体を幹や枝に寄せて、作業する位置を保つための短いロープです。ハーネスの左右の取付点の間でU字に体を支え、長さを調節できる型があります。日本の厚生労働省のガイドラインにある「ワークポジショニング用ロープ」と同じ考え方の道具です。ANSI Z133 の改訂案は、登る間は、メインロープに加えてランヤードなどもう一つの確保の手段を常に身に着けるよう定めています。
Q3. スローラインは何に使うのですか?
A. メインロープを、樹冠の高い所の支点まで導くための、細く軽い案内の綱です。おもりの付いた小さな袋(スローバッグ)と組で使い、体重を預けるロープではありません。ANSI Z133 の改訂案は、ロープとスローライン以外の道具を木へ投げないよう定めています。扱い方は、指導者のもとで習います。
Q4. メインロープとリギング用ロープは、同じものを使えますか?
A. 役目と選び方が違うので、分けて考えます。メインロープは人の体を支える基準で、リギング用ロープは吊り下ろす荷の重さと使用荷重の限度で選びます。ANSI Z133 の改訂案は、リギングの器具が登はんの器具と取り違えられるおそれがあるときは目的が分かるよう表示するよう求め、英国の安全衛生庁(HSE)も、リギングのシステムに人を運ぶためのものではないと分かる表示を求めています。
Q5. この記事を読んで、自分で木に登ってもよいですか?
A. 記事だけを手がかりに木に登ることは、重大な事故につながるため行わないでください。この連載は仕組みと安全の考え方を紹介するもので、登り方や結び方の手順は載せていません。樹上での作業は、資格と経験のある指導者のもとで訓練を受けてから行うものです。高い木の手入れでお困りの場合は、専門の業者にご相談ください。
出典・参考情報
- e-Gov 法令検索「労働安全衛生規則」(第539条の2、第539条の3、第539条の9)
- 厚生労働省「ロープ高所作業における危険の防止を図るための労働安全衛生規則の一部を改正する省令等の施行について」(平成27年8月5日 基発0805第1号。中央労働災害防止協会 安全衛生情報センター)
- 厚生労働省「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」(平成30年6月22日 基発0622第2号)
- 日本産業規格 JIS T 8165「墜落制止用器具」(日本規格協会)
- 日本産業標準調査会「JIS検索」(2026年10月12日に規格の名前と本文の言葉で検索)
- 厚生労働省「安全帯の規格の全部を改正する告示の施行について」(平成31年1月25日 基発0125第2号。「墜落制止用器具の規格」(平成31年厚生労働省告示第11号)の施行通達。国立保健医療科学院 健康危機管理支援ライブラリー掲載)
- International Society of Arboriculture「ANSI Z133 改訂案(第2回公開レビュー版、2024年1月)」(最新版は Z133-2026。本文の記述は改訂案による)
- International Society of Arboriculture「ISA Certified Tree Climber Examination Outline」
- Kane, B., Cloyes, M., Freilicher, M., Ryan, H. D.「Damage Inflicted on Climbing Ropes by Handsaws」Arboriculture & Urban Forestry 35(6), 2009年(ISA)
- EN 1891「Personal protective equipment for the prevention of falls from a height — Low stretch kernmantel ropes」(規格の目録)
- Teufelberger「How to choose the right rope for Tree Care?」(ロープのつくりの説明。2026年10月12日に確認)
- Samson Rope「Arborist」(樹木作業向け製品の、つくりごとの一覧。2026年10月12日に確認)
- Yale Cordage「ARBORIST ― Products for tree care professionals」(製品カタログ。ロープのつくりの項)
- ペツル・ジャパン「ロープに関する規格」(2018年7月3日版)
- Health and Safety Executive(英国)「Lifting equipment in arboriculture」
- ペツル「ツリーケア カタログ 2026」(日本語版)のロープ・ランヤード・バッグとアクセサリー・ツリーケア技術の項
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- 特殊伐採とは ― 住宅地で大きな木を根元から倒せない理由|高木・特殊伐採とケーブリング 第2回
- 伐採・特殊伐採・ケーブリング(サービスのご案内)
次回の第6回は、ロープとハーネスをつなぐカラビナと、つなぐ器具を取り上げます。ゲートの意味と、刻まれた強さの表示の読み方です。
この連載をお読みいただく方へ
この記事は、ツリークライミングの仕組みと安全の考え方を紹介するものです。登り方や結び方の手順は載せていません。樹上での作業は、資格と経験のある指導者のもとで訓練を受けてから行うもので、記事だけを手がかりに木に登ることは、重大な事故につながるため決して行わないでください。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
※ 「アーボリスト」は、株式会社ツリークライミングワールドの登録商標です。当社の記事では、樹木の手入れを専門とする職業(英語の arborist)を指す言葉として使っています。
※ 「ツリークライミング」は、株式会社ツリークライミングワールドの登録商標です。当社の記事では、ロープとハーネスで樹木に登って作業する技術を指す言葉として使っています。
連載「アーボリストの基礎」のすべての回は、連載の一覧からご覧いただけます。





















