ピカス(音波で幹の断面を推し量る機器)で測った後、パソコンのソフトで何をどの順に確かめるかを、当社の測定データ13断面とソフトの画面を使って、樹木医が解説します。時間と速さのグラフの読み方、外れた値の直し方、幹の形の補正、計算の設定まで扱います。
ピカス(PiCUS Sonic Tomograph 3。東京都の街路樹診断等マニュアルでの呼び名は弾性波樹木診断装置)は、幹の周りに打った釘にセンサーを当て、ハンマーでたたいた音が届くまでの時間から、幹の中の様子を推し量るドイツ IML Electronic 社の機器です。報告書やカルテに載るのは色の付いた断面画像ですが、その元にあるのは、100万分の1秒(μs)単位の時間の数字です。断面画像の色をどこまで信じてよいかは、この数字の質で決まります。
機器の構成や測り方はIML社の樹木診断機器 第4回 ピカスに、東京都の様式のカルテの欄ごとの読み方はピカスの腐朽診断カルテの読み方に書いています。断面画像の色をどう読み、どう判断するかは、続きの記事「ピカスの断面画像の読み解き方」で扱います。この記事はその手前、測った数字が断面画像になるまでの「パソコンの画面の中」を詳しく見ます。
ソフトの画面は英語です。項目名は英語のまま書き、日本語の訳を括弧で添えます。操作の場所は「画面3の⑤」のように、記事の中の画面写真の番号と、写真に重ねた番号の枠で示します。メーカーの説明書は、メーカーが公開している英語版の「IML Tree Inspection Manual」v1.1(以下「説明書」)を使い、ページは印字の番号で書きます。説明書は新しいソフトの説明書なので、機能の名前や画面の形は、当社が手順を書く .pit のソフトと違うことがあります。考え方は共通なので、説明書の記述は考え方の出典として示します。
先に答え
- 断面画像を見る前に、幹の形とデータの質を確かめます。当社は、①幹の形 → ②データの点検(印の付いた値・外れた速さ)→ ③断面画像の順に見ています。
- ピカスが測るのは「音が届くまでの時間」で、速さは「2点の間の距離÷時間」で計算されます。距離は入力した幹の形から計算されるので、形の誤りはそのまま速さの誤りになります。説明書は、直径1mの木で点の間の距離を10cm誤ると、速さが10%狂うとしています(p.69)。
- 1か所は最低3回、できれば5回以上たたきます(p.103)。外れた1回は計算から外れ、直す順番は「その場でたたき直す → その1回を消す → 決まって外れる点だけ点ごと外す」です(p.148)。
- 当社の測定データでは、たたくたびの時間のばらつきが10%を超えた経路は、異常の程度0%のクスノキで6〜8%、異常の程度が59%以上の断面で12〜31%でした。行きと帰りの時間の差は、健全な断面では中央値0.8%でした。
- 計算の方法や色の範囲などの設定は変えられますが、当社は標準のまま使います。年をまたいだ測り直しや、木どうしを同じ物差しで比べるためです。
ピカスのソフトの全体像 新しいファイルから断面画像まで
当社が現場とパソコンで使っているのは、ファイルを「.pit」の形で保存するピカスのソフトです。新しいファイルを作るところから、断面画像が出るまでの流れは次のとおりです。
| 順番 | 画面 | すること |
|---|---|---|
| 1 | 画面1・画面2 | ファイルの種類(音波・電気抵抗・根)と、幹の形の取り方を選ぶ |
| 2 | 画面3 | 測る高さの幹周・測定点の数・基点・北の向き・測る高さを入れる |
| 3 | 画面4・画面5 | キャリパーで測定点の間の距離を測り、幹の形を作る |
| 4 | 画面6 | センサーと測定点を割り当て、1点ずつハンマーでたたく |
| 5 | 画面7 | 計算して断面画像を出し、点検の結果を確かめる |
| 6 | 画面8・画面9 | 必要なら計算や表示の設定を確かめる(当社は標準のまま) |

画面1 新しいファイルの手順1。ファイルの種類を選ぶ(当社のソフトの画面)
- ① Step 1 – Select the type of file(手順1: ファイルの種類を選ぶ)
- ② Sonic Tomogram (SoT)(音波断層像=音波の測定)
- ③ Electric Resistance Tomogram (ERT)(電気抵抗断層像=トロニックの測定)
- ④ Root File(根の測定のファイル)
- ⑤ From File(前に測ったファイルから、幹の形と樹木のデータを新しいファイルへ写す)
- ⑥ 3D View(3D表示=複数の断面を重ねて見る)
- ⑦ Timeline(タイムライン=年ごとの比較)
- ⑧ 丸のどれか1つを選ぶと Next を押せる
- ⑨ < Back(戻る)/Next >(次へ)/Cancel(取り消し)
同じ木の別の高さを測るときは、⑤ From File で前のファイルの幹の形と樹木のデータを写せます。ただし、写した後に高さと幹周を新しい高さの値に入れ直すことを忘れないようにします。これは次の節でもう一度書きます。

画面2 手順2。幹の形の取り方を選ぶ(当社のソフトの画面)
- ① Step 2 – Select a geometry capture(手順2: 幹の形の取り方を選ぶ)
- ② no capture(形を取らない)
- ③ Geometry of regular trees (Ellipse)(整った形の木=楕円で入れる)
- ④ Geometry of irregular trees (PiCUS Calliper)(不整形の木=キャリパーで形を測る。当社はこれを使います)
- ⑤ < Back(戻る)/Next >(次へ)/Cancel(取り消し)
メーカーは、新しいソフト「IML Tree Inspection」も出しています。パソコンとタブレットで同じソフトが動き、プロジェクト→樹木→点検の順に記録を積み上げる形です(紹介はIML社の樹木診断機器 第12回 ソフトウェアとクラウド)。説明書によると、.pit のファイルは新しいソフトで直接は開かず、「取り込み」で新しい記録の形に入れます。版ごとに計算の手順が改良されているため、同じデータでも見え方が変わることがあり、変わったときは設定と、手で外したデータの扱いをそろえて確かめるよう書かれています(p.8・55)。旧型のトロニック(1型・2型)のデータは取り込めません(p.55)。
測る前に入れるもの 幹周・測定点の数・基点・北・高さ

画面3 キャリパーで形を測る前の入力(Baseline=基準線のタブ)(当社のソフトの画面)
- ① Baseline(基準線)/Distance(距離)/Graphic(図)のタブ
- ② Circumference at level of tomography(測る高さの幹周。mm)
- ③ u(周囲)・d(直径)の目安
- ④ recommended number of measuring points(おすすめの測定点の数)。右は測定点の間隔(mm)
- ⑤ Basepoints(基点の数)
- ⑥ 基点の組(A-1・B-8 など)。A<B<C<…の順
- ⑦ Sketch(見取り図。基点の位置)
- ⑧ North at measuring point(北にある測定点の番号)
- ⑨ Position of measuring point 1(測定点1の方位。N=北)
- ⑩ Level of measurement (above ground)(測る高さ。地面から cm)
- ⑪ Continue(続ける=キャリパーの測定へ)
②の幹周は、巻尺で測った測る高さの周の長さを mm で入れます。幹周を入れると、③に直径の目安が、④におすすめの測定点の数と間隔が出ます。⑧と⑨で、どの測定点が北にあるかを決めておくと、断面画像の上下左右が現地の方位とそろい、外観の記録(開口部・こぶ・キノコの位置)と照らし合わせやすくなります。
当社のファイル名は、社内の決まりで「年.月日.現場名+樹種名」とし、高さもファイル名に入れています。同じ木を2つ以上の高さで測る日は、高さを移ったら、ファイル名だけでなく、ソフトの中の高さ(⑩)と幹周(②)も入れ直します。前のファイルから形を写して始めたときほど、入力が前の高さのまま残りやすいので、保存する前にファイル名と中の高さ・幹周を照らしておきます。
幹の形を測る キャリパーと形の補正
ピカスの速さは「2点の間の距離÷時間」で計算します。時間は 1μs の細かさで測れますが(Hardware Manual p.31)、距離は入力した幹の形から計算されます。説明書は、形の誤差はそのまま速さの誤差になり、断面画像の誤差になると書き、直径1mの木で点の間の距離を10cm誤ると速さが10%狂うという例を挙げています(p.69)。

画面4 キャリパーで測った距離の表(Distance のタブ)(当社のソフトの画面)
- ① COM8(キャリパーとの接続口。緑=つながった、赤=つながっていない)
- ② Baseline/Distance/Graphic のタブ(今は Distance=距離の表)
- ③ 距離の表: from(どこから)・to(どこまで)・L/R(左・右)・Value [mm](測った値)
- ④ L = Left(左)、R = Right(右)
- ⑤ Automatic Correction(自動の補正)
- ⑥ 青い矢印=やり直し(値を0にした行を測り直す)・赤い✕(値を消す)
- ⑦ OK(決定)
- ⑧ ✕(閉じる)
- ⑨ Calliper OK(キャリパーは正常)
キャリパーは、2点の間の距離を ±5mm 以内で測る道具です(Calliper 3 Hardware Manual p.11)。ソフトは測った距離を組み合わせて、三角形を積み上げるように測定点の位置を決めます。⑤の自動の補正が直すのは、三角形として成り立たない組だけです。説明書は、どの距離が誤っているのかまではソフトには決められないと書いています(p.80〜81)。おかしな組が出たら、その組を測り直すのが確実です。測り方そのものはIML社の樹木診断機器 第6回 キャリパーで説明しています。

画面5 キャリパーで作った幹の形(Graphic のタブ)。実際の幹と見比べる(当社のソフトの画面)
- ① PiCUS Free Shapes Geometry with PiCUS Calliper(キャリパーで測る自由な形の入力)
- ② Graphic(図)のタブ
- ③ 測った幹の形(数字は測定点の番号)。実際の幹と見比べる
- ④ Rotate counterclockwise / clockwise(左回り/右回りに回す)
- ⑤ OK(決定)
- ⑥ ✕(閉じる)
③の形は、必ず目の前の幹と見比べます。こぶの出っ張りや開口部のくぼみが、図の上でも同じ場所に出ているかを確かめます。
形の入れ方でどれだけ速さが変わるかを、当社のデータで計算してみました。幅約121cm・奥行き約171cmの細長いクスノキの根元(地上0.3m)で、キャリパーで測った形の代わりに、同じ周の長さの円を入れたと仮定すると、すべての経路の約6割で、速さが10%以上ずれました。細長い幹やこぶの多い幹ほど、円や楕円で入れた形と実際の形の差が大きくなります。

図5 キャリパーで測った形と、同じ周の円の差。円で入れると経路ごとに速さがずれる(当社の測定データから当社が計算。考え方は説明書 p.69)
音波の測定の画面と、たたく回数
幹の形ができたら、音波の測定の画面に移り、センサーと測定点を割り当ててから、1点ずつハンマーでたたいていきます。

画面6 音波の測定の画面(当社のソフトの画面)
- ① Sonic Measurement – PiCUS 3(音波の測定)
- ② COM5(本体との接続口。赤=つながっていない)
- ③ Measuring point(今たたく測定点)
- ④ Set MP active(この測定点を有効にする)
- ⑤ Tap number(たたいた回数)
- ⑥ 赤い✕(この測定点のデータを消す)
- ⑦ Sound paths(音の経路)/Runtime(伝わる時間)/Sensors and sensor allocation(センサーの割り当て)/Data View(データの表)
- ⑧ Sensor(センサー)と Measuring Point(測定点)の対応表
- ⑨ Number of Sensors(センサーの数)
- ⑩ MP # = Sensor #(測定点とセンサーの番号をそろえる)
- ⑪ Sensor distribution(センサーの配置): evenly spaced(等間隔)/side by side(横並び)
- ⑫ adopt positions(位置を適用する)
- ⑬ Calculation immediately(測り終えたらすぐ計算)
- ⑭ Please set sensor – MP allocation!(センサーと測定点の割り当てを決めてください)
⑩で測定点とセンサーの番号をそろえておくと、後で表やグラフを見るときに「何番の点から何番の点へ」が読み替えなしで分かります。
たたく回数について、説明書は1点につき最低3回、勧めは5回以上で、後で外せるように5回より多くたたいておくとしています(p.103・148)。強くたたくと釘が奥へ入ってしまうので、強くたたく必要はありません(p.110)。測っている間、測定点は次の色で状態を示します。センサーの割り当ての画面では受ける側から見た状態、たたいている間はたたいた点から見た状態です(p.97・103)。
| 点の色 | 意味 |
|---|---|
| 灰 | データなし |
| 橙 | たたいた回数が3回未満 |
| 緑 | 3回以上が速さの範囲に入っている |
| 赤 | 範囲に入ったのが3回未満(誤りとは限らない) |
出典: 説明書 p.97・103・104
説明書は、赤は誤りとは限らず、変わったデータが正しいこともあると書いています(p.97・104)。傷んだ木では、音が回り道をして実際に遅く届くからです。乱れの原因としては、釘とセンサーの間の汚れ、センサーが裏返っていたり釘に合っていなかったりすること、ケーブルがセンサーに当たること、近くを通る車、風による幹のきしみが挙げられています(p.103)。
時間と速さのグラフの読み方
ここからが、断面画像の前に見る数字です。当社のデータ(2026年に測った6本・13断面)を使って、グラフごとに読み方を書きます。
1か所を何回かたたいた時間 外れた1回を見つける
ソフトには、たたいた点ごとに、各センサーへの速さの平均を横線、最小と最大を縦線で描く表示と、1回ごとの値と平均を並べる表示があります(p.105〜106)。図1は、同じ考え方で、当社のデータの時間を1回ずつ並べたものです。

図1 測定点1を4回たたいたときの、センサーごとの時間。1回だけ外れた値がある(当社の測定データから当社が計算。考え方は説明書 p.103・146・148)
クスノキの根元(地上0.3m、測定点36)で、測定点1から近いセンサーほど時間は短く、遠いほど長くなっています。その中で、センサー9へは、4回のうち1回だけ 877μs と、ほかの3回(1,270〜1,311μs)より約3割早い値が出ていました。4回の平均で速さを出すと、中央値で出すより速さが8%高く出ます。1回の外れは平均を動かすので、まず1回ずつの値を見て、外れた回があるかを確かめます。
ばらつきの判定と、自動で外れる値
ソフトは1回ごとに判定を付け、外れた回は自動で計算から外します(p.146)。説明書の判定の種類は次のとおりです。
| 判定 | 意味 |
|---|---|
| OK | 計算に使う |
| Ignor Abs | その回の一部の値が、ほかの回の平均から外れすぎた |
| Ignor Corr | ほかの回と似ているかの点検で外れた |
| Ignor Std-Dev | ばらつきが大きい |
| Nbr | たたいた回数が足りない |
出典: 説明書 p.146(訳は当社)
説明書は、1回だけ外れる原因で最も多いのは、センサーの付け方の誤りだとしています(p.146)。図2は、当社の13断面で、たたいた3〜4回のうち1回でも中央値から10%より外れた経路の割合を比べたものです。

図2 ばらつきが10%を超えた経路の割合を、13断面で比べた(当社の測定データから当社が計算。考え方は説明書 p.103・146)
当社のデータでは、異常の程度0%のクスノキは6〜8%、異常の程度が59%以上の断面は12〜31%の経路でばらつきました。ばらつきの割合は、たたき方やセンサーの問題だけでなく、断面の中の傷みと一緒に大きくなる傾向がありました。ばらつきの多い断面では、どの点からの経路が外れているかを確かめ、同じ点ばかりなら、その点の釘とセンサーを見直します。
行きと帰りの時間 往復の差
点Aをたたいて点Bで受けた時間と、点Bをたたいて点Aで受けた時間は、同じ道を通るので本来ほぼ同じになります。ソフトは往復の差が大きい組を橙で示します(p.147)。

図3 行きと帰りの時間を並べた。点線の上にのるほど往復が同じ(当社の測定データから当社が計算。考え方は説明書 p.147)
健全なクスノキ(地上0.3m)では、往復の差の中央値は0.8%で、10%を超えた組は276組のうち1組(隣どうしの短い経路)だけでした。傷みの大きいケヤキ(地上0.7m)では、中央値は2.2%でしたが、10%を超えた組が3割ありました。差が大きい組は、まずセンサーの付け方とたたき方を疑います。説明書は、ソフトには送る側と受ける側のどちらの誤りか、そもそも誤りかどうかも決められず、橙の値は多くの場合そのままでよいとしています(p.147・148)。
時間と距離のグラフ 傾きが急なほど遅い
すべての経路を、横に2点の間の距離、縦に時間をとって並べたのが図4です。速さは距離÷時間なので、点が上にあるほど遅い経路です。目安として、2,000・1,000・500m/s の線を重ねました。

図4 全経路の距離と時間。健全な断面(左)は1本の帯、腐朽のある断面(右)は遠い経路ほど上へ散らばる(当社の測定データから当社が計算)
健全なクスノキ(左)は、点がほぼ1本の帯にそろい、幹の中を通る経路の速さの中央値は約1,770m/s でした。カルテの異常の程度が70%だったケヤキ(右)は、遠い経路ほど上へ散らばり、幹の中を通る経路の中央値は約690m/s でした。帯が1本にそろっているか、上へ散らばっているか。断面画像を開く前に、このグラフで断面の様子のおおよそがつかめます。
たたいた点ごとの速さの棒グラフ
たたき終えた後の結果(Result)のタブでは、たたいた点ごとに、伝わる時間と速さを棒グラフで見られます。横軸はセンサーの並びで、たたいた点が先頭にくるように並べ替えられます(p.110)。説明書によると、円い幹の周りに均等にセンサーを付けた健全で均一な材では、時間は向かい側の点まで増えてまた減る釣鐘形になり、速さはほぼそろいます(p.111)。
ただし、多くの樹種では、健全な木でも、隣どうしの短い経路は、幹の中心を通る経路より遅く出ます(p.128〜129)。木の中で音が伝わる速さは向きで違い、周の向きが遅いためです。このグラフの読み方は、腐朽のある木との比べ方も含めて、続きの記事「ピカスの断面画像の読み解き方」で、当社のデータの図とともに詳しく書きます。
速さの表と、各点の最大の速さ
データの点検のタブには、点から点への速さの表があります。行がたたいた点(送る側)、列が受けた点(受ける側)で、単位は m/s です(p.147)。各点の最大の速さと、全体の中央値の表もあります(p.145)。
説明書は、ある点の最大の速さだけが低いときの原因として、釘が樹皮で止まっている、釘が傷んだ材に入っている、その部分が幹の残りから切り離されている、のいずれかを挙げています(p.145)。釘は樹皮を抜けて、辺材まで届かせるのが前提です(p.10・61)。反対に、高すぎる値が出たときは、形の測り違いを疑います(p.145)。
速さの範囲と、当社のたたき直しの目安
ソフトには、計算に使う速さの上限と下限があり、初期値は 2,300m/s と 300m/s です。範囲を外れた値には印が付き(p.24)、計算では範囲の中に収めて扱われます(p.142)。説明書 p.24 では、生木の速さはおよそ 2,000m/s までで、大きく超えるときは誤りを疑うよう書かれています。
当社の社内マニュアルでは、これとは別に、幹の中を通る経路で 800〜1,000m/s より遅い値が続くときは、釘とセンサーを確かめてたたき直すことを、当社の現場での目安にしています。遅い値は傷みのしるしでもあるので、たたき直しても同じ値が出るなら、その値を正しいデータとして残します。
直し方(補正)の順番と、計算の設定
データの直し方は3段階
説明書は、データを直す順番を次のように書いています(p.148)。
- その場でたたき直す。直前の1回を消して、もう一度たたく。外れが続くなら、センサーの付け方と釘の頭を確かめる
- 外れた1回分を消す。ソフトのごみ箱で、選んだ1回を消せる(p.106)
- 決まって外れる点だけ、点ごと計算から外す。表の行を押すと送る側、列を押すと受ける側を外せる(p.147)
点ごと外すと、その点の正しい値も一緒に計算から外れるので、3つ目は最後の手段です。また、測定の段階で消したデータは戻せません(p.148)。現場では消さずに、多めにたたいておくほうが安全です。
計算と表示の設定

画面8 Configuration(設定)のメニュー(当社のソフトの画面)
- ① Configuration(設定)のメニュー
- ② Settings(設定)=プログラムの設定を開く
- ③ Tree Species(樹種)
- ④ Select COM-Port(接続口を選ぶ)
- ⑤ Firmware Update(機器のソフトの更新)
- ⑥ Select Hardware(使う機器を選ぶ)
- ⑦ Language(言語)
- ⑧ CrackDect(亀裂の検出)の感度。Sensitive – Show all(敏感=すべて表示)
- ⑨ SoT 1/SoT 2(音波の計算の方法)
主な設定の意味を、説明書の記述でまとめました。
| 設定 | 説明書の記述 | 当社 |
|---|---|---|
| 計算の方法(SoT1/SoT2) | SoT1は小さな傷みも出すが大きめに出ることがある、SoT2は境目をはっきり描くが小さめに出ることがあり、亀裂・2本幹・中心から外れた傷みに向く、オオミコブタケが疑われる木と初期の腐朽にはSoT2を使わない(p.143) | 標準のまま |
| 色の範囲 | 測定ごとに自動で張り直す、最低で最大の速さの20%の幅、最大で50%(p.131) | 自動(設定ではない) |
| 速さの上限・下限 | 初期値は2,300m/sと300m/s(p.24)、外れた値は範囲の中に収めて計算する(p.142) | 標準のまま |
| 歯車効果 | 健全な木でよく出る見え方、見つけると印が出て、亀裂の検出は止まる(p.127・137・142) | 標準のまま |
| ブラインド範囲 | 隣の点を計算から外し、中心の初期の傷みを見やすくする、大きくすると縁の描写が落ちる(p.24・142) | 標準のまま |
| 亀裂の検出の感度 | 高・中・低から選べ、切ることもできる(p.135〜136) | 標準のまま |
出典: 説明書のページは表の中に記載。訳と要約は当社

画面9 プログラムの設定(当社のソフトの画面)
- ① PiCUS program settings(プログラムの設定)
- ② General(全般)/Owner(使用者)/Data checking(データの点検)/Calculation 1・2(計算)/Cog Wheel(歯車効果)のタブ
- ③ 青い矢印のボタン(設定を読み直す)
- ④ OK(決定)
- ⑤ ✕(取り消し)
- ⑥ t/R ratio of remaining sound wood to damaged wood(残る健全材の厚さ÷半径 t/R の値)
- ⑦ [cm] Measure circumference(この高さで測った幹周 cm)
- ⑧ User defined tree location(方位の名前): Position 1〜5
- ⑨ Legend(凡例)の色
- ⑩ Sound wood(健全材)の割合・Show(表示する)
- ⑪ Damaged wood(損傷材)の割合・Show(表示する)
- ⑫ Activate voice messages(音声の案内を使う)
- ⑬ Save calculated Data(計算の結果を保存する)
- ⑭ Load Standard(標準の設定に戻す)
当社は、計算の設定を標準のまま使っています。同じ木を何年か後に測り直したときや、木どうしを比べるときに、同じ物差しで比べられるようにするためです。説明書も、比べるときは計算の設定をそろえる必要があるとし、ブラインド範囲を片方の測定にだけ入れると、木が変わっていなくても差の図に変化が出る例を挙げています(p.181)。新しいソフトでは画像ごとに表示と計算の設定が残り、同じ画像を作り直せます(p.133)。設定を変えて見るときは、変えた設定を報告書にも書いておきます。
断面画像の画面と、計算の点検

画面7 計算した断面画像の画面。当社が測ったサクラの断面(当社のソフトの画面)
- ① メニュー: File/Edit(編集)/Measurement(測定)/Calculation(計算)/Configuration(設定)/Mixer/PiCUS 3/TreeTronic 3/Window/?
- ② Measure(測る道具。角度・距離・その場所の速さ)
- ③ Geometry(形)/Diagnostics(診断のアイコン)
- ④ 色の帯: 茶(健全)・緑・紫・青(異常)の範囲。左端の v:100% と右端の v:50% は、その断面の最大の速さに対する割合
- ⑤ Tomogram(断面画像)。数字は測定点の番号
- ⑥ 開いているファイル(.pit)の場所と名前(記事では消しています)
- ⑦ Ready!(計算が終わった)
- ⑧ Print(印刷)/Tree data(樹木データ)/Options(設定)/Calculation Information(計算の情報)/Sonic Velocity(音の速さ)/MP used(使った測定点)/TreeSA/Legend(凡例)
- ⑨ Data checking(データの点検)など。赤い ! は確かめる
断面画像が出たら、色を見る前に⑨の点検の結果を開きます。画面7では「Sonic velocity(音の速さ)」に赤い ! が付いています。どの点の、どの値に印が付いたのかを確かめ、前の節の順番で直すかどうかを決めます。⑧の Sonic Velocity のタブでは点から点への速さの表を、MP used のタブでは計算に使った測定点を確かめられます。
④の色の帯は、その断面の中での相対の速さです。説明書は、色の範囲は測定ごとに張り直すので、色だけを見ず、必ず速さの数値と合わせて読むよう書いています(p.131)。同じ茶色でも、木ごと・断面ごとに速さの値は違います。説明書は、機器を外す前に断面画像を確かめるよう勧めています(p.113)。点検で気になる点が出ても、釘とセンサーが付いたままなら、その場でたたき直せるからです。
確かめ終えたら保存し、断面画像をカルテや報告書に使います。東京都の様式のカルテの書き方はピカスの腐朽診断カルテの読み方で説明しています。
当社の考え方
断面画像は、幹の形と、何百本もの経路の時間から計算された推定です。形が正しく、時間が正しければ、画像は木の中の様子をよく映します。どちらかが崩れていれば、どれほどきれいな色でも、木の中ではなく入力の誤りを映します。
当社が樹木診断でピカスを使うときは、断面画像を見る前に、幹の形とデータの点検の結果を確かめています。この記事で紹介した、ばらつき・往復の差・時間と距離のグラフは、その点検を数字で裏付ける見方です。数字の質を確かめてから、色の意味を外観の所見と照らし合わせて読みます。その先の読み解き方と判断は、続きの記事「ピカスの断面画像の読み解き方」に書きました。
ピカスによる機器診断、診断結果の読み方、仕様書づくりについて、お問い合わせフォームからのご相談をお待ちしています。
よくある質問(Q&A)
Q1. ピカスで測った後、パソコンでは何から確かめればよいですか?
A. 当社では、断面画像を見る前に、幹の形とデータの点検の結果を確かめます。キャリパーで作った形が実際の幹と合っているか、印の付いた値や外れた速さがないかを見てから、断面画像の色を読みます。速さは距離÷時間で計算されるので、形と時間のどちらかが崩れると画像も崩れるためです。
Q2. ピカスでは1か所を何回たたけばよいですか?
A. メーカーの説明書は、1点につき最低3回、勧めは5回以上とし、後で外れた回を外せるように5回より多くたたいておくよう書いています。強くたたく必要はなく、強すぎると釘が奥へ入ってしまいます。
Q3. たたいた時間が1回だけ大きく外れたときは、どうしますか?
A. ソフトは1回ごとに判定を付け、外れた回を自動で計算から外します。手で直すときの順番は、その場でたたき直す、外れた1回分を消す、決まって外れる点だけ点ごと外す、の3段階です。測定の段階で消したデータは戻せないので、現場では多めにたたいておくのが安全です。
Q4. 幹の形の入力は、なぜそれほど大事なのですか?
A. ピカスの速さは2点の間の距離を時間で割って計算し、その距離は入力した幹の形から求められるからです。説明書は、直径1mの木で点の間の距離を10cm誤ると、速さが10%狂うとしています。当社のデータでは、細長いクスノキの根元を同じ周の円で入れたと仮定すると、幹の中を通る経路の6割で速さが10%以上ずれました。
Q5. 計算の方法や色の範囲などの設定は変えてもよいですか?
A. 変えられますが、当社は標準のまま使っています。年をまたいだ測り直しや木どうしを、同じ物差しで比べるためです。説明書も、比べるときは計算の設定をそろえる必要があるとしています。計算の方法のSoT2は傷みを小さめに出すことがあり、オオミコブタケが疑われる木と初期の腐朽には使わないとされています。
Q6. 古いピカスのソフトの.pitのファイルは、新しいソフトで使えますか?
A. 新しいソフトのIML Tree Inspectionでは、.pitのファイルを取り込んで使えます。ただし、版ごとに計算の手順が改良されているため、同じデータでも見え方が変わることがあり、説明書は設定と手で外したデータの扱いをそろえて確かめるよう書いています。旧型のトロニック(1型・2型)のデータは取り込めません。
出典・参考情報
IML Electronic GmbH「IML Tree Inspection Manual」v1.1(英語。ページは印字の番号。p.8・10・24・55・61・69・80〜81・97・103〜106・110〜113・127〜129・131・133・135〜137・142〜148・181)。同「PiCUS Sonic Tomograph 3 Hardware Manual」v1.0(p.31)、「PiCUS Calliper 3 Hardware Manual」v1.0(p.11)。説明書の訳と要約は当社によります。
当社の社内マニュアル「ピカス機器診断手順」(2026年8月10日版)。記事中の画面は当社のソフトの画面です。
当社の測定データ(2026年、ピカス3で測った6本・13断面)。図の数字は、当社が .pit のファイルの時間と測定点の位置から計算したもので、ソフトの表示とは計算の方法が違います。記事中の図は、株式会社トシ・ランドスケープが作成しました。

































