道路の街路樹の点検・診断で使われる国の様式は、国土技術政策総合研究所(国総研)の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」にある街路樹カルテです。巡回票から簡易診断カルテ、街路樹診断カルテ、総括表まで11の様式があり、すべてに記入例が付いています。この記事では、そのうち中心になる簡易診断カルテと街路樹診断カルテ(樹木健全度調査)を、手引きの記入例に沿って、樹木医が1欄ずつ解説します。
手引きは平成31年2月に国総研資料第1059号として出され、本編と別冊「街路樹の点検・診断」からなります。様式は別冊の第7章「街路樹カルテ」にあります。2026年3月に国土交通省道路局が出した「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」も、専門家を交えて行う健全度調査は、この手引きを参考にするとしています。国の様式の全体像は、総論の記事「国土交通省の樹木点検・診断のカルテには何があるか」にまとめました。この記事のページ番号は、断りのない限り手引きの別冊のものです。
街路樹カルテ11様式と、点検・診断の段階
手引きは、街路樹の点検・診断を、道路管理者が行う巡回(点検)、樹木の専門家が行う簡易診断、樹木健全度調査(外観診断と詳細診断)、植栽環境調査に分け、段階ごとに様式を用意しています。
| 段階 | 様式 | 主に記録すること |
|---|---|---|
| 点検(通常巡回) | 通常巡回票、通常巡回写真票 | パトロール車の中からの遠望目視で見つけた異状や支障 |
| 点検(定期巡回) | 定期巡回票、定期巡回写真票 | 徒歩などによる近接目視で見つけた構造上の弱点 |
| 簡易診断 | 簡易診断カルテ | 樹木形状、活力状況、欠陥11項目、評価結果(改善的措置などの必要性) |
| 樹木健全度調査 | 街路樹診断カルテ(樹木健全度調査) | 生育状況、地上部・地下部の弱点[A〜E]、外観評価、詳細診断、総合評価、改善的措置 |
| 植栽環境調査 | 街路樹診断カルテ(植栽環境調査) | 立地平面図、周辺環境写真、生育条件・環境、支柱などの保護材、障害対象 |
| 詳細診断 | 街路樹診断カルテ(腐朽診断・γ線透過量測定機)、同(腐朽診断・貫入抵抗値測定機)、同(根株・根系診断) | 腐朽の割合、健全材の厚さ、根株と根系の腐朽 |
| まとめ | 街路樹カルテ総括表 | 木ごとの危険度と活力度の評価、改善的措置、倒伏等の被害の一覧 |
出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-19(表-2.1)・p.1-29・p.1-36、第7章 p.1-79〜1-99
巡回は道路管理者が行い(p.1-19)、簡易診断と健全度調査は樹木の専門家が行います。手引きは、簡易診断や健全度調査を行う専門家は、樹木の生理生態、構造と機能、病虫害、腐朽の進み方などを熟知し、外観から構造的な弱点を判断するには現場での十分な経験が必須だとしています(p.1-10)。記入例の診断者・調査者の欄にも「(樹木医)」と書かれています。
巡回票は、道路管理者が日々の巡回で付ける票です。定期巡回票の記入例は次のとおりで、異状のあった木と、その場でとった措置を書いていきます。

定期巡回票の記入例(出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-84 より引用)
簡易診断カルテ 外観から危険性をつかみ、次の手を決める
簡易診断は、点検などで見つかった樹木形状や活力の異常、樹体の弱点に対して、樹木の専門家が外観からの簡易的な調査で倒伏・落枝の危険性を把握し、評価するものです(p.1-29)。簡易診断の結果、保全の重要性が高い木は樹木健全度調査と植栽環境調査へ進め、それ以外の木は、道路交通などの安全を確保するための改善的措置を提案します(p.1-33)。
下は手引きの簡易診断カルテの記入例です。ページの画像は加工せずに引用し、左の❶〜❻の番号と線だけを当社が付けました。

簡易診断カルテの記入例。出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-88 より引用(ページの画像は加工せず、左の番号と線は当社が付記)
❶ 基本情報 ❷ 樹木形状 ❸ 活力状況
記入例はプラタナスで、樹高8.0m、幹周0.8m、枝張り4.5m、枝下高は歩道側4.0m・車道側5.0m、不自然な傾斜は無です。樹木形状の欄には、樹高/幹径(8.0/0.3=26.6)と、枝長/枝径(3.0/0.15=20)の比も書きます。手引きの簡易診断の評価基準では、枝下高が歩道で2.5m以下・車道で4.5m以下なら剪定、樹高/幹径が50以上なら剪定あるいは伐採(再植栽)、枝長/枝径が40以上なら剪定が、必要となる措置の例として挙げられています(表-3.3)。細くて背の高い木、細くて長い枝ほど、折れやすいと見るための比です。
活力状況は、樹勢を A〜E の5段階で選び、病虫害の有無を書きます。記入例の樹勢は B です。
❹ 欠陥 11の項目と、部位・大きさ

簡易診断カルテ記入例の欠陥の欄(出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-88 より引用)
欠陥の欄には、枯れ枝、ぶら下がり枝、空洞、腐朽、子実体、打診音異常、鋼棒貫入異常、亀裂、不完全結合、隆起、樹体の揺らぎの11項目が並び、有なら部位と、大きさ(大・小)や数・枝径、種類、貫入深などを書きます。
記入例では、根株の空洞(大)、地上1mの幹の腐朽(大)、地上20cmの子実体(ベッコウタケ)、根株の打診音異常(大)、根株の鋼棒貫入異常(貫入深20cm、貫入部の幹径40cm)が有です。根株に、空洞・腐朽・キノコ・打診・鋼棒の異常が重なっています。特記事項には「幹に樹皮欠損部あり」とあり、❺の写真の欄に、根株の腐朽、子実体(ベッコウタケ)、樹皮欠損の3枚が貼られています。
❻ 簡易診断の評価結果と、管理者承認

簡易診断カルテ記入例の評価結果の欄(出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-88 より引用)
いちばん下の評価結果は、3つの問いに答える欄です。
| 問い | 記入例 | 理由・措置内容 |
|---|---|---|
| 緊急的な改善的措置の必要性 | 不要 | 根株に危険を有する腐朽がある |
| 樹木健全度調査等の必要性 | 不要 | 当該街路樹の保全性重要性は低い |
| 改善的措置の必要性 | 必要 | 伐採(再植栽) |
出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-88 簡易診断カルテ 記入例
この記入例は、根株に危険な腐朽がある木で、保全の重要性が低いため、健全度調査に進まずに伐採して植え替える、という判断の例です。簡易診断カルテでは、木の状態だけでなく、その木の保全の重要性によって、次の手が健全度調査になるか、改善的措置になるかが分かれます。右端の管理者承認の欄に、道路管理者の確認の印が押されます。
街路樹診断カルテ(樹木健全度調査) 地上部と地下部の弱点を評価する
樹木健全度調査は、生育状況調査と危険度調査からなり、生育状況調査で樹木形状と活力を、危険度調査で樹木の構造的な弱点を把握します(p.1-36)。台風などで街路樹が倒れる主な原因は、生育不良による根系の伸長不良と、傷から入った木材腐朽菌による空洞や腐朽で支える力が落ちることなので、生育と弱点の両方を見る、という考え方です(p.1-35)。

街路樹診断カルテ(樹木健全度調査)の記入例。出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-90 より引用(ページの画像は加工せず、左の番号と線は当社が付記)
❶ 基本情報 植栽年・管理履歴・樹木価値まで書く

街路樹診断カルテ(樹木健全度調査)記入例の基本情報の欄(出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-90 より引用)
路線名、樹木番号、樹種名、場所に加えて、植栽年、前回調査年、管理履歴、樹木価値を書きます。記入例はソメイヨシノで、植栽年は昭和58年、前回調査年はなし、管理履歴は剪定(1回/3年)、樹木価値は景観・緑陰等です。樹木価値の欄があるのは、簡易診断と同じく、その木をどこまで保全するかの判断に関わるからです。
❷ 樹木形状 ❸ 活力状況

街路樹診断カルテ(樹木健全度調査)記入例の生育状況の欄(出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-90 より引用)
樹木形状は簡易診断カルテと同じ項目に、樹齢と樹冠形状が加わります。記入例は樹高9.5m、幹周2.4m、枝張り8.0m、樹齢約50年、樹冠形状は自然相似樹形です。
活力状況は、樹勢、葉の生育状況、傷口材の成長を、a(良い)・b(普通)・c(少し悪い)・d(悪い)・e(枯死。傷口材は「なし」)の5段階で選びます。小文字の a〜e は活力の物差しで、あとで出てくる弱点の大文字の[A]〜[E]とは別のものです。記入例は、樹勢 b、葉の生育状況 c、傷口材の成長 c で、病害はテングス病、虫害はアメリカシロヒトリが有です。
❹❺ 地上部の弱点 枝と幹

街路樹診断カルテ(樹木健全度調査)記入例の地上部の弱点の欄(出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-90 より引用)
危険度調査の項目は、地上部(枝・幹)と地下部(根株・根系)に分かれ、それぞれの弱点に無・有を付けて、有なら評価を[A]〜[E]で書きます。
| 部位 | 区分 | 項目 |
|---|---|---|
| 枝 | 結合部 | ①幹との結合部の腐朽(子実体) ②樹皮を巻き込んだ結合 ③穿孔害虫 |
| 枝 | 本体 | ④枯れ枝 ⑤ぶら下がり枝 ⑥腐朽・空洞・樹皮の枯死等 ⑦亀裂 |
| 枝 | バランス・頂上枝 | ⑧枝葉の偏り(ライオンテイル) ⑨主幹切断部の腐朽 |
| 幹 | 本体 | ①開口空洞 ②腐朽(子実体) ③亀裂 ④樹皮枯死・欠損 ⑤隆起 ⑥打診音異常 |
| 幹 | 結合・昆虫 | ⑦不完全な結合 ⑧昆虫 |
| 根株 | 本体 | ①腐朽(子実体) ②鋼棒貫入異常 ③根株の切断 ④ガードリングルート ⑤縁石の巻き込み |
| 根株 | 基盤・昆虫 | ⑥樹体の揺れ ⑦土壌との隙間 ⑧昆虫 |
| 根系 | 露出根 | ①露出根の切断 ②露出根の腐朽 ③露出根皮の枯死・欠損 |
| 根系 | 地中根 | ④土壌の盛り上がり ⑤特殊な植栽基盤 ⑥土壌の流出 ⑦土壌の固結 ⑧周辺工事の影響 |
出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-89・1-90 街路樹診断カルテ(樹木健全度調査)
弱点の評価は、外観診断の評価基準(表-4.9)で決まり、A 健全、B 僅かな異状がある、C 弱点が認められるが危険性はない、D 危険性を有しているが、すぐには倒伏・枝折れはしない、E 非常に高い危険性があり、すぐに倒伏・枝折れする恐れがある、の5段階です(p.1-49)。記入例の地上部では、枝の⑤ぶら下がり枝が[E]、幹の⑧昆虫(コスカシバ)が[D]です。ぶら下がり枝は、わずかな力で落ちる枝なので、それだけで最も高い[E]になっています。
❻❼ 地下部の弱点 根株と根系

街路樹診断カルテ(樹木健全度調査)記入例の地下部の弱点の欄(出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-90 より引用)
地下部は、根株と根系に分かれます。根系はさらに、地表に見える露出根と、見えない地中根の項目に分かれていて、土壌の盛り上がり、特殊な植栽基盤、土壌の流出・固結、周辺工事の影響のように、根そのものではなく、根の周りの土や工事から弱点を推し量る項目が並ぶのが特徴です。記入例では、根株の①腐朽(子実体)が[E](子実体はコフキタケ)、根系の⑥土壌の流出が[C]です。
右側の「地上部の弱点写真」「地下部の弱点写真」の欄には、弱点の写真かイラストを貼ります。
❽ 外観評価 生育状況と危険度

街路樹診断カルテ(樹木健全度調査)記入例の外観評価から改善的措置までの欄(出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-90 より引用)
外観評価は、生育状況と危険度の2つを書きます。危険度は、弱点の各項目の評価をまとめたもので、手引きは「全ての項目が[A]なら A」「全ての項目が[B]以上なら B」……「いずれかの項目に[E]があれば E」と定めています(表-4.10)。

表-4.10 外観評価の総合評価(出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-50 より引用)
記入例は、生育状況 C、危険度 E です。ぶら下がり枝と根株の腐朽に[E]があるので、危険度は E になります。所見の欄には「詳細診断の必要性・有り」「根株腐朽における危険性が高いと推測される」と書かれています。
❾ 詳細診断 腐朽割合・健全材厚の割合・根系の腐朽割合
詳細診断の欄には、地上部の腐朽割合と健全材厚の割合、地下部の根系の腐朽割合を、評価の記号と数値で書きます。数値の物差しは、表-4.12 と表-4.13 です。

表-4.12(出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-60 より引用)
| 評価 | 腐朽・空洞割合(腐朽面積/幹断面積) | 健全材の厚さ/幹の半径 | 根系の腐朽割合(腐朽根系の数/主要根系の全数) |
|---|---|---|---|
| A 健全 | 0% | ー | なし |
| B 僅かな異状がある | 1%以上20%未満 | ー | 露出根の腐朽、切断痕がわずかにある |
| C 弱点が認められるが、危険性はない | 20%以上40%未満 | 0.35以上0.5未満 | 鋼棒貫入による異常がわずかに認められる |
| D 危険性を有しているが、すぐには倒伏・枝折れはしない | 40%以上50%未満 | 0.3以上0.35未満 | 33%未満 |
| E 非常に高い危険性があり、すぐに倒伏・枝折れに繋がる恐れがある | 50%以上 | 0.3未満 | 33%以上 |
出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-60(表-4.12)・p.1-62(表-4.13)。健全材の厚さの基準は、腐朽・空洞が幹の中心を超えて広がっている場合だけに使う
腐朽割合は、基本的にはγ線透過量測定機で測り、使えない場合はほかの機器から最適なものを選びます。貫入抵抗値測定機の場合は、複数の箇所の健全材の厚さを測って内部の腐朽・空洞割合を推定します(p.1-61)。当社が使うレジ(Resi PD)は、この貫入抵抗値測定機の仲間です。手引きはまた、これらの基準値は単独で使うのではなく、ほかの危険度評価の結果とあわせて総合的に判断することが重要で、安全とされる数値の木でも、ほかの弱点で破損する可能性があり、逆に危険な数値でも樹冠を小さくするなどでリスクを小さくできる、としています(p.1-60)。
記入例の詳細診断は、腐朽割合が 47%で評価 D です。表-4.12 の「40%以上50%未満」にあたります。健全材厚の割合と根系の腐朽割合は「ー」で、測っていません。
❿ 総合評価と、次回の診断時期
記入例の総合評価は D、所見は「根株の腐朽割合が大きいため、倒伏の危険性が高い」です。外観評価の危険度は E でしたが、詳細診断で腐朽割合を測った結果を合わせて、総合評価は D になっています。外観だけでは E とされた木でも、詳細診断の数値とあわせて総合的に評価する、という手引きの考え方が、この記入例に表れています。
右側の「次回の診断時期(予定)」は1年後です。手引きの表-1.1 は、診断結果に応じたモニタリング時期(改善的措置後の期間)の目安を、健全なら3〜5年後、僅かな異状なら2〜3年後、弱点が認められるが危険性はないなら1〜2年後、危険性を有している・非常に高い危険性があるなら数ヶ月〜1年後としています(p.1-17)。

表-1.1(出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-17 より引用)
⓫ 改善的措置
最後の改善的措置の欄には、措置の種類と、その中身を所見に書きます。記入例は「病虫害除去・剪定」で、所見は「てんぐ巣病、ぶら下がり枝、風圧軽減のための剪定」「アメリカシロヒトリの除去」です。カルテの上の方で見つかった弱点(ぶら下がり枝[E])や病虫害(テングス病、アメリカシロヒトリ)と、措置の中身が1対1で対応しているかを確かめると、カルテが一貫しているかが分かります。
詳細診断・植栽環境調査の様式
健全度調査で詳細診断が必要とされた木は、機器や掘削による詳細診断の様式に記録します。いずれも手引きに記入例があります。
| 様式 | 記録すること |
|---|---|
| 腐朽診断(γ線透過量測定機) | 測定位置、測定した断面、予測される腐朽割合 |
| 腐朽診断(貫入抵抗値測定機) | 測定位置と測定直径、想定される断面図、腐朽割合、健全材の厚さと幹の半径(4方向と平均) |
| 根株・根系診断 | 掘削した範囲と掘削調査図、根株の腐朽割合、健全な太根の偏った肥大成長、根系の腐朽本数の割合、危険度の判定 |
| 植栽環境調査 | 立地平面図、周辺環境写真、生育条件・環境、支柱・縁石・舗装などの保護材、倒れたときに被害を受ける対象 |
出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 第7章 p.1-91〜1-98

街路樹診断カルテ(腐朽診断・貫入抵抗値測定機)の記入例(出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-96 より引用)

街路樹診断カルテ(根株・根系診断)の記入例(出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊 p.1-98 より引用)
貫入抵抗値の様式は、幹の4方向で健全材の厚さを測り、平均を幹の半径で割った比を書く形です。根株・根系診断は、根元の周りを掘って根を1本ずつ確かめ、主要な根のうち何本が腐っているかを数えます。根系の腐朽割合が33%以上なら E です(表-4.13)。根株の診断のカルテの読み方は、当社のレジの記録を例にしたレジ(Resi PD)の根株診断カルテの読み方も参考になります。
植栽環境調査は、健全度調査とあわせて行い、倒伏などの起きやすさと、倒れたときに何に被害が出るかを、事前につかむための調査です(p.1-63)。最後の街路樹カルテ総括表は、路線の木ごとの危険度・活力度の評価と改善的措置を1枚の一覧にしたもので、どの木から手を付けるかの優先順位を付けるのに使います。
国道での運用例 東京国道事務所の街路樹点検マニュアル
国道の現場で、国の考え方がどう運用されているかの例として、国土交通省関東地方整備局東京国道事務所の「街路樹点検マニュアル」(令和5年3月)があります。管内の全ての高木を対象に、点検の結果を危険度ランクⅠ〜Ⅳに分け、管理者と点検者をまじえた判定会議で対応方針を決め、有識者の確認を受ける仕組みです(p.2)。点検は、打診音異常や子実体の同定、病虫害など専門知識が必要な項目があるため、樹木医の資格を持った者が行うとされています(p.3)。
| 危険度ランク | 被害・緊急性 | 状況 | 点検結果を受けて管理者が行う対応 |
|---|---|---|---|
| Ⅰ | 被害無〜小 | 被害なし〜若干の被害・異常がある | 通常管理の継続 |
| Ⅱ | 被害中 | 腐朽等の被害があるが危険性は低い | 判定会議で対応方針を決定、危険性が高いと思われる木は有識者への確認により決定して措置 |
| Ⅲ | 被害大・倒伏危険性低 | すぐに倒伏する危険性は低いが、強風等の圧力がかかった場合に倒伏の可能性を有する場合がある | (Ⅱと同じ) |
| Ⅳ | 被害大・倒伏危険性高 | 枯死・揺れが大きい等倒伏の危険性が高い | 速やかに伐採(有識者事後確認) |
出典: 国土交通省関東地方整備局東京国道事務所「街路樹点検マニュアル」(令和5年3月)p.2 表1、p.10 表5
木の被害状況の各項目のうち、最も危険度が高いランクをその木のランクとする、という決め方です(p.10)。点検は5年ごとを原則とし、被害の程度によっては1〜3年後に行うとされています(p.3)。ここでも記号はアルファベットではなくローマ数字のⅠ〜Ⅳで、Ⅳが最も危険です。同じ「国」の資料でも、事務所の運用ではまた別の記号が使われています。
東京都のカルテ、国の都市公園のカルテとの違い
| 見るところ | 国総研 街路樹診断カルテ | 国 都市公園 樹木診断カルテ | 東京都 街路樹診断カルテ |
|---|---|---|---|
| 弱点の分け方 | 地上部(枝・幹)と地下部(根株・根系) | 外観の13項目 | 根元・幹・骨格となる大枝 |
| 評価の段階 | [A]〜[E]の5段階、活力は a〜e | A〜D の4段階、活力度は1〜4 | A・B1・B2・C の4段階、活力度は1〜5 |
| 機器の数値 | 腐朽割合(50%以上で E)、健全材の厚さ/幹の半径(0.3未満で E)、根系の腐朽割合(33%以上で E) | 腐朽面積/幹断面積(50%で C と D が分かれる) | 腐朽空洞率・t/R率 |
| 次回の時期 | 次回の診断時期(表-1.1 の目安) | 経過観察の内容(次回点検の時期と内容) | 次回診断の時期 |
| 記入例 | あり(11様式すべて) | 無し | あり |
出典: 国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」別冊、国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料、東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」
国総研の C は「弱点が認められるが、危険性はない」で、5段階の真ん中です。東京都の C(不健全)や国の都市公園の C(要注意)と同じ記号でも、意味が違います。東京都のカルテの読み方は街路樹診断カルテ(外観診断)の読み方、国の都市公園のカルテは「都市公園の樹木点検票と樹木診断カルテの読み方」で解説しています。
カルテを受け取ったら、確かめたいこと
- 簡易診断カルテか、街路樹診断カルテ(樹木健全度調査)か。簡易診断なら、評価結果の3つの問いの答えと理由
- 弱点の項目で[D][E]が付いたのはどれか、地上部か地下部か
- 外観評価の危険度と、詳細診断の数値、総合評価が、それぞれいくつか。外観と総合評価が違う場合は、所見にその理由が書かれているか
- 改善的措置の中身が、見つかった弱点や病虫害と対応しているか
- 次回の診断時期が、評価に見合った間隔になっているか(表-1.1 の目安)
手引きは、詳細診断の基準値の値だけで判断せず、樹冠を小さくするなどの措置でリスクを小さくできることにも触れています(p.1-60)。カルテの記号や数値は、伐るか残すかを自動で決めるものではありません。その木の保全の重要性と、とれる措置を合わせて考えるための材料です。
点検・診断のご相談、仕様書づくり、イラストの使用について
当社の樹木診断は、診断して判定を出すところで終わりません。判定に合った剪定や支柱、植栽基盤の改善といった処置、その後の経過観察や長期の管理計画まで、同じ樹木医が一貫してお受けしています。カルテの結論を「次に何をするか」までつなげたい管理者の方は、ご相談ください。
また、自治体・行政の方からの、樹木点検や樹木診断の仕様書・点検要領の作成に関するご相談にも対応しています。この記事に載せた当社の透かし入りのイラストを、仕様書や説明資料などに使用されたいご希望があれば、あわせてお問い合わせページからお知らせください。
よくある質問(Q&A)
Q1. 国総研の街路樹カルテとは何ですか?
A. 国土技術政策総合研究所の「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」(平成31年2月)の別冊 第7章にある、街路樹の点検・診断の記録様式です。通常巡回票・定期巡回票と各写真票、簡易診断カルテ、街路樹診断カルテ(樹木健全度調査・植栽環境調査・腐朽診断2種・根株根系診断)、街路樹カルテ総括表の11様式があり、すべてに記入例が付いています。
Q2. 簡易診断カルテと街路樹診断カルテは、どう違いますか?
A. 簡易診断カルテは、樹木の専門家が外観から倒伏・落枝の危険性を簡易的に把握し、緊急的な改善的措置、樹木健全度調査、改善的措置の必要性を判断する様式です。街路樹診断カルテ(樹木健全度調査)は、生育状況と、地上部・地下部の弱点を項目ごとに[A]〜[E]で評価し、詳細診断の数値とあわせて総合評価と改善的措置、次回の診断時期を記録する様式です。
Q3. 街路樹診断カルテの[A]〜[E]と、a〜e は何が違いますか?
A. 大文字の[A]〜[E]は弱点の危険度の評価で、E が最も危険です。小文字の a〜e は樹勢・葉の生育状況・傷口材の成長といった活力の評価で、a が良い、e が枯死(傷口材は「なし」)です。
Q4. 腐朽割合が何%なら危険と評価されますか?
A. 手引きの表-4.12 では、腐朽・空洞割合(腐朽面積/幹断面積)が 20%以上40%未満で C、40%以上50%未満で D、50%以上で E です。貫入抵抗値測定機で健全材の厚さを測る場合は、健全材の厚さ/幹の半径が 0.3未満で E です。ただし手引きは、これらの基準値を単独で使わず、ほかの評価とあわせて総合的に判断することが重要としています。
Q5. 次回の診断は、いつ行えばよいのですか?
A. 手引きの表-1.1 では、改善的措置後のモニタリング時期の目安を、健全なら3〜5年後、僅かな異状なら2〜3年後、弱点が認められるが危険性はないなら1〜2年後、危険性を有している・非常に高い危険性があるなら数ヶ月〜1年後としています。街路樹診断カルテには「次回の診断時期(予定)」の欄があります。
出典・参考情報
国土技術政策総合研究所「街路樹の倒伏対策の手引き 第2版」(国総研資料第1059号、平成31年2月)別冊「街路樹の点検・診断」(国総研のページ)。本文のページ番号は別冊のものです。
国土交通省道路局「街路樹点検の実施促進のためのガイドライン」(令和8年3月)(国土交通省のページ)。
国土交通省関東地方整備局東京国道事務所「街路樹点検マニュアル」(令和5年3月)(東京国道事務所のページ)。
国土交通省「都市公園の樹木の点検・診断に関する指針(案)」参考資料、東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」。
カルテの記入例と評価の表の画像は、上記の手引きのページを加工せずに引用し、左の番号と線だけを当社が付けました。
記事中のイラストは、株式会社トシ・ランドスケープの説明用イラストです。
※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。呼び名の違いは「レジストグラフ・貫入抵抗測定器とは何か」で説明しています。
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株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊






















