東京都は「東京都の緑の取組 Ver.3」で、緑がもたらす効果の定量化と、グリーンインフラの導入を掲げています。樹木医が i-Tree Eco で測れること、まだ測れないこと、都の指標「みどり率」と当社が重視する樹冠被覆率の違い、そして第3回 Tokyo-NbSアクションアワードへの応募について書きます。
連載「東京グリーンビズ」の第3回(全3回)です。第1回は「まもる」と樹木診断、第2回は「育てる」と樹冠を広げる剪定を書きました。最終回は「活かす」です。今回は現場の場面からではなく、都の資料の一文から入ります。
Ver.3 の「まもる」の柱、保全地域の項にこうあります。「保全地域によるCO2吸収量や、暑熱環境の緩和など、緑がもたらす効果を定量化します」(p.15)。緑の効果を数字にする、と都が書いた。この一文を読んだとき、私は自分の仕事の一部が都の方針と同じ方向を向いていると感じました。同時に、数字にできるものと、まだできないものの境目を、現場の人間としてはっきりさせておきたいとも思いました。
「活かす」の中身──グリーンインフラの導入と、Tokyo-NbSアクション
Ver.3 の「活かす」の柱は、自然が有する機能を活用する「グリーンインフラ」の導入(p.37)、「公園の魅力を高めTOKYOの顔に」「豊かな自然を活用・発信」「水辺に親しむ空間づくり」「多摩産材の活用」、そして「緑の多様な価値を活かす」(p.47〜48)の項で組まれています。グリーンインフラの定義は、国土交通省の「グリーンインフラ推進戦略2023」から引かれていて、「社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組」です。豪雨や猛暑への対応、生物多様性の保全、都市の快適性の向上のために、都有施設や民間施設などでの導入が求められている、と都は書いています。
「緑の多様な価値を活かす」の項には、「Tokyo-NbSアクションの推進」があります。NbS(Nature-based Solutions)は、自然を活用した社会課題の解決のことで、都は取組の事例や効果を発信し、先駆的な取組を「アクションアワード」で表彰して、取り組む事業者の裾野を広げるとしています(p.48)。ここで一つ区別しておきます。Tokyo-NbSアクションは、東京グリーンビズを所管する政策企画局ではなく、環境局自然環境部計画課が所管する別の制度です。根拠は「Tokyo-NbSアクションメンバー登録規程」(令和6年1月31日付)で、第1条に「2030年までに」NbSとなる取組を定着させると書かれています。Ver.3 は、この環境局の制度を「活かす」の柱の中に位置づけた、という関係です。
| 項目 | 東京グリーンビズ(コラボレーションパートナー) | Tokyo-NbSアクション(アクションメンバー) |
|---|---|---|
| 所管 | 政策企画局 計画調整部 プロジェクト推進課 | 環境局 自然環境部 計画課 |
| 根拠 | コラボレーションパートナー登録規程 | Tokyo-NbSアクションメンバー登録規程(令和6年1月31日付) |
| 目指すもの | 100年先を見据え、緑を「まもる」「育てる」「活かす」 | 2030年までに NbS となる取組を定着させる |
| 対象 | 都内に事業場を持ち、3本柱の取組を行い、自社サイト等に詳細を掲載する企業・団体 | 都内に事業場を持ち、生態系の機能を活用して人の幸福と生物多様性の両方に貢献する取組を行う団体等 |
| 表彰 | − | Tokyo-NbSアクションアワード(第3回は2026年9月10日〜10月30日15時に募集) |
| 登録前の注意 | 登録が完了すると都から通知がある | 登録が完了する前に「Tokyo-NbSアクション」と記載すると誤解を招くため控える |
出典: 東京都「コラボレーションパートナー」募集ページ、東京都環境局「Tokyo-NbSアクションメンバー募集」ページと登録規程、第3回 Tokyo-NbSアクションアワード公式サイトをもとに当社作成
都の指標「みどり率」「緑被率」と、当社が重視する樹冠被覆率
都が緑の現状を測る指標は「みどり率」です。Ver.3 の定義では、「樹林・原野・草地・農用地に、公園・緑地、河川等の水面を加えた面積が、地域全体に占める割合」で、2023年は都全域で52.1%、区部で24.0%、多摩部で67.4%でした(p.7)。もう一つの「緑被率」は、上空から見た際の、樹木、草地、屋上緑化等の緑で覆われた面積が占める割合で、区市の緑の実態調査でよく使われます(Ver.3 の用語の説明)。緑被率に、公園のうち緑で覆われていない部分と、河川などの水面を加えたものがみどり率、と理解すると分かりやすいと思います。
当社がこれらと並べて重視しているのが、樹冠被覆率(Urban Tree Canopy)です。樹木の樹冠が地面を覆う面積だけを数える指標で、草地や水面、公園の舗装された部分は含みません。断っておくと、樹冠被覆率は都の指標ではなく、当社の見方です。なぜこれを重視するかというと、第2回で書いた木陰の働きも、雨を受け止める働きも、鳥や虫のすみかも、樹冠の広さと深く関わると当社は考えているからです。海外の都市計画で使われる「3-30-300ルール」も、地区の樹冠被覆率30%を目安の一つにしています(前に書いた記事)。

都の指標(みどり率・緑被率)と当社の見方(樹冠被覆率・i-Tree Eco)の違い。横線は、それぞれの指標が数える範囲(絵と図は当社作成)

3-30-300ルール(記事 11065 と同じ図。Konijnendijk 2022 をもとに当社作成)
都は2026年2月2日に、公園・緑地、街路樹、樹林地、農地など、緑の GIS データのオープンデータを公開しました。街路樹や樹林地などの緑の位置が公開データとして使えるようになると、地区ごとの樹冠被覆率を、当社のような小さな会社でも計算する手がかりが増えます。Ver.3 が「オープンデータ化を推進」と書いていた項(p.32)が、1年で形になったことになります。
i-Tree Eco で測れること、まだ測れないこと
当社は2026年、樹木がもたらす便益を定量的に評価する i-Tree Eco の運用を始めました(神奈川県のマンションの植栽コンサルティングの記事)。i-Tree は、米国農務省森林局(USDA Forest Service)やデイビー・ツリー社などの協力で2006年から開発されてきたツール群で、Eco はその中で、樹木の調査データから生態系サービスを計算するものです。測れるのは、樹木の調査データから計算できる働きです。
| i-Tree Eco で測れること | 公式サイトの区分 |
|---|---|
| 炭素の貯留(今までに蓄えた量)と固定(1年に吸収する量) | 生態系サービス |
| 水文の効果(流出水の回避・遮断・蒸散) | 生態系サービス |
| 大気汚染物質の除去と、人の健康への影響 | 生態系サービス |
| 建物のエネルギー効果 | 生態系サービス |
| 樹木の状態と分布、葉面積とバイオマス、樹種の構成 | 構造・組成の分析 |
出典: i-Tree 公式サイト「i-Tree Eco」の算出項目と区分をもとに当社作成
一方で、測れないものもはっきりしています。景観の美しさ、その木が立っている土地の歴史、人の記憶です。第1回で書いた寿昌院の「臥竜の松」は、i-Tree Eco で計算すれば、炭素の貯留量は境内の中で大きいほうではないかもしれません。けれども、200年以上前の地誌に載る松と推定され、地域の人が代々見てきた松の価値は、その数字とは別のところにあります(古地図と地名が語る土地の記憶)。都の資料も、緑の機能として、景観・歴史・文化や交流の場を、CO2 や暑さの緩和と並べて挙げています。
都が掲げる「緑の効果の定量化」という方向に、当社は i-Tree Eco と樹冠被覆率という手法で応えている、というのが正確な言い方です。i-Tree Eco は都の施策に出てくるものではありませんし、当社の数字が都の統計になるわけでもありません。ただ、管理組合や施設の所有者に「この敷地の緑がどれだけ働いているか」を数字で示せることは、残す木を残す判断を、感覚ではなく根拠で支える材料になります。そして数字にならない価値は、数字にならないと正直に書いたうえで、別の言葉で伝える。その両方が、緑を「活かす」ことだと思っています。
コラボレーションパートナー64社に、造園・林業の事業者が並ぶ
東京グリーンビズのコラボレーションパートナーは、令和8年9月現在64社です。一覧を見ると、大企業の環境活動だけでなく、緑の現場に手を入れる事業者の名前が並んでいます。造園の AMENIS(日比谷アメニス)、一般社団法人東京都造園緑化業協会、林業の東京チェーンソーズ、住友林業、公益財団法人東京都公園協会などです。現場の技術を持つ事業者が、都の緑の計画に名前を連ねて参加できる枠組みであることが、私がこの制度に申請した理由の一つです。
2026年10月には、都心のオフィスビル3か所で「東京グリーンビズ・ラウンジ」が開かれています(10月7日から23日まで)。緑に囲まれた空間での短時間の仮眠やデジタルデトックスの休息効果を検証する実証で、植物の展示と装飾には、DAIKEN株式会社と一般社団法人東京都造園緑化業協会が協力しています(2026年9月24日の都の発表)。緑を運び、整え、見せるのは造園の仕事で、行政の実証の現場にその仕事が入っていることを、同業として心強く思いました。
認知の伸びしろ──「知らなかった」が8割前後
Ver.3 には、2024年12月に都が行った「東京の緑に関する意識調査」(N=2,000)の結果が載っています(p.51)。都が東京グリーンビズを推進していることを「知らなかった」と答えた人は76.5%、東京グリーンビズマップを「知らない」と答えた人は83.8%でした。

東京グリーンビズと東京グリーンビズマップの認知度(出典: 東京都「東京都の緑の取組 Ver.3」p.51「東京の緑に関する意識調査(令和6年12月実施)」N=2,000。図は当社作成)
始動から1年半の時点の数字ですから、低いこと自体は驚くことではありません。むしろ私は、この数字を伸びしろとして読みました。行政の広報が届きにくいところに、現場の人間の言葉は届くことがあります。管理組合の理事会で、寺社の境内で、講座の会場で、「都はいま、緑を増やすことから、育てて働かせることへ軸足を移しています」と自分の言葉で話していきたいと思います。この連載もその一つのつもりで書きました。
行動宣言③ 第3回 Tokyo-NbSアクションアワードに応募します
当社は、東京都環境局の第3回「Tokyo-NbSアクションアワード」に、中小規模法人部門で応募します。応募期間は2026年9月10日から10月30日(金)15時までで、一次審査は書面(11月中旬予定)、最終審査はプレゼンテーション(12月上旬予定)、表彰は1月下旬の予定です。部門は大規模法人部門と中小規模法人部門の2つで、都内に事業場を持つ企業・自治体・研究機関・NPO等が対象です。応募する取組は、樹木診断と育成管理による都市樹木(樹冠)の保全です。第1回で書いた樹木診断と、第2回で書いた計画的な剪定と育成管理を、生態系の機能を活かす取組として一つにまとめて出します。結果はこの記事には書きません。審査は都の側で行われるものです。
Tokyo-NbSアクションメンバーの登録も申請しています。登録の完了前なので、当社の取組を「Tokyo-NbSアクション」とは呼ばず、通知を受けてから名乗ります。
もう一つ、都の連携イベントへの協力を提案したいと思っています。ラウンジでの造園緑化業協会の植物展示のように、現場の技術で行政の企画を支える場があります。樹木医と一緒に名木や街路樹を歩いて見る企画など、当社から提案できるものを、担当の窓口に持ち込みます。これは「提案したい」の段階で、受け付けの枠組みがあるかどうかはこれから確かめます。
3回の行動宣言を一覧にしておきます。
| 回 | 宣言 | 状況(2026年10月21日時点) |
|---|---|---|
| 第1回 | この連載を、コラボレーションパートナーの要件にある「取組ページ」とする | 第1〜3回で公開 |
| 第1回 | 登録の通知を受けたら、取扱要領に従い都に協議したうえでロゴを掲出する(見積書やチラシには載せない) | 登録は申請中・通知未着 |
| 第2回 | 講座・研修で、都の「樹冠を拡大する」方針と樹冠を広げる剪定の考え方を伝える | 2026年9月28日の公園協会の講座に続けて |
| 第2回 | 管理する緑地の「江戸のみどり登録緑地」「自然共生サイト」の登録・認定の申請を、条件に合うお客様に提案する | 順次 |
| 第3回 | 第3回 Tokyo-NbSアクションアワード(中小規模法人部門)に応募する | 締切 2026年10月30日15時 |
| 第3回 | 都の連携イベントへの協力を提案する | 窓口を確かめる段階 |
出典: この連載の第1〜3回の本文
最後に、この秋の都の催しを二つ。「東京グリーンビズウォーク」は、2026年10月26日から12月20日まで、都内の緑のスポットを巡るコースを歩く企画で、コラボレーションパートナーの住友生命保険相互会社が事務局を務めています。「東京グリーンビズマップ」は、都立公園や庭園、並木、民間の緑地、イベントの情報を一つにまとめたデジタルの地図です。私自身、仕事で通る街路樹の並木が、このマップでどう紹介されているかを確かめるところから、自分の点検を始めようと思います。
株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊
よくある質問(Q&A)
Q1. 東京都が掲げる「緑の効果の定量化」とは何ですか?
A. 「東京都の緑の取組 Ver.3」の保全地域の項に「保全地域によるCO2吸収量や、暑熱環境の緩和など、緑がもたらす効果を定量化します」と書かれています。緑の働きを数字にして示す方針で、当社は i-Tree Eco と樹冠被覆率という手法でこの方向に応えていますが、これらは都の施策・指標ではなく当社の手法です。
Q2. みどり率とは何ですか?
A. 東京都が緑の現状を把握するために使う指標で、樹林・原野・草地・農用地に、公園・緑地、河川等の水面を加えた面積が、地域全体に占める割合です。2023年は都全域で52.1%、区部で24.0%、多摩部で67.4%でした。緑で覆われた面積を数える緑被率に、公園のうち緑で覆われていない部分と水面を加えたものと理解できます。
Q3. 樹冠被覆率とは何ですか?
A. 樹木の樹冠が地面を覆う面積が、地区の面積に占める割合です。草地や水面は含みません。木陰や雨水の受け止め、生きもののすみかといった働きは樹冠の広さと深く関わると当社は考えているため、この指標を重視しています。東京都の指標ではなく、当社の見方です。
Q4. i-Tree Eco とは何ですか?
A. 米国農務省森林局やデイビー・ツリー社などの協力で開発された無償のツールで、樹木の調査データから、炭素の貯留と固定、雨水の流出の回避、大気汚染物質の除去、建物のエネルギー効果などの生態系サービスを計算します。景観や歴史、人の記憶といった価値は計算できません。
Q5. グリーンインフラとは何ですか?
A. 国土交通省の「グリーンインフラ推進戦略2023」の定義では、社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組です。東京都の資料は、豪雨や猛暑への対応などのために、都有施設や民間施設などでの導入が求められていると書いています。
Q6. Tokyo-NbSアクションアワードとは何ですか?
A. 東京都環境局が、自然を活用した社会課題の解決(NbS)に先駆的に取り組む事業者等を表彰する制度です。第3回は2026年9月10日から10月30日15時まで募集され、大規模法人部門と中小規模法人部門があり、都内に事業場を持つ企業・自治体・研究機関・NPO等が対象です。一次審査は書面、最終審査はプレゼンテーションで、表彰は1月下旬の予定です。
出典・参考情報
- 東京都政策企画局「東京都の緑の取組 Ver.3」(令和7年1月)p.7・15・31〜32・37・47〜48・51 と用語の説明
- 東京都環境局「Tokyo-NbSアクション」、「Tokyo-NbSアクションメンバー募集」、「Tokyo-NbSアクションメンバー登録規程」(令和6年1月31日付)
- 東京都「第3回「Tokyo-NbSアクションアワード」の募集」(2026年9月10日)、アワード公式サイト
- 東京都「コラボレーションパートナー一覧」(令和8年9月現在)、「コラボレーションパートナー」(募集ページ)
- 東京都「「東京グリーンビズ・ラウンジ」でオフィス空間の緑を生かした休息効果の実証」(2026年9月24日)、「「東京グリーンビズウォーク」開催」(2026年9月24日)
- 東京都「東京の緑のオープンデータの公開」(2026年2月2日)
- i-Tree「i-Tree Eco」(算出項目と開発の経緯)
- 東京都「TOKYO GREEN BIZ MAP」
関連記事
- 連載 第1回「まもる」 / 第2回「育てる」
- 神奈川県内大規模マンションで植栽の中長期計画立案に向けたコンサルティング業務
- ハンディタイプ3Dレーザースキャナーで樹木を計測する。点群データは樹木管理をどう変えるか
- 樹木医として緑を維持管理してきた経験から考える都市の価値
- ヒートアイランド現象と都市緑化|東京・パリにみる最新の課題と対策
- 9月28日 東京都公園協会「暮らしに役立つ樹木講座」
連載「東京グリーンビズ」のすべての回は、連載の一覧からご覧いただけます。




















