蔵王・御釜周辺で見たアオモリトドマツの立ち枯れ──樹氷をつくる樹木に何が起きたのかを樹木医が読む

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2026年10月18日、蔵王の御釜とその周辺を歩き、樹氷(アイスモンスター)をつくるアオモリトドマツ(オオシラビソ)が、斜面一面で白く立ち枯れている様子を確認しました。山形県側で2013年に始まったガの食害とキクイムシの穿孔、それより前から続く宮城県側の枯損の経緯を、樹木医の目で整理します。

山形での出張診断の流れで、蔵王まで足を延ばしました。雪が降る前に、樹氷になる樹木を確認しておきたかったからです。冬の写真では白い氷に隠れてしまう幹や枝が、この季節にはそのまま見えます。

蔵王 御釜 リフト 秋 刈田岳

御釜へ向かうリフトと「ZAO OKAMA」の看板(2026年10月18日 撮影)

 

御釜の周辺から見た、白い幹が並ぶ斜面

御釜の近くから山の斜面に目を向けると、白い幹が縞のように立ち並んでいました。葉はもちろん、枝もほとんど残っていません。遠目には、緑の地面に細い線を無数に引いたように見えます。

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斜面に立ち並ぶ、白くなったアオモリトドマツの枯死木(2026年10月18日 撮影)

枯れた針葉樹の幹は、樹皮が剥がれて日に晒されると灰白色になっていきます。それが一本や二本ではなく、尾根から谷に向かって面で続いていました。

手前の低木は紅葉を終えかけていて、ところどころに赤い葉が残っていました。秋の色の向こうに、灰色の斜面が広がっていました。

 

御釜の成り立ちと噴火の記録

蔵王 御釜 火口湖 五色岳 五色沼 宮城県

五色岳の火口にたまった御釜。火口の壁に噴火の縞が重なる。奥は雲海(2026年10月18日 撮影)

御釜は、宮城県と山形県の県境近く、五色岳の火口に水がたまってできた火口湖です。直径は約330m、最大水深は約30mとされています(東北森林管理局「蔵王御釜」)。

宮城県蔵王町のジオサイトの資料によると、五色岳は約2,000年前から噴火を繰り返して成長した火山で、いまの御釜の位置に火口が移ったのは約800年前と考えられています。湖水はpH3.5の酸性で、生き物は棲んでいません。天気や季節、光の当たり方で色が変わるため、「五色沼」とも呼ばれてきました(蔵王町・蔵王町ジオパーク推進連絡会『ジオサイト候補地検討報告書 火山との共生』2016年)。

火口の壁に見える横縞は、噴火の跡だそうです。同じ資料では、縞の1枚1枚がおおむね1回の噴火にあたると説明されています。この日も、赤みがかった層と灰色の層が幾重にも重なっているのがよく見えました。

気象庁の記録には、御釜にまつわる出来事が数多く残っています。1867年には御釜が沸騰して硫黄混じりの泥水があふれ、洪水で3名が亡くなりました。1895年には小規模な水蒸気噴火があり、御釜の沸騰と川魚の被害が記録されています。1939年には湖水が変色して泡立ち、翌1940年には御釜の北東で小規模な水蒸気噴火が起きました(気象庁「蔵王山 有史以降の火山活動」)。

蔵王 刈田岳 山頂 刈田嶺神社 御釜

刈田岳の山頂付近。山頂に刈田嶺神社の奥宮、右に蔵王レストハウス(2026年10月18日 撮影)

御釜を見下ろす刈田岳の山頂には、刈田嶺神社の奥宮があります。元禄の大噴火(1694〜1695年)で、当時の蔵王大権現社が本尊とともに焼失し、白石城主の片倉家が再建したと伝えられています。いまも麓の遠刈田温泉にある里宮との間で、季節ごとにご神体を遷す習わしが続いているそうです(同じ報告書)。

 

樹氷をつくるアオモリトドマツと、立ち枯れの経緯

樹氷はアオモリトドマツの枝葉に育つ

蔵王の樹氷は、アオモリトドマツ(オオシラビソ、学名 Abies mariesii)の枝葉に、冬の季節風が運ぶ冷たい水滴や雪が付いて凍り、それが重なって育つものです。地元ではかつて「雪の坊」と呼ばれ、「樹氷」の名が全国に知られるようになったのは大正時代からだそうです。山形県は、樹氷ができる理由として、強い季節風、雪や氷が付きやすい常緑針葉樹であるアオモリトドマツの自生、樹木が埋もれない程度の積雪の3つを挙げています(山形県「蔵王の樹氷」)。

アオモリトドマツはマツ科モミ属の常緑高木で、本州中部以北の亜高山帯に分布し、北限は青森県の八甲田山です(東北森林管理局 樹木図鑑)。樹氷にとって、この樹木が一年中葉を付けていることには大きな意味があります。山形県の同じページによると、大きい樹氷は高さ5mを超えます。氷と雪を受け止める枝葉がなければ、そこまでの樹氷には育ちません。

2013年秋、葉が一斉に褐色に

始まりは2013年10月上旬でした。蔵王で、アオモリトドマツの葉が突然褐色に変わりました。森林総合研究所東北支所の調査で、原因はトウヒツヅリヒメハマキ(ハマキガ科の小さなガ)の幼虫が、葉を糸で綴って内側から食べたことと確定しています(森林総合研究所東北支所、2014年7月24日)。

ガは天敵の蜂によって減りましたが、多くの葉を失った樹木は弱っていました。そこへ幹の樹皮の下に潜るトドマツノキクイムシ(体長約3〜4mm。仙台森林管理署の資料による)が入り、地蔵山頂付近では16ヘクタールにわたってオオシラビソが枯れました(山形森林管理署「オオシラビソ再生への取組」2023年5月)。山形県側全体では約2万3千本、全本数の2割弱が枯れたとされています(山形県「樹氷復活・育成応援事業」)。

森林総合研究所東北支所は2014年の時点で、多くの葉を失って衰弱した木は樹皮下キクイムシの格好の繁殖源になり、残った木も高い確率で枯死すると予想していました(前掲)。山形県側で起きたことは、この予想のとおりに進みました。

宮城県側、刈田岳から屏風岳へ

御釜のある宮城県側でも、刈田岳から屏風岳にかけての国有林でアオモリトドマツの立ち枯れが確認されています。仙台森林管理署は2018年10月の公表で、原因は不明としながらも、枯れた幹のどれにも小さな穴が多く見られ、それがトドマツノキクイムシの穿孔の痕であると報告しています。あわせて、強風と、夏の高温化による寒暖差が樹木にストレスを与え、樹勢を弱らせていることにも触れています(仙台森林管理署「宮城蔵王におけるアオモリトドマツの立枯について」)。

宮城県側の枯損は、2013年のガの食害より前から始まっていました。山形森林管理署の2024年12月の報告には、山形県側では2013年から、宮城県側ではそれよりはるか以前から、オオシラビソの枯損被害が発生しているとあります(山形森林管理署「オオシラビソの枯損に係る検討会が開催されました」)。同じ蔵王の立ち枯れでも、山形県側と宮城県側とでは、経緯を分けて見る必要があります。

葉を失った樹木に、何が起きているのか

樹木医の立場から少し補足させてください。葉は、樹木が光合成で糖をつくる場所です。針葉樹は樹脂(ヤニ)を出して、幹に入ろうとする穿孔虫を押し返します。北海道大学のカラマツの研究では、衰弱して光合成でつくる養分が減ると樹脂の量が落ち、そこへ樹皮下キクイムシが二次的に入ると整理されています(和田尚之 博士論文の要旨、北海道大学)。葉を大きく失った木は、次の葉を出すまで幹を守る余力が細っていく。現場での経験からも、そう見ています。

一方で、虫だけで全てを説明できるわけではありません。宮城県側について仙台森林管理署が強風や寒暖差に触れているのは、上に書いたとおりです。山形大学は2026年3月、蔵王山頂(蔵王ロープウェイ蔵王山頂駅、標高1,661m)の夏(7〜8月)の平均気温が2015〜2025年に17〜18℃の間にあり、東北地方の亜高山帯の下限の基準とされる16℃±1.1℃を超えていると発表しました(山形大学プレスリリース、2026年3月5日)。温暖化がガの大発生を起こしたとまでは確かめられていませんが、アオモリトドマツにとって暮らしにくい夏が続いているという見方には、頷けるものがあります。

枯れても、すぐに樹氷が消えるわけではない

仙台森林管理署の資料によると、枯れたアオモリトドマツでも、倒れない限り樹氷ができることは確認されています。ただ、枯れた幹からは年を追うごとに枝が落ちていきます。今回見た斜面の幹にも、枝はほとんど残っていませんでした。氷と雪を受け止める枝がなければ、樹氷は細く、小さくなっていくはずです。

 

御釜のまわりで見た、ハイマツとガンコウラン

蔵王 御釜 ハイマツ ガンコウラン 高山植物 球果

火山礫の斜面を這うハイマツ。枝先に球果、足元にガンコウラン(2026年10月18日 撮影)

御釜の縁や刈田岳まわりの火山礫の斜面には、背の低い緑が地面を這うように広がっていました。

ひとつはハイマツです。松葉が5本ずつ束になって付き、枝は立ち上がらずに横へ伸びていました。枝先には小さな球果も付いていました。ハイマツはマツ科マツ属の常緑低木で、本州中部以北の亜高山帯から高山帯の厳しい環境で育ち、地面を這うような形からこの名が付いています(北海道森林管理局 知床森林センターの広報「知床の樹木 ハイマツ」)。

ハイマツ 五葉 蔵王 高山植物 樹木医

5本ずつ束になったハイマツの葉(2026年10月18日 撮影)

その足元を覆っていたのがガンコウランです。細く短い葉が枝にびっしりと付き、マット状に地面を覆っていました。ガンコウラン科の常緑低木で、北海道と本州中部以北の、高山の石礫地に生えます(東北森林管理局 樹木図鑑「ガンコウラン」)。ガンコウランの間には、黄色く色づいた小さな葉も混じっていました。

ガンコウラン 蔵王 御釜 高山植物 常緑小低木

地面を覆うガンコウラン(2026年10月18日 撮影)

御釜のある稜線の上はハイマツやガンコウランのような低木の世界で、アオモリトドマツの林はそこから少し下がった斜面に広がっています。

蔵王 稜線 ササ 秋 亜高山帯

ササと葉を落とした低木の向こうの山並み(2026年10月18日 撮影)

 

再生への取り組みと、70年という時間

宮城県側の被害地は蔵王国定公園の特別保護地区で、伐倒駆除や薬剤の散布は、高山帯のほかの昆虫への影響が懸念され、有効な対策が見当たらないとされています(仙台森林管理署、前掲)。山形県側では植え戻しが進められています。被害の少ない標高1,300〜1,400m付近で採った自生の苗(樹高約20〜30cm)を、被害の著しい標高1,600m付近へ移す方法です(林野庁「アオモリトドマツ林の再生に向けた取組」)。

2019年度に始まった自生の稚樹の移植は、2025年1月の山形森林管理署の発表で累計277本、生存率は94%でした(山形森林管理署「森林・林業技術交流発表会に参加しました」)。山形大学などの研究グループがドローンで撮影した調査では、森林限界付近の6.9ヘクタールで、若い樹木が2019年の60本から2025年には119本に増えていました。若い樹木は、生き残った成木の近くに多く見られたそうです(Wu ほか、Remote Sensing、2025年)。

それでも山形県は、山頂付近の林が再生するには概ね70年以上かかると見込んでいます。苗が育ち、樹氷を支えられる林になるまでには、それだけの時間がかかるということです。植えた人がその樹氷を見られるかどうか分からない長さです。その長い時間の最初の数年分の手応えは、すでに数字に出てきています。

 

街の樹木を診る立場から

蔵王で起きたことは、遠い山の話に聞こえるかもしれません。ただ、葉を失って弱った樹木に、あとから穿孔虫や腐朽菌が入って枯れていく流れは、街の中の樹木でも、形を変えて見かけることがあります。強い剪定で葉を大きく減らしたあとに、夏の乾燥が重なった年などは、現場での経験から特に気をつけて見ています。

山の天然林では、大発生が起きてからでは打てる手がほとんどありません。街の樹木であれば、葉の量や色、幹から出るヤニや木くずの様子に早く気づき、外観診断で全体を確かめたうえで、必要に応じてレジ(Resi PD)やピカスで幹の内部まで調べることができます。早く気づけるかどうかで、その樹木と付き合える時間は変わってくると考えています。

雪が積もれば、白い幹の斜面もまた樹氷の景色に隠れます。この記事の写真は、その前の、2026年10月18日の斜面です。

 

株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊

 

よくある質問(Q&A)

Q1. 蔵王の樹氷はどの樹木にできるのですか?

A. アオモリトドマツ(オオシラビソ)です。マツ科モミ属の常緑針葉樹で、冬の季節風が運ぶ冷たい水滴や雪が枝葉に付いて凍り、それが重なって樹氷になります。本州中部以北の亜高山帯に分布し、北限は青森県の八甲田山です。

Q2. 蔵王のアオモリトドマツが枯れた原因は何ですか?

A. 山形県側では虫害です。2013年秋にトウヒツヅリヒメハマキというガの幼虫が葉を食べて樹木が弱り、そこへトドマツノキクイムシが幹に穿孔して立ち枯れが広がりました。宮城県側の立ち枯れは2013年より前から始まっており、仙台森林管理署は原因を不明としつつ、トドマツノキクイムシの穿孔痕と、強風や寒暖差によるストレスを挙げています。

Q3. どのくらいの数のアオモリトドマツが枯れたのですか?

A. 山形県によると、山形県側では約2万3千本、全本数の2割弱が枯れています。地蔵山頂付近では16ヘクタールにわたって枯損しました。宮城県側でも、刈田岳から屏風岳にかけての国有林で立ち枯れが確認されています。

Q4. 樹氷が減っているのは温暖化が原因ですか?

A. 温暖化が直接ガの大発生を起こしたとまでは確かめられていません。ただ山形大学は、蔵王山頂の夏の平均気温が東北地方の亜高山帯の下限の基準を超えていると発表しており、アオモリトドマツにとって暮らしにくい環境になっている可能性が指摘されています。

Q5. 枯れた樹木にも樹氷はできますか?

A. 仙台森林管理署の資料によると、枯れても倒れない限り樹氷はできます。ただし年を追って枝が落ちると、氷と雪を受け止める部分が減るため、樹氷は細く小さくなっていくと考えられます。

Q6. 蔵王の樹氷の森が再生するにはどのくらいかかりますか?

A. 山形県は、山頂付近のオオシラビソ林が再生するまで概ね70年以上かかると見込んでいます。山形県側では、被害の少ない標高1,300〜1,400m付近で採った自生の苗を、被害の著しい標高1,600m付近へ移す取り組みが続けられています。

Q7. 蔵王の御釜はどのようにできたのですか?

A. 五色岳の火口に水がたまってできた火口湖です。直径約330m、最大水深約30mで、いまの位置に火口が移ったのは約800年前と考えられています。湖水はpH3.5の酸性で、色が変わることから五色沼とも呼ばれています。

Q8. 御釜の周りにはどんな植物がありますか?

A. 稜線の火山礫の斜面には、地面を這うように広がるハイマツや、細い葉をびっしり付けたガンコウランなどの低木が見られます。どちらも高山の厳しい環境で育つ樹木で、アオモリトドマツの林はそこから少し下がった斜面に広がっています。

 

出典・参考情報

 

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※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。

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