街路樹として立つエンジュの樹木診断をさせていただきました。上のほうの枝に葉のつかない枯枝が散見される木で、外観診断に続くレジ(Resi PD・レジストグラフ)による機器診断では腐朽空洞率が50%を超え、後日、伐採された切り株には測定の波形とよく一致する腐朽の広がりが現れていました。
近づいて見ると、樹冠の高いところに、葉のついていない枯れた枝がいくつも目につきます。エンジュさび病の影響もありますが、上のほうから枯れ下がっていく姿は、樹勢の低下を示すサインのひとつです。

診断の中身に入る前に、このエンジュという木について、少しだけ寄り道をさせてください。
エンジュという木──周の朝廷から平安京の並木へ
エンジュはマメ科の落葉高木で、中国原産の木です。学名は Styphnolobium japonicum。種小名に「日本の」を意味する japonicum を持ちながら故郷は中国という、少し不思議な名前の木で、日本へは8世紀には渡来していたとみられています。
漢字では「槐」と書きます。中国の周の時代、朝廷の庭に槐を3本植え、最高位の官である三公の座をそれに面して定めたと『周礼』に記され、ここから「三槐」は三公の、「槐門」は大臣の異称になりました。位の高さに通じる、格の高い木だったわけです。日本でも古くから植えられ、桓武天皇の治世の平安京では、ヤナギとエンジュが約17メートル間隔で大路に植えられていたと伝わります。街路樹としてのエンジュの歴史は、思いのほか長いのです。
明治の東京とエンジュ──街路樹に選ばれ続けた理由
東京の街路樹としては、明治10年代ごろから使われ始めたと言われています。明治40年(1907年)に東京市が街路樹の改良計画を立てた際には、スズカケノキやイチョウなどとともに10樹種のひとつに選ばれ、その後の東京の並木の基礎になりました。
エンジュが植えられ続けてきた理由のひとつは、煙害や排気ガスといった大気の汚れに強いことです。今も各地の通りで見かけますし、皇居のお濠沿い、内堀通りの並木にもエンジュが使われています。一方で、根は浅く張る性質があり、成長は比較的早いとされています。
そして街路樹は、真下を人が歩き、車が走ります。植えられてから年月を経た木ほど、外からは見えない幹の内部まで確かめることが、安全のうえで欠かせなくなります。今回の診断も、そこが要でした。
外観診断でわかること──目視、打音、根元の掘削
診断は外観診断から始めます。まず目視と打音で幹の状態を確認し、根元まわりの土を掘って、地際の様子も直接見ていきます。
- 樹木医 外観診断
- 樹木医 外観診断
ただ、外から見て、叩いて、掘って分かることには限界があります。東京都建設局の街路樹診断等マニュアルにも、活力が健全に見える樹木でも幹の内部や根株に危険な空洞や腐朽を抱えている場合があると記されています。外観だけでは、内部の状況までは判断がつきません。そこで、機器診断をあわせて行いました。
レジ(Resi PD)による機器診断──腐朽空洞率50%超という数字
使用したのは、ドイツIML社のレジ(Resi PD)です。ごく細い針を幹に差し込み、針が進むときの抵抗の変化から内部の状態を推定する機器で、健全な材では抵抗が高く、腐朽部や空洞では針がすっと進みます。抵抗の変化は深さに対する波形グラフとして記録されるので、どの深さで材が弱くなっているかを読み取れます。機器そのものについては「樹木診断機器 IML社製 RESI PD について」で詳しくご紹介しています。
今回は幹の4方向から測定しました。結果、腐朽空洞率──幹の断面のうち、腐朽や空洞が占める割合──が50%を超えていることが分かりました。行政の街路樹診断の実務では、腐朽空洞率50%以上が撤去・植え替えを検討する目安とされています。とはいえ、数値だけで機械的に決めるものではありません。この数値に加え、樹木全体の状況や、真下を人が歩き車が走るという立地環境まで含めて総合的に検討し、診断書を提出いたしました。
先日、伐採という判断に至ったとのご連絡をいただきました。
切り株にレジの波形を重ねる──診断の答え合わせ
伐採後の切り株を見ると、内部の腐朽がかなり広い範囲まで進んでいたことが確認できました。その切り株に、レジで測定した波形データを重ね合わせてみました。グラフの波形が落ち込んでいる範囲と、断面に現れた腐朽の広がりが、よく一致していました。
- 伐採 機器診断 腐朽空洞率 レジストグラフ 照合
外から見える幹の様子と、切ってみてわかることの間には、いつも差があります。外観に大きな変化がなくても、中で空洞が広がっていることもある。機器診断をしていなければ、ここまでの腐朽の進行には気づきにくかったかもしれません。
私たちは、危険の可能性があるからという理由だけで、安易に伐採へ傾くべきではないと考えています。だからこそ、伐るという重い判断を支える診断は、確かでなければなりません。そして診断の答え合わせは、伐採したときにしかできません。こうして断面と照合できる機会をひとつずつ重ねて、次の診断の確かさにつなげていきたいと思います。
ご依頼をいただきありがとうございました。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
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