ピカス(PiCUS Sonic Tomograph 3)の構成と測り方──測定点の数、キャリパーの扱いを樹木医が解説

電子ハンマーでセンサーの釘を打撃する(ピカス 音波トモグラフィ)

ピカス(PiCUS Sonic Tomograph 3)は、幹に打った測定点の間を伝わる音の速さから、幹の断面を画像にする音波トモグラフです。製品の構成と測定の流れ、測定点の数の考え方、東京都のマニュアルでの扱いを、当社での使い方とあわせて、メーカーの資料をもとに樹木医がまとめました。

IML社の樹木診断機器をひとつずつ取り上げる連載の第4回です。第3回まではレジ(穿孔抵抗測定器)の仲間を取り上げてきました。今回から、ロストックのIML Electronic社がつくるピカスの各機器に移ります。ピカスの仕組みと精度の研究、レジとの使い分けは、ピカス(PiCUS) 樹木診断を非破壊診断×微破壊診断で、樹木診断を世界水準へにまとめてありますので、今回は製品そのものと、現場での測り方に絞ります。

先に答え

  • ピカスは、電子ハンマーで幹の測定点を軽くたたき、音が木の中を伝わる時間を測って、幹の断面を色分けした画像(トモグラム)にする機器です。現行の型はPiCUS Sonic Tomograph 3です。
  • センサーは型により6個または12個で、測定点はパソコンを使わずに最大24点、パソコンやアプリを使うと最大99点まで設定できます。音の伝わる時間は1マイクロ秒の精度で測ります。
  • メーカーが示す対象は、幹の直径がおよそ30〜40cmから500cmを超えるものまでです。東京都のマニュアルは、測定可能な幹周を1.8〜15mとしています。
  • 測定点の数を増やすと、音の通り道は2点の組み合わせの数だけ増えます。12点で66本、24点で276本、36点で630本です。
  • 断面の形を正確に入力するほど画像の精度が上がるため、測定点の位置はキャリパーで測ります。
ピカス PiCUS Sonic Tomograph 音波トモグラフ 電子ハンマー センサー 樹木診断 図解
ピカスの測定。幹に巻いたベルトに本体を留め、釘に付けたセンサーをケーブルでつなぎ、電子ハンマーで釘をたたく(イラストは当社作成)

 

ピカスは何でできているか──標準の構成

IML Electronic社の製品ページによると、標準の構成は次のとおりです。測定に要るものが、ひとつの運搬ケースに収まっています。

ピカス 標準の構成 運搬ケース 本体 センサー 電子ハンマー 締め付けベルト 図解
ピカスの標準の構成。本体、センサー(6個×2本)、電子ハンマー、締め付けベルト、巻尺、ゴムハンマー、釘の入れ物、番号札(イラストは当社作成)
部品 役割
本体(コントロールユニット) 画面付き。測定の操作と、断面画像の下見を表示する
センサーチェーン(6個×左右2本) 6個ずつのセンサーを1本のケーブルにまとめたもの。
測定点の釘に取り付ける 表示付きの無線ハンマー 測定点の釘を軽くたたいて音を出す電子ハンマー 締め付けベルト(長さ4.5m、2本) 本体とケーブルを幹に留める 巻尺、ゴムハンマー、釘・ねじの入れ物、番号札(1〜24) 測定点の位置決めと、釘打ち、番号付け ソフトウェア(USB)、取扱説明書、運搬ケース、ピカスのバッグ 測定後の計算と記録、持ち運び

センサーの数は、6個の型と12個の型があります。メーカーは、キャリパー(PiCUS Calliper 3)もこの運搬ケースに組み込めるとし、これまでで最もコンパクトな音波トモグラフだと紹介しています。製品資料には、本体にGPSと傾きのセンサーを内蔵し、位置と時刻の記録や樹高の測定に使えること、電池は使い方により6〜15時間もつことも書かれています。

測れる太さと、測定点の数

メーカーの技術データでは、測定できる幹の直径は「およそ30/40cmから500cm超」です。東京都の「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」は、使用可能な主な樹木診断機器の表(53ページ)で、ピカスの測定可能な幹周を1.8〜15mとしています。

測定点は、本体だけで最大24点、パソコンやアプリと組み合わせると最大99点まで設定できます。ピカスは、ひとつの測定点をたたいたときの音が、ほかの測定点に届くまでの時間を順に測っていきます。すべての測定点をたたくと、2点の組み合わせの数だけ音の通り道が測れるので、測定点を増やすほど、断面の中を通る線の本数は急に増えていきます。

ピカス 1点をたたく 11点 音の通り道 12点 66本 図解
1番の釘をたたくと、ほかの11点へ音が届く。12点を順にたたくと66本の通り道になる(当社作成の図)
ピカス 測定点 12点 24点 36点 音波の通り道 66本 276本 630本 図解
幹が太くなるほど測定点を増やす。12点で66本、24点で276本、36点で630本の通り道(2点の組み合わせの数。計算して描いた当社作成の図)

通り道が多いほど、断面の輪郭や欠陥の形をより細かく描けます。一方で、釘を打つ本数も、測る手間も増えます。当社では、幹が太くなるほど測定点を増やします。増やし方は、12点、24点、36点と12点ずつ段階を上げていくのが使いやすいと感じています。測定点どうしの間隔は、おおむね15〜40cmを目安にしています(いずれも当社の現場での目安です)。幹周600cm近いクスノキを測ったときは、通常の12点から36点に増やしました(埼玉県内の伝統校 樹木医によるクスノキ2本の機器診断 ピカスで幹の内部を診る)。

測定の流れ

メーカーの説明と当社での手順をあわせると、1つの高さの断面を測る流れは次のようになります。

  1. 測る高さを決め、幹を一周するように測定点を決めて、細い釘を打ちます。番号札で1番から順に番号を付けます。
ピカス 測定点 釘 ゴムハンマー 番号札 準備 樹木医 図解
幹を一周するように釘を打ち、番号札を付ける(イラストは当社作成)
  1. 測定点の位置(断面の形)を測ります。ピカスは、測定点の位置と、音が伝わった時間から音の速さを計算するので、形の入力が画像の精度を左右します。この位置を素早く正確に測る道具がキャリパーです(第6回で取り上げます)。
  2. 幹にベルトで本体を留め、センサーチェーンのセンサーを釘に取り付けます。
ピカス 本体 ベルト センサー 釘 取り付け 樹木医 図解
ベルトで本体を幹に留め、釘にセンサーを付ける(イラストは当社作成)
  1. 電子ハンマーで、釘を1本ずつ軽くたたきます。たたいた点からほかのセンサーまで音が届く時間が、マイクロ秒の単位で記録されます。
ピカス 電子ハンマー 釘 たたく センサー 音 図解
電子ハンマーで釘を軽くたたくと、音が幹の中をほかのセンサーへ伝わる(イラストは当社作成)
  1. 本体の画面で断面画像の下見をし、ソフトやアプリで本計算をします。高さを変えて何段か測れば、腐朽の上下方向の広がりを3Dで表すこともできます。
ピカス 高さを変えて測る 断面画像 3D 腐朽 上下の広がり 図解
高さを変えて測った断面を重ねると、腐朽の上下の広がりがつかめる(断面の色は説明のための仮想のもの。イラストは当社作成)

メーカーの説明では、最も速い音速の部分は濃い茶色、音速が遅くなるほど別の色で示され、最も分解の進んだ部分が青で表されます。入り皮や亀裂などがあるときは、断面画像に黄色い線が入ります。製品資料は、断面画像を乱すおそれのある材の亀裂を見つける機能(亀裂の検出)を備えているとしています。同じ釘をそのまま電極として使えば、続けてトロニック(電気抵抗トモグラフ)でも測れます。測り終えた釘は抜き取ります。

ピカス 音波トモグラフ 断面画像 トモグラム 実測 健全 損傷 色 見方
当社が実際に測った断面画像(測定点24点)。上の色帯の左ほど音が速い健全な材、右ほど音が遅い損傷・腐朽の部分。中央下の黄色い線は、入り皮や亀裂などがあるときに入る線

ピカスで打つのは細い釘で、当社の現場での目安では、直径2mm前後の釘を樹皮から辺材まで浅く入れる程度です。東京都のマニュアルも、樹木に与える影響を「樹皮・形成層がわずかに傷付く」としています。

第3世代のピカスと、古い資料の「アーガス社」

現行のSonic Tomograph 3は、メーカーが「第3世代」と呼ぶ機器です。現在のソフトウェア(IML Tree Inspection Software)は、第3世代の音波トモグラフ・トロニック・キャリパーに対応し、第1・第2世代の機器には原則として対応していません。古い第3世代の機器でも、スマートフォンのアプリで使うには、無線モジュールやファームウェアの更新が必要な場合があります。

ピカスを開発したのは、ロストックのargus electronic社です。2022年1月からはIMLグループのIML Electronic社が事業を引き継いでいます(第1回)。東京都のマニュアルの機器の表でも、ピカスの機材の出自は「ドイツ ARGUS社」と書かれています。少し前の資料でアーガス社の名前を見かけるのは、このためです。

ソフトウェアとクラウドの機能は幅が広いため、第12回でまとめて取り上げます。

東京都のマニュアルでの扱い

東京都のマニュアルは、東京都の街路樹診断の機器診断は貫入抵抗測定器(レジ)によるものを基本としつつ、診断の目的や用途に応じてほかの機器を選ぶこととしています(51ページ)。53ページの表では、ピカスを「弾性波樹木診断装置」として挙げ、次のように整理しています。

項目 東京都のマニュアルの記載(表Ⅲ-3・1)
測定可能な幹周 1.8〜15m
設置の条件と注意点 幹の周囲に20cmの余地が必要。測る位置で幹を一周する植え込みや構造物があると障害になる
樹木に与える影響 樹皮・形成層がわずかに傷付く。汎用鉄釘(木釘)を打設(12〜30個可能)

現場での経験から言えば、街路樹では植え桝の縁石や柵が根元を囲んでいることが多く、測ろうとした高さでは釘とセンサーを一周させられないことがあります。そのような場合は、測ろうとした高さのすぐ近くで、支障のない高さを選んで測ります。何センチ上げると決められるものではなく、現場で最適と思われる位置を、その都度選びます。縁石の高さ付近は、腐朽が心配で診断したい部分であることが多いため、測ろうとした高さから大きく離れないようにしています。

ピカス 街路樹 植え桝 縁石 測定点 一周 支障のない高さ 図解
根元を縁石が囲む植え桝では、測ろうとした高さで一周できないことがある。そのすぐ近くで、支障のない高さを選んで一周させる(イラストは当社作成)

当社の使い方

当社は、ピカスとトロニック、キャリパーを株式会社ワイ・システムズ国際様から購入して使っています。ピカスはセンサー12個の型です。外観診断で内部の異常が疑われた樹木について、まずピカスで断面全体を画像にし、気になる範囲に絞ってレジを通す、という順番が基本です。面で当たりをつけ、線で確かめる、という考え方です。

これまでに、山梨県都留市の西涼寺様の霊木ケヤキ(西涼寺様 霊木ケヤキの樹木診断)や、山形駅前の街路樹(山形県での出張樹木診断)でピカスを使ってきました。断面の画像は判断の材料であって、答えそのものではありません。画像と、樹種、樹勢、根元の状態、立地を重ねて総合判定を行います。

株式会社トシ・ランドスケープのツリーリスクアセスメント(樹木診断)部門では、樹木医が外観診断から機器診断、報告書の作成、その後の管理計画までを一貫して担当しています。ご依頼は、マンション管理組合様、学校施設、寺社の御神木など様々です。幹や根元の内部が気になる樹木がありましたら、樹木診断のサービスページをご覧のうえ、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。

次回は、同じ釘を電極にして電気の通りやすさで断面を描く、PiCUS TreeTronic(トロニック)を取り上げます。

 

株式会社トシ・ランドスケープ
樹木医 中村雅俊

 

よくあるご質問(ピカス PiCUS Sonic Tomograph 3 について)

Q1. ピカスの標準の構成には何が含まれますか?

A. 本体、6個ずつのセンサーチェーン2本、表示付きの無線ハンマー、締め付けベルト2本、巻尺、ゴムハンマー、釘・ねじの入れ物、番号札(1〜24)、ソフトウェア、取扱説明書などが、ひとつの運搬ケースに収まっています。センサーは6個の型と12個の型があります。

Q2. 測定点は何点まで設定できますか?

A. 本体だけで最大24点、パソコンやアプリと組み合わせると最大99点です。すべての測定点をたたくと、2点の組み合わせの数だけ音の通り道が測れ、12点で66本、24点で276本、36点で630本になります。当社では、幹が太くなるほど、12点、24点、36点と12点ずつ測定点を増やしています。

Q3. どのくらいの太さの幹を測れますか?

A. メーカーの技術データでは、幹の直径がおよそ30〜40cmから500cmを超えるものまでです。東京都の「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」は、測定可能な幹周を1.8〜15mとしています。

Q4. キャリパーは必要ですか?

A. ピカスは、測定点の位置と音が伝わった時間から音の速さを計算するため、断面の形を正確に入力するほど画像の精度が上がります。メーカーは測定点の位置を素早く正確に測る道具としてキャリパーを用意しており、当社もピカスと一緒に使っています。

Q5. 古い資料に「アーガス社」とあるのは同じ機器ですか?

A. はい。ピカスはロストックのargus electronic社が開発し、2022年1月からIMLグループのIML Electronic社が事業を引き継いでいます。東京都のマニュアルの機器の表でも、ピカスは「ドイツ ARGUS社」と書かれています。

Q6. 街路樹でも測れますか?

A. 測れます。東京都のマニュアルは、幹の周囲に20cmの余地が必要で、測る位置で幹を一周する植え込みや構造物があると障害になるとしています。根元を縁石や柵が囲んでいて、測ろうとした高さで一周できない場合は、そのすぐ近くで支障のない高さを選んで測ります。何センチと決められるものではなく、現場で最適と思われる位置を選びます。

 

出典・参考情報

メーカーの資料(いずれも2026年10月に確認)

・IML Electronic「PiCUS Sonic Tomograph」製品ページ(英語) 測定の原理と色の表し方、標準の構成、技術データ(幹の直径、測定点、センサー、時間の精度)
・IML Electronic「Sonic Tomograph 3」製品資料(PDF・英語、2025年6月版) GPSと傾きのセンサー、電池の持ち、3D、トロニックとの組み合わせ
・IML Electronic「IML Tree Inspection Software」製品ページ(英語) 対応する機器の世代
・IML Electronic「Company history」(英語) argus electronic社の事業の引き継ぎ

制度

・東京都建設局「令和3年度 街路樹診断等マニュアル」 樹木診断機器の選定(51ページ)、使用可能な主な樹木診断機器とその特性(表Ⅲ-3・1、53ページ)

国内の代理店

・株式会社ワイ・システムズ国際「ピカス(PICUS)」

 

樹木診断機器(ピカス・レジ・アーボソニック3D)の記事

機器の解説・導入・研修

・レジ(Resi PD)とは何か。樹木医が幹の中を「針」で診る機器診断を、一般の方向けに解説します
・ピカス(PiCUS) 樹木診断を非破壊診断×微破壊診断で、樹木診断を世界水準へ
・樹木診断機器Resi PD500の「Overload feed motor」エラー 原因は針でも設定でもなく、テレスコープ内のサポーターの曲がりでした
・音で、樹木の中を視る 非破壊樹木診断機器「ドクターウッズ」
・樹木診断 無料モニター募集
・PiCUS(ピカス)導入のお知らせ 樹木診断(機器診断) 非破壊診断×微破壊診断で、樹木診断を世界水準へ
・樹木診断機器 IML社製 レジ(Resi PD)について
・樹木模擬診断研修会を終えて 人の眼 × 機械の眼が拓く、新しい都市樹木管理のかたち
・「大型化・老木化」時代の樹木医・街路樹診断士による東京型・街路樹や公園樹木のマネジメント
・樹木医がイギリスの樹木診断に学ぶ ― 都市の樹木を守るための対話と発見

機器診断の記録

・山梨県都留市・西涼寺様 樹木医による霊木ケヤキの樹木診断 ピカス・ツリートロニック・レジとドローンで診た結果と、残すための3つの対策
・埼玉県内の伝統校 樹木医によるクスノキ2本の機器診断 ピカスで幹の内部を診る
・樹木医が街路樹エンジュの樹木診断と伐採後の腐朽具合の答え合わせ
・山形県での出張樹木診断 樹木医によるピカス、レジでの診断検証
・診断した木を、その日のうちに伐る──ピカス・アーボソニック3D・レジを同一木のサクラで比べた「樹木診断機器比較研修会」千葉県習志野市
・都有施設80万本の樹木一斉点検 約14,000本の「異状あり」を、樹木医はどう読むか
・港区三田 薬王寺様の境内 樹木診断 地上と樹上、樹木医がふたつの視点で木の内側を読む
・砧公園で4回目の倒木 樹木医として思うこと
・【ツリーケア最前線】樹木医が語るレジ(Resi PD)診断とロープワークの統合 相模原市での樹木診断レポート
・樹木医による都内の学校施設でのサクラの樹木診断 豊島区
・学校施設 ケヤキなど樹木医診断 東京都
・公園樹木診断 樹木医による機器診断・根株診断(レジ) 東京都
・マンション内のイチョウ(銀杏) 樹木医診断(機器診断) 東京都大田区
・公園のサクラ(桜)を樹木医が樹木診断(機器診断)しました
・樹木医 保存樹木サクラ等 樹木診断 東京都杉並区
・学校施設内 桜(サクラ)樹木医診断 東京都
・銀杏岡八幡神社 台東区浅草橋 樹木医診断
・樹木医 サクラ樹木診断(機器診断・レジ)
・樹木医診断 レジ過去マンション事例

サービス

・樹木診断(ツリーリスクアセスメント部門)
・GREEN MANAGEMENT

 

※ 「レジストグラフ」は、穿孔抵抗測定器を指す通称として、日本の樹木診断の現場で広く使われています。ただし、RESISTOGRAPH® は RINNTECH 社(ドイツ)の登録商標で、当社が使用している「レジ(Resi PD)」は IML 社(ドイツ)の製品です。両者は製造しているメーカーが異なります。

関連記事