植栽管理とは、植えた後の樹木・生垣・芝生と土を、安全・景観・植物の健全さ・費用の釣り合いを見ながら手入れし続ける仕事です。連載「植栽管理の基本」の第1回では、植えた緑に管理が要る理由と目的、マンションでは誰が決めるのかを、樹木医が国の方針と標準管理規約をもとに解説します。
当社の植栽管理・メンテナンスのページには、剪定・刈込・除草・芝刈り・薬剤散布・巡回点検・緊急時対応という作業の種類と、年間管理の進め方、管理組合様とのやり取り、事例、よくある質問を並べています。ただ、1ページに並べると、1項目あたりの説明はどうしても短くなります。この連載では、その項目を1回に1つずつ取り上げ、ページでは書ききれなかった中身を書いていきます。年間の作業と費用の決まり方の全体像は「マンションの植栽管理とは」に、植栽が年月とともにどう変わるかは「長期的な植栽管理の考え方」にまとめています。
第1回は、そもそも植栽管理とは何か、です。作業の一つ一つに入る前に、何のために手を入れるのか、そしてマンションではそれを誰が決めるのかを、先にそろえておきたいと思います。ここがそろっていないと、「年に何回切るか」「いくらかかるか」の話が、根拠のない比べ合いになってしまうからです。
植栽管理とは──植えた後の緑を、目的に沿って手入れし続けること
「植栽」という言葉には、植えること(行為)と、植えられた植物(もの)の両方の意味があります。植栽管理の「植栽」は後者で、敷地に植えられた高木・中木・生垣・低木・地被植物・芝生と、それらが根を張っている土までを含めて、私は考えています。
そのうえで、植栽管理を私なりに言葉にすると、次のようになります。植えた後の樹木・生垣・低木・芝生と、それらが根を張る土を、安全・景観・植物の健全さ・費用の釣り合いを見ながら、手入れし続けること。剪定も刈込も除草も、この「続けること」の中の一つの作業です。
似た言葉を、当社では次のように使い分けています。
- 手入れ: 1回1回の作業。生垣を刈る、枝を抜く、草を取る
- 管理: 手入れを、目標と計画と記録を持って続ける仕組み。いつ・どこを・どこまで・誰が、を決めて回す
- 育てる: 何年か先の木の姿を決めて、そこへ向けて手を入れる。切ることよりも、残す枝を決めることが中心になる
公共の緑地では、管理のやり方が仕様書として言葉になっています。東京都建設局の「街路樹等維持標準仕様書(緑地管理編)」(平成25年4月)は、樹木管理の一般事項として、対象の植物の特性・活力・環境条件を考慮して作業にあたること、街路樹等の目的と、その場所で果たす機能を達成するように作業を行うこと、作業の時期は天候と植物の生育状態を考慮して最大の効果が出るように計画することを求めています。街路樹の仕様書ですが、「目的と機能に沿って、植物の状態と時期を見ながら手を入れる」という骨組みは、マンションや施設の植栽でも同じだと、現場での経験から思っています。
なぜ、植えたら終わりにならないのか
都市の緑は、人が手を入れて質を保つ
国土交通省が2024年12月に告示した「都市における緑地の保全及び緑化の推進に関する基本的な方針」は、都市の緑地が、良好な都市環境の保全、防災、レクリエーションの場、良好な都市景観の形成など多様な機能を持ち、都市の住民が健康で文化的な生活をするうえで不可欠な基盤だとしています。具体的には、植物の蒸発散や緑陰による地表面の温度の低減、騒音の低減、火災時の延焼を防ぐ働き、四季の変化を実感できる生活環境と美しい景観が挙げられています。

植栽の働き(イラスト)。目隠し、緑陰、騒音の低減、延焼の防止、光の調整、景観。どれも、植えたときの大きさではなく、育った後の姿で発揮される
同じ方針の中で、私が植栽管理の仕事に最も関わると感じたのは、次の部分です。都市の緑地は、自然の状態でそのまま保たれている原生自然とは異なり、その質を維持・向上させていくためには人間が適正な保全・管理を行うことが重要である。長期間にわたり適正な管理がなされない樹林は、病虫害の発生や、大径木化に伴う倒木被害の危険性の増大で、地域の生態系や暮らしの安全に深刻な影響を与える。高度経済成長期に整備された都市公園の樹木や街路樹は老齢化・大径木化が進み、倒伏や落枝による重大な事故のリスクが高まっている。だから、除草や病害虫防除などの維持管理を適切に行うとともに、樹木の点検と、必要に応じた剪定・伐採・更新を計画的に行うことが必要だ、という趣旨です(同方針 p.9)。
ここに書かれているのは街路樹と公園の話です。けれども、同じころ、あるいはその後に建てられたマンションの植栽も、同じだけの年月を重ねてきました。築40年を超えたマンションの緑に起きていることは、「マンション植栽の老朽化は、まず現状評価から」に書いたとおりです。管理が止まると緑は質を落とし、放っておくほど、後から要る手間と費用が大きくなる。この構造は、公共でも民間でも変わらないと考えています。
木は、手入れをしていても大きくなる
もう一つ、植えたら終わりにならない理由があります。木は毎年伸びるからです。これは資料に書いてあることではなく、現場での経験からの実感ですが、毎年きちんと剪定していても、幹は太り、樹冠は少しずつ広がります。植えたときには建物の2階に届かなかった木が、20年たてば屋上の高さになることは珍しくありません。生垣は、刈り込みを続けていても、少しずつ厚く、高くなっていきます。
だから植栽管理は、「元の形に戻す作業」ではなく、「大きくなっていく植物と、変わらない建物や通路との間を、毎年調整し続ける仕事」だと私は捉えています。同じ作業を同じ回数だけ繰り返していれば足りる、というものではありません。植栽が年月とともにどう変わり、管理の中身をどこで切り替えるかは、この連載の第2回と、「長期的な植栽管理の考え方」で書きます。

同じ入口の植え込み(イラスト)。左は手入れが止まって数年たった状態で、生垣が波打って通路にはみ出し、雑草が立ち、ケヤキの枝が外灯にかかり枯れ枝が残る。右は手入れが続いている状態
植栽管理の目的は4つ──安全、景観、植物の健全、費用の釣り合い
では、何のために手を入れるのか。私は、植栽管理の目的を4つに分けて考えています。

植栽管理の4つの目的(図)。迷ったときは、安全、費用の釣り合い、景観の順に考える
1つ目は安全です。枯れ枝や枯れた木、倒れるおそれのある木を放置しないこと、通路や駐車場の出入口の見通しを保つこと、台風のあとに折れた枝を早く片づけること。国の方針が倒伏や落枝のリスクを真っ先に挙げているのも、この順番です。当社では、年間管理の初年度に、管理組合様から「過去の台風で高木が数本倒れた」とうかがい、作業に入る前に危険木の抽出と管理方針の相談から始めた例があります(「樹木医がマンション植栽の危険木調査を行いました」)。
2つ目は景観です。エントランスやシンボルツリーなど、建物の顔になる場所を整えること、季節の変化を見せること。ここは分かりやすい目的なので、かえって「見た目を整えること」だけが植栽管理だと思われやすいところでもあります。
3つ目は植物の健全さです。木を弱らせない切り方をすること、病害虫や枯れを早く見つけること。見た目を優先して太い枝をぶつ切りにすると、木は弱り、数年後に枯れ枝や腐朽という形で安全の問題に戻ってきます。東京都の標準仕様書も、不定芽の原因となる「ぶつ切り」は原則として行わないこと、キノコの発生や不自然な揺らぎ、傾斜などの異常を見つけた樹木は速やかに報告することを定めています(2-2-1・2-2-2)。年々広がる生垣の枯れを、外部の専門機関で調べて原因を突き止めた例のように、原因を確かめてから手を打つことが、結局は遠回りにならないと感じています(「白紋羽病による植栽の枯れ」)。
4つ目は費用の釣り合いです。毎年の手入れにかける費用と、手を抜いたときに後から要る大きな費用(大きくなりすぎた木の伐採、枯れた木の植え替え、崩れた樹形の作り直し)を、1年ではなく5年・10年の幅で見ること。毎年の剪定費を抑えるために強い剪定に切り替えた結果、数年後に樹形の立て直しや伐採が要り、抑えた分を上回る支出になることがある。そういう順番を、現場で見てきました。
この4つは、同時に全部を満たせないことがあります。当社では、判断に迷ったときの順番を、安全、費用の釣り合い、景観と決めています。植物の健全さは、どの段でも外さない前提です。たとえば、日当たりを良くしてほしいという要望と、木を弱らせたくないという判断がぶつかったとき、どちらを先に立てるかが決まっていれば、理事会にも説明ができます。傾斜地の高さ20mほどのケヤキを透かし剪定して敷地の暗さを改善した例は、日当たりの要望に、木を弱らせない切り方で応えた記録です(「マンション植栽管理 神奈川県川崎市」)。

高木剪定の前(左)と後(右)。樹冠の形を保ったまま枝を透かし、電線や道路との間を空けている
マンションでは、誰が植栽管理を決めるのか
植栽は附属施設で、管理するのは管理組合
マンションの植栽を誰が管理し、誰が費用を決めるのか。国土交通省の「マンション標準管理規約(単棟型)」(令和7年改正)では、植栽は塀やフェンス、駐車場、外灯設備などと並ぶ附属施設の一つに挙げられています(別表第1)。管理組合は、建物とその敷地および附属施設の管理のため、組合が管理する敷地と共用部分等の保安、保全、保守、清掃、消毒およびごみ処理(第32条第一号)、修繕(第二号)、長期修繕計画の作成または変更に関する業務(第三号)を行い、これらの業務の全部または一部を、管理会社などの第三者に委託し、または請け負わせることができる(第33条)とされています。
毎年の植栽管理の費用は、収支予算と事業計画の中にあります。標準管理規約では、収支予算と事業計画(第48条第四号)、長期修繕計画の作成または変更(第五号)、組合管理部分に関する管理委託契約の締結(第十七号)は総会の決議事項で、理事会は、収支予算案と事業計画案、長期修繕計画の案を審議して総会に出す役割です(第54条)。理事長は毎会計年度の収支予算案を通常総会に提出し、承認を得ることになっています(第58条)。
整理すると、マンションの植栽管理は、管理組合の仕事として規約に位置づけられ、毎年の手入れの費用は予算と事業計画で、大きな更新は長期修繕計画で、それぞれ総会が決める。理事会はその案を作り、年の途中の判断をする。管理会社は窓口と事務を受け持ち、植栽管理の会社は現地を見て提案し、作業をして報告する。決めるのは管理組合で、私たちの役割は、決めるための材料をそろえることです。

マンションの植栽管理は、誰が何を決めるか(図)。総会・理事会・居住者と、管理会社・植栽管理の会社の受け持ち
長期修繕計画の中の「植樹 整備」
国土交通省の「長期修繕計画作成ガイドライン」(令和6年6月改定)の標準様式には、修繕工事の項目の中に「植樹 整備」があります。毎年の手入れは管理費で、大きく育った木の更新や植え込みの作り直しは、長期修繕計画に入れて修繕積立金で計画的に進める、という考え方です。年間管理の中で見えてきた課題を、どの時点で長期修繕計画の話に移すか。ここは、第15回「年間管理の中からの提案」で詳しく書きます。
法人の施設や寺社では
オフィスビルや学校、病院、神社やお寺の植栽でも、考え方は同じです。決める人が、施設の管理担当の方や、総代会・檀家の役員の方に変わるだけで、「安全・景観・健全・費用の釣り合いの中で、何を優先するかを決める人」と、「現地を見て材料を出す人」の分担は変わりません。この連載では、読者をマンションの管理組合様・管理会社様に置いて書きますが、ほかの施設の方にも読み替えていただける内容にするつもりです。
植栽管理の仕事は、見る・手を入れる・記録する
当社の年間管理を一言でいうと、見る・手を入れる・記録する、の繰り返しです。剪定や刈込の作業の前後に樹木医が植栽を見て回り、病害虫や枯れ枝、枯れた木、支柱の劣化など、放っておくと安全や景観の問題になるものを見つけます。手を入れたら、作業の前後の写真と、気づいた点、次の年に向けたご提案を作業報告書にまとめてお渡しします。
この「見る」と「記録する」が、植栽管理を1回の作業で終わらせない要です。神奈川県のマンションで、年間管理計画に基づく剪定と、劣化した支柱の撤去を行った際、なぜそう判断したかを現場で管理組合の方と共有した記録があります(「植栽管理で失敗しない考え方 剪定と管理組合様との中長期計画」)。上の階の方は緑を眺めたい、下の階の方は日当たりが欲しい。同じ木への思いが住まいによって違うことも多いので、何をどう判断したかを報告書に残し、理事が交代しても引き継げる形にしておくことが、植栽管理の一部だと考えています。
樹木医が年間管理の現場に立つ意味は、ここにあります。異常を早く見つけられること、切り方の判断に理由を付けられること、そして気づいたことを、樹木診断や植栽コンサルティングへつなげられること。日々の管理の中の気づきが提案になる流れは、「マンションの植栽コンサルティングは、どう進むのか」に書きました。
この連載で書いていくこと
連載「植栽管理の基本」は、全15回を4つの部に分けて進めます。
- 第1部 植栽管理とは(考え方): 今回の定義と目的、植栽が年月とともに変わること、管理の目標と場所ごとのメリハリ
- 第2部 年間管理の作業の中身: 1年の作業の組み合わせ、剪定、刈込、除草と芝刈り、病害虫の防除と施肥と水やり、樹木医の巡回点検と台風のときの対応
- 第3部 契約・工程表・仕様書・報告: 基本契約と別紙、年間工程表の見方、作業仕様書、作業報告書と記録
- 第4部 ご依頼から作業まで、そして提案: 依頼から作業までの流れと費用の決まり方、年間管理の中からの提案
第2回「植栽は年々変わる──竣工のときの緑と、20年後の緑」では、竣工のときの緑と20年後の緑がどう違うのか、なぜ同じ作業の繰り返しでは追いつかなくなるのかを、国の手引きの図をもとに書いています。
植栽の年間管理や、今の管理の見直しについてのご相談は、お問い合わせフォームから承っています。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
よくある質問(植栽管理とは)
Q1. 植栽管理とは何ですか?
A. 植えた後の樹木・生垣・低木・芝生と、それらが根を張る土を、安全・景観・植物の健全さ・費用の釣り合いを見ながら手入れし続けることです。剪定・刈込・除草・芝刈り・薬剤散布・巡回点検・台風のときの対応などの作業を、目標と計画と記録を持って回す仕組みを指します。
Q2. 植栽管理には、どんな作業が含まれますか?
A. 高木・中木の剪定、生垣・低木の刈込、除草、芝刈り、病害虫の防除(薬剤散布)、施肥や水やり、樹木医の巡回点検、台風や強風で倒木・落枝があったときの対応です。物件の植栽とご要望・ご予算に合わせて、作業の項目と回数を決めます。作業ごとの中身は、この連載の第2部で1つずつ取り上げます。
Q3. 植栽は、なぜ毎年手入れが要るのですか?
A. 木は毎年伸び、手入れをしていても幹は太り、樹冠は広がるからです。国土交通省の緑の基本方針も、都市の緑地は原生自然と異なり、人が適正な保全・管理を行わないと質を保てないとし、管理されない樹林では病虫害や大径木化に伴う倒木の危険が増すとしています。同じ作業の繰り返しではなく、植栽の変化に合わせて管理の中身を変えていくことが要ります。
Q4. マンションの植栽管理は、誰が決めるのですか?
A. 管理組合です。国土交通省のマンション標準管理規約(単棟型)では、植栽は附属施設の一つで、管理組合の業務に組合管理部分の保全・保守などが含まれます。毎年の費用は収支予算と事業計画として、大きな更新は長期修繕計画として総会が決め、理事会がその案を作ります。植栽管理の会社は、現地を見て提案し、作業をして報告する役割です。
Q5. 植栽管理と植栽コンサルティングは、何が違いますか?
A. 植栽管理は、毎年の手入れを計画と記録を持って続ける業務で、成果は手入れされた植栽と作業報告書です。植栽コンサルティングは、植栽の現状評価、長期の管理計画、作業仕様書の策定、理事会や住民説明会での説明など、管理組合が判断するための材料と仕組みを作る業務で、成果は書類と決めごとです。当社では、年間管理の中で気づいたことをコンサルティングにつなげています。
Q6. マンション以外の施設でも、同じ考え方ですか?
A. 同じです。オフィスビルや学校、病院、神社やお寺でも、安全・景観・植物の健全さ・費用の釣り合いの中で何を優先するかを決める人と、現地を見て材料を出す人の分担は変わりません。決める人が、施設の管理担当の方や総代会・役員の方に変わるだけです。
出典・参考情報
- 国土交通省「都市における緑地の保全及び緑化の推進に関する基本的な方針」(令和6年12月20日 国土交通省告示第1367号)p.1〜3(緑地の機能)、p.9(適正な保全・管理の必要性、老齢化・大径木化のリスク、計画的な点検・剪定・伐採・更新)
- 都市緑地法(昭和48年法律第72号)第3条第1項「緑地」の定義。e-Gov 法令検索
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」(令和7年改正)別表第1(附属施設)、第32条(業務)、第33条(業務の委託等)、第48条(議決事項)、第54条(理事会の議決事項)、第58条(収支予算の作成及び変更)
- 国土交通省「長期修繕計画標準様式・長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」(令和6年6月改定)修繕工事項目「植樹 整備」
- 東京都建設局「街路樹等維持標準仕様書(緑地管理編)」(平成25年4月)2-1-1 植物への配慮、2-1-2 施行時期、2-1-3 土壌、2-2-1 高木管理の一般事項、2-2-2 剪定
- 国土技術政策総合研究所「街路樹再生の手引き」(国総研資料第885号、平成28年3月)はじめに(街路樹の機能)
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