根株診断のカルテは、腐朽診断のカルテに俯角と補正直径の欄が加わり、針が届かない奥の未測定部分の扱いも出てきます。実際の根株診断カルテ(ソメイヨシノ、腐朽空洞率45.0%)を使い、東京都の街路樹診断等マニュアルに沿って樹木医が読み方を解説します。
前の記事では、幹の高さで測るレジ(Resi PD)の腐朽診断カルテを、9つの欄に分けて読みました。根株診断は、地面の下にある根株、つまり幹の付け根から根が広がり始める塊の中を測る診断です。カルテの形はほとんど同じですが、針を斜め下に入れるため、読み方にいくつか違いがあります。この記事では、当社が実際に作ったソメイヨシノの根株診断カルテを1枚使います。木の名前や場所、診断した人の名前は伏せ、写真の背景はぼかしています。様式と記入の決まりは、東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」の根株診断(同マニュアル p.60〜63)によります。以下、ページ番号はこのマニュアルのものです。

根株カルテの見取り図
根株診断は、地上が元気でも根株で倒れる木のために
根株診断は、平成25年のマニュアル改定で新しく位置づけられました。都道で、地上部の活力が旺盛であるにもかかわらず、根株の腐朽によって倒れる事例が起きていたためです(p.60)。外観診断で根元に何らかの異常があり、根株の腐朽が推定される木に行います。根元のキノコ、鋼棒が芯まで入る、根元の揺らぎ、締め付ける巻き根、切られた支持根などが、そのきっかけになります(p.43)。キノコでは、根株に腐朽力の強いベッコウタケが見られる場合は、必ず根株診断を行うことになっています(p.29)。機器診断が必要かを判断する表でも、「ベッコウタケが発生し、被害が進行している」は根株診断の欄に印が付いています(p.43)。外観診断の項目は、樹木医は街路樹診断で何を見ているか(前編)に書きました。

腐朽診断と根株診断の使い分け
今回のカルテの木はソメイヨシノで、樹高10.0m、幹周235cm、枝張8.0mです。
❷ 根株診断で増える欄 俯角と補正直径

俯角と補正直径の欄
腐朽診断のカルテとの一番の違いは、測定高さと測定直径の下に、俯角と補正直径の行が加わることです。このカルテでは、俯角40°、補正直径99.6cmと96.9cmと書かれています。測定高さの欄は、数字ではなく「根株」と書かれています。地際から根株を測った、という書き方です。測定直径は76cmと74cmです。
俯角 針を斜め下に入れる角度

根株診断(レジで俯角40°に穿孔)
根株は地面の下にあるので、幹のように水平に針を通すことができません。そこで根株診断では、地際から40度の俯角(水平から下へ傾けた角度)をつけ、根株の中心に向かって斜め下に針を入れます(p.60)。測る機器も、角度の機能があり、50cm以上の測定長を持つものを使う決まりです(p.60)。当社の機器は IML 社の PD500 です。

俯角40度と30度
ただし、根株が浅く、40度では根株の範囲から外れて石や土に当たると想定される場合は、30度にします(p.60)。また、同じ木の4方向は、すべて同じ角度で測ります。測り直したときに同じ条件で比べられるように、再現性を大事にするためです(p.61)。
補正直径 斜めに入れた分だけ長い通り道

補正直径の計算
斜めに入れた針は、水平に測るより長い距離を通って中心に届きます。カルテには、その長さを「補正直径」として書き、想定断面図もこの長さで描きます。計算は、俯角40度なら測定直径に1.31を、30度なら1.15を掛けます(p.60〜61)。1.31は1÷cos40°、1.15は1÷cos30°です。このカルテでは、76cm×1.31=99.56cm、74cm×1.31=96.94cmで、欄には丸めて99.6cmと96.9cmと書いています。t/R率と腐朽空洞率も、この補正した長さで計算します(p.61)。
❹ 波形グラフ 根株の中の、健全と腐朽
波形グラフの読み方は、腐朽診断と同じです。右端の0cmが針の入口で、左へ行くほど深くなります。ここでは、性格の違う3本の波形を読みます。
方向① 健全な材の奥で抵抗が落ちる

根株の波形1
方向①は、樹皮が1.0cm、そのあと健全な材が21.0cmあり、深さ22cmから先は抵抗が急に落ちます。青(送り力)はほぼ0になり、緑(回転抵抗)だけが低く続いて、深さ約46cmで波形が終わります。▶ データの終点は、補正した半径の中心(99.56cm÷2=49.78cm)に置かれています。
グラフの左側の「未計測部は異常部と判断」は、波形が終わった所から中心までの短い区間を、腐朽・空洞として扱ったという書き込みです。マニュアルでは、機器で測れなかった部分は、想定断面図に点線で書いたうえで、測った人が状態を判断することになっています(p.61)。decay 27.78cmは、健全な材が終わった深さ22cmから中心までの長さです。
方向② 健全と腐朽が入り組む

根株の波形2
方向②は、もう少し複雑です。樹皮1.5cmのあと、健全な材が13.5cm、その奥に腐朽が8.0cm挟まり、もう一度健全な材が5.0cm、そこから中心までが腐朽・空洞(20.47cm)です。健全と腐朽が入り組んでいて、このカルテでは2つの健全な部分を合わせて t=18.5cm としています。方向④も同じように、健全な材12.5cmと11.0cmの間に3.5cmの腐朽が挟まり、t=23.5cmです。波形の区切りをどこに引くかは、2本の線(緑の回転抵抗と青の送り力)を見比べて、測った樹木医が決めています。
方向③ 健全と読める区間が無い

根株の波形3
方向③の波形には、入口から12cmほどまでと、深さ18〜21cmに山があります。ただ、入口側の山は何度も0近くまで落ち、深さ22cmから先は青がほぼ0で、緑だけが低く続きます。このカルテでは、入口から中心までを腐朽・空洞(decay 48.78cm)とし、健全な材の厚さを0としています。波形に山があっても、健全と読める連続した区間が無ければ、t=0 になることがあります。
❺ 想定断面図 未測定部分と、偏った腐朽

根株の想定断面図
想定断面図は、腐朽診断と同じく、波形から読んだ腐朽・空洞を十字の線の上に太線で書いたものです。このカルテでは、③の太線が外周から中心まで続き、②と④の太線は途中で途切れています。途切れているのは、健全な材の間に挟まった腐朽を書いているからです。中心の小さな赤い点線の円は、凡例の「未測定部分」に当たり、波形の終わったあと中心までの、異常部と判断した範囲です。断面図の外の「植栽」「コート」は周りの条件で、どちら側に健全な材が残っているかを、立地と合わせて読むために書いています。③の方向だけ健全な材が無い、偏った腐朽の形です。
❻❼ t/R率と腐朽空洞率 補正した長さで計算する

根株の計算
計算の式は腐朽診断と同じですが、R と直径に補正した長さを使います(p.61)。このカルテの t/R率は、①が21.0÷(99.56÷2−1.0)=0.431、②が0.394、③が0.000、④が0.500。③だけが目安の0.3を下回っています(p.58)。腐朽空洞率は、{(76.6+51.9)÷(97.6+93.9)}²=45.0%でした。
4方向の平均的な数字だけを見れば、①②④の t/R率は0.3を上回っています。それでも③の方向では、健全な材が読み取れていません。t/R率を方向ごとに書くのは、どこが弱いかを見落とさないためです。
測った面は斜めの面ですが、想定断面図とこの計算では、それを平らな断面に置き換えて表しています(p.60)。腐朽空洞率が、断面も空洞も円だと仮定した近似であることも、腐朽診断と同じです。
❽ 所見 数字と、根元のキノコと
このカルテの所見は、「腐朽空洞率は45.0%で、著しい異常値が検出された。t/R率については測定方向③が0.0であったため、折損や倒木の可能性が非常に高い。根元にベッコウタケがみられるため、短期周期の継続観察が必要で、悪化傾向の場合には撤去・植え替えの検討が望ましい。」です。
根元のベッコウタケは、マニュアルでは、根株診断を行うかどうかを決める判断基準の一つです(p.29、p.43)。所見では、数字の評価に加えて、このベッコウタケという外観の被害を合わせて、次に何をするかを書いています。マニュアルでは、ベッコウタケは根元や幹の下部に出て根返り(倒木)のおそれにつながるキノコの一つとされ、根元にベッコウタケが出て、かつ梢に枯れが多い木は更新(植替え)とすることになっています(p.29)。このカルテの所見が「悪化傾向の場合には」と条件を付けているのは、いまの状態と、これからの変化を分けて考えているからです。
根株診断のカルテを受け取ったら
根株診断の数字も、総合判定の材料のひとつです。腐朽空洞率の参考基準値では、30%以上50%未満が B2 に当たり、このカルテの45.0%はその範囲です(p.66)。総合判定は、外観診断の結果、t/R率、木の形状比、樹冠の形、根系、立地環境を合わせて出します(p.65〜66)。根株は地面の下にあり、外から見て確かめられる部分がいちばん少ない場所です。だからこそ、どこまで針が届き、どこからを判断で補ったのか、どの方向が弱いのかを、カルテから読み取れることが大切だと考えています。
幹の高さで測る腐朽診断のカルテの読み方は、「レジ(Resi PD)の診断カルテの読み方」に書きました。2つを並べて読むと、根株診断で何が加わっているかが分かりやすいと思います。
診断のご相談、仕様書づくり、イラストの使用について
当社の樹木診断は、診断して判定を出すところで終わりません。判定に合った剪定や支柱、植栽基盤の改善といった処置、その後の経過観察や長期の管理計画まで、同じ樹木医が一貫してお受けしています。診断の結果を「次に何をするか」までつなげたい管理者の方は、ご相談ください。
また、自治体・行政の方からの、樹木診断の仕様書や点検要領の作成に関するご相談にも対応しています。この記事に載せた当社の透かし入りのイラストを、仕様書や説明資料などに使用されたいご希望があれば、あわせてお問い合わせページからお知らせください。
よくある質問(Q&A)
Q1. 根株診断のカルテは、腐朽診断のカルテと何が違いますか?
A. 欄の並びはほぼ同じですが、測定高さと測定直径の下に、俯角と補正直径の欄が加わります。根株は地面の下にあるため、地際から斜め下に針を入れて測り、その斜めの通り道の長さ(補正直径)で t/R率と腐朽空洞率を計算します。針が根株の中心まで届かなかった部分を、未測定部分として断面図に書き、測った人が状態を判断することもあります。
Q2. 根株診断の俯角40度とは何ですか?
A. 地際から根株の中心に向かって、水平から40度下に傾けて針を入れる角度です。東京都のマニュアルでは40度を原則とし、根株が浅く40度では根株の範囲から外れて石や土に当たると想定される場合は30度にします。同じ木の4方向は、測り直したときに比べられるように、すべて同じ角度で測ります。
Q3. 補正直径はどう計算しますか?
A. 測定直径に、俯角40度なら1.31、30度なら1.15を掛けます。1.31は1÷cos40°、1.15は1÷cos30°で、斜めに入れた分だけ長くなる針の通り道の長さを表します。例えば測定直径76cmなら、76×1.31=99.56cmです。t/R率の R や腐朽空洞率の直径には、この補正した長さを使います。
Q4. 波形に山があるのに、t/R率が0になるのはなぜですか?
A. 山があっても、何度も0近くまで落ちるなど、健全と読める連続した区間が無ければ、健全な材の厚さを0とすることがあるからです。波形の区切りは、回転抵抗と送り力の2本の線を見比べて、測った樹木医が判断します。どう読んだかは、カルテの所見や波形への書き込みで残します。
Q5. 根株の腐朽空洞率が50%未満なら、安心ですか?
A. 数字だけでは決まりません。腐朽空洞率が50%未満でも、方向によっては t/R率が0.3を大きく下回ることがあり、根元にベッコウタケなどのキノコが出ていれば、その危険も合わせて考えます。総合判定は外観診断の結果、t/R率、木の形状比、樹冠の形、根系、立地環境を合わせて出し、短い周期で経過を見るなどの処置を決めます。
出典・参考情報
東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」第Ⅲ章 2 外観診断(p.29、p.43)、3 機器診断 根株診断(p.57〜63。様式Ⅲ-3・2 根株診断カルテ記入例 p.63)、4 総合判定(p.64〜67)。本文のページ番号はすべて同マニュアルのものです。
記事中のカルテは、株式会社トシ・ランドスケープが作成した根株診断カルテ(レジ)です。木の名前・場所・診断日・診断者の名前を伏せ、写真の背景をぼかしています。図は、このカルテの数字をもとに当社が作りました。イラストは当社の説明用イラストで、説明のために簡略化しています。
※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。
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樹木医 中村雅俊
































